夢姫 2023/08/31 01:29

自分の世界観のオークとかエルフとか魔物と人間の関係とか歴史みたいなもの。鬼のことも書いてあるのです

禁書として焼かれながらも、いまだに 真実 を伝えているという本を手に入れた。

魔物と人間の戦いの始まりとなった話が載っている ブルーオーガ または 魔物と少女たち という本と共に、魔物と人間の最後の戦いが書いてる本もまた同じように再生を繰り返し、いまの世に残っている。

人間に伝わる魔物の話の大半が、魔物は乱暴であり人間を攫い、村々を焼き払うという悪い部分ばかりが強調されている。
が、この二冊の本を読んでみると、基本的にどの魔物も平時では農作業をしたりと平和的であったらしい。
粗暴といわれるゴブリンやオークもその例に漏れずであり、確かに人間から物奪い、娘を攫い、子を作るための道具にすると言った話は少なからずありはしたようだが、それはオークなどには女が極めて少ないことが理由の一つであるらしい。

人間のものを奪うという観点については、魔物と少女たちによれば、一部にそうする者もいるが、人間により住処を奪われた者が復讐のために動いていたことも少なくなく、人間もまた魔物を殺し財宝を奪う事もあるので、お互い様である…という魔物側の言葉が書かれている。

女を攫う事についてもまた、力ずくで奪う事もあったが、大概は村の人間と契約をして食べ物や武器、盗賊などに襲われた場合に傭兵として戦う事を条件に、花嫁として女をもらっていたようなのだ。

オーク族について話をすると肌が緑色のオークかそれ以外の色が原色のオーク族の肌の色らしい。
緑色のオークは主に戦闘用である事が多く、それ以外の色のオークは突然変異的なもので他のオークにはない力を持っているらしい。
では人間とオークとのハーフはどうなのかというと肌色のオークとなって産まれてくることが多いらしい…この肌色のオークは戦闘には不向きであり主に、農作業用や子育てなどの非戦闘員である。
だが有事の際には肉壁として壁になり敗走した際の殿部隊としての役割もあったらしい。

この肉壁については無能だが最期に華々しく散った者達を集めた書 無能の意地 という本にも書かれていた。

オークやゴブリンなどは知性に乏しく魔法も使えないと言われているが、これは誤りでどちらにも魔法を使い、歴史や本を書き残す者もいたらしい。いまでこそそのような本は少なくなってしまっているが…この無能の意地という本もまた魔族が書いたものであると言うのがマニアの間での通説である。

この人間とオークとの子供はオーク族が劣勢になり奥地に撤退する際に殆どが肉壁としての役割を果たし死んでいったそうだ。

花嫁の件については、人間の世界では脅されて生贄として捧げたことになっている。
ハーフの子供については、人間側にはまるで情報がない…場合によっては不敏な子として間引いていたのがこの魔物と人間の血をもった子供のことではないかと思われる文献がある程度だ。

魔物と少女たちに肌色のオークと緑色のオークとの会話が記されている。

それはオーク族と共に暮らし始めた4人の少女の一人、氷の魔法を得意とする少女だが、それと同時に高名な錬金術師でもあったようだ。
彼女の錬金術で作られた薬などをみて、緑のオークは興味を示さなかったが、肌色のオークの一人が興味を示して教えてくれといったのだ。
そうして教えることになるが、中々うまくいかない、それでもそのオークは諦めることなく、懸命に覚えようとしたらしい。

少し休憩をしましょうと言った少女に対しこんなことを言ったのだ。

「全然覚えられてない、一生懸命やらないと覚えられないから頑張る」

と…これを聞いた少女は思わず 「…驚いたわ。もっといい加減なんだと思っていたけれど」

「おで、無能なんだ…なんもできない、戦えない。だから薬を作れるようになってみんなの役に立つだ」

これを聞いていた緑色のオークが来ていった

「お前たちは無能ではないぞ。現に子育てに農作業と役に立っている。お前たち肌色が来る前の俺たちは、それこそ戦う事しかできなかった。食料などは奪ってとることでしか得られなかった。
確かにお前たちに戦闘は不向きだ、最初の肌色オークは戦闘のできないクズの役立たずだといい奴○にすらできぬ有様と罵られる存在だった。…だがその肌色のオークの一人がいったのだ。
戦って奪うよりも、人間と同じように自分たちで作ってみたらどうか?とな…こんなことさえも我ら緑のオークは考えつきもしなかったのだ。そして今、お前たち肌色のオークのおかげで食に困ることは無くなった
…今でも我々緑のオークは戦闘に特化している。戦う事でしか己を表現できないのだ。お前たちが無能ならば、我ら緑のオークもまた無能」

これを聞いて 肌色のオークは嬉し泣きをしたと言う。

この会話を聞いていた少女もまた、ヘタな人間よりもよっぽど学があるとおもったそうだ。

その後そのオークは簡単ではあるが傷を治せる薬を作れるようになったと言われている。



さて最後のオーク族という本に書かれていることによると、最後まで人間と戦うオーク族についてきたのはよく言われているドワーフ族だけではなかったようなのだ。
ドワーフは見かけによらず手先が器用で細かな装飾や柄がついた武器や飾り物などがあり、エルフとは仲が悪かったとされているが、人間とはそれなりに友好関係を築いていたようだ。
これは人間の書にもある通り商人ギルドが主だってドワーフだけでなくエルフの作った物を売り買いしていたことが書かれている…のだが、ドワーフがなぜ人間と敵対したのかなどは謎のままである。
ただ一説によると人間はそれ以外の種族全てを迫害しだしたと記してある別の禁書もないわけではない
そしてこの最後のオーク族によると、殆どの人外と呼ばれるもの達が彼らと共に人間と戦ったのである。

これだけを見ても人間がどれほど信用がなかったのかが窺える。

魔物に味方した人間もいたが…人類は一致団結して魔物を滅ぼしたことになっており、裏切り者として誹られるどころか初めからいない事にされている。

これはエルフの存在もそうであり…エルフと人間は同盟を結んでいたこともあったという記録が残されおり
エルフ族は人間との戦いには参加せず、かといって魔物とも戦う事を良しとせずにいずこかへ逃げたといわれている。

これは真実でもあるようだが、この時に際しての会話が残されている様だ

「我らと来る種族はどの程度になりそうか?」

「ドワーフ族は最後の一兵までオーク族と共に戦うと…他の種族もまた同様の返事を返してきました」

「オークやドワーフたちの事を醜いと称してきたが…本当に醜かったのは誰であろうな…」

「…出立の船を準備しよう」

「我らの部隊はこれよりドワーフたちの元へ向かいます」

「この戦いはもう既に負けが見えている。むざむざ死にに行くようなものだぞ」

「だからこそです。我らエルフが臆病者と誹られぬためにも…それに我が妹は盟約破棄の折りに人間により亡き者にされました…亡骸を取り戻す為に真っ先に戦ってくれたのは今は亡き親友です。彼はオークでした」

「まこと、知己の多い奴よ」

「先の戦いにおいて戦死したとのこと…共に死ぬこと叶わずとも…彼の部族たちはいまだ戦場におります」

「我が長、誠に勝手ながら部隊の一部の命をお借りいたしたく」

「言うても聞かぬであろう…好きにせよ」

「ありがとうございます。友との誓い、エルフの名誉、護るため死出の旅に参ります」

「もう、お主の話も聞けぬのだな…種族外の話、中々に面白かった」

「…これにてお別れにございます」

「…まて、人間と戦うと言って聞かぬ者達が数名いる…他の者を扇動しようとしたので今は牢に閉じ込めておるのだ…仇をとるだの死に花を咲かせるだのと騒ぎ立てていてな。そやつらも連れて行ってやれ…」

「重ね重ねありがたき…。近衛の名に恥じぬ戦を…存分に暴れまわってみせましょう」



「…すまぬな…」

「民に伝えよ、これより出立する…人の手が及ばぬ最果ての地の更にその果てへ…創造主がつくりし永遠の平穏ありし楽園へと、共に旅立とう」



人間との関係が深かったエルフ族もまたオークと共に戦ったというのだ。
一個小隊にも満たぬ数ではあったようだが…驚くことにエルフの長を護る直属の近衛隊だったようだ。
人間とエルフの盟約…詳しく語られることは無いが、エルフにとって非常に不利な盟約であったといわれている。
なぜエルフがこのような盟約をのんだのかも、いまではわかっていないが、盟約を破棄する際にはエルフ族の長であったエルフェンリア・パステラ含めその殆どが犠牲になったと言われている。

魔物に味方をし、人間と戦ったエルフの事もまた、人間の歴史に記されること無く、エルフ族は戦いに飽き飽きし人の手の及ば場所に旅立ったとのみ書かれている。


この最終戦争はブルーオーガから始まった戦いからその終結後に結ばれた魔物と人間の不可侵条約を人間側が一方的に破ったことから始まる。

人間の軍隊に魔物たちは抵抗こそしていたが、組織的な抵抗は出来ずにいた。
これに初めに立ち上がったのがオーク族だった。

オークやゴブリン族などは醜い、乱暴という概念から真っ先に攻撃を受けており壊滅的な打撃を被っていた。

オークには族長と呼ばれる者達がおり、集落を形成している。

数々の集落が攻め滅ぼされる中、助けを求められたオークの族長が動いたのだ。


この赤目に褐色の体躯を持つオークこそ、真の意味でのオークの族長であった。
集落を統治している族長ではなく、全てのオーク族の族長と呼ばれている。
彼が直属に統治するオーク達は戦闘に特化したオーク族の中でも更に磨きがかけられている精鋭中の精鋭であり、その為に オーク族最後の砦 と呼ばれていた。

族長は滅ぼされた集落の生き残りからある不思議な話を聞く。
人間との戦いに敗れ逃げ惑っていると、どこからともなくコックのような恰好をした蒼い目を持ち同じく蒼い大剣を携えたオークが現れて、人間の軍隊と戦い始めたのだと。

あれは オーク・ザ・ジャスティス オーク族の希望 あなたの息子だと話されたのである。

族長は感慨深い表情をした後で、話を伝えたオークに食い物を食って休むように言う。

この赤目の族長が精鋭部隊を率いて戦い始めたころ、方々から様々な種族もまた部隊に参加するようになり、数と仲間は増えていった。

仲間に加わった種族からもまた人間から逃げる中で蒼目のオークに助けられたと聞かされたのだ。
この話をしたのは一種族だけではなかった…人間に負けた種族のほとんどがその姿を見ていたのである。

魔物たちは人間の軍隊に局地的にだが勝てるようになった。

ある酒の席で族長…オーク・ザ・ファイナルともレッドアイとも呼ばれる者が口を開く。

「過去に人間を襲っていたことがある。人間がオーク種族を野蛮だと思っているのは、自分のようなオークがいたからだろう…だがそれも、子ができた時に辞めた」

「女オークは珍しい、力ずくでその女オークを手に入れ、その間に子を授かった…あいつが何かを言う事もなかった。オークの世界では力あるものに従うという古い仕来りがあり、それを護ったのだろう」

「…だが、子は産まれなかったのだ。難産の果てに母子ともに死んだ」

その言葉に、周りの魔物たちはざわめきたち、誰ともなく声が上がる。
では ジャスティス は何者なのかと…。

「妻と子を同時に失ってから、毎朝毎晩、その墓の前で泣いた…そうしたある日、墓の前に赤子が捨てられていた」

「それを自分の息子として育てた…でかくなるにつれ我が息子とは思えぬほど 義 を重んじるようになった」

「成長すると、困っている人を助けたいのだと言い出した」

「本当に息子なのかと思い、確かめるために…妻の墓を掘り起こした…。腹の子の骨は消えていた…息子なのだと確信した」

この事は一部のオークしか知らぬことと言い、オークの成人の儀でもある剣抜きの話となる。
オーク族に伝わる剣、誰も抜くことができなかった…意思や自我があり持った者へ言葉を紡ぐと言われている伝説の剣…それを成人の儀の折りにジャスティスは抜いたのだ。

お祭り騒ぎになったことを覚えている。その日からジャスティスが姿を消したことも…。
だれともなく、コックの姿をして屋台で飯屋を営むジャスティスらしきオークを見たと言う話を聞いたという。これもまた餓死寸前や空腹に耐えかねていると、どこからともなく現れて、酒や飲み物に加えたらふく飯を食わせてくれるのだと言う。

「なぜ飯屋などになっているのかはわからんが…それが息子なりの助け方なのだろうな」

「あやつは…息子は生まれる前に死んでいる。死んでいるからこそ、あの剣を抜くことができ、そして 魂を紡ぐ者 と繋がることができたのだ」


局地戦で勝ったとしても、大勢に影響はない。ならばと最終戦争を仕掛け、それに勝利したのちに人間に協定を結ばせようとしたのである。その開戦前夜に族長が話したことだそうだ。

…だが、彼等が勝つことは無かった…人間以外の種族の殆どが集まり、ドワーフやエルフ達まで味方になったのにも関わらず…負けたのである。

オーク族きっての精鋭も残り僅かとなり、ドワーフもエルフの近衛達も既におらず。
それ以外の魔物たちもことごとく討ち死にを遂げていた。


赤い双眸今だ輝きを失わず、人を見据え、赤錆びた大剣がひるがえる。

肉塊が出来上がる

しからずも衆寡敵せず

一つ一つと精鋭もまた斃れたり

残りし精鋭ただ独り

赤目の双眸もちし褐色肌のオーク独り

一陣の風が吹く


蒼い目をしたオークが一人、蒼い大剣を携えて立っていた

オーク族の希望とオーク族最後の砦…

滅びるその刹那の一時、オークの親子は共に戦った…。


最早二人だけの軍隊となった魔物の軍と既に勝利が見えている人間の軍…
片や矢の雨を受けようとも体をすり抜け、片やハリネズミのようになってもなお剣を振り続ける。
どのくらい経ったろうか…遂に族長が膝をつき倒れた。

父である族長が討たれると、ジャスティスは地面に剣を突き立て軽く空を仰ぐとその体は足元から四散し消えていったという。

彼の体は消えたが、魔物最期の地であるその場所には長い年月、雨風に晒されて尚、錆ず朽ちもせず墓標のように剣が突き刺ささり、誰にも抜かれることなく残っている。


私は今、その本を書いた筆者の前にいる。そこで更に詳しい話を聞いたのだ。

エルフと人間との盟約…これには驚愕を受けた。

簡単に言うと、人間の命令には絶対服従し、人間が何らかの危機を迎えた時には助けなければならない

これはブルーオーガに書かれてある、人間と魔物との争いが激化する発端になった話に関係する。

4人の少女がある宝の地図から始まった冒険の末に魔物の長と戦い、打ち勝ち。
(この戦いにはブルーオーガの親友である龍族が 「盟友よ また独りで戦っているのか?」との言葉と共に助けに入って来たと言う)
その魔物達から自分を倒した強者だと認められ、湖に浮かぶ大樹がある場所へと案内される。
この場所は魔物たちの聖地であり、ここで誓いをしたものは永遠に結ばれると話される。
誓いをした4人の少女は魔物の事をもっと知ろうと一緒に暮らし始める。

人間に魔物は狩りつくされ滅ぼされると危惧している、そうなる前に人間に戦いを挑む、と案内された蒼い体躯をもった魔物 ブルーオーガ から、ここは戦いに出る魔物が集まる場所であるということを聞く。
暫く魔物と暮らし、人間よりも平和的であると知った少女たち、平穏な日が続くが、やがてこの魔物が危惧した通り、人間が魔物に対して戦争を仕掛けてきた。
ブルーオーガは部隊を率い、人間に勝ち続けた…しかし人間が団結し逆に魔物の軍が押し返され、聖地にてその最期を迎えるまでの話だ。

このときに魔物たちに味方をした4人の少女とブルーオーガとは親友の間柄であった一匹の龍族も戦いに参戦していた。

ブルーオーガとは別の場所で戦っていた少女たちは話せばきっとわかるはずと言い、戦いになっても尚、一人の人間も傷つけることなく殺されてしまったのだという。
少女と共にいた龍もまた、かなり好戦的な性格であったのにも関わらず、少女たちの命令通りに何の反抗もせず自嘲気味に笑いながら最期を迎えたと言われている。

この4人の少女たちは只の少女ではなく、3人は魔法使い、一人は剣士であり、相当の使い手だったと書かれている。

一人は貴族の少女でフレイム・ラグナと呼ばれる炎の禁術を使え、もう一人はアブソリュート・ゼロという氷の禁呪をつかえたそうだ。

それを護る剣士の少女もまた、残月といわれる変わった剣を使う腕の立つ冒険者だった。

そしてもう一人の少女はエルフだった…しかも当時のエルフの長エルフェンリア・パステラの娘だったと書かれている。

また別の場所で人間の部隊を壊滅させたブルーオーガが見たものは、息絶えた親友と死体を汚された少女たちだった。

その場にいた人間たちを殺し、少女と親友の亡骸を抱いて、ブルーオーガは啼いた。

やがてやってきた人間の部隊と彼は一人で戦ったらしい。

彼が率いた魔物の部隊は既に壊滅しており、誓いの大樹が炎に包まれる中、生き残りを逃がすために独り戦い、燃え広がる炎の海の中に消えていったのだと言う


「「ごめん…人間との闘い、暫く待って欲しいんだ」」

「「オークさんは頑張り屋さんなんですねぇ~。?エルフなのにオークさんを褒めるのが珍しいですかぁ?ふむぅ~、同じエルフにも変った娘だって言われたことがあるですよー」」

「「…錬金術を教えているオークがいるのよ。その時の話なんだけれど…もっと考えを改める必要があると思わされたわ」」

「「わたくしも同じことを思いましたわ。緑のオークは戦闘に特化していますけれど、肌色のオークはそうではないと言われておりますでしょ?けれどもわたくしが見たところ、肌色のオークの中には少ないながらも魔力を持つ者がおりますわよ」」


「「きっと、話せばわかるはずだよ…だから」」

「「わかっておりますわ。誰一人傷つけない…そうですわよね?」」

「「…向こうは、そんな気は全くないと思うわ」」

「「ふ、ふみゅ…エルフは人間と仲良しさんです…魔物の皆さんは悪くないと伝えたいのです」」


「「ボクたち…死んじゃうかもしれない…けど、ボクは」」

「「歴史には…どう書かれるのかしらね」」

「「魔物の側に着いたふしだらな女なんて書かれたりしませんわよね?」」

「「それでもきっと…誰かが正しい事をしたんだと言ってくれるはずですよぉ」」

「「魔物と人間、きっと仲良くできると思うんだ。ボクは信じるよ…ボクたちがそうなれたんだから…」」




「「あの少女たちの知り合いの仲間を殺したことがある…彼らはよく戦った、亡骸は我が塔の棺に入れて残してある」」

「「…なぁ、盟友よ…我は戦う事しかできぬ存在だと思っていたが…あの少女らの言う事に賭けてみようと愚かなことを考えている」」

「「何も成すことなく、殺されるやもしれんが…少女らが人間どもを説得する間の壁となるつもりだ…戦力としては数えないでくれ」」

「「生きて帰ったら、呑み明かそう、人間の酒は意外とイケる」」




「「盟友よ また 独りで 戦っているのか?」」




彼は…大きな体を震わせて啼きながら戦っていたのだと伝わっている…その最期の獅子奮迅ぶりから 青鬼 ブルーオーガ と呼ばれるに至った。


尚ブルーオーガはトロール族だったと残されている。オークの集落の一つを統治しつつ魔物の聖地を護るための存在であったそうだ。聖地の近くの塔に住み、同じく聖地を守る立場だった歴戦の親友も人間との懸け橋になりえた少女たちさえも失い、数少ない生き残りを逃がすため…ただ独り戦った彼はその時に何を思ったのだろう…。

本の最後には彼は少女たちの願いを聞き、人間との戦を遅らせていたとも綴られていた。


この戦いの後、人間は更に魔物を危険な存在だという思いを強くし、滅ぼすことを決める。

ブルーオーガ亡き後の魔物たちは人間の軍隊に蹂躙される。

この頃にエルフの盟約についての書物が発見され、エルフの軍団が招集されることとなる。

ただでさえ人間の軍隊に蹂躙される魔物側である、そこにエルフの軍団も加わり完封無きにまで叩き潰されようとする中、魔物側から和睦を求められる。

最早戦う力のない魔物たちに同情したのかエルフからも戦争の終結を求める声がでていた。

魔物は人間に危害を加えない、人間も魔物を迫害しないという簡単ではあるが強固な協定が結ばれた。

この後で人間とエルフの間に亀裂が生じだしたのだ。

戦いに勝って浮かれたのか傲慢さが出たのか、エルフの盟約を私利私欲の為に使い始めた。

エルフ族は美しくまた永遠の命も持っている…どう使われたのかは想像に難しくない。

これにエルフたちは当然反発したが盟約に従うほかなかった。やがて長であるパステラやそれを護る近衛のエルフにも毒牙がむけられた。

それでもエルフたちは人間の仕打ちに耐えたのである。そのうちに人間の行為は更に残虐になっていった。最早エルフを生き物としてもみなくなっていったのである。

ここまできて、パステラは盟約の破棄を決定する。

この盟約の破棄にまでもエルフにはもはや理不尽というのも生易しい事柄が用意されていたのである。

それはエルフの命そのものである…正確には盟約を結んだときから生きているエルフ全ての命だった。

これにより特に力と知恵をもった年配のエルフは死に絶え、長であるパステラも骨になって消えた。

「パパ!!ママ!!」

「あなた!!」

目の前で家族や仲間が崩れるように骨になっていったのである。

混乱の中、長が消える前に生き残った若いエルフは聞く…なぜ人間とこんなに理不尽な盟約を結んだのかと…

「…人を、愛してしまったから…」

醜い骨となり崩れ去りながらも遺したパステラ最期の言葉だった。


人を愛していた…パステラの過去は残されていない。エルフと人間の盟約がどう結ばれたのかも、今となってはわからない。エルフ達は他の種族を見下していた節がある。それでも人間に対してはある程度の友好的な態度だった…いや盟約の内容を考えるに、人間を自分たちの子孫のように思っていたのではないか?エルフは人間に技術も教えている。この技術はいまでこそ失われているが…というよりもどれがエルフから伝わった技術なのかさえ忘れ去られている。それでも我々人間の生活基盤に根強く残っていると話す者は少なくない。


長であったパステラ含むエルフの生き字引達をなくしたことにより、生き残ったエルフたちは人間から離れ、森の奥に姿を消し外界に姿を見せることは無くなったと言う。

その後、魔物との最後の戦いが勃発すると、エルフ種族は完全に人間と袂を分かつことになる。


なぜこれほど詳しく知っているのかと問うと、生き残った者が真実の歴史を伝えるのは責務だと言っていた。彼は魔物と共に戦った人間の一人であるらしい。

ここで私はいくつかの質問を投げかけた。


”人間が魔物との協定を破ったのは何故なのか”

「人間も初めのうちは決まりを護っていた。だが人間には寿命がある。何世代も経て忘れてしまったからだ。人間が行った悪行を魔物のせいにしたいという意図もあった。最終戦争前の戦いはエルフの助けがあってもなくても人間側の圧勝だったという歴史的な見解による傲慢さもあった」

それから、何よりも人間は永遠の命や力を欲しがっていた。手に入らないのなら滅ぼしてしまえと言う考えもあったということを話していた。


”人間は本当にドワーフなども含め、全ての人あらざる者達を迫害し始めたのか”

「最初はオーク族やゴブリン、コボルト、スライムなどの害悪だと思われる者だけだったが、そのうちに全ての種族に敵意を向けだした。これに反発する者も当然いて、そうして声をあげた者は葬り去られるか生きて戦えるものは魔物の軍に加わった。私もその一人だ」

人間が種族全てを迫害したというのは真実らしい。それに加え、盟約を利用しエルフ族にした仕打ちを他の種族は覚えていたことが魔物に味方する理由の一番大きかった部分だと話していた。

”…人間は一体どれほどの種族たちを裏切って来たのか…”

「…それこそ全てだ。先も話した通り、全ての種族と敵対した。ゴブリンやオークなどの魔物含めそれは精霊や妖精、物の怪…果ては…神であった者さえ敵視した。魔族と呼ばれる者もそうだったろう。
…また殆どが偽りだと言われているが、遥か昔には魔法を使える人間もいた…。青鬼に出てくる4人の少女の一人である貴族の娘は、人間だった。
氷の瞳などと呼ばれていた少女は人間かどうかは定かではないが、二人ともが魔女と呼ばれていた。エルフの少女が魔法を使えるのは当りまえだが、貴族の少女は間違いなく人間だった。
人間でありながらも禁術といわれる術を習得するほどに魔法に長けていた。
剣を使う少女もまた人間だ。彼女は魔法がまるで使えなかったが…4人のリーダーで宝探しに向かったのも、魔物の事をもっと知ろうと言い出したのも彼女だ。
そして…人間との戦いで話せばわかるはずだと、誰も傷つけないようにと言ったのも彼女だ。

この世界は人類だけの物ではなかった…人間は…最後に残った世界だけでも手に入れたかのであろうな…。
そして、再度いうが…これは忘れないで欲しい。私だけに限らず、そのような行いをすることに徹底抗議をし、死んでいった者たちがいたことを」


話を聞くうちに、私は人間に対しての不信感が膨らんでいくのを感じていた。
それを察したのだろうか…彼からは全ての人間がそうであったわけではないと話された。
…もう、この世界のどこにも 人間 以外の種族はいない
全てが伝説か御伽噺だとさえ言われはじめている。
私が見つけた本も今ではすでに 歴史書 としてではなく 古い時代に書かれた著者不明の物語 扱い
けれど私は…信じたい。人間の文明が発展するにあたり謎めいたことが多くある。
それはきっと、人間以外の種族からの助力があったからだと…。


”…なぜ味方が多くいたにもかかわらず、人間に負けてしまったのか”

「これに関しては諸説ある。一番言われているのは、人間が余程卑劣で汚い手を使ったのだろうということだ」

「…だが私の見解は違う。”鬼”が味方に付いていたからだと考えている」

ここで私は鬼という言葉に反応した。ブルーオーガー 青鬼 と呼ばれている魔物に関係する事かと思ったのだ。

「鬼の名を冠する事は非常に…とても名誉な事だ。君の考えの通り青鬼と呼ばれた魔物もまた鬼とよばれるに至った。そしてブルーアイとその父レッドアイもまた鬼と呼ばれることがある…」

ここで彼は一息ついてから 鬼 について話しをしてくれた。

「鬼というのは古の伝説的な存在だ。見た目こそ人間にそっくりだが、その戦闘能力は群を抜いていた。だが…人間によって滅ぼされたのだ。鬼と人間は嘗ては共に戦う間柄でもあった。
人間がとある大妖怪との戦闘で滅びに瀕したとき、鬼がその妖怪と戦い倒し救ったのだ。これは鬼が人間の前に姿を現したとされている最後の記録だ。
危機に際しては助ける…この部分はエルフと人間ともつながる話だが…強さにおいては神話レベルであり、神といっても差し支えないほどだ」


鬼が人間を救った際に「忘れるな、その死を賭しても戦う強さを…それを忘れた時に本当の滅びが来ることを」そう言い残したそうだ。
妖怪と戦っていたときにも 妖怪から「人は信じられぬ存在 人同士でもいがみ合い争い殺し合う。そんなものになぜ味方するのだ」
この言葉に鬼は「人は強さを残している 俺はそれを信じるだけだ」と返し妖怪を両断したのだという。

消える寸前に妖怪は 「なぜだ 鬼は敬愛に値する存在 我ら 弱き者の希望 どうして 鬼も 人間に滅ぼされた存在 なのに」とのこし消えていったそうだ


それほどの強さがあったのになぜ、人は勝てたのかと問う。

「…私の知る限り、鬼に味方する人間は戦い、鬼を護るために死んだが…その鬼自身はなんの抵抗もすることなく殺されたらしいのだ。…自らを護り死んでいった者に対して無礼ではないか!!」


彼が少し声を荒げる。


「すまない。…エルフ族もまた人間に殆ど敵対することがなかった…。私個人の意見だが、人間の思い上がりを静める役目を担ってほしかったのだ」

また一呼吸おいてから彼は話し始める。

「人間は忘れてしまったが、他の種族は覚えていたのだ。鬼という存在を、そして人間もまた忘れられず刻み込まれている。鬼という強さを、蔑まれ貶められても尚変わらぬその強さを、それを人は鬼とよび畏怖する」

鬼は死んだのに、鬼が味方をしていたというのはどういう意味なのかと聞く

「古くからの言い伝えがあるのだ…戦いの最中どこからともなく蒼い目をした男がやってきて、ただ独り敵陣に切り込み異常ともいえる強さで相手を突き崩していくと…。戦いに限らず英雄的行いや何かを護るための自己犠牲などによってもまた鬼が味方したといわれる事例がある。先ほどの妖怪の話でもそうだが…あの時点で既に鬼は殺され、魂だけの存在だった」

「主君の自刃の時間を稼ぐために、一人で大軍を相手にした者にも鬼は味方をしたと言う話もある。そして私の考えでは鬼という存在は、ある種霊的な存在で英雄たちの想いや魂を媒体にして現れるのではないかと思っている」

それほどの力を持つ者が味方になるのなら、なぜ負けるのか

「…それこそがまさに話の筋であり、鬼の呪縛と呼ばれているものだ」

”決して負けることなく 決して勝つこともない”

「この矛盾をはらんだ呪いとも呼ばれるものこそが、鬼の力…鬼が味方した者の末路だ」

”鬼が振るいしその刃 ただひとえ それ即ちすべて 滅びゆく者の為に”

「鬼が味方をしなければ、勝てていたかもしれぬ…しかし皆一様に、鬼に首を垂れるのだ。
…私にもわからないのだ。鬼が味方をするから負けるのか…それとも既に負けることがわかっていて尚、抗い続ける為に鬼は戦ってくれているのか…他の文献にも鬼の話があり、既に大勢が決まったのにもかかわらず鬼という存在が現れて無駄に命を奪ってゆく…故に鬼が出ても戦うなと命令をし撤退をしようとしたが…まるで憑りつかれたように兵士たちは鬼に向かっていったのだと…結局はこの時に勝った方もまた大損害を被ることになり、後の世で滅亡したと伝わっている」

その話は興味深いが、鬼が味方をしたという問いの答えにはなっていないのではないか

「…青鬼を倒し、その後魔物と共に戦った少女の一人、剣士の少女が使っていた残月という剣…あれは鬼が作った物だ…本当の銘を 八千代 という」

「更に…ブルーアイが使っていた、オーク族に伝わる自我があると言われる剣もまた、鬼の力の片鱗から作られたものだ…オーク族は名前すら決めずレッドアイ以外は剣とだけよんでいたようだが、本当の名は”刹那”だ。鬼が持つ剣と同じ名を与えられ、その欠片を練り込んで作られたものだ。今の世に鬼はあらず。さりとてまた今の世に鬼は潜み、また…存在するのだ。体を失い、魂だけの存在となって尚、強き者の力となる…だが、それは同時に滅びを賜るということにほかならぬのだ」


決して負けることは無く…また勝つこともない…全てはただひとえ滅びゆく者の為…


「…そうだ。ここまでの話は 勝つことは無い と言う部分についてだ」


そして話の最後に彼から秘密の話と共に非常に魅力的な取引を持ち掛けられたのだ。

一度考える時間が欲しいと、彼の家を出て宿泊先へと戻った。

宿に戻ると、私はこんなことを呟いたりもした。

「魔物と一緒に人間と戦っただって?そんな馬鹿な、もう何千年も前の話だ」

「けど…もし本当に魔法使いや賢者ってのが居るとしたら、あんな感じなのかも…」


必要な事は、最後に話した秘密の話とこの取引の内容を口外しないこと、そして…命を犠牲にする覚悟だ。

命を犠牲にする覚悟が必要な取引…いや、提案ともいえる。

迷いはした…だが答えは決まった。朝日が昇ったら、また彼の家へと行こう。


私は信じている。子供の時から人間以外にも色々な種族がいたということを、ずっと信じていた。
幽霊とか妖怪などが見えたわけではない…ただ小さい時から感じていた…何かわからないけれど、何かに守られているような気がするって…彼に会い、確信に変わった。
実際はもっと前 突き刺さった墓標 からの声…それに誘われて私の旅は始まった。

そしてここが私の旅の終点…。


禁書である二冊の本と彼から聞いた話をここに遺そう。
もしこれを読んだ人が、私のように彼に会いたいと願うのならば
私の痕跡を探すと良い…まずは墓標である剣の元へ。
あなたの心が導かれるに値するならば剣は語りかけるだろう。

楽園への旅は 剣に始まり剣に終わる …これは私の遺書であり、希望であり道標。


私は逝く…

秘密の場所へと

永遠に続く楽園へと…


彼は秘密の話と一緒に人間以外の種族は本当に存在したのかという疑問にも
「存在しなければ今までの話の内容が嘘になる」と遠回しに答えてくれた。

秘密の話の内容は話せない…けれど、私が最後にした質問を残しておくね。

”本当に…もう人間だけしかこの世にいないの? ”

by ”真実を求めた一介の記者より、次の楽園への切符を求める旅人さんに…”




















PS

そうして話を書き終えた後の事…。
深夜を過ぎ横になるも寝付けずにいると尋ね鬼がやって来た
そう…鬼がやって来た。寝床から起き上がり、ドアへと続く暗がりを見つめる
そこに一人の男が立っていた…鍵はしめたはずなのに…。

彼はゆっくりと近づいてくる。

傍まで来ると、少し邪魔をさせてもらうとそういい
更に腹は空いてないか、酒は呑めるかと聞いてきた。

特に空いていない、酒は少しなら そう答える。

自分でも不思議だった。見ず知らずの何物かがカギをかけたはずの部屋にいるのである
なのに…恐怖も不安も感じない。

人ではない…だからといって怖い存在でもない…神がいるとしたら
きっとこんな感じなのかもしれない

彼は床に腰をかけると、私にも座るように促した。
そうしてから、不思議な入れ物にはいった水の様な物を
これまた小さな不思議な入れ物に入れると差し出してきた。

彼自体もまた見たことのない服を着ていた。

…鬼なのか?とそう聞いてみると

少しだけ微笑むように見つめられた。

長い黒髪に、蒼というよりは、水色に近い…アイスブルーの瞳
それはまるで澄み切った青空か、山の清流の様だった。

彼が差し出した水の様な物を呑んでみる。
まごうことなき酒である。初めての味だったけれど…それこそ川の水のように飲みやすい。

暫く無言でお互いに酒を呑み交わしていた。

鬼がぽつりとつぶやく

「門に行くのか?」

私は小さくうなずくことで肯定した。

聞きたい事が沢山あるのに、言葉が泡のように浮かんでは弾けて消える。

少しの時間がたち、鬼は立ち上がると邪魔をしたと言い背を向ける

慌てて私は気になっていたことを聞いた。なぜ何の抵抗もせずに死ぬことを選んだのかと

こちらに振り返り答える 「今でも俺は 人を信じている」と、私を見る穏やかなその瞳は
あふれ出るほどの慈愛に満ちていた…ただ畏怖されるだけの存在ならば、あんな瞳はできないだろう
そこにあったのは、果てしないまでの 優しさ だった。


そしてもう一つ私は聞く…どうしてそこまでして、そうまでされてエルフもあなたも人間を信じてくれるのか

「他の者の事はわからない…ただ俺は、人の温かさを覚えている 共に戦い、共に死んでいった人の強さを覚えている」

聞いた話と同じことを言う…きっとその思いは永遠に変わらない、ずっと人の味方でいてくれる…そんな安心感と頼もしさを感じた。

それを…そんな彼のような存在を…

私たち人間は…殺してしまった…。

そして今、魔物達やエルフの様な存在と同じように…鬼である彼もまた歴史から消されようとしている…。

「存外 美味い酒だった」

それでも尚彼は…人知れず現れては 人の為に戦ってくれるのだろう。

滲んだ景色の中に彼の姿はすでになく 私は一人立ち尽くしていた。

魂を媒体にしないと現世に存在できないようなことを聞いていたが…
そんなことはないのかもしれない。現に私はまだ生きている。

そしてこうも思った。

鬼はこの世のどこにもいないが、同時にどこにでもいる存在なのだろう。

そうして私はまた一つ確信した 鬼は言った。門へ行くのかと それは楽園への扉 楽園はある すぐそこに 太陽の女神が護る 創造主が創し楽園が

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