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おかず味噌 2020/07/15 22:14

ちょっとイケないこと… 第十六話「抱擁と放屁」

(第十五話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/344082


 弟の部屋を後にしようと、ドアノブに手を掛けた間際。

 ふと背後に悪寒のようなものを感じた。直後に我が身に危険が迫っているような、今後の姉弟の関係性に大きな禍根を残すような、空前絶後の予感を抱いたのだった。

 私はとっさに振り返ろうとした。だけど手遅れだった。

――ズッボ…ン!!!

 まるで履物を形容したかのような擬音。局地の気温が著しく下降していくような、同時に局部の体温が激しく上昇していくような、奇妙な寒暖差を実感したのだった。

 遅ればせながらも、恐る恐る首だけで後方を振り返る。

 私は穿いていたショーパンを脱がされ、弟の目先に剥き出しの生尻を晒していた。


 一陣の風が、下半身を吹き抜ける。

 だけど室内で吹くそれは荒れ狂う暴風ではなく、愛撫するだけの微風に過ぎない。そして無色透明な気体に、無垢な肢体を包み込んでくれることは期待できなかった。

 徐々に思考が追いつき始める。後手に回りつつも、慌ててお尻を隠そうと試みる。だが両手だけでは心許なく、ならばいっそ頭を隠した方が心なしかマシなのだった。

 股間を晒したまま、私はしばし無言になる。気まずさを遥かに超越した静寂の中。

「お姉ちゃん、それ…」

 先に口を開いたのは、彼の方だった。

「ち、違うの!!これは、その…」

 私は容疑を否認する。なぜ被害者の側に弁解が求められているのかは分からない。それでも何かしらの弁明をすることにした。


「今日、ちょっと暑かったから…」

 たどり着いた言い訳は、苦し紛れの嘘だった。それはそれで問題である気もする。あくまで気候を理由に「穿かない」というならば、その事実は私の日常にも波及する常習的な奇行の告白に他ならない。

――やっぱり、今のナシで!!

 私は前言を撤回したかった。己の習性について、そこに含まれる変態性について、自らの発言を訂正したかった。

 だがそれを否定するということはつまり、今度こそ正直に話さなければならない。なぜ「ノーパン」だったのかという理由を。ショーツを脱ぎ捨てるに至った経緯を。

「お姉ちゃん、やっぱり…」

 私自身が白状するより前に、彼からの追求が始められる。

「『おもらし』しちゃったの?」

 彼の問いに小さく頷く。およそ数センチの首肯は、紛れもない敗北の白旗だった。私は自分の口からではなく首の動きによって、羞恥を打ち明けさせられたのだった。


「どうして?」

 私の秘密を白日の下に晒しても尚、彼は思わぬ結末に困惑しているみたいだった。

「間に合わなかったの…」

 いや、それは事実とは少しばかり異なる。本当はあえてそうしなかったのである。未然に決壊を防げていたはずなのに、自ら救済を拒んだのだ。「あの夜」とは違う。

 だけどもちろん、それについては言わない。あまりにも状況が込み合っているし、それを話すなら○○さんとの異常なる情事に関しても言及しなければならなくなる。上手く話せるとは思えなかったし、その辺の事情については秘匿しておきたかった。

「ずっと、我慢してて…」

 それは本当だ。私は『おしっこ』がしたかった。きちんと脱いでからすべき行為をショーツを穿いたままの状態でしたがったのだ。だけど、それについても言えない。

「どうしても我慢できなくて。それで…」

 その先はまさしく彼の言った通りだった。私は『失禁』をした。大学生にもなって二度も粗相をしてしまったのだ。


 ふと彼の様子を窺う。彼は何かを考え込むみたいに深く俯き、沈黙を貫いている。軽蔑しているのだろうか。あるいは己の予想が的中し、悦に浸っているのだろうか。

「じゃあ、あの日も…?」

 さらに彼の質問は、私の過去の過ちにさえ及ぶ。その確認こそが肝心なのだろう。彼自身が道を踏み外すことになった元凶。悪事に手を染めることになった犯行動機。それが果たして単なる見間違いによるものなのか、厳然たる現実によるものなのか。

 私は頷いた。もはや言い逃れは出来なかった。この期に及んで嘘を重ねたとして、恥の上塗りになることは避けられなかった。

「そうだよ。お姉ちゃんは、あの日も…」

 ついに私は自供する。彼が目撃した私。深夜の洗面台で下着を手洗いしていた私。不可解な行動のその真相を。

「ごめんね。嘘ついて…」

 虚言を吐くという倫理に背く行為を詫びる。だがそれは尊厳に関わる問題であり、あくまで免罪の余地はあるはずだ。私としても背に腹は代えられなかったのである。


「お姉ちゃんは、その…、よく『おもらし』しちゃうの?」

 度重なる疑惑が真実であると分かったところで、さらなる粗相の可能性についても彼は追求してくる。

「そんな、わけ…」

 すかさず私は常習を否定する。

「あの日と今日と、まだ二回だけ…」

 答えた直後に、「まだ」という副詞は不要であったことに気づく。それではまるで今後も繰り返すつもりみたいではないか。

「そうなんだ…」

 彼は素っ気なくそう言った。その反応はどことなく残念そうなものに感じられた。彼は一体、姉に対して何を期待しているのだろう。


「もしかしてお姉ちゃん、学校でいじめられてるの?」

 その発言は私にとって青天の霹靂だった。だけど質問の意味にすぐに思い当たる。

 彼としても、二十歳前の姉がそう何度も粗相するとは考えられなかったのだろう。だからこそ彼は、私の『失禁』の原因に何かしら不穏なものを感じ取ったのだろう。例えばそう誰かに、そう仕向けられたのだとか。

 彼の抱いた懸念はその半分は当たっている。確かに私はトイレを禁止されたことで醜態を晒す憂き目に遭った。あるいは悪意といえる企み。○○さんのせいで私は…。

 だけどそれは決して「いじめ」と呼ばれるような一方的な加害などではなかった。

 一度目の『おもらし』に関していえば、双方合意によるものではなかったけれど。今日に限っていえば、膀胱に尿意を抱えたまま自らの意思で彼の家を訪問したのだ。

「そんなんじゃないよ」

 私は答える。余計な心配を掛けまいと、ひとまず彼の推理を否定してみたものの。代替となるべく説明については何も用意していなかった。


――じゃあ何で、二回も『おもらし』しちゃったの?

 その先の彼からの問いは容易に想定される。他者による危害でないとするならば、一連の不始末の理由は私自身の個人的な事情になってしまう。

 日常的に尿道が緩いのか。あるいは特殊な性癖によるものか。そのどちらにせよ、羞恥な事実であることに違いなかった。

「――て、あげる」

 私の否定を肯定と誤解したらしく、彼は下を向いたまま消え入りそうな声で言う。彼の言葉が上手く聞き取れなかった。

「僕が、お姉ちゃんを守ってあげる!」

 今度こそ、はっきりとそう聞こえた。彼の発声は、決意と勇気に満ち満ちていた。

「もうお姉ちゃんが、外で恥ずかしい思いをしなくて済むように…」

――僕が、ちゃんと守ってあげる!!

 彼はそう言って私の上半身へと両手を回し、背中越しに抱き締めてきたのだった。


「えっ!?いや、その…」

 狼狽する私。なぜこんな展開になったのか、と。こんなつもりじゃなかった、と。弟による想定外の抱擁に動揺する。

――違うの。そんなんじゃなくて、お姉ちゃんはその…。

 今さら、本当のことなんて言えない。『おもらし』という行為自体に高揚を抱き、興奮を感じると共に私の中で好色が芽生え始めているなんて言えるはずもなかった。

 彼の体は小刻みに震えていた。あたかも己の不安な気持ちを吐き出すかのように。不安定な関係を繋ぎ止めようとするように。姉のことを引き留めようとするように。ぎこちないながらも精一杯に抱き締めていた。

「ありがとう、純君。でも、ちょっとだけ痛い…」

 私は苦笑気味にそう言った。すると彼はようやく抱擁を解いてくれた。そして…。


「僕が、お姉ちゃんを『慰めて』あげる!」

 立場を逆転したように言って、彼は再びその場にしゃがみ込む。その動作だけで、彼がこれから何をしようとしているのかを悟った。だけど不思議と抵抗はなかった。

――ムギュ…。

 純君は私のお尻にしがみつく。ショーツを穿いていない、「ノーパン」の生尻に。

――チュ…。

 純君は私のお尻にキスをする。柔らかく冷たい唇の感触。少しだけくすぐったい。

――ンチュ。ムチュ。ブチュ。

 純君は何度も何度も口づける。お尻の頬っぺたにそっと唇を這わせるかのように。やがて彼の口唇が温かく濡れる。

――ベロン。ペロペロ…。

 純君は舌を出して舐め始める。恥ずかしいような、照れ臭いような、そんな感覚。そうして彼が当然の如く、お尻の割れ目にも舌を這わせようとしてきたところで…。


「ダメ…。そんなとこ、汚いよ…」

 私は言う。不浄の恥穴を両手で覆い隠すことで、恥辱の継続に対する拒絶を示す。

「平気だよ」

 純君は言う。一体何が平気なのかも不明なまま、私の腕を掴んで優しく振り解く。

 尻肉を押し広げて、隠されていた尻穴に彼の舌先が触れる。電撃のような刺激に、ついつい卑猥な悲鳴が込み上げそうになるのを必死で堪えた。

 純君は丹念に肛門と付近を舐め回す。汚染されているかもしれない、その部分を。

――たぶん、大丈夫。

『うんち』は付いてないはずだ。それは数時間前の彼との情事からも明らかだった。それにしても、まさか一日に二度も男性にお尻の穴を舐められることになろうとは。しかもその内一人は弟という、異常な状況。正常な姉弟の関係性からは程遠い行為。


 純君から与えられる快感に身を委ねている。彼は私の腰をがっしりと掴んだまま、一心不乱に私の肛門を舐め続けている。まるでそれが彼の大好物であるかのように。

 必然的に私の肉体にある変化が訪れる。敏感な部分を舌で刺激されたことにより、またしても催してしまう。

「純君。ちょっと、ストップ…!!」

 彼の頭を手で押しのけようとする。その抵抗に、追体験のような既視感を覚えた。

――これじゃ、○○さんの時と…。

 羞恥の再来。私の大腸が秘めたる欲求を解放しようとしている。

――ダメ!!それ以上したら…。

 既知の危機を悟ったものの、やっぱり手遅れだった。次の瞬間。


――ブホォォォ!!!

 豪快な轟音を立てて、高圧力の温風が生み出される。肛門の咆哮。汚らしい擬音。

 またしても、やってしまった。今度は純君の目の前で『おなら』をしてしまった。お尻を刺激されたことへの反撃。条件反射的に、私の習性となりつつある『放屁』。

 私のすぐ後方にいた彼は『モロ屁』を浴びてしまう。きっととんでもない臭気に、意識さえも持っていかれそうになっていることだろう。予期せぬ驚天動地の攻撃に、理解すらも追いついていないことだろう。

「本当にごめん!!お姉ちゃん、その…」

 私はどう謝罪していいのかも分からなかった。純君は私を慰めてくれると言った。それが勘違いによるものだったとしても、その気持ちだけは本気であるらしかった。ただ少し方法を間違っている気もしたが、それでも甘んじて受け入れようと思った。

 だがそんな彼の厚意に対して私がした仕打ちは、あまりにあんまりなものだった。


「お姉ちゃんでも、やっぱり『おなら』はクサいんだね」

 純君は言った。アクシデントではなく、あくまでもハプニング。まるでちょっとしたサプライズであるかのように。

――やめて!!そんなこと言わないで…。

 弟に『おなら』を嗅がれて、凄く恥ずかしかった。その上感想を述べられるなど、顔から火が出そうだった。

 それでも。私は恥辱にまみれながらも、なぜか真逆の正の感情を抱き始めていた。それは加虐心ともいうべき、征服感にも似たものだった。


「純君、お姉ちゃんの『おなら』もっと嗅ぎたい?」

 私の口から予想外の言葉が飛び出す。

「えっ?うん…」

 純君は戸惑いながらも、そう答える。

「じゃあ、もう『一発』いくよ?」

 私は発射を警告する。お腹に力を込める。純君は再び顔を近づける。そして…。


――プスゥ~、ブピ!!!

 二度目の『放屁』。間延びした音と共に放たれた二撃目。今度は私自らの意思で、弟の顔面めがけて解き放つ。

――ゲホ、ゲホ…!!

 純君は激しくむせた。それでも彼は咳払いをした後、大きく息を吸い込んでから。

「お姉ちゃんの『おなら』食べちゃった」

 さも愉快そうに言う。最近、私の界隈ではその行為が流行りつつあるのだろうか。まるで流行語がぴたりと状況にハマったみたく、純君もまた彼と同じことを言った。私自身の羞恥の塊を「食べちゃった」と。

「もう!純君のヘンタイ!!」

 私は純君を罵倒する。だけどその言葉は本音でありながらも、本心ではなかった。ネガティブな言動とは裏腹に、ポジティブな感情が沸き上がってくるのが分かった。


「ねぇ、純君」

 姉にあるまじき、甘ったるい声で彼を誘う。

「お姉ちゃんの『ここ』も舐めて」

 脚を広げて、アソコを突き出す。ついに純潔の穴さえも純君に差し出してしまう。

「いいの…?」

 彼は訊いてくる。無理もないだろう、これまで頑なに棚上げしてきた場所なのだ。

 それでも。彼に「おあずけ」したことで、私の方が「おあずけ」を喰らっていた。まさしく「策士策に溺れる」というやつだ。

 私自身もう限界だった。火照りを鎮めないことには、今宵は眠れそうになかった。理性のタガがまた一つ、カチッと音を立てて外れるのが分かった。

――舐めてもらうだけ、それだけ…。

 言い訳しつつ、また一歩、譲歩する。あくまで挿入さえしなければ構わない、と。もはや私の倫理と論理は綻び、とっくに崩壊を始めていた。


――続く――

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おかず味噌 2020/07/14 21:36

ちょっとイケないこと… 第十五話「厚意と行為」

(第十四話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/343506


 天井を突くように、天高く飛翔する龍が如く、真っ直ぐに屹立した棒。その麓にはやはりそれも弟の成長を立証するものなのだろうか、生えかけの陰毛が茂っている。

 私は、純君のペニスに愛おしさを覚えた。

 未成熟であるにも拘らず、それでも精一杯に背伸びしようとする一生懸命な姿に。ある種の共感さえも抱いた。それは私の「陥没乳首」にも共通するところがあった。

 だけど彼の勃起は私の乳首とは違い、外から力を加えずとも勝手に隆起している。

 あくまで興味本位で、純君のアソコを覆う余分な包皮を指で軽く引っ張ってみた。皮内で擦れる度に刺激が与えられるらしく、彼は目を閉じたまま、私にされるがままその攻撃に甘んじている。まるで弄ぶように、私はしばらくママゴト遊びを続けた。

「痛っ!!」

 突然、彼は短く叫声を上げる。少々、調子に乗り過ぎてしまったらしい。

「あっ、ごめん…」

 己の好奇心旺盛を詫びる。不勉強なせいか、イマイチどう扱うべきか分からない。それでも今や勤勉となりつつある私は、今一度だけ純君に最終確認をするのだった。


「今日だけ、だよ?」

 彼を諭す。そうすることで、自らにも言い聞かせるみたいに。言い訳するように。純君はこくりと頷いた。

「いい?今日のことは、誰にも言っちゃダメだからね?」

 釘を刺す。口止めを施し、口約束を交わす。純君はまたしても頷いた。

「わかった。じゃあ、お姉ちゃんが『してあげる』」

 可を示す。そんな卑猥な言葉が自分の口から発せられたこと自体、意外だった。

 ゆっくり上下運動を開始する。さきほど彼が衝動に駆られてそうしていたように、今度は私の主導により弟を受動的な快楽へと誘導する。

 皮がずれたことで、可愛らしい彼の先っちょが亀の如く、ひょっこりと顔を出す。鮮やかなピンク色をした亀頭。すでにズボンもトランクスも脱ぎ去ったというのに、これまで日光を浴びることのなかったそこがようやく日の目を見る。

 棒を掴んだまま指を伸ばし先端に触れる。その瞬間、純君の体がびくんと跳ねた。痛かったのだろうか。だが彼は何も言わず、私にさらなる要求をしてくるのだった。


「ねえ、口でして」

 純君は言う。どこでそんな台詞を覚えてきたのだろう。弟の早熟さが心配になる。いつか恋人にも平気で同じことを頼むのではないか、と。

「だめ」

 純君からの申し出を一度は断った。だけどその「断り」からも垣間見えるように、やがてすぐに理から外れてしまうのだった。

「お願い!お姉ちゃん…」

 今日だけだから、と純君は言う。私が一方的に交わしただけの約束を逆手に取る。彼と視線が交錯する。悲痛が込められたようなその表情に、あえなく私は陥落した。

「しょうがないな…」

 一体何に対する譲歩なのかも不明なまま、彼の「一生のお願い」を聞いてあげる。純君の股間に一心に顔を近づけ、一瞬ばかり焦らしたのち、そこから一気に頬張る。


 口の中が純君のアソコで満たされる。

 いや、満たすには程遠い。陰茎を丸ごと含んで尚、口内には幾分かの余裕がある。やはり○○さんのモノとは違う。彼のは咥えるだけで精一杯だった。

 純君のペニスは複雑な味がした。全ての絵具を混ぜ合わせた色が黒になるように、あらゆる味覚が混ざり合った結果がその苦みだった。

――何の味だろう?

 合体を期待して滲み出した液体。挿入に先走ることで迸った汁なのかもしれない。あるいは包皮の内側に残った『おしっこ』だろうか。だとしたら私の『おしっこ』もこんな味がするのだろうか。

 匂いについても、イカしたものではなかった。青臭さの奥底にある「イカ臭さ」。嗅覚がイカレてしまいそうなほどの異臭。それは紛れもなく「恥垢」によるものだ。

 彼はきちんと洗えていないのだろう。そんな状態のまま女性に咥えさせるなんて、それこそマナー違反もいいところだ。仮にもそれが愛すべき弟のものでなかったら、私はすぐさま嘔吐していたことだろう。


 だけど姉である私はそんな弟の不始末さえも受け入れる。ヌルヌルとした舌触り。込み上げる臭気と苦味。吐き気を催すような不快さえも余すところなく受け止める。

 不衛生なペニスの周囲にこびりついた、熟成されたチーズのような濃厚な味わい。彼の不浄なアソコを私がきれいにしてあげている。舌先で「チンカス」を舐め取り、同時に快楽を与え続けている。

 座位の姿勢のまま「気をつけ」するみたいに私の口の動きに身を委ねていた彼は、そこで自らの意思をもってさらなる触手を伸ばすのだった。

 彼の手が私の髪に触れる。かつて弟にそうしていたように。なでなでするように。だけど純君の手はそれだけに留まらなかった。

 彼の手が私の背をなぞる。ゆっくりと弧を描くように。姉のことを褒めるように。そして純君の手がついに私の腰の辺りに迫ったところで。

「ふぁめふぁよ(ダメだよ)」

 声で彼を抑止するも。お口に咥えたままだったので、ヘンな言葉になってしまう。


 歪曲された響きのみならず、この期に及んで拒否する滑稽さは重々承知している。

 私が触れたり舐めたりする分には良くて、どうして彼が触れるのはダメなのかと。だけどこれは私にしか分からない、微妙なラインなのだ。

 私から快楽を与えるのは許可するけれど、彼から与えられるのは如何なものかと。それはもはや双方向の愛撫となり、直接的な性行為としての意味合いを帯びてくる。それはイケないことなのだ。

 あくまで一方的にという条件付きで、さらに今夜だけという期限付きでなければ。それは私が自らに課した制限であり、決して譲ることのできない防衛線でもあった。

 確固たる態度が功を奏したのか、彼は伸ばした手を引っ込めた。与えられる刺激、それのみに集中するつもりらしい。だがそれだって多くの一線を越えたものなのだ。

「お姉ちゃん、気持ちいいよ…」

 彼は呟く。それは率直な感想でありながらも、続く懇願への伏線にも感じられた。


「ねえ、お姉ちゃんが今穿いてる『パンツ』見せて」

 案の定、彼は次なるサービスを要求してくる。

「ダメだよ」

 さきほどの反省もあって股間から一旦口を離し、口淫を中断してから私は言う。

「どうして?」

 彼は不満そうに訊き返す。ここまでしてくれておいて、どうしてダメなのかと。

「ダメなものはダメ!」

 当たり前だ。そんなことできるはずがない。これ以上彼に褒美を与えることなど、しかもそれが「姉の下着」によるものなど、絶対ダメに決まっている。

 もし仮に私が今ここでショーツを見せたりすれば、きっと彼は抜け出せなくなる。「姉に対する劣情」という名の呪縛から、永久に解き放たれることができなくなる。

 彼は今後も私のショーツを出来合いのおかずにし続け、それだけでは飽き足らず、またしても私の秘密を知ろうと企むかもしれない。


 それに。私は思い出す。私が現状抱えている秘密を。すっかり忘却していた記憶を。アソコがスースーする感触を取り戻す。私が今現在「穿いていない」という事実を。

 そうだ。私は「ノーパン」なのだ。

 どうしてそうなってしまったのかについては、今さら説明する必要もないだろう。私は粗相によりショーツを脱がなければならない苦境に追い込まれてしまったのだ。

 奇しくも、あの夜と同じ状況。彼が目撃し、彼の性癖を歪めてしまったその元凶。あるいは今の私は、あの夜と地続きの延長線上にいるのかもしれない。

 そもそも、こんな状態のまま弟の部屋を訪ねてきたこと自体が間違いだったのだ。真面目な姉が今「ノーパン」であろうことなど、まさか純君は知る由もないだろう。だからこそ本来そこに穿いているべきものを彼は「見せて」と言ってきたのだろう。

 だが生憎そうすることはできない。もちろん最初からそのつもりは無いのだけど、どうしたって見せてあげることはできない。

 彼が息を呑んで凝視した先に、私の下着はないのだ。そこにあるのは――。


 私の「オマ〇コ」。(〇の位置はこれで合っているのだろうか)


 紛れもない、姉の陰部である。まだ一人だけにしか見せたことのない、私の秘部。それを二人目に、あろうことか弟の眼前に晒すことになる。

 純君はそれを見て、何を思うだろう。彼だってまだ一度もその経験はないはずだ。彼にとっての初見、それがまさか姉の股間になるなんて予感すらしていないだろう。

 自分が穿いていないことを意識したせいか、ふいに私のアソコが熱を帯び始める。

 純君のペニスに触れたせいかもしれない。触れるだけではなく、咥えもしたのだ。いくら弟のものとはいえ、それはれっきとした男性の部分。脳機能が誤作動を起し、体が勝手に反応してしまったのかもしれない。

 ショーツを穿いていたなら、クロッチ部分に盛大なシミが出来ていたことだろう。『おしっこ』とは違う液体。より粘着性を帯びながらも、同じくらいに羞恥な痕跡。『おもらし』と見紛うほどの量が。

 幸い、ショーパンの厚い生地のおかげで外部から内情を窺い知ることはできない。だけどもし触れられでもしたなら、濡れたヴァギナは確実に音を上げることだろう。甘美に満ちた淫靡な悲鳴は、彼に余計な期待を抱かせる要因にもなりかねない。


「お願い!今日だけでいいから」

 尚も純君は食い下がる。相変わらず「今日だけ」という定型句ばかりを繰り返す。それで私の方が引き下がるとでも思い込んでいるのだろうか。だとしたら甘すぎる。いや、そんな風に彼を甘やかしたのは私なのかもしれない。

 だけど、こればっかりはいくら頼まれようともダメだ。そこに譲歩の余地はない。「一度見せてくれたら、それで終わり」と彼は言うかもしれない。だけど見せたら、それで全てが終わってしまうのだ。

「あと、もう少し…。もうちょっとなんだよ…」

 決死の懇願に、私の決心が一瞬揺らぎそうになる。もしちゃんと穿いていたなら、それを見せてもいいというくらいに。だけどそれが出来ないのだ。

 純君に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら。せめてもの償いとして、彼のペニスに集中する。出来るだけのことをしてあげたい、と行為に本気を出す。

 あくまで純君のために出来る限りのことをする。そんな私の覚悟さえ知らずに…。


「なんか…お姉ちゃんの、あんまり気持ち良くない…」

 あろうことか、彼はそんな感想を口走った。

――何様のつもりなのか!

 私は怒りを覚えた。そりゃ確かに私が経験不足であることは間違いないだろうが。それだってもう少し言い様があるだろう。

 私の行為は否定された。好意による厚意さえも真っ向から全否定されたのだった。私の「フェラチオ」が下手くそだから、そんなんじゃイケないのだと純君は言った。その指摘には、私が処女であるという私的な事実さえも含まれているように感じた。

 私は泣きそうになる。中学生の弟すら射精させてあげられない己の不甲斐なさに。

 まるで憑き物が落ちたみたいに、たちまち私は落ち着いた心持ちになるのだった。彼のアソコから口を離す。それ以上、その行為を続けることに無為さを感じた。

 床に散らばった衣類を拾って、彼に履かせる。彼のペニスを元通りに仕舞い込む。彼は意味不明のまま一瞬だけ抵抗を試みたけれど、最終的には姉である私に従った。

 弟にズボンと下着を履かせるという行為に、私は在りし日の姉弟の面影を重ねた。だけどそれは遥か遠くの記憶にも感じられた。


 私は腰を上げた。彼に背を向けて、大股で出口へと向かう。

「えっ?どうしたの…?」

 彼は戸惑いながら訊いてきた。私は答えなかった。

「もう、終わりなの…?」

 彼は不服そうに言った。その通りだ。私の超法規的措置はここで打ち止めなのだ。

「そんな…」

 彼は残念そうに呟いた。哀しそうな、淋しそうな声音が背中越しに伝わってくる。それでも私は振り返るつもりはなかった。

 全ては自業自得なのだ。彼があんなことを言わなければ。欲張りさえしなければ。彼は無事に果てることが出来たかもしれないのに。それを拒んだのは彼の方なのだ。

 昔、彼に読んであげていた童謡。その劇中に登場する多くの強欲者と同様の末路。彼は一体そこから何を学んだのだろう。

 あるいはこれで良かったのかもしれない。私は寸でのところで踏み止まれたのだ。すでに幾つもの一線は越えていたけれど、それでもまだ私は戻ることができたのだ。

 彼を置き去りにして、ドアノブに手を掛ける。あと一歩、これで本当にお仕舞い。ようやく私は非日常から日常へと還ることができる。

「おやすみ」

 この夜を終わらせる締めの一言を添える。彼を見ずに。彼の姿を視界に捉えずに。

 だからこそ私は気づくことが出来ないでいた。彼が現状どんな心境でいるのかを。いかなる衝動に襲われていたのかも。何をしようとしているのかさえ知らなかった。


――!!!???


 ふいに、お尻がスースーするのを感じた。下着を穿いていないからではなかった。本当に「何も穿いていない」みたいだった。

 私はショーパンを脱がされ、純君の眼前に「ノーパン」の下半身を晒していた。


――続く――

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おかず味噌 2020/07/13 02:36

ちょっとイケないこと… 第十四話「大人と子供」

(第十三話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/335892


 純君のアソコは膨張していた。パジャマのそこだけテントを張っているみたいに、はっきりと雌雄を主張していた。

 彼の紛れもない欲情の象徴に私は動揺する。頬を紅潮させたまま硬直してしまう。ついこの間まで小学生だと思っていた弟の目覚ましい成長の兆候を直視したことで、未熟な姉である不肖の私は目の前の現実を上手く受け止めることが出来ないでいた。

 あるいは何かの見間違いかと。ズボンに皺が寄ることで偶々そう見えただけだと。あえて見当違いな検討をすることで、あくまでも正答から遠ざかろうと試みる。

 だけど現に彼は自問について言及し、元気におちんちんをギンギンにさせていた。さも準備万端であるというように。禁忌たる近親間における相姦を懇願するように。

 悪寒にも似た予感を抱きながらも視線は自然と股間を視姦する。丘陵の強調というあからさまな現象にあてられて、脳漿に浮かんだのはありきたりな感情だけだった。

――純君も、大人になったんだね。

 思わず場違いな感傷に浸ってしまう。間抜けな感想。そこに感慨を抱くこと自体がそもそも間違いであるというのにも拘らず、ついつい埒外なお節介を焼いてしまう。


 肉体自体の堂々たる態度とは対照的に、彼自身は自信無さげにおどおどしている。そしてもう一度、彼は私に訊いてきた。

「僕、おかしいのかな…?」

 と。病むべき闇を抱えたままの彼の疾しい悩みを。

――そんなことないよ!

 すぐにでも払拭してあげたかった。それは男性に備わっている生命機能であって、生殖本能によるものに過ぎないのだと。

 だけど問題は、その発情が果たして何によってもたらされたものであるかだった。

 仮に女子の下着への執着なのだとしたら、あくまで正常な反応なのかもしれない。だけど彼が欲望をむき出しにしているのは、他ならぬ「姉の下着」に対してなのだ。それはあまりにも異常である気がする。明らかに常識を外れて、常軌を逸している。

「お姉ちゃんのことを考えると、ここが硬くなっちゃうんだ…」

 すかさず彼は告白する。私に対する劣情なのだと、そう自供する。


 姉としてはやはり忠告すべきなのだろう。その現象ではなく、その対象について。断固として私は警告を発すべきなのだろう。

「ねえ、僕『ビョーキ』なのかな?」

 弱気な声で問う彼に対して。「そんなことも知らないの?」と訊き返したくなる。あるいは知っている上で、あえてとぼけているのかもしれない。

「病気なんかじゃ…(ないと思うよ)」

 私は否定を保留する。断定を避けることで、それ以上の追求を逃れようと考える。

「でも、すごく苦しいんだ…」

 彼は悩みをより具体的な苦しみとして表わす。それこそ私の知ったことではない。そういうことは私にではなく、仲の良い友人や未来の恋人にでも打ち明けるべきだ。(それはそれで少し淋しい気もしたが)

「なんか、すごく落ち着かなくて…」

 まるで焦燥に駆られたかのように。そこで彼は暴走を始めた。


 純君はあろうことか、ズボンの上から自分の股間を弄り出したのだった。

 彼の小さな手が陰部をまさぐる。浮き上がった陰影越しに陰茎を掴んで手淫する。

――自らの、自らによる、自らのための行い。

 性の知識もままならぬ癖に、どうすれば気持ちよくなれるかは心得ているらしい。だとしてもそれは私が居なくなってから、部屋で一人になってからするべきことだ。

「もう、やめなさい!!」

 私は強い口調で制止を要求する。彼は萎縮したように静止した。

「そんなことしないで。お願いだから…」

 一転して気弱な声音で私は言う。これ以上、純君のそんな姿を見たくはなかった。このままでは彼のことを本当に軽蔑してしまいそうだった。

「どうして?」

 私の願望に対し彼は理由を問い、返答を待つことなく右手による運動を開始する。あたかもその動きが、最も効果的に刺激を与えられることを熟知しているみたいに。


 私は彼の元に近づく。ドタドタと怒情を歩調に込め、彼が座るベッドに詰め寄る。そして、捻り上げるように彼の利き腕を掴んだ。

 彼のか細い腕の感触が伝わってくる。未だ異性にも及ばない非力さが感じ取れる。

「やめなさい」

 もう一度、今度は抑えた調子で言う。正面から彼を見据えて、目を逸らさずに。

「純君」

 彼の名を呼ぶ。ゆっくりと確かめるみたいに。じっくりと言い聞かせるみたいに。それ以上、何も言わずとも伝わることを願って。

 だけど彼は私の手を振り払った。強引にも、暴力的ながら。それはもはや強靭な、確実な男性の力であった。

 私は困惑する。彼が、弟が、純君が、姉の言うことを聞き入れてくれない状況に。

 彼は再び股間に手を伸ばす。行為を再開するためではなく、予想外の行動に出た。


 純君はパジャマのズボンを脱いだ。さらにパンツまでも同時に下ろしたのだった。

「ポロン」と可愛らしい擬音で彼のそれが飛び出す。これまで影だけは浮かびつつも隠されていた物体がついに正体を現す。

 それは純君の「おちんちん」だった。

 ふと既視感に襲われる。私の人生においてあまり目にしたことのない男性のそこ。だけど純君のならば何度も見たことがあった。

 彼が幼少の頃、よく一緒にお風呂に入っていた。その時に見た、弟のおちんちん。

 私はそれを見て、もちろん何の感慨も抱くことはなかった。あくまで飾りとして、弟の股の間にぶら下がったそれ。せいぜい私の人差指くらいのサイズしかない一物。幼いのに一丁前に性別を識別する記号に愛おしさを覚えた。


 だけど今目の前にあるそれは、その頃のものとは明らかに異なっている。

 まず大きさが違う。変貌した彼のアソコは今や私の三本指にも迫ろうとしている。そして形状。それは単に飾りとしてではなく、れっきとした男性器の形をしている。

 純君のそれはすでに「大人のおちんちん」だった。

 いや「チンコ」というべきだろう。その醜悪な物体は愛らしい響きで呼ぶことさえもはや憚られた。より正式に言ったところの「ペニス」である。

「お姉ちゃん…」

 彼は私を呼ぶ。アソコを握り締めたまま、まるで呼称すらも滋養に変えるかの如く私を見つめたまま行為を続ける。

 私が見ていることを知ってか知らずか、彼は丸出しになったペニスに手を添える。片手で隠し切れないそれを両手で覆い、やがてしごき始めた。

 直接手で触れることがよほどの快感なのだろう。「あぁ…」とか「うぅ…」など、彼は声にならない吐息を漏らす。私はそれを見守ることしかできなかった。


――もういっそ、このまま最後まですればいい。

 私は諦め交じりに呆れながらもそう思った。

 精を尽くして盛大に精液を解き放ったのなら、きっと彼も沈静化することだろう。一時の威勢に身を委ねて、束の間の達成と引き換えに、直後の自省に苛まれたとして決して私のせいではない。

 出したいなら出せばいい。気の向くまま、気の済むまで。心のまま、心ゆくまで。

「お姉ちゃん…」

 それでも彼は私を呼んだ。淋しげな顔で、すがりつくような目で、媚びるみたいに情けない声を上げた。

 私はそれに応えるつもりはなかった。もうとっくに姉としての領分を過ぎている。彼を弟として見ることが今後一切できないかもしれない。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…」

 彼はきつく目を閉じたまま、うわ言のように繰り返す。果たしてその瞼の裏側ではどんな想像が繰り広げられているのだろう。私は知りたくもなかった。だけど…。

「お姉ちゃん…大好き!!」

 そこで追い詰められたように。彼は私に対する想いを打ち明けたのだった。

 どうしてだろう?あんなに嫌悪し掛けていたというのに。彼からそう言われると、甘露に満ちた私はつい反応してしまう。火の消えた暖炉に薪がくべられるかの如く、冷え切った心の温度が上昇してしまう。そうして私はいつの間にか彼のことを許し、いつでも彼の言いなりになってしまう。

 そうだ、純君には私しかいないのだ。誰にも言えない秘密を話すことが出来るのは姉である私を置いて他にいないのだろう。

 思春期に訪れる肉体の変化。それに伴う感情の機微。それは個人的なものであり、大いに個人差のあるものでありながら、どうしたって同年代の者達と比べてしまう。自分は早すぎるのか、あるいは遅すぎるのか、どちらにせよ異質だと感じてしまう。私にもある経験だった。というより私自身、現在進行形で抱えている悩みであった。


 その時の私はおかしかったのかもしれない。後になって振り返ると、そう思う。

 今夜はあまりに多くのことが起きた。彼の家でしたこと。家に帰って知ったこと。それらの出来事が重なり合うことで、私は少なからず冷静さを欠いていたのだろう。

 私は純君のペニスにこっそりと触れた。私の手が彼のペニスをがっしりと掴んだ。私の指が彼のペニスをすっぽりと包んだ。

 そうすることが紛れもない過ちだったことは今さら言うまでもない。だけどそれは今も私の間近にあり続け、さも私の手が差し伸べられるのを待っているようだった。間違いを○すことが、あたかも正しいことであるかのような誤解を抱いてしまった。

 純君のペニスは不思議な感触をしていた。まるで鉄みたくカチカチになったそれ。血流が集中することで剛強を増したそれは、だが少しばかりの柔弱を内包していた。

 硬いようで柔らかい。柔らかいようでやっぱり硬い。矛盾するようなその感触は、それこそが彼自身の不安定な居場所を表わしているみたいだった。

 大人と子供の境界線。そのモラトリアムな立ち位置で迷い、彷徨い続ける彼の心。時に「もう子供じゃない」と宣い、時に「まだ大人じゃない」と駄々をこねるように都合よく両者を行き来できる存在。それこそが彼の現在の所在なのだろう。


 私は純君のペニスを観察した。こうして見ると、彼のそれは頼りなさげに思えた。成人男性のそれと比較してみる。だけど私の知るそれは数時間前の記憶のみだった。

 私が今のところ知り得る、唯一の一本。それはまさしく○○さんのものであった。彼のそれと純君のそれとは、大きく違っている。

 まず凶暴さが足りない。彼の肉棒には女性を○すという傍若無人ぶりが窺われた。純君の珍宝にそれはない。ただただ呆然と自己の欲望を満たそうとするのみだった。

 実際、長さも太さも彼のとはあまりに異なる。彼のモノに触れ、彼のモノを咥え、彼のモノを挿入されたからこそ分かる。彼のそれは私の性器を征服するのには充分、あるいは余りあるほどのものだった。(彼が射精したのは私の非正規の穴だったが)

 それに形だって違う。私はさきほど純君のを「大人のおちんちん」と形容したが、そう呼ぶにはいささか無理があった。彼のそれは「子供のおちんちん」なのだった。

 純君は「剥けて」いなかった。

 いや、それを言うのはちょっぴり可哀想かもしれない。彼は未だ成長途上なのだ。今後少しずつ変化していくのだろう。だけど彼のそれは、現時点では不完全だった。

 未成熟の子供チンポ。皮被りの包茎ペニス。それが純君の性器の現在の姿だった。


――続く――

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おかず味噌 2020/06/25 02:50

ちょっとイケないこと… 第十三話「共感と共犯」

(第十二話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/334324


「僕、知ってるよ?」

 純君は告発する。その状況はまるで、サスペンスドラマのラストシーンのように。

――やめて…!!

 シーンと静まり返った空気の中、私は咄嗟にそう思った。

――言わないで…!!その先を。私の過去の過ちを。

 あるいは真剣に、半ば強引に話の続きを遮ろうと考えた。

――お姉ちゃんが悪かったから。もうこれ以上、あなたの罪を咎めたりしないから。

 己の言動を懺悔するように、懇願するように彼に祈った。


「お姉ちゃんが『おもらし』しちゃったこと」


 だけど彼の口蓋は無情にも開かれ、同時に私の視界は絶望に閉ざされたのだった。


 室内が静寂に包まれる。会話の順番からすると次は私のターンであるはずなのに、何も言えずに黙り込んでしまう。

「な、何を、馬鹿なこと言ってるの…?」

 長大な間を置いてかろうじて絞り出した言葉はけれど、それさえも間違いだった。この場で返すべきなのは質問ではなく、より無意味な疑問であるべきだった。

「え?」とか「は?」など、そうした一文字と疑問符のみであるべきだった。

 そうすることで、会話自体をそもそも成り立たせず。愚問だと一蹴することこそが私にとって唯一の正答であり、私自身を正当化するための正道であったはずなのに。

 彼からの手厳しい指摘が的中していたために、適切な選択肢を見失ってしまった。そうして再び、彼の番になる。

 純君は何も言わなかった。ただじっと黙ったままだった。だけど彼の沈黙の意味は私のそれとは大きく異なる。何かしら言葉を返すことを私が要求されたのに対して、彼はそのまま無言で居続けたとしても一向に構わないという余裕のある沈黙だった。

 思わず私は後退してしまう。今すぐここから退散したいという衝動に襲われる。


 それでも私は絶対に撤退するわけにはいかないのだった。ここは弟の部屋である。だけど私の家の一部でもある。あくまで限定的な所有権が与えられているとはいえ、それは両親が決めた暫定的な領有権により効力を発揮するものに過ぎないのである。

 つまり、ここは彼の部屋であってそうではない。春から大学生になったといっても未だ親の脛を齧り続けている実家暮らしの私についても、それは同様であるように。

 私の部屋もまた、この家の一部に過ぎず。リビングや洗面所、トイレに至るまで。私は生活圏の多くを彼と共有していて、どうしたって顔を合わせる距離に共存する。

 ゆえに、私は逃亡することが叶わなかった。

 ここで一時的に背を向けたとして、直ちに彼との関係性が失われるわけではない。だからこそこの場で解消しておかなければ、彼の疑問は不協和音として残り続ける。いくら平常を取り繕おうとも、非日常からの残響は日常に影響を及ぼし続けるのだ。


 私は後退する代わりに一歩前進した。およそ数メートルの空間を縮めるみたいに。姉弟の数年間の空白を埋めるみたいに。

 私の行動が彼にとっては予想外だったらしく、彼はびくっと震えて目を逸らした。両手で必死に頭部を庇っている。姉から暴力を振るわれるとでも思ったのだろうか。その反応は私にとっても想定外のもので、弟に恐縮されたことに私は深く傷ついた。

 ベッドに座る純君を見下ろす。彼は相変わらず痛みを堪えるように瞑目している。あくまで立ち位置からか、立場的なものからか、彼のことを見下しながら私は言う。

「ヘンなこと、言わないでくれる?」

 またしても責める口調になってしまう。最善手ではなく、むしろ悪手ともいえる。あるいは彼の暴いた秘密が事実ではなく、単なる妄想や苦し紛れの嘘であったのならそれで良かったかもしれない。

 だがあの夜のことは紛れもない事実であり、他ならぬ私自身がそれを知っていた。

 だとすれば私に出来るのは、姉という立場を利用し弟を黙らせることだけだった。姉弟の強権を振りかざし強○的に彼の口を塞ぐことでしか逃れる術を持たなかった。あまりにも分の悪い賭け。はったりを見せつけ、ポーカーフェイスを装うことでしか私の敗北を覆す手段はなかった。


――そもそも彼はなぜ、私の秘密を知り得たのだろう?

 私があの日『おもらし』をしてしまったことは間違いない。不浄に濡れた心と体、『尿』に塗れたアソコの感触がそれを覚えている。

 だけど私が粗相をしたのは○○さんの家で、だ。彼の家の廊下で、トイレの前で、私は『おしっこ』をまき散らしてしまったのだ。

 自宅に帰った私が真っ先にしたことは、『おもらしショーツ』を洗うことだった。純君が私の醜聞を知ったのだとすれば、おそらくその時だ。

 深夜まで遊び歩き帰宅した姉。その姉があろうことか洗面所で下着を洗っている。あまりに無謀で無防備な後ろ姿。彼はその光景を無断で覗き見てしまったのだろう。そして間もなく、彼は一つの結論に行き着いたのだろう。

――お姉ちゃん『おもらし』しちゃったんだ…。

 と。つまり彼が言ったのはあくまで憶測から導き出されただけの推論に過ぎない。犯行の現場を目撃したわけではなく、というより彼がそれを見るのは不可能なのだ。それは私と○○さんだけの秘密であり、家族だろうと他人が知ることはないのだ。

 だとすれば、私にもまだ戦える余地は残されている。わずかなりとも勝算はある。だけどそのためには、今や周知の事実となった羞恥の秘密を認めなければならない。私があの夜、洗面所で何をしていたのかということを…。


「『これ』の事、言ってるんだよね?」

 手に持った一枚の布を純君の眼前に突き出す。それは洗濯済みのショーツだった。すでに汚辱の痕は拭い去られているとはいえ、未だ恥辱の過去は拭い切れなかった。

 彼は私を見た。私の顔色を窺い、次に私の手に握られている黒ショーツを眺めた。やはり彼はその布に執拗なまでの興味があるらしかった。

 マタドールのマントみたく、荒ぶる闘牛の如く彼の視界からそれを見失わさせる。血走った眼があからさまに白黒とし、かつて黒があったはずの余白を彷徨っていた。

「私が『パンツ』を洗ってるのを、見ちゃったんだよね?」

 優しい口調で彼に問う。穏やかな声音は再び、姉としての響きを取り戻していた。やや遅ればせながらも彼は頷いた。あの夜の「答え合わせ」を期待するように…。


「純君」

 彼の名を呼ぶ。ゆっくりと確かめるように。じっくりと言い聞かせるように。

「女の子の体は、男の子とは違うの」

 唐突に違う議題を投げ掛けることで話題をすり替える。私のよくやる手法だった。

「純君は寝てるとき、パンツの中が濡れちゃってたことない?」

 ふいに自分自身に向けられた問いに、彼は驚きを隠せないでいるらしかった。

「な、ないよ…!!」

 彼は慌てて否定する。そこに少しばかりの誤解が含まれているように感じられた。どうやら私の訊き方が悪かったらしい。

「『おしっこ』とかじゃなくて。もっと別のもので…」

 彼の勘違いを訂正する。すなわち「夢精」である。私が言外に匂わしていたのは、まさしくそれだった。


 彼は考え込む素振りを見せた。質問に真面目に答えようとしてくれているらしい。姉である私に決して言いたくない、本来ならば言わなくてもいいことを言うべきかと真剣に悩んでいるらしかった。

「実は…」

 ようやく彼は口を開いた。己が秘密を打ち明けようと、心の扉をわずかに開けた。

「一回だけ。朝起きたら、なんか濡れてて…」

 自己の罪を白状するように彼は言った。(それは事故のようなものなのだけど)

「違うんだよ!漏らしたんじゃなくて…」

 あくまで『おねしょ』ではないのだと言いたいらしい。

「その…。なんか、ベトベトしてて…」

 その正体を私は知っていた。だけど純君は知らないらしかった。保健体育の授業で習わなかったのだろうか。今まさに思春期を迎えた同性や異性の体の成長について、あるいはその兆候について。

 性に興味津々なクセして、その知識はあまりにも稚拙であるらしい。私は姉として弟の勉強不足が気掛かりになりつつも、だがこの場においてはむしろ好都合だった。


 私はあえて沈黙する。疑問に解答を与えることなく暫く泳がせてみることにする。今度は私の方が余裕たっぷりに構える番だった。

 案の定、彼の表情に不安の色相が浮かぶ。眉間に皺を寄せて心配そうにしている。少しばかり可哀想になってきた。

「ねぇ。僕、ヘンなのかな…?」

 裁定を求めながらも肯定を望まず、疑問形を用いる彼に対して。

「そんなことないよ!」

 私は強く否定し、優しく断定した。

「それはね。男の子だったら誰でも経験することなんだよ?」

 とはいえ男子ではない私には分からない。聞き知っただけの知識に過ぎなかった。

「女の子にだって、そういうことはあるんだよ?」

 ようやく自分に有利が傾いてきたところで、会話を本題に戻す。


「そうなの?」

 私が撒いた餌に、すぐさま彼は食い付いてきた。

「だからお姉ちゃんがあの夜、『パンツ』を洗ってたのは…」

 ついに訪れた、彼が待ちわびた解答の瞬間。

――そういうこと、なの。

 だけど、その先を曖昧にぼかして煙に巻く。

 私はそれ以上何も言わなかった。女子の秘めたる事情については言わずに留めた。それは純君がそう遠くない未来に否が応でも知ることになるだろう。

 あるいはその時に彼は気づいてしまうかもしれない。「高校生探偵」じゃなくても分かってしまうことなのかもしれない。それでも、今はまだ…。


「だから私のそれは、別に恥ずかしいことじゃないの」

 はっきりと断言したのち。

――純君がそうなように、ね。

 思い出したように言い添える。彼に共感するように。共犯関係を確認するように。

 彼は「あっ!」という顔をした。何かを悟り、全てを理解したような表情だった。今まさに彼の誤解は、私が示した別解により解かれたらしかった。

「そうなんだ…」

 彼は納得したように小さく呟いた。あくまでも真実にたどり着いたわけではない。私自らが偽装し、あえて真相を捻じ曲げたのだから。

 だけど、これで少しは彼も分かったはずだろう。人に秘密を知られるということがどれだけ恥ずかしいことなのか、と。


「姉川の戦い」が終結を迎える。論争とさえ呼べない、一方的な論述が終えられる。

 純君は無言になる。心地よい沈黙は、私にとっての勝利の余韻であった。

 それでも彼はまだ不安を抱えているみたいだった。未だ解き明かされていない謎が残っているようだった。

「じゃあ、これも…。ヘンなことじゃないのかな?」

 次週のヒントを待つこともなく、意を決したように彼は言う。それは私ではなく、自分自身についての疑問であるらしかった。

「えっ…?」

 無意味な疑問を私は問い返す。彼の手はいつの間にか太腿の付け根辺りにあった。いつからそうしていたのだろう。いつからそこを押さえていたのだろう。

 やがて純君はアソコから手をどける。そこにあったのは…。


 パジャマのズボンの中で窮屈そうに屹立した、彼の「おちんちん」だった。


――続く――

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おかず味噌 2020/06/20 23:15

ちょっとイケないこと… 第十二話「謝罪と反省」

(第十一話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/258937


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

 純君は謝り続けている。お腹にあるスイッチを押すと予め録音された台詞を喋る、一昔前に流行った「ぬいぐるみ」みたいに何度も同じ言葉を繰り返す。

 感情の起伏が感じられない玩具と違い、その声からは悲嘆と悲愴が伝わってくる。

「ごめん…なさい!!」

 ついに純君は泣き出してしまう。すでに可愛らしい瞳から涙は溢れていたけれど、そこに嗚咽が混じることで号泣を始めてしまう。

 純君がこんなにも盛大に泣くのを見るのは、果たしていつぶりだろう。少なくとも彼が中学生になってからは一度も目にしていない。

――もう、泣かないで…。

 私は出来ることなら、そんな風に声を掛けてやりたかった。あくまでも姉らしく、目の前で泣きじゃくる弟を慰めてあげたかった。だけど私にはそれが出来なかった。なぜなら彼の涙の理由は、私に大きく関わったものだったから…。

 今の私に出来ることはただ一つ。彼が泣き止むのを待って、彼の口から事の顛末を聞くことだけだった。


 枕の下から見つかったもの、それはショーツだった。彼の部屋にあるはずのない、あってはならないものだった。そうだと分かった瞬間、疑問が幾つも頭に浮かんだ。

――あれ~?おかしいな~?

 私はまるで「名探偵」にでもなったみたいに。だけどそこに使命感や正義感などは微塵もなかった。「たった一つの真実」になんて、私はたどり着きたくなかった。

 そこで、私は一つの事実に行き当たる。それは最初から気づいていたことだった。

 疑問が幾つも脳裏を掠めたとき、あえてその問いだけはしないように避けていた。あるいはそれさえ訊いていれば、彼にあらぬ疑いを掛けずに済んだのかもしれない。私が無意識の内に除外していた問い、それは…。

――これは、誰の?

 という、ごく当たり前の質問だった。

 明らかに純君のものではない、女性ものの下着が部屋から見つかったという事実。だとすれば真っ先に問うべきは、それが果たして誰のものであるのかということだ。一体どのようにして手に入れたものなのか。盗んだものなのか、貰ったものなのか、買っただけのものなのか。(それはそれで「なぜ?」という疑問は拭えないが…)

 仮にきちんと対価を支払って手に入れたものならば、それは決して犯罪ではない。理由はどうであれ、その行為は正当性を帯びることになる。

 だけど、私は最初からその可能性を否定してしまっていた。


 見覚えのある下着。それは紛れもなく「私のショーツ」だった。

 もちろん名前が書いてあるわけではなく、私としてもいちいち自分の所有している下着一枚一枚を覚えているわけではない。

 だけど、その下着だけは覚えている。はっきりと記憶と網膜に焼き付いている。

――前面上部に小さなリボンのあしらわれた「黒いショーツ」。

 それは、あの日。私が初めて○○さんの家で『おもらし』した日に穿いてたものに間違いなかった。

 あの夜のことは数週間経った今でも鮮明に覚えている。我慢の限界、理性の崩壊、膀胱の決壊、羞恥の公開、先立たぬ後悔、不可能な弁解、甚大な被害、汚辱の布塊。それら一つ一つの感慨を、私は詳細に渡って述懐することができる。

 それをきっかけにして、私と彼の関係は進んだ。いや、進んだといって良いのかは分からない。だけど現に今日だって、ついさっきまで彼の家にお邪魔していたのだ。そこで、またしても『おもらし』をしてしまったのだ。


 だけど、今日に限っていえば。深夜の洗面所での惨めな後始末を私は免れていた。まるで何事もなかったかの如く、粗相の物的証拠の隠蔽および隠滅に成功していた。

――そうだ、私は今…。

「ノーパン」なのだった。本来であれば持ち帰るべきはずの『おもらしショーツ』を道中で捨てて来たのだ。私は穿かないまま帰宅し、そのまま弟の部屋を訪れていた。

 これではどっちが犯罪者なのか分かったものじゃない。純君のことを問い質す前に私だって罪を犯している。「痴女」「露出狂」、罪名でいうなら「猥褻物陳列罪」。

 だけど、それにしたって。彼の犯した罪がそれで洗い流されるわけではなかった。どうして彼がそれを枕の下に隠していたのか。そもそもなぜそれがここにあるのか。私は毅然とした態度で、平然を装いながらも、彼に言詮させなければならなかった。


 ひとしきり泣いた純君は落ち着いている。相変わらず顔を手で覆っているものの、ひとまず会話が出来そうな程度には回復している。私は彼に訊ねてみることにした。

「これ、お姉ちゃんの…だよね?」

 動かぬ証拠を突き付けつつ、彼を問い詰める。責めるような口調にならないように気をつけながら、あくまでも確かめるというだけのつもりで訊いた。

「本当にごめんなさい!!」

 再び、純君は謝罪を口にする。またしても泣き出してしまう。まるで子犬のように「わんわん」と声を上げて泣き叫ぶ。

 私は困り果てた。時刻は一時前、朝の早い両親はとっくに寝ている時間帯である。こんな深夜に喚いているとなれば、何事かと起きて来てしまうかもしれない。

 今ならまだ私と純君、二人だけの秘密に留めておくことができる。いつの間にか、私自身も共犯者になってしまったかのような気分だった。


 ベッドに座った純君の元に近づく。彼の手に優しく触れ、包み込むように握る。(もちろんショーツを床に置いてから)

 純君はつぶらな瞳から大粒の涙を零しながらも、恐る恐る私の目を見返してきた。戸惑ったような顔で(戸惑っているのは私なのだが…)上目遣いで見つめてくる。

 守ってあげたくなるような幼さを滲ませた表情に、私は純君を抱き締めたくなる。だが、まだそうするわけにはいかない。彼の口から真相を聞いてからでなければ…。

「どうして、こんなことしたの?」

 今一度、訊き方を変えて言ってみた。というよりも彼を犯人だと決めつけた上で、その動機について触れた。

「ごめ…」

 再び、同じ台詞を繰り返そうとする純君を。

「もう謝らなくていいから」

 私はすげなく打ち切った。少しばかり厳しい口調になってしまったかもしれない。彼の体が怯えたように震えたのが、掴んだ手からも伝わってきた。

「ちゃんと、話してみて」

 怒らないから、と私は念押しした。


 暫しの沈黙が訪れる。純君の表情が次々と変化する。彼は迷っているらしかった。どう話せばいいものか、あるいはどこから話すべきなのか、分からない様子だった。

 私は純君を急かしたり追い込んだりすることなく、彼が自ら話し出すのを待った。

 やがて、彼の口元がもごもごと動き始める。微かに開いた唇から、ぽつりぽつりと自供が始められる。

「その、ちょっと気になって…。女子が、どんな『パンツ』を穿いてるのかって…」

 軽犯罪における犯行の動機とはいつだって、好奇心による興味本位から生まれる。ごくごく一般的な好意に過ぎなかっただけの感情が、やがて恋心へと変わるように。

「だから、それで…」

 彼はその先を言いづらそうにしている。それでも私は決して助け舟を出さない。

「お姉ちゃんの、なら…。すぐ手に入りそうだったから…」

 無差別ということか。たまたま近くにあったのが私のものであったというだけで、「誰のでも良かった」のだろうか。

「イケないことって、分かってたんだけど…。どうしても我慢できなくて…」

 罪の意識はあったらしい。だとすれば直ちに許されるというわけではないけれど、少なくとも情状酌量の余地くらいはある。

――というか、もう許す!!

 私は元々、弟には甘いのだ。己の罪を白状する健気な彼の姿に、私の方がいい加減耐えられなくなってきた。


 あるいは、私の下着で済んで良かったのかもしれない。

 もしこれが人様のものだったら、私一人の裁量ではどうにもならなかっただろう。中学生のやったこととはいえ、裁きは免れない。(それが裁判によるかは別として)

 仮に同級生に知られでもしたら、彼は「死刑判決」を下されることになるだろう。女子からは軽蔑の視線を浴びせられ、男子からは好奇の目で見られ、一生その罪咎を背負って生きていくことになる。

 ほとぼりが冷めるまで「カノジョ」だって出来ないだろうし、「いじめ」にだって遭うかもしれない。いくら己の犯した罪の報いであるとはいえ、それはあんまりだ。

――だって、純君はこんなにも…。

 私は彼を抱き寄せた。姉弟でこんなこと生き別れになってからの再会でもなければ本来あり得ないことだ。それでも私は彼の頼りない体を、ほんのちょっと見ない間に逞しくなった体を抱き締めていた。


「もう大丈夫だから」

 慰めるように言う。そんなにも穏やかな声が発せられたのは自分でも意外だった。もっとこわばるかと思った。不器用に不自然になってしまうかと思っていた。

 だけどその声はごく自然に口から出た。それはやっぱり私がお姉ちゃんだからだ。弟の罪を許してあげられるのは、姉である私をおいて他にいないのだから。

「誰にも言わないから」

 私は純君を抱き締めたまま言う。彼が心配に思っているだろうことを先回りして、まずはその不安を拭ってやることにする。そう、これは秘密なのだ。私と純君だけの誰にも知られることのない二人だけの…。

 それでも私は姉として、もう一つ彼に言っておかなければならないことがあった。


「もう二度と、こんなことしないって約束できる?」

 私は抱擁を解いて、きちんと純君に向き直ってから言う。誰にだって過ちはある、問題はその後どうするかだ。同じ過ちを二度と繰り返さないことこそが重要なのだ。それさえ誓ってくれたなら、この件については今後一切話題にしないことにしよう。私自身もそう誓った。

 純君は首を縦に振った。頭を上下し何度も頷いた。最大限の了承のつもりらしい。だけど、私はそれだけでは許さなかった。

「ちゃんと返事をしなさい。わかった?」

 心を鬼にして私は言った。(ずいぶんと甘い鬼がいたものだ)

「はい…。わかりました」

 純君は素直に答えた。はっきりと誓いを立てた。

「よしっ!」

 あえて無理矢理に渋面を作っていた仮面を外した。満面の笑みで純君に対面する。それこそが私にとっての面目躍如であるというように。


「それにしても…」

 姉としての責務を果たし、一仕事を終えたことで気が緩んでいたのかもしれない。私は口を滑らせてしまう。二人で立てたはずの誓いを、私自ら破ってしまう。

「よりにもよって、お姉ちゃんのを盗らなくても…」

 私は言ってしまう。さも、ぶっちゃけるみたいに。彼がした行為の気まずさから、つい余計なことを口走ってしまう。

「そんなに欲しかったなら、言ってくれれば良かったのに…」

 言った途端に後悔する。そんなこと言うべきではなかった。たとえ冗談であっても決して口にしてはいけなかった。慌てて訂正を試みる。「ごめん、今のはナシで!」と軽い調子で軽はずみな前言を撤回しようとする。あるいは姉と弟の関係であれば、それも十分に可能であろうと高を括っていた。

 だけどその言葉はすでに私の口から発せられ、不穏な意味を持ち始めていた。


「本当に?」

 彼は訊き返してくる。その声は驚くほど冷静で、真っ直ぐな響きさえ持っていた。

「えっ…?」

 私も聞き返すことしかできなかった。彼のそれよりさらに無意味な言葉を返すのが精一杯だった。

「もしちゃんと言っていれば、お姉ちゃんは『パンツ』を僕にくれたの?」

 いよいよ彼の問いが意味を帯び始める。想定外の言及。私の冗談に端を発した、まさかの本気(マジ)。彼の眼差しは真剣(ガチ)そのものだった。

「いや…それはその…」

 今度は私が口ごもる番だった。

「わざわざ『盗む』必要なんて、なかったってこと?」

 ねぇ、と純君は迫ってくる。私は彼のことが段々と怖くなってきた。私の知らない別の誰かであるかのような気さえした。


「そんなわけないでしょ!冗談に決まってるじゃない…」

 思わず声を荒げてしまう。そうでもしなければ彼の追求から逃れられそうにないと判断したからだ。

「じゃあ、嘘をついたってこと?僕をからかったの?」

 それでも尚、純君は引き下がらない。あろうことか私を「嘘つき」呼ばわりする。私は自分の置かれている立場が分からなくなった。

――どうして、私が責められているんだろう…?

 責められるべきは、純君の方なのに。それでも私はあえて、そうしなかったのに。いつの間にか私の方が責められる側になっていた。

「そうやってお姉ちゃんはいつも、守れない『約束』をするんだ…」

 純君ははっきりとそう言った。私が一体いつ、どんな約束をしたというのだろう。しかも彼のその発言からは、さも私がその約束を「破った」のだと告げられている。だがそれも果たして何のことを言っているのか、理解不能だった。

 私は腹が立ってきた。自分の犯した罪を棚に上げ、相手ばかりを責めるその態度にもはや我慢ならなかった。


「いい加減にしなさい!」

 彼のことを突き放すように、私は言い放つ。

「女の子の下着に興味を持つなんて、恥ずかしくないの?」

 触れてはいけないデリケートな問題に、土足で踏み込んでしまう。

「それはイケないことなの!わかる?」

 有無を言わさずに私は断定する。間違っているのだと、恥ずかしいことなのだと。

「お願いだから、もう二度とこんなことをしないで」

 さきほどまでとは違い、うんざりとした口調で呆れたような表情で言う。

 彼は沈黙していた。私が責める口調になって以来、じっと私の罵倒に耐えている。反論はないらしい。かといって素直に受け入れてくれているようには見えなかった。その目は雄弁に語っていた。「裏切られた」という哀しみを…。

 彼は項垂れた。私から目線を外して、床の上を見つめている。こと切れたように、まるでスイッチを切られてしまった玩具のように。


――ちょっと言い過ぎたかな…?

 私は自省した。自制できなかった己の罵声を悔やんだ。だけど…。

 むしろ、これくらいで良かったのかもしれない。さっきまでの私が甘すぎたのだ。本当はこれくらい厳しく叱りつけなければいけなかったのだ。

 これも純君のためなのだ。こうでも言わないと彼は同じ過ちを繰り返してしまう。姉として弟を間違った道に進ませないために、これは仕方のないことなのだ。

「私は、純君を犯罪者にしたくないの」

 今さらながら取り繕うような言葉を掛ける。

「『ヘンタイ』になんてなりたくないでしょ?」

 私は言った。その後の末路を教え聞かせることで、彼を思い留まらせようとした。純君は相変わらず何も言わなかった。だけどきっとわかってくれたはずだ。


「じゃあ、今日はもう寝なさい」

 私は立ち上がる。床に落ちた自分のショーツを拾い上げ、彼の部屋を後にする。

「お姉ちゃんは、違うの?」

 久しぶりに彼は口をきいた。私の背中に向けて、不可解な質問を投げかけてくる。私は振り返った。

「どういう意味…?」

 怪訝に思いながら私は訊き返した。彼の言葉の意味が本当に分からなかった。

 再び彼は黙り込む。私から視線を外してそっぽを向く。何かを隠しているように、何かを知っているかのように…。


「僕、知ってるよ?」

 彼は告発を始めてしまう。その状況はまるで、サスペンスドラマのラストシーン。

――やめて…!!

 私は咄嗟にそう思った。その先を聞くことを拒んだ。だけどもはや手遅れだった。


「お姉ちゃんが『おもらし』しちゃったこと」


 彼は「禁断のワード」を口にした。

 トンネルに入ったように。私は突然、目の前が真っ暗になるような絶望を感じた。あるいはそれは、彼が私に秘密を知られた時と同じ心境だったのかもしれなかった。


――続く――

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