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2020年 05月の記事 (46)

しゅれでぃんがー 2020/05/24 13:16

デバッグのすゝめ

 最近、Ci-enで公開されている体験版で、これはと思う作品を勝手にデバッグしてはレポートを上げるという活動をしていたりする。一番最初にデバッグさせてもらったところで、すさまじいアセットを積み重ねさせていただけたので、これは活動としてやっていけるな、と判断してのことである。でもレポート送られる方にしてみれば、いきなりデバッグレポートをDMしてくる怪しい奴、でしかないので。その辺は勘違いしないよう、自分が怪しい存在であると自覚して活動を続けようと思う。

 閑話休題。せっかくアセットもあることだから、ブログに来てくださる人達にはそれを公開しようと思う。隠すようなものでもないし。ただし。一番最初にデバッグの心得を書いておくので、製作者さんで無い人がデバッグする時はそれを必ず守ってくれ。これは申し訳ないが絶対だ。破ったら私が許さないぞ。出来ない場合、ただのお節介になるから自発的にデバッグなんてしないほうがいいぞ。


デバッグの心得

1.作っているのは製作者さん。自分は部外者であることを自覚する。
 知り合いじゃないなら馴れ馴れしくしない、ゲームに過度な口出しをしない。提案が却下されても文句言わない。でも、提案すること自体は良い。その際、必ず「不採用であればスルーしてください」的なことを付け加えて、相手が重く受け止めないように釘を刺しておく。自分が作ってるわけじゃない、ということを忘れないように。

2.相手が怒ったら潔く退く
 デバッグしてたらどうしてもぶつかることがある。ただ、デバッグしたせいで揉めてゲームの制作が遅れたり、制作自体が中止されたら本末転倒である。相手が受け止め切れなさそうなら、諦めて退くのも大切である。もうレポート要らないです、って言われたら、ちゃんとデバッグ中止しようね。

3.あまり目立たないようにする
 製作者さんはたくさんのユーザーさんと関係性を作っているので、人目につくコメント欄とかでやり取りしてると、他の人とは別の関係性が見えてしまうことが出てくる。そうなると他の人との兼ね合いで不味いので、レポート送る時はDMやメールにしておいた方がいいだろう。他人の関係性を壊すようなこともしないように。ゲームが仕様通りにリリースされればそれで良し。邪な気持ちでデバッグしないように。


 上記を守れる人だけが、デバッグのスタートラインに立てる。次は、デバッグの知識を公開しよう。この部分は随時更新される。更新したら、更新履歴で周知するぞ。


報告の方法

 基本は文章のみで、発生した時の状況を出来るだけ細かく記す。できれば何回も同じ事をしたり、バグの原因っぽい行動をしてそのバグが起こるかを確認。そうやって原因を究明してから報告するのがベストである。

 バグが起こった時点でセーブデータを分けてセーブしておき、いつでもそのバグった状態が見られるようにしておくのも有効だ。スクショも取れたらなおいい。

 最終手段として、セーブデータを直接メールなどで送る。これをすればだいたい解決する。しかし、毎回セーブデータ送るのは手間なので、本当に意味の分からないバグの時にだけの方がいいだろう。


修正されたら動作確認しよう

 バグが修正されたら、修正バージョンのゲームが上がってくる。だいたいver0.01とかから順に番号が上がっていく。その際、修正一覧(を同時に上げてくれるサークルさんはとても良い人)を見て、その修正箇所が正常に動作しているかを確認する。バグ修正した結果、新しいバグが発生していることもあるからだ。もちろん修正しきれていない時もある。それらを確認したら、また報告する。根深いバグなんかは結構長生きするので、根気よく確認するのが大切だ。

 なお、誤字脱字については修正確認しない。言った時点で直してなかったらそれは相手の問題である。工数がかかりすぎるので、これについては報告するだけにしている。


選択肢でのキャンセルボタン

 ツクールだと選択肢フラグを使った場合、キャンセルボタン禁止の処理をしてなかったら、キャンセルボタンを押すと選択肢の一番下を参照してしまう、というケースをよく見た。これは「やっぱりやめる」などの、キャンセルコマンドを設定していないから、別の選択肢が発動してしまうからだ。

 だから選択肢がある場合、まずとりあえずキャンセルボタンを押して見るといい。そうすれば異常動作をするので、それを報告しよう。キャンセルコマンド実装するか、キャンセルボタン禁止処理を設定してくれるだろう。


マップの端っこやオブジェクトの上を歩いてみよう

 町やダンジョンは、マップの端っこ。壁に沿って延々歩いてみる。その際、一マスずつ壁に向かって歩いてみるとなおいい。何故そうするかというと、通行禁止という属性(があるらしい)の指定漏れがあると、そこを突き抜けて画面外に歩き出せることがある。歩けてはいけない部分を調べるのだ。

 あと、町中だと花壇とか。石の柱とか、樽とか。机とか。そういうのが指定漏れで乗れたりするから。余裕があれば、そういうのも調べて見るといいだろう。その際、そこが乗れていい場所かどうか分からないのなら、「これは仕様ですか?」と、レポートに記載しておけばいい。仕様じゃないなら、次回の更新で修正してくれるはずだ。


ネームプレートとテキストボックス

 キャラクターが話す時、メッセージボックスの上に名前が表示されるタイプのゲームがある。あれは、メッセージボックスの上に名札のような画像素材を後から追加しているようだ。なので、時々ネームプレートが無い会話文があったりする。それもバグ。追加し忘れなので報告しよう。

 ちなみに、ネームプレートはプレートだけ挿入して名前はテキストボックスを追加して入力しているタイプと。ネームプレート自体に初めから名前を書きこんで置いて一括保存し、キャラごとにネームプレートを画像素材として保存しているタイプがある。後者はキャラの人数分ネームプレートが必要になるから単純に容量を圧迫するし、挿入ミスで別キャラに別の名前を入れたりしそうかも。

 テキストボックスで名前を入力するタイプは、その名前を中央揃えとか右揃えとかで調整してる場合はそれの指定し忘れで変な文字の寄り方をしている時もある。それもバグ。


参照関数

 キャラのセリフを読んでいると、時々唐突に数字だけ表示されていたりする。それは割り振られた番号のキャラや要素を、その数字で参照して表示するという関数が使われる部分かもしれない。そういう時もそのセリフを丸々写して、バグ報告として上げよう。逆に、本来状況によって変更されるべきセリフの部分がいつも同じ、という場合は関数で参照するべきところを直接入力で文字を入力してる、という場合もある。さらに、参照関数の後ろにさらに直接入力の文字で二重に入力しているなんてケースもある。誤字脱字だけでなく、セリフや文章にはたくさんのバグが隠れている。


マニュアルを読もう

 ゲーム内のtips、ゲームファイルにあるテキストのマニュアルなど。それらの文字データにも誤字があるかもしれない。修正を続けた結果、マニュアルに記載された要素と現状のVerの乖離があるかも。そういうのも確認して報告するといい。

 この辺はうっかり忘れがち。しかもなかなか気づかない。


立ち絵に被っている

 固定イベントで、マップ上にドット絵のキャラが配置されて画面手前には立ち絵キャラが配置される会話イベントがあるとする。しかし、マップの前に立ち絵が表示される関係上、ドットキャラが立ち絵キャラの後ろに隠れて見えないという現象が起こる。これもバグ。こうなるとキャラが見えないせいで、ドットキャラが感情表現で音符や……なんかのフキダシエフェクトが見えなかったりする。それもバグ。


店の買値売値

 店売りの商品は、売値と買値を目視で点検する。買値より売値のほうが高い場合もあるからだ。そうなると、無限にお金が稼げてしまう。あと、実際に購入して本当に書いてある通りのお金が減るのか、増えるのかを見るのもいい。内部的に別の金額を設定してしまっているケースもあるからだ。

 まあ、致命的なバグじゃないからデバッグの時間が余った時だけでいいと思う。フリーズさえなければひとまず修正で済ませられるので。優先してする必要はないよ。


所持金増減時の挙動

 例えばお金をスられたりとか、強○的に奪われたり。逆に、お金をもらったりするイベントがあったとする。その時は、実際に表示されたお金が増えたり減ったりしているかを調べなくてはいけない。何故なら、表示は出てるけどお金の増減のフラグを設定し忘れてる場合があるからだ。

 それと、これはアイテムでも同様のことが言える。たとえば依頼でなにかアイテムを求められて、それを持って行って「〇〇を渡した」とかシステムメッセージが出るとする。でも、この時にアイテムの増減数の設定をし忘れていたら減らないし、+と-を間違えていたら逆に増えたりする。こういうのも地味ながらよくある。

 あと、イベントマスを踏んだら発生するのであれば。そのマス目を何度も踏んで、そのイベントが複数回発動しないかも調べる。イベントフラグリセットの指定し忘れがあると、何度でも発動する。ということは、お金がもらえるイベントだったら、いくらでもお金がもらえてしまう。


分身

 ライフ系ゲームだと、一定のフラグを満たすとキャラクターと個別イベントが見られたりする場合が多い。その時、そのキャラを仲間にした状態だと、イベントフラグで配置されているキャラと、仲間にいるキャラのフラグが並列してしまい、ゲーム内にキャラが2人いる、という状態になりやすい。

 キャラ別イベントがあるゲームなら、そのキャラを仲間にした状態でその場所へ行くとどうなるか、という挙動を見るのが基本だろう。だいたい増えるから。


全滅フラグ

 あるイベントで、仲間キャラがイベント担当キャラ以外パーティーから外れるという処理があるとする。その時、イベント担当キャラが戦闘不能だった場合。ゲームオーバーフラグを満たし、ゲームオーバー画面に移行する場合がある。

 仲間が外れるイベントがある時は、戦闘不能時の挙動を見るのもいいだろう。なお、戦闘不能状態で戦闘終了した時、HP1で復活する仕様のゲームならこれは起こらない。


全部の選択肢を選んでみよう

 あるイベントで、複数の選択肢があるとする。その場合、明示された選択肢は全部選んでみよう。きちんと動作するかチェックするのだ。その時、フリーズが起こるかもしれないし。演出ミスで不自然な挙動をするかもしれない。会話時の表情変化の指定がおかしくて、立ち絵の不具合が出る場合もある。ただこれだけのことでも、バグがたくさん隠れていたりする。


イベントマスを全部踏む

 たとえば、横3マスの橋の上で、横一列に、踏むとイベントが発生する判定が置いてあるとする。階段でもいいけど。その時、右端だけイベントフラグが指定し忘れてて素通りできるかもしれない。イベントフラグが円状に配置されている場合なんかはこういうのが多い。なので、イベントマス形式でフラグが置かれてる時は、その直前でセーブして全部のマスを踏んでみる。ちょっと手間だが、これも大事なことだ。

 あと、イベントフラグのリセット処理を指定し忘れてたら、そのマスを踏むたびに同じイベントが何度も起こったりする。だから、通りすぎず何度もその上を通過するのも大切である。


服装変化

 例えば、服をプレゼントしたら着替えるとか。装備したらキャラのグラフィックが変わるという仕様の場合。立ち絵も変わるなら立ち絵がきちんと正常に変化しているか。戦闘中のグラフィックも変わるならきちんと変わってるか。イベントの時も着替えてるかちゃんとチェックする。特に、イベントの時は別フラグでキャラを配置していることが多いので、そのイベントの時だけ着替えてない、というケースが多い。


装備品が装備できるか

 これはグラフィック変化と複合して調べる部分。その装備品、実際は装備できないかもしれない。〇〇専用装備、って書いてる時は、もしかしたら別のキャラも装備できるかもしれない。そういうのも調べる。あと、アイテムが鍛冶屋で強化できる、とかあるなら、ちゃんとMAXまで強化できるかも実際に調べたほうがいい。できないことがある。


イベント中キャラが移動する場合のフリーズ

 イベント中、キャラが勝手に別の地点へ移動する演出もあると思う。その時、そのキャラの移動経路に主人公や、仲間のキャラが既に立っていた場合。移動すべき地点にキャラが移動できないからフリーズする、ということがよくある。これは仲間が複数いる状態で移動してた時、仲間キャラが主人公の後ろを列車状態でついてくるから起こる、というケースが一番多かった。地味だが、明確なフリーズ要素なのでこれはきっちり潰したいところである。とにかく、イベント中や、そのマップからまだ出られない、ということで強○的に一歩下がらされるタイプのイベントでは要注意である。


町に入る時のバグ

 町があったとして、普通に入る場合と空から入る場合(ドラゴンでも飛空艇でも何でもいい)と海から入る場合とテレポートで入る場合の4種類があったとする。その時、特定の方法で町に入ると、町のイベントリンクが間違っていたりする。本来入れる町ではなく、ずっと後で起こるイベントが発動した状態の町に入ったりするのだ。だから、移動手段が複数ある場所だと、全部のパターンで侵入してみるのも大事である。


イベントアイテムが複数個もらえる

 たとえば、家に郵便物が自動で届くイベントとか(ポストに自動で入ってる)。話しかけるとアイテムがもらえるイベントがあったとする。その時、一度発動したらリセットする、というフラグを設定し忘れていると、何個でもアイテムが届いたりもらえたりする。

 その日から毎日郵便受けを調べたり、毎日話しかけて見たり。連続で話しかけて見たり。リセットフラグ設定し忘れをチェックしよう。


全体効果アイテム、アイテム効果

 アイテムは使用すると効果を発揮するが、できたらこれも全アイテムを使用して、本当に仕様通り、アイテム説明に記載通りの動作をするかチェックしたほうが良かったりする。よくあるのは、全体効果アイテムの効果設定し忘れとか、単体しか効果が無いとかだ。アイテムの説明と実際のアイテム名が別になってたりする場合もある(合成や鍛冶なんかでアイテムを作成する時、完成後のアイテム名が合成選択肢のアイテムと違う、なんてのはよくある)。

 これも致命的バグにはなりにくいが、もしかしたらフリーズもあるかもしれない要素だ。だが、デバッグ優先順位としては低い。


イベントで貰えるアイテムとテキスト

 例えばクリスマスのイベントがあって、ゲーム内キャラクター全員のうちランダムで1人からアイテムが届くとする。そのキャラクターが30人いたとする。この時、貰える相手は選べないとする。そうすると、この30人がくれるアイテム、そして添えられたメッセージカードの文章の誤字脱字とゲーム内リアリティを逸脱してないかを調べる。要するに、全員分のプレゼントを実際に入手してみないといけない。しかし、これはとてつもなく時間がかかる。これを優先した結果、他のフリーズバグが残ったりしたら大変なことになる。

 時間があればもちろんやったほうがいいのだが。こういうのはフリーズに繋がりにくいので、割り切って諦めてしまうのも手である。フリーズ以外のバグはプレイに支障は出ないので、リリース後に修正しても充分間に合うだろう。


ゲームシステムにそぐわない描写文

 例えば、スキルツリーシステムで魔法なんかを覚える場合。あるイベントの会話文で、魔法を使うみたいな文章が書かれたとする(【エクスプロージョン】で岩を爆破するとか、毒を【浄化】で治してあげる、みたいなの)。しかし、もしその言葉を発するキャラが、そのスキルを覚えていなかった場合はどうするのか。きちんと差分を用意するのか(if文かな?)。差分を用意しないなら、その文章を表示した時点でその作品のリアリティは完全に破綻する。

 室内だと使えない魔法をイベントで使用していたりする、とか、描写文では〇〇を使った、とあるのにエフェクトが無いとか。そういうのを見つけた時は、たとえ細かくても指摘したほうがいい。これは大事なことである。


再現できないバグ

 たまたま遭遇したけれど、セーブや詳細をメモし忘れてしまった。どうやっても再現できない。そんなバグがある。それのために何時間も色々試してみるが、ダメ。再現できない。そういう時は潔く諦めよう。それのために何日も時間を消費し、そのせいで他のバグが素通りしてしまったら本末転倒である。それだけ試して再現できないなら、リリース後にユーザーさんが踏む確率もかなり低い。踏んだユーザーさんが優しかったらバグ報告してくれる。それに期待して、気持ちを切り替えて他のバグを探しにいこう。


 【ゲームを仕様に近づけていく】のがデバッグというものである。しかし、小規模で制作している場合、明確な仕様書を用意しているところは殆ど無い。そうなるとデバッグするのはキツいが、だからといって仕様書を出せ、なんて言ってはいけない。いたずらに工数を増やしてしまうからだ。無理を言うのはやめよう。

 だから、些細な事でも仕様確認。とにもかくにも仕様確認。返答が無くても別にいい。仕様確認して、そこを調整したりしなかったりするのは製作者の領分である。デバッカーが口出しすることではないのだから。

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しゅれでぃんがー 2020/05/24 02:30

日記

今日の活動

吉備津彦伝

吉備津彦伝 柴刈りの翁の章 二頁目
読み直してたら誤字脱字や修飾ミスなんかがあったので、午前2時の時点で細部を手直し。

DLチャンネル
『シニシスタ SiNiSistar』の知られざるドット絵を知っているかい?


 コロナ自粛もそろそろ開けたとして、今日はコーハツにエヌアインしに行ってきた。ZCさんとコーハツでイワン会である。初めのうちは15連敗とかしたけど、後半は一進一退の勝った負けたまで持ち込めた。やれば勘を取り戻せるのがこのゲームの良いところである。

 あと、対戦ゲームは2本先取と3本先取の形式があるんだけど。やっぱり2本先取のほうが楽でいいね。格ゲーってのは、キャラ差が収束していくものだから。3本先取ってどうしてもキツいんだよね。2本なら勢いで押し切れるけど、3本だとそうはいかないのよ。50円2本先取が最強、ってことだね。

 でも、ゲームしててもちらちらと「借金しないと無理……」って会話が聞こえてきてた。引き続き支援プランには入っておくことにしよう。この苦境、飲食店は軒並みばたばたとつぶれてる。俺はできうる限り支援するぞ。


 現状、見回して。俺しかやってない事。俺しか書いていない記事。そういうのをやっていこう。今回の特集記事は、その先駆けだ。Ci-enを取材して耳寄り情報をお届けする、そんなポジションでやっていくぞ。頑張ろう。

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しゅれでぃんがー 2020/05/23 21:08

吉備津彦伝 柴刈りの翁の章 二頁目

【超絶奥義】
 通り名は【ワンダースキル】だが、和風物語ではこの呼称が使われているらしい。潜在能力を開放する強化スキルで、一度使用すればしばらく使えない。自身を強化するだけでなく、周囲の仲間に影響を及ぼすスキルもある。


【どこかの物語の森深く】





「引退する、だぁ?」

 美猴はあんぐりと口を開け、塞がらないままに目を丸くした。美猴と桃太郎は闇の出現を聞き、コンビで討伐の任務に出ていた。今はその帰り道。焚き火を焚いて、丸太を座布団に火を囲んでいる。

 彼らが出会った日から、二十年以上もの月日が流れていた。

「……理由は?」
「寄る年波には勝てねぇ、ってことさ」

 美猴は桃太郎をじっ、と眺める。桃太郎の顔には、出会った頃よりもずいぶんとしわが増えた。髪も白髪混じりが目立つ。老いている、というのは本当なのだろう。

「お前とは長い事組んできたが、俺にもう昔ほどの力は無い。いずれは脚を引っ張ることになるだろう。だからその前に、な」

 桃太郎はすっきりと笑っている。が、美猴は今にも殴りかからんほど、剣呑に彼を睨みつけた。

「馬鹿にするんじゃぁねぇぞ。てめぇが他人様のことなんぞ考えるタマかよ。もし解散はしたとしても、引退まではしねぇだろ。一人で勝手に戦って、勝手に死ぬまで戦うだろが」

 桃太郎は苛烈な男だった。ひとたび闇と聞けば、誰よりも早く一番に飛び込んでいく。そのせいで誰もついてこられないので、目付として美猴が同行するようになった。そして美猴も一緒に盛り上がってしまうので、いつの間にかこの二人が先駆け部隊となった。

 戦うことが、三度の飯よりも好き。それを絵に描いたような男。それが桃太郎。だから、美猴は彼の言葉の空虚さに憤った。桃太郎はそんな美猴が眩しいのか、目尻を緩めて目を細める。美猴はそれがまた気に食わない。

「なんだてめぇ、まさか腑抜けやがったか!? 俺様がトドメを刺してやってもいいんだぞ!?」
「くくく……すまんすまん。やはり、お前には分かるか」

 桃太郎からは後ろ暗さを感じない。どうやら臆したわけではないようだ。ならばこそ理由が気になって、美猴は問いたげな視線を刺す。

「うちのガキがな。この前、初めて御勤めを果たしたのよ」
「おつとめ、ってーと……前に言ってた、あれか」

 桃太郎の世界では、闇との戦いを【闇退治】と呼ぶらしい。それは桃太郎の義務であり、逃れえぬ宿命である。そう語っていた。しかし。ガキ、と聞いて、美猴は血相を変える。

「って、てめぇ! てめぇのガキたしかまだ二桁ですらなかっただろ!! なんてことさせてやがる!?」
「無論、近くで見てはいたがな。たった一人でやりおおせやがったよ」

 桃太郎は嬉しそうだった。美猴はなおもなにか言いたげに顔をくしゃくしゃさせるが、話が進まないので呑み込んだ。

「だがな……」

 桃太郎はその顛末を語る。美猴は聞き入った。そして、何も言えなかった。

「俺の国では、【鬼憑き】が幸せに生きる道は無い。一生日陰で隠れて生きるか、【桃太郎】として闇と戦い続けるしかない。多くの者は、その中で命を落とす。生き延びた者も、自由には生きられん。ひととせ絶えず咲き誇る、藤の山に幽閉される。許可なく下山すれば即討伐だ」

 吉備津彦は、本当なら討伐されるところであった。しかし討伐命令は下らず、吉備津彦も『下山しない』という約束をたがわなかった。

「あいつは運が良かった。外の世界を垣間見て、命を落とさずに済んだのだから」

 村でなにがあったのかは分からない。しかし、吉備津彦の下山をお上に報告しなかった、ということだけは分かる。それだけで充分だ。

「【桃太郎】というあざなは呪縛だ。命果てるまで闇と戦い、果てぬなら藤の牢獄で朽ちる。行き着く先は、死あるのみ」

 まあ俺が山に下ったのは、討伐隊がしつこすぎて面倒くさくなったからだがな、と桃太郎はぶははと笑う。しかし、美猴は笑わなかった。

「あいつは俺ほど強くない。このままでは飼い殺しにされるだろう」

 焚き火の炎がいつの間にか弱まっていた。桃太郎は慣れた手つきで柴を割り、くべる。そんな姿が似合っているようにすら見えて、美猴は時の流れを改めて自覚した。桃太郎は、こんなことが得意そうな男ではなかったのに。

「俺は、名前というものが無い。普通は親にもらえるそうだが、物心ついた時には親などもういなかった」

 捨てられたのか、それとも別の理由か。桃太郎はその理由を知らない。

「もしかしたら。俺が桃太郎になったのは。何でもいいから、【名前】が欲しかったからなのかもしれんな」

 自身が【桃太郎】となってからの歳月は、彼にとっては比較的平和な時間だった。昼夜襲撃に備える必要もなく、誰からも敵意を向けられることは無い。屋根のある場所で定住し、日がな一日のんびりできる。平和を知らなかった彼にとって、藤の牢獄は居心地のいい場所ですらあった。

「だから。【鬼憑き】を育てろなんて勅命が下った時は、正直言ってめんどくさいだけだったよ。世話役としてついてきた女も、口うるさくて鬱陶しい」

 桃太郎の世界では、増える闇の襲撃により、【桃太郎】が桃太郎ただ一人になっていた。ゆえにその事態を重く見た帝が、【桃太郎】を増やすために桃太郎に【桃太郎】の育成を命じたのであった。
 それを聞いて、美猴はなんとも勝手な話だな、とあきれかえった。しかし。悪態をつく桃太郎の顔は、思い出を懐かしむようにほころんでいる。

「そのわりには、懐かしそうじゃぁねぇか」
「まあ、な。この俺に向かって、真正面から怒鳴りつけてくる女なんて初めて見たからな。新鮮で珍しかった。あいつが俺をどう思っていたかは知らんが。少なくとも、俺の前で【鬼憑き】を嫌悪するような姿は、ただの一度も見せなかった」

 女は吉備津彦のことも、我が子のように可愛がっていた。親子ではないが、親子のような毎日。いつの間にかそれが日常となった。

「アレもお上のところで色々あったそうでな。左遷されたらしい。でも、こっちのほうが楽しい、と、一度だけ言っていたよ」
「そりゃぁよかったじゃねぇか」

 ぶは、と桃太郎は笑った。美猴も表情が緩んだ。

「……俺が【キャスト】を辞める理由は、もう一つある。【超絶奥義】が、使えなくなったからさ」
「――――――!? なんだとっ!!!? 」

【超絶奥義】とは、キャストとなった者だけが使える秘奥義、最後の必殺技のようなものである。自身の内に秘めた力を解き放ち、様々な能力を発動させる。それが使えなくなったということは。

「なんでそんなことが……」

 美猴は考え込み、そしてすぐに理解した。

「まさか」
「そのまさかだ。代替わりの時が来たのさ」

 【超絶奥義】は、一種類のキャストにつき一人しか使えない。そして、吉備津彦はそれを使うことができた。ならば、そういうことなのだ。

「元々俺は捨て石だった。そもそもが英雄なんてガラじゃねえ。本物の【桃太郎】が現れるまでの代役、繋ぎでしかなかった」

 襷(たすき)を繋ぐ役目を果たした、と考えれば、これで自分は御役御免ということだ。と、桃太郎はまた笑った。その顔に寂しさも憂いもない。だから、美猴もそれに対して何か言うことはやめた。

「だが。最近ふと思うんだ。俺から【桃太郎】というあざなを取れば、いったい何が残るのだろう、とな」

 親にもらった名前も無い。人の世に伝わる名前も無くなった。ならば、自分はいったいなんなのだろう。桃太郎は素朴に自分へ問うた。

「それに。吉備津のことも気になった。ガラじゃねえんだが。まあ、なんだ。……心配なんだよ」

 美猴は彼の口から心配という単語がこぼれて、目を丸くした。まったく、本当にガラではない言葉である。桃太郎もそれを自覚しているのか、自分で口にしてぶははと笑った。

「アレはこれから、きっとつらい人生を送る。挫けることもあるかもしれない。あいつの為に、なんでもいい。何か、残してやりてえ」

 桃太郎は表情を曇らせた。

「だが。俺は、人からもらった物が無い。だから、あいつに残せる物が無い。なにもねえんだ」

 桃太郎にとって、物とは奪う物だった。与えてくれる人なんていない。欲しい物は自力で手に入れるしかない。しかし、そんな人生は、彼の手元に何も残さなかった。【桃太郎】というあざななど、本当は残したくないというのに。要らない物ばかりが残ってしまう。

「俺にあるのは、この力だけ。力は全てを解決する万能の手段だ。力が無くては、何も選べない。せめて、この力の欠片ぐらいは。あいつに残してやりてえ。俺はあいつに、『未来を選ぶ自由』を。残してやりてえんだ」

 桃太郎が【桃太郎】を辞める本当の理由。それは、ただこれだけのことだった。美猴はなんとも、複雑な気持ちになった。桃太郎は笑う。

「そんな顔をするな。これでも俺は、今日までそれなりに楽しかった。正義の味方の真似事をするのも、お前と馬鹿みたいに暴れまわるのも。俺はもう、充分楽しんだ」

 桃太郎が【キャスト】になれた理由は、単純にその力の強さだけだった。もし選考基準に品位や精神性という項目があれば、もしかしたら落とされていたかもしれない。吉備津彦を引き取り、洗濯の嫗と出会わなければ。途中で不適格と除名されていた可能性もある。

 彼が今日この日まで、【桃太郎】として生きてこられたのは。奇跡のような運命だったのだ。

「……ふん。まあ、いいだろう。後の報告は俺様がやっとくから、おめぇさん、もう帰っていいぞ」
「なに? いや、そういうわけには」
「いくんだよ。引退の件も上手い事言っといてやる。さっさと家族の元に帰りやがれ」

 しっしっ、と追い払うように美猴は手を払った。焚き火はもう、ほとんど消し炭になっている。森の切れ間からは、朝日が差し込んできていた。

「てめぇのガキがこっちに来たら。一人前になるぐらいまでは、俺様がめんどう見てやるよ。だからてめぇは安心して、老いて安らかにくたばるんだな」

 自身は老いぬ、修行中なれど仙人であるが故に。これが友との今生の別れになるかもしれない。美猴はそれでもなお、顔を背けて表情を見せないようにしながら、言った。

「それよりも。こっちにこられるぐらいには仕込んでおけよ。【桃太郎】の後釜とはいえ、無条件でこられるわけじゃぁねぇんだからな。そこまでは、俺様にもどうしようもねぇんだからな」
「ぶははははは! 心得た」

 桃太郎は立ち上がった。

「美猴」

 桃太郎は美猴の名を呼んだ。彼が美猴を名前で呼ぶのは、初めて出会った時から数えて、初めてのことだった。*美猴は背けていた顔を戻して、桃太郎の顔を見た。

「我が生涯の友よ。次の【桃太郎】を、よろしく頼むぞ」

 桃太郎は会心の笑みを浮かべると、目の前に障子を出現させ、静かに開いて中へ消えて行った。そして、障子も虚空に消える。そこには、美猴と燻った焚き火だけが残った。


「……ふん」


 美猴は桃太郎が座っていた丸太をしばらくじっ……と眺めていたが。立ち上がり、自身も門を開き消えて行った。

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しゅれでぃんがー 2020/05/23 00:04

日記

今日の活動


 ネタがあればなんでも書けるんだから、もっとライターっぽい活動していったらいいんじゃないの? という気づきに身を任せて記事を書きまくっていたり。数を打つ中で継続的に書けるコンテンツができてくれば、これも軌道に乗るだろう。特別定額給付金のネタはすごく自信あったんだけど、スマフォがね……。申請用紙が届いたらリベンジする予定。書いてみた、ってね。

 自分の強みはCi-enをけっこうよく見る状態にあること。なら、読んだ記事で気になったやつがあれば、それ自体をピックアップして記事にすればいいよね、という簡単な話。なにが起こるか、何も起こらないか。どうなるかなー。

 今は個人がコンテンツになれる時代。個人ライターとして、色々と挑戦していきたいと思う。その分創作する時間や精神力が減ったりはするんだけれど。俺は創作もやりたいけど、創作だけやりたいわけじゃないんで……その辺はご了承いただければと思う。


 先の無い人生なんで、どんな手段でもいいから自力でなにか起こせるようなことがしたいのだ。お金になるのが一番いいんだけどねー。ま、そんな上手い話はないない。地道にやりましょ。

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しゅれでぃんがー 2020/05/22 21:03

お家を直そう:「楽しい本棚その2」の巻

 今日も引き続き本棚を整理。まずは本を置ける状況にしよう、ということで棚板にニスを塗ることにする。

 普通に売ってるハケとニス。水性と油性の違いがよく分からないので、とりあえず安い奴を買ってきた。ケチって一瓶しか買わなかったので、足りるかどうかひやひやである。しかし、まずはこの前廃材からもらってきたパイン材の板をカットしよう。

 棚の横幅を計って、直角定規で線を引く。直角定規は1990円ぐらい。値段に適う利便性があるのでお勧めの道具である。41cmを計ってノコギリでカットする。

 なんとかいけた! が、ちょっと切りすぎたかもしれない。まあ、落ちなければいいのでギリギリセーフかな。これ、切りすぎたらその時点で失敗となりアウトなので、本当はもっときっちり測るべきではあった。上辺の41cmと下辺の41cmを計って定規で線を引く。何故なら、片側の辺がきっちり垂直な切り口とは限らないからだ。失敗である。

 この本棚には前の部分にもスライドする棚が付くので、このままだと棚板が引っかかる可能性がある。ので、直線を引いてこれもカット。

 うん、これはいいんでない? ではいよいよニスを塗っていこう。

 瓶から直接ハケにニスをつけるのは、瓶の口が狭くてやりにくい。なので瓶の蓋に薬液を垂らして、お皿にして使ってみる。便利。

 薬液を塗布する時は、手につくと手が荒れてしまう。なので、軍手をするといいぞ。そうすれば塗ってる最中の板とかも軍手で直接持てるから、全面を塗りやすいのである。

 ちょうど一瓶で足りた。危なかったー。今回のニスはクリア色なので、渇けば素材の色に戻る。なんとなく色付きの気分ではなかったからだ。ついでに棚板の角を丸くしてアール(正面側の棚板の側面の角を丸くすること。Rの上の曲がってる部分に似てるからそう呼ぶのかな?)を取りたかったんだけど、紙やすりも無いしカッターじゃ厳しいので今回は断念。これは乾くまで置いておく。

 続いては放置していた前棚を濡れ雑巾で拭く。ごしごし、ごしごし。

 そういえば留め具の数が足りなくて、ビスで代用している部分があった。しかし、ここも対策は用意している。

 仕事でキッチンを解体した時、廃材についている棚板の留め具を地道に拝借していたのである。これを使って。

 この通り。頭を使って創意工夫を凝らす。DIY(というのか?)はこれが楽しいね。

 できたーっ! 本当は、棚の一番上に突っ張り棒とか、L型金具をビスで打って地震対策しないと危ないんだけど。これについては、後日やることにしよう。本を入れるのもまた後日。今日は、とりあえずここまでだ。

 写真を撮った時に気づいたけど、右下のほうにこんなロゴが。なんか雰囲気あっていいねぇ。

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