しゅれでぃんがー 2023/01/17 19:02

【文字――小噺】同居人の話 中編

 そんなこんなで我が家に住み始めた同居人。俺としては公共料金の負担が減ればいいな、ぐらいの想いではあったのだが。長い目で見るとあまり意味は無いということが分かった。何故かというと、単純な話。住む人間が増えると公共料金が増えるからである。特に、電気代が上がった。お互いにパソコンを常時つけっぱなしだったりするし、同居人は自分のエアコンを部屋に設置している。電気代が高いからエアコンを使うな、とは言えない。俺はエアコン夏以外使わないけど、向こうは冬も使うからそれでむしろマイナスかもしれない。





 それ以外にも問題は続出する。よく通販やメルカリを使うのに資源ゴミの日は覚えないから玄関に段ボールがたまりっぱなし。定期的に追い立ててやらないと捨てようとしないし、捨てる時は必然的に俺も手伝うことになる。俺は段ボールなんて月に数個しか出さないのに……。燃えるゴミの日も覚えてないから、俺が捨てようと準備していたり、玄関で靴を履いていたら「ついでに捨てといて」とか言いながらすごい勢いで部屋のドアを開けてくる。ふざけてんのか。殺すぞ。と、いつも思っている。


 お互いに順番にゴミを捨てに行くならまだいい。というか、別に普通だ。だが、ゴミの日を覚えない相手とそれを行うのは不可能である。かといって、順番交代で捨てに行こうぜ、なんて話し合いをする気も無い。何か決まりを作れば、それを守らなかったりイレギュラーが起こったりするとそのたびに話し合いが必要になる。俺としては、他人と口を利かなければいけない状況が発生する時点でルームシェアのメリットが無くなるどころかマイナスになる。家にいるけど、基本的には何も口を利かないしすれ違う時に挨拶するぐらいの関係性でなければならない。そうでなければ、ストレスに耐えれない。そもそもゴミの日にゴミを捨てるのは当たり前のことであり、自分のゴミを自分で捨てるのも当たり前のことだ。プライベートでそんな幼児に指導するようなことなんてしたくない。ルームシェアは幼児の介護じゃないのである。


 なので、ゴミの日は一切何も言わず、同居人がいない時とか寝てる時に捨てに行くことにした。確率は半々。ばれなかったときはよし、ばれてゴミ袋を押し付けられたときはアンハッピー。ゴミ捨ては、おみくじのようなイベントになった。。





 放っておいたら自炊をして生活費を浮かし始めた。それはそれでいいと思う。だが、キッチンの洗い物と掃除をしない。そのせいでキッチンが気持ち悪くて近寄れない。料理をしたり飯を食ったら洗い物をするのは当たり前のことだろう。基本的にキッチンというのは、綺麗でなければいけないのだ。そのせいで、買ってきたボウルとか鍋とかが謎に錆びたりしてきてて本当に気持ち悪い。しかも、お金出したのは俺である。俺が買ってきた調理道具を使って錆びさせているのだ。信じられん。そういうことするんだったら、調理道具は全部自分で買ってきて欲しいものである。


 リフォーム屋をやめたから俺も自炊しようと思ってたのに。同居人がいるということがこんなにもストレスを生むとは思っておらず。結局チェーン店の持ち帰りや弁当生活に逆戻りしてしまった。同居人がいなくなったら、また自炊すると思う。キッチンにある冷蔵庫も同居人のもので、俺の冷蔵庫は俺の私室に移動させちゃったから使い勝手も悪いし。これで同居人の冷蔵庫を共用で使うようにした場合、恩に着せられたらそれも不愉快である。どちらが金を出して買った物かをはっきりさせ、他人の物を使わないというのはルームシェアで大事なことである。だから、俺が買ってきた調理器具を正直使わないで欲しいとは思っている。めんどくさいから言わないけど。出ていった後に全部捨てて買いなおせばいいかな、と思っている。





 同居人は物が多い。靴なんて二十足か三十足ぐらいある。それの為だけの靴棚が玄関に置いてあるぐらいである。自転車も好きで、ロードバイクとか置いてある自転車屋に置いてあるような自転車用の棚みたいなのが二つ、玄関に置いてあり。キッチンにはばかでかい電動自転車が一台(部屋の半分を占領してる)、自転車用棚もさらに一台キッチンに転がってる。これらだけで貸してる二部屋に追加してもう一部屋分ぐらい家を占領している。俺としては、こんだけ物置くなら光熱費以上に出してもらわないと割に合わないんだけど。同居人はそんなこと欠片も気にしていないようである。同居人はかなりのやからな面があるので、基本的に話し合いはしたくない。自分の中にある結論や着地点が動かず、そこに到達するまで延々やかり続ける人間とは会話するだけ損である。時間とカロリーがもったいない。




 うちはマンションだが、管理人とも揉める。まあ、これは以前から俺が大人しいせいで管理人にやかられまくってたから助かった面もあるが。彼のおかげで俺は管理人の嫌がらせターゲットから外れたものの、事あるごとに他の住人とも揉めるので。大家である俺の立場がそのたびに悪くなるのはわりと困ることである。





 以前、彼は自転車で二回事故をした。どちらも車側の過失だったので彼からお金を払うことはなく、幸いにも怪我も無かったのだが。俺としては見過ごせない出来事である。もし、彼が事故で後遺症が残るような怪我をしたとして。光熱費すら払えないような状況になったとする。そうなると、俺は結果として彼を養わざるを得なくなる。さすがにそんな状態の人間から金を払えないから出て行けとは言えないからね。だから、もし何かあった時、彼は俺にとって俺の金と生活を脅かす可能性があるということだ。そんな危惧があるのに、ルームシェアを続けることはできない。いつかは、出て行ってもらわないとリスクが高すぎる。





 これらすべてを総合的に考えて、部屋を貸し続けるメリットよりも他人を家に済ませるデメリットの方が大きいという結論になった。だが、昔馴染みであり友だちではあるので放り出すのはさすがに可哀想である。不満はそりゃもう湧き出る湯水のごとくあるが。それでもやっぱり小学校からの知り合いで友だちなのだ。


 なんとか円満に追い出す方法は無いだろうか。そんなことをずっと考えていたら、町をジャイロ走っていた時に共産党の詰め所みたいな建物の壁に市営住宅の申請書のポスターみたいなのを見かけた。その時、天啓が降りたような気がした。調べたら、市営住宅の家賃と俺の家に住む光熱費は支出がほぼ一緒ぐらいである。じゃあ、ルームシェアしなくても市営に引っ越した方がいいよね、という方向性で話を持っていける。これはやるしかないだろう。すぐに市役所に行き、そしたら市役所の玄関に市営の申請用紙の封筒が大量に置いてあったのでそれを二部持って帰り。一部は渡して、もう一部は俺自身がその内容を読み込んであとは締切日の把握のために持っておいた。案の定同居人は締め切り前日まで書類を書かなかったので、癇癪を起されない程度にやんわりと催促した。なにからなにまで、お膳立てしないとなかなか動かないやつである。




 家に他人がいるということのメリットは確かにある。自分が外に出ているときに宅急便や消防設備点検とかが来た時に対応してもらえる。物を運んだりなにか手が必要な時に手を貸してもらえる。それは確かにメリットだろう。だが、俺は自分の部屋にいる時にキッチンから鼻歌が聞こえてきたら。その鼻歌にストレスを感じるぐらい他人が自分の生活圏に存在することが我慢できない性格である。やって見なければ分からなかったことではあるが。やはり、俺は他人と共同生活をするのに向いてない人間なのだというのを実感した。


 幸い、同居人は市営を当てることに前向きだった。市営はなかなか当たらないらしく、何年も募集に応募し続ければ当選確率が上がって行ってそのうち必ず当たるという噂はある。だから、あと五年か十年ぐらいしたら市営当てて出て行ってくれたら一番いいな、と思っている。

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