官能物語 2021/07/01 10:00

美少女のいる生活/11

「ここでもいいし、もうちょっと行くと、また別なところもあるよ」
「今日はここにしましょう」
「美咲ちゃん、何か隠していないか?」
「何も隠していませんよ。お部屋でモンブランをいただきながら、お話しできることは何でもお話しします」

 それならというわけではないが、貴久は、彼女と共に店内に入った。こぢんまりとしたスペースにでんっとショーケースが張り出すようになっており、色とりどりのケーキが並べられている。

 美咲は目を輝かせた。

「すごいですね、美味しそう!」
「モンブランでいいんだっけ?」
「モンブラン『も』好きです」
「『も』?」
「『も』です」
「『も』か、よし、転居祝いだ。10ピースでも20ピースでも買っていいよ」
「それじゃ、ホールケーキ買うのと一緒になっちゃいますし、何より冷蔵庫に入り切りません、きっと」

 そう言うと、美咲はモンブランとカシスのケーキを二人分買おうとした。もちろん、貴久が支払いをした。ショーケースの中に並んでいるケーキに勝るとも劣らない愛らしさを持つ店員さんにケーキを渡してもらって店を出ると、ケーキを買ったからには街中をこれ以上ウロウロすることはできなかった。

「どっかでコーヒーカップも買わないとな。二人でおそろいにしよう」
「いいですね」
「さっきの話なんだけど、お父さんのことを恨んでないなら、どうして、おれのところに来たの? ……ケーキ食べるまで待った方がいい? この話」
「別に大丈夫ですよ。わたしがこちらに伺ったのは、貴久さんのことが好きだからです」
「えっ……好き?」
「はい」
「知り合いとしてってこと?」
「いいえ、男性としてです」

 貴久は、それから無言で、十歩ほど歩いてみた。
 ケーキの袋を手に提げているので、今は彼女の手を取っていない。
 美咲が話を続けた。

「大学生になる前だと告白してもご迷惑になるかなと思って、これまで、じーっと待っていたんです。こっちの大学に決めたのも、貴久さんに会いたかったからです。本当は、こちらでお会いしてから徐々に距離を詰めていって、そのうちに告白しようかなって思ってたんですけど、そこにちょうど父の結婚話が出てきたので、怒った振りをして、貴久さんのところに行くっていうことにしたんです。まさか、こんなにうまくいくとは思いませんでしたけど」
「……家賃が浮くとか、なんか生活上の利点ではないの?」
「全然違います」
「うーむ……」

 さっき美咲のことをトンビが産んだタカに例えたが、カエルの子はカエルにした方がよかったかもしれない、と貴久は思った。

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