シロフミ 2020/08/05 22:28

明楽の入学式・中編

(あ、開いたっ、わたしの番だっ…!!)
 弾かれるように、明楽は飛び出していた。中に入っていた子が出てくるよりもはやく個室に駆け寄って、ほとんど押しのけるようにして中に飛び込む。いきなりのことに相手が『きゃっ』と小さく驚きの声を上げるが、すでに明楽には個室の奥にあるうんちを済ませるための場所しか見えていない。
 個室に入るなりドアを乱暴に締め、後ろ手にがちゃり、と鍵を落とす。
(は、はやくっ……しなきゃっ……、で、でちゃうっ)
 周囲からの視線を高い壁に遮られ、小さな密室となった個室が完成する。薄桃色のタイルと、しゃがんで使用するタイプの和式便器。
 そこは紛れもないトイレ、うんちをするための場所。明楽が、自分を苦しめ続ける腐ったお腹の中身を排泄することを許された、秘密の花園だった。

 ぷ……ぷうっ、ぷすすぅっ……

(ま、待って、まだダメっ……!!)
 待望のトイレを目の前にして、先走った排泄器官が敏感に反応する。排泄孔がぷくりと盛り上がり、下着の奥で可愛らしいオナラの音が響く。おしりの孔を必死に締め付けて、もう今すぐにも始まってしまいそうな排泄をぎりぎりのところで抑え込み、明楽は震える指先で下着に手をかけた。
「――それにしてもさ。すごかったわよね、さっきの」
「もう……やめてよその話。思いだしちゃうじゃない。気持ち悪い」
「ホント臭かったよねー」
(っ……!?)
 ドア越しにもはっきりと届く少女達のお喋りの中に混じった、聞き逃せないフレーズを聞いて、反射的に明楽の下腹部がきゅうっと縮みあがる。
「なに考えてるのかしらね、あんな時にオナラとかって信じられなくない? トイレ行けばいいのに」
「音もすっごかったよぉ? ぶびびびびー、なんつって」
「やっだ、下品だってばっ」
「ぶぶぶぅーっ……あっはははっ!!」
 物真似に反応した少女達が一斉に笑いだす。それはおそらく、明楽の仕出かしたガスの放出の口真似だ。実際はその大半がかすかな音しかない、いわゆる『すかしっ屁』だが、彼女達は犯人が分からないゆえそれを大袈裟に表現していたのだ。
 だが、明楽の放出してしまったガスの量は確かに大量であり、悪臭もそれに勝って凄まじいものだったのは確かだ。
「ホント誰なんだろうね、アレ」
「さあね。でもさ、あたしだったら絶対あんなところでできないわよ? もう失格でしょ、女の子としてさぁ」
「言えてる。あんなのして平気なんだったらいっぺん死ねよって言いたいわね」
「笑い事じゃないってば。前の席の子、最初わたしがしたと思ってこっち睨んでるのよ? 誰だか知らないけどふざけんなって感じ」
(ぁ……っ)
 よくよく注意すれば、そのその声のいくつかには明楽も聞き覚えがあった。教室で明楽が聞いたもの――そして、明楽をたしなめたポニーテールの少女のものだ。
 蒼白になる明楽を、低く唸る下腹が責め立てる。

 ぐりゅるるるぅ……

(ぅ、あっ、あ、やだっ、やぁあっ……)
 下着の中にまたもぷすっ、ぷすぅとガスを吐き出して、明楽はへっぴり腰になりながらお腹を押さえ込む。むぁっと込み上げる自分の臭気に、少女は真っ赤になって俯いた。
「ホント信じらんない。ふつー、中学生にもなってあんなオナラできないって。子供じゃないんだからさぁ。我慢しろって感じ」
「ってかアレもう漏らしちゃってたんじゃないの? あんな臭かったんだし」
「言えてるー。ねえ、その子何食べてるのかな。やっぱ腐ったゴハンとか?」
「生ゴミじゃないの?」
「あははっ、ひっどーい」
(や、やだ……っ)
 彼女たちもドア一枚を隔てた向こうにその張本人がいるとは思わないのだろうか。明楽を傷つけるには十分すぎるほどの、あまりに理不尽で暴力的な言葉の群れが次々と並べられてゆく。晴れの入学式で途方も無い悪臭を撒き散らした惨劇の『犯人』の顔が見えないことが、かえって彼女達の非難を際立たせていた。
「だってあたしの身にもなってよ。すぐ目の前ぽかったのよ? もう臭くて臭くて。毒ガステロなんてもんじゃなかったんだから。ふざけんなって感じ」
「幼稚園とかならわかるけどさぁ。いい歳してちゃんとトイレ行けよって話よねぇ」
「きっと毎日オモラシしてるんだよ。ああいう子ってさ」
「あはは。かわいそー」
 応じる少女達の――恐らくは、明楽と同じ教室で学ぶであろう、クラスメイト達の無遠慮な笑い声。
 明楽はぎゅっとおしりを押さえ、ぐるぐるとうねる下腹を抱え込みながら、じっと小さく身を丸める。
(ダメ、出ないで、でちゃだめぇ……っ!! き、聞こえちゃう……!!)
 灼熱に滾るガスが激しく前後する腸の中身は、どう考えてもおとなしく外に出てくれるとは思えない。一度や二度音消しの水を流したところでとてもごまかせるものではないのは明らかだった。ひとたび排泄が始まってしまえば、暴力的なまでの直接的、間接的な被害を周囲に撒き散らすのは明白だ。
 加えて、ここのトイレは、なんとも巡りの悪いことに和式だった。排泄物が水に沈む洋式ならば防げたはずの悪臭が、そのままダイレクトに外に拡がってしまう構造なのだ。
(……っ)
 確かに女子トイレの個室は外からは隔離された見えない密室だが、一見頑丈な四方の壁も、安全と管理の問題上から上下部分に大きな間隙をつくっており、物音も匂いも遮るものはない。
 つまりは、ここでうんちを始めてしまえば、その瞬間に明楽がナニをしているのか、いまトイレ入っている生徒達にもはっきりと伝わってしまうのだ。

 ぐりゅりゅるるるぅ……

 激しく下腹がうねる。蠕動を繰り返し圧力を高める下腹部が、その中身を吐き出そうと少女に訴えかける。
(……無理だよぉ……っ、ここじゃ、……うんち、できない……!!)
 目の前に、やっとうんちを済ませることのできる場所が、切望していたトイレがあるというのに。非情にも現実は明楽に排泄を許さなかった。
(がまん……がまん、しなきゃ……)

 ごろ、ごろろるっ……ごきゅう……

 あまりにも不穏にくねる排泄器官の蠕動を、ぐっと飲み込むように下腹部を押さえながら。明楽はとうとう諦めてドアの鍵を開ける。形だけ流した水の音が、まったくその必要のない、綺麗なままの便器の中を洗い清めてゆく。
 より一層排泄欲を刺激する個室をあとに、明楽は足早にトイレを立ち去った。



入学式を終え、初めて顔を会わせるクラスメイトたちが互いに自己紹介をし、これからの学校生活を語り合う。部活のこと、学校行事のこと、授業のこと、テストのこと。なにもかもが初体験ばかりの期待と希望に満ちた学校生活。
 担任の教諭がまだ到着していないため、どこか緊張を孕みながらも、穏やかに弛緩した雰囲気が教室には満ちていた。明楽が教室に戻った頃にはまだ皆真面目に席についていたのだが、15分もすると雑談が始まり、いまはすっかり騒がしくなっている。すっかり打ち解けた女子グループの数名は、早速これから放課後にカラオケに行こうと盛り上がっている様子だった。
「………っ、ふ……」

 ぐきゅ……ごりゅるるるっ……

 しかし、明楽の身体はそんなリラックスした雰囲気の対極に置かれていた。
 少女はひとり、クラスの喧騒をよそに押し寄せる激しい便意と戦っていたのだ。
(は…やくっ、でちゃうぅっ、はやく、うぅっ……)
 ひっきりなしに唸り続ける下腹。濃縮されたガスと固形の内容物、そして分泌された粘液が撹拌され、出口を塞がれた明楽の腸内で暴れ続けている。
 せっかく辿り着いたトイレでも解放を許されなかった、内なる猛烈な衝動。
 もはやこれは百人中百人が認める、激しい便意だった。
 一週間をかけて貯蔵された腹腔の中身を、容赦なく引っ掻き回すとめどない蠕動。明楽は椅子の上に腰を浮かしては息を荒げ、座板におしりを押しつけてぷくりと膨らむ排泄孔を渾身の力で引き締める。
 少女の意志を無視して高まる腹圧で押しだされんとする内容物は、明楽の直腸、排泄孔のすぐ真上まで迫っている。うんちができないならばせめてガスだけでも放出して楽になりっておきたいところだが、クラスメイト達が席を寄せあったこの状況ではそれすらも許されない。
(ぅ……はぁっ…くぅぅっ……)

 ぐぎゅ……きゅるるっ、…ぐりゅぅう……

 体内で蠢く不気味な駿動。ふっくらと膨らんだ少女の下腹部は、骨盤に伝播する危険な震動を伴って激しさを増しながら、じわじわと下降を続けている。朝の自宅、通学途中のコンビニ。入学式後、ほんの10分前の体育館横。いずれのトイレでもできなかった排泄作用が、いま、この教室の片隅で再現されようとしていた。
「く……ぅぁっ……」
 きりきりと高まる腹圧に耐えかねて明楽が腰をくねらせた途端、ごぼっ、と腐敗発酵したガスが体奥から湧き上がった。
 突如直腸で膨らんだ猛烈な屁意に明楽は小さく悲鳴を上げる。
(っ!!! だ、だめっ、出ちゃダメぇ……っ!! が、がまん、がまんするのっ!! しなきゃダメえ……!! っ、お、おなら……みんなにっ……ひっかかっちゃうっっ……)
 すぐ後ろには、明楽と同じように席に座り、ホームルームを受けているクラスメイトがいる。その鼻先のすぐ前で濃密なガスを吐き出すなど、決して許されることではなかった。明楽はあらゆる感覚を総動員して苦痛に耐える。
 腹腔の内部で暴れまわる内容物は、液体・固体・気体が渾然一体となった混沌の排泄欲となって、少女の可憐な排泄孔に殺到する。一週間の熟成を経て暴れだした猛威が少女の小さな下腹部には到底納まりきるわけもなく、明楽の恥ずかしいすぼまりはぷくりと盛り上がり、少女の意思に反して内側に溜まった汚辱を放出しようとする。

 ぷ、……ぷ、っす……ぶすっ……

(出ないでぇっ、で、ない、でぇえっ!!!)
 机の角を握り締め、ぐいぐいと腰を揺すり、おしりを椅子に押しつける。それでも完全には抑えきれない悪臭が、断続的に明楽の腹の中から漏れ出てゆく。
 わずかに盛り上がった排泄孔からくちくちと吐き出される汚臭を振り払うこともできず、明楽は固く身体を硬直させたまま、荒れ狂う下腹部の猛威が過ぎ去るのを待つしかない。どうか気付かれないようにと必死で祈りながら、生涯最悪の苦痛に抗おうとする明楽を嘲笑うように、腹音はさらに激しさを増した。

 ぐるるっ、ぐぎゅうるるるるっ、ごぼぎゅるるるうっ……

「ぅ…は……く……ぅっ……!?」
 今度はなりふり構っている場合ではなかった。獰猛に唸り続ける下腹部をさすり、脚の間に押し込んだ手でスカートを掴み、明楽は両手を使い、身体の奥からやってくる絶望に抵抗する。全身の力を込めて排泄孔を締め付け、汚辱の暴発を防ごうとする。しかし高まる便意は天井知らずに激しさを増していった。
(うぅくっ、あ、だめっ、出ちゃダメっ、がまんっ、がまんするのぉっ……っっ!!)
 声にできない悲痛な叫びを噛み締め、明楽は恥も外聞かなぐりすてて抵抗する。しかし出口のすぐ前で荒れ狂う便意が、乙女の繊細な心を無慈悲に引き裂いてゆくばかりだ。
(あ、あっ、ぅ、ぁ、ぅ、……~~っ!!)
 腹腔が直接ねじられるような容赦のない蠕動。蠢く内臓が自然の摂理に従い、明楽にこの場での排泄というもっとも恥ずかしい行為を促してくる。びく、びく、と突っ張る脚が宙に浮かび、爪先が床を擦る。
 悲痛な叫びと共に、少女の身体はしばし我慢の山脈の頂きで硬直し、やがて緩やかに弛緩していった。

 ごぼ……ごぽっ……ぐる、ごきゅう……っ

 無限にも思える長い絶望の時は、不意に訪れた異音で終わりを告げた。
 必死に閉ざされた孔の奥で、荒れ狂う猛威が鈍い音を立てて、ゆっくりと腹奥へと戻ってゆく。直腸の熱い塊が腹腔の奥へ引き返す不快感と共に、明楽は溜め込んでいた息を吐き出した。
「はぁ……はぁっ……」
 全身全霊を賭した我慢劇は、ひとまず明楽の勝利で終わったのだ。極限の緊張からいっときの解放を許され、肩で大きく息をついて汗ばんだ手のひらを握り締める明楽。
 しかし、激しいうねりこそ治まったものの、不気味に唸り続ける少女の腹奥には、まだ張り詰めた違和感が残っている。蠢く蠕動は腸璧を活性化させ、さらなる粘液の分泌とガスの発生を促成させる。一度稼動した消化器官がほどなく前にも増して熾烈な第二派をもたらすことは火を見るよりも明らかであった。
 だが、極限の戦いを強いられて疲弊した明楽は、わずかに与えられた安堵と休息の時を貪るように、机の上にがくりと体を倒したのだった。
(もうやだ……なんで、こんな……)
 涙を滲ませながら、己の不運を呪う明楽。体育館を出たときにちゃんとトイレができていれば、こんなことにはならなった。いや、せめてガスだけでも十分に放出していれば、少しは楽になっていたかもしれない。そもそも、家を出る前にちゃんとトイレを済ませていさえすれば済んだこどなのだ。
 きちんとトイレにも行けない――トイレのしつけすらできていない自分。新しい学校に通うのに、そんな小さな子供でも当然のことができない自分を、明楽は恥じていた。
 だが――彼女を苛む運命は、さらに容赦なく少女を追いこんでゆく。
 不安定にぐるぐるとうねる下腹部を庇いながら、明楽は泣き言を繰り返すしかできなかった。
(お願いっ……おさまってよぉ……)
 そんな少女の願いもすでに虚しい。すでに排泄衝動はどうしようもないところまで来ており、明楽はそれに乙女の頑張りだけで抗っている状況だった。
 いったんは治まりかけた腹音は、ほとんど間を置かずすぐに活性化を再開する。クラスメイトに囲まれた中で失敗はできないと、緊張を強いる環境に耐えかねて均衡を崩した下腹部は猛烈な蠕動に支配され、一触即発の状況を続けていた。
 腹腔を上へ下へと蠢くうねりが何度となく危うい境界線を脅かし、最悪の事態を引き起こそうとしていた。
 下腹に当てられた手のひらにはっきりと伝わる下腹部のうねり。腹腔を掻き回す濃密なガスと、それに連動してこね回される固形物の蠕動が、明楽の身体から容赦なく体力を奪ってゆく。
 少女の体内奥深くでゆっくりと蠢く消化器官の蠕動。猛烈な便意を誘導する身体作用は、一週間もの間果たされていなかった排泄という作用を明楽の体内に要求する。

 ぐきゅるるっ、ぎゅるごろろごろごろっ、ごぼっ!!

「……ゃ、ぁあっ……!?」
 大きなガスの気泡が直腸へと流れこみ、ごぼりと激しく破裂した。
 立て続けに牙を剥いて襲い掛かってくる排泄衝動。暴れ回る腹腔の唸りは見る間にすさまじい勢いで膨れ上がり、少女の小さな双丘の谷間、恥かしいすぼまりに殺到する。
(だ、だめっ、したくなっちゃダメっ、ダメ。ダメなのっ、出ない、出ないでぇ…っう、……ぅああっ…やだっ、ぁあっ、おなか……トイレ、トイレぇっ!!)
 渇望するトイレに立つことも、椅子を引くことすら許されない激烈な排泄欲の前では不可能に近い。反射的にもう一方の手で机を握り締め、椅子の上にわずかに浮かせた腰に力をかけ、全身ありったけの力で排泄孔を引き締める。
 ぼこん、ぼこんと下腹部が脈動する。消化器官の蠕動にあわせ、一週間、七日もの間にぎっしりと詰め込まれた内容物が腸内の粘液に包まれてねっとりと前後運動を始めているのだ。またも濃密なガスが直腸に押し寄せてくる感触に、明楽はぐったりと俯いた。
(やだ、おなら、おならしたいっ……こんなのヤダっ、やだぁ……っ)
 暴れ回るおなかを必死になだめながら、明楽は小さくしゃくりあげる。
(でちゃう……おなら、また出ちゃうよぉ……)
 無論、明楽が本当に出してしまいたいのはオナラではない。
 しかし、トイレにも行けず、漏らしたくもなければ、わずかずつでもガスを出すしかない。そうして少しでも腹腔をなだめるほかの選択肢は残されていなかった。
 繰り返される蠕動運動は凝り固まった排泄器官をじわじわと揉みほぐし、長い間の便秘ですっかり忘れ去られていた排泄機能を活性化させている。
(だ、だめ……)
 何かにすがるように、明楽は机の端を握り締めた。じっとりと汗をかいた手のひらがぬるぬると不快な感触を示す。たとえどれだけ我慢を続けても、明楽のおなかに詰まった中身が消えてなくなることはないのだ。
 下着の下でぽこりと膨らんだ明楽の下腹部では、腸の中で水分を吸われ固まった固形物がぐねぐねと蠢いている。さらにその奥では、まだはっきりとした形を持たない大量の排泄物が腐った泥のように渦巻いていた。

 ごきゅぅううう……

 明楽が下腹部の重みを再確認したそのとき、激烈なうねりが腹奥からお尻のすぐ真上へと沸き起こる。それは激しい爆発の予兆だ。狭い直腸の中で、蠕動を伴った粘膜が激しくくねり、大きなガスの気泡が立て続けに弾ける。すでに限界まで内容物を詰めこまれた直腸に、怒涛の勢いで圧縮されたガスが流れ込んだ。
「っ―――!?」

 ごぽっ、ぐきゅ、ごぷりゅぷっ。
 ぷ、ぷっ、ぶぴっ、ぶりゅぶぴぷぷぅっ!!

(ぁ、だめ、ダメっ、だめぇっ!!?)
 圧倒的な密度と質量、それをも超える速度で込み上げてきたガスを抑え込むため、明楽は全身を鉄のように硬直させ、圧力の集中する排泄孔を渾身の力で絞り上げる。しかし、少女の意思とは別に蠢く排泄器官はそんな抵抗をやすやすと押し砕き、熱い衝撃が直腸粘膜を突き破って弾ける。限界まで括約筋を引き絞られ、収縮しながらも内圧にひくひくと震える少女の小さな排泄孔。そのわずかな隙間を貫いて、瞬く間に汚らしいガスの塊が外へと排出される。

 ぶぶりゅっ、ぶすっ…ぷぅっ!! ぶぶりゅぶぉびぴいぃッ!!

 クラスのざわめきを掻き消すかのように、猛烈な放屁音が響き渡る。
 その激しい音に誰もが呆気に取られ、一瞬、教室の中に奇妙な沈黙が落ちた。
「ぁ……や、……っ」
 喉から飛び出しそうな悲鳴を抑え、明楽はぎゅっと目を閉じた。
「っ……!!」
 二つ隣の席で、がたんと机を揺らして女性とが飛び退いた。
 同時に、明楽の周囲の席から数名の生徒が次々と立ち上がる。それに呼応するかのように、まるで空気を塗り替えるかのようなすさまじい悪臭があたりに巻き起こった。
 ざわめきは瞬く間に蘇り、あっという間に教室全体を包み込んだ。窓際に駆け寄った生徒の一人が窓を全開にし、隣の生徒がそれに倣う。
「うわッ……ちょ、なによコレっ…!?」
「うぷ……ね、ねえ、これって……さっきの」
「ウソぉ……さっきのってひょっとしてウチのクラスだったの? ……止めてよもう……最悪っ……下品すぎっ」
「何食べたらこんなになるワケ? ……ねえ、そっちの窓も開けてっ!!」
 これで通算3回目となるガスの放出だった。
 しかも回数を経るごとに悪臭の度合いは増している。これは活発な排泄器官の蠕動によるもので、明楽の身体が本人の意思を無視してどんどんと排泄の準備を整えていることの証左であった。
 突発事態の毒ガステロに騒然となったクラスの中で、明楽は羞恥と下腹部の苦痛に動くことができず、ただぎゅっと身を縮こまらせる。
(で……でちゃった……っ)
 言葉にすれば単純な、けれどそれどころでは済まされない最悪の事態。
 これからの一年を共に過ごしてゆくクラスメイト達の前で、汚辱の塊のようなガスを排泄してしまった明楽。これはもはや決定的な事態といっても良かった。
 だが――
「っ…………」
 顔を背け、眉をよじりながらもクラスメイトの視線は周囲をぐるぐるとさ迷い、明楽を特定するには至らない。まだ見知らぬ顔が多いことや、雑踏の中で席を立ち歩いていた生徒も多く、誰が犯人なのかまでをはっきりと理解した生徒はいなかったのだ。
 騒然となるクラスの中で、これまでの友好ムードは一転。猜疑に満ちた視線が教室を飛び回り、毒ガステロの犯人を見つけ出そうとする。
 となりのグループでは、疑心暗鬼に陥った生徒のグループがそれぞれに顔を見合わせて、突如訪れた大惨事の犯人が自分ではないことをアピールしあってていた。
「ねえねえ、今の……」
「ち、ちがうって。何言ってんの? もう、あははっ!!」
「私じゃないってば。もう、誰よいまの!?」
「あのさ、ひょっとしてあの子じゃない……?」
「ホント? 信じらんない……朝からずっと……?」
「ウソぉ……」
「え、ちょっと待ってよ、違うわよ!?」
 ちらちらと周りを窺いながら囁き交わすクラスメイト達。もちろん表立って認めるわけにも行かず、皆が軽蔑を滲ませながらも、赤く染まった顔を俯けている。犯人を特定できないゆえに明確な非難にはならない澱んだ敵意が、不穏な空気を加速させてゆく。
 そんな中――
 明楽は、少しでもその非難の声が遠のくように願いながらただじっと沈黙を貫き、必死になって下腹部の衝動と戦っていた。
「くぅぅッ……」
(お願い、おさまってぇ……い、いまはだめ、“今”だけはだめぇ!! ……ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……ッ!!)
 全身全霊をかけて排泄孔を絞り、我慢に総力をそそがねばならない明楽にできることは、そうやって祈ることだけだった。泣きじゃくりそうになるのを必死に堪え、じっとじっと身を固くして、猛烈な便意がわずかでもおとなしくなってくれることを願う。
 あれだけのガスを吐き出してなお、明楽の下腹部はぐるぐるとうねっている。少女の膨らんだ腹腔に溜まるガスは活性化を続け、すぐにも今と同じかそれ以上の規模の第2、第3の茶色い悲劇をもたらす予感を色濃く感じさせていた。
(おねがい……っ)
 それはもはや無駄な行為にも思えた。
 だが、もはやこの哀れな少女には、入学式早々、教室でのオモラシという恐怖の前に祈るくらいのことしか許されていなかったのだ。
 そして――
 はたしてその祈りが通じたか。
 途方も無い精神力で耐え続けた明楽に根負けしたかのように、きりきりと激しく蠢いていた下腹部が、わずかに緩む。ほんのわずか、休まることのない大荒れの狭間に生まれたささやかな休息がやってきたのだ。
 ゆっくりと安堵の息を漏らす明楽。手のひらにはじっとりと熱が篭り、背中は嫌な汗をかいてシャツをべっとりと肌に張りつかせている。
(は……っ、は……っ、く……)
 どうにかほんの少しだけ産まれた余裕に、肩を震わせ息をする明楽。
 緊張していた全身がわずかに弛緩し、じわりと汗を滲ませた。
 だがそれも一時のこと。すぐにまたそれを上回る猛烈な大波が押し寄せるだろうことを明楽は悟っていた。
(い……行かなきゃ…トイレ、…お手洗いっ……)
 ぎゅっと唇を噛み、明楽は覚悟を決める。
 次の発作にはきっと耐えられないであろう事を、明楽は本能的に気付いていた。少女として最悪の結果を迎える前に、一刻も早く排泄を済ませてしまわなければならなかった。
(いまならきっと空いてるし……ちょ、ちょっとくらいなら、外に行っても気づかれないはず……!!)
 まだ相手の顔もはっきりと解らない新入生クラスであったとしても、ここまであからさまな状況の中で机にしがみ付いたまま動こうとしない明楽は、あまりにも不自然で怪しすぎる。そのためのカモフラージュにもなるはずだった。
 わずかにできた余裕を最大限利用すべく、明楽がおなかを庇いながら慎重に席を立とうとした、その時。
 がらりと教室のドアが開いた。
「よーし、席に着け。遅れて済まんな」
 姿を見せたのは、クラスの担任である男性教諭。出席簿と大量のプリントを抱えて登場した担任の姿に、クラスメイトたちは慌てて席に戻る。
「えー、静かに、静かに。ちょっと予定が遅れているんでこのままホームルームに入るぞ。すぐ終わるから席につけー」
 手慣れた風に教卓に付いた教諭は、明楽のことなどお構いなく、教室内を見回してそう宣言した。
 またもトイレに行く機会を奪われて、少女の下腹部はきゅぅと差し込むように鈍く痛む。
「ぁ……っ」
「……ああ、その前に少しだけ休憩にするか。トイレなど行っておきたいものは今のうちに行っておきなさい」
 教諭の声に、しかし1-Cのクラスメイトは誰一人立ち上がろうとしなかった。
 誰の胸にも、入学式と教室の中、立て続けに3度にも渡って毒ガステロを引き起こした誰かの存在が強くこびり付いている。このタイミングでトイレに立てば『ずっとうんちを我慢していた犯人』にされかねなかった。
 多感な中学生の少女達が新生活の最初の日に、そんな後ろ指をさされることに耐えられるわけがない。
「なんだ、誰もいないのか? ……じゃあこのまま続けよう。いいな?」
 もう一度窺うように教師が教室の中を見回す。
 しかし、一度できてしまった『トイレには行けない雰囲気』の中でそんなことをしても逆効果でしかない。
「よし、じゃあまずプリントを配る。前から回して、足りなければ後ろで調節しておきなさい」
(あ……ああ…っ)
 まさに最悪のタイミング。明楽がトイレに辿り着くための最後の機会は、こうして失われてしまっていた。浮かせた腰が、すとんと椅子の上に落ちて、また明楽の下腹をぐきゅぅうるるる……と唸らせる。
 今なら、トイレはさっきの時よりもずっとずっと空いているはずだ。明楽のおなかがどうしようもなく壊れてしまっていたとしても、誰もいない個室で、回りを気にせずすっきりする事ができるはずだった。
(かみさま……っ)
 長い長い、果てしない我慢の末、やっと訪れた千載一遇のチャンスを前に、明楽は黙ってそれを見過ごすしか許されなかった。


 ◆◆◆


「よし、全員プリントは回ったな? 3枚目の……」
「先生、足りませーん」
「っと……おや、済まん、こっちにあるんで取りに来てくれ」
 机の上のプリントの束を漁ってから、教諭が説明を続けてゆく。一年の行事や注意、早速明日から始まる授業、教科書の配布。てきぱきと進められていく初日のホームルームは、明楽の耳を右から左へと通り抜けてゆく。
(っ……おさまって、おさまってよぉ……っお願いぃ……っ)
 12歳の少女が強いられるにはあまりに過酷な排泄衝動。ほとんど治まることもないそれは、断続的に激しい腹音を響かせ、猛烈な便意を叩きつけてくる。痛いほどの羞恥を感じながら、言うことを聞かないおなかを必死になってさすり、明楽は再度の発作が起きないよう祈る。
 だが……
「は…っ、はっ、はーっ、はふっ、はぁっ」
 ぎゅるぎゅるとねじり上げられる下腹部のうねり。もはや蠕動と呼ぶこともはばかられるような排泄器官の脈動は、まるでそこにひとつの生き物がうねっているかのようだ。
 一週間にも渡って蓄積されてきた排泄物は、汚らしいガス音を響かせて少女の腸内で暴れ回る。
 ぷぴっ、ぷぴゅ…ぶるっ、と絶え間なく音を漏らし続ける排泄孔はひっきりなしに盛り上がり、直腸を限界まで拡張して押し込められた中身を吐き出そうとする。

 ぐるるるぎゅるるるっぐぐううぅ、ごぽっ。

「うぁ……く、ふぁ……」
(おトイレ……うんち、うんちぃ、でちゃうっ……)
 全身全霊、思考の一片たりとも余すところなく総動員して、明楽は腹奥から込み上げてくる凶暴な排泄衝動に抗う。それでも時折我慢しきれずに漏れ出してしまうガスが、ひっきりなしにヒクつく排泄孔ではしたない音を立てる。ひり出されるモノはもはや気体だけとは言いきれず、明らかにガス以外の熱く湿ったなにかを吐き出すような汚らしい音を伴っていた。

 ぶぷっ、ぶぴりゅるっ!!

 そのたびにこの世のものとは思えない悪臭を漂わせる明楽は、だらしなく排泄孔が緩むたび、懸命に身体をよじってその腐臭を散らそうとしていた。
 少量ずつとは言え、自制をなくして立て続けにガスを漏らしてしまっている明楽のお腹は、もはやこのまま排泄をはじめてもおかしくなかった。すっかり柔らかくなった排泄孔はわずかな刺激だけで下着の中に汚らしい茶色の塊を吐きだそうとしている。

 ぷぷっ……ぷすっ……ぷちゅるっ……

 腸粘液でぬめる排泄孔はその内側の肉色が解るほどに盛り上がり、粘膜部分を外気に晒している。長時間酷使されてすっかり赤くなった腸粘膜はじんじんと疼き、むず痒さを伴って排泄欲を助長させている。
 ぱくぱくと口を開く排泄孔は、明楽が溜め込んだ排泄物を溶かした粘液をじわりじわりと漏らし、ぷちゅぷちゅと茶色い泡を立て、明楽の下着に隠しようもない茶色の染みを作っている。
 汗でぐっしょりと湿った感触のせいで、明楽はその汚れが何によるものなのか理解できずにいた。
「っは、……っふっ……っふ……」
 きりきりと高まりながら断続的に打ちつけられる排泄欲を堪えるたび、明楽の背筋がくねり、腰が揺れ、ぎゅっと閉じられた脚が硬直し、体重を乗せられた椅子がぎしぎしと軋む。
 額に首筋に汗を滲ませ、ハンカチを握り締めて息を詰める様子はまるで出産を控えた妊婦のような有様。しかし明楽が耐えに耐えておなかの中に抱え込んでいるものは、新たな生命などというモノとは正反対の、穢れた存在。溜め込んだ食物のなれの果てがこねくり回され、腐り果てた残りカスだ。
(やだ……なんで、なんで、わたし……っ……今日、入学式だったのに……っ、今日から、もうオトナ、なのにっ……)
 きちんとトイレに行くこともできず、、きちんと我慢もできない。うねる下腹部がまるで自分の未熟さの証のようで、すでに明楽のプライドはズタズタだった。
 とにかく一刻も早くこの場所から解放されて、うんちを済ませたい。おなかの中のうんちを残らず出してしまいたい。そのことしか考えることができない。
(ぁ、あッ、ダメッ!! ッで、でちゃ…うぅぅ……ッッ!!!)

 ぷ、ぷちゅっ、ぷちゅるッ……ぷすっ、ぷぅぅ……

 またも悪臭を撒き散らす明楽の排泄孔だが、当の明楽はそんな状況に構う余力がない。直腸に硬く詰まった便塊が孔内部にとどまっていることが、明楽の唯一のオモラシへの免罪符だ。
 すでに疲弊した括約筋はとうの昔に限界で、いつ力尽きてもおかしくない。わずかに緩んでガスを漏らす刺激さえ危険なものだ。ほんの少しでも油断すれば、たちまちのうちに下劣な卑肉の管と成り果てた明楽の排泄器官は、小さなおなかの中に辛うじて留めている汚辱の塊を残らず吐き出してしまうに違いない。
 蠕動運動で程良くこね上げられた直腸が折りたたまれては引き伸ばされ、次々と粘液にまみれた固形のうんちの塊が押し寄せてくる。もうこれ以上入らない場所に無理矢理ごつごつとした塊を押し込まれ、まるで排泄孔を犯されているかのような有様だ。
(ぁ、あっあっ、ま、待って、ダメ、だめぇ……)
 なるほど確かに、幼い排泄孔を襲う排泄衝動はいつ果てるとも無く明楽を蹂躙し続ける。教諭の話も上の空で、明楽はいつ果てるともない恥態を繰り広げていた。
「っ、ふ……ぁ」
 腹奥に猛烈な便意を飲み込んで、明楽はぎゅっと堪えていた息を吐いた。ごりゅるるぅっ、とガスが逆流する不快感に耐えきれず、身体を弛緩させる。
「ねえ、あなた?」
 不意に聞き覚えのある声がして、明楽は俯いていた顔を持ち上げる。
 そこには、入学式で明楽の隣に座っていたポニーテールの少女の姿があった。
「……えっ」
 いきなり話しかけられて、明楽は呆然と間の抜けた声をあげてしまう。
 まさか、彼女に自分の惨状を知られてしまったのでは――そう考えた明楽の背筋が冷たくなる。
 ポニーテールの女生徒は、吊り目気味の視線をさらに険しくし、怪訝なものでも見るように明楽を睨む。
「どうしたの? さっきから――具合でも悪いの?」
 まるで、そんなに辛いのにどうして自分でなにもできないのかと、そう蔑むような言葉。
 瞬間。

 ぐりゅっ、ごぼごぼぼっごきゅるるるぅううううっ!!

(あ、ぁうぁあっ!?)
 不意の緊張を強いられた自律神経に反応し、明楽の下腹部で激しい蠕動がたて続けに巻き起こる。うねる腸壁が一度は奥に押し戻された中身をこね回し、少女の排泄孔目掛けて再度押し寄せた。
 あまりにも早い第二派の到来緊急警報に、油断し無防備なところを晒していた明楽の下腹部はあっという間に占領されてしまう。ぼこぼことうねる濃密なガスの塊が熱い衝撃となって直腸で煮え滾る。
 急激な蠕動運動に腹腔が大きくよじれ、猛烈な便意が明楽の排泄器官に襲いかかった。

 ぐごっ、ごきゅるるるるぅぅっ!!

「ぁうぅう……っ!?」
 耐えきれないほどの下腹のうねりに身体を大きく曲げて、腹を押さ込んでしまう明楽。ポニーテールの少女が眉を潜める。
「ねえ、ちょっと?」
「っ、う……うぐっ、うっ、っ!!」
 気付かれぬように。不審がられぬように。それだけを考え、必死に言葉を継いでゆく。
(ダ…ッ、ダメ、ダメダメぇ……っ!! 出ちゃダメっ、ガマン、がマンんっ、ガまンんんん…~~ッッ!!)
 腹の中でダイナマイトが爆発したような心境だった。しかし、まさか春菜の目の前で脚をモジつかせたりおしりを押さえることができようはずもなく、明楽は渾身の力を込めて排泄孔を締め付ける。
 それでもわずかずつ漏れ出す汚辱のガスは、小刻みに震える少女のスカートの中に茶色の芳香を漂わせてゆく。
 そして、にち、にち、と押し出される硬く押し固められた焦げ茶色の塊が、明楽の小さなすぼまりを無理矢理こじ開けてゆく。灼熱の感触と共に拡張される排泄孔に、明楽は小刻みに震えながら声にならない悲鳴を上げる。
「っ……~~ッッ、んッッ……っ!!」
「ねえ、ちょっと、どうしたの? やっぱり具合悪いの? そうなら早く保健室に――」
 机を握り締め、前傾姿勢になったまま動けなくなってしまった明楽。もはや猛烈な便意のなすがまま蹂躙させるしか道は残されていない。

 ごりゅ、ごぽぽっ。

「あ、あっ」
 耐え切れず、明楽の恥ずかしいすぼまりがぷすっとガスを吐き出す。
(あ、くぅぅぅ……っ!?)

 ぶっ、ぷ、ぷっ、ぷぅっ、ぷぅうっ……ぷぴっ、ぷすっ……

 滑稽にすら聞こえる断続的な放屁。蠕動する直腸のうねりがそのままお尻の出口へと繋がり、明楽は少しずつおならを漏らし続ける。そのわずかな放屁でさえ、周囲にははっきりと悟られてもおかしくないほどの悪臭を生んでいた。
 一週間……まだ小学生だった時から少女の腹腔に溜め込まれ、腐敗し続けたガスはまるでおさまることを知らない。
 いまやおそらく明楽の下着は言い訳のできないほど汚れているだろう。
 少女の意思を無視して、朝から続く下腹部のうねりは腹腔を余すところなく侵し、無慈悲に蹂躙を繰り返していた。繰り返される蠕動にはまだ消化作用を終えていない内容物も追加され、ごぼごぼと腐った泥のような濁流も身体の奥で渦巻いている。
 少女の直腸がこねあげた塊は、明楽の必死の我慢すら突き破り清純を汚そうと暴れつづける。
(っ、おなかイタイ……やだよぅ……っ、やだよぉ……)

 きゅるるるるるっ、ぐきゅううぅう……

 まるでそこに別の生命が息づくかのように、明楽の下腹部が蠢く。少女の消化器官の終点に向けて排泄物がのたうちながら降り下ってゆく。
 腹圧が高まり、内容物を押し出そうと蠕動を繰り返す。
 思わず足を止めてしまいながら、ごぼごぼと蠢く便意を堪え、明楽はスカートの上からさりげなく下着を掴んだ。
 ぎりぎりのところで踏みとどまろうとした明楽の我慢は――
「ちょっと、ねえっ!! トイレ? だったら早く行ってきなさいってばっ」
 小声で囁かれた苛立ちの混じる声に、限界を迎えた。
「っっ――――!?」
 薄い下着一枚に守られた少女の可憐な下腹部の奥底で、内容物を吐き出そうと肉の管が暴れ回る。 
 うんちを、がまんする。
 いまや明楽の意識は、たったそれだけのために存在しているといっても過言ではなかった。恥も外聞もなくおしりを押さえ、最悪の事態だけを必死に先延ばしにしている。
 長時間の我慢を強いられた少女の括約筋は焼きついたように熱を持ち、盛り上がった排泄孔はほんのりと薄紅色に変わっている。猛烈な便意に蹂躙された少女の幼い孔は、じくじくと痺れて甘いむず痒さを伝播させる。断続的に巻き起こる排泄衝動は意志を無視して消化器官を支配し、生命活動の残り滓を小さな孔から絞りだそうと蠕動を繰り返す。
 そして、
「――先生、植野さんがトイレです!!」
 ポニーテールの少女が、教室にはっきりと聞こえるような大きな声でそう叫んだ。
 明楽の意識が真っ白に塗りつぶされる。それだけは、絶対に知られてはいけなかったのに。
「なんだ、さっき言わなかったじゃないか……まあいい、早く言って来い」
「っ……ち、違……」
 明楽は必死に否定しようとしていた。しかし、トイレという単語に少女の下腹部は過敏なほどに反応してしまう。反射的に腰を浮かせかけた明楽の双丘の隙間で、ぷくぅ、と排泄孔が盛り上がる。

 ぐきゅぅぅっっ、ぎゅるごぶっ、ごぼぼぼっ、ぶぷっ!!

「ぁああうぅぅううぅぅぅうううぅうぅっ!?」
 汚らしく澱んだ濁流が下水に流れこむかのごとき下品な音を立て、明楽の下腹部が激しくうねった。排泄器官と一体化した腸内の蠕動は、ダイレクトに明楽のおしりの孔を直撃し、土石流のように渦巻く便意を爆発させる。
 辛うじてその役目を果たしていた括約筋が弛緩し、おしりの間に張りついていた下着のなかにぷぢゅ、ぷびゅるっと粘液混じりのガスを吐き出す。
(で、でちゃう、でちゃうだめでちゃううんちでちゃうぅうぅうっ!?)
 激しく蠕動を繰り返す直腸は、分泌された腸液を混ぜ合わせ、固まった内容物を捏ね上げてゆく。ぼくん、と脈動する下腹部はまるで神聖な出産の時のように激しく蠢いている。だが、少女の体内にあるものは命の芽生えでも何でもない。ただの食物の残り滓でしかない。
「ちょっとぉ、マジで? さっきのもあの子?」
「ねえ、あの子そうよね? 入学式ですっごい臭いオナラしてたの、あの子じゃない?」
「うっそぉ、まだ我慢してたの? ……あれって、大きい方だよね?」
 ひそひそと囁き交わされるクラスメイトの非難。隠そうともしない少女たちの囁きを、明楽の耳ははっきりと捕らえてしまう。
「ひょっとしてもう漏らしちゃってんじゃないの?」
「まさかぁ……いくらなんでも、この歳になってそれありえないって」
「でも、ほら……」
 明楽は耐え切れなくなってぎゅっとおなかを押さえた姿勢のまま動けなくなってしまう。そんな明楽に追い討ちをかけんばかりに、腸が不気味に蠕動し、明楽に排泄を訴える。

 ぎゅるぎゅるるるっ、ぐぎゅうううううっ……!!

「だめ、ぇええええ……っ!!!」
(こんなところでウンチなんか、だめ、っ、だめえええっ!!)
 びくん、と伸びた明楽の太腿に緊張が走る。伸ばした指で恥も外聞もなく排泄孔を押さえ、震える膝と腰は、すでに獰猛な排泄欲をなだめることすら満足にしてくれない。
 喉がカラカラだった。明楽の排泄孔は一秒間に何度も盛り上がり、その中身をぶちまけようと伸縮を繰り返す。辛うじて決壊を先延ばしにできていることも奇跡に近かった。
「ぁあうああああっ!?」
 猛烈な便意が下腹部で爆発する。同時に疲弊した括約筋が惨めにひしゃげた音を立て、腸液に粘つく放屁音を連発させた。

 ぶっ、ぶすっ、ぶちゅっぷぷっ、ぷぅうーーーーっ!!

「っ!!!」
 音程はずれのトランペットを思わせる、間抜けなほどの放屁音が、教室に響く。
 教室に一斉に警戒が走った。
「や………ち、違うのっ、その、違うの!! わ、私っ、わたしっ……!!」
 とっさにおしりを押さえ込む明楽だが、構わずガスは漏出を続け、辺りにはむせ返るほどの汚臭が撒き散らされてしまう。耐え切れなくなったクラスメイトが机を揺らして席を離れ、距離をとる。
「ぃ、ぃやぁああああっ……」
 絞り出すような悲鳴を上げ、明楽は机に突っ伏した。
(で、……出ちゃった……す、すごく臭いの……いっぱいっ……)
 この世界でこれ以上はないというくらいの、汚らしく穢らわしい毒ガス。それは明楽が自分の身体の中で作り出したものだ。自分の不始末が、言い訳の聞かない自分の身体がひり出した最悪の汚染物質だ。
 どこか他人事のような認識は明楽がその事実を認めたくなかったからに他ならない。思わず二の足を踏みたくなる程の悪臭、明楽のおなかの中の凄惨な状況をありありと知らせる腐臭の最前線で、ポニーテールの少女がはっきりと不快な表情を浮かべ、顔を背ける。
「や……ぁ……ち、ちがうの、こんな、ちがうのぉ……」
 堪えようもない程の恥辱。明楽は舌を噛み切りたいほどの羞恥に、俯いて泣きだしてしまう。
 しかし、明楽を襲う悲劇はそれだけにはとどまらなかった。
 うねる下腹部はさらに立て続けに爆発し、極限の均衡が乱された。

 ――ぐる、ぎゅるっ、ごぼっ!!

 S字結腸の収縮と共に、腹奥に押し込められていた便塊が一気に押し出された。すでにまったく余裕の残されていない直腸が、強○的にねじ込まれる焦茶色の塊に占領される。
(―――ぁ、あ、あ、あっ、あーっっ!!)
 明楽の思考が、汚らしい汚辱の土褐色に染まる。
 生理現象と排泄の摂理にともなって、びくりと裏返った排泄孔がスカートの下で粘つく音を立てた。

 ぶちゅ、ぶびっ、ぶぶぶっ!!

「ぁあああ、ぁ、ぁっ、あ、ぁっ!!」
(で、っ……でちゃ、っ!!)
 盛り上がった排泄粘膜を震わせる激しいガスの放出音に続いて、圧倒的な灼熱感が明楽の下の穴をこじ開けてゆく。酷使された括約筋をして感じ取れる、途方もなく太く大きな固形の感触。
 ぎちぎちと、排泄孔を丸く押し広げ、ドーナツ状の括約筋を限界まで拡張する黒々とした塊。消化の果てに水分を限界まで吸収され、粒子状になって固まった硬くごつごつとした焦げ茶色の塊が、少女のおしりの孔のすぐそこまで降りてきた。

 みちゅっ、ぷぷ、ぷぷぷすっ、ぷすすぅっ……

 小さなガスの放出を繰り返しながら、激しい運動に反応し、腹腔が活性化する。盛り上がりを繰り返した明楽の排泄孔が、ついにぱくりと口を開いた。
 その奥から腸液に塗れた硬い内容物が、湯気とともに頭を覗かせる。
(だ、だめっ、出ちゃダメえッ!!!)
 明楽はなりふり構わず、指先で顔を覗かせたうんちの頭を押さえ込んだ。
 思い余った明楽は、下着の上から、直接、吐き出されようとしている汚辱の塊を無理矢理おしりの中に押し戻そうとしたのだ。
(こんなところで、ぜっっったいに、だめえぇっ……)
 漏らすまいというただ一心で、明楽は排泄という大自然の理すら否定しようとしていた。
 かちかちに固まった便塊が、明楽の手と下腹部の蠕動に挟まれてぐちゃりと潰れ、下着の中で捲れ上がった排泄孔が小さなおならを繰り返す。明楽の腹の中には七日にも及ぶ便秘の産物がぎっしりと蠢いており、排泄器官はその全ての内容物を吐きだそうと蠕動を続けているのだ。
「や、やぁ……だめ、だめぇええ!!!」

 ぬぬぬ…にち、ぬちぬち、にちにちちちっ、ぬちゅっ……

 排泄衝動に突き上げられ、白く柔らかな排泄孔が、粘液の助けを借りて大きく拡張されながら、ぬちぬちと音を立てて硬い塊を絞り出してゆく。身動きできない少女の白いお尻を引き裂くように固形の便塊が次々と顔を出し、パンツの中へと吐き出されてゆく。
 お尻を包む布地をべっとりと汚して、重く沈む熱い塊の感触に、明楽は悲鳴を上げた。
「ぁあっ、はっ、だめ、ダメぇ、だめえっ、だめえええええっ!!」
(う、うんち……でちゃった……オモラシ……やだっ、もう、オトナなのにっ……)
 もはや明楽は一人の少女というよりも、うんちを我慢するためのひとつの機械だった。もじもじとくっつけられた脚も、おなかとおしりをきつく押さえる手も、全て望まない排泄を耐えるために動いている。その機能も酷使され疲弊し消耗し、完全には機能をしていない。
「はぐっ……うぅう……」
 のたうつ下腹部を抑制し、激しく腰を使いながら便意に抵抗する明楽。
 びくびくと跳ねる腰は前後左右に動き、少しでも迫り来る便意を押さえようともがく。
 担任の教諭も、クラスメイトも、誰もが言葉を失って遠巻きに明楽を見ていた。まさか本当に、教室の真ん中でうんちを始める生徒が居るなんて想像もしていなかったのだろう。
「っ、いいから、我慢できないなら早くトイレ行きなさいっ!!」
 口元を手で覆いながら、明楽の傍にただ一人残ったポニーテールの少女が叫ぶ。
 明楽は耳を塞ぎ暴れだしたくなっていた。無論、下り続ける腹がそれを許すわけがない。まるで張りついたようにお腹とおしりに伸ばされた手は動かない。
「ぁ……ぁ」
「お腹、壊してるんでしょ!? はやくトイレ行ってきなさいっ!!」
 ぼうっと霞む頭の中で、明楽はぶんぶんと首を振った。
「で、っ……だめ、違うの…」
「何が違うのよ!! もう漏らしてんじゃない!! なんで早くトイレ行かないの!? 早くっ!!」
(ち、違うの、ちゃんと……行こうとしたのっ、うんち、ちゃんと、トイレまで、ガマンっ……っあ、あうぅうあうっ!?)

 ぬちゅぶちゅ、ぶっ、ぶぴっ、ぷぅ、ぷすっ、ぷっ……
 ぶっ、ぶびゅ、ぶりゅぶびぶちゅぶぶぶぅっ!!! みちゅみちちちちぃ…ッ!!

 排泄孔を大きく押し広げ、さらなる排出の第2派が進軍する。下着の上からでもはっきりと解るほどのごつごつとした感触は、紛れもない明楽自身が溜めこんだ食物の残り滓。
 すさまじい悪臭を撒き散らしながら。明楽は両手をスカートの上からお尻に押し当て、排出されたばかりの塊を伸びきった排泄孔の中に無理矢理押し戻そうとする。
 しかし、腹腔がうねり引き絞られ、暴力的なまでの便意を伴って吐き出される塊を押し戻すことはかなわない。すっかり裏返って内臓の肉色を覗かせた排泄器官は、一週間と言うモラトリアムを許していた排泄物を残らず絞り出さんとのたうった。
「はぐっ……っ!!」
 白く柔らかな布地を汚染し、ヒリ出された巨大な便塊は大蛇のように折れ曲がり、重なり、ずしりとトグロを巻き、明楽の下着を膨らませてゆく。焦げ茶に染まった下着の中心部が大きく盛り上がり、そこからぷすぷすとガスを伴った汚辱の塊がはみ出した。
 分泌された直腸粘液がぴゅるっと吹き出し、下着の隙間から脚を伝い落ちる。
 途方もない悪臭が広がり、スカートを黒々と染める明楽のオモラシに、一斉に生徒たちが悲鳴を上げた。
「ぅ、う、あ……」
 沈黙の支配した教室の中、明楽はのろのろと中腰のまま、席を立った。
 ぶちゅ、ぶちゅ、と汚らしい音を立てる下半身を抱えながら、亀のような歩みで教室を横切ってゆく。明楽の行く手を避けるようにクラスメイトの人垣が割れ、明楽は死ぬよりも辛い恥辱の中、教室のドアに辿り着いた。
「ひぐっ!!」

 ぶぶ、ぶびっ、ぶりゅぶちゅぼっ!!

 途端、捻り上げるような腹部の蠕動とともに明楽の排泄孔を強烈な便意が貫いた。お尻を押さえたままびくっと背中を伸ばし、直立不動となった明楽は、歯を食いしばって第3派の排泄を堪える。
「っは、はーっ、はぁあーっ、はぐうぅう……っ」
 口元は開いたまま、よだれが唇から零れ落ちる。蹂躙され続けた下腹部は取り返しのつかないほどに汚れ、悪臭にまみれ、少女の一番大事な部分まで侵食をはじめている。
 前屈みのまま排泄音を響かせる明楽を遠巻きに見ながら、クラスメイトたちが囁きあう。
「ちょ、ちょっと、ねえ、誰かトイレ連れてってあげなよ……あれ、絶対間に合わないってば……」
「や、やぁよ!! あんた行けばいいじゃない。途中で漏らされちゃったらどうすんの?」
「私だってイヤだってば!! オモラシの後始末なんてなんで手伝わなきゃ…・・・」
(もうやだ、もうやめてよぉ……っ、ごめんなさい、ごめんな、さいっ、……謝りますから……ちゃんと、トイレ行けなくてっ、ごめんなさいっ……)
 心無いクラスメイトたちの言葉に、明楽のプライドはずたずたに引き裂かれていた。
 新しい学校、新しい生活、その基点になるはずのに晴れの入学式の、その当日に――惨めにも我慢できずうんちを漏らし、ひり出した排泄物にパンツをずっしりと重くしてしまう――
 まして、これから1年を共に過ごすはずのクラスメイトのみんなに鼻が曲がるほどの猛烈な悪臭を何度も何度も浴びせ掛け、それですら飽き足らずとうとう中身まで漏らしてしまった。
(き、嫌われちゃう……こんなことする女の子なんか……絶交されちゃう……よぅ……)
 今すぐ、この場で死んでしまいたいと思うほどの激しい後悔と恥辱。クラス中に、いや、学校中にうんちを漏らしたことを知られて、明日からどうやって生きていけばいいのだろう。それすらももう解らない。
「さあ、早くッ!! トイレ、階段の隣にあるから!!」
 走ってきたポニーテールの少女が顔を背けつつドアを開けてくれる。明楽はもうお尻から手を離すこともできなかった。歩くだけでパンツの中にうずたかくトグロを巻いて詰まったウンチが溢れてしまいそうで、それを抑えるのに精一杯なのだ。押さえ込んだスカートの下で、ぐちゅぐちゅと想像したくない汚辱に満ちた音が響く。

 ごきゅるるるりゅっ、ぐぼっぼっ、ぶぷっ!!

 ○問のような腹音はいまだ衰えることなくうねっている。さらに吐き出されるであろう恥辱の粘土細工が、張り詰めた直腸にみちみちと詰まっている。
 背中にはクラスメイト達の明らかな蔑視の視線。何度も襲い来る発作を辛うじて耐え、明楽はがくがくと震える脚を引きずり、おしりを押さえながら教室を飛び出した。



 (続)

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