●広翼の孔雀40●
「おい、観たか・・・鬼灯様の動画。あれ、本物かな?」
「まさか、本物なわけねえだろう」
「でもそっくりだし、本人に間違いなさそうだぜ。なんせ獄卒が撮ってる映像だからな。俺、輪○してるヤツの履いてる着物の柄、見覚えがあるんだよ」
「マジで?じゃあ、鬼灯様、ホントにこんなに淫乱なのか?」
「いやいや、いくらなんでもフェイクだろう。じゃなきゃ、こんなにネットに氾濫するもんか」
廊下の角を曲がろうとした瞬間、その先で獄卒たちのそんな会話が聞こえてきて、鬼灯は足を止めて彼らの会話に聞き入った。
「こいつのツイッターにしても、こんな嘘流すような記事書いてないんだよな。これ以外は、珍しい飯食ったとか、現世で流行っているモノの画像とか、マジ普通の内容なんだよ」
「それが急にエロ垢でもなく、こっちに流す意味がわからんなあ、確かに」
「こんなGIF、合成だろ?」
「合成にしても、素材が必要だろ?こいつのツイッター見る限り、こんなエロを流す意味がマジでわからん」
「もしかして、ホントに鬼灯様マワしちゃったのかな?」
「うーん・・・まあ、どうなんだろうなあ・・・」
「そんなワケねーだろ。あの鬼灯様だぜ?」
いつまでもここで留まっているわけにもいかず、鬼灯はキリの良いところでカートを押し、彼らの前を通りがかった。
「あっ!鬼灯様!」
「おはようございます」
「おはようございます!」
一斉に三人の獄卒が姿勢を正し、礼儀正しくお辞儀をする。そして彼らが顔を上げた瞬間、また身体にムズっと嫌な感覚を覚えてしまう。
(一体なんなんだ・・・まさか、彼らの誰かが、私に淫らな思いを抱いている・・・?)
そういう目で部下たちを見たことがなかった鬼灯だったが、改めて彼らを見ると、顔は笑っているが目は真剣で、らんらんとした光を放ちながらこちらを見つめているのに気づく。
鬼灯はゾクリと、怖気か欲情か知れない感覚を再び感じ、彼らの前を後にした。
(それにしても、動画とツイッターの影響は思っていた以上だったようですね・・・)
ここにきて鬼灯はようやく思い至ったが、昨日浴場で鬼灯を襲ったヤツらは、これらの動画やツイート記事を見て、真に受けて行動に移ったのだろうか?
それにしてはいささか行動が大胆すぎる。そう思いながら、鬼灯は廊下を歩き、数人の獄卒たちとすれ違ったが、誰もが威勢よく朝の挨拶をするものの、見られるたびにあの嫌な感覚が鬼灯にまとわりついてくる。
五分ほど歩いた時、鬼灯は目的ではない資料室に入り、ドアを閉めるとカートにうなだれかかって深いため息を吐いた。
「はぁぁ・・・・」
その声は確実に色に染まり、雪のように白かった頬はほんのりと桜づいている。
身体は間違いなく発情状態になり、鬼灯は思わず自慰をしたい衝動に駆られてしまう。体中が敏感になり、着物が擦れるだけで感じてしまうほどになってしまい、誰かがいれば思わず縋ってしまいそうになるほど、身体は快楽を欲して暴走し始めていた。
(こ、こんなことになるから、妙な動画を撮られるんですっ・・・!)
鬼灯は自分の身体の状態を叱咤し、なんとか立ち直ろうとするが身体は激しく疼いて言う事を聞いてくれない。
(・・・誰にもみられていませんよね・・・)