現在の最新刊は16巻だそうで、商業で快進撃を続ける暁なつめ氏。しかし、その道のりは決して楽なものではなかっただろうし、今現在相当苦しみあえいでいると俺は予想する。今回は素人の目線ではあるが、このすばの現在の状況と今後について考察してみることにする。
まずはこのすばの仕組みについて考えてみよう。この作品はいわゆる【異世界転生系】というジャンルでカウンターとして書かれたもので、ありとあらゆるお約束の反対を書くことでコメディにしている。
普通、異世界に転生した主人公は(カズマさんは厳密には転移だが。赤ちゃんから生まれてないので)ありとあらゆる人たちにちやほやされ、超絶すげーパワーの持ち主で選ばれし者にしか使えない武器を使い悪しき魔物たちをばったばったとなぎ倒すウルトラスーパーなヒーローである。
しかし、カズマさんは異世界に来たはいいものの、無一文でギルドに冒険者登録できず日銭を稼いだり物乞いをしたりする。そして冒険者になってクエストに行ってみたら、命の危険があるのに報酬は日雇いの肉体労働とほぼ同じ。割に合わない。カズマさんと読者の幻想を、開幕しょっぱなから完膚なきまでに暁なつめ氏は粉砕してくる。この間、10ページもない。読者への引き込みは早ければ早いほどいいので、見事な構成である
キャラクターの配置もそうだ。仲間である3人のヒロインたちは、どれもこれも一級の上級職...のはずなのに、ここでも普通の逆を行く。強いけど一発撃ったら気絶する魔法使い、堅いけど攻撃が当たらない置物戦士。そして神で一番強いはずなのにいらんことばっかりして迷惑ばかりかける賢者。全員容姿が良く羨ましい状況のはずなのに、ヒロインたちの欠点を強調することでカズマさんへの読者のヘイトを逸らしている。カズマさん自体も憎めないチンピラという造形なので、作品全体の空気を整えることに成功している。
こうやってあらゆる要素の逆を行くことで世界観を組み立てている。そしてそれは1巻ごとの設計図にも落とし込まれている。
ここでキーとなるのは「カズマさんたちと対極に位置するキャラクター」である。
カズマさんと対となるキャラクターはミツルギキョウヤ。まっとうに異世界転生主人公として活動している冒険者である。カズマさんはミツルギをやっかむことで対立関係を表し、また最後は天罰が下ることでミツルギを不当に貶めるだけの低俗なシナリオになることを避けている。
アクアと対となるキャラクターはエリス様。心優しく美しい女神様。カズマさんがことあるごとに彼女とアクアを比較してアクアは泣きわめき、エリスの悪口を言っては格の違いを自ら体現してしまう。
めぐみんと対となるキャラクターはゆんゆん。容姿端麗で完璧な次期族長の娘。あまり完璧すぎると逆に角が立つので、ぼっちであるということでコミュ障にしてバランスを取っている。
ダクネスと対となるのはおそらく王女様である。ダクネスだけカズマさんパーティーの中でちょっと浮いた存在(性格自体は歪んでないから変態キャラで押すしかなく、キャラが薄い)ではあるが、使えない戦士と超絶完璧な戦士でしかも地方領主と王様の娘。純粋に格が違うという感じである。
あとはアクセルの町自体が王都と対となっていたり、まあこういう風にメインキャラクター一人一人にカウンターキャラクターを配置することで物語を作っているのである。
なぜカウンターキャラクターを置けば物語が作れるかというと。各ヒロインそれぞれの担当回で1巻ずつ出すとすれば3冊。そこからさらにカウンターヒロインとの絡みを書けばそれでもう3冊。ちゃんとメインヒロインも絡ませて、サブヒロインがメインを喰わないように気を付けなければいけない。やろうと思えばミツルギのパーティーも描写してそれで1巻作ってもいい。
こんな感じでメインとなるキャラクター一人につき1冊稼ぐことができる。このすばはある意味でサザエさんやちびまる子ちゃん、ドラえもんみたいな構成をしているので巻をまたぐような長編エピソードは作れない。間延びするから。だからこの構成は理に適っているのだ。
そこからさらに行った先の町の有力者や冒険者なんかから依頼を名指しでもらったりすれば世界観を広げつつさらに巻数を稼いでいける。しかしこのすばにこの方法は使えない。ギャグ故に他の冒険者や有力者と繋がりを作るとどうしてもシリアスなノリが生まれてしまう。この作品はそういう方向性を完全に切り捨てて作っているので、暁なつめ氏は意図的にそうしているのだと思う。この作品はあくまでもギャグであり、エヴァンゲリオンやガンダムではなくドラえもんでありサザエさんなのだ。
しかし、こういう形式だとやはり限界が出てくる。話と世界観を広げられないから、ネタ切れが起こるのである。前に見た時、めぐみんとも付き合っちゃったのにどうやって続けるのかな……と思ったらめぐみんの妹の巻とかやってて思わず目頭が熱くなった。なんという頑張り……苦しみと絶叫すら感じてしまう。それぐらいまで担当キャラを掘らないと、もう話が作れないのである。
かといってメインキャラクター以外の冒険者を増やすこともできない。増やすならポンコツでないといけないし、それをメインにするならどうしてもカズマさんパーティーに加えないといけない。でもカズマさん+3人という形はもう今更崩せないのだ。ドラえもんのメインキャラがジャイアンスネ夫しずかちゃん以外に増えないのと同じである。
ここからどうすればいいのか、と私が考えるとすれば。やはりサクラ大戦方式でカズマさんが全く別のパーティーを新しく作り、新しい町で新シリーズを開始することである。大神一郎はパリに行ったが、カズマさんは何処に行くだろうか。
たしかにアクアめぐみんダクネスという黄金パーティーを崩すリスクはある。読者から反感もあるだろう。しかし、今のこのすばの仕組みでこれ以上の巻数を稼ぐのは、もうどうやっても無理だろう。というか暁なつめ氏は相当頑張ってるよ。16冊もよく書いてる。本当に良く頑張ってるよ。だからそろそろ終わらせてあげてよ、休ませてあげてよ、と俺は思ってしまう。新しいのを書かせてあげて。
新しいパーティーを結成する理由なら、なんかのクエストで古代兵器が暴走してカズマさんだけ謎のゲートに吸い込まれた、とかそんなんでいい。どうやってはぐれるか、というのはさして重要な事じゃない。新しい環境と新しいヒロインを用意することが大事。そうすればまたヒロインの数+カウンターヒロインの数で巻数を稼ぐことができる。でも、それをやるならいっそ主人公を交代してもいいし、このすば自体畳んで新しいシリーズを……と思わないでもないが、商業だとたぶんそれはできないんだろうなぁと思う。このすばブランドで金が稼げるうちは、ドラゴンボールのようにずっと続けさせられるのだろう。
長々と書いたが、結論としては「もうこのすばは限界! ティーバックのダシガラで出汁を取ってるようなもん! なんとかしてあげて!」ってことである。今思えば、『涼宮ハルヒの憂鬱』はネタ切れを克服することができずに自然消滅という形で逃げたのかなぁ、とも思う。それを考えると、ハルヒの作者さんを責めることはできないかもしれない。それを考えるとやはり暁なつめ氏は超絶とんでもないくらいに頑張っているのだ。
今思いついたけれど、幽遊白書とかドラゴンボールとかワンピースとか、ジャンプの歴代ヒット作品を研究して真似してみればまだもうちょっと粘れるかもしれないね。
しゅれでぃんがーは、暁なつめ氏を尊敬し、応援し、そして心配しています。商業は本当に大変!