しゅれでぃんがー 2020/02/24 21:00

格闘ゲーム

 

 格闘ゲームに没頭し、心血を注いだ時間があった。多くの出会いや経験を得た。そして絶対的な答えを見つけた。そしてわたしは格ゲーを止めた。今回はそんな思い出を振り返る。


 わたしが初めて格闘ゲームで興味を持ったのMOW(餓狼マークオブザウルブス)である。元々格ゲー自体に興味があったわたしは、いろんなゲームの対戦動画を掘り進むように見ていた時期があった。対戦動画が一番多かったのは中野TRFというゲーセンだった。今はどうなのか分からない。

 中野TRFの色んなゲームの大会や対戦会の動画を見ていて、このゲームかっこいいなぁ、と思ったのが餓狼MOWだった。特に、テリーがかっこよかった。ダンクキャンセルからのバスターウルフで逆転を決める。思わず声が出るほど熱くなったのを覚えている。


 自分でもやってみたくなって関西で対戦できる環境を探したが、見つからなかった。ゲームも触ってみたが、そもそもが難しすぎてどうにも遊び方が分からない。仕方が無いので、遊ぶのを諦めた。


 しばらく経って、別の格ゲーに興味を持つ。『エヌアイン完全世界』というゲームだった。元々『アカツキ電光戦記』というゲームにも興味があった。旧帝国軍技官のアカツキが、電光機関を巡る戦いへ赴く。世界観も好きだったし、アカツキがかっこよかった。

 それの続編のようなゲームが出る。それを聞いてゲーセンへ走った。そしてその日、50回ぐらい負けた。めっこめこだった。遊び始めて初日だったので、コンボも安い(火力が低い)ものしかできていなかったから当然である。その時のプレイ料金は1回100円。金額にして五千円である。金のかかるゲームだな、と思い、その夜は悔しさで眠れなかった。

 あまりお金を使いたくなかったし、負けたのが悔しくて練習した。ネットでコンボを調べたり、対戦動画を見まくったり。昼夜を問わず猛勉強。学校でだってあそこまで熱意を持って勉強したりしなかった。

 その甲斐があってか、何度目かの対戦でついに、めこめこにされた黒いアカツキへリベンジを果たした。嬉しかった。


 それからしばらくはずっと楽しかった。大阪にはエヌアイン完全世界を作った関係者のゲーセンがある、と聞いて現地へ行く。そこにはあの黒いアカツキ使いの人がいたり、他にもこのゲームをするたくさんの人たちがいた。朝から晩まで対戦できた。夢のような時間だった。


 ある日、少しずつゲームをすることが苦しくなってきた。楽しいのだが、苦しい。初めての感覚だった。何故だか考えた。その答えは、【キャラ差】という概念にあった。ゲームのキャラクターのフレームやら、技の硬直なんかの情報まで分かるようになると、このキャラではこのキャラにどうやっても勝てない、という現実が見えてくる。お互いが100%の力で戦ったとして、相手がミスをしなければ絶対に勝てないのである。

 これに気づいた時、わたしにとって格闘ゲームは楽しいものから苦しいものへと変わった。絶対に勝てないと分かっているのに、お金を筐体に入れなければならないのだから。


「人間はミスをするもの」
「努力が足りない」
「頑張れば勝てる」
「お前はキャラパワーを出し切っているのか」


 色々な意見を聞いた。どれもこれも、間違ってはいないのだろう。しかし、わたしはそれらの言葉を無邪気に呑み込むことができなかった。人間はミスをするものといっても、本当にミスしない人間がいたらどうするのか? 努力というのは相手もしている。相手が自分と同じぐらい努力していたらどうなる? 勝つも負けるも相手次第。そんな遊びに、わたしはもう没頭できなくなっていた。


 それに追い打ちをかけたのが『アンダーナイトインヴァース』というゲームである。このゲームにアカツキ電光戦記からのゲストキャラとしてアカツキが参戦した。嬉しかった。たくさん使った。300戦した。そして止めた。このゲームはキャラ差がひどすぎる。

 単純な話で、攻撃判定の長いキャラがこのゲームは強かった。そしてアカツキはリーチが短かった。相手の攻撃に引っかかったほぼ終わりなのに、それをかいくぐって肉薄しなければならない。正直言って、ゲームに参加できているとすら言えない状態だと思った。


 最後、格闘ゲームとお別れをするきっかけになったゲームがある。それは『カオスコード』だった。FKDという外国の会社が作った格闘ゲームだが、キャラデザがとても濃い。設定もギトギトだった。でも面白かった。このゲームのおかげで、自分は操作感覚が良いコンボゲーが好きなんだと自覚できた。

 このゲームではサーベラスというキャラを使っていた。ハイテンションなルー語を操るキャラクターで、三枚目だけどかっこよかった。キャラパワーもそこそこあったので、サーベラス以上に強いキャラもいたけど不満を呑み込んでゲームできていた。


 しかし、何回目かのバージョンアップで、サーベラスが弱くなった。そして、新キャラが追加されたがその新キャラが意味が分からないぐらい強かった。わたしは愚痴が多くなった。そして、それについて対戦していた仲間に苦言を言われた。この時、わたしの格闘ゲームは本当に終わった。

 その仲間は別に悪くない。正しいことを言っていた。こっちも努力している。そっちはするべきことができてない。うん、正しい。詰められるところはまだまだあったかもしれない。けれど、その詰められるところというのがわたしにとって、「小学生が壁をキックしてバスケットゴールにダンクシュートを決める」みたいなウルトラCにしか見えなかった。

 それよりも。一緒に遊んでいた相手を不快にさせてしまうくらいに不満を隠せなくなってしまったら、もう多人数の対戦ゲームはできない。

 後日、対戦会の仲間の一人に対戦会の今後の運営をお願いし(その人をこのゲーセンに連れてきたのはわたしだったから、何も言わず消えるのは忍びなかった)、その日から一切格闘ゲームをしなくなった。


 格闘ゲームはわたしにたくさんのものをもたらした。得難い経験や思い出をくれた。しかし、同時に「不満があるなら止めるしかない」ということを突き付けたコンテンツでもあった。


 でも、嫌いになったわけじゃない。仲間たちにもまた会いに行きたい。向こうは覚えているかどうかわからないけれど。

 今度エヌアイン完全世界の全国大会があるらしいので、地元でやるなら参加しようと思う。何も言わずひっそりと会場に行って、ひっそりと対戦して。楽しくなって帰るのだ。

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