●広翼の孔雀49●

鬼灯はしっかりした足取りで歩を進め、途中、手にした手ぬぐいと長襦袢は、等活地獄で燃えている岩に投げ込んで処理し、さきほどまでの屈辱と甘美の時間を振り払うように咳ばらいをした。



失態だった。
これではみすみす、犯されに行ったようなものではないか。そしてまた、凌○されているというのに体で甘美な愉悦を感じてしまった。
身体を汚されるのも腹だたしいが、鬼灯は自分の中に快楽を迎合するような感情が芽生るのだけは我慢ならなかった。



腹立ちまぎれに地面の出っ張った岩を何度も蹴りつけるが、鬼神の力を持っていれば、一蹴りで粉砕できる岩も、鬼灯の方が痛くなってしまってやめてしまった。



(無様だ・・・!)



鬼灯は自分にナメた態度をとる獄卒や人物には徹底的にきつく当たり、上下関係をわからせるが、今回はそれができず、次第にイライラした気持ちが我慢できないほど募っていた。
そういえば、この腹立ちの原因になった白澤と、会話半ばで通話を切ってしまったことを思い出し、いい加減に術を解除する方法はみつかったかと、鬼灯はすぐに渡された仮の携帯電話で連絡を取った。



しかし、無駄なコール音が続くだけで出る気配が全くない。
再び携帯を壊したい衝動にかられたが、今度は借り物だ。鬼灯は寸でのところで怒りの感情を沈め、再び地面の岩を激しく蹴りつける。
そんな自らの姿も無様だと自分でも思っていながら、衝動を抑えられない。



(全く、あの白豚・・・!)



本当に余計なことをしてくれた。
昨日からの災難続きも、今日の朝からの受難も、すべてこの忌々しい術のせいだ。
白澤は元に戻すのに一週間かかると言っていたが、そんなこととんでもない。鬼灯はこの二日間で、自分がいかに大勢の獄卒から恨みをかっているのかを思い知った。
仕事のために冷徹を貫き、厳しく指導してきたものの、ここまで恨まれているとは少し予想外だった。
だからと言って容赦する性分ではないが、まさか性的な仕返しで鬼灯にうっぷんを晴らせて来るとは、卑怯にもほどがある。しかも、鬼神の力がない時に限って・・・



しかし、朝から聞こえてくる自分に対する性的な言葉がうっとおしい。
これが全て、獄卒たちの本心だと思うとゾッとするが、まさかそんなことはないだろう。おおかた、自分に対する恐怖、恨みの念が変換されて、鬼灯が最も気に障る感情として伝わっているに違いない。



物思いに耽る鬼灯の首筋に、冷たい液体の流れを感じ、我に返った。
そういえば、身体は汚されたままなのだ。あいつらのせいでまた仕事の時間が押してしまったが、このまま身体を汚したままでいるのは居心地が悪い。



「一旦帰って、着替えなおしますか・・・」



そう一人つぶやき、鬼灯は日頃の金棒とは比較にならないほど貧弱な針の金棒を肩に担いで、等活地獄を後にした。



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