母の浮気/104
少し歩いたあと、通り沿いにあった古民家風のカフェでお茶をすることになった。良太は、さっき食べたばかりだったので、お腹は空いておらず、紅茶だけを頼むことにした。母はコーヒーと、ロールケーキを頼んだ。
「はい、良太、一口あげる。あーんして」
ロールケーキを一口分切って、フォークに刺して、こちらに向けてくれる母に対して、良太は素直に口を開いた。
「美味しい?」
「うまいよ」
そう言うと、母は、にっこりと微笑んだ。その顔を見ていると、胸が温かくなるとともに、股間も熱くなったようである。早く彼女を犯したくてたまらない。これから、さらに街を軽く回って、車で帰るとすると、2時間以上かかることだろう。じれったい気分である。
「ああ、美味しかったぁ……」
母は満足した声を上げて、一度手洗いに、席を立った。良太は、その間に、お小遣いから会計を済ませた。帰ってきた母に、それを告げると
「良太、かっこいい!」
と声を大きくするので、周囲の人からクスクスとした忍び笑いが漏れるのが聞こえた。恥ずかしくなった良太は、母の手を取って、店を出た。
「で、次はどこを見るの?」
良太が促すと、
「ううん、もう今日はいいわ。そろそろ帰らないと、遅くなっちゃうし……って、まあ、お父さんいないから、遅くなってもいいっちゃいいんだけど」
母が迷うようであったので、
「行きたいところがあれば、行けばいいんじゃないの?」
と言ってやった。自分の性欲のためには、早く帰りたいのだけれど、そのために、母の自由を妨げることは極力したくない。
「……いいの?」
「いいよ」
「良太、優しい!」
母は感激したように言うと、握っていた手をぎゅっとさらに握るようにしてきた。そんなに大したことをしているわけではないと思うが、それで彼女が感動するということは、つまりは、これまで大した息子ではなかったということであって、これからは態度を改めた方がいいだろうと思った。
――そう言えば……。
良太は、父の存在をすっかりと忘れていたことを、いま思い出した。父は明日帰ってくる。そうして、日常が戻ってくると、こうして母と出かけるなどということも制限されるかもしれない。母はよく父と出かけていた。良太は良太で勝手にやっていたのである。
再びそういう日常がやってくるのかと思うと、この時間が貴重であり、思わず、父が帰って来なければ、ずっと母とこうしていられるのに、と思ってしまった罪深い自分を、良太は恥じた。父は、(多分)浮気もせずに、一生懸命家族のために働いてくれているのである。
息子の勧めに従った母は、通りにあった、陶器の店と、アクセサリーの店を見て回った。