官能物語 2018/04/23 00:20

気分転換に書いたファンタジーものです(約4,000字)

夜の闇の下を、人影がひとつ。
 星影を頼りに進む。
 風は無い。
 周囲は、広々とした野である。
 進む道の先に、城がある。
 その城の前に張られている陣営の中に、影の目的はある。
 陣営からは、にぎやかな声や音が響いてきている。
 祝勝会をやっているのだ。
 その会へと向かう人影は、祝辞を述べるために行くわけでは決してない。
 むしろその逆である。
――今夜、王を殺す。
 狙いは、会の主催者の首である。

 祝勝会を、落とした城中ではなく、城外でやるところに、感心を覚える者がいた。しかし、ソノハの意見は違う。
――また、すぐ戦うためだ。
 そのために、あえて外で休息を取る。スムーズに立ち上がるために。生まれついての戦士ということだろう。その生粋を打ち取れるかどうか、自信はない。自信がなくてもやらなければならない。今がチャンスなのだ。戦勝に浮かれている今が。警備は為されているものの、ゆるい。ソノハはひそやかに夜の底を進んだ。

「何用だ」
 天幕の中で王が言った。
「お感じになりませんか」
 答えたのは、近臣であった。
「ん?」
「殺気がこちらに向かってきています」
「ほお、戦勝後を狙うか、目のつけどころがよい」
 王は、さっと寝具を払った。
「兵を呼びました」
「下がらせておけ」
「王よ」
「つまらん輩であれば、殺させる。でなければ、相手をする」
 王の威にあらがいがたいものを感じた近臣は、おおせのままに、と下がった。

――なんだ……。
 ソノハは、首を傾げた。
 向かっている天幕の中に、灯があるようである。
――起きているのか……。
 それは願ったりかなったりだった。
 寝首をかくような真似はできればしたくない。
 とはいえ、寝ている場合は、そうするつもりであったが。
 灯があるどころか、王その人が天幕の前に立っている。
 ソノハは、迷いの時間を持たなかった。一瞬たりとも。
 もう奇襲は不可能である。
 ならば、当たって砕けるまでだ。
「大胆不敵だな」
 王が笑う。
 ソノハは、なぜ分かったのかなどということは問わなかった。
「イラズマの皇女ソノハ、父王の仇を討つために来た」
「見上げた心意気だが、さて」
 ソノハは、口上は尽くしたとばかりに、襲いかかった。
 神速の剣である。
 しかし、王の剣は、簡単にそれを弾き返す。
 ソノハは、自分の剣が受け止められたことを驚きも落胆もしなかった。受け止められれば、第二撃をうつだけの話である。彼女もまた生粋の戦士なのだ。夜の中に、剣撃の音が響いた。

 ソノハの剣が宙を舞った。
「殺せ」
 ソノハは、膝をついた。
 しかし、剣の代わりに振って来たのは、王の声である。
「選ばせてやろう、恥辱の生か、清潔な死か」
 何を言っているのか、とソノハは思った。
――……恥辱の生? 生きられる……?
「生を選ぶなら、中に入れ。死を選ぶなら、今斬る」
 ソノハは、中に入ることにした。
「服を脱げ」と王。
「なっ……」
「どうした?」
 ソノハは言われるがままに服を脱いだ。
 王は自分も一糸まとわぬ姿になると、ソノハを唖然とさせた。
 外の灯火がゆるやかなあかりを作る中で、二人は向かい合っている。
 ソノハは、男の手が伸びて来るのを見た。
 その手が、意外な優しさをもって自分の胸に触れる。
「ふっ」
 王が笑う。
 ソノハは、無重力感を得て、王に抱きかかえられているのを知った。
 すぐに、敷物の上に下ろされる。
――犯されるのか。
 その想像がうまくできない。
 ソノハは生娘である。
 見上げると王の手が伸びて来る。
 ソノハの膨らんだ乳房を揉み、乳首をいじる。
 ソノハの体が、ピクピクと自分の意志に反して震えた。
「あ……ああっ……」
 父と母の敵に、いいように体を弄ばれ、しかし、それに確実に反応して快感を得ているソノハは、己がこの上なく醜いものに思われた。
――必ず殺してやる……。
「あああっ……いやああっ」
 その黒々とした覚悟を、一瞬で白く塗りつぶすような衝撃が、体の中央に起こるのをソノハは感じた。
 それが男自身が入って来た瞬間であり、ソノハが女になった瞬間だった。
「ふふっ、いいぞ。お前のものが締めつけて来る」
 男の体が前のめりになって、その顔がソノハの間近にあった。
 鈍い痛みの中で、鋭い痛みが体を駆け抜ける。
 男が一物を出し入れしているのだということは、ソノハには分からない。
「ああっ……あああっ……いやっ……いやああ」
 先ほどまで感じていた快感を一瞬でチャラにするような苦痛が、ソノハの小さな体を襲った。
 胸元から起こった快感を確かめると、男の指が乳首をつまんでいる。
 男の舌がぞろりと口内を這い回る
 体の上からは快感が、下からは苦痛が生まれ、しかし、苦痛の方がまさるソノハは、それだけであればよいのに、と思わざるを得なかった。
 夜の闇の中に、ぐちゃぐちゃという卑猥な音が響く。
 やがて、男の律動がおさまったが、それが終わりではなかった。
「うつ伏せになって、尻をあげろ」
 四つん這いになって尻を上げた姿勢。
 排泄の器官を相手に見せるそれは完全降伏を示すようなものだった。
 ソノハは涙を流した。
 その涙を止めるようにして、男の一物が再び体内に侵入するのをソノハは感じた。
「あ……ああ……ひいぅ……ひっ……あああ」
 必死に抑えようとしているが、抑えきれず上がる苦鳴。
 ぐっと腰を持たれ、思い切り突かれる。
 恥辱を伴った痛みが、体よりも心を切り裂くようである。
 どのくらいそれが続いたのか。
 ○問の時間がようやく終わったのかと思いきや、体をごろんと上向きにされ、その上に男の体がのしかかってくるのを見て、
――ま、まだ、なの……?
 襲い来る痛みにソノハは耐えるべく歯を食いしばった。
 目はつぶらないようにした。
 見開いて見ておかなければならない。
 まぶたの裏に焼きつけておかなくてはならない。
 我が身を凌○している男の顔を。
「必ずこの手で殺してやるからな」
 ソノハの心底から発せられる呪詛の言葉を、受けた男の目は涼やかである。
「それまで生きのびることができるか」
「絶対に死なないっ」
「では、次に会えるときを楽しみにしていよう。精々、強くなっておけ」
 男が笑みを漏らす。
 次の瞬間、ソノハの中に剛直なものが突き刺さり、それが出入するのを感じた。
――え……。
 不思議にソノハはこれまで感じていた痛みが引くのを感じていた。
 代わりに得たのは、心地よさである。
 それを快感であると認めるには、ソノハにはある種の経験が足りなかったが、これまでとは違ったものであるということだけは分かった。
「あんっ……やあっ……んんっ」
 自分の声が甘みを帯びているのが分かる。
「初めてで感じてきたのか?」
 嘲るような声に、しかし、その意味さえ分からないソノハは、徐々に体が浮き上がるような感覚をえ始めた。
 男の注挿運動が激しくなる。
 ソノハは眠る瞬間のように意識が飛びそうになるのを覚えた。薄れゆく意識の中で、
「いやぁ……あんっ……やんっ……ああっ……あんっ……くぅん」
 自分の声だけが鮮明である。
「そろそろイクぞ」
――いく……? どこへ?
 男自身の動きがいっそう速くなる。
 ソノハはもう何も考えられなくなって、そうして、唐突にそれは訪れた。
「あ……あああああああああっ!」
 体が四分五裂したかのような強烈な衝撃を得て、ソノハは動けなくなった。
 薄れゆく意識の中で、体奥に何かが注ぎ込まれるのを感じた。
 ソノハは立ち上がると、衣服を身に纏って、闇の中に出た。
 まだ夜は明けない。
 ソノハの夜も明けるのかどうか。
 しかし、夜明け前が最も暗いという言葉もある。
 それを信じるしかない。
 ソノハは、涙を払って、野営地を後にした。

 天幕の中で。
「命を狙って来たものへのご恵愛。このロクノ、感服つかまつりました」
「なんのことだ?」
「陛下への恨みはあの娘を活かすでしょう」
「相変わらずのロマンチストだな、お前は。そういうヤツは早死にするぞ」
「御身のために死にましょう」
「オレのため?」
「はい」
「であれば、生きることだな。死んでいる魔導士よりは生きている魔導士の方が役に立つ」

 ミストラが、彼女を見た時、疲労困憊の体でありながら、目だけは爛々と輝いており、まるで幽鬼のようであり、思わず腰を抜かしかけた。
「もう3日も何も食べていない。できれば、食を分けてもらいたい」
 かすれ声で、明瞭に伝わったわけではないけれど、雰囲気でそれと察せられた、ミストラは自分が持っている弁当を、すべて彼女に与えた。彼女は黙ってそれを平らげると、人心地ついたように、大きく息を吸って、ミストラの前に膝をついて、頭を下げた。頭を下げていながらも、なお端然としたその姿には気品があって、本来は貴人である彼女が何かしらの事情があって、このようなうらぶれたなりをしているであろうことが読み取れた。
「あの……頭を上げてください」
 大して上等でもない弁当一つにそうかしこまられては、気色が悪い。
 声に応じて頭を上げた彼女の顔をまじまじと見れば、まだ幼い顔立ちをしており、15歳の自分とそう年も違わないのではなかろうかと考えれば、情が湧いてしまうミストラは、町一番のお人よしと呼ばれていた。
「なにかご事情がおありのようですが、よろしければ、わたしの家で休んでいきませんか?」
「かたじけない」
「歩けますか?」
 物を食べるのにも体力を使うだろう。3日も食べていないのでは、食事をしたことで、体力がゼロになったかもしれない。そう思ったのである。
「大丈夫だ」
 ミストラは、ふらふらとしてはいるがなんとか歩けそうな彼女を伴って、自分の家へと戻った。家には、父母と小さな弟がいる。ミストラが、父母に事情を説明すると、父は厳しい顔をした。
「迷惑であれば、今すぐに出て行く」
 少女が言った。
 ミストラは慌てて、父に、彼女をこんな状態で放り出すことはできない、と言った。
「泊まっていただくのはかまわんが、どこのどなたなのか、ご姓名を伺いたい」
「ソノハ。性は捨てた。国は滅んだゆえ」
 えっ、とミストラは、絶句した。
 ソノハというのは、この国の王女の名前ではないか。
 父はすぐに膝をつくと、かしこまって、頭を垂れた。母とミストラも父にならうと、汚れた身なりをした少女は、首をゆるやかに振って、
「国を滅ぼした者だ。必要ない」
 と声をかけた。

  (続く?)

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