Ruhe Schutz 2022/06/17 00:35

【二周年】「もう先・もうこれ」販売二周年記念SS公開

「きっともう、この先出来ないような恋をした。」「きっともう、これ以上に好きな人なんて現れない。」販売から2周年✨

本日6月17日は当サークル1作目・2作目である「もう先」「もうこれ」販売開始日です。
2周年を迎えることが出来、沢山の方に作品を聴いていただき、本当に嬉しく思います。
ありがとうございます!

記念としてSSを公開させていただきます。
※こちらの小説は、後日おまけとして「もう先」「もうこれ」DLコンテンツとしてDLsiteに追加させていただきます。

また、今回のSSは、きっともう、シリーズのネタバレを含んでおりますので、ご注意くださいませ。


2周年記念SS「このひと時だけは……」

智×直樹SS


 互いに好きな人がいるのは知っていた。俺が大学を辞め、美大に入り直した後に数回一緒に呑んだが、出るのは想い人の話ばかりだった。それは仕方ないことはわかっていたし、自分自身も、亡くなった彼のことを思い出して、涙を見せてしまったことも多々あった。
 そんな時は、必ず俺の頭を撫でて、無言で酒を呑んでくれていた。それが、逆に有難かったし、こいつに甘えて良いんだな、と思えた。
「直樹がこんなに泣き虫だと思わなかった」
 そう言って、苦笑した智を思わず抱きしめていた。心の中は彼でいっぱいなのに、身体が勝手に動いていた。
土砂降りの雨みたいに、次から次へと涙が零れる。久しぶりに、子どものように泣きじゃくる俺に、困った顔をして智は抱きしめ返してくれた。
「無理すんな。……っていう俺も、だいぶ、無理してるけどさ」
 はにかむ智に、俺はかける言葉が見つからない。智は、こんなにも俺のことを心配してくれているのに。
「ごめん、ごめ……」
「だからぁ、お互い様。俺も、ちょっと疲れてたし、直樹も美大でしんどい思いしてる。……だから、こういう時もあるって」
 ここが、個室の居酒屋で良かった。こんな姿他人に見られていたら恥ずかしいことこの上ない。少し、気まずい空気になりながら、互いの身体から離れる。
「智って、俺より背低いのに、なんか色々でっかいな」
「なんだそれ」
 一頻り笑い合って、また沈黙が訪れる。だけど、それは嫌な沈黙じゃなくて。机の上に置かれたレモンサワーのジョッキは汗をかき水滴が滴っている。それを拭き取っていると、智に手を止められた。
「何……」
 ふいに、視界一杯に智の顔が広がる。睫毛長いなーとか、髪ちょっと毛先傷んでるな、とか考える暇もなく、唇に何かが触れた。
「え、なんで……」
「高校ン時のお返し」
 ニヤッと笑った智は、先程みたいな優しい雰囲気ではなく、いつものちょっと子供っぽい表情をしていた。俺はと言うと、驚きで涙も引っ込んでしまっている。
「おま……まだ根に持ってたのかよ……」
「当たり前だろ、俺のファーストキス返せ」
「……ごめん、許して。あの時は、ほんの出来心と、女子の圧力が怖すぎたんだ……」
 笑い合って、また酒を呑み交わす。そんな心地の良いこの関係がいつまでも、続けばいいと願いながら……。

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