しゅれでぃんがー 2022/05/01 00:16

【文字――今月の作品・エッセイ】愛と恋と悪

 一昔前、無料ホラーゲームが流行っていた。『青鬼』、『魔女の家』、メンヘラ彼女系のゲーム。メンヘラ彼女系ゲームは、カロンさんだったか。忘れたけど、ci-enにアカウントがあった気がする。プレイ動画なんていう文化もそんなに無かった時代、ネットの片隅でそれらはひそやかに盛り上がっていた。

 そんな中に、私が好きなゲームがあった。『Ib』というゲームである。両親と美術館へ来た少女が、不思議な世界に迷い込むゲームである。怖いけど、お洒落。お洒落な怖さで彩られたゲームだった。シナリオも良い。過不足なく、過剰に世界観を語ることも無く。主人公であるイヴと、同行者のギャリー。そして謎の少女メアリーの三人の物語に完結する。終始、スタイリッシュでスマートな印象を受けるゲームだった。


 良い作品はファンの創作が流行るもので。Twitterやpixivでは二次創作が盛んだった。みんな上手いし、愛がある。好きな作品の二次創作は、読むと楽しい。しかしある時、ふと気づくことがあった。二次創作作品というのは、なんというか。創作に傾向があるのだ。どういう傾向があるかというと、二つ。



・イヴとギャリーが恋仲になる話(イヴが成人するまで待つパターンが多かった)
・両親にギャリーが怒る話(両親を悪者にするパターン)



 だいたい、これだった。どの作品も、イヴがギャリーを好き。ライクじゃなくてラブである。で、ギャリーは年の差から引き気味だったり、ギャリーもイヴが好きだったり。ギャリーの方がイヴに執着するパターンは少なかった。両親は、なんかイヴが留守番しがちで寂しい生活してるっぽい描写があった気がする。でも、原作にはそんな描写が無いので、まあ、ユーザーの創作だろう。ほぼほぼ、このパターン。語弊を恐れずに言えば、全部これだった。イヴとギャリーがイチャイチャする話。それしかなかった。私はある時、それに疑問を感じたのだ。何故、イヴとギャリーが愛し合う作品しか無いのか、と。

 たしかに、不思議で恐ろしい美術館から脱出した二人はお互いが特別な存在となるだろう。しかし、だからといって必ず将来付き合うかというと別の話だと思う。男と女であったとしても、友だちとして仲良くやる未来もあるのではないだろうか。いや、二次創作というのは「書き手が見たい物語」を創作するものなので。みんな、見たい話を自分で書いただけなのだというのは分かるのだ。だが、だからこそ。みんながみんな、イヴとギャリーが将来結ばれることに対して微塵も疑問に思っていないような空気を感じて。私はそれが心底不思議だったのだった。

 両親についてもそうだ。休日に美術館に連れてくるなんていい感じの家である。家族中も悪くなさそうだ。なのに、だいたいイヴの両親の二次創作の描写は、子どもに寂しい思いをさせる両親だ。それか、両親に挨拶に来たギャリーへ噛みつく父と、乗り気な母。その二パターン。それしかなかった。ただ単に、みんながそれが見たかっただけなのかもしれないが。このパターン以外に見かけなかったことも、私は不思議に感じていた。


 まあ、イヴとギャリーが普通に友だちとしておしゃべりしたり遊びに行く話を書いても。面白くは無いかもしれない。やはり、心が強く動く話というのは。強い感情が飛び交う話でないと難しい。そして、最も簡単に強い感情を発生させる物語のギミックといえば。やはり、愛し合う話か、敵を作る話なのだ。年の差に悩むギャリーや、幼さから恋愛対象に見てもらえないイヴが奮闘する話。両親に悪い要素を付与し、両親を悪者にしてギャリーが突っ込んでいく話。どっちも作りがシンプルで、それでいて面白くしやすい。この二つのパターンしかなかったのは、もしかしたら、この二つが一番面白くて作りやすい物語の構造だったからではないか。






 でも、一番の理由は。やっぱりユーザーたちがみんな、そういう話が見たかったから。それを求めたから、二次創作界隈はそれ一色になったんだろうとは思う。それはそれでいいと思う。そして私はそれを見てその傾向に気づき。愛と、恋と、悪についての興味が殆ど無くなったのだった。

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