七道一味 2023/12/03 10:00

【小説】タクミの果てなき道程

「なぁ、お前……大河内さんとは もうヤッてんのか?」
「え?」
 学校での体育の授業中、グラウンドの片隅でタクミは
殆ど話した事もないクラスメート男子に肩を組まれ、いきなりそんな事を言われた。
「ヤッてる……って、何を?」
「かーーっ、察しの悪い奴だな! だから……大河内ユリと
エッチしたのかって聞いてんだよ!!」
「!! え……えええ、エッチだなんて、してないよっ!
僕らまだ、学生だし…………」
「……じゃあ、さすがにキスくらいしたろ? 胸揉んだりは??」
「し、してないっ! そんなの……してないってば!!」
「…………マジか、はーー……つまんね
お前がヤッてる方に、昼飯賭けてたのによ……クソだりぃわ」
 理不尽な文句を垂れながら、さっさと用済みになったタクミから離れてゆくクラスメート。
「……」
 タクミとユリの交際が始まってから、既に半年近くが経過し……校内で
その事実を知らぬ者はほぼ存在しない
なにしろ校内で見た目、学力両面でトップに君臨する人気者の女子が、何の取り柄も
見つからないような冴えない男子と登下校を共にし、更には
彼の為に手作りのお弁当まで用意しているのだ。
「はいっ、タクミ君♪ 今日のお弁当だよ!」
 体育が終わり、昼休みの時間……二人っきりの屋上で、いつものように
ユリが弁当箱を差し出す。
「ありがとう、でも態々作って貰っちゃって
なんだか悪いなぁ……毎朝、大変でしょ?」
「ううん、大好きな人の為にお弁当作るの、とっても楽しいよ!
大変だなんて思ったこと無いかも」
「そ……そう言われると、照れちゃうな…………」
「ふふっ♪ さあ、そんな事より……早く食べてみて♡」
「う、うん……いただきます」
 交際初期の頃は、他の生徒と同じように教室でユリの手作り弁当を頂いていたものの
周囲からの突き刺さるような視線の嵐に、直ぐタクミが耐えられなくなってしまったので
今はこうして屋上で食べている。
 ちなみに屋上は普通、生徒の立ち入り禁止で扉には鍵が掛けられているのだが
なぜかユリは、ドアノブに触れるだけで鍵を開ける事が出来……
その理由についてタクミは詮索を避けている。
「! お、美味しい……!! いや、前からユリちゃんの作ったお弁当は
美味しかったけど、今度のは何ていうか…………」
「タクミ君の好みに、ぴったり?」
「うん! その通りだよ!! まさに、こういうのが食べたかったって感じ」
「うふふ……良かった♡」
 タクミの言葉に、ユリも心底嬉しそうに微笑む。
「実は毎回、少しずつ味付けを調節してみたりしてて……あなたの
好みを探ってたんだけど ようやく上手くいって、嬉しいな♪」
「え……そうだったの? 全然気づかなかった」
 タクミの、食事に対するボキャブラリーは実に貧相なもので
ユリには毎食、”美味しいよ”程度の単調な言葉でしか
伝えられていなかった筈なのだが
そんな調子で、一体どうやって好みの味を見当てられたのだろうか?
(もしかして……僕ってものすごく、そういうのが表情に出やすいのかな)
 そう思いながらユリの方へ視線を移すと、タクミの顔を
じっと見つめていた彼女と目が合った。
「なぁに? タクミ君」
 神秘的な色の大きな瞳に長いまつ毛、白く瑞々しい肌、
ぷるんとした柔らかそうな唇……
「い、いや……別に…………」
 まるで吸い込まれてしまいそうに感じる完璧な美貌に、
ドギマギしつつ目を逸らす。

『大河内さんとは もうヤッてんのか?』
 脳裏に……ふとクラスメイトから受けた言葉が蘇るが、それを
慌てて首を左右に振り追い払った。
(あ、ありえないよ……今こうして付き合えてるってだけで、
奇跡みたいに思うのに…………!!)
 自分のような存在が、清らかで神聖なユリとキスをしたり
それ以上の事だとかなんて
想像しただけで、取り返しのつかない大罪を犯してしまったような気分になる。
(で……でも、付き合ってるって事はいずれ…………ううん……それでも…………)
 などと苦悩している間にも時は流れ、午後の授業の内容も
全く頭に入らないままに下校時間となり…………
「じゃあ……ユリちゃん、また明日」
「うん! バイバイ、またね!!」
 家の前で いつものようにユリと別れ、中に入ったタクミは一息つく。
「ふぅ……先ずはシャワーを浴びようかな、体育で結構汗かいちゃったし」
 しかし脱衣場へ入る直前に足を止め
「いや、そうだ……今日は数学の宿題が出てたんだっけ
忘れる前に、そっちを終わらせておこう」
 踵を返して自分の部屋へ向かい、いつものようにドアを開け
中へ一歩踏み出した瞬間…………
「………………へ?」
 周囲には、全くの異空間が広がっていた。
「は? え……何!? 何だコレっ!?!?」
 床、というか地面が有るのは感じるが、周囲には壁も天井も見当たらず
入ってきた部屋のドアも無くなっている。
「ど、どうなってるの!? 確かに、家の中に居たのに!!」
「ふふ、大丈夫だよ」
「えっ!?!?」
 突如響く聞き慣れた声に、タクミがその方向へ振り向くと
そこには今さっき別れた筈のユリが立っていた。
「な……何でこんな場所に…………っていうか、何処なのココ?!
僕の部屋はっ!?」
「落ち着いて? タクミ君」
「いや……落ち着けるワケないでしょ、こんな意味不明な状況で…………!」
「んもう、仕方ないなぁ……」
 ユリがパチン、と指を鳴らすと
タクミの身体は不自然な体勢のまま、時が止まったかのように動かなくなった。
(……!?!? な、何でだ…………?!
身体が、動かせない……っ!!)
「そんな事より……良いモノ、見せてあげる♡」
 ゆっくりと目の前まで歩み寄ったユリは
花のような笑顔を見せると、履いていたスカートを床の上に落とす。
(え……!?!?)
 理解を超えた出来事の連続に、タクミが呆気にとられている間にも彼女は
躊躇いなく スクールベストを脱ぎ、シャツのボタンを外してゆく
「うふふ……♪ お顔が、真っ赤になってるよ?」
(あぅ……ああ、あ…………!!)
 とうとう下着一枚となった姿で、クスクス笑うユリ
露わになったその肌は淡く輝いているかのように美しく、例え
タクミの身体が自由になっていようと、彼は目を離す事が出来なかっただろう。
「ね……タクミ君、どうかな? 私の身体…………」
(……ど……どどど、どう、って…………!!)
「期待、しちゃってる……? これ以上の コ・ト♪」
 そう言いながら彼女はブラのホックを外すと、ゆっくりと
それをタクミの眼前へ近づけてゆき……
「ほぉらっ♡」
 ぽふっ、と ブラが顔にぶつかった途端に
彼の身体は崩れ落ち、みっともなく尻もちをつく格好になる。
「う、うわっ!? あわわ…………」
「……うふふふふ…………♡
本当に、可愛い♪ タクミ君……」
 たらりと鼻血を出しながら見上げるユリの姿は
昼間の学校でのそれからは、とても想像がつかない程……
妖しげな雰囲気を纏っていた。

〈続きは、有料プラン限定で追記しています〉

【 500円支援 】プラン以上限定 支援額:500円

プランに加入すると、この限定特典に加え、今月の限定特典も閲覧できます 有料プラン退会後、
閲覧できなくなる特典が
あります

バックナンバー購入で閲覧したい方はこちら
バックナンバーとは?

月額:500円

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索