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シロフミ 2020/08/05 22:30

明楽の入学式・後編

 一度汚辱を吐き出した排泄孔は、もはやか細い力しか残ってはおらず、焼け付いたようにひくひくと蠢くばかり。ごつごつと硬く熱い塊が下着をずっしりと引っ張っている。それでも、明楽は残りわずかな力を振り絞って、階段を這うように降りていった。
 そもそも、オモラシの前にトイレに駆け込むことはすでに不可能だ。
 パンツの中にはずっしりと不快な重みがつまり、一歩動くたびにぐちゃぐちゃと言葉にするのもおぞましいほどの汚辱が股間に広がってゆく。揺るがしようのないうんちのオモラシの事実は、明楽の心をずたずたに引き裂いていた。
 だが――なおも激しい濁流が、少女の腹奥で依然猛烈に渦巻いている。これまでの排泄などただの序章と言わんばかりの、激烈な苦痛と排泄衝動が、なおも明楽を責め続けていた。
(あ、あと、半分っ……)
 手摺りに寄りかかるような格好で慎重に最後の一段を降り、明楽は2階への階段の途中、踊り場に到着した。待望の目的地――トイレはあともう半分、階段を降りきったところにある。
 だが、今の明楽にはほんの数10mの距離が無限にも感じられた。おなかの中を荒れ狂う嵐は全く収まることなく、排泄孔はぷぴっ、ぶちゅるっ、と断続的に粘液を吐き出している。
 それでもわずかな希望、おなかの中で荒れ狂う中身を出せる場所を求めて、明楽は前に進むしかないのだ。

 ぶぷっ、ぷすっ、ぷちゅっ、ぷっ、ぷ、ぷぅぅうっ!!

(やだぁ……もう出ないでぇっ……お願い、だからぁ……っ)
 泣きべそをかきながら粘つく音のオナラを撒き散らしながら、限界ギリギリの爆発危険物となったおしりを押さえ、明楽はよろめいた身体を支える。スカート越しにもはっきりとわかるほど、熱く重い感触が伝わる。自分のひり出した塊のおぞましさに明楽は低くしゃくりあげる。

 ごきゅ、ぐりゅるるっ……ごりゅ、ぐきゅるぅぅうぅ……

「は、ぐぅぅうう…っ」
(と、トイレ、おトイレっ……はやく、う、うんち、トイレ、おトイレぇ……!!)
 最後の一線で、明楽は真っ赤になって歯を食いしばり、耐え続けた。トイレまで辿り着けば、もう我慢しなくてもいいのだ。おなかの中で荒れ狂う塊を、心行くまでぶちまけることができる。
 それさえできれば、もう何でもよかった。明日からの学校生活も、憧れの制服も、もう明楽の思考には残っていない。
 最後の最後に気力を振り絞って、絶望の淵にしがみ付き、ずっしりと重いパンツを抱えながらも、明楽は全身全霊を賭して凶悪なまでの便意を堪え続けていた。
 留まるところを知らず猛烈に暴れ回る排泄衝動に対し、酷使された肉体は既に限界を迎えており、ひしゃげた排泄孔はひっきりなしに粘つく爆音を奏で続けている。

 ぶびっ、ぶちゅ、ぶびぃいいいーーーっ!!

「あぐ……っ……ぅぁ…ッ!!」
 両手でおしりを押さえ、オナラを漏らしながら、次のトイレ――排泄場所を求めて邁進する。それはまるで、体内で発生したガスを推進力に歩いているような惨めで滑稽極まりない姿だった。
「ぁ、あ、ぉ、ぅ、ぃ、いっ、」
 文字通り、身も心も強烈な排泄衝動に蹂躙された哀れな少女の唇からは意味の通らない呻きがこぼれ、食いしばった口元から堪えきれない唾液が溢れる。腸内を荒れ狂う腐った汚泥のせいで、明楽は意味のある思考もできずにいた。

 ぶす、ぶ、ぶうぅっ!!
 ぶぷっ!! ぶぉぼびびっ、ばぶっ!!

 踊り場の手すりに寄りかかった明楽のスカートの下で、腸液にぬめる排泄孔がめくれ上がり、ひしゃげてねじれ、下品な音を立て続けに爆発させる。
「ぁ、あ、っ、で、出ないで、でちゃ、ダメぇ……っ!!」
 既に、何度となく膨大な量のガスと、両手に余るほどの固形便の通過を許した明楽の排泄孔はすっかり粘膜を裏返らせて拡がってしまい、再度の排泄のための準備を着々と整えつつあった。丸いドーナツ状に収縮した排泄孔は、明楽の意志に反してガスを吐き出す。静まり返った階段には次々と少女のものとは思えないほど下品極まりない放屁音が鳴り響く。
 普段なら控えめな明楽に相応しい、色素の沈着もほとんどない楚々とした可憐なすぼまりは、汚れた粘液にまみれながらくちりと内臓の肉色をそとにはみ出させ、ぱくぱくと口を開いている。
 いまや明楽のおしりの孔は、ところ構わず悪臭を撒き散らす下劣な肉の管と成り果てていた。
「ふ、はぁ…っく、ふぅっ……」
 わずかな深呼吸にも過敏に反応し、明楽の内臓は排泄器官に刺激を伝播する。耐えに耐え続けた便意は濃縮され、毒と化した内容物が腹奥でびくびくとうねる。その様は、もはや別個の生命が宿っていると評しても支障の無いレベルだ。

 ごきゅ、ぐりゅっ、ごぼぼりゅっ!!
 ぶ、ぶちゅるっ……ぶばっ!!

 そして、そこが吐き出すのはただのガスだけに留まらない。排泄孔はまるで別の生命体のように激しく蠢き、少女のおなかの内側にに閉じ込められたごつごつと固まる中身を吐き出さんとしていた。腸音はおさまることなく、明楽のうんちの孔は体内からの圧力に屈しそうに盛り上がっては中身を覗かせている。
 必死になっておしりの孔に神経を集中し、最悪の事態だけは回避しようとする明楽だが、酷使され続けた括約筋はすっかり疲弊していた。
「うぁ……くうっ……ふぅっ」
 明楽の苦しげな吐息と共に、排泄孔がきゅうと絞り上げられる。しかし、少女が渾身の力を込めて元の形を取り戻しても、すぼまりはすぐに盛り上がり、ピンク色の粘膜部分を覗かせた。
(も、もれちゃぅ……でっ、で、ちゃうっ、またでちゃうっ、……ぅううううぅう~~っ!!!)
 分泌された腸液にぬめる肉の管。排泄孔のすぐ真上まで、びちびちにうねる褐色の粘塊がやってきている。一週間もの間閉じ込められたため、完全に腐敗して悪臭と汚辱の塊となったモノが、はちきれそうに詰まっている。文字通りの“腸詰め”状態だ。少女の小さな排泄器官を蹂躙せんとばかりに激しく蠕動する直腸は、中に詰まった異物を排除しようと柔毛を波打たせ、腹音を唸らせて排泄を急かす。
「ぁ、あっあ、あーーっ!!!」

 ぶりゅぅうっ!! ぶちゅ、びちびちびびちゅっ!!

 灼熱の塊が下着に激突する。体内で捏ね上げられた塊が狭い布地をさらに盛り上げ、ごつごつとした感触の間にぬめる粘塊を満たしてゆく。もわっとこみ上げた臭気が撒き散らされ、明楽の脚を茶色の粘液が滴り始めていた。
(だ、め、だめ、だめ……っ)
 渾身の力で引き絞られる括約筋。しかし長時間の酷使の末に疲弊したそこは、もはや少女の意志を無視して口を開こうとしていた。
 それに加勢するかのように、本来排泄とは無関係の胃袋と小腸までもが蠢いて、明楽に排泄を要求していた。
 長い間本来の役割を忘れていた少女の排泄器官は、そのブランクを取り戻すかのように活動を活性化させ、おなかの中身を絞り出そうとしている。

 ぐるぐるっ、ぐりゅるぐるるぐるぐるぐるぅっ!!

(ゃだ……でないでぇっ、……っ、うんちでるっ、でるうんちでるっ、でるぅう!!)
 かつては便秘という形でオモラシを防ぐために味方をしてくれた、直腸入り口付近の硬質便は、いまや明楽のパンツの中にずっしりと詰まったままだ。怒涛のように流れ出そうとする後続の排泄物を押さえるものは何もなく、身体の機能までもが明楽を裏切っていた。
 かすかに残された少女としてのプライドのみが、疲弊し磨耗した括約筋を引き絞り、まるで意志を持ったかのように暴れ回る排泄物をどうにか腸内に閉じこめている。少女の両手は緊張と焦燥に、知らずスカートの上からぐちゃぐちゃとパンツの中をかき回し、お尻はおろか股間までをも汚らしい茶色に染めてゆく。
 それでも激しい腹腔のうねりは天井知らずに高まり続けていた。 
「は……はぁっ、は、ぅ……、ふぅっ……うぅぅっ……」
(だ、ダメ、出ちゃう、うんち、っ、と、トイレ、トイレっ、お、とイレ、トイれぇえ……だめ、でちゃう、おうちまでがまんできないっ、トイレ、うんちといれうんちでるといれうんちうんちうんちでちゃうでるでるでるぅうっ……!!)
 不恰好におしりを押さえ、くねくねと身体を揺すり、ねじり、もじもじと脚を動かして、明楽はがくがくと震える膝を引きずって、階段を降りはじめた。苛烈な生理現象に思考を退化させた明楽の脳裏には、最も慣れ親しんだ白く清潔なトイレの便器が閃光のように焼き付いていた。
 トイレまで我慢――
 それは、今の明楽にとってあまりにも絶望的な、15段、30mという距離。
(は、はやくっ、トイレ、おトイレっ、も、もれちゃ……ダメ、ダメえっ)
 永遠にも等しい道のりを前に、明楽はまだ見ぬトイレを渇望する。
 しかし脚が言うことを聞かない。がくがくと痙攣をはじめ、動かなくなった膝が自然に折れ曲がり、いつしか明楽のブラウスの背中をびっしょりと汗が濡らしていた。



 何度も何度も猛烈な波を乗り越え、排泄孔を渾身の力で引き絞り、それでもなおぶぢゅぶぢゅと汚らしい音をパンツの中に吐き出して。途方も無い旅路の果て、明楽がどうにか辿り着いた一階のトイレは、奇跡的に無人だった。
(や、やっと、やっとウンチできるっ……)
 明楽にとって、至福、幸せの絶頂の瞬間であった。渇望し続けたトイレ、うんちのできる場所まで、なんとか被害を最小限にして辿り着いたのだ。既に重く盛り上がったパンツの中にはずっしりと排泄してしまった焦げ茶の塊が詰まっているが、それでもなお――明楽の腹は激しくぐるぐると唸りを上げ続け、体内に溜まったモノを残らず絞り出そうとうねり続けている。
 狭いトイレの中、二つだけの個室のうち、片方には小さく『故障中』の張り紙があった。
 だが、少なくとももうひとつは健在だ。開きっぱなしのドアの奥では、見慣れた白いフォルムの洋式便器が、明楽をそっと出迎えてくれていた。

 ウンチのできる場所。
 ウンチをしても良い場所。

 待望の個室、白く口を開けた様式便器を前に、明楽は壁に手をついて寄り掛かりながら、慎重に一歩ずつ進んでゆく。わずかな均衡が破られれば、途端に大惨事が引き起こされてしまう。これ以上のオモラシをパンツが受け止めきれるわけもなく、吹き出した濁流はそのまま足元に飛び散ってしまうに違いない。それだけは、それだけはなんとしても避けなければいけなかった。
 少女の身体はすでにはしたなく待ちかねた排泄への歓びにうち震え、ぐるぐると猛烈な排泄反応をはじめている。
(といれ、トイレトイレ、おトイレ…うんちでちゃう、うんちでるっ…うんち出せる…っ!!)
 既に恥じらいを失いつつある明楽の心は、ようやく訪れた排泄の機会に歓喜を奏でる。もう我慢しなくてもいい。そう考えるだけでぞっとするほどの解放感が少女を包み込む。
 しかし、同時にその安心感は、明楽の排泄器官に油断をもたらしていた。

 ぶびっ、ぶびぃいーーーっ!!!

 ごぼりっ、と腹奥で不快な感触が湧き上がったかと思った瞬間、明楽の排泄孔がびちびちと激しい音を立てた。教室の広い空間ではなく、トイレという限られたスペースに散布された悪臭は先程の比ではない。個室を前にしてさらに活性化した明楽の排泄器官は、ほとんど本当の排泄と同じような状態で濃縮されたガスを吐き出していた。

 ごきゅるるるるるるぅっ!! ごろっ、ごぼっ!!

「――ぁあはぁああっ!!」
(っ、だ、だいじょうぶ、まだ出てないっ、お、オナラしちゃっただけ……っ)
 咄嗟に押さえたスカートのお尻、下着の中にぶつけられたガスの塊が、下着にへばりついた粘液をぶじゅぶじゅと攪拌する。もはやオモラシという事実は確定でありながら、明楽は被害の拡大を押さえ込むため、便意の二次災害を必死に腹奥にねじ込んでゆく。
 そんなささいな感傷は許さぬとばかり、下腹部のうねりがひときわ大きく似え滾る。灼熱の塊が、明楽のおしりを覆う下着のすぐ下でのたうつ。
 どうしようもない生理現象の猛威。荒れ狂う衝動に突き動かされ、泣きべそをかきながらも、明楽は個室のドアへとよたつきながら入っていった。
 しかし。

 ぺぢゃっ。

「え……?」
 踏み出した足が妙な感覚を踏む。タイルの上に大きく広がる水溜りに、上履きが沈んでいた。
 そして明楽は、鼻をつく悪臭の原因が、自分だけではないことを悟った。
 ぱくりと口を開けた洋式便器――便座まで持ち上がった白いトイレは、その縁ぎりぎりまで汚れた汚水で満たされていた。真っ黒に汚れた便器が限界まで汚水を湛え、さらに溢れた汚水はタイルまでも汚している。
(う、ウソ……)
 信じられない光景に、明楽はしばし言葉を失う。
 トイレは故障していた。誰かが、利用した際に水を詰まらせてしまっていたのだろう。排水は流れずにタイルまで溢れ、便器どころか個室まで歩み寄ることも難しいほどに汚れている。
 よしんば辿り着いたとしても、この状況のトイレでうんちを済ませるなど、叶うわけもない。
「い、いや……ぁ」
 か細い声で、明楽は悲鳴を上げる。目の前にすっと真っ暗な幕が下りたようだった。
(と、トイレ、壊れて……つ、使えな……っ、こ、こんなに、我慢したのに、我慢してるのにぃっ……うんち、だっ、出せないの……っ!?)
 びくびくと引きつる消化器官の反乱に、明楽はたまらずに膝を折ってしまった。力の入らない腕は低くなった姿勢を支えきれず、少女はそのまま便器のまん前にしゃがみ込んでしまう。
(――ぁ、あ、ダメ。ぅ、あ、あっ!!)
 しゃがむ、という姿勢。
 脚を開き、腰を落とし、おしりをわずかに持ち上げて、排泄孔を下にしたその姿勢は、ちょうど和式便器にまたがる格好。つまりもっとも原始的な排泄に適した姿勢だ。

 ぶぷっ、ぶぷすっ、ぶびっ!! ぶりゅぶぶぶっぶぼぼっ!!

 既にガスの音は、本当の排泄とほとんど区別がつかない。濃密に圧縮された腹圧のせいで、まるで個体のように強烈な放屁が繰り返されているのだ。明楽本人にも、まだ『ミ』が漏れていないのかは判断できなかった。
「ぁああうっ、あああああぉああぁっ、」
 それはもはや、排泄と何ら違いはない。物理的に中身を押しとどめているとは言え、激しく蠕動する直腸と内側から捲れ上がる排泄孔は、延々と排泄器官をなぶられているのと同じ事だ。
 しかし、実際に排泄が行なわれない以上、明楽の苦しみはいつまで経っても途切れることはない。一度不調になった腹腔が、異物を吐き出すことなく再びおさまることなどありえないのだ。
 ぶりゅ、ぶばぼっ、ぶびびびびぃーーっ!!
 ぱくり、とひらいた少女の排泄孔から、隠しようもない猛烈な爆音が鳴り響く。
 朝からの活発な排泄活動によって、新たに発生したガスが放出されていたのだ。膨れ上がった下腹部を少しでも楽にするため、少女の身体は積極的に擬似的な排泄行為を繰り返す。
 だが、これらの原因となっているモノを出せないのなら、それは無意味どころか悪循環だった。
 ぐいと突き出されたおしりは、まるで不恰好なアヒルのよう。もっとも危険な体勢をとる明楽の制服のスカートの下で一週間に渡って少女の腸内で腐敗し、練り上げられたガスの塊が、猛烈な勢いでほとばしる。唸る重低音で排泄孔を惨めにひしゃげさせながら、小さなおしりをぎゅっと押さえ、明楽は便座を掻きむしった。
「ぁっあ、ぁっあぁうぁっ」
 もはや嘆きは言葉にもならない。吹き荒れる猛烈な便意の嵐が、少女の理性を打ち砕く。これからまた立ち上がり気力を振り絞って便意を堪え、他のトイレまで向かう――それがどう考えても不可能な行為であることは、明楽も理解していた。
「だ、めぇ……っ」
 明楽を襲う便意の激しさを物語るかのように、少女の下腹部は激しく波打ちつづけていた。もはや疑いようもなく、明楽はこれから始まる決壊の時を耐え切ることは不可能だ。
 これほど激しくガスを排出しても、まだなお明楽のおなかはまるで収まる様子を見せなかった。ぐるぐると唸る獣のような腹音が、固形の内容物を明楽の下腹部の底へと集めてゆく。
 わずかな力だけで支え続けられている、小さな排泄孔に。
 既に明楽の下半身は便意に占領され、植野明楽という少女は、ただ出てしまいそうなうんちを我慢するためだけに存在しているといっても過言ではなかった。
(も、もう、今日から、中学生、なのにっ……)
 ぎゅっと閉じた瞼から涙が滲む。
 ひっきりなしに唸り続ける下腹部が、ごぼりごぼりとうねり、蠢いて、下品な重低音を何度となく響かせる。
 1週間前――月をまたいで、まだ明楽が小学生だった時から溜まり、くすぶり続けていたおなかの中身が、明楽をオトナにすることを阻止するかのように暴れまわり、少女を苦しめる。
「ぁ―――」
(やだ、だめ、だめ、だめっ、だめぇ、だめぇええッッ!!)
 びくりと盛り上がった排泄孔が、とうとう絶望に屈する。明楽が、ここでこのままうんちをしなければならないことは、避け得ない。

 ぶっ、ぶぅうーっ!! ぶびっ、ぶちゅぶぶぅうっ!!
 ぶじゅっ、ぶぶぶぶびぶぢゅっ!!

 ひしゃげた排泄孔が吹き上げるオナラが、その開幕となった。
 濃密なガスの排出で下着の中身が撹拌され、また粘液にまみれた便塊が下着の中に産み出された。地獄の蓋もさながらの激しい悪臭が当たり構わずに炸裂する。
 猛烈な便意が一気に少女の腹を駆け下る。
 本来なら七日間、七回以上に分けられて排泄されるはずだった分が、一度にダムを破壊し溢れ出したのだ。一週間お通じのなかった明楽の脱糞がたったこれだけで済まされるはずがない。明楽の腸内で荒れ狂っていた便意のもとは、まだ姿を見せてすらいなかった。

 ぶっ、ぶすっ、ぶりゅぶばびっ!!

 めくれ上がった排泄孔が激しい屁音をヒリ出す。これから始まる壮大な排泄を予告するように高らかに鳴り響いた下品極まりない音に、明楽は声を張り上げた。
「やだあっ……うんち、でちゃう……うんち、うんちでちゃだめっ、がまんしたのにっ、ずっとがまんしたのにっ、うんち、うんちでちゃう、でるぅう……っ!!」
 せめて。
 最後の最後に残った少女のプライドに縋り、明楽は下着を掴んで引きちぎらんばかりに引っ張り、汚れきったお尻を露にする。凄惨なまでに汚れきった下着の中から、べちゃ、と溜まっていた汚辱の塊が足元の汚水に落ち、飛沫を立てる。

 ぼとっ、べとぼちゃぼととっ!! ぶびっ、ぶぢゅぶぶぶぼっ!!!

「ぁああぅうっ……ぁあああああっぁ、っ」
 明楽の悲鳴もよそに、ごぶりと吐き出された硬質便の塊が、圧倒的な質量を爆発させた。下着の隙間には収まりきらない大量の極太の便塊が、直接、汚水まみれのタイルの上にヒリ出されてゆく。
 ガスの排出とは比べ物にならない、なろうはずもない。
 猛烈な腹痛と排泄欲求で、明楽はもうまともな言語すら発せられなかった。ぐっと食いしばった歯の隙間から、だらしなく唾液がこぼれ落ちる。

 ぶぶにゅみちみゅちっ、ぶぶぴっ、みちゅみちっ、ぶりゅうぃいっ

 今度は、硬質便とも違う感触。栓の役目を果たしていた排泄孔直下の巨大な塊が排泄されたことで、その奥に順番に詰まっていた排泄物が次々に押し寄せてくる。直腸を満たすのは、いつも明楽がトイレで済ませているのと同じ、程良い硬さを保った焦茶色の粘土細工だ。
 ただし――その量は桁外れに違う。1週間分の食物を溜め込み続け、とうとうそれを排出する機会を得た明楽の排泄器官は、この機を逃さずありったけの中身を絞り出そうとしていた。
「ひぐぅっ……!!」
 圧倒的な質量でこね回される排泄孔から、小さな孔を限界まで押し広げ、ついに第3派の排泄が到来した。
 汚れたおしりをひくつかせ振りたてながら、明楽は押し寄せる汚濁を塞き止めようとわずかな抵抗をした。せめて少しでもトイレの奥へ進もうとするのだが、しかし下腹部を支配する便意は少女になけなしの羞恥心を守ることすら許さない。

 ぬぬぶっ、ぶびっ、にちゅみちゅむちっににゅっ、ぶびぶぼばりゅうっ!!!

 茶色の軟体動物が、体液を撒き散らし、下着を引きちぎって明楽の身体の中から這い出してゆくかのような光景だった。伸びきったゴムの隙間からうねうねとのたうつウンチが溢れ、明楽の脚の間に積みあがってゆく。汚らしい排泄音を撒き散らしながら、明楽の下半身に汚れが蓄積してゆく。下着の隙間からつぎつぎと野太い茶色の塊が押し出され、床にべちゃべちゃと転がった。
 次々と産み落とされる恥辱の塊が、少女の心を完膚なきまでに切り刻んでゆく。
「ぁ、あっ、あふっ、く、ぐぅっ……」
 なんとか排泄をとどめようと腰をくねらせる明楽だが、腹痛に悶え排泄の解放感に震える下半身は何度となく絶頂へと突き上げられるばかり。むしろその行為は自分自身が吐き出した汚辱の塊が積み上げられた山を左右に拡げるだけだった。
 トイレの一面を覆う汚水の上、みるみるうちに焦茶色の山が積みあがってゆく。
 その間にも、腸液に覆われることで抵抗を無くした塊が、ぐねぐねと少女の小さな排泄孔を押し広げてゆく。
 可憐な少女の腹部で捏ね上げられ、貯蔵されていた悪臭を伴う焦茶色のオブジェは、前衛芸術とばかり複雑な形をこねくり回し、間抜けな放屁の音を伴って乙女のプライドを叩き壊すようにひりだされる。 生命活動の終着点、たとえ生涯愛する相手でも晒したくは無いと誓う、恥辱にまみれた排泄行為。
「やだ……ぁっ……」
 たとえようもない程の悪臭と、まるでこの世に地獄の蓋が開いたかのような惨劇。泣き崩れる明楽の耳に、さらに信じられない光景が映る。
「ね、ねえ……」
 いつの間に時間が来たのか、トイレの前には何人もの少女達が立っていた。一様に顔を青褪めさせ、ぎょっとした表情で大きく距離をとり、明楽を睨んでいる。トイレの入り口近くの床にしゃがみ込み、大量の汚物を足元に積み上げてなお排泄を続けようとしている明楽と――床一面に広がる汚水の水たまりを。
「ぁ……」
 きゅう、と明楽の心臓が跳ねた。
(や、やだ……っち、違うの、ち、ちが……っ)
 この状況で、汚水まみれになって故障したトイレと、そのすぐ前で制服を派手に汚し、猛烈な脱糞をしている少女――本来無関係なはずのふたつを、切り離して考えるのは不可能だった。
「うそ……なによ、こんな所で何やってんのアンタ」
「うわ、信じらんないッ!!」
「こ、これあんたがやったの? ねえ!?」
 ざわつく少女達の詰問に、明楽はすうっと気が遠くなるのを感じた。
「あ、ち、違、っ……あくぅぅあ!?」

 ぎゅるるるっ、ぎゅるっ、ぐりゅるるっ、ごきゅるぅうぅる!!!

 腹部を駆け抜ける荒々しい衝動は、明楽が気絶することすら許さない。
 いや、もしそうでなくとも、トイレの入り口にしゃがみこみ、踏ん張ったままの少女に弁解の余地があっただろうか。
 羞恥と混乱に幼児化した思考で腰をくねらせるも、便意は止まらない。続けて腹奥がうねり、ギュルルルルルルッという激しい異音を伴って、第4派、第5派の排泄が押し寄せる。
 既に弁としての役目を失った明楽の排泄孔は、そのまま直腸に殺到した撹拌された粘液と、排泄物が混ざったものを激しく地面に吹きつけてしまう。主人の意に添わぬとは言え、何度となく汚辱を吐き出して排泄の準備の整った下半身は、荒れ狂う排泄衝動のままにありったけの中身を吐き出した。
 めくれがった排泄孔を貫く固い感触と、みちみちと音を立てて少女の足元に山積みになる焦げ茶の塊。熱量をごっそり失った排泄孔はぎゅうと収縮し、便意の第3派の成すがまま半粘性の排泄を繰り返してゆく。
 惨めにひしゃげた音を繰り返しながら、吐き出された大量の汚物が大きくとぐろを巻いて外にこぼれ落ち、昇降口に焦げ茶色の汚辱を撒き散らしてゆく。長い間腹痛を我慢し、直腸の蠕動に内容物を撹拌されて分泌され、溜まった腸液がまるで浣腸と同じような役目を果たし、激しく収縮した排泄孔から勢い良く飛び出して廊下に飛び散る。
 1週間以上前、ちょうど3月の最終日。明楽が、まだ小学生だった頃に食べたものが、実に200時間近くにも及ぶ長い長い熟成期間を経て、オトナの仲間入りをしたはずの明楽に屈辱のオモラシを強○している。
「ち、ちがうのっ、違うのぉっ……見ないで、見ないでぇえっ!!! あぐ……ふぐぅうぅっ……ぁああああ!!!!」
 無数の軽蔑と侮蔑の視線の中、明楽はもはや取り返しのつかない屈辱をどうにか押さえこもうと必死だった。

 ぶぷっ、ぶぴっ、ぷぴぴっ、

 うんちが止まらない。文字通り、おなかが壊れてしまったかのようだった。
 ひくひくと蠢いては下品なおならを繰り返し、盛り上がった明楽の排泄孔がにじみ出る腸液を撹拌する。直腸で分泌された粘液が蠕動を促し、少女に屈辱的な排泄姿勢を強○する。ぶじゅぶじゅと漏れ出るガスの連続音は、少女の直腸が圧倒的な質量に半ば占領され、限界を迎えつつある事を示していた。少しでも内部の容積に余裕を作るため、腹圧に負けたガスが自然に漏れ出しているのだ。
「ぁあああああうぅぅっ!!! また、またでるぅ……でちゃぅ…っ!!!」

 ぶびっ、ぶりゅっ、びりゅりゅりゅりゅっ、ぶじゅぶぢゅぢゅるるるびちゃっ!!
 ぶじゅぶばぶぼっ!!ぶぶぶぼごぼぶぼぼぼぼりゅーーっ!!!!

 裏返った声で次の便意を訴え、排泄を予告した明楽のおしりで、激しい腹音が轟いた。
 今度は激しく土石流のような半粘性の塊が吹き出す。量も匂いも圧倒的で、積み上げられたうんちの塊をそのまま押し流さんばかりだ。これらは明楽が過剰に摂取した便秘薬の薬効によるもので、排泄器かんの遥か奥に詰めこまれていた分になる。
 だが、まだ終わらない。明楽の屈辱の排泄劇は、こんなもので終わるわけがない。何のために今日一日を耐え抜いてきたのか。
 ――そう言わんばかりに、固形から液状、ありとあらゆる形状、色彩、悪臭のバリエーションを保ちながら、明楽の排泄は続く。
「やだ……もうやだぁ……っ」
 断続的に絞り上げられる消化器官。顔を真っ青にして明楽はおなかを抱えこみ、沸き起こる便意を抑えこもうとする。
 再度、激しい腹のうねりとともに、どぱぁと半粘性の塊が激しくトイレの中へ叩き付けられる。今日一日、明楽の下腹部から悪臭が撒き散らす原因となった大元の汚辱が吐き出された。
 すでに一人で立っていることも叶わない明楽は、成す術なく転び、自分の排泄物で汚した床の上に派手にしりもちをついてしまう。長い我慢でスカートは膝の上まで捲れ上がり、ぐちゃぐちゃと小さなおしりが足元にうずたかく積みあがった汚濁を掻き回す。
 あまりにも異様な排泄。ただのオモラシでは片付けられない大量脱糞に、周囲の生徒達も言葉を失っていた。トイレですればとか、せめて物陰でとか、我慢しろとか、そうした言葉では片付かない光景だ。常識では考えられない途方もない事態が、圧倒的な説得力をもって眼前に繰り広げられている。
 排泄と言う自然の摂理に弄ばれ、記念すべきオトナへの第一歩を踏み出した日に、訪れたあまりに不幸な少女の運命。――それを望む者がいる限り、この悲劇は終わらないのだ。
「あ、あ、あ……」
 およそ、20数分に渡って。明楽の排泄孔はいつまでもぱくりと開き、そこから悪臭を伴う塊を吐き出し続けた。




 (了)

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シロフミ 2020/08/05 22:28

明楽の入学式・中編

(あ、開いたっ、わたしの番だっ…!!)
 弾かれるように、明楽は飛び出していた。中に入っていた子が出てくるよりもはやく個室に駆け寄って、ほとんど押しのけるようにして中に飛び込む。いきなりのことに相手が『きゃっ』と小さく驚きの声を上げるが、すでに明楽には個室の奥にあるうんちを済ませるための場所しか見えていない。
 個室に入るなりドアを乱暴に締め、後ろ手にがちゃり、と鍵を落とす。
(は、はやくっ……しなきゃっ……、で、でちゃうっ)
 周囲からの視線を高い壁に遮られ、小さな密室となった個室が完成する。薄桃色のタイルと、しゃがんで使用するタイプの和式便器。
 そこは紛れもないトイレ、うんちをするための場所。明楽が、自分を苦しめ続ける腐ったお腹の中身を排泄することを許された、秘密の花園だった。

 ぷ……ぷうっ、ぷすすぅっ……

(ま、待って、まだダメっ……!!)
 待望のトイレを目の前にして、先走った排泄器官が敏感に反応する。排泄孔がぷくりと盛り上がり、下着の奥で可愛らしいオナラの音が響く。おしりの孔を必死に締め付けて、もう今すぐにも始まってしまいそうな排泄をぎりぎりのところで抑え込み、明楽は震える指先で下着に手をかけた。
「――それにしてもさ。すごかったわよね、さっきの」
「もう……やめてよその話。思いだしちゃうじゃない。気持ち悪い」
「ホント臭かったよねー」
(っ……!?)
 ドア越しにもはっきりと届く少女達のお喋りの中に混じった、聞き逃せないフレーズを聞いて、反射的に明楽の下腹部がきゅうっと縮みあがる。
「なに考えてるのかしらね、あんな時にオナラとかって信じられなくない? トイレ行けばいいのに」
「音もすっごかったよぉ? ぶびびびびー、なんつって」
「やっだ、下品だってばっ」
「ぶぶぶぅーっ……あっはははっ!!」
 物真似に反応した少女達が一斉に笑いだす。それはおそらく、明楽の仕出かしたガスの放出の口真似だ。実際はその大半がかすかな音しかない、いわゆる『すかしっ屁』だが、彼女達は犯人が分からないゆえそれを大袈裟に表現していたのだ。
 だが、明楽の放出してしまったガスの量は確かに大量であり、悪臭もそれに勝って凄まじいものだったのは確かだ。
「ホント誰なんだろうね、アレ」
「さあね。でもさ、あたしだったら絶対あんなところでできないわよ? もう失格でしょ、女の子としてさぁ」
「言えてる。あんなのして平気なんだったらいっぺん死ねよって言いたいわね」
「笑い事じゃないってば。前の席の子、最初わたしがしたと思ってこっち睨んでるのよ? 誰だか知らないけどふざけんなって感じ」
(ぁ……っ)
 よくよく注意すれば、そのその声のいくつかには明楽も聞き覚えがあった。教室で明楽が聞いたもの――そして、明楽をたしなめたポニーテールの少女のものだ。
 蒼白になる明楽を、低く唸る下腹が責め立てる。

 ぐりゅるるるぅ……

(ぅ、あっ、あ、やだっ、やぁあっ……)
 下着の中にまたもぷすっ、ぷすぅとガスを吐き出して、明楽はへっぴり腰になりながらお腹を押さえ込む。むぁっと込み上げる自分の臭気に、少女は真っ赤になって俯いた。
「ホント信じらんない。ふつー、中学生にもなってあんなオナラできないって。子供じゃないんだからさぁ。我慢しろって感じ」
「ってかアレもう漏らしちゃってたんじゃないの? あんな臭かったんだし」
「言えてるー。ねえ、その子何食べてるのかな。やっぱ腐ったゴハンとか?」
「生ゴミじゃないの?」
「あははっ、ひっどーい」
(や、やだ……っ)
 彼女たちもドア一枚を隔てた向こうにその張本人がいるとは思わないのだろうか。明楽を傷つけるには十分すぎるほどの、あまりに理不尽で暴力的な言葉の群れが次々と並べられてゆく。晴れの入学式で途方も無い悪臭を撒き散らした惨劇の『犯人』の顔が見えないことが、かえって彼女達の非難を際立たせていた。
「だってあたしの身にもなってよ。すぐ目の前ぽかったのよ? もう臭くて臭くて。毒ガステロなんてもんじゃなかったんだから。ふざけんなって感じ」
「幼稚園とかならわかるけどさぁ。いい歳してちゃんとトイレ行けよって話よねぇ」
「きっと毎日オモラシしてるんだよ。ああいう子ってさ」
「あはは。かわいそー」
 応じる少女達の――恐らくは、明楽と同じ教室で学ぶであろう、クラスメイト達の無遠慮な笑い声。
 明楽はぎゅっとおしりを押さえ、ぐるぐるとうねる下腹を抱え込みながら、じっと小さく身を丸める。
(ダメ、出ないで、でちゃだめぇ……っ!! き、聞こえちゃう……!!)
 灼熱に滾るガスが激しく前後する腸の中身は、どう考えてもおとなしく外に出てくれるとは思えない。一度や二度音消しの水を流したところでとてもごまかせるものではないのは明らかだった。ひとたび排泄が始まってしまえば、暴力的なまでの直接的、間接的な被害を周囲に撒き散らすのは明白だ。
 加えて、ここのトイレは、なんとも巡りの悪いことに和式だった。排泄物が水に沈む洋式ならば防げたはずの悪臭が、そのままダイレクトに外に拡がってしまう構造なのだ。
(……っ)
 確かに女子トイレの個室は外からは隔離された見えない密室だが、一見頑丈な四方の壁も、安全と管理の問題上から上下部分に大きな間隙をつくっており、物音も匂いも遮るものはない。
 つまりは、ここでうんちを始めてしまえば、その瞬間に明楽がナニをしているのか、いまトイレ入っている生徒達にもはっきりと伝わってしまうのだ。

 ぐりゅりゅるるるぅ……

 激しく下腹がうねる。蠕動を繰り返し圧力を高める下腹部が、その中身を吐き出そうと少女に訴えかける。
(……無理だよぉ……っ、ここじゃ、……うんち、できない……!!)
 目の前に、やっとうんちを済ませることのできる場所が、切望していたトイレがあるというのに。非情にも現実は明楽に排泄を許さなかった。
(がまん……がまん、しなきゃ……)

 ごろ、ごろろるっ……ごきゅう……

 あまりにも不穏にくねる排泄器官の蠕動を、ぐっと飲み込むように下腹部を押さえながら。明楽はとうとう諦めてドアの鍵を開ける。形だけ流した水の音が、まったくその必要のない、綺麗なままの便器の中を洗い清めてゆく。
 より一層排泄欲を刺激する個室をあとに、明楽は足早にトイレを立ち去った。



入学式を終え、初めて顔を会わせるクラスメイトたちが互いに自己紹介をし、これからの学校生活を語り合う。部活のこと、学校行事のこと、授業のこと、テストのこと。なにもかもが初体験ばかりの期待と希望に満ちた学校生活。
 担任の教諭がまだ到着していないため、どこか緊張を孕みながらも、穏やかに弛緩した雰囲気が教室には満ちていた。明楽が教室に戻った頃にはまだ皆真面目に席についていたのだが、15分もすると雑談が始まり、いまはすっかり騒がしくなっている。すっかり打ち解けた女子グループの数名は、早速これから放課後にカラオケに行こうと盛り上がっている様子だった。
「………っ、ふ……」

 ぐきゅ……ごりゅるるるっ……

 しかし、明楽の身体はそんなリラックスした雰囲気の対極に置かれていた。
 少女はひとり、クラスの喧騒をよそに押し寄せる激しい便意と戦っていたのだ。
(は…やくっ、でちゃうぅっ、はやく、うぅっ……)
 ひっきりなしに唸り続ける下腹。濃縮されたガスと固形の内容物、そして分泌された粘液が撹拌され、出口を塞がれた明楽の腸内で暴れ続けている。
 せっかく辿り着いたトイレでも解放を許されなかった、内なる猛烈な衝動。
 もはやこれは百人中百人が認める、激しい便意だった。
 一週間をかけて貯蔵された腹腔の中身を、容赦なく引っ掻き回すとめどない蠕動。明楽は椅子の上に腰を浮かしては息を荒げ、座板におしりを押しつけてぷくりと膨らむ排泄孔を渾身の力で引き締める。
 少女の意志を無視して高まる腹圧で押しだされんとする内容物は、明楽の直腸、排泄孔のすぐ真上まで迫っている。うんちができないならばせめてガスだけでも放出して楽になりっておきたいところだが、クラスメイト達が席を寄せあったこの状況ではそれすらも許されない。
(ぅ……はぁっ…くぅぅっ……)

 ぐぎゅ……きゅるるっ、…ぐりゅぅう……

 体内で蠢く不気味な駿動。ふっくらと膨らんだ少女の下腹部は、骨盤に伝播する危険な震動を伴って激しさを増しながら、じわじわと下降を続けている。朝の自宅、通学途中のコンビニ。入学式後、ほんの10分前の体育館横。いずれのトイレでもできなかった排泄作用が、いま、この教室の片隅で再現されようとしていた。
「く……ぅぁっ……」
 きりきりと高まる腹圧に耐えかねて明楽が腰をくねらせた途端、ごぼっ、と腐敗発酵したガスが体奥から湧き上がった。
 突如直腸で膨らんだ猛烈な屁意に明楽は小さく悲鳴を上げる。
(っ!!! だ、だめっ、出ちゃダメぇ……っ!! が、がまん、がまんするのっ!! しなきゃダメえ……!! っ、お、おなら……みんなにっ……ひっかかっちゃうっっ……)
 すぐ後ろには、明楽と同じように席に座り、ホームルームを受けているクラスメイトがいる。その鼻先のすぐ前で濃密なガスを吐き出すなど、決して許されることではなかった。明楽はあらゆる感覚を総動員して苦痛に耐える。
 腹腔の内部で暴れまわる内容物は、液体・固体・気体が渾然一体となった混沌の排泄欲となって、少女の可憐な排泄孔に殺到する。一週間の熟成を経て暴れだした猛威が少女の小さな下腹部には到底納まりきるわけもなく、明楽の恥ずかしいすぼまりはぷくりと盛り上がり、少女の意思に反して内側に溜まった汚辱を放出しようとする。

 ぷ、……ぷ、っす……ぶすっ……

(出ないでぇっ、で、ない、でぇえっ!!!)
 机の角を握り締め、ぐいぐいと腰を揺すり、おしりを椅子に押しつける。それでも完全には抑えきれない悪臭が、断続的に明楽の腹の中から漏れ出てゆく。
 わずかに盛り上がった排泄孔からくちくちと吐き出される汚臭を振り払うこともできず、明楽は固く身体を硬直させたまま、荒れ狂う下腹部の猛威が過ぎ去るのを待つしかない。どうか気付かれないようにと必死で祈りながら、生涯最悪の苦痛に抗おうとする明楽を嘲笑うように、腹音はさらに激しさを増した。

 ぐるるっ、ぐぎゅうるるるるっ、ごぼぎゅるるるうっ……

「ぅ…は……く……ぅっ……!?」
 今度はなりふり構っている場合ではなかった。獰猛に唸り続ける下腹部をさすり、脚の間に押し込んだ手でスカートを掴み、明楽は両手を使い、身体の奥からやってくる絶望に抵抗する。全身の力を込めて排泄孔を締め付け、汚辱の暴発を防ごうとする。しかし高まる便意は天井知らずに激しさを増していった。
(うぅくっ、あ、だめっ、出ちゃダメっ、がまんっ、がまんするのぉっ……っっ!!)
 声にできない悲痛な叫びを噛み締め、明楽は恥も外聞かなぐりすてて抵抗する。しかし出口のすぐ前で荒れ狂う便意が、乙女の繊細な心を無慈悲に引き裂いてゆくばかりだ。
(あ、あっ、ぅ、ぁ、ぅ、……~~っ!!)
 腹腔が直接ねじられるような容赦のない蠕動。蠢く内臓が自然の摂理に従い、明楽にこの場での排泄というもっとも恥ずかしい行為を促してくる。びく、びく、と突っ張る脚が宙に浮かび、爪先が床を擦る。
 悲痛な叫びと共に、少女の身体はしばし我慢の山脈の頂きで硬直し、やがて緩やかに弛緩していった。

 ごぼ……ごぽっ……ぐる、ごきゅう……っ

 無限にも思える長い絶望の時は、不意に訪れた異音で終わりを告げた。
 必死に閉ざされた孔の奥で、荒れ狂う猛威が鈍い音を立てて、ゆっくりと腹奥へと戻ってゆく。直腸の熱い塊が腹腔の奥へ引き返す不快感と共に、明楽は溜め込んでいた息を吐き出した。
「はぁ……はぁっ……」
 全身全霊を賭した我慢劇は、ひとまず明楽の勝利で終わったのだ。極限の緊張からいっときの解放を許され、肩で大きく息をついて汗ばんだ手のひらを握り締める明楽。
 しかし、激しいうねりこそ治まったものの、不気味に唸り続ける少女の腹奥には、まだ張り詰めた違和感が残っている。蠢く蠕動は腸璧を活性化させ、さらなる粘液の分泌とガスの発生を促成させる。一度稼動した消化器官がほどなく前にも増して熾烈な第二派をもたらすことは火を見るよりも明らかであった。
 だが、極限の戦いを強いられて疲弊した明楽は、わずかに与えられた安堵と休息の時を貪るように、机の上にがくりと体を倒したのだった。
(もうやだ……なんで、こんな……)
 涙を滲ませながら、己の不運を呪う明楽。体育館を出たときにちゃんとトイレができていれば、こんなことにはならなった。いや、せめてガスだけでも十分に放出していれば、少しは楽になっていたかもしれない。そもそも、家を出る前にちゃんとトイレを済ませていさえすれば済んだこどなのだ。
 きちんとトイレにも行けない――トイレのしつけすらできていない自分。新しい学校に通うのに、そんな小さな子供でも当然のことができない自分を、明楽は恥じていた。
 だが――彼女を苛む運命は、さらに容赦なく少女を追いこんでゆく。
 不安定にぐるぐるとうねる下腹部を庇いながら、明楽は泣き言を繰り返すしかできなかった。
(お願いっ……おさまってよぉ……)
 そんな少女の願いもすでに虚しい。すでに排泄衝動はどうしようもないところまで来ており、明楽はそれに乙女の頑張りだけで抗っている状況だった。
 いったんは治まりかけた腹音は、ほとんど間を置かずすぐに活性化を再開する。クラスメイトに囲まれた中で失敗はできないと、緊張を強いる環境に耐えかねて均衡を崩した下腹部は猛烈な蠕動に支配され、一触即発の状況を続けていた。
 腹腔を上へ下へと蠢くうねりが何度となく危うい境界線を脅かし、最悪の事態を引き起こそうとしていた。
 下腹に当てられた手のひらにはっきりと伝わる下腹部のうねり。腹腔を掻き回す濃密なガスと、それに連動してこね回される固形物の蠕動が、明楽の身体から容赦なく体力を奪ってゆく。
 少女の体内奥深くでゆっくりと蠢く消化器官の蠕動。猛烈な便意を誘導する身体作用は、一週間もの間果たされていなかった排泄という作用を明楽の体内に要求する。

 ぐきゅるるっ、ぎゅるごろろごろごろっ、ごぼっ!!

「……ゃ、ぁあっ……!?」
 大きなガスの気泡が直腸へと流れこみ、ごぼりと激しく破裂した。
 立て続けに牙を剥いて襲い掛かってくる排泄衝動。暴れ回る腹腔の唸りは見る間にすさまじい勢いで膨れ上がり、少女の小さな双丘の谷間、恥かしいすぼまりに殺到する。
(だ、だめっ、したくなっちゃダメっ、ダメ。ダメなのっ、出ない、出ないでぇ…っう、……ぅああっ…やだっ、ぁあっ、おなか……トイレ、トイレぇっ!!)
 渇望するトイレに立つことも、椅子を引くことすら許されない激烈な排泄欲の前では不可能に近い。反射的にもう一方の手で机を握り締め、椅子の上にわずかに浮かせた腰に力をかけ、全身ありったけの力で排泄孔を引き締める。
 ぼこん、ぼこんと下腹部が脈動する。消化器官の蠕動にあわせ、一週間、七日もの間にぎっしりと詰め込まれた内容物が腸内の粘液に包まれてねっとりと前後運動を始めているのだ。またも濃密なガスが直腸に押し寄せてくる感触に、明楽はぐったりと俯いた。
(やだ、おなら、おならしたいっ……こんなのヤダっ、やだぁ……っ)
 暴れ回るおなかを必死になだめながら、明楽は小さくしゃくりあげる。
(でちゃう……おなら、また出ちゃうよぉ……)
 無論、明楽が本当に出してしまいたいのはオナラではない。
 しかし、トイレにも行けず、漏らしたくもなければ、わずかずつでもガスを出すしかない。そうして少しでも腹腔をなだめるほかの選択肢は残されていなかった。
 繰り返される蠕動運動は凝り固まった排泄器官をじわじわと揉みほぐし、長い間の便秘ですっかり忘れ去られていた排泄機能を活性化させている。
(だ、だめ……)
 何かにすがるように、明楽は机の端を握り締めた。じっとりと汗をかいた手のひらがぬるぬると不快な感触を示す。たとえどれだけ我慢を続けても、明楽のおなかに詰まった中身が消えてなくなることはないのだ。
 下着の下でぽこりと膨らんだ明楽の下腹部では、腸の中で水分を吸われ固まった固形物がぐねぐねと蠢いている。さらにその奥では、まだはっきりとした形を持たない大量の排泄物が腐った泥のように渦巻いていた。

 ごきゅぅううう……

 明楽が下腹部の重みを再確認したそのとき、激烈なうねりが腹奥からお尻のすぐ真上へと沸き起こる。それは激しい爆発の予兆だ。狭い直腸の中で、蠕動を伴った粘膜が激しくくねり、大きなガスの気泡が立て続けに弾ける。すでに限界まで内容物を詰めこまれた直腸に、怒涛の勢いで圧縮されたガスが流れ込んだ。
「っ―――!?」

 ごぽっ、ぐきゅ、ごぷりゅぷっ。
 ぷ、ぷっ、ぶぴっ、ぶりゅぶぴぷぷぅっ!!

(ぁ、だめ、ダメっ、だめぇっ!!?)
 圧倒的な密度と質量、それをも超える速度で込み上げてきたガスを抑え込むため、明楽は全身を鉄のように硬直させ、圧力の集中する排泄孔を渾身の力で絞り上げる。しかし、少女の意思とは別に蠢く排泄器官はそんな抵抗をやすやすと押し砕き、熱い衝撃が直腸粘膜を突き破って弾ける。限界まで括約筋を引き絞られ、収縮しながらも内圧にひくひくと震える少女の小さな排泄孔。そのわずかな隙間を貫いて、瞬く間に汚らしいガスの塊が外へと排出される。

 ぶぶりゅっ、ぶすっ…ぷぅっ!! ぶぶりゅぶぉびぴいぃッ!!

 クラスのざわめきを掻き消すかのように、猛烈な放屁音が響き渡る。
 その激しい音に誰もが呆気に取られ、一瞬、教室の中に奇妙な沈黙が落ちた。
「ぁ……や、……っ」
 喉から飛び出しそうな悲鳴を抑え、明楽はぎゅっと目を閉じた。
「っ……!!」
 二つ隣の席で、がたんと机を揺らして女性とが飛び退いた。
 同時に、明楽の周囲の席から数名の生徒が次々と立ち上がる。それに呼応するかのように、まるで空気を塗り替えるかのようなすさまじい悪臭があたりに巻き起こった。
 ざわめきは瞬く間に蘇り、あっという間に教室全体を包み込んだ。窓際に駆け寄った生徒の一人が窓を全開にし、隣の生徒がそれに倣う。
「うわッ……ちょ、なによコレっ…!?」
「うぷ……ね、ねえ、これって……さっきの」
「ウソぉ……さっきのってひょっとしてウチのクラスだったの? ……止めてよもう……最悪っ……下品すぎっ」
「何食べたらこんなになるワケ? ……ねえ、そっちの窓も開けてっ!!」
 これで通算3回目となるガスの放出だった。
 しかも回数を経るごとに悪臭の度合いは増している。これは活発な排泄器官の蠕動によるもので、明楽の身体が本人の意思を無視してどんどんと排泄の準備を整えていることの証左であった。
 突発事態の毒ガステロに騒然となったクラスの中で、明楽は羞恥と下腹部の苦痛に動くことができず、ただぎゅっと身を縮こまらせる。
(で……でちゃった……っ)
 言葉にすれば単純な、けれどそれどころでは済まされない最悪の事態。
 これからの一年を共に過ごしてゆくクラスメイト達の前で、汚辱の塊のようなガスを排泄してしまった明楽。これはもはや決定的な事態といっても良かった。
 だが――
「っ…………」
 顔を背け、眉をよじりながらもクラスメイトの視線は周囲をぐるぐるとさ迷い、明楽を特定するには至らない。まだ見知らぬ顔が多いことや、雑踏の中で席を立ち歩いていた生徒も多く、誰が犯人なのかまでをはっきりと理解した生徒はいなかったのだ。
 騒然となるクラスの中で、これまでの友好ムードは一転。猜疑に満ちた視線が教室を飛び回り、毒ガステロの犯人を見つけ出そうとする。
 となりのグループでは、疑心暗鬼に陥った生徒のグループがそれぞれに顔を見合わせて、突如訪れた大惨事の犯人が自分ではないことをアピールしあってていた。
「ねえねえ、今の……」
「ち、ちがうって。何言ってんの? もう、あははっ!!」
「私じゃないってば。もう、誰よいまの!?」
「あのさ、ひょっとしてあの子じゃない……?」
「ホント? 信じらんない……朝からずっと……?」
「ウソぉ……」
「え、ちょっと待ってよ、違うわよ!?」
 ちらちらと周りを窺いながら囁き交わすクラスメイト達。もちろん表立って認めるわけにも行かず、皆が軽蔑を滲ませながらも、赤く染まった顔を俯けている。犯人を特定できないゆえに明確な非難にはならない澱んだ敵意が、不穏な空気を加速させてゆく。
 そんな中――
 明楽は、少しでもその非難の声が遠のくように願いながらただじっと沈黙を貫き、必死になって下腹部の衝動と戦っていた。
「くぅぅッ……」
(お願い、おさまってぇ……い、いまはだめ、“今”だけはだめぇ!! ……ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……ッ!!)
 全身全霊をかけて排泄孔を絞り、我慢に総力をそそがねばならない明楽にできることは、そうやって祈ることだけだった。泣きじゃくりそうになるのを必死に堪え、じっとじっと身を固くして、猛烈な便意がわずかでもおとなしくなってくれることを願う。
 あれだけのガスを吐き出してなお、明楽の下腹部はぐるぐるとうねっている。少女の膨らんだ腹腔に溜まるガスは活性化を続け、すぐにも今と同じかそれ以上の規模の第2、第3の茶色い悲劇をもたらす予感を色濃く感じさせていた。
(おねがい……っ)
 それはもはや無駄な行為にも思えた。
 だが、もはやこの哀れな少女には、入学式早々、教室でのオモラシという恐怖の前に祈るくらいのことしか許されていなかったのだ。
 そして――
 はたしてその祈りが通じたか。
 途方も無い精神力で耐え続けた明楽に根負けしたかのように、きりきりと激しく蠢いていた下腹部が、わずかに緩む。ほんのわずか、休まることのない大荒れの狭間に生まれたささやかな休息がやってきたのだ。
 ゆっくりと安堵の息を漏らす明楽。手のひらにはじっとりと熱が篭り、背中は嫌な汗をかいてシャツをべっとりと肌に張りつかせている。
(は……っ、は……っ、く……)
 どうにかほんの少しだけ産まれた余裕に、肩を震わせ息をする明楽。
 緊張していた全身がわずかに弛緩し、じわりと汗を滲ませた。
 だがそれも一時のこと。すぐにまたそれを上回る猛烈な大波が押し寄せるだろうことを明楽は悟っていた。
(い……行かなきゃ…トイレ、…お手洗いっ……)
 ぎゅっと唇を噛み、明楽は覚悟を決める。
 次の発作にはきっと耐えられないであろう事を、明楽は本能的に気付いていた。少女として最悪の結果を迎える前に、一刻も早く排泄を済ませてしまわなければならなかった。
(いまならきっと空いてるし……ちょ、ちょっとくらいなら、外に行っても気づかれないはず……!!)
 まだ相手の顔もはっきりと解らない新入生クラスであったとしても、ここまであからさまな状況の中で机にしがみ付いたまま動こうとしない明楽は、あまりにも不自然で怪しすぎる。そのためのカモフラージュにもなるはずだった。
 わずかにできた余裕を最大限利用すべく、明楽がおなかを庇いながら慎重に席を立とうとした、その時。
 がらりと教室のドアが開いた。
「よーし、席に着け。遅れて済まんな」
 姿を見せたのは、クラスの担任である男性教諭。出席簿と大量のプリントを抱えて登場した担任の姿に、クラスメイトたちは慌てて席に戻る。
「えー、静かに、静かに。ちょっと予定が遅れているんでこのままホームルームに入るぞ。すぐ終わるから席につけー」
 手慣れた風に教卓に付いた教諭は、明楽のことなどお構いなく、教室内を見回してそう宣言した。
 またもトイレに行く機会を奪われて、少女の下腹部はきゅぅと差し込むように鈍く痛む。
「ぁ……っ」
「……ああ、その前に少しだけ休憩にするか。トイレなど行っておきたいものは今のうちに行っておきなさい」
 教諭の声に、しかし1-Cのクラスメイトは誰一人立ち上がろうとしなかった。
 誰の胸にも、入学式と教室の中、立て続けに3度にも渡って毒ガステロを引き起こした誰かの存在が強くこびり付いている。このタイミングでトイレに立てば『ずっとうんちを我慢していた犯人』にされかねなかった。
 多感な中学生の少女達が新生活の最初の日に、そんな後ろ指をさされることに耐えられるわけがない。
「なんだ、誰もいないのか? ……じゃあこのまま続けよう。いいな?」
 もう一度窺うように教師が教室の中を見回す。
 しかし、一度できてしまった『トイレには行けない雰囲気』の中でそんなことをしても逆効果でしかない。
「よし、じゃあまずプリントを配る。前から回して、足りなければ後ろで調節しておきなさい」
(あ……ああ…っ)
 まさに最悪のタイミング。明楽がトイレに辿り着くための最後の機会は、こうして失われてしまっていた。浮かせた腰が、すとんと椅子の上に落ちて、また明楽の下腹をぐきゅぅうるるる……と唸らせる。
 今なら、トイレはさっきの時よりもずっとずっと空いているはずだ。明楽のおなかがどうしようもなく壊れてしまっていたとしても、誰もいない個室で、回りを気にせずすっきりする事ができるはずだった。
(かみさま……っ)
 長い長い、果てしない我慢の末、やっと訪れた千載一遇のチャンスを前に、明楽は黙ってそれを見過ごすしか許されなかった。


 ◆◆◆


「よし、全員プリントは回ったな? 3枚目の……」
「先生、足りませーん」
「っと……おや、済まん、こっちにあるんで取りに来てくれ」
 机の上のプリントの束を漁ってから、教諭が説明を続けてゆく。一年の行事や注意、早速明日から始まる授業、教科書の配布。てきぱきと進められていく初日のホームルームは、明楽の耳を右から左へと通り抜けてゆく。
(っ……おさまって、おさまってよぉ……っお願いぃ……っ)
 12歳の少女が強いられるにはあまりに過酷な排泄衝動。ほとんど治まることもないそれは、断続的に激しい腹音を響かせ、猛烈な便意を叩きつけてくる。痛いほどの羞恥を感じながら、言うことを聞かないおなかを必死になってさすり、明楽は再度の発作が起きないよう祈る。
 だが……
「は…っ、はっ、はーっ、はふっ、はぁっ」
 ぎゅるぎゅるとねじり上げられる下腹部のうねり。もはや蠕動と呼ぶこともはばかられるような排泄器官の脈動は、まるでそこにひとつの生き物がうねっているかのようだ。
 一週間にも渡って蓄積されてきた排泄物は、汚らしいガス音を響かせて少女の腸内で暴れ回る。
 ぷぴっ、ぷぴゅ…ぶるっ、と絶え間なく音を漏らし続ける排泄孔はひっきりなしに盛り上がり、直腸を限界まで拡張して押し込められた中身を吐き出そうとする。

 ぐるるるぎゅるるるっぐぐううぅ、ごぽっ。

「うぁ……く、ふぁ……」
(おトイレ……うんち、うんちぃ、でちゃうっ……)
 全身全霊、思考の一片たりとも余すところなく総動員して、明楽は腹奥から込み上げてくる凶暴な排泄衝動に抗う。それでも時折我慢しきれずに漏れ出してしまうガスが、ひっきりなしにヒクつく排泄孔ではしたない音を立てる。ひり出されるモノはもはや気体だけとは言いきれず、明らかにガス以外の熱く湿ったなにかを吐き出すような汚らしい音を伴っていた。

 ぶぷっ、ぶぴりゅるっ!!

 そのたびにこの世のものとは思えない悪臭を漂わせる明楽は、だらしなく排泄孔が緩むたび、懸命に身体をよじってその腐臭を散らそうとしていた。
 少量ずつとは言え、自制をなくして立て続けにガスを漏らしてしまっている明楽のお腹は、もはやこのまま排泄をはじめてもおかしくなかった。すっかり柔らかくなった排泄孔はわずかな刺激だけで下着の中に汚らしい茶色の塊を吐きだそうとしている。

 ぷぷっ……ぷすっ……ぷちゅるっ……

 腸粘液でぬめる排泄孔はその内側の肉色が解るほどに盛り上がり、粘膜部分を外気に晒している。長時間酷使されてすっかり赤くなった腸粘膜はじんじんと疼き、むず痒さを伴って排泄欲を助長させている。
 ぱくぱくと口を開く排泄孔は、明楽が溜め込んだ排泄物を溶かした粘液をじわりじわりと漏らし、ぷちゅぷちゅと茶色い泡を立て、明楽の下着に隠しようもない茶色の染みを作っている。
 汗でぐっしょりと湿った感触のせいで、明楽はその汚れが何によるものなのか理解できずにいた。
「っは、……っふっ……っふ……」
 きりきりと高まりながら断続的に打ちつけられる排泄欲を堪えるたび、明楽の背筋がくねり、腰が揺れ、ぎゅっと閉じられた脚が硬直し、体重を乗せられた椅子がぎしぎしと軋む。
 額に首筋に汗を滲ませ、ハンカチを握り締めて息を詰める様子はまるで出産を控えた妊婦のような有様。しかし明楽が耐えに耐えておなかの中に抱え込んでいるものは、新たな生命などというモノとは正反対の、穢れた存在。溜め込んだ食物のなれの果てがこねくり回され、腐り果てた残りカスだ。
(やだ……なんで、なんで、わたし……っ……今日、入学式だったのに……っ、今日から、もうオトナ、なのにっ……)
 きちんとトイレに行くこともできず、、きちんと我慢もできない。うねる下腹部がまるで自分の未熟さの証のようで、すでに明楽のプライドはズタズタだった。
 とにかく一刻も早くこの場所から解放されて、うんちを済ませたい。おなかの中のうんちを残らず出してしまいたい。そのことしか考えることができない。
(ぁ、あッ、ダメッ!! ッで、でちゃ…うぅぅ……ッッ!!!)

 ぷ、ぷちゅっ、ぷちゅるッ……ぷすっ、ぷぅぅ……

 またも悪臭を撒き散らす明楽の排泄孔だが、当の明楽はそんな状況に構う余力がない。直腸に硬く詰まった便塊が孔内部にとどまっていることが、明楽の唯一のオモラシへの免罪符だ。
 すでに疲弊した括約筋はとうの昔に限界で、いつ力尽きてもおかしくない。わずかに緩んでガスを漏らす刺激さえ危険なものだ。ほんの少しでも油断すれば、たちまちのうちに下劣な卑肉の管と成り果てた明楽の排泄器官は、小さなおなかの中に辛うじて留めている汚辱の塊を残らず吐き出してしまうに違いない。
 蠕動運動で程良くこね上げられた直腸が折りたたまれては引き伸ばされ、次々と粘液にまみれた固形のうんちの塊が押し寄せてくる。もうこれ以上入らない場所に無理矢理ごつごつとした塊を押し込まれ、まるで排泄孔を犯されているかのような有様だ。
(ぁ、あっあっ、ま、待って、ダメ、だめぇ……)
 なるほど確かに、幼い排泄孔を襲う排泄衝動はいつ果てるとも無く明楽を蹂躙し続ける。教諭の話も上の空で、明楽はいつ果てるともない恥態を繰り広げていた。
「っ、ふ……ぁ」
 腹奥に猛烈な便意を飲み込んで、明楽はぎゅっと堪えていた息を吐いた。ごりゅるるぅっ、とガスが逆流する不快感に耐えきれず、身体を弛緩させる。
「ねえ、あなた?」
 不意に聞き覚えのある声がして、明楽は俯いていた顔を持ち上げる。
 そこには、入学式で明楽の隣に座っていたポニーテールの少女の姿があった。
「……えっ」
 いきなり話しかけられて、明楽は呆然と間の抜けた声をあげてしまう。
 まさか、彼女に自分の惨状を知られてしまったのでは――そう考えた明楽の背筋が冷たくなる。
 ポニーテールの女生徒は、吊り目気味の視線をさらに険しくし、怪訝なものでも見るように明楽を睨む。
「どうしたの? さっきから――具合でも悪いの?」
 まるで、そんなに辛いのにどうして自分でなにもできないのかと、そう蔑むような言葉。
 瞬間。

 ぐりゅっ、ごぼごぼぼっごきゅるるるぅううううっ!!

(あ、ぁうぁあっ!?)
 不意の緊張を強いられた自律神経に反応し、明楽の下腹部で激しい蠕動がたて続けに巻き起こる。うねる腸壁が一度は奥に押し戻された中身をこね回し、少女の排泄孔目掛けて再度押し寄せた。
 あまりにも早い第二派の到来緊急警報に、油断し無防備なところを晒していた明楽の下腹部はあっという間に占領されてしまう。ぼこぼことうねる濃密なガスの塊が熱い衝撃となって直腸で煮え滾る。
 急激な蠕動運動に腹腔が大きくよじれ、猛烈な便意が明楽の排泄器官に襲いかかった。

 ぐごっ、ごきゅるるるるぅぅっ!!

「ぁうぅう……っ!?」
 耐えきれないほどの下腹のうねりに身体を大きく曲げて、腹を押さ込んでしまう明楽。ポニーテールの少女が眉を潜める。
「ねえ、ちょっと?」
「っ、う……うぐっ、うっ、っ!!」
 気付かれぬように。不審がられぬように。それだけを考え、必死に言葉を継いでゆく。
(ダ…ッ、ダメ、ダメダメぇ……っ!! 出ちゃダメっ、ガマン、がマンんっ、ガまンんんん…~~ッッ!!)
 腹の中でダイナマイトが爆発したような心境だった。しかし、まさか春菜の目の前で脚をモジつかせたりおしりを押さえることができようはずもなく、明楽は渾身の力を込めて排泄孔を締め付ける。
 それでもわずかずつ漏れ出す汚辱のガスは、小刻みに震える少女のスカートの中に茶色の芳香を漂わせてゆく。
 そして、にち、にち、と押し出される硬く押し固められた焦げ茶色の塊が、明楽の小さなすぼまりを無理矢理こじ開けてゆく。灼熱の感触と共に拡張される排泄孔に、明楽は小刻みに震えながら声にならない悲鳴を上げる。
「っ……~~ッッ、んッッ……っ!!」
「ねえ、ちょっと、どうしたの? やっぱり具合悪いの? そうなら早く保健室に――」
 机を握り締め、前傾姿勢になったまま動けなくなってしまった明楽。もはや猛烈な便意のなすがまま蹂躙させるしか道は残されていない。

 ごりゅ、ごぽぽっ。

「あ、あっ」
 耐え切れず、明楽の恥ずかしいすぼまりがぷすっとガスを吐き出す。
(あ、くぅぅぅ……っ!?)

 ぶっ、ぷ、ぷっ、ぷぅっ、ぷぅうっ……ぷぴっ、ぷすっ……

 滑稽にすら聞こえる断続的な放屁。蠕動する直腸のうねりがそのままお尻の出口へと繋がり、明楽は少しずつおならを漏らし続ける。そのわずかな放屁でさえ、周囲にははっきりと悟られてもおかしくないほどの悪臭を生んでいた。
 一週間……まだ小学生だった時から少女の腹腔に溜め込まれ、腐敗し続けたガスはまるでおさまることを知らない。
 いまやおそらく明楽の下着は言い訳のできないほど汚れているだろう。
 少女の意思を無視して、朝から続く下腹部のうねりは腹腔を余すところなく侵し、無慈悲に蹂躙を繰り返していた。繰り返される蠕動にはまだ消化作用を終えていない内容物も追加され、ごぼごぼと腐った泥のような濁流も身体の奥で渦巻いている。
 少女の直腸がこねあげた塊は、明楽の必死の我慢すら突き破り清純を汚そうと暴れつづける。
(っ、おなかイタイ……やだよぅ……っ、やだよぉ……)

 きゅるるるるるっ、ぐきゅううぅう……

 まるでそこに別の生命が息づくかのように、明楽の下腹部が蠢く。少女の消化器官の終点に向けて排泄物がのたうちながら降り下ってゆく。
 腹圧が高まり、内容物を押し出そうと蠕動を繰り返す。
 思わず足を止めてしまいながら、ごぼごぼと蠢く便意を堪え、明楽はスカートの上からさりげなく下着を掴んだ。
 ぎりぎりのところで踏みとどまろうとした明楽の我慢は――
「ちょっと、ねえっ!! トイレ? だったら早く行ってきなさいってばっ」
 小声で囁かれた苛立ちの混じる声に、限界を迎えた。
「っっ――――!?」
 薄い下着一枚に守られた少女の可憐な下腹部の奥底で、内容物を吐き出そうと肉の管が暴れ回る。 
 うんちを、がまんする。
 いまや明楽の意識は、たったそれだけのために存在しているといっても過言ではなかった。恥も外聞もなくおしりを押さえ、最悪の事態だけを必死に先延ばしにしている。
 長時間の我慢を強いられた少女の括約筋は焼きついたように熱を持ち、盛り上がった排泄孔はほんのりと薄紅色に変わっている。猛烈な便意に蹂躙された少女の幼い孔は、じくじくと痺れて甘いむず痒さを伝播させる。断続的に巻き起こる排泄衝動は意志を無視して消化器官を支配し、生命活動の残り滓を小さな孔から絞りだそうと蠕動を繰り返す。
 そして、
「――先生、植野さんがトイレです!!」
 ポニーテールの少女が、教室にはっきりと聞こえるような大きな声でそう叫んだ。
 明楽の意識が真っ白に塗りつぶされる。それだけは、絶対に知られてはいけなかったのに。
「なんだ、さっき言わなかったじゃないか……まあいい、早く言って来い」
「っ……ち、違……」
 明楽は必死に否定しようとしていた。しかし、トイレという単語に少女の下腹部は過敏なほどに反応してしまう。反射的に腰を浮かせかけた明楽の双丘の隙間で、ぷくぅ、と排泄孔が盛り上がる。

 ぐきゅぅぅっっ、ぎゅるごぶっ、ごぼぼぼっ、ぶぷっ!!

「ぁああうぅぅううぅぅぅうううぅうぅっ!?」
 汚らしく澱んだ濁流が下水に流れこむかのごとき下品な音を立て、明楽の下腹部が激しくうねった。排泄器官と一体化した腸内の蠕動は、ダイレクトに明楽のおしりの孔を直撃し、土石流のように渦巻く便意を爆発させる。
 辛うじてその役目を果たしていた括約筋が弛緩し、おしりの間に張りついていた下着のなかにぷぢゅ、ぷびゅるっと粘液混じりのガスを吐き出す。
(で、でちゃう、でちゃうだめでちゃううんちでちゃうぅうぅうっ!?)
 激しく蠕動を繰り返す直腸は、分泌された腸液を混ぜ合わせ、固まった内容物を捏ね上げてゆく。ぼくん、と脈動する下腹部はまるで神聖な出産の時のように激しく蠢いている。だが、少女の体内にあるものは命の芽生えでも何でもない。ただの食物の残り滓でしかない。
「ちょっとぉ、マジで? さっきのもあの子?」
「ねえ、あの子そうよね? 入学式ですっごい臭いオナラしてたの、あの子じゃない?」
「うっそぉ、まだ我慢してたの? ……あれって、大きい方だよね?」
 ひそひそと囁き交わされるクラスメイトの非難。隠そうともしない少女たちの囁きを、明楽の耳ははっきりと捕らえてしまう。
「ひょっとしてもう漏らしちゃってんじゃないの?」
「まさかぁ……いくらなんでも、この歳になってそれありえないって」
「でも、ほら……」
 明楽は耐え切れなくなってぎゅっとおなかを押さえた姿勢のまま動けなくなってしまう。そんな明楽に追い討ちをかけんばかりに、腸が不気味に蠕動し、明楽に排泄を訴える。

 ぎゅるぎゅるるるっ、ぐぎゅうううううっ……!!

「だめ、ぇええええ……っ!!!」
(こんなところでウンチなんか、だめ、っ、だめえええっ!!)
 びくん、と伸びた明楽の太腿に緊張が走る。伸ばした指で恥も外聞もなく排泄孔を押さえ、震える膝と腰は、すでに獰猛な排泄欲をなだめることすら満足にしてくれない。
 喉がカラカラだった。明楽の排泄孔は一秒間に何度も盛り上がり、その中身をぶちまけようと伸縮を繰り返す。辛うじて決壊を先延ばしにできていることも奇跡に近かった。
「ぁあうああああっ!?」
 猛烈な便意が下腹部で爆発する。同時に疲弊した括約筋が惨めにひしゃげた音を立て、腸液に粘つく放屁音を連発させた。

 ぶっ、ぶすっ、ぶちゅっぷぷっ、ぷぅうーーーーっ!!

「っ!!!」
 音程はずれのトランペットを思わせる、間抜けなほどの放屁音が、教室に響く。
 教室に一斉に警戒が走った。
「や………ち、違うのっ、その、違うの!! わ、私っ、わたしっ……!!」
 とっさにおしりを押さえ込む明楽だが、構わずガスは漏出を続け、辺りにはむせ返るほどの汚臭が撒き散らされてしまう。耐え切れなくなったクラスメイトが机を揺らして席を離れ、距離をとる。
「ぃ、ぃやぁああああっ……」
 絞り出すような悲鳴を上げ、明楽は机に突っ伏した。
(で、……出ちゃった……す、すごく臭いの……いっぱいっ……)
 この世界でこれ以上はないというくらいの、汚らしく穢らわしい毒ガス。それは明楽が自分の身体の中で作り出したものだ。自分の不始末が、言い訳の聞かない自分の身体がひり出した最悪の汚染物質だ。
 どこか他人事のような認識は明楽がその事実を認めたくなかったからに他ならない。思わず二の足を踏みたくなる程の悪臭、明楽のおなかの中の凄惨な状況をありありと知らせる腐臭の最前線で、ポニーテールの少女がはっきりと不快な表情を浮かべ、顔を背ける。
「や……ぁ……ち、ちがうの、こんな、ちがうのぉ……」
 堪えようもない程の恥辱。明楽は舌を噛み切りたいほどの羞恥に、俯いて泣きだしてしまう。
 しかし、明楽を襲う悲劇はそれだけにはとどまらなかった。
 うねる下腹部はさらに立て続けに爆発し、極限の均衡が乱された。

 ――ぐる、ぎゅるっ、ごぼっ!!

 S字結腸の収縮と共に、腹奥に押し込められていた便塊が一気に押し出された。すでにまったく余裕の残されていない直腸が、強○的にねじ込まれる焦茶色の塊に占領される。
(―――ぁ、あ、あ、あっ、あーっっ!!)
 明楽の思考が、汚らしい汚辱の土褐色に染まる。
 生理現象と排泄の摂理にともなって、びくりと裏返った排泄孔がスカートの下で粘つく音を立てた。

 ぶちゅ、ぶびっ、ぶぶぶっ!!

「ぁあああ、ぁ、ぁっ、あ、ぁっ!!」
(で、っ……でちゃ、っ!!)
 盛り上がった排泄粘膜を震わせる激しいガスの放出音に続いて、圧倒的な灼熱感が明楽の下の穴をこじ開けてゆく。酷使された括約筋をして感じ取れる、途方もなく太く大きな固形の感触。
 ぎちぎちと、排泄孔を丸く押し広げ、ドーナツ状の括約筋を限界まで拡張する黒々とした塊。消化の果てに水分を限界まで吸収され、粒子状になって固まった硬くごつごつとした焦げ茶色の塊が、少女のおしりの孔のすぐそこまで降りてきた。

 みちゅっ、ぷぷ、ぷぷぷすっ、ぷすすぅっ……

 小さなガスの放出を繰り返しながら、激しい運動に反応し、腹腔が活性化する。盛り上がりを繰り返した明楽の排泄孔が、ついにぱくりと口を開いた。
 その奥から腸液に塗れた硬い内容物が、湯気とともに頭を覗かせる。
(だ、だめっ、出ちゃダメえッ!!!)
 明楽はなりふり構わず、指先で顔を覗かせたうんちの頭を押さえ込んだ。
 思い余った明楽は、下着の上から、直接、吐き出されようとしている汚辱の塊を無理矢理おしりの中に押し戻そうとしたのだ。
(こんなところで、ぜっっったいに、だめえぇっ……)
 漏らすまいというただ一心で、明楽は排泄という大自然の理すら否定しようとしていた。
 かちかちに固まった便塊が、明楽の手と下腹部の蠕動に挟まれてぐちゃりと潰れ、下着の中で捲れ上がった排泄孔が小さなおならを繰り返す。明楽の腹の中には七日にも及ぶ便秘の産物がぎっしりと蠢いており、排泄器官はその全ての内容物を吐きだそうと蠕動を続けているのだ。
「や、やぁ……だめ、だめぇええ!!!」

 ぬぬぬ…にち、ぬちぬち、にちにちちちっ、ぬちゅっ……

 排泄衝動に突き上げられ、白く柔らかな排泄孔が、粘液の助けを借りて大きく拡張されながら、ぬちぬちと音を立てて硬い塊を絞り出してゆく。身動きできない少女の白いお尻を引き裂くように固形の便塊が次々と顔を出し、パンツの中へと吐き出されてゆく。
 お尻を包む布地をべっとりと汚して、重く沈む熱い塊の感触に、明楽は悲鳴を上げた。
「ぁあっ、はっ、だめ、ダメぇ、だめえっ、だめえええええっ!!」
(う、うんち……でちゃった……オモラシ……やだっ、もう、オトナなのにっ……)
 もはや明楽は一人の少女というよりも、うんちを我慢するためのひとつの機械だった。もじもじとくっつけられた脚も、おなかとおしりをきつく押さえる手も、全て望まない排泄を耐えるために動いている。その機能も酷使され疲弊し消耗し、完全には機能をしていない。
「はぐっ……うぅう……」
 のたうつ下腹部を抑制し、激しく腰を使いながら便意に抵抗する明楽。
 びくびくと跳ねる腰は前後左右に動き、少しでも迫り来る便意を押さえようともがく。
 担任の教諭も、クラスメイトも、誰もが言葉を失って遠巻きに明楽を見ていた。まさか本当に、教室の真ん中でうんちを始める生徒が居るなんて想像もしていなかったのだろう。
「っ、いいから、我慢できないなら早くトイレ行きなさいっ!!」
 口元を手で覆いながら、明楽の傍にただ一人残ったポニーテールの少女が叫ぶ。
 明楽は耳を塞ぎ暴れだしたくなっていた。無論、下り続ける腹がそれを許すわけがない。まるで張りついたようにお腹とおしりに伸ばされた手は動かない。
「ぁ……ぁ」
「お腹、壊してるんでしょ!? はやくトイレ行ってきなさいっ!!」
 ぼうっと霞む頭の中で、明楽はぶんぶんと首を振った。
「で、っ……だめ、違うの…」
「何が違うのよ!! もう漏らしてんじゃない!! なんで早くトイレ行かないの!? 早くっ!!」
(ち、違うの、ちゃんと……行こうとしたのっ、うんち、ちゃんと、トイレまで、ガマンっ……っあ、あうぅうあうっ!?)

 ぬちゅぶちゅ、ぶっ、ぶぴっ、ぷぅ、ぷすっ、ぷっ……
 ぶっ、ぶびゅ、ぶりゅぶびぶちゅぶぶぶぅっ!!! みちゅみちちちちぃ…ッ!!

 排泄孔を大きく押し広げ、さらなる排出の第2派が進軍する。下着の上からでもはっきりと解るほどのごつごつとした感触は、紛れもない明楽自身が溜めこんだ食物の残り滓。
 すさまじい悪臭を撒き散らしながら。明楽は両手をスカートの上からお尻に押し当て、排出されたばかりの塊を伸びきった排泄孔の中に無理矢理押し戻そうとする。
 しかし、腹腔がうねり引き絞られ、暴力的なまでの便意を伴って吐き出される塊を押し戻すことはかなわない。すっかり裏返って内臓の肉色を覗かせた排泄器官は、一週間と言うモラトリアムを許していた排泄物を残らず絞り出さんとのたうった。
「はぐっ……っ!!」
 白く柔らかな布地を汚染し、ヒリ出された巨大な便塊は大蛇のように折れ曲がり、重なり、ずしりとトグロを巻き、明楽の下着を膨らませてゆく。焦げ茶に染まった下着の中心部が大きく盛り上がり、そこからぷすぷすとガスを伴った汚辱の塊がはみ出した。
 分泌された直腸粘液がぴゅるっと吹き出し、下着の隙間から脚を伝い落ちる。
 途方もない悪臭が広がり、スカートを黒々と染める明楽のオモラシに、一斉に生徒たちが悲鳴を上げた。
「ぅ、う、あ……」
 沈黙の支配した教室の中、明楽はのろのろと中腰のまま、席を立った。
 ぶちゅ、ぶちゅ、と汚らしい音を立てる下半身を抱えながら、亀のような歩みで教室を横切ってゆく。明楽の行く手を避けるようにクラスメイトの人垣が割れ、明楽は死ぬよりも辛い恥辱の中、教室のドアに辿り着いた。
「ひぐっ!!」

 ぶぶ、ぶびっ、ぶりゅぶちゅぼっ!!

 途端、捻り上げるような腹部の蠕動とともに明楽の排泄孔を強烈な便意が貫いた。お尻を押さえたままびくっと背中を伸ばし、直立不動となった明楽は、歯を食いしばって第3派の排泄を堪える。
「っは、はーっ、はぁあーっ、はぐうぅう……っ」
 口元は開いたまま、よだれが唇から零れ落ちる。蹂躙され続けた下腹部は取り返しのつかないほどに汚れ、悪臭にまみれ、少女の一番大事な部分まで侵食をはじめている。
 前屈みのまま排泄音を響かせる明楽を遠巻きに見ながら、クラスメイトたちが囁きあう。
「ちょ、ちょっと、ねえ、誰かトイレ連れてってあげなよ……あれ、絶対間に合わないってば……」
「や、やぁよ!! あんた行けばいいじゃない。途中で漏らされちゃったらどうすんの?」
「私だってイヤだってば!! オモラシの後始末なんてなんで手伝わなきゃ…・・・」
(もうやだ、もうやめてよぉ……っ、ごめんなさい、ごめんな、さいっ、……謝りますから……ちゃんと、トイレ行けなくてっ、ごめんなさいっ……)
 心無いクラスメイトたちの言葉に、明楽のプライドはずたずたに引き裂かれていた。
 新しい学校、新しい生活、その基点になるはずのに晴れの入学式の、その当日に――惨めにも我慢できずうんちを漏らし、ひり出した排泄物にパンツをずっしりと重くしてしまう――
 まして、これから1年を共に過ごすはずのクラスメイトのみんなに鼻が曲がるほどの猛烈な悪臭を何度も何度も浴びせ掛け、それですら飽き足らずとうとう中身まで漏らしてしまった。
(き、嫌われちゃう……こんなことする女の子なんか……絶交されちゃう……よぅ……)
 今すぐ、この場で死んでしまいたいと思うほどの激しい後悔と恥辱。クラス中に、いや、学校中にうんちを漏らしたことを知られて、明日からどうやって生きていけばいいのだろう。それすらももう解らない。
「さあ、早くッ!! トイレ、階段の隣にあるから!!」
 走ってきたポニーテールの少女が顔を背けつつドアを開けてくれる。明楽はもうお尻から手を離すこともできなかった。歩くだけでパンツの中にうずたかくトグロを巻いて詰まったウンチが溢れてしまいそうで、それを抑えるのに精一杯なのだ。押さえ込んだスカートの下で、ぐちゅぐちゅと想像したくない汚辱に満ちた音が響く。

 ごきゅるるるりゅっ、ぐぼっぼっ、ぶぷっ!!

 ○問のような腹音はいまだ衰えることなくうねっている。さらに吐き出されるであろう恥辱の粘土細工が、張り詰めた直腸にみちみちと詰まっている。
 背中にはクラスメイト達の明らかな蔑視の視線。何度も襲い来る発作を辛うじて耐え、明楽はがくがくと震える脚を引きずり、おしりを押さえながら教室を飛び出した。



 (続)

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シロフミ 2020/08/05 21:53

明楽の入学式・前編

 ぎしっ、と洋式便座が軋む。
 両足をぐっと床に押しつけ、おなかを両手で揉みながらおしりに力を篭める。下腹部の奥底にずぅんと横たわ重苦しい感触を、無理矢理下のほうへと押し込む。
「ふぅうんっ……」
 鼻にかかった声が漏れ、気張った両足がぴくぴくと引きつる。
 膝にかかったスカートがくしゃりと皺になり、むき出しの間っ白なおしりのふっくらした丘の隙間で、小さな孔がぷくっと膨らんで盛り上がった。
「んんっ……んっ……~~っ……」
 洋式便座の上で息を詰め、真っ赤になって、明楽はおなかに力を入れ続ける。
 ぎゅっと握り締めた手のひらに汗が滲み、硬く張り詰めたおなかが痛くなってくる。
 しかし、そうやって少女がどれほど気張ってみても、鈍く澱む下腹部はまるで目立った反応を見せず、とうとう息が続かなくなってしまうのだった。
「っ、はぁ、はぁ……はぁっ」
 詰めていた息を吐き出すと、お腹に篭っていた力も抜けてゆく。強張っていた足をトイレの床に投げ出して、明楽は荒くなった呼吸を繰り返した。
 渾身の踏ん張りと息みで一度はぱくりと口を開き、肉色の内側を覗かせていた排泄孔もくるんとすぼまり、もとの格好を取り戻した。
 便器に腰掛けたまま、どんよりと沈む気分を拭い去れず、明楽は深い溜息をつく。
(…今日も、出ないや……)
 明楽が、トイレに行ってもまるっきりすっきりできないことに気付いて、もう4日になる。どちらかと言えばあまりお通じの良くないほうである明楽には、これまでにも二日三日、ウンチを済ませないことは時々あったことだが――こんなにも長い期間、排泄の兆候すらもないのははじめてだった。
 トイレに閉じこもってどれだけ気張ってみても、まるで明楽のおなかはうんちをする方法を忘れてしまったように動いてくれなかった。息んでも息んでも排泄孔だけがぱくぱくと蠢き、何も出すものがないよいうように孔口を開ける感覚ばかりで、明楽はそのたびに言うことを聞かない自分の身体を呪ってしまう。
 なにしろ今日で便秘7日目。
 もう一週間以上、明楽はうんちを出せていないのだ。
(あ……)
 どんより沈む気分で壁の時計を見れば、そろそろ7時40分を回ろうとしていた。そろそろ学校の時間が迫りつつある。
 明楽はとうとう今日もうんちをすることを諦めて、カラカラとトイレットペーパーを引っ張った。まったく汚れていない後ろの孔と、オシッコの出口をそれぞれ別々に綺麗に拭いてトイレを立った。
 ゴボ、ゴボボジャァアーーーッ……と大きな水音を立てて流れてゆくトイレを後に、憂鬱なため息を残して手を洗う。
 幸いにして、今のところ便秘による身体の変調はなかったが、1週間という長い排泄のなさは明楽の心を支配していた。今日こそちゃんとしよう、と決心して何十分もトイレに閉じこもっても、出てくるのはせいぜいおならか、焦げ茶色いカケラのようなものがころころとする程度。すっきりとするにはまるで及ばない。
 そうやって明楽が気にすれば気にするほどおなかは鉄のように鈍くなって、おしりの孔だけがじんじんと痛むばかりだった。
(ちょっとだけだけど、出そうな気がしたのに……)
 すっかり支度を終えた後でトイレに入ってしまったのも、ほんの少しだけ下腹部に感じた違和感のせいだった。それも結局気のせいだったのだ。おなかは変わらずずぅんと重く張って、1週間に渡って溜めこまれた食事のなれの果てをくすぶらせている。
「はぁ……」
(今日、入学式なのに……)
 鏡に映った紺色の制服を見て、また溜息をつく。この春から通うことになった学校の制服は、まだ幼さの残る明楽にはすこし大きい。これまでとは違う制服は、明楽が一歩『オトナ』に近付いたことの証でもある。
 そのはずなのに、まだ自分がきちんとトイレも済ませられないなんて、本当にみっともないように感じられてしまう。
(昨日のお薬も効かなかったのかな……)
 一昨日、明楽は薬局に入り、顔から火が出るくらいに恥ずかしいのを我慢して、おこづかいをはたいて便秘薬を買った。はじめてだからあんまり強くないお薬を、という店員さんのアドバイスにしたがって漢方薬のものを選んだのだが、二日飲み続けてもまるで効果はなかった。昨日の分は量を倍にしているというのに、今日もまったく変化はない。
 憂鬱な気分でトイレを出た明楽は、鞄を手に玄関へ向かう。
 共働きの両親はすでに会社に行っていて姿は見えない。それでも、連絡用のホワイトボードには入学式を案じる母の言葉があり、明楽の心をいくらか落ちつかせてくれた。
「……うん。がんばろう」
 今日から始まる新しい生活。新しい毎日。
少しでも気持ちを切り替えようと、明楽は一人、『いってきます』と挨拶をしてドアの鍵を閉め、家を出た。


 ◆◆◆


 朝の空気の中を、爽やかな雑踏が過ぎてゆく。
 明楽の街は大きく海に面している。海に向かって下る坂道を登ってゆくのはJRの駅に向かう大学生やサラリーマン。逆に海へと向かうのは明楽と同じ中学に通う生徒たちだ。みんなおなじ紺色の制服に身を包んで、口々に話しながら歩いている。
 そんな中にいると、明楽はの視界はだんだんと靴の爪先へと落ちていってしまう。
 明楽は、あまり人とおしゃべりをするのが得意ではない。アキラ、という読みの男の子みたいな自分の名前のせいで誤解されがちだが、どちらかと言えば明楽はおとなしい女の子で、外で遊んだりみんなとでお出かけするのよりも、図書館で一人静かに本を読んだりする方が好きだ。
 だから、明楽は自分の名前が好きではなかった。
 両親が生まれた時にちょっと体重が足りなかった赤ちゃんが元気に育ちますようにと願いを込めて付けてくれた名前だけど、初対面のたびに男の子みたいな名前だねと言われてしまうのには、もううんざりしているのだった。
(……はぁ)
 そんな自分の性格が嫌で、明楽はいつも一生懸命になって引っ込み思案な自分を直そうとしているのだが、これまであまり上手くはいっていなかった。
 実は今回の体調不良も、入学式、中学校での新生活という新しい環境を前にして『オトナ』にならなきゃいけないという見えないストレスになって起きているものなのだが――それに明楽自身は気付けていないのである。
「ふぅ……っ」
 制服のスカートが、ほんの少しだけきつい。先月にきちんと採寸して作ってもらっただいぶ大き目の制服なのに、今の明楽のおなかはぱんぱんに張っていて、動くたびにじんわりと痛むような気がする。
 どんよりと濁ったものがお腹の奥に澱んでいる感触は、忘れようにも忘れられず、明楽はいつも以上に落ち込んでしまっていた。
 いくら気にしないようにしようと考えても、1週間もうんちを済ませられず、今もなおおなかの中に排泄物を溜め込んでいるという事実は、女の子としてはあまりに恥ずかしいことに思えた。
(嫌だな……学校で、はじまっちゃったりしたら……)
 想像はどんどんと嫌なほうに悪い方に傾いてゆく。
 明楽はぎゅっと唇を噛んだ。さっきまでは出したくてたまらなかったおなかの中身だが、もし学校でそんなことになったら大変だ。明楽は家の外のトイレをほとんど使ったことがない。壁ではなく板で仕切られた個室が並ぶ学校のトイレは、視界だけは遮られるものの、音や匂いはまる通しなのだ。注意さえしていれば、隣の個室に入った子が何をしているのかなんて簡単にわかってしまう。それは多分、上の学校でも同じだろう。
 羞恥心が人一倍強い年頃の少女にはとても耐えられるものではなく、そんな場所を使うのは明楽もよほど切羽詰った時だけだった。
 まして大事な入学式の日にそんなことになってしまったら、どんな噂をされてしまうかわかったものではない。
 不穏な想像に頭を悩ませつつ、明楽がもう一度ため息を付いた、その時だった。

 ぐるぅ……っ

「……ぇ…」
 はじめは気のせいだと思っていた。けれど、すぐに二度、三度と重い音がおなかの奥に響く。耳ではなく身体を伝わってくる鈍い音は、確かに明楽の身体の内側から発せられたものだった。
 明楽は息を飲んで、重く張り詰めたおなかに手を当てる。

 ぐるるるぅ……ごきゅぅうぅっ……

 注意していなければ分からないほどのかすかな異音。けれど、4度目に鳴り響いたそれははっきりと明楽の耳に届いた。
(う、うそ……)
 これまでどれだけ体操をしても、薬を飲んでも、トイレで頑張っても微動だにしなかったおなかが、ぐるぐると鈍い音を立てている。
 空腹のそれではありえなかった。朝食のハムサラダとトーストはきちんと食べてきたし、おなかはまるで空いていない。そしてなによりも、音の発生源はそれよりももっと下、明楽の下腹部から伝わってくる。
「ちょっと、急に止まらないでよっ」
「あ、ご、……ごめんなさいっ」
 立ち止まった明楽にぶつかりそうになった二年生のグループに道を譲って、明楽は慌てて頭を下げる。
 その間にも、また明楽のおなかはぐるるるぅ……と鈍い音を立てた。
(うそっ……これ、本当に……?)
 背筋がおののく思いで、明楽はぎゅっとスカートの裾を握る。
 確かに、これはおなかの音だ。内臓が活性化し蠕動が起きる予兆だ。この1週間一度もなかった出来事に、明楽は慎重におなかの様子を探る。
「…………」
 制服の上からおなかに手を添えて、そっとさする。
 異常は……ない。おなかは完全に沈黙していて、まるで平静、平穏。ベタ凪だ。トイレに行きたいなんてことは少しも感じない。
 何度確認してもそれは変わらなかった。
 それなのに、妙な音だけが下腹部で蠢いている。正体不明の蠕動は、身体に異常をもたらしていない分だけ不気味に感じられた。
(……なんでもないの、かな……)
 慎重に、周りからは気付かれないようにおなかを撫でる。
 何度か低く鈍い音を立てながら唸り声を上げる自分の下腹部――明楽は不安を抱えたまま、ゆっくり歩き始めた。
(…………へいき、だよね……?)
 慎重な足取りでそろそろと進む。一度そうやって意識してしまえば、下腹部に集まる重い澱んだ気配はますます強くなっているような気がした。
 明楽が、ここまで神経質にトイレのことを気にするのには訳がある。
 小学校5年生のときのこと。当時、両親の勧めでテニスのサークルに所属していた明楽は、一泊二日の合宿に参加していた。慣れない仲間と知らない土地、そんなちょっとしたことの積み重ねは、しかし繊細な少女の身体に大きな異変を及ぼし、明楽は行きと帰りのバスの中で3回もトイレに行きたくなってしまったのだ。
 トイレに入れる機会はきちんとあったのだが、恥ずかしがり屋の明楽は外のトイレを使うのが嫌で、その結果バスの中でどうしようもなくなり、なんと3回もバスを止めてしまったのだ。
 2回目までは運良く近くにあった公衆トイレに駆け込むことができたが、最後の1回はなんと高速道路の上。明楽は、部活の皆が乗っているバスの中でエチケット袋にトイレを済ませなければいけなかった。
 引率の先生はフォローしてくれたが、5年生もなってトイレが我慢できない子だということはたちまち噂になり、明楽はついにサークルをやめなければならなかった。その時の死んでしまいたいくらいの恥ずかしさ、情けなさは少女の心に深いトラウマになって突き刺さっている。
 だから、もうそんな子供のようなことは絶対に繰り返すまいと、明楽は固く心に誓っていたのだった。
「どう、しよう……」
 通学途中の生徒達に次々と追い越されながら、幼い少女は思い悩む。
 一週間ご無沙汰の排泄、という事実は重く少女の頭を支配している。明楽がおなかの中に不安な爆弾を抱えているのは確かなのだ。そして、これから明楽は入学式という長い式典に臨まなければいけない。
 もしその時に、今はないような便意が本格的に襲ってきたなら――
 いったいどうなってしまうのか、想像するだに恐ろしい。
 いっそ家まで戻ろうかと考えたりもしたが、流石に今来た道を戻ってトイレに入り、また再び学校まで行くにはいくらなんでも時間がかかりすぎる。
気を揉みながらのろのろと歩いていた明楽の視界に、見なれたコンビニのマークが見えたのはその時だった。
(……あそこ、なら……)
 前に、一度だけ。明楽はこのコンビニのトイレを使ってしまったことがあった。
 その時は確かオシッコの方だったが、もうどうしようもないくらいトイレに行きたくなって、とうとう我慢できなくなってしまったのだ。お世辞にも綺麗なトイレとは言えなかったが、それでもオモラシの悲劇を回避できたのは今でも記憶に残っていた。
 具合のいいことに、あのコンビニのトイレは自由に解放されていて、いちいち店員さんに使っていいかどうか聞いたりしなくてもこっそりと入れるのだ。
「……うん。そうだよね……」
 引っ込み思案な自分とさよならをして、ちゃんとした『オトナ』になるために。ここで昔みたいに外のトイレに入るのを恥ずかしがってはいけない、と明楽は決心する。着ている制服も、明楽に力を貸してくれているようだった。
 ぐっと拳を握り、明楽はコンビニの入り口に向かう。
『いらっしゃいませー』
 店員の挨拶に出迎えられながら、そそくさとドアをくぐった。
 会社や大学に向かう大人たちが朝食や新聞や煙草を買うのでごったがえしているコンビニは、明楽のような中学生が一人で入ってゆくのにはかなりの勇気を必要とした。
(ごめんなさい……おトイレ、使います……)
 明楽はけっしてお客としてここに来たのではない。ただただ、重苦しいおなかをすっきりさせるためだけにコンビニに入っただけなのだ。それが罪悪感になって、少女の顔を俯かせてしまう。足早に店内を横切って、明楽は奥のトイレに一直線に向かった。
 男女共用のトイレは飲み物を売る冷蔵庫の棚と、雑誌を売るフロアの間にあった。
 鍵が掛かっていないのを確認して、ドアをノック。返事がないのを確かめて個室に入る。
 中には古いタイプの和式の便器がひとつ。
 掃除はそこそこの頻度でされているせいか嫌な匂いこそしないが、くすんだ色のタイルと、無造作に積まれた予備のトイレットペーパーが明楽に生理的な嫌悪を催させる。清潔な家のトイレに慣れた明楽には、それだけで出したいものも引っ込んでしまうような気分だった。
「…………っ」
 回れ右をしたくなるのを我慢して、明楽は鞄を荷物起きに乗せ、スカートをそっとたくし上げた。下着を下ろしてゆっくりとしゃがみ込む。
 明楽の家のトイレは洋式で、こうして深くしゃがみ込んで排泄を試みる機会はない。いつもと違う姿勢のせいか、さっきまでのおなかの音のせいか、今度はちゃんとうんちが出てきそうな気がした。
 明楽はゆっくり水のレバーを倒し、音消しをしながらおなかに力を入れる。
「ううんっ……っ」
 鼻にかかった少女の声が、狭い個室に響く。
 むき出しになった白い肌がゆっくりとうごめき、小さな下腹部が緊張と弛緩を繰り返す。何度も息んでは拭いていたせいか、明楽のおしりの孔の周辺はいくらか赤くなっていた。小さなすぼまりは明楽が息むのにあわせてゆっくりと盛り上がり、ふっくらと綻びて、飴色のなかに綺麗なピンク色の、内臓の色を覗かせる。
「ふぅぅぅうっ……くうぅっ……」
 けれど、明楽が可愛い眉をぎゅっとよせていくら気張っても、おなかの中身は重く澱むばかりで、まるで動く気配がなかった。タイルの上に革靴の底を擦らせて、明楽は姿勢を変えながらなんどもおなかの中に『うんちを出せ』という命令を繰り返す。
「んんっ……んっ、んんっ……っ!!」
 長く長く息を止め、ぐっとおなかを押し込んでみても、結果は同じ。相変わらずの便秘が少女の身体を支配している。
 ふぅーっ、と大きく息をして、明楽は俯く。
(やっぱりダメなのかな……)
 わざわざトイレに入ったのに、ちゃんとトイレも済ませられない。情けなさと恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。
 と……
 がちゃ、というノブを引く音に明楽ははっと身体を竦ませた。
 空耳かと思うが、それを打ち消すように、ドアを叩く二度の音が狭い個室に響く。

 コンコン。コンコン。

(だ、誰か……入りたいん、だ……っ)
 明楽は慌ててノックを返した。そうしてはじめて、家ではない外のトイレの個室の中で、おしりをまる出しにして、うんちをしようとしている自分に気付く。とたんに沸き起こってきた羞恥心が明楽をがんじがらめに縫いとめてしまった。
 今、外には誰かが、トイレに入りたくて待っている。
 もはやこのトイレですることがない明楽がすべきことは、すぐにでも服を整えて、外の人と変わってあげることだったが、それでは自分がここに――トイレに入っていたことがバレてしまう。
 トイレを。うんちを、しようとしていたことが。
(ゃだ……っ)
 人一倍の羞恥心が一気に高まり、明楽の心臓を鷲掴みにした。あっという間に鼓動が跳ね上がり、明楽はしゃがみ込んだまま動けなくなってしまう。
 個室という密室の中で、次を急かす誰ともわからない相手。それが怖くてたまらない。もし男の人だったら。自分がここで何をしようとしていたのか、全部知られてしまう。想像するだけで気が遠くなりそうだ。
 もはや明楽は動けなかった。ぎゅっと目をつぶり耳を塞いで、表に待つ誰かの気配が遠ざかっていくのを願うだけだった。





 かち、かち……と、痛いほどの沈黙の中を、腕時計の秒針の音だけが響いている。
(……やっぱり、だめ……出ない……)
 個室に駆け込んでから10分あまり。遅刻までの時間はそろそろ秒読みに入っている。完全にうんちを済ませるための体勢を整えながらも、明楽のおなかはそんな役目すら忘れてしまったように、排泄を拒否し続けていた。
 下腹部に溜まった重みが薄れたわけではない。むしろそれは家を出たときよりも増している。しかし、そんな違和感とは裏腹に便意だけがすっぽりと抜け落ちたように感じられなかった。
 さっきまであれほど響いていた腹音もすっかりおさまり、ドアを叩くノックも途絶えて久しい。
(……そろそろ、行かないと……遅刻しちゃう……)
 刻々と進む時計の針に背中を押され、明楽はとうとう諦めてトイレットペーパーに手を伸ばした。朝と同様、まるで汚れていないお尻を丁寧に拭いて、下着を履きタンクのレバーを倒す。
 慣れないしゃがんだままの姿勢でいたせいか、脚が少し痺れていた。
 タンクの水が、白い便器の中を洗い清めてざぁざぁと流れてゆく。しかし明楽の憂鬱はとどまり続け、一緒に流れ去ってはくれなかった。
「はぁ……」
 新しい学校での第一日となる入学式に、おなかに不安の爆弾を抱えたまま参加しなければいけないのかと思うと、明楽の気分はますます沈んでゆく。
 トイレを出ると、コンビニの中の人影はかなりまばらになっていた。もうあまりゆっくりしていられる時間ではないのだろう。コンビニに入る前は大勢見えた紺の制服姿もかなり少なくなって、生徒達は足早に坂を下っている。
「急がなきゃ……」
 こんな気分のままで気分良く心弾ませて登校できるわけがないが、それでも入学式に遅刻なんて許されない。家を出る前の予定ではとっくに学校に到着しているはず時間である。坂を駆け下りてゆく生徒たちに置いていかれまいと、明楽も精一杯気持ちを切り替えて通学路を走りだした。
 慣れない坂道で、鞄の中をかたかたと筆箱が踊る。
 と、それに併せて、かすかな異音が明楽のおなかの奥深くで響いた。

 ぐる……ぐるるるぅ……

「……あ……」
 今度こそ気のせいではない。トイレに入っていた間はおさまっていたおなかの音が、今になってまた活動を開始していた。同時に、おなかの奥でかすかなうねりが蠢いているのも感じられる。
(やだぁ……な、なんで今さら……)
 急に走りだしたせいで、安静を保っていた腹腔の中に刺激されたのだ。
あれほど待ち望んでいたものの予兆が、まるで来てほしくない時にやってくる。自分の身体のことながら、言うことをまるできいてくれないおなかに文句の一つも言いたい気分だった。
 けれど、もうコンビニに戻ってもう一度トイレを借りている時間はとてもではないが残されてはいない。急がなければ遅刻だってありえる時間なのだ。
 後ろ髪を引かれながらも、明楽は通学路を急ぐしかなかった。

 ぐる……ごろろっ……

(うぅ……やだぁ……)
 せっかく気持ちを切り替えようとした矢先、駄々をこねるように唸りだす不穏なおなかにうんざりしながら、明楽は背負った通学鞄の位置を直す。
 坂の先には学校の校門が見え始めていた。桜の花飾りで彩られた看板には、今年度の新入生を歓迎する文字が大きく踊っている。
 今日から始まる、新しい生活。上の学校でのオトナの第一歩。
 その晴れやかな門出を脅かすかのように、繰り返し鳴り響くかすかな異音は、少女の体内でわずかずつその存在感を増していた。


 ◆◆◆


 校門をくぐると、胸に案内役の名札を付けた上級生が並んで、新入生の誘導を行なっていた。新入生は一度、校舎4階の教室に集められてから講堂での入学式に臨むらしい。大きく張りだされたクラス分けの名簿の前にできた人だかりを潜り抜けながら、明楽は昇降口を通りぬける。
 上級生から赤いリボンを受け取り、新しい上履きに脚を通して四階分の階段を上ると、ワックスの匂いが残るたくさんの教室が目に入る。
 真新しい気配は明楽には馴染みの薄いものだ。見知らぬ相手をことさらに強調する出会いの雰囲気に、ただでさえ人見知りの強い明楽の心はますます萎縮してしまう。
(……っ)
 不安と緊張に下腹部がきゅぅと蠢くのがはっきりと感じられる。できるだけ忘れようとしていた下腹部の鈍い重みまでもがじんわりと強まっているようだった。鈍りがちな上履きの爪先をなんとか動かして、明楽は階段を登り、3階にある1-Cの教室へと向かった。
「…………ここ、だよね……」
 廊下の端まで歩いて、目指す『1-C』のプレートを確認した明楽は、恐る恐るドアを引き開け、遠慮がちにドアをくぐる。
 とたん、教室の中に座っていた数名の生徒が振り返って明楽のほうを見た。
「……ぉ、おはよう……ござい、ます……」
「ああ、おはよー。よろしくねー」
 思わず口篭もりそうになってしまいながらも、明楽はどうにか小さく頭を下げ、挨拶を済ませた。これからクラスメイトになるだろう少女の一人が、さして興味がある風でもなく適当な挨拶を返す。
 それきり、ほかの生徒たちは明楽に興味をなくしたようだった。髪を脱色しお化粧を済ませ、校則にもひっかかりそうなアクセサリーを身に付けた彼女たちには、いかにも地味で野暮ったい明楽は声を掛ける価値もないと思われているらしい。そのことを悲しく思いながらも、少しだけ安堵もして、明楽はそそくさと教室の後ろに移動する。
 そんな明楽をよそに、教室の中では今日からの1年間を共に過ごすクラスメイト達が、それぞれに寄り添って席についている。明楽には見知らぬ顔ばかりだが、中には同じ学校から進学した顔見知りもいるらしく、あちこちにはそれぞれ楽しげに談笑しているグループもあった。
「あっは、またおんなじクラスだね、よろしくー」
「こっちこそよろしくねっ」
 別の入り口から入ってきた新入生が、親しげに挨拶を交わし、話の輪に加わってゆく。初対面でも構わず楽しそうに自己紹介を済ませ、グループの輪に溶け込んでゆく様は、明楽にはとても真似のできないものだった。
 まるで自分一人が知らない場所に取り残されてしまったような錯覚を覚えながら、明楽は黒板にある席順から自分の名前を探し、窓際、前から2番目の席に座る。教卓のすぐ近く、勉強熱心ではない子には不人気な座席だった。サボりや授業中の居眠りとは無縁の学校生活を送ってきた明楽にはさして気になる場所ではなかったが、なによりも人目を気にしなければならない今は、背中に沢山の視線を感じる教室の前のほうの座席は、あまり気の進む場所ではない。
 荷物を下ろし、新品のノートを机に移して空の鞄をテーブルの脇のフックに掛ける。用意されていた椅子は大き目で、深く腰掛けると明爪先が辛うじて床に届くくらいだった。
(………あと、5分くらい……?)
 時計の針と黒板に記された行事予定を確認すると、式の開始までにはまだそれくらいの余裕はあるようだった。

 ……ぐきゅるる……きゅぅう……

(まただ……もう、いい加減におさまってよぉ……)
 あれからおさまることなく響き続けている腹音が、明楽をいっそう不安にさせる。相変わらずトイレに行きたいなんてまるで感じないが、繰り返し押しては返すよう続く腹腔のうねりは、馴染まない環境に放り込まれた少女の不安を掻きたてるには十分すぎるほどだった。
 しかし、今日はもう朝から二度もトイレに入って頑張ったのにまるで成果がない。自分の身体に起きている異状をどう扱っていいのか解らないまま、明楽の思考はどんどんと悪いほうへと沈んでしまう。
 そうして机の模様を眺めながら、明楽はぼんやりとクラスメイトたちを眺めていた。
(どうしよう……全然したくならないけど……やっぱりトイレ、行っておいたほうがいいのかな…)
 そう思いはするものの、学校には明楽のほかにも大勢の生徒がいる。そんな中でトイレを使うことには強い抵抗を覚えるのも事実だった。しかも、新しい学校という勝手の分からない環境でいきなりトイレに駆け込むのである。人一倍の羞恥心をもつ明楽には明らかにハードルが高い。
 しかし、さりげなくおなかをさすったり、座る位置をずらしたりしてできるだけおなかに負担を掛けないように姿勢をただしてみても、腹音はいっこうにおさまる気配を見せないのだ。
(……どうしよう……)
 これで十数回目になる煩悶。明楽は収まらない異変に頭を悩ませていた。
 他の子たちが新しい生活に向けて頑張っている中で、自分はおなかやトイレのことばかり気にしている。一週間前からずっとおなかに居座っている汚らしい塊のことにばかり注意を払う自分が、思春期の少女の繊細な心にはあまりにも情けない。
(でも……うん。……そうだよね。……その、入学式の間に、したくなっちゃったりしたら……大変だもん)
 なおもしばらく逡巡を続けていた明楽だが、ようやく気持ちを切り替えることにして、席を立つ決意をする。
 たとえすっきりできないにしても、もう一度行って確認だけはしておいたほうがいい。今日からまた一歩『オトナ』に近づくのだ。もう二度と失敗のないように、用心は重ねておくべきだった。
 だが――
「おーし、新入生注目ー。前を見ろー」
「はい、それじゃあ新入生のみなさん、廊下に整列してください。移動します」
 明楽がせっかく勇気を振り絞り、踏み出そうとした一歩は、無常にもやってきた上級生と、教諭の言葉に遮られたのだった。
「「「「はーいっ」」」」
 応じるように大きく声を上げ、クラスメイトたちが立ち上がる。
 そして、まるでそれに応えるように、明楽のおなかでぐきゅぅ……とさっきまでよりも大きく腹音がうねってしまう。
(や、やだっ!?)
 はっきりと外にまで聞こえてしまうような異音に、赤くなって周囲を窺う明楽だが、幸いなことに席を立つクラスメイト達の雑踏がそれを掻き消していた。
「ほら、後ろの子も早く廊下に出ろ、一列に並べー」
 戸惑う明楽に、担任らしき男性教諭の声が追い討ちをかける。教室に残るクラスメイトたちもたちまちのうちに廊下へと追い出され、出席番号順に作られた列の中に押し込められてしまった。
「よし、全員いるな? じゃあこれから式が始まるから、講堂まで移動するぞ。案内役の上級生に従うように。いいなー?」
「……え、あ、……あのっ……」
 明楽の声は、やはりクラスメイトたちの雑踏に埋もれて担任までは届かない。はっきりとした拒絶もできないまま、明楽は進み始めた列に促されて講堂への移動を余儀なくされてしまいのだった。
 無力な少女の下腹部で、また不気味に小さな異音がうねる。

 ぐる……ぐきゅるるるるるるる……

 さっきまでよりも長く、重く続いてゆくそれは、ことさらに下腹部の不安を募らせる。まるで、これから明楽を襲うであろう悲劇の予兆を囁くかのようだった。


 ◆◆◆


 ぐぎゅぅううううう……

(やだ…ま、またっ……)
 おなかの奥底から湧き上がる異音が、ますます感覚を短くしているのを明楽は感じていた。すでにただの音だけではなく、はっきりとした蠕動の感覚すらある。
 講堂の壇上では、新入生を迎え新たな一年を過ごすための心構えを、初老の学長がとうとうと語っている。しかしそんなものが今の明楽の頭に入るはずもない。
 脳裏をよぎる汚らしい茶色い予感を振り払うかのように、明楽は俯きながらさりげなく下腹部に手を伸ばす。
(お願い……おさまって……っ)
 淡々と進んでゆく入学式は厳かな静寂に包まれていて、些細な椅子の軋みや衣擦れの音まではっきりと聞き取れるほどだ。まだまだ明楽のおなかの音もいつ誰に気づかれてしまうかわからない。まして、この腹音は押さえようとしておさまるものではないのだ。
 そっと押さえた手のひらに、制服越しの張ったおなかの固い感触が返ってくる。
 腹腔に詰まった汚らしい塊の存在ををはっきりと意識してしまい、明楽は羞恥に小さく唇を噛んでしまう。少女の身体の奥に澱んだ重苦しい感覚は、まるで鉛を飲みこんだように顕在化して明楽を苦しめていた。

 ぐるっ、ぐるるっ、ぐるぅるるるるぅう……ごきゅぅううっ……

 ひときわ長く大きなうねりが、腹腔の中から込み上げてくる。まるでなにかの別の生き物が腹の奥に潜んで唸り声をあげているかのようだ。
 いつしか明楽の手のひらにはじっとりと汗が滲み、やってくるうねりに合わせて左右の脚がぎゅっと緊張を繰り返すようになっていた。
 もはや、明楽の姿は見るものが見ればはっきりと“おおきいほう”の排泄の予兆であると分かるほどの仕草を始めている。
(ふぅ……ふううっ……)
 本来は身体にとって自然な反応である排泄欲を無理に押さえこもうとすれば、どうしてもその反動が生じてしまう。荒くなってしまう息を押し殺し、明楽は制服の上から何度もおなかをさすった。だが、硬く張り詰めた下腹部はその存在を誇示するようにますます重く凝り、押し固まったナニかが明楽の腹腔の中で異物感を増してゆく。

 ぐる……ぐるっぐるぐるっ、ぐるるるぅぅ……

 繰り返される異音の正体は、明楽の腹腔で発生・蓄積されたガスの塊であった。不幸なタイミングで一週間の長い停滞を打ち破り、じょじょに活動をはじめた少女の腸の中を、大きなガスのうねりが進んでは押し戻る動作が腹音となって響いているのだ。
 どうして今、この瞬間に明楽の身体がそんな反応を見せたか、その原因はひとつではなかった。一昨日昨夜と立て続けに摂取された整腸剤が遅まきながら効果を発揮し、朝、家を出る前に摂取した朝食が胃の蠕動を通じて下腹部に働きかけ、坂を下っての早足の登校が食後の運動となって自律神経の活性化を促し、さらに慣れない環境で感じた不安やストレスが少女を知らず害している。
 いずれにせよ、これまでは本来の機能を忘れたかのように停滞し、内部に溜め込まれたものを澱ませるばかりだった少女の消化・排泄器官はその本来の活動をようやく取り戻し、生命活動の常として、腹腔の中に蓄積された内容物を排泄するための準備に入りつつあった。
 それは、明楽が自分の身体の異変に気付いて以来のこの4日、待ち焦がれていた瞬間でもあった。
 しかし――
(やだ、よぉ……なんで、こんな時にぃ……っ)
 今は席を立つどころか私語も、身じろぎすらも慎まれるような厳粛な式の最中だ。伝統ある学校に相応しく、この入学式はおよそ一時間あまりも続く。神妙な顔をして席に着く新入生と、それを出迎え今日からの日を一緒に過ごす上級生、誰もが真剣に式に参加している。
 こんな状況でトイレに行きたくなっても、全くどうしようもないのだ。

 ぐきゅ……ごぽぽっ、ぐりゅるるぅ……

(お、おねがい……音、立てないで……っ)
 これまでしたこともないほどに真剣に、明楽は神さまに祈っていた。静まり返った講堂の中に、自分のおなかの音だけが響き渡っているようなそんな錯覚すら覚えてしまう。
 いや、あるいはもう自分の近くの新入生の何人かは、とっくに気付いているのかもしれない。下品な音を立て続けている明楽を、トイレもきちんと済ませられないみっともない子だと思っているのかもしれない。
(おねがいします……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいですから…っ)
 俯いた前髪の下で、あまりにも悲しい奇跡を願う明楽。
 教室でのはっきりとした決意も今はもう遠い出来事のようだ。見たこともない人ばかりのこの大きな講堂の中で、明楽は誰に縋ることもできず、たったひとりだった。いつまで経っても収まる気配がないおなかの異変を、じっと孤独に抱えながら、長い長い時間をじっとじっと絶え続けなければいけないのだ。

 ぐるるっ、ごぎゅっ、ぐきゅる……

 そんな明楽を嘲笑うかのように、下腹部の唸りは止まらない。断続的な異音が響くたびに、おなかの奥をなにか熱い塊が蠢いているのがわかる。それはずっとスカートの上からおなかを押さえたまま、離せない手のひらにもはっきり伝わっていた。
(やだぁ……っ、もう、もぉ……鳴らないでよぉ……っ)
 小さく明楽がしゃくりあげかけた時、不意に隣から声がかかる。
「……ちょっと」
 はじめ、自分のことだけで手いっぱいだった明楽は、自分が話しかけられているのだと気付く事はできなかった。
「ねえ、あなた。ちょっと……!」
 いくらか語気を荒げたようにもう一度。ようやく顔を上げた明楽のとなりに、きつい視線を向ける少女の姿があった。
 明楽にも見覚えがある。さっき、教室でお喋りの中心になっていたポニーテールの女の子だ。明楽に囁きかけるように顔を寄せ、ポニーテールの少女は苛立った声を向ける。
「さっきから、そんなに下ばかり向いてちゃだめじゃないの。ちゃんと先生のお話、聞かなくちゃ」
「え……、あ」
 そうして明楽は、ようやく自分が入学式の席に居る事を思い出す。慌てて姿勢を正そうとした明楽のおなかで、またも『ぐるるるぅう……』と腹音がうねる。明楽はとっさに伸びかけた手を意志の力で押さえつけた。万が一にも不審な動作をして、気付かれるわけには行かない。
 顔を上げた明楽を、彼女ははっきりと不快感を表す視線で睨んでいた。
「もう、ご父兄の方もいらしてるのよ? 子供じゃないんだから、こういう席でくらいちゃんとしてよね。一緒にいる私までみっともなく思われちゃう」
「は……はいっ」
「……しっかりしなさいよね」
 それは、歴史ある学校の晴れの入学式でだらしなくしている同級生を嗜め、自覚を促すための言葉だった。幸いな事に、傍らの少女はまだ明楽の身体の変調を察しているわけではなかったのだ。
 だが、『子供』と『みっともない』『ちゃんとして』というフレーズを含む言葉は、現在進行系でおなかの不安と戦っている明楽にはあまりにも重すぎる一言であった。
(や……やだぁ……っ)
 一通り注意を終えて満足したのか、少女はふんと鼻を鳴らして視線を壇上に引き戻す。
 しかし、明楽のほうはそう簡単には済まされない。急激に強まったプレッシャーと緊張に息を飲んだ。足元から不安が這い登り、少女の全身を包み込むようにして広がってゆく。『きちんとできていない』『みっともない』自分であることを、他人の目を通じて理解してしまったのだ。
 萎縮してしまった明楽はほとんど無意識に腰を浮かし、椅子に腰掛けなおすふりをしながら彼女との間にわずかな隙間を確保する。
 そうして、少しでも表面を取り繕おうとなけなしの努力を払おうとする明楽だが、無慈悲にも下腹部の違和感はそれを許さなかった。

 ごきゅっ、ぐりゅ、ぐりゅりゅるるっ、ぐぎゅぎゅるるるっ、

(う、うそ…!?)
 あまりにも唐突に――いや、たったいま明楽の晒されている急激なストレスを思えば決して不自然なことではないのだが――少女の下腹部を激しいうねりが襲う。
 声を上げる事もできない。いや、たとえ許されていたとしても、この状況では明楽には驚き慌てる事は許されていなかった。
 そんな明楽をよそに、何の前触れもなく沸き起こった大きな波が、少女の腹腔を駆け抜けてゆく。

 ごりゅるるるっ、ぐりゅるるるる、ごぼっ、ごぼぶぼぼっ!!

 これまでの断続的な異音とは訳が違っていた。はっきりと解るほどの大きな音が、明楽のおなかで自己主張をするように呻く。
(や、やだぁ…っ!!)
 うねる内臓。うごめく腹腔。びくびくとのたうつ消化器官。容赦のない蠕動が、小刻みな振動を伴ってゆっくりと動き出す。ぐっと口に両手を当てて塞ぎ、声を上げるのを堪えている明楽には、まるで耳元で騒音が響いているかのようにすら聞こえる。
 この異音は、あきらかに明楽の身体の外側にまで響いていた。これまで明楽の身体の奥深くで密かに起きていた現象が、ゆっくりと頭をもたげるように少女の知覚できる場所にまで迫っているのだ。

 ごるっ……ぐぼっ、ごぼっ、ぐぎゅるるるるりゅぅうっ!!

 これはもはや、異音などではありえない。
 はっきりとした質量と熱さ伴って感じられる、腸の蠕動だった。
(ぁ……あ、だめ、…だ、ダメぇ!!)
 これまで、腹奥の深い場所での違和感こそありはしたものの、直接的な被害は一切感じていなかった直腸にまで、じっとりと湿った熱い塊が押し寄せてくる。
 不定形の流動体――液体よりも遥かに軽く動きやすい、ガスの塊が明楽の排泄孔の内側へと殺到する。
(で、……でちゃ…ぅ……っ!!)
 屁意。オナラがしたい。
 催したガスの圧力は途方もなく強烈で、明楽は硬直したままただそれを受け入れる事しかできなかった。無論、ガスという形であるため本来の排泄衝動とは比べ物にならない些細なものだが、たったいま無作法を叱責されたばかりの明楽に、この突然の出来事はあまりに予想外だった。
 ぎゅっとスカートの裾を握り締めた手のひらに力が篭る。全神経を括約筋に集中して、おしりの孔をかたく締め付ける。全身全霊の我慢の体勢だ。……だが、全校生徒の真ん中でそんな体勢を取らねばならないこと自体が、明楽の羞恥心を激しく刺激する。
 こうしてガスを噴出させることだけは避けようという、少女の必死に努力すら、ポニーテールの少女が指摘した『みっともない』事なのだ。
 明楽がきちんとトイレを済ませてさえいれば、こんなふうにオナラを我慢する必要もない。
 だからこそ、今のこの状態は、自分がトイレのしつけもきちんとできていない、恥ずかしい女の子であると認めるに等しかった。
 おなかの中では、腐ったガスをごぼごぼと沸き立たせながら。我慢しているそぶりす7ら見せることの許されない、あまりにも無常な状況。誰一人味方のいない、しんとした講堂のなかで、明楽は必死になって耐え続ける。
(っ、……~、……っ!!)
 本来なら、腹の奥底から込み上げる衝動に耐えるには、足を寄せ合わせはしたなく、もじもじとお尻を突き出して揺するのが一番の楽な姿勢である。しかし、微動だにすることのできないままでは小さな衝撃すらぎゅっと締め付けた隙間を無防備に体内からの圧力にさらす行為だ。ただただじっと、明楽は耐え続けた。歯を食いしばり、ぐっと行きを飲み込む。

 ぐぅ……ぅぅぅ……

 少女の努力の甲斐あって、かたく閉ざされた出口にぶつかったガスの塊はゆっくりと腹腔の奥に戻ってゆく。その時に響くごきゅるるるっ……という逆流の蠕動が、恐ろしいほど不快に明楽の背筋を駆け上る。
(ぁ、……はぁ、はぁっ……よ、よかった……)
 辛うじて下品なガスの放出を押さえ込み、湧き立つ屁意を追い返した明楽だが、決して安心は許されなかった。
 どうにか放出を耐え切ったというのに、今もなおおなかはバランスを崩したかのように不安定な状態を加速させている。一番危険な状況さえ乗り越えてしまえばしばらくはおさまるだろう、と思い込んでいた明楽を無視するように、再び小さなうねりが断続的に響き、ねっとりとした熱いガスの塊が直腸のそばまで押し寄せてくる。
(そ、そんな……また…? だめ、出ないで、……だめぇっ……)
 一週間にわたる長期の熟成を経て発生したガスは、過敏になり始めた明楽の下腹部を無差別に駆け巡り、腸液を分泌し始めた柔毛をじわじわと蹂躙してゆく。
 不意に高まる圧力は、波のように押しては引いてを繰り返し、何度も段階を経てどんどんと激しさを増していった。せっかく飲み込んだはずのガスが、あっさりと腹腔から押し戻され、直腸まで再度せり上がってくる。
(だ、ダメ……ダメなのに、……したく、なっちゃダメなのにっ……!!)

 ぐきゅ、ごきゅるるるるっ、ごぶっ、ごぼぼぼっ、

(……っ、……ダメ、っ、がまんしなきゃ……!!)
 少女の内側で悲壮に繰り返される拒絶と決意。それを無慈悲に踏み潰して、ひときわ大きなうねりが明楽を襲う。なだれ込んだ濃密なガスが下腹部に達し、さらにおしりの一番先端、脆くも敏感な場所にまで押し寄せてゆく。自分の身体の奥底から襲い来る途方もない腹圧に、明楽はただ、無力だった。

 ごるっ、ぎゅるるるるっ、ぐぎゅ、ぎゅるるっ、りゅぶっ、ぶっ!!

(っ、あ、あ!!)
 声にならない悲鳴を、明楽が両手で塞いだその時だ。

 ぷ、ぷっ、ぷすっ、ぷぅっ…!

 灼熱のガスが、かたく閉じられた排泄孔をすり抜け、鉄壁のはずの守りを突破して吹き出した。背筋の寒気と共に全身を緊張させる明楽だが、もう襲い。

 ぷ、ぷぅっ、ぷぷぷっ、ぷすっ、すーーーぅ……

 伸縮を繰り返す排泄孔から、可愛らしい小さな音と共に濃密な悪臭の塊が吐き出されてゆく。うねる直腸の衝撃をそのまま形にするように、明楽のおしりの孔は何度も細く開いてはガスの塊を吹き出してゆく。
(ぁああ、あああああ……っ)
 放出の瞬間を感じ取り、無力な自分を呪いながらも、明楽はまるで動けない。下腹部のうねりはなお激しく、下手に刺激すれば即座に第2波が到来しそうな予兆があった。せめてもの幸運は、明楽の排泄孔が上手く作用したため、放出が『スカシ』となったことだろう。辛うじて大きな音は立てる事なく、漏れ出したオナラは周囲に拡散してゆく。
 だが、
 音はなくとも、そこに篭められた高密度の悪臭だけはどうしようもない。
「……ねえ、ちょっと」
「ううん、これ……」
「うわ……なに、これ」
「臭い……」
 たちまちのうちに周囲に拡散してゆく激しい腐臭。かすかなざわめきは、けれどそれだけ厳粛な式でははっきりと聞こえた。厳かな式典の最中には似つかわしくない生徒達の囁きが、あたり一面に広がってゆく。それはちょうど、明楽の放出してしまったガスの被災区域を知らせているかのようだ。
「ねえ、誰……?」
「みっともないよね……オナラ?」
「ちょっと、やめてよ、こんな時に……」
「もう、誰だか知らないけど、トイレ行きなさいよ……!!」
 明楽の周辺、クラスメイトだけではなく他のクラスの生徒たちまでもが一斉に顔を背ける。なかにはあからさまに呼吸を止めたり、顔を反らしたりしている者までいた。実際、そうでもしなければ耐えられないような悪臭なのだ。ほとんど毒ガステロと言ってもいいような事態だった。
 たった少しだけ、明楽の我慢を溢れて漏れ出したガス。しかしその悪臭はただそれだけで、明楽のおなかの中身がどんな惨状になっているのかをまざまざと知らせていた。
「っ………」
 身をちぎられるような猛烈な羞恥の中で、明楽はぐっと唇を噛んで堪える。
 幸いな事に、新鮮な空気を撹拌する空調が稼動し続けていたせいで汚臭はやがて薄まり、明楽の周辺の生徒たちは悪臭の発生源がどこなのかをはっきりと特定できずにいた。初対面の生徒が多く、一見目立たない明楽がまさかそんな事をしたのだと思いつく生徒がいなかったことも影響していた。
 だから、明楽はきつく目を閉じて、必死に時間をやり過ごす。できるだけ今のことを考えないように、周囲の生徒たちの反応を見ないようにしながら。
(っ……大丈夫、いま、ちょっとだけど……恥ずかしいけど、オナラ、でちゃったから……ちょっと楽になったし、あ、あと、これなら、……し、しばらくなら、ガマンできるはずだし……)
 現実逃避に近い意識の働きだった。
 しかし、このまま耐え続ければ、うやむやになってごまかす事は不可能ではない。怪しまれることはあるかもしれないが、大多数は顔も知らない生徒たちの集まりだ。入学式で起きた事なんてそのうち忘れてしまうのだろう。本当はそんな簡単な結末なんて想像できなかったが、明楽は無理にでもそう思いこもうとしていた。
(あと少し……たぶん、10分くらいだから……そしたら、今度こそ、おトイレ……行って……ちゃんと、ちゃんとうんち……!!)
 一週間ぶりに、最悪のタイミングで訪れた便意。あれだけ頑張ってもいうことを聞いてくれなかった明楽のお腹は、腐りきった中身をごぼごぼとうねらせている。まだ見ぬトイレでの解放を思い描き、明楽は必死に取り繕おうとする。
 だが、次の瞬間には健気な少女のその想いも虚しく打ち破られる。
 込み上げるうねりの第2波はまたも前触れなくやってきた。冷や汗にじっとりと湿る少女のおしりの孔に目掛けて、灼熱の衝動が一気に駆け下る。

 ぐりゅるる、ぐきゅるるるるるるるるっるるるうぅぅぅ!!

(ぁ、あ、あ、)
 あまりに激しく、突然で、一度目の放出を経て緊張の緩んでしまった明楽の下半身は、その衝撃に耐えきる事など、とてもできはしなかった。
「……ぁ…っ、…ぁあ…~~っ……!!」

 ぶぴっ、ぷすっ、ぷすすぅ……っ

 またも小さな排泄孔がひしゃげ、断続的にガスを撒き散らす。ねっとりとした灼熱の感触は、まるでおしりをべっとりと汚しているかのようだ。
 先ほどにも倍するような、さらに濃密な臭気があたりに立ち込める。今度の放出は1度目よりも勢いがよく、出されたガスの総量も多い。文字通り腐った肉のようなごまかしようのない腐敗臭が撒き散らされてゆく。
(や、やだ、なんで、なんで……っ!!)
 ついさっき、もう二度と漏らさないと覚悟を決めたばかりなのに。
 言うことを聞かない自分自身の身体に決意をあっさりと覆されて、明楽の心はさらに深く傷を負ってしまう。だが、今度はそれだけでは済まされない。
(だめ、だ、でちゃ、だめ……ぇええっ!!)

 ぷす、ぷっ、ぷぅぅ……っ、ぶびっ!! ぶぷぅうっ!!

 明楽にとっても最悪なことに、細孔をこじ開けて吐き出されるガスが、はっきりと『そう』だと分かる音を立ててしまう。悪臭に加えて騒音公害まで発展した明楽の排泄は、どよめきのように講堂に波紋を広げてゆく。
「うわ……また?」
「なにこれ……臭い……っ」
「ねえ、誰よ、さっきから……!!」
「ちょっと、勘弁してよ……?!」
 先刻よりもさらにはっきりした非難の声。標的を見定められない曖昧とした敵意が、講堂の中に満ちてゆく。1回目ならなんとか無視できても、2度目ともなればさすがに看過できない。
 この晴れ晴れしい舞台に、無礼にも2度に渡って悪臭をぶちまけた相手に対して、新入生の中からはっきりとした憎悪が浮かぶ。それぞれがまだ知りあってもいない相手だけに、吐き捨てられる言葉も遠慮のない鋭いトゲを纏っていた。

 ぐきゅるるっ……きゅるるるぅ……

「っ……やぁ……」
 なおもおさまらない下腹部の蠕動。たとえようもない恥辱に心を切り刻まれ、明楽は俯いてぎゅっと口を噤み、なおも激しくぐるぐると唸り続ける腹をさする。
(ご、ごめんなさい……ごめんなさいっ……)
 言葉にできない謝罪をなんどもなんども繰り返しながら、涙を滲ませて必死に念じる明楽。しかし、少女の身体を支配する排泄衝動はより一層その存在感を増し、明楽の排泄器官はすでに少女のコントロールから外れつつあった。


 ◆◆◆


「ぁ……っく、ふ……ふぅ……っ」
 こぼれそうになる呻きを噛み締めて、明楽はじっと立ち尽くしていた。
 合計1時間半にも及ぶ入学式と始業式を終えて、講堂横のトイレはかなりの混雑を見せていた。4つある個室に続く順番待ちの列には、どれも5、6人の少女が並んでいる。
 そんな中でも明楽の様子は際立っていた。不安定な下腹部が繰り返し発作を起こし、ぐりゅぐりゅと腹奥がうねる。明楽は暴発しそうになるガスを押しとどめるようにしてスカートの後ろに手を回し、直接、突き出したおしりを押さえていた。
 その有様はあまりにも不恰好で、少女としてはとても許されるようなものではない。だが今の明楽には、ひとりの少女として体裁を取り繕う余裕すら残されていなかった。
「ぅ…くっ」
(だめ……おなか苦しいっ……と、トイレ、早くぅっ……)
 ごぽり、と内臓の奥が撹拌されるような不快感が明楽の下腹をうねらせる。一刻も早く排泄をねだる汚らしい器官が惨めな音を立て続ける。

 ぐきゅるるる……きゅぅう…っ

(ふぅぅっく……っ、ぁ、あとちょっと、ちょっとだけだから……っ、トイレ、もうすぐトイレ……うんち、できるから……っ)
 蠕動する下腹部をなだめるように押さえ、明楽は祈るような気持ちで繰り返す。
 講堂での地獄のような我慢の最中で、明楽はあれからも何度かガスを漏らしてしまっていた。最初の2回に比べれば小規模なものだったが、静寂に包まれた講堂では些細な異音すらはっきり響く。講堂の中で断続的に悪臭を振りまいた『犯人』がいることに、あの場にいたほとんどの生徒が気付いていただろう。だが、隣の顔もわからない新入生同士ということが幸いし、毒ガステロの犯人特定までには至っていない。だから、明楽はなんとしても、ここでお腹の中に溜まった腐臭の源を処分してしまわなければならなかった。
 ほとんどの子が、明楽とは違う目的でトイレを利用しているようだった。順番待ちの列はさほど経たないうちに解消し、明楽の順番も見る間に近づいてくる。あとすこし、あとすこしだけと繰り返しては挫けそうになる心を鼓舞し、明楽はできるだけ平静を装ってそっとおなかをさする。
「ねえ、校長先生、話長かったよねー」
「……うん、漏れちゃうかと思っちゃった。……あははっ」
「もう、馬鹿いってないで早く行こ? ホームルーム、遅刻しちゃうってば」
「あ、待ってよー」
 用を済ました少女達が、すっきりと爽やかな顔で空いた個室を次の順番を待つ少女に譲り、談笑しながらトイレを出てゆく。
 一人ずつ短くなってゆく列は、まるで明楽の排泄の許可をするカウントダウンだ。
(あと、さんにん……っ、3人、……あとちょっと、3人、3、2、1、あと、いまと同じのを、3回だけっ……おしりぎゅって押さえて、ぐって、がまん、おんなじだけ、あと3回分、すれば、トイレ、トイレできるからっ……)
 少しずつ、しかし確実に進む列の順番を数えながら、明楽ははしたなくスカートの上からおしりを押さえ、込み上げてくる衝動にじっと耐え続ける。
 ほどなくして1ヶ所、、さらに続けてふたつの個室が空き、順番待ちの列は明楽を先頭にした。
 4つの個室が明楽の目の前に並ぶ。そのどれもが今は使用中だが、どこかひとつが空きさえすれば、明楽はすぐにでもそこに飛び込むことができた。
(はやく、はやくっ、はやく空いて、トイレ……トイレしたい、うんちしたい…!! はやく、早くっ、はやく!!)
 明楽の頭の中ではすでにスカートを下ろし、排泄を開始する自分がシミュレートされている。トイレの中で汚れたおなかの中身を残らず掃除する――そうして空想の中ですっきりするつもりになって、白い下着の奥で獰猛に牙を剥こうとする排泄衝動を抑え込んでいるのだった。
(あとちょっと……っ もうすぐ、もうすぐトイレ……っ、よっつ、どれでも、トイレ、空いて、すぐ……うんちできるっ……!!)
 明楽がこくり、と震える喉に唾を飲み込んだ時だった。
「なんだ、けっこう混んでるじゃん」
「だから早くしようって言ったのに。どうする? 校舎までいってみる?」
「いいよもう。面倒だし」
 どやどやといくつもの声が背後から聞こえてくる。どうやらまた数名、生徒たちのがトイレの順番待ちに並んだらしい。どうやら仲良しグループのようで、お喋りに夢中になりすぎて講堂を出てくるのが遅れたらしかった。
 だが、もうそんな事は関係無い。明楽はもう列の先頭にいるのだ。どれだけ後ろに列が伸びようと、次にトイレに入れるのは明楽なのだ。
「ったく、ここの校長先生も話長いよねー。30分もよく喋ることあるなって感心しちゃう。あんなの『学校に迷惑賭けるな』の一言で済むじゃん」
「あはは、言えてるー。はやくして欲しいよねー」
(はやく、はやくっ、はやくぅ……っ)
 かなりのボリュームでお喋りに興じる少女達の声をほとんど聞き流すように、明楽は焦れる心をじっと押さえ、個室が空くのをじっと待つ。いまはただそれだけが明楽の切望する事柄だ。
 そして、
 ――がちゃり、と一番右の個室のドアが開く。


 (続)

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シロフミ 2020/08/05 21:43

小ネタ:「腸揉み」の話。

あまりに放置期間が酷くて怒られてしまったので
適当に書こうと思っていて結局放置していたものを貼り付けます。




 十○歳女子高生。創業3周年の割引きが当たり、高額のエステ体験に訪れることになる。
 そこで最近人気だという特別コースの「腸揉み」を体験することに。もともと便秘症の酷くて悩んでいた彼女、消化器系の活性化、内臓の血行を良くして冷え症などの改善ができると言われて安易にOKしてしまった。これからどんな惨事が自分を待ちうけているかも知らぬままに。
 そも、彼女にしてみればすでにそれが当たり前の「日常」であったためまったく気が回っていなかったのだが、彼女、実は今日で便秘6日目という有様であったのだ。物心ついて以来、それがいつものことであるため食事療法などもあまり気を使うことなく、彼女の動きの鈍い排泄器官、折りたたまれた腸内には途方もない分量の汚物が貯蔵されていた。
 彼女、基本的に正常な排泄とはもう5年以上もご無沙汰であり、トイレに入っても便器を跨いでころころした兎の糞みたいなものをほんの少し、頑張って押し出すか、あまりに便秘が長期間及ぶため、強い整腸剤を使ってトイレに駆け込むのがいつものこと。
 たかだか6日程度では、自分が長期間の便秘であるという意識すらなかったのである。
 この「腸揉み」、腹部を中心に腸の活性化を促すマッサージであり、温熱と香草成分を含んだオイルでの腹部の整腸作用を促すものである。施術担当の女性から服を脱ぐよう指示され、下着だけになってベッドに横になった少女。施術開始からもののの5分で、腸へのダイレクトな刺激はてきめんに効果を露わした。
 すっかり排泄とはご無沙汰だった少女の下腹部はぐるぐると恥ずかしい音を発し始め、ごぼごぼとみっともないガスのうねりすら起こしてしまう。オイルマッサージによって血行の良くなった腸がみるみる動き出し、腸内細菌が活性化、じっと動かなかった粘膜がうごいてガスを発生させ始めたのだ。折りたたまれた腸の中に安置され動く気配のなかった排泄物の塊が、一気にうねりを増した腸の蠕動によってにわかに実体感を増してくる。
 この「腸揉み」の最中に屁意、便意を催すことはよくあることであり(というかそれを目的にしている施術でもあるので)、エステの施術師は、少女の驚きや困惑といった反応は見慣れたものだ。特段言及することもなく落ち着いて施術を続行するが、そのプロの接し方が少女にとって却って羞恥を煽る。
 女子高生はついにおしりの孔をきゅっと閉ざしオナラを我慢してしまうが、行き場を無くしたガスは腸内へと逆流してさらにぐるぐるとみっともない音を立てる。血行の良くなった腸は活発に動き、もう以前のようにガスを圧縮して貯蔵させてはくれない。寝そべったまま何度も直腸に恥ずかしい空気を送り込んでは、必死に排泄孔をすぼめてそれが腸内に戻るように押し戻すばかり。しかしそれはガスが激しく動き回ることによって一層腸内の活性化をもたらすばかりだった。
 この屁意を堪えて、ガスを噴出させそうになり盛り上がる括約筋をきゅうっと引き絞る動作は、普段少女が意識もしていない排泄孔を何度も自発的に動かす運動をもたらし、これによって小さな孔は柔らかくほぐされ、腸内の血行はさらに増し、活性化は進む。
 ここで施術師は少女をうつぶせにし、おしりを突き出させて排泄孔のマッサージも施す。ここを柔らかくしておかないと、ながらくの便秘で水分を吸われ切ったかちかちのものが出る時に傷つく可能性があるからだ。動揺するが、一連の「腸揉み」の正しい手順で腸の血行活性化ということを説明され、恥ずかしいのをこらえて応じる女子校生。ついにはオイルマッサージで直接おしりの孔までを揉まれ、ぷっ、ぷうっ、ぷすすぅっと恥ずかしいガスのお漏らしをしてしまう。
 さらに女子校生は脚を抱えられて左右に身体をよじる、柔軟体操のようなものをほどこされ、激しく腹部を圧迫される。タイミング悪く出口に向かって大量のガスが流れ込んだ所にクリティカルヒットで腹部を圧迫され、女子校生はついに寝そべったままぶぶっぶびっぶぼぼぅぅうっ!!と派手なオナラの爆音を響かせてしまう。
 6日目のガスは下着越しとはいえ猛烈な臭気を伴う非常に濃密なものだった。プロの施術師は「よくあることですから、気にしないで結構ですよ」それにもあまり言及せず施術を続ける。しかしそんな施術師をしても思わず顔をそむけたくなるほどの悪臭であったのは確かで、ここで少女は6日目の便秘がいかに異常な事態であるのかを理解させられ、羞恥はさらに煽られる。
 この感情の高ぶりに、自律神経が過剰反応。少女はさらに数度のガスを発射させてしまう。
 今度はばすっ、ぶすっ、と押し出されるような音。匂いは一層新鮮なものに変わっていた。先程までの、長らく腸内に圧縮格納されていた古いガスとは違い、腸揉みで効率よく解され、一斉に活動を始めた腸内細菌によって新たに発生した新鮮なガスだ。
 そしてぶすっ、と籠った音色は、腸内を降りてきた「本当に出したいもの」の代わりにガスがひり出される証左だった。
 少女は既に猛烈な便意を覚えているが、屁意を悟られガスを撒き散らすところを見られて完全に羞恥で委縮してしまい、せめてマッサージが終わるまではトイレは我慢しようと決意してしまう。
「お手洗いに行きたくなったら、遠慮なく言ってくださいね」
 狙い澄ましたかのようにそんなセリフ。施術師は少女を慮ってそう言ったのだが、さっきのガスの放出や匂いは、少女が激しい便意を覚えていることを示す以外の何ものでもない。いまや女子校生の腹腔内でぐるぐるとうねるのはガスではなく、もっと実体をもった重い塊である。
 腸揉みマッサージの進行とともに、活性化した腸内はいよいよ排泄の準備を続けてゆく。粘膜が腸液を分泌し、水分を吸われてかちかちになった腹腔奥の塊を薄く包み、蠕動を伝えやすくする。
 にち、にちと腹奥からせり上がるように、これまで腸の奥にどっかりと鎮座していた大きな塊が出口めがけて動き出し、腸粘膜の蠕動とうねる排泄欲求に押し動かされてゆく。真っ赤になって息を殺し、おしりの穴から断続的にガスを洩らしながら、激しい便意に耐える女子校生。
 「腸揉み」はいよいよラストを迎えていた。施術師が指二本で、腹部をぐるっと回すように押しなぞる動作を行う。それは実に的確に、出口へ向けて、今まさに敏感になっている腸の肉管をしごいていた。圧迫とともに中身を絞り出すような強烈な動作に、たまらず女子校生はぶぶぶぅ、ぶびっ、と破裂音を下着の奥に漏らし、ピンクの排泄孔を大きく押し広げながらにちにちと盛り上がらせ始めてしまう。
 それは、女子高生が長らく忘れ、体験していなかった、正しい「排泄」の姿。
 整腸剤や浣腸、座薬のそれとは全く違う、圧倒的なまでの「健康な便意」であった。香草オイルとプロの施術によってもたらされる排泄欲求は、苦しさをまったく取り払い、リラックスへと導いたうえでの安全なもの。心地よさすら伴っていた。
 この「腸揉み」は、薬などに頼らず自然の摂理として実にまっとうな、健康的な排泄を促すものであるからだ。
 本来の「排泄」がもつ、心地よさ。少女の身体が5年にわたって忘れていた本当の姿での排泄の時間がはじまっていた。
 少女はついに耐えきれずに声を上げ、施術を止めてトイレに行こうとするが――ベッドの上に起き上がったところで押し寄せる健康的な便意に耐えきれず、反射的に下腹に力を入れてしまう。途端にぬちりと排泄孔が大きく広がり、めくれ上がった粘膜を晒す。本来なら先端を押し出すだけでも苦しく痛みを伴ったであろう太く硬い大きな塊が、すんなり少女の排泄孔から押し出されてきた。おしりを押さえ、声を上げてしまう少女。施術師はここで羞恥から排泄を中断させるのは良くないと判断、少女の手を押さえて、持ち上げてしまう。
「大丈夫ですよ、恥ずかしがらないで」
 まるで悪魔の誘惑のような囁き。猛烈な羞恥が少女を襲う。しかし、「快便」という言葉の通り、整腸剤や浣腸に慣れ切っていた女子校生の身体には、あまりにも爽快な排泄だった。丹念なマッサージで血行を良くされ揉みほぐされ、肉色の輪を広げて大きく拡がって裏返る腸粘膜から、腸液にくるまれた塊が押し出される。
 下着を盛り上げみちみちちと押し上げられたかたまりは、少女の下着の中にせりあがるようにくねり、押し出され、白い布地を茶色く染めながら、なお硬いごつごつとした形を保ったまま押し上げ、盛り上がる。
 滑る粘液とオイルに濡れ透けて光る股布部分を押し上げるその形は、くっきりと半透明の下着の中に浮かび上がった。親指と人差し指で作る輪よりもはるかに太く、ひねり出されるカタチは少女の腸奥を写し取ったかのよう。先端部分はすっかり水を吸われて、ぽろぽろとウサギの糞のように崩れかけていた。押し上げられた下着の隙間から茶色いかけらがぽろりとこぼれる。
 直径4センチ、長さ20センチ強にも及ぶ大きなかたまりが、下着の奥ににちにちと音を立てて排泄されてしまう。
「平気ですよ、もうお手洗いも間に合いそうにないですし、このままここで出しちゃいましょう」
 さらなる施術師の指示。耳を疑う少女だが、施術師は本気だった。力を抜くように促されてベッドの上に四つん這いになった女子校生の下腹を擦り、腸揉みの施術はさらに続けられる。とたん、破裂せんばかりにうねる快音が下着のなかに膨れ上がった。棒状の塊を覆うようにみるみる少女の下着がみちみちと押し上げられ、一気に三倍ほどに膨れ上がる。ソフトクリームのようにとぐろを巻きながら下着を押し上げて押しあがる塊は、むっと臭気と熱量を上げた。
 ひり出された質量は途方もなく、重さに耐えかねるようにして、少女の腰に引っ掛かっていた下着がずり落ちる。どさりと落ちたベッドの上、とぐろを巻いて積み上がる、6日分の堆積物。はじめは黒に近いテカリを持ち、濃い焦げ茶色、さらに黄土色の健康的な塊。
 さらに少女の息む先、なお途切れずに、しっかり形を保って良く消化された中身が一本に繋がったままひり出され、ベッドの上に落ちた下着の上に山積みとなってゆく。ようやく千切れたかと思えば豪快なガスの放出を挟み、さらに少女は排泄孔の粘膜をめくれあがらせて排泄を続けた。最初のこげ茶色とは違う、腹奥に詰まっていた新鮮な黄土色の塊がまたも豪快にぐねぐねと積み上がる。
 それは少女が5年ぶりに体験する、正常な健康的な排泄。
「ほら、汚いのは全部出しちゃいましょうね。……気持ちいいでしょう?」
 パクパクと口を開閉させその爽快感に打ち震える少女の耳元に、施術師はさらに怪しく囁く。トイレでするように、ベッドの上に四つん這いのまま、暗示にかかったように踏ん張ってしまう女子高生。
 少女はもはや理性を飛ばし、ベッドの上で6日ぶりの排泄を本格的に始めてしまうのだった。
 さらに数度に分けて腹の中身をすっかり押し出し、山と積み上がる排泄が終わると、今度は腸壁にこびりついていた黒く汚れた老廃物が、腐った泥のようにみちゃみちゃとひり出される。これまで少女の排泄を妨げていた宿便であった。
 さらにそこからガスを盛大に放出し、塊をグネグネとひり出して――うずたかく山のようになるまで、汚れた老廃物をすっかり出し切ってしまう少女。すっかり空になった腸を蠕動させ、粘液を垂らしながら、排泄孔をぷくぷくとヒク付かせてしまう。
 施術師は満足げに頷いて、排泄物を手早く片付け、さらにエステは腸内洗浄コースへと移行していった。成分調整した温水でたっぷりと腸内を清められ、おまるに恥ずかしい排泄姿を何度も披露して、もはや力もなくぐったりと綺麗な水を排泄する女子校生。少女としての尊厳もなくし、何度となく浣腸された温水をタライへと噴きださせてゆく。
 もはや、少女はすっかり、5年ぶりの正常な排泄のもたらす底抜けの爽快感と、おしりの快感に魅入られていたのだった。


 (了)

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シロフミ 2020/08/05 21:35

保健室の遊戯

2011年のエイプリルフール企画「Under the rose」にて公開していた話です。
こういった話は以前から書いていたのですが、発表の場もないままに埋もれていたので
エイプリルフールを機会に公開してみようという試みでした。

いま考えてみると細分化されたフェティシズムのうちの一つに特化したサイトで
別のフェティシズムについての作品を公開するのは
すべきことではなかったと、反省点の方が大きいです。

なお、新作の同名作品はこの話のリメイクとなります。
描写などの追加・変更を踏まえて分量は倍ほどになりました。

 ***


「いつまでも黙ったままじゃ、分からないわ」
「…………」
 持ち上げた視線の先、少女は俯いたまま、小さく身をすくませた。
 光に透けるような淡いブロンドは、翡翠色の瞳と共にクォーターの彼女が受け継ぐ欧州貴族の血を色濃く覗かせていた。あどけなさと無垢さを感じさせる妖精のような容貌は、東西の名家が連綿と伝える遺伝子の最高傑作と読んでも差支えないだろう。
 控えめな視線と、長い睫毛。白い肌のはかなげな容貌は、少女愛好趣味の人間にはたまらない魅力だろう。
 傾いた陽射しの注がれる保健室の丸椅子の上、城崎天音は俯きがちにこちらの挙動を窺っている。
「それで……いつ頃からないのかしら?」
「…………」
「黙ってちゃ分からないわ。ちゃんと教えて?」
「えっと、……ふ、二日……」
 顔を赤らめながら、少女が応える。眼鏡のフレームに触れながらの返答は、心理的なブロック――彼女が都合の悪い答えをごまかしていることを示している。
「ウソはダメよ。きちんと本当のことをおっしゃい。正しい治療ができないと、あなただって苦しいままよ?」
「っ……よ、四日……デス……っ」
 耳まで赤くなりながら、美しい少女はとうとう己の体長管理の不備を口にした。
 天音は初等部の5年生、天使の歌声とまで呼ばれる合唱部のスターだ。同じ学年はおろか、中等部、高等部、果ては付属大学にまで知られた我が校きっての美少女。そんな彼女が抱える悩みが、極度の便秘症である。
 思春期を迎えた少女が抱えるとっておきの秘密――無自覚ながらも異性の目を気にし始めるこの年頃の少女達はひときわ羞恥心に過敏である。
 未分化な性の密やかな目覚めと共に、彼女断ちは皆、人には決して言えない恥ずかしい秘密を抱えているものだ。性に興味を持ちながら、同時にそれらを激しく忌避する、潔癖な理性も併せ持つ。
 そんなアンビヴァレンツな年代の少女達と、とっておきの秘密を共有する――これも養護教諭という立場があるからこその歓びだろう。私は常々、この職を天職と感じている。
「そう……じゃあ、おなか診せてくれる?」
「っ……」
 適当なことをカルテに書き殴り、次の指示を出す。少女が小さく肩を跳ねさせたのを私は無論見逃さない。
 四日もお通じがないという事実に、どのような対応を施されるのか――天音にとってこの保健室という場所は完全なアウェイになる。自分の身体の不調を告白させられたことにも激しい抵抗があったのだろう。
 しかし、この部屋において白衣を纏う私の言葉は絶対的な権能を有する。少女達に抗うことは許されない。
 いちどはぎゅっと俯き身体を小さくしていた天音だが、やがて観念したかのようにそっと制服のブラウスのボタンを外し、シルクのキャミソールを持ち上げる。
 蕩けるような淡い色合いの下着の内側に、まるで雪のような真っ白な肌があらわになる。なだらかな腹部が、可愛らしいおヘソをのぞかせていた。
「あら、まだブラジャー着けてないの?」
「っ、は、はい……」
「もう5年生でしょう? 嫌がっていちゃだめよ? きちんと身体の成長に合わせなきゃいけないわ。……ほら、もっと上まで見せなさい」
「は、はいっ……」
 わざと心配するふりをして、さりげなく羞恥を煽る。案の定天音は真っ赤になって応じた。
 どうも天音は自分の未発達な身体にコンプレックスを抱いているらしい。ならばそこをつつかない手は無かった。たしかにキャミソールの下にほんのわずか覗く、ささやかな胸のふくらみでは、確かに下着は不要だろう。
 しかし、ほとんど起伏のないその胸から腰までのラインは、触れることすらためらわせるような黄金律を持って存在し、天使の歌声を持つ少女の神秘性をいっそう確かに物にしているように思えた。
 それらについてのじっくりと堪能したい気持ちもあったが、今はさらに優先すべき項目がある。私はそっと剥き出しになった天音の白い腹部に手を触れさせた。
「ぁ…っ……」
「動かないで。ちゃんと診てみないと具合が分からないわ」
 逃げようと身体をよじらせる天音の動きを封じ、小さなおなかをぐっと押しこむ。普通なら柔らかな弾力を見せて沈みこむはずの指先が、硬いものに押し返される感触があった。
「ぅあ、っ……」
 堰きこむように呻いたかと思うと、とたん、天音の抵抗が激しくなる。
「っ……せ、先生……苦しい、デス…っ」
「そうなの? ……これは?」
「ひぁああっ!? だ、ダメ……っ、お、おなか……、いたぃ…っ」
 指の位置をずらすと、さらに天音は過剰に反応した。腹部の奥に詰まった手応えは、薄い肉付きの下に押し込められた異物の感触をはっきりと知らせている。
 悶える少女に興奮を覚えつつ、さらに別の場所を刺激する。天音はさらに目を細め切なげに喘ぎ、激しく身体をよじらせた。
「我慢しなさい。これも苦しい?」
「だ、ダメぇ……っや、やめてぇ……っ、お、お願い、しマス…っ!!」
 ほとんど涙声の懇願に、私の嗜虐心も煽られる。触診を装って執拗に無垢な身体を弄ぶこと、およそ5分。
 ようやく手を離してやると、天音は大きく息をつきながらがっくりと肩を落とした。どうも見た目以上に体力の無い子だ。
「はぁっ……はぁっ……っく」
「かなり、ね……」
 適当に深刻な表情を浮かべてカルテに書き殴る。養護教諭がそこまで専門的な技術を取る必要は必ずしもないが、少女の不安感を煽るのには効果的だ。無論、なにがいけないのか分かるわけもない天音は、いまにも泣き崩れそうな不安げな表情で、太目がちな眉を下げる。
「城崎さん、正直に答えて。本当にそんなに苦しいの?」
「せ、先生……おネガイ……助けて…っ……」
 ぽろぽろと涙をこぼし、天音は訴えた。レンズの内側に落ちる水滴が、いっそう無力な少女の存在を強調する。ことさらに真剣ぶる私の態度に、天音はまるでこの世の終わりのようなか細い声で喘いだ。
「ほ、ホントは……もう、一週間も、出てないんデス……っ」
「…………そう」
 さすがに一瞬、絶句していた。
 なんと、この可憐な美少女はもう一週間も排泄をしていないという。比喩抜きで掌に乗ってしまいそうな、小柄で幼い少女が、汚らしく腐敗した食物のなれの果てを、小さなおなかの中にぎっしり一週間、7日にも渡って溜め込んでいるのだ。
 こんな衝撃的な告白の前では、さしもの私も動揺を隠すので精一杯だった。
「本当に?」
「は、はい……ッ」
「何も出てないの?」
「………っ、」
 いくらか下心を混めた露骨な問いに、天音の唇が結ばれる。さすがにあからさま過ぎたか、と軽く後悔した瞬間、天音は縋るように私の袖をつかんだ。
「ぉ……おなら……は、ときどき、……出てる、デス……けどっ」
「けれど?」
「ぅ……ウンチ……が…っ……でない、デス……っ」
 この、天使のように愛らしい少女の唇から、汚らわしい排泄物の名称が立て続けに飛びだした。これを成し遂げただけでも、途方も無い背徳感が込み上げてくる。私は口元に浮かびそうになる笑みを抑えこむのに多大な労力を支払わねばならなかった。
 彼女の言葉に嘘がなければ、天音はこの小さな口で精一杯噛み砕いて飲みこんだ食物を、一週間に渡っておなかの中に閉じこめていることになる。
 ……それはさぞ強烈なことになっているだろう。
 小さくしゃくりあげる少女を見下ろしながら、彼女がそれをどのように吐き出し、惨めな音をたてて孔をひしゃげさせて処分するか――その瞬間を想像し、私はぞくぞくと背中を這い登る嗜虐心に震える。
「安心して、すぐに良くなるわ」
「ほ、本当デスか?!」
「ええ、少し苦しいかもしれないけど――すぐに治してあげる。我慢できるかしら?」
「……はい。……しマスっ、しマス…っ!!」
 もはや、自分を襲う汚辱から逃げ出したい一心なのだろう。藁にもすがるように必死で頷く天音。疑うことを知らない無垢な少女は、こうして悪魔の契約書に知らずサインを済ませてゆく。


 ***


「先生、…は……恥ずかしい、デス……っ」
「我慢なさい。約束したでしょう」
「で、デモ……っ」
 舌ったらずな声で訴える天音。
 それはそうだろう。下半身のものを全て脱がされ、お尻を突き上げた格好でベッドの上に固定されているのだ。まだ無垢な割れ目も、ほんのりと翳る小さな淡い草むらも、その後ろにあるすぼまりも、すべて私の前にさらけ出されている。
 年端もいかない少女とは言え、ここまで徹底的に裸を晒すことには強い抵抗があるはずだ。しかも、本来は決して見られてはいけない部分までが照明の下、露にされている。少女が強い羞恥を覚えるのも無理はない。
 だが、そんなことはおくびにも出さず、私は冷静な医師を演じる。
「ちゃんと見えないと処置ができないのよ。治りたくないのなら構わないけど」
「っ……、こ、このままじゃ……嫌デス……」
「なら、ちゃんとできるわね?」
 天音の顔を覗き込み、語気を強める。ひくっ、と喉を震わせ、それでも少女は健気にうなずいた。
「は、はイ……」
「じゃあ、じっとしていてね」
 天音の身体は、美しかった。
  欧州の血を受け継ぎながら、まだ二次性徴を迎えていないなだらかな身体のラインは、触れることもためらわせるように華奢で、手足はまるで人形のよう。軽く 爪でなぞるだけで身を竦ませるほどに敏感な肌は、陶磁器を思わせる乳白色の色合いに透き通り、爪先やかかとまで形よくなだらかだ。
 この少女の姿は、至高の芸術品、と評してすら生温いだろう。
 制服のブラウスの合間から覗くわずかに膨らんだ胸は、その先端の突起をほんのりと桜色に染めている。屈辱と羞恥に頬を染め、うなじにしっとりと汗をかくそのさまは、ぞくぞくと私の嗜虐心を刺激し、無残に引き裂かれた姿を想起させる。
「せ、先生……?」
  しかし、中でもとくに特筆すべきはその排泄孔だった。色素の薄いクォーターの少女のためか、そこはまったく濃い色のない、ほのかな薄肌色をしているのみ。 襞も細く寄せあわされ、慎ましやかにすぼまっている。まさに天使の名を関するに相応しい、俗世の穢れとは無縁のようなささやかな場所である。
 一体、この中に一週間にも及ぶ排泄物がぎっちりみちみちと詰まっていると、誰が想像できるだろう?
 彼女も他の少女と同じように食事をし、その成れの果てを身体の中で腐敗させているのだ。うねる汚辱の塊を、この小さな排泄孔の内側にみっちりと蓄えているなど、とても思いもよらないことに感じられた。
「力を抜きなさい」
 言い捨てて、私は天音の小さなすぼまりをなぞり上げる。産毛すらないつややかな柔肌の隙間に息づく神秘の孔は、腰を震わせる少女の悲鳴に合わせ、萎縮してきゅぅきゅうとはしたなく蠢いた。
「っ、やだ……そんな、トコ……き、汚いデス……っ」
「嫌がっていたら治らないわよ。おとなしくしていなさい」
 現状を治療するためには『そこ』に処置を施さねばならないことは頭では理解できていても、嫌悪感は拭えていないらしい。反射的に逃れようとする少女の身体を抑えこみ、薄い樹脂の手袋を嵌めた指先で執拗に触診を繰り返す。
 天音のそこは確かにここ一週間、使用された形跡もなく、硬く閉じ合わさって硬直している。軽く押しこむその反動だけで小さく縮こまり、とてもその内側に詰まった汚辱を吐き出せるようには見えなかった。
「まずは、少し解してあげないとダメかしらね」
「ぇ……?」
 呆けたような声を上げる天音に聞こえるように、私は傍らの机からクリームの瓶を取り、薄いゴムの手袋の指先にたっぷりと掬い上げる。
 ちいさな孔ににちゅり、と白いクリームを塗りつけられた天音は、たまらずに甲高い悲鳴を上げた。
「や、やぁ……せ、先生……へ、ヘンなコト、しちゃやデス……っ!! き、キモチ悪いデス……っ」
「ただのクリームよ。マッサージをしてあげてるだけ。このままじゃ、無理に出させてもおしりが裂けちゃうでしょう?」
「っ……」
 裂ける、という言葉に反応したか、天音は言葉を失った。その表情は羞恥が七分に恐怖が三分。
 どうやら、彼女は私の言う治療、という言葉の意味をやっと悟ったらしい。やはりこのようなモノとは無縁に育ってきたのだろう。純粋無垢な少女の心が、耐えきれない被虐にゆっくりと歪んでゆく様がありありと手に取れる。
「ぁ、ア……ァアっ……」
 か細い声で、天音はぱくぱくとくちびるを丸く開き、耳をくすぐるような心地よい喘ぎをこぼす。緊張に震え、羞恥に染まる頬が、無垢な少女が初めて経験する感覚をはっきりと知らせている。
 細い襞の隙間の一本一本に、丹念にクリームを塗りつけ、適度に押し伸ばす。ごくごく弱い筋弛緩作用のある成分が、緊張と潔癖感に強張った少女のすぼまりをゆっくりとほぐし、本来の用途であるモノの出入りを可能にする孔へと変えてゆく。
 くち、と押しこんだ指先が、硬く閉ざされていたドーナツ状の括約筋を押し広げ、小さな輪をつくる。
「あふぁ……ぅッ」
 ぬめるクリームの刺激は、少女の硬直した身体をゆるやかにほぐし、直接天音の身体を蕩けさせる。粘膜を弄り回させる未知の感覚に、少女は何度も声を上げた。
 やがて、繰り返される刺激にぷくりと盛り上がった小孔が、わずかに襞を折り返し、指の先端をゆっくりと飲み込んでゆく。
「っ、や、やぁ……先生ッ……お、おしり…っ、だめ、痛……裂けちゃう、デス…っ」
「すぐに馴染むわ。緊張せずに力を抜いて」
 身体をよじり逃れようとする天音を抑え付け、指の抽挿を早める。わずか半センチほどの前後運動ですら、天音には身体を引き裂くほどの衝撃に感じるらしい。なるほど確かに、すでに彼女の排泄器官はその本来の役目を忘れて久しいようだった。
 ほんのわずか、膨らんだ粘膜に埋め込まれた指先を、ぐるりと小さくねじるように回転させ、引き抜く。ちゅぷりと糸を引く粘液は、少女の孔を濡らすものがクリーム以外の潤滑液を分泌し始めた証拠だ。
 細く狭まっていた襞がゆっくりとこじ開けられるに連れて、天音の紅潮が頬から首筋へと拡がってゆく。
「あ、はァ、せ、先生っ……や、なんか、ヘン、なカンジ…っ」
 幼いなりに、ベッドの上で絡みあうということの禁忌性のようなものは感じているようだ。込み上げる感覚を持て余すように、天音はなんども首を振って拒絶の意志を伝えようとする。
 すでに先端まで真っ赤になった耳朶を、そっと食む。
「ぁああぅあ……ッ!?」
 ささいな刺激は、けれど経験のない少女にはあまりにも大きな衝撃だったらしい。
 気付けば、人差し指は半分ほどまで天音の体内に埋まっていた。ゆっくりとそれを引き抜くと、少女は細い背中をがくがくと振るわせる。指の太さに拡張された天音の排泄孔は、くぷりと小さな肉の輪のカタチに広がっていた。
「こんなものでいいかしら」
「……あ、っつ、ふぅ……ふぅっ……」
 汗ばんだ胸を上下させ、荒い息を繰り返す天音。やっと解放された事への安堵からか、すっかり緊張を解いて脱力していた。
「先生……?」
 硬く張り詰めていた下腹部を擬似的にほぐされ、いくらかの余裕を得た天音は上半身を起こしてこちらを窺う。これでおしまいかとでも思っているのだろう。
 だが、無論の事この程度で彼女を解放するつもりはなかった。
「まだ動いちゃダメよ、これからお薬を入れてあげるから」
「おクスリ……デスか?」
 ぼんやりとした口調で、天音。
 今の言葉で彼女が想像したのは恐らく飲み薬なのだろう。医療経験の少ない小学生なら、薬と言えば経口摂取する錠剤か液剤、せいぜいが粉末状のものがほとんどだ。しかし即効性の薄いそんなものを用いるほど悠長に事を構えるつもりはないし、なによりも私の興味が満足しない。
 手早くチェストを引き寄せ、引き出しに常備してある薬剤の瓶とガラスの注入器を取りだす。ほんのりと薄桃色に色づいた透明の薬液をビーカーに開け、四倍に希釈し撹拌する。
 この作業は急ぐ必要があった。いかにもな注射器を連想させるガラスの容器をはっきり見られては、天音の抵抗を招く恐れがある。せっかくほぐした排泄孔も緊張に引きつり、硬直した直腸はほとんど薬液を受け入れない。それでは思うような効果も発揮できないだろう。
 そして、恐怖によって少女たちの口を封じるのはリスクが高いことを、私は過去の経験から嫌と言うほど思い知っていた。だから、有無を言わせずに私は注入器の先端を、クリームに塗れた天音の排泄孔に押しつける。
「ふぁ!?」
 くに、と。ほんのりと色づいて盛り上がっていた排泄孔は、指よりも細いガラスの吸い口をすんなりと飲みこんだ。冷たい異物が体内に侵入する感覚に、繊細な少女の身体が小さく震える。
 背筋をぞっと粟立たせながら、天音はベッドの上でうつ伏せになったままもがき、ガラスの嘴から逃れようとする。
「あく……や、やァアっ!?」
 しかし、その一方で天音の排泄孔はドーナツ状にぷっくりと膨らみ、小さなガラスの管をきゅっとくわえ込んでいる。軽く注入器を動かしてやると、そこは綺麗な肉色をわずかに覗かせながら、透明な粘液で吸い口を濡らした。
 どうやら、すでに注入の準備は整っているようだ。にんまりと口元に込み上げる笑みを必死に押さえ込みながら、私は注入器のピストンに手をかける。
「さあ、おクスリを中に入れるわ。力を抜きなさい?」
「せ、先生……や、おしり、ヘンなのが……入ってる、デスっ…!?」
「ふふ、大丈夫、すぐに慣れるわ」
 天音の身体が十分な拒絶反応を示せずにいるうちに、私はぐっとピストンに力を篭める。ガラス容器に溜まる薄赤い薬液が、わずかに混ざった空気と共にぷじゅるるるっと音を立てながら少女の体内へと送りこまれてゆく。
「ふぁぁアアアアッ!?」
 天音が甲高い悲鳴を上げる。思わず眉をひそめるほどの大声は、なるほど確かに合唱部でも人気の的となる淀みのない澄んだ美しい声だ。まさに、絹を裂く悲鳴、という表現が相応しい。
 この保健室は防音であるから良いようなものの、ほかの部屋でならばたちまち誰かがかけつけてくることだろう。
 だからこそ――私は誰にも邪魔されぬまま、この可憐な少女を思うさま虐げることができるのだが。
「や、やァア!? な、お、おナカ……おしり、ヘンなの、入ってッ……だ、ダメぇ、だめデスっ、先生、……ワタシのおシリ、ヘンなの入れないでェ……ッ!!」
 そんな天使もかくやという可憐な声を、苦悶と苦痛に歪ませて、少女は涙を滲ませ必死に訴える。しかし無常にも、彼女にさらなる苦痛をもたらす悪魔の薬液は、容赦なく腹腔へと注ぎ込まれてゆくのだ。
  ゆっくりと進んでゆくピストンのゲージは、既に半分ほどの薬液が天音の腸内へと送り込まれたことを示していた。この瞬間はまさに、私にとっての擬似的な射 精に等しい瞬間だ。できるだけ長引かせ、少女の反応を楽しむため、焦らすようにゆっくりと、ピストンを押し込んでゆく。
「あ、くゥッ……ヤダぁ……センセぇ……っ」
 短い髪を振り立て、じっとりと汗に湿る背中をくねらせて、天音は助けを求める。
 その小さな下腹部の中に、下品な音を立てて薬液が溶け込んでゆく。数々の実験で突き止めた薬剤の配合は、少女にとってもっとも負担をかけず、かつ最適に羞恥を煽って排泄衝動を与えるように調合してある。
 だが今回はあまりにも長い間、本来の機能を忘れてしまった天音の排泄器官を叩き起こすのが目的なのだから、時間を調節し、少女の身体をコントロールしてやる必要があった。

 ぐりゅるるるぅぅッ……

「や、やぁああ…ッ!?」
 薬液の注入がさらに半分、4分の3を過ぎたころ、不意に鈍く響いた腹音に、天音は顔を真っ赤にして枕に押しつけた。ことさらに強い羞恥心を持つ少女の年代にとって、それは死ぬのにも近い恥辱だろう。

 ごぼ……ぎゅるるるぐりゅッ、ごぽぽッ……

 もともと限界近くまで中身を押し込められていた直腸に、さらに異物を注入され、反射刺激で蠕動が活発化したのだ。液体と気体が混じりあい、活性化された腸粘膜を激しく刺激して、少女の下腹部が下品極まりない排泄の予兆にうねる。
 空腹の腹音とは明らかに違う、もっと下品で、恥辱極まりない音。我慢できないトイレの予兆である。
 すっかり機能を停止していた排泄器官の奥に圧縮されていたガスが、薬液の助けを借りて蠕動を繰り返し、直腸までごぼりと湧きあがっては少女の我慢によって再び腹奥へと押し込められる。
 これによって、天音の直腸は蠕動を再開させた。あとは数分もしないうちに、これまで天音の腹のなかにとどまりつづけた、固形の物体にまでその震動が到達してゆくことだろう。
 とうとう天音は、はっきりと排泄欲求を自覚したようだった。
「や、やだ……先生っ、離して、くだサイっ……あ、あの、ワタシ……っ」
 ふかぶかとガラスの管に貫かれながら、天音はお尻をもじつかせ、左右に腰を揺する。汗を浮かべてびくびくと引きつる下腹部は、はっきりとトイレへの欲求を覗かせていた。
 透明な管を深々とくわえ込む、ピンク色の括約粘膜は、小さくすぼまっては緊張と弛緩を繰り返し、細かな排泄欲求を飲み下しているのが手にとるように窺える。
「どうしたの? まだおクスリ、残ってるわ」
「ち、違うデス……ぁ、あのっ……くぅゥッ」
「動いちゃダメよ、ちゃんと入らないわ。お腹がいたいのが治らないわよ?」
 あえぐ天音を見て笑いたくなるのをこらえ、務めて事務的な口調で告げる。こうすることでより一層、天音の罪悪感と羞恥心を煽ってやるのだ。
 ピストンに力を篭め、軽く前後させると、腸内を満たす薬液がぐじゅぐじゅとかき混ぜられ、天音はまたも鋭い悲鳴を上げた。
「や、やぁ……!! せ、センセぇ…っ、ダメ、っ、……ぉ、……っ」
 少女の小さなくちびるが、わずかに震え、その言葉を紡ぎだした。
「ぉ…トイレ……行きたい、デス……っ」
 下腹を抱え、暴力的な腸内の衝動を堪えながら、必死に訴えるその視線に、私の背筋にぞくぞくと嗜虐的な快感が走る。下半身になにも纏わぬ裸体を惜しげもなく晒し、排泄を訴えて涙を浮かべてあえぐ少女の姿。……これにまさる美しいものなど、この世にない。
 だが、これからだ。
 私の趣味は、この程度の嗜虐ではまるで満足しない。愉悦をおさえ、強い口調で天音に告げる。
「ダメよ、ちゃんとおクスリが入るまで我慢しなさい」
「ぁふぁ!? やぁ、ヤァア!! も、もう無理デスッ!! お、おナカっ・・…もうおクスリ、いいデスっ…!! も、もぉ、おトイレ……ぇえッ!!」
 喚く天音を押さえ付け、ぐいとピストンをねじり押す。
 注入器に用意した総量200mlの薄赤い溶液の残り4分の1、50mlがみるみる少女の身体の中に吸いこまれていった。抗議の声も悲鳴も、その薬液の衝撃に塗りつぶされて、天音はただ、下半身に吹き荒れる猛烈な衝動をこらえるのに精一杯になる。
 あまりに激しい少女の反応に、私は下着が濡れる感触を覚えていた。
「ぁああアアアアッ!?」

 ぷちゅるるる……っ

 最後のひと押しを終えて、ついに少女への浣腸は完了した。
「はい、全部入ったわ。良く頑張ったわね」
「あ、アァ……は、く、ゥゥ……」
 通常、成人女性に用いられるモノのおよそ6倍強、イチジク浣腸6つ分の薬液を流しこまれたのだ、天音のような幼い少女にはあまりに衝撃的な刺激だろう。
 びく、びく、と枕をつかんで必死に声をこらえようとする様が、いとおしい。
「さ、抜いてあげるわ」
「ァああアウゥ……!?」
 ガラスの管をそっと引き抜くと、わずかな抵抗がある。
 あろうことか、天音の括約筋は透明な注入口に絡みつくように、肉色の粘膜を締めつけていた。どうやら彼女のここは、同年代の少女のそれに比べても、かなり発達しているようだった。
「どう?」
「あ、あっ、ああァ……」
 引っ掛かりを無視して、ちゅぽん、とガラスの管を引き抜く。一瞬ぷくりと膨らみかけた孔は、しかしすぐにきゅぅっとすぼまって閉じあわされる。こぼれたのはわずかに、数滴の薬液のみだ。
 200mlにも及ぶ薬液を飲み込んで、まだ耐える余裕があるというのは予想外でもあった。即座にベッドを汚される覚悟をしていただけに、驚かされつつもさらに私の期待は膨らんでいた。
 じりじりと、悶える天音の両足が、シーツの上に突っ張って震える。

 ごきゅぅうう……

「うァ……っ」
  鈍い腹音は、静まり返った保健室の中、私の耳にまではっきりと届いた。私の手によって注ぎ込まれた薬剤によって無理やりに引き起こされた猛烈な便意が、可 憐な少女の小さな腹部の中に荒れ狂い、屈辱的な一瞬を強いてゆく。無垢な少女が怪我されてゆくこの瞬間こそが、私を興奮の高みへと押し上げてゆくのだ。
「は……ゥく、ゥ…ッッ」
 たとえ一旦は耐えきったとしても、注入された薬液の作用で強○的に引き起こされる排泄衝動を最後まで押さえ込むのは土台無理な話だろう。確かに腸というものは水分を吸収する器官だが、それを封じるための成分もきちんと配合されている。
 体内で荒れ狂う排泄物の蠕動に抗うかのように、ぷくりと盛り上がった少女の孔は、ひくひくとすぼまってはきゅうっと締めつけられる動作を繰り返す。その頻度が徐々に狭まってきているのを私は見逃さない。
「だ、だメェ…先生っ、く、苦しい、デスっ……っ、や、トイレ……おトイレぇ…っ」
「我慢なさい。まだお薬入れたばかりよ?」
 うつ伏せになってシーツを引っ掻き、天音はどうにか逃れようとしていた。それを優しく押さえ付け、私は少女の耳にそっと囁きかける。
 苦しいのは当たり前だ。もともと一週間にも渡って摂取された食物のなれの果てが、全てぎっしりと詰めこまれ腐敗している場所に、さらに200mlもの薬液を流しこんでいる。今にも破裂せんばかりに腸が暴れだしてもおかしくない。
 その証拠に、ぐぎゅるると音を響かせる少女の下腹部は、外から見ても分かるほどに膨らんで震えている。これまでおとなしく順番をまもり、少女の排泄器官に収まっていた汚辱の塊が、薬液にかき混ぜられて一気に排泄孔へと駆け下っているのだ。
 私の注ぎ込んだ薬液が原因となって、ちいさな腹を膨らませる少女――その想像に、堪えきれないほどの悦楽が脳に溢れてゆく。
「ぁ、あふ…ふァア!! …だ、だメェ……っ!!」
 ぷくりぷくりと盛り上がる小さなすぼまり。精一杯清楚な姿を保とうとするその隙間から、下劣な本性が垣間見える。そう、ここは本来、少女の無垢な身体のなかでもっとも汚辱と恥辱に塗れた部位だ。
 天使のように美しく可憐な乙女が、恥も外聞もなく、その身体で作り出した醜い塊を産み落とす場所。
 いまや、その崩壊の時は近付いていた。
「せ、センセぇ…っ!! だめ、出ちゃいマスっ……ヤダぁ、ぁあっ!!」
「駄目よ。まだ5分も経ってないじゃない。まだまだちゃんとお薬も効いてないわ。ほら、深呼吸して、1、2、1、2、」
「ッだ、ダメ、だメェ……センセ、ぇ……お、トイレぇ…っ!!」
 絞り出すようにそう叫んで、天音が腰を持ち上げた瞬間。

 ぶちゅ、ぶじゅるるっるうぅっ!! びじじゅじゅっ!!

「あ、はァアアア…ッ!?」
 激しい濁流が少女の排泄孔から吹きだした。直腸内に注ぎこまれ、中にたまった固形の排泄物を溶かした薬液は、わずかに固形の塊を伴い薄い茶色に染まってベッドの上に吐き出される。
「や、ヤダ、で、出ちゃゥッ……お、おナカ……やァアぁ!!」
 激しく叩きつけられる薬液は、程なくして薄赤い本来の色から、少女の体内にある汚辱に染まった褐色へと変わってゆく。びくびくを背筋を震わせ、腰を振り立てる天音。しかし薬液の噴出は止まらず、ベッドの上をたちまちのうちに悪臭漂う泥沼へと変えていった。

 ぷじゅっ…ぷぴゅるっ、ぷ、ぷりゅぅっ、ぷぴっ……

 しかし、薬液を滝のように吐き出してなお、天音の下腹部からは激しい蠕動が続いていた。どうやら少しばかり排泄を許したのが早すぎたのか、便意は十分に掻きたてても、本当の排泄を促すにはまだ早かったらしい。
「っっ、ダメ……せ、先生……お、おナカ、く、苦しいデスっ……」
「我慢しなくていいわ、全部出しちゃいなさい」
「っ、あ。っ!!」
 焦れながら、私は天音の腹をさすって、臍のすぐ上辺りをぐいっと圧迫する。単に堪えているだけならばこれで排泄が始まるはずだが、天音は枕を掴んで呻くばかり。
「ぁ、あァアっ、嫌、いやデス……お、おナカ、ヘンに……ッ!!」
  蠕動の苦しさに喘ぎながらも、健気に言われた通り下腹部に力を篭める天音。しかし排泄孔はぱくぱくと口を開いて粘液を吹くばかりで、まったく内部に詰めこ まれた固形物を吐き出そうとはしない。まだ半分は薬液が残っているはずだが、一旦直腸の奥に流れ込んでしまったせいかすぐには排泄されてこないようだっ た。
 埒が開かないと判断し、私は再度の浣腸を試みることにした。天音の身体を抑え込み、再度ガラスのノズルを少女の淡い排泄孔に押し当てる。
「っ、やぁ、もう、おクスリ……イヤぁ!!!」
「嫌でも、我慢なさい」
 激しく抵抗する天音だが、当然それを許す私ではない。ぐっと押さえ込んだ少女の下半身に、再度の――今度はさっきの倍にあたる400mlの浣腸液を一気に注入した。

 ぶちゃばっ、ぶじゅじゅぶびびびびっ!!

 今度の反応は恐ろしく早い。もはや天音の下腹部は均衡を欠き、些細な刺激ですら最後の一線を崩す引きがねと成りえたのだろう。
 特性の薬効で執拗に腸内をかき混ぜた浣腸の効果はすさまじく、天音はうつ伏せになったまま高々と持ち上げた排泄孔から激しく薬液を吹き上げ、そこから汚辱のカスを立て続けに吐き出した。

 ぶ、ぶぢゅっ、ぶじゅぅうう、ぶびっ!!!

 天使の歌声をもつ美しい少女は、篭ったガスを連発し、小さな孔で立て続けに放屁の連弾を奏でる。
 さらに少女の排泄孔はぱくりと左右に大きく広がり、内臓の色をのぞかせながら捲くれあがった。露になった直腸粘膜から、腹圧によって押し出された極太の固形物がみちゅみちゅと粘つくを音と立てながら顔を覗かせる。
「ぁくゥ……っは、ぅ、ァアゥ……ッ」
 天使の歌声を持つ少女が、排泄孔で無様にみだらに奏でる下劣な歌声。
 涙と鼻水までこぼしながら泣き喚く彼女の意志を無視して、排泄孔は大きく盛り上がり、その内側からごつごつとした硬い焦げ茶色の塊を押しだしてゆく。その先端はまるで兎のフンのように、水分を吸われてブロック状にカチカチになって、少女の排泄孔を塞いでいたものだ。
 目の前で始められた最高の排泄劇から、私は目を離せずにいた。
「ぅあ、あアアアアァ!!」
 保健室のベッドの上、というありえない場所での排泄は、潔癖な少女には許容できないことだったのだろう。反射的に、お尻を押さえてしまった天音の白く細い指が、たちまち自分自身の吐き出した汚辱によってどろどろと汚れてゆく。
「やァ、出ちゃウゥ……お、おトイレェ……だめェエ、ッアゥゥっ……!!」
 一度大きな塊を排出し終えると、それを準備運動代わりに十分ほぐれた天音の排泄孔はつぎつぎにガスを吹き出し、腹の奥底まで流れ込んだ薬液をぶじゅぶじゅと泡立てながら、本格的な排泄を開始した。
  浣腸液に洗い流されてシーツの上にこんもりを積みあがってゆく汚辱の塊は、まるで巨大な褐色の蛇のよう。恥辱の粘土細工のようにうねうねと吐き出される塊 は、驚くことに30センチあまりもしっかりと形を保ち、最後の最後まで綺麗にうずたかく羞恥のピラミッドを築き上げた。おそらくこの粘塊はそのまま、天音 の腸形を写し取っているに違いなかった。
 少女は泣き喚きながらも生暖かいガスを吹き出し、さらに何度も腹部に詰め込まれていた塊を吐き出してゆく。
 およそ一週間ぶりになる排泄は、恐ろしいほどに長く続いた。



 ***



「ぁアァアア……ぅ」
「まだ残ってるといけないわね。念のため、もう一度洗浄しましょう」
 そんな題目で最後にもう一度、浣腸をほどこされ、今度こそおなかの中を空っぽにさせられて。ようやく解放を許された天音は、ふらふらとした足取りで去ってゆく。
 今日のことを黙っているのも勝手。言いふらすのも構わない。
 どちらにせよ、彼女はここでの行為を深く覚え、決して忘れることはできない。一部始終をカメラに収められたことの意味が分からない年齢ではないだろうし、私は天音が最後には浣腸で達して居たことをしっかりと記憶している。
「また、苦しくなったらいらっしゃいね、城崎さん」
「…………ッッ」
 俯いたまま小走りに廊下の向こうに姿を消す少女を――私は満足と共に見送った。



 (了)

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