サークルSBD 2011/09/03 23:00

「K a i d a n ~怪談~」 後編

前編


そうか!あの尻尾・・・
アレは・・・スカンクだ!!
スカンクの屁は、ショック死を招くほど強烈だと、何かの本で読んだ気がする。
このままでは、俺も・・・・・・
頭ではそう考えていても、一向に脚がいう事を聞かない!!
スカンク車掌は、一歩また一歩と近づいてきて、やがて扉の前に立ち止まった。

来る!!

しかし、彼女はその場で屈みこむと、そのままの姿勢でゆっくり後ろへと下がっていった。
「・・・・・・?」
俺は気になって扉に近づくと、その向こうを覗き込んだ。
彼女は何か引きずっている。人間?ぐったりとしていてなすがままだ。
扉の向こう、俺から死角になった位置に、もう一人、犠牲者がいたらしい。
ソイツの顔を確認し、俺は息を呑んだ。

「部長・・・・・・!?」
俺のいっこ上の先輩で、サークルの部長その人だった。

部長は失神しているのか、目は堅く閉ざされ、口は半開きで、ピクリとも動かない。
ただ、スカンク車掌に引きずられるまま、扉から少しはなれた通路上に手足を投げ出し、
ぐったりと横たわっている。
スカンク車掌は部長を跨ぐように立つと向きを変えて背を向けた。
そのまま腰を落として部長の顔面に尻を落とすと、あろうことか・・・・・・

「ぷすっ すうぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

その場で少しずつガスを噴射した!いわゆる「すかしッ屁」だ!!
俺は鼻を抑えながら、その光景をただ見守っていた。
部長の顔面と、スカンク車掌の巨大な尻との間から、黄色い煙が立ち昇っている・・・。
あの強烈なガスを、密着した状態で送り込まれたりしたら・・・・・・

びくんっ

そのとき、巨尻に組み敷かれていた部長の体が、大きく痙攣した。
あまりに強烈極まりない極悪ガスの責め苦に意識を取り戻したのか、彼は何度もびくんびくん
痙攣を繰り返した。
それはまるで、毒ガスから生き延びようと必死に抵抗しているようだったが、ついに
自らを封じ込める巨尻を跳ね除けることは叶わなかった。
部長の痙攣はピク、ピクと弱まっていき、やがて完全に止まった。

スカンク車掌は満足げに尻を上げて、ゆっくりと立ち上がった。
彼女の足の間では、白目を剥き、だらしなく舌を伸ばした表情で「座布団」が事切れていた・・・



「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は恐怖に怯えた叫びをあげながら飛び起きた。
もはや朝と呼ぶには遅い時間になっていた。
床に転がる携帯が鳴りひびく。
俺は悪夢の恐怖も覚めやらぬまま、通話を受けた。
「・・・・・・もしもし?」
「あぁ、先輩ですか!?」
サークルの後輩だ。なにかとてつもなく悪い予感がする・・・。

「大変なんです!今日部長さんの家に行く約束してて、それで今朝行ったら、鍵空いてて、
え~と、あの、部長が、その、亡くなっ」
ピッ

俺は携帯の電源を切ると床に放って、跳ね除けたばかりの毛布を被って震えた。
次は・・・次は俺だ!!
今度眠りに就いたら、きっと・・・・・・
寝ちゃ駄目だ!寝ちゃ駄目だ!寝ちゃ・・・!!
俺は何とか眠らないようにした。何度も顔を洗い、水風呂に浸かり・・・・・・
そうして何日かが過ぎて、

俺はついに、眠りに落ちてしまった・・・・・・。



「お客様・・・」
目の前に、あのスカンクの女車掌が立っている。
静かに微笑んで・・・
遮る扉は、もう、ない。

「う、うぅ・・・」
いやだ!死にたくない!!
逃げなきゃ!そうだ逃げろ!!
俺は彼女と反対の方向、列車の末端を目指して走り出した。
次の車両が最後尾だ。もう電車から飛び降りたっていい!
逃げなきゃ、彼女のオナラに包まれて殺される!!

また嫌な予感がした。
この扉も開かないんじゃないか。パンク野郎みたいに、ガス室送りにされるんじゃないか。
だが予想に反して、ノブを引くと、車両扉はたやすく開けることが出来た。
俺は最後尾の車両に転がり込んだ。乱暴に扉を閉める。
見れば、スカンク車掌の姿は消えていた。
助かった・・・のか?
俺は扉を背にへたり込んだ。
そして顔をあげた時、目に飛び込んできたのは


車両いっぱいに広がる、巨大な尻だった・・・・・・!!


「あぁ、ぁ・・・」
そ、そんな・・・・・・
俺は慌てて引き返そうとして、扉を開けようとした。
だがノブにふれるはずの手には、なにか毛皮のような手触りがあった。
「なッ!?」
振り返ると、扉も壁も消えて、視界いっぱいに黒と白の毛皮の壁が立ちはだかっていた。
周りを見ると、車両の中には一切の座席が無く、いっぱいに広がった巨大すぎる尻は、
俺のすぐそばまで迫っていた。
「あっ、ひぃ・・・!!」
白黒の毛皮に張り付くようにして、俺はただひたすらに首を振り、迫る巨尻を拒んでいた。
「えっ?あ!」
後ろからも押される!?毛皮の壁は俺を巨尻に向けて押し出そうとする!!
いつのまにか、俺は巨尻と毛皮で塞がれた空間の中に閉じ込められていた。
「そんな・・・んむっ!?」
ついに俺は、巨大な尻割れの中に埋まり、白黒の毛皮との間に密封された。
まるで、下着の中にでも閉じ込められたかのように・・・。

「まもなく~終点~、おおしり~、大尻です」
アナウンスは死刑宣告のように響いた。
「お忘れ物、思い残しのないよう、たっぷりとご堪能ください・・・」
はるか前方から、あのスカンク車掌の声が聞こえたような気がした・・・・・・。

「嫌だ!嫌だぁ!!死にたくない!!
やめてくれぇ!やめてくれぇぇ!!やめ・・・」



「ぶっ、ぶぶぶ、ぶっしゅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「んかっ!?かぁっ、がぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
くっ、臭い!臭すぎる・・・・・・っ!!

「ぶぶぶぅ~~~~~~~~~~~~~、ぷすぅ、ぷすすっ、ぷぅぅ~~~~~~~!」
「ハッ!ハカッ!?ヒィ・・・・・・っく・・・・・・・!!」
やめてくれ臭い臭いやだやめ臭い死ぬ助けて臭いダメ臭い臭い誰かぁ臭い臭い臭ぅあ!!

「ぷっ、ぷぅぅ~~~~~~~~~~~、ぷっす~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ふ、は、は、かっは、はぁ・・・・・・・・!!」
臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭・・・・・・いぃぃぃぃ


臭いよぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!・・・・・・・・

「ぷすすす、ぷす、すかぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」



「で、仏さんの状態は?」
「はい、全身に軽い圧迫の跡、鼻腔から呼吸器系にかけて激しい炎症。
直接の死因は心臓麻痺だとの事です」
「心臓麻痺、ねぇ・・・今月何人目だよったく」
中年の刑事はそう呟いて遺体の表情に目をやった。
心臓麻痺にしては、笑ったような顔で死んでいる。そう思った。
「とても自然死にゃあ見えねぇな。ガスか何か・・・か」
「しかしこの近辺で、そういったものは検出されませんでしたねぇ」

若手の刑事が答えると、中年の刑事は肩を竦めた。
「事件のニオイはすれども、何一つ見えてこない・・・。
こいつはまるで・・・・・・」



「屁みてぇな事件、だな」


END

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