●広翼の孔雀59●
「ところで、この術はどうなるんですか?ちゃんと始末をつけてくれるんでしょうね」
「あー、そのことなんだけど・・・」
そう言って白澤は頭を掻き、地面に胡坐をかいて座り、言った。
「一週間たてば元に戻るよ。それまで我慢だね・・・」
「なっ・・・!」
二日間だけでどれだけの獄卒に犯されたことか、この男は知らないのだろう。それの日々があと三倍続くなど、鬼灯の精神的にも、仕事の進捗にもかかわってくる。
「大丈夫だよ。お前には効果が切れるまで護衛をつけるから」
「護衛、ですか?私に妙な恨みを抱いていない人でしょうね」
「え?恨み?」
鬼灯の言葉を聞き、白澤はキョトンとした顔で聞き返した。
「私に恨みのある者の思考が・・・淫らなものに変換されて・・・身体に異変をおこすんでしょう?正直、ここまで自分に恨みを抱いている人物が多いとは、衝撃でしたが・・・」
「お前何言ってんの?それ、恨みじゃなくて聞こえてきた言葉、直の意味なんだけど?」
「はあ?」
今度は鬼灯が白澤に聞き返した。
「バカな・・・あんな大勢が私に対して、いかがわしい感情をいだいているなんて思えません」
「いや、思えません、じゃなくて事実そのとおりだから。お前、みんなからエロい目でみられているから」
そんなバカな・・・と鬼灯は片手で口を覆ったが、何の捻りもなく考えればそういう考えに行きつくのは当然だ。だが、鬼灯は自分の色香を自分で自覚しなさすぎていた。
「私相手に、そんな感情を、部下たちが・・・」
「だから言っただろう?お前が、どれだけエロい目でみんなから見られているかって・・・これでよくわかったら、もっと慎重に・・・ぅいで!」
白澤の脳天を拳で叩き、鬼灯は顔を真っ赤にして白澤に詰め寄った。
「このバカ・・・!そんなこと知ったら、これからどうやって部下たちと接すればいいんですか!」
「いでで・・・別に普通通りでいいじゃん・・・。エロい目線を送られてお前が発情したら、護衛がどうにかするよ」
そんな問題じゃない、と鬼灯は怒鳴り、これまでの獄卒たちから流れてきた思惑を振り返った。
どの考えもいかがわしい妄想で、自分を性的に支配したいという加虐性があり、自分の身体の部位のどこをとっても淫らな指摘が盛りだくさんだった。
仕事仲間たちに、本当にそのように思われていたなど、鬼灯は予想外過ぎて信じられなかった。自分のことを聞いたところで、厳しい上司、ぐらいにしか思っていないだろうと考えていたのに。
いや、信じたくなければ別に信じなければいいのである。ただ、これからはもう少し慎重になろうと思った。SNSの件もあることだし、今回の件は実に迂闊だった。
「自分を安売りするから、こういう事になるんだよ」
そう言って白澤は鬼灯にスマホの画面を見せつける。
そこには、獄卒たちに輪○される鬼灯のあられもない姿があった。
「・・・・・・っ!」
鬼灯はスマホを張り飛ばし、忌々しい動画に怒りを込める。
そうだ、早急にこいつらの解雇手続きと、溜まっている仕事を片付けなければならない。
仕事のことを思い出し、鬼灯の心と体は急激に官能の炎を鎮火させた。
鬼灯は淫らだが、仕事が第一の鬼神なのだ。
「で、白澤さん」
「ん?」
「私につく護衛って、誰なんですか?」
「鬼灯様・・・」
いつも仕事の話しかしない現場監督の獄卒が、麗しい青年鬼に力強く迫る。
「や、やめてください、来ないでください・・・」
そう言って金棒を振り上げようとするが、いつもの鬼神の力が全く発揮できず、持ち上げることもできない。
鬼灯が焦っている一方で現場監督の獄卒は鬼灯へ一気に近づき、その鬼にしては細い体を強く抱きすくめた。
「あぁぁっ・・・!」
鬼灯の背中が弓なりに反り返り、顔を苦痛にも似た表情に変え、頭のてっぺんから足のつま先までをブルブルと痙攣させた。
「やっぱり、噂は本当だったんですね・・・」
獄卒がそう言ってニヤつき、鬼灯の白い耳を舐める。
その感覚に再び体を痙攣させながら、鬼灯は桃の息を吐きながら問うた。
「う、噂、とはっ・・・?」
「全部終わったら、教えて差し上げますよ・・・さあ、みんなが帰ってくるまで、時間はあります・・・俺と愉しんでください」
「い、嫌です、んんっ!んっ!あぁ・・・っ」
両足の間に足を食い込まされ、一気に膨れ上がった体の快楽に、鬼灯は戸惑いながらも必死にこの状況を打開する策をめぐらせる。
しかし明晰な鬼灯の頭脳も、獄卒のいやらしい手つきで惑わされ、何も考えられなくされてしまう。
「はあ、はあ、あぁぁ・・・っ」
「すげえエロい・・・そんな声、どこから出してるんですか?鬼灯様・・・」
嘘みてえだ、と付け足し、獄卒は鬼灯の着流しの隙間に手を差し入れ、白い素肌へ直接触れてくる。
(嫌なのに、嫌なのに・・・!)
鬼灯は嫌がりながらも吐きあがってくる欲情に逆らえず、獄卒にされるがままにされてしまう。
そこで、誰かが獄卒の手を掴み、捩じりあげた。
「いててててて!!」
「駄目だよ、上司にそんなことしちゃ・・・」
そう言ってほほ笑むのは、天国にある薬屋、極楽満月の主人、白澤だった。
「うぅ・・・遅いじゃないですか・・・護衛のくせに・・・」
そう、「護衛」とは、白澤自らのことだった。
「うううっ!護衛?護衛ってなんですか?」
さらに腕を捩じりあげられて、獄卒がうめき声をあげる。胆力はなくとも、医者なので体筋構造を把握しており、わずかな力で相手に痛みを与えることができるのだ。
「さっさと消えるんだね。じゃないと、鬼灯に顔を覚えられて、解雇されるよ?」
そう言って白澤が獄卒の手を離すと、彼は顔を半分覆いながら、急いで逃げ帰っていった。
狼藉者を撃退した白澤は、すっかり発情しきった鬼灯を見て笑いながら言う。
「全く、ちょっと目を離したスキにこれだもん・・・お前もう、何回目?部下を疑いたくない気持ちはわかるけど、今のお前は普通じゃないんだよ?」
「・・・わかっていますけれど・・・」
「わかってないよ!ほんとこの五日間、僕ロクに寝る間もなくお前を守ってたんだからね!」
「う、嘘つけ・・・」
夜は鬼灯の部屋に泊まり込み、謝礼を求めて鬼灯を好きなように抱き、鬼灯が早朝、目を覚ました時には、自分に腕枕をし、気持ちよさそうに眠った白澤がいつもいた。
「さあ、人払いも済んだし・・・一回する?鬼灯」