ちょっとイケないこと… 第四話「前戯と共感」
(第三話はこちらから)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/214847
足元の水溜まりを踏まないように気を付けつつ、下半身を不格好に固定したまま、彼に導かれるがままに部屋へと戻り、そのままベッドに押し倒される。
ありがちな展開(なのかは分からないけれど、映画やドラマなんかではそう)だ。幾度となく想像し、妄想してきた想定の行程。
ただ予定と少しだけ違うのは、私の手を引く彼の力が終始遠慮がちであったこと。勢いに身を任せることで、むしろ私自らの意思で仰向けになったこと。そして何より私の体が『おしっこまみれ』であることだった。
「ベッド、汚れちゃう…」
申し訳なさから私は呟く。
「洗えば、大丈夫だよ」
心配ない、と彼は言う。そんな未来の問題より、あくまで現在に期待するように。
彼は服の上から私の体をまさぐり、それから強引に唇を重ねる。私は目を閉じて、彼のキスを受け入れる。
呼吸を止めて一秒、ならぬ三秒間。(体感としてはもっと)彼はそっと唇を離す。こうして私の「ファーストキス」はあっさりと奪われたのだった。
済んでしまえば実にあっけないものだった。どうして頑なに守り続けてきたのか、なぜ私にそうした機会が訪れなかったのか、不思議なくらいに…。
キス自体は不快なものではなく、かといって快楽を感じられるものでもなかった。それでも頭の奥が痺れるような気がした。日常と地続きの非日常の扉を開くような、そんな気分だった。
「初めて」の余韻に浸っている中、彼は再び私の唇を奪ってくる。二度目の口づけ。(「セカンドキス」なんて言葉はあるのだろうか?)私はまたもそれを受け入れる。やや余裕が生まれたためか、今度は少しばかりの快感を得ることができた。
さらに。唇を重ねたまま、彼はわずかに上体を浮かせて私の胸に触れる。
「おっぱい」と呼ぶには控えめな、それでも腰との対比でそれなりに大きく見える、私の自慢の部位の一つ。だけど、そこに秘められた事情があることを彼は知らない。
このまま服を脱がされずにいたならば、あるいは明かされずに済むかもしれない。だがもはやそんな段階ではない。私は今夜また一つ、彼に秘密を晒してしまう。
紛れもない私のコンプレックスの一つ。私を初体験から遠ざけていた一因。
日常生活ではさほど気にならないその特徴も、いざ男女が裸を見せ合う場となれば異端として。行為の発端を妨げる要因になり得るのだった。
彼はそんな私の先端を見て、何を思うのだろう。まさか笑ったりしないだろうが、内心でどう思われるかまでは分からない。私はそれが怖かった。
続いて彼はベッドと体との隙間に手を差し込み、私のお尻に触れてくる。そちらに秘めたる事情こそないものの、今だけは少々状況が異なる。
私は、ついさっき『おもらし』をしたばかりなのだ。ほんの数分前のことなのに、それは遥か昔の出来事のようにさえ思える。だけど粗相の証拠は確実に残っていて、股間から広がる染みはショーパンの後方まで浸食しているのだった。
濡れた着衣の上から、お尻を揉まれる。彼は私の失態をどう思っているのだろう。大学生にもなって二度も『失禁』した私に対して、果たして何を思うのだろう。
彼が私をベッドに誘ったということは、少なくとも嫌悪を抱いてはいないらしい。それもそのはずで、私が自らの体を穢すことになった原因はそもそも彼にあるのだ。
彼がトイレに行くのを阻止しなければ。私は悲惨な目に遭うことも、陰惨な性癖に目覚めてしまうこともなかったのである。
だがそれにしても。なぜ彼は二度も(二度目については私にも大いに責任がある)私の生理的欲求を邪魔しようと試みたのだろう。
その悪戯自体に何の意味もなく、彼の悪名を高めるものでもないのにも関わらず。ただ私を醜悪に貶め、ともすれば心に傷を負わせかねない悪行を働いたのだろう。
鼓膜を揺らす残響に耳を傾ける。決壊の間際、彼は私の耳元で呟いた。
「いいよ」と。三文字のその承認は私がトイレに行くことを許可するものではなく、あくまで『穿いたまま』出すことを彼は了承したのだ。
そこでふと、ある違和感に思い当たる。
――もしかして、○○さんも…?
静観しつつも、共感の予感を抱くのだった。
一頻り尻を揉みしだいた後、彼はついに私の服を脱がせにかかる。と見せかけて、着衣状態のまま私の膝を掴んで開脚させる。
――このまま、挿入するつもりなの…?
疑問というか、怪訝が一瞬脳裏を掠めたものの。まさかそんなはずはないだろう。
私が穿いているのはデニム生地のショーパンだったし、その下にはショーツだって身に着けている。下着は手で破れるだろうが、さすがに服まで破くのは不可能だ。
脚を開かせたまま、彼は私の股間を注視する。私は身動ぎし、微かな抵抗を示す。
正直言ってやめてほしい。そこは盛大に濡れて、色が濃く変わってしまっている。それに臭いだってするだろう。私の最も恥辱に塗れた部分。であるにも関わらず…。
彼は私の局部に顔面を埋めてきた。ついさっき『おもらし』したばかりの恥部に、今や本能の溢れる陰部に、理性を司る頭部を押し付けてきたのだった。
「やめて、ください!!」
はっきりと私は拒絶する。彼の行為に対してというよりも、主に私自身の問題からそれを拒もうとする。けれど…。
今さら脚を閉じようしたところで、もう遅い。すでに彼の頭は私の股の間にあり、両脚で挟み込むことで、よりガッチリと固定する格好となる。
まさに恰好の餌食ともいうべき、ショーツでいうところのクロッチに当たる部分を生贄の如く彼の眼前に捧げ、忸怩たる汚染を食餌のように彼のお膳に捧げることで。私は、彼に『おしっこの匂い』を直接嗅がれてしまう。
――フンス…。スンスン。
彼が鼻を鳴らし呼吸するのが、息の音と温度で伝わってくる。
「結衣のココ、おしっこクサいね!」
おどけた口調で彼は言う。
――やめて、言わないで…。
既知の事実を改めて口に出されることで。顔から火が出そうな羞恥を覚えつつも、これまでとは比にならない情痴に私は身を焦がすのだった。
そこからさらに、彼はとんでもない行動に出た。
ただ嗅ぐだけでは飽き足らず。そこに溢れるものを知った上で、それを物ともせず。彼はショーパンに舌を這わせ、私の『おしっこ』を舐め取ったのだ。
「やっぱり苦いね」
彼は苦笑する。その反応によって、ようやく私自身の疑心に確信を得る。
――やっぱり、○○さんも『おもらし』が好きなんだ。
あくまで自分がするのではなく、「女の子が漏らす」という行為に興奮する性質を彼は持ち合わせているのだ。
「もしかして、○○さん『も』おもらしが好きなんですか?」
勇気を出して彼に訊ねてみる。直後、後悔に襲われる。同調を表わすその助詞は、女子としてあるまじき私の所思を強調してしまったのにも等しかった。
「えっ?結衣も好きなの?」
案の定、彼に指摘される。私的な性癖について、正直に告白するしかなかった。
「はい、まあ…。この前、○○さんの家でしちゃってから」
消え入りそうな声で私は呟く。かつての自分に別れを告げ、追悼を捧げるように。
それまでの私は正常だったのだ。孵化を待つ雛の如く未体験に浮かされながらも、決して異常な性癖など持ち合わせてはいなかったのだ。
だが今となっては。奇禍に感化されることで、思わぬ変化が私に付加されていた。
「実は俺、あの時めちゃくちゃ興奮したんだ」
彼もまた自白する。私から訊いてもいないのに勝手に自爆する。
「そうなんですね。でも、ヒドイですよ~」
あくまで自分のことは棚に上げつつ、私は彼に抗議する。
「ごめんね。まさか本当に、おもらし『してくれる』なんて思わなかったからさ」
徐々に彼の本音も漏れ始める。互いに少しずつ打ち解けるように…。
「あの後、大変だったんですよ?」
家(ウチ)に帰ってからのことについて、彼に打ち明ける。
いい歳して夜中に一人汚れた下着を洗うというその惨めさが彼に分かるだろうか。
あるいはそれさえも、彼にとっては興奮の材料なのかもしれない。
「本当ごめんね。俺、結衣が帰ったあと我慢できなくて…」
彼もまた、事後のことについて自供する。
「つい、一人でしちゃったもん!」
秘めたるべき行為を「イケないこと」を包み隠さず供述する。
――私と同じだ!
口にこそ出さないものの、私は内心で共鳴する。
私も下着の事故処理を終えた後、部屋に戻ってから自己処理に耽ったのだった。
「変態ですね」
私は彼を断罪する。だがその断定は自刃の如く、自身にも向けられた弾丸だった。
彼はいよいよ、ショーパンに手を掛ける。ホックを外し、ファスナーを下ろして、私の下半身からズボンを抜き取る。私は腰を浮かして、それを手助けする。
黒タイツに透けたショーツが露わとなる。『おしっこ』にまみれた、濡れた下着。彼はそれさえも、私の一部として愛してくれるのだろうか。
残念ながら今日の私の下着は彼の興奮を大いに高めるものではないかもしれない。普段通りの、飾り気のない、ごく普通のショーツ。「もしかしたら」と思ったけれど、下着にまで拘る気にはなれなかった。(そもそも私は勝負下着なんて持っていない)
私が穿いていたのは、奇しくもあの日と同じ、黒のショーツだった。濡れたことで若干色が濃くなっているものの、染みはそれほど目立たない。それを不幸中の幸いと捉えるべきか、あるいは「残念でした」と斜に構えるべきだろうか。
彼はそこでさらに私の予想の斜め上をいく行動に出た。ショーツには目もくれず、私の脚を舐め始めたのだ。
黒タイツ越しの太腿から膝にかけて舌を這わせ、それはやがて足首にまで達する。続いて彼は私の足を手に取り、足の甲から指、指の股、足の裏さえも舐めに掛かる。
まるで別の生き物であるかのように徘徊する彼の舌にくすぐったさを感じながら、妙な征服感を満たされつつも。またしても未知なる羞恥を私は覚えるのだった。
まだシャワーも浴びていないし。『おしっこ』の汚れについては言うまでもなく、ごく当然に汗だってかいている。新陳代謝による今日一日分の穢れ。その味と匂いを彼に覚えられてしまう。
再び股間が湿る感覚を自覚する。そこはもはや彼を受け入れるための領域であり、彼のモノを迎え入れるための聖域なのだった。
「もう、入れて欲しいかもです…」
私は懇願する。本来ならば女性側から口にするべき台詞ではないのかもしれない。それでも確かな勝算と、僅かな打算を込めて私は言う。
男性にとってはその言葉こそが前戯の完了を告げる合図なのだと、準備万端だと、その相互確認に他ならないと分かっていたからだ。
「結衣、四つん這いになって」
彼にそう指示される。その方が脱がしやすいから、と彼は言う。仰向けの体勢から私は一旦起き上がり、ベッドに膝をついて彼に言われた通りの姿勢を取る。
高く突き上げられ、突き出さされた、黒タイツ越しのお尻。
彼の手が私の腰に掛かる。そのままショーツ諸共脱がされるのであったが…。
この期に及んで、私は怪訝と懸念を感じるのだった。
『ウンスジ』
それは不慮の事故によるものではなく、完全なる自己責任により描かれたものだ。
『大』をした後ちゃんと拭いているにも関わらず、なぜかショーツを汚してしまう。あるいは力を入れた際に、思いがけず括約筋が緩んでしまったのかもしれない。
拭きの甘さか、お尻の緩さか。どちらの理由にせよ、肛門付近の許されざる痕跡を余すところなく知り得てしまったのだった。
ふいに私は思い返す。本日の「排泄状況」を…。
今朝はトイレに行った。さすがデートの最中、事前に催した尿意を抱えておくには無理があったからだ。その後『おもらし』へと至るまで『おしっこ』はしていない。
そして。『うんち』については今日はしていない。便意を感じなかったからだし、私のそれは不定期に訪れる。
私は一安心する。少なくとも彼に『ウンスジショーツ』を晒す心配はない、と。
そんな風に、私の気が緩みかけたところで…。
――バチン!!
突如、お尻に衝撃が走る。不意打ちに私は「あんっ!」と声を上げてしまう。
直後、彼が私のお尻の頬を平手打ちしたと知るのだった。
「何するんですか!?」
私は抗議する。それに対して、
「『おもらし』したお仕置きだよ」
彼は加虐的な笑みで答え、そこからさらに私のお尻を二、三度叩く。その度に私は「やんっ!」とか「ふんっ!」とか、いやらしい声を漏らしてしまう。
ようやく「お仕置き」を終えた彼は、私の股間ではなくお尻に顔を埋める。
まだまだ続けられる彼の「前戯」に、別の事情から私は眉をひそめる。
――もし何かのきっかけで、お尻を汚していたらどうしよう…。
さすがの彼も『おしっこ』に関しては寛容であり許容範囲内なのかもしれないが、それが『うんち』となれば話は別である。
彼の興味を萎えさせ、あるいは行為を中断させてしまうかもしれない。
――大丈夫、今日はまだ『大きい方』をしていない。
それでも。あの日の不始末と同じように、不信は完全には拭い去れなかった。
そんな私の不安をよそに彼は肛門を舐めにかかる。俗にいう「クンニ」とは違う、お尻の穴を舐められるという行為。その不快さと不可解さに胸騒ぎを覚えながらも、私はただ彼に身を委ねるしかなかった。
彼のお尻舐めは予想以上に長く続いた。穴の周囲を丹念に舐め回したかと思うと、両手で割れ目を押し広げて、やがて彼の舌は穴の中へと差し向けられる。
私は何度目かの抵抗をした。だけど私に出来るのはお尻を左右に揺することのみ。彼はそんな抵抗など意にも介さず、私の肛門の味を堪能する。
長時間そうされていたことで、やがて私の中にある変化が訪れる。
それはお腹の奥底から来る焦燥であり、乙女として催してはならない衝動だった。
――どうしよう。『おなら』出ちゃいそう…。
あるいはその失態も『おもらし』のそれと比べればずっとマシなのかもしれない。だが私の粗相を受け入れてくれた彼の前では『放屁』の方が羞恥に他ならなかった。
今や敏感になりつつあるアナルを刺激されながら、私は欲求を必死で堪えていた。
――続く――