世界の絆
異変に気づいたのは、ヘレナさんのパイを飛行島のみんなで食べているときだった。
テーブルについたそれぞれの前にお皿とパイが並んでいるのに、エレノアの前だけなぜか何も置かれていない。
しかもそれに誰も気付いておらず、エレノアはただ座って俯いているだけだった。
残ったパイを一つもらってきて、エレノアの前に置くと、ぱっと笑顔が広がった。でもまたすぐに曇ってしまう。
これは一体どういうことだろう。まさか嫌がらせをされているわけでもあるまい。そこで気付いたことだが、ヘレナさんに限らず、誰もエレノアに話しかけようとしない。まるでそこに誰も居ないかのようだった。
一つ思い当たることがあった。
「そろそろ、私の順番が来たのかもしれません。」
エレノアは寂しそうにそう言った。
世界に敵対する平行世界の人々が次々と消え去ったあと、彼らのことを口にする人はだれもいなくなった。エレノアもまた、彼らと同じような存在と言えるかもしれない。エレノアを未来の世界から転移させた始祖のルーンの力は既に彼女から離れている。
エレノアをこの世界につなぎとめるものはもう誰も居ない。
いや、希望はひとつある。サヤとジンだ。この世界のジンは既に死亡しており、今いるのは平行世界の住人である。にも関わらずこの世界に留まっているのは、サヤという存在によって強く引き止められているに違いない。
だがエレノアはどうだろう。何人か友達も作ったし、アイリスとも仲良くはしているけれど、どこか一線を引いているような感じがする。
特にもうひとりの闇のエレノアが去ってから、こちらのエレノアの存在感も急速に薄くなったような気がする。もしかしたら魂がどこかで結びついていて、その因果に彼女もまた引っ張られているのかもしれない。
「いいんです。もう、十分楽しかったですから。」
この運命を、エレノアは受け入れようとしていた。でもそんな寂しいことがあるだろうか。誰にも見送られることなく、ただひっそりと、忘れられていくなんて。
その日から、一つの儀式を始めることになった。
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