●夢白桃2●

鬼灯に一気に謝られて、桃太郎はオタオタするばかりでまともに声を出すことができない。



「そそそそ、そんな、俺こそ・・・!鬼灯さんにあんなことを・・・!」



「あんなこと?」



そこまで言って、桃太郎はようやく自分の失態に気づいた。
鬼灯は、現世でチンピラに捕まった自分を助け出しに来てくれた。桃太郎は拘束され怪我を負わされ、鬼灯は桃太郎を人質に取られて彼らに犯された。
そして、余興と言われて自らも鬼灯を抱くことを強いられた・・・。



桃太郎はそこに固執して鬼灯に頭があがらないのだが、鬼灯の方は、事件に桃太郎を巻き込んでしまったことを謝っているだけだ。



自分が無駄な一言を口走ってしまったせいで、鬼灯にも嫌な事を思い出させてしまったかもしれない。



「ああ・・・あれは、本当に申し訳ありませんでした。さぞ気分の悪い思いをしたでしょう。忘れてください」



いえいえ、非常に気分の良い思いをしました、などと言うほど、桃太郎はバカではない。しかし、何かを言わずにはいられない。鬼灯が謝ることではないからだ。



「いえいえ、そんな、俺こそ、あんな・・・」



あんな・・・と言いかけ、桃太郎は言葉をすぼめてしまった。
何故わざわざ思い出させるようなことを言ってしまったのだろう。桃太郎にとっては、チンピラに怪我をさせられ鬼灯を抱いただけの出来事だが、鬼灯にとっては、チンピラに輪○されたという悲惨な出来事だ。
それを思い出させるなど、自分はなんと身勝手な人間だろう、と桃太郎は後悔した。



「それにしても、今日はあのバカいないんですね。昼間っから衆合地獄ですか・・・」



急に話を変えてくれた鬼灯に、これ幸いと飛びつき、桃太郎は息巻いて食いついた。



「そ、そうなんです!出張極楽満月とか言って、薬箱もって朝から衆合地獄へ出て行ったんですが、結局女の子ひっかけに行ったと思いますよ!」



そこまで一気にまくしたてて気が付いたが、一転して鬼灯の表情が険しくなり、地面に唾を吐きそうな険悪な雰囲気が立ち込めていた。



違う意味でも地雷を踏んでしまった、と桃太郎は再び後悔し、恐る恐る鬼灯を観察する。



あの時は短髪で角も無く、耳も丸くい、人間に擬態した鬼灯だったが、今はいつもの鬼神の鬼灯だ。
しかし、その流麗な顔立ちは相変わらずで、切れ長の瞳に女以上に長いまつげ、筆で引いたようにスッと通った鼻筋、その下にある花弁のような唇・・・。
さらにその下には、眩いほど白く、触れれば吸い付くような肌触りの身体がある・・・



そこまで考えてしまって、桃太郎は思考するのを止めた。



(ヤバい・・・何考えてるんだ、俺は・・・)



久々に生の鬼灯を目の当たりにして、桃太郎は自分の身体が熱くなってくるのを感じてきた。
しかし、目に入れようとしなければ、今度は嗅覚が鬼灯を追ってしまう。
いつもの白檀に柔らかな花の香りが混じった独特の香りだ。
薬草ばかりが詰め込まれたこの店内においては、その香りはさらに際立ち、桃太郎の鼻孔をくすぐってくる。



(そういえば、あのときもこの匂いしてたっけなあ・・・)



そう思うと、鬼灯の喘ぐ表情を思い出してしまい、桃太郎はますます身体が熱くなってくるのを感じてしまう。



「桃太郎さん・・・」



「え?」



「あの、いえなんでもないです」



そう言って鬼灯は手にした箱を開け、中身の確認をし始めた。



鬼灯が何かをいいかけて止めるるなど、らしくないなと思う。思いながら、不意に足元へ目線をやると、自らの腰のあたりの布が限界まで張っていた。



(ぎゃああああああああああああ!)



桃太郎は速攻で前かがみになり、カウンターの後ろへと引っ込んだ。
まさか貴方を見ていて興奮しました、など言えるわけなどなく、どうやって言い訳するべきかと桃太郎は混乱と焦燥と羞恥のカオスに包まれていた。



「桃太郎さん」



カウンターの向こうで頭を抱えて座り込んでいる桃太郎に、上から原因の声が降る。



「う・・・はい・・・」



失礼だと思いながらも、顔を上げられず俯いたまま返事する桃太郎にため息をついて、鬼灯は言葉を続ける。



「もし良ければ、私に責任をとらせていただけませんか?」



「は・・・?せき・・・にん・・・?」
おずおずと顔を上げると、いつの間に移動したのか、目の前で同じようにしゃがんだ体勢で桃太郎に向き直る鬼灯がいる。



「うおおっ!」



再び目の前でその美貌を焼き付けてしまい、桃太郎は両手を上げて大層に驚愕し、そのまま後ろへ身体を崩たが、なんとか両手を地面につけて倒れ伏すことだけは免れた。



しかし、仰向けになった桃太郎の上に、あろうことか鬼灯が覆いかぶさってくる。



独特のあの香りが桃太郎の鼻をくすぐり、こめかみがドクドクと音を立てる。桃太郎は今起こっている状況に意識がついてゆけず、ただただ混乱の極みに合った。



「うあっ・・・!」



下半身に甘美な感覚が走ったかと思うと、なんと興奮しきって布を張っているその部分に鬼灯の手がかかっていた。



「ほほほほ、ほおおずきさ・・・・」



「嫌ですか?」



いつも見上げる背丈の鬼灯に下から上目遣いに見上げられて、心臓の音が耳にまで聞こえそうなほど激しく鳴り始める。


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