しゅれでぃんがー 2020/03/09 21:00

名前

 わたしはエッセイを読むのが好きで。一時期本屋で月に一回、新刊の棚を端から端まで眺めまわしては気になった本を買い漁っていた時期がある。今でもジュンク堂に行くと、ふらっと文芸系の棚に行っては、本棚に並んだ本の背表紙を上から下まで全部読んで、というのを右端から左端までしたりする。そういう時、だいたい本を一万円以上買ってしまうので、最近はお金が無くてやってなかった。でも、あの時間はやはり楽しい。

 ジュンク堂では、昔は一万円以上購入した人にだけ、特別な手提げに本を入れて渡してくれていた。あの手提げは丈夫だったので、わりと日常的に気に入って使っていた記憶がある。でも、先日買い物した時は、一万円以上買ったのにくれなかった。普通の紙袋に入れて本を受け取る。なんとも寂しい気持ちになった。


 話は変わるが、特に好きなエッセイを書いている先生がいる。荒川洋治先生だ。先生の本を始めて手に取ったのは、大学時代の通学路にあった古本屋の奥である。そこに、『本を読む前に』という本があった。タイトルに惹かれて手に取った。本の材質がとてもしっかりしていて、手触りが良い。そのまま手に取ってレジに行った。でも、買ったけどすぐには読まなかった気がする。読んだのは一年後か、もっと後か。忘れてしまった。

 先生の文章はとても素朴だが、はきはきしている。飾りっ気が無い。でも時々お洒落である。独特のテンポがある。読み始めて初めの一本目ですぐに好きになった。【陽気な文章】というタイトルだった。先生は文壇や文学に近い位置にいるのに、まったく賢そうな気配がない。出さない。さらに、作家やそれに連なる人たちの非常識をそのまま指摘する。文字書きなのに常識がある。凄い人だな、と思った。


 その後、先生の本を片っ端から本屋で買ったのでどの本に書いてあったのか忘れてしまったが。その中に、匿名についてを書いたエッセイがあった。気がする。そこでは、本名を出して本に記事を寄稿している人間の文字には、たくさんの人の推敲が入り、精度が高い。ネットだと言いっぱなしで誰でも何でも言える。だから、まだネットに文字を明け渡すのは慎重になった方が良いのではないか、という風なことが書いてあった。はずだ。きっとそのはず。

 一理あるが、今は新聞も嘘を書く時代である。テレビでは偏向報道があふれている。だから、このエッセイを杓子定規に受け取ることはできない。ただ、【匿名である】ことと【無責任】であることは連なる問題であり、真摯に受け取らなければならないことだと思う。

 ネットで記事を上げる人間は、どうしたって自分で文字を書いて自分で完成を判断して投稿ボタンを押す。投稿ボタンを押すまで、他人の目に触れない。だから、間違いや不確かなことで記事の中は溢れている。誰でも気軽に文字を書けるようになったが、今は責任も軽くなった時代だ。

 だから、わたしも先生から見れば、【無責任】な者たちの一人なのだと思う。


 そんなことではいけない。他の誰もがそんなことを考えていなくても。わたしは、無責任ではありたくない。エッセイの書き方は全部先生の真似をしているのに、先生がしてはいけないと書いていることをしていては、面目が立たないだろう。だから、わたしは心がけていることがある。

 それは、【何があっても名前を変えないこと】だ。このしゅれでぃんがーという名前は、ネットで小説(二次創作だったが)を書き始めてからずっと使っている。かれこれ15年近くになるだろうか。休止期間も長かったが、その間もずっとこの名前を忘れずに覚えていた。

 名前の由来なんてのはどうでもいい。たしか、当時シュレディンガーの猫に興味があって、でもカタカナだと印象が硬いからひらがなにした。くらいのネーミングだったと思う。大した理由は無かった気がする。

 でも、この名前は創作活動をする上で、自分自身を示す無二の名前。いつ、どこで、誰が見ても、この名前の文字書きはわたしを連想する。そんな名前になって欲しいと思っている。

 この名前には良いことも悪いこともあった。この名前を憶えていてくれた人が、今でも仲間として交流してくれている。しかし、当時のわたしは色々あって、匿名掲示板のオチ板(ウォッチ。珍獣を監視するみたいな掲示板ね)でオチられていたこともある。あの頃は若かった。格闘ゲームやワンダーランドウォーズ時代の活動からも、過去からの地雷が突然爆発するかもしれない。それでも、それら含めて”しゅれでぃんがー”の歴史なのである。

 わたしはこの歴史が好きではないが嫌いでもない。大切なものだと思っている。


 いずれは実名で仕事ができるようななにかができればいいとも思う。だが、今はまだ。ネットの名前に想いと魂を込めて。責任を持って、文字を書こうと思う。

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