ウメ畑 2022/11/01 09:57

リクエスト作品 『魔王学院の不適合者』ミーシャ・サーシャのネクロン姉妹

「ここが、今回の課題に出ていたダンジョンね」

 そう言ったのは、気の強さが隠しきれていない瞳を持つ金髪の少女だ。
 まるで太陽の輝きのように美しい金髪をツインテールに纏めた少女は、魔王学院デルゾゲードの敷地内に突如出現したダンジョンの前で腰に手を当てながら仁王立ちになり、気炎を吐いている。
 強気に胸を逸らしながらダンジョンを見上げれば、制服の胸元に柔らかな曲線を描く形良い胸が押し出され、この美少女の見事な肢体が強調された。
 身長は同年代の少女たちとあまり変わらない平均的なものだが、気力に満ちた美貌はそれだけで見る者に強い印象を抱かせる。
 黒の外套とスカート、白いブラウスに包まれた肢体も均整がとれており、細身だが女性らしい丸みがきちんと伺えるもの。
 肉付きこそ乏しいが形良く膨らんだ柔らかそうな胸元、男の腕なら簡単に抱きすくめる事が出来そうな細い腰、スカートから伸びる健康的な美脚はどれもまだ学生の少女とは思えない色香を放っていた。
 紅のニーソックスに包まれた美脚を一歩踏み出せば、そんな彼女の強気に惹かれる学友たちの士気も上がる。

「それじゃ、さっさとこのダンジョンを攻略するとしますか」

 その気の強そう美貌は余裕に溢れており、今回の課題に絶対の自信を持っていることが伺えた。
 そのままダンジョンに踏み入ろうとすると――しかし、その外套が小さな手で握られる。
 最初の一歩を遮られる形になった金髪の少女が振り返れば、そこにあるのはどこか感情の起伏が薄い印象を抱かせる美貌の、銀髪の少女。
 金髪の少女とはまた真逆の、こちらはどこか自信というものが薄い表情をしている。
 だが身体付きは金髪の少女よりも起伏に富んでおり、胸に至っては一回りほどの違いがあるだろう。
 その肢体を白の制服に包んだ銀髪の少女は、金髪の少女がこちらの声に耳を傾けたのを感じてから、ゆっくりと外套から手を離した。

「サーシャ。突然現れたダンジョンだし……もっと慎重になった方がいい、かも」
「ミーシャ。貴女は心配性ね」

 ミーシャと呼ばれた銀髪の少女の言葉を笑い、けれどその言葉にサーシャと呼ばれた金髪の少女は足を止める。
 性格の違いによるものが多少あるのだろうが、どこか共通した要素を感じさせる二人の美少女は、姉妹である。
 ネクロン姉妹。
 金髪の姉は、サーシャ・ネクロンはネクロン家という優秀な家計の十六代目。
 銀髪の妹は、七魔皇老のひとり、アイヴィス・ネクロンの家系に連なる少女。サーシャの双子の妹だ。
 そして、そんな二人の背後には五人の男子生徒たち。
 こちらはサーシャに似た、男子用の制服に身を包んでいる。
 ブラウス以外が黒を基調とした制服で、気を凝らせば非力だが魔力を宿していることが分かる。
 魔王学院の生徒――誰もが二千年前に存在していた魔王に連なる家系の者たちであり、けれどその血は長い年月の間に酷く薄まってしまっていた。
 そんな中からこの時代の『魔皇』を育てる機関……それが魔王学院だ。
 その学院内に置いて優れた能力を持つネクロン姉妹、その補佐として五人の男子生徒たちが選ばれ、つい先日、突然現れたダンジョンの探索が命じられた。
 課題という題目だが、学生に行わせる当たり、教師たちもこの突然現れたダンジョンの安全性を理解している。
 ……なにせ、何の魔力的な脅威を感じないのだから。

「先生たちの話を鵜吞みにするわけじゃないけど、これってただの洞窟よ?」
「ただの洞窟は、突然現れたりしないと思うけど……」

 この時代でもそれなりの魔力を有するネクロン家の姉妹は、お互いに真逆の感想を抱く。
 姉のサーシャは何の脅威も感じない洞窟と。
 妹のミーシャはそれでもなお何か不思議な場所なのではないかと。
 ただ共通して『このダンジョンから魔力を感じない』というのはあるが。

「それはそうだけど……なんでいきなり、ダンジョンなんか出来たのかな?」
「さあ? 地震とか、誰かの魔法の失敗とか?」

 サーシャは思いついたことを口にするが、どれもしっくりこない。
 脳裏に浮かんだ黒髪の青年なら正しい答えを出してくれるかもしれないが、運悪く、彼は実家の方へ帰っていた。
 特に何かがあったわけではなく、気紛れの帰郷だ。
 戻ってくる予定は三日後と一定のを思い出す。
突然現れたダンジョンの探索はその間にも進み、魔王学院の教師たちが安全性を確認した後に一般生徒にも開放したのだった。

「でも、未知のダンジョンへ一番最初に潜れるっていうのも、中々楽しみね!」
「もう……サーシャったら」

 けれど、そんなダンジョンを警戒しているのはミーシャ一人だけ。
 背後の男子生徒たちも『突然現れたダンジョンの探索』というよりも、未知のダンジョンに潜る楽しさに興奮していた。

(アノスが居てくれたら、心配しなくていいんだけど)

 未知のダンジョンだったとしても、彼ならなんとかしてくれる。
 そんな信頼の気持ちは、けれど届かない。

「さ、行くわよ!」
「うん」

 サーシャの元気な掛け声に、ミーシャが、背後の男子たちが返事をする。
 そして、ネクロン姉妹、五人の男子生徒たちは何の魔力反応もない未知のダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

「なんだか、妙な場所ねえ」

 そう言ったのは、先頭を歩くサーシャだった。
 彼女は豊かな金髪のツインテールと黒の外套を揺らしながら、とくに警戒した様子も無く歩いている。
 けれど実際には周囲を魔力で探索し、危険が無い事をきちんと把握してからだ。
 ダンジョン内にはいくつかの罠が仕掛けられており、けれどそれは隠蔽も甘い子供騙しのようなもの。
 ネクロン姉妹どころか後ろを歩く未熟な男子たちでも感知できる程度であり、それが彼女の足の歩みから緊張感を薄れさせていた。
 その数歩後ろを歩くミーシャもダンジョン内の甘い罠に安堵し、少しだけ警戒を緩めている。

「……何にもないわ」
「うん」

 サーシャの言う通り、ダンジョン内には何も無かった。
 いや、安全を確認するために教師が入っているのだから、もし何かあれば伝えられていたはずだ。
 ただ、ダンジョンと言えば宝箱、強力な魔物、危険な罠に未知の興奮……という期待が少しだけあったサーシャとしては、ここまでの道のりですでに『退屈』と感じているのかもしれない。
 実際、宝箱どころか強力な魔物も存在せず、隠ぺいの甘い罠ばかりなのだから退屈に思うのが当然か。

「これじゃ、時間の無駄じゃない……学院で本でも読んでいた方がマシじゃない」

 サーシャがあまりの退屈さに肩を落としながらそう言うと、後ろを歩く男子たちが小さく声に出して笑ってしまう。
 ミーシャでも我慢できずにその人形のように感情の起伏が乏しい美貌を僅かに緩めてしまいながら、それでも七人はダンジョンの奥へ。
 名誉にも一番手としてダンジョン探索を課題とされたのだ。
 ならせめて、最奥まで進んでしまおうと考えて。

「ところで、このダンジョンってどれくらい深いのかしら?」
「先生たちの見立てだと、そんなに深くないはずだけど……」

 ただ、学院の教師たちもダンジョンの最奥までは進んでいなかった。
 ……途中で飽きたから、生徒たちに課題としてダンジョンの探索を命じたことからも明らかだが。
 まあつまり、面倒ごとを生徒に回したというわけである。
 教師がこれほど甘いのは、平和な時代が続いたからか。

「あーあ。これじゃ、ただ疲れるだけじゃない」
「そう? 私は、静かで嫌いじゃないけど」
(アノスも、こういう暗くて静かなところは好きそう……かも)

 口や気配では周囲を警戒していても、頭の中でここには居ないアノスの事を考えているミーシャも随分と油断していた。
 ――七人はさらに奥へ進む。

「……どれくらい進んだのかしら?」

 ダンジョンは一本道ということもあり、迷うことは無かった。
 ただ、魔力を宿した瞳で暗闇を見通すことが可能な七人とはいえ、こうも似たような光景が続けば嫌気も出てくる。
 特に、何の変化もないダンジョン内に飽きていたサーシャはそれが顕著であり、気もそぞろになって先頭を歩いていた……が。

「――止まって」

 その声が、不意に緊張感を孕んだものへと変化した。
 今まで人が数人並んでも余裕がある一本道だったが、僅かに拓けた場所に出たところで前方から僅かな気配を感じたのだ。
 天井は高く、人が二十人くらいなら入っても余裕がありそう。
 学院の教室よりも一回り狭いくらいか。
今までの緩んだ雰囲気が消え、未熟な男子生徒たちでも分かるほどその小さな身体から魔力が溢れ出た。
 今まで楽観に緩んでいた表情は元の強気な色を取り戻し、サーシャは……ダンジョンの先、暗闇の向こうから現れた異物を視認する。
 異形、だった。
 魔王たちの時代が終わって二千年。
 遥か過去に存在していた異形――なのかもしれないとサーシャは思う。
 見た目は巨大化したミミズ……と表現するべきか。
 表面は岩のような凹凸があるけれど、しかし決して硬そうには見えない。
 蛇のように這って移動する様子は、表面が柔らかい、もしくは弾力がある証拠だ。
 それに、何か奇妙な粘液を表面から出している。
 粘り気があるけれど、異臭は無い。
 ただただ気持ち悪い――嫌悪感を抱かせる異様に、後ろに居るミーシャが「ひっ」と小さな声を上げた。
 それが蠢くたびに粘着質な音が響き、動体と地面の間に半透明の意図を引きながら移動している。
 その色は赤と紫が混じったような肉の色で、ダンジョン内の暗がりの中でも確認できた。
 サーシャも気持ち悪いと思ったが、持ち前の強気と、妹の前ということもあって弱気な態度は見せない。
 なにより、それはとても小さかった。
 本当に、少し大きな蛇くらいのサイズしかないのだ。
 ……現代では見掛けることのない未知の生命体が、ダンジョンの奥から現れた。

「な、なんだあれ!?」

 男子生徒たちが浮足立った。

「怯えないで! 魔力は感じない――ミーシャと皆は退路の確保を!」

 ただ、相手は未知の生物だ。
 サーシャは魔力の量から『勝てる』と思ったが、それでも念のために他の仲間たちには退路を確保するように伝える。
 そして……彼女はその両目でソレを見た。
 『破滅の魔眼』……魔王アノスには通用しなかったが、それでも現代まで残る超常の力の中では破格のモノ。

(やっと面白くなってきたじゃないっ!)

 生来の強気な感情が表に出れば、サーシャは不敵に笑ってその異物を睨みつけた。
 直後、たったそれだけで未知の生命体は胴体から粉砕――人と同じ赤い液体をぶち撒けて、真っ二つに分断される。

「さすがサーシャ様!」
「油断しないでっ!」

 男子の一人がサーシャの行動を偉業のように讃えると、けれど金髪の少女は緊張感を解かない。
 ダンジョンの奥からは更に無数の奇妙な生物が現れたからだ。
 どれも先ほど現れた蛇のような生物だが、今度は無数……五匹ほどの岩のような皮膚を持つ蛇が這い出てくる。

「うえ……」

 これにはサーシャも気分を害し、気持ち悪さに表情を歪め、一歩後退。

「きゃあっ!?」
「ミーシャ!?」

 すると、背後から悲鳴が聞こえた。
 サーシャが振り返ると、そこには今来た道には存在していなかったはずの同種の生物が道を塞ぐように存在していた。
 どれも小さな蛇だが、数が多い。
 前からは五匹ほど、出口がある後ろには十匹以上だ。

「このっ!」

 男子生徒の一人が『魔雷』を放った。
 手のひらから紫電が迸り、地面を這っていた蛇のような生物を吹き飛ばす。

「なんだ、俺たちでもやれるぞ!」
「そうよ! さっさと片付けてしまうわよ!!」

 怯えていたのは最初だけ。
 魔法が通用することを証明すると、七人は全員で奇妙な生物を倒すことにする。
 そのまま十匹以上――さらに数が増えて三十匹ほどの奇妙な生物を倒してしまえば、サーシャたちの周囲が粘り気のある気持ち悪い液体と、謎の生物の肉片に囲まれていた。

「な、なんとかなった……?」

 ミーシャが肩で息をしながらそう呟く。
 それほど肉体が疲労を感じているわけではなく、単に奇妙な生物を倒したことに対する精神的な疲労だ。
 サーシャも同様で、強気な雰囲気は崩していないが、初めて遭遇した生物の存在に動揺して息を乱していた。

「みんな、無事?」
「うん」

 全員の返事を確認して、サーシャは周囲を見回した。

「……一回、外に出るべきかしら?」
「うん。こんな生き物がいるなんて、聞いてないし……」

 ミーシャはその意見に賛成だった。
 他の男子たちもだ。
 さっきまでの余裕に緩んだ雰囲気は霧散し、未知の存在に対する恐怖に身体が強張っている。
 これではとても最奥まで向かうことは不可能だろうと思い、サーシャはその意見を取り入れた。

「それじゃ、戻りましょう。もし先生たちがこの生き物の事を知っていたら、ちゃんと説明を受けてからもう一回ダンジョンに……」

 挑みましょう、という言葉を最後まで口から出すことが出来なかった。
 地面が揺れたように感じると――さっきまでの小さな生物が嘘のような、見上げるほど巨大な岩肌の蛇が現れたのだ。
 ぬるりと。
 移動する音は聞こえない。
 肌の表面から粘り気のある液体を分泌する生物は、その液体を利用して音も無く地面を移動している。
 それが……二体。
 正面と背後。
 進も退くもできない状況だ。

「戦って、ダンジョンの外に出るわよ!!」
「う、うんっ!!」

 進退を塞がれて動揺していた仲間たちに目的を与えると、サーシャは改めて両目に力を籠めた。

 『破滅の魔眼』――それはあっさりと生物の皮膚を貫通し、抉り取り、文字通り注視していた部分を破滅させる。
 けれど、今度の存在は巨大だ。
 サーシャの視線程度ではその全域をカバーしきれず、抉り取ったのは皮膚の一部だけ。
 しかも、先ほどより魔眼の効果が悪い気がする。

(なに……?)

 その差異に疑問を抱くが、悩んでいる暇など無い。

「一匹は私が! ミーシャ、みんなでもう一匹を倒して、ダンジョンの外に!!」
「分かった!」

 一度で破滅させることができないなら、二度、三度と魔眼で視て奇妙な生命体の肉体を削っていく。

(そのまま身体を穴だらけにすれば、殺せるはず!)

 サーシャの予想通り、最奥に繋がる道から現れた巨大な岩肌の蛇は魔眼の前に倒れ、出来た傷から赤い血と透明な粘り気のある体液を流しながら絶命した。
 背後も同じ。
 こちらは学院の生徒たちが得意とする『魔雷』や『魔炎』によって全身を焼かれ、ついに耐え切れずに絶命した。
 だが、その液体には加熱する成分でも含まれていたのか、倒れた後に死体が爆発。
 全員が吹き飛んだ死体の残骸と透明な粘液に塗れ、汚れてしまう。

「きゃっ!?」
「やだ、なにこれっ!?」

 ミーシャとサーシャが悲鳴を上げ、男子たちも頭から被った奇妙な生物の死骸に表情を歪める。
 けれど、出口までの道は出来た。

「みんな、急いで外に――」

 そのまま走り出した直後、瓦礫が落ちてきた。
 魔法の衝撃で天井が崩れるかもしれない――生徒たちが顔を上げると、しかし今度は天井を破壊しながら岩肌の蛇が出現した。
 先ほどよりもずっと細いが、けれど長い。

「なにっ!?」
「いやっ!?」

 天井から伸びた蛇はネクロン姉妹の腰に絡みつくと、その細い外見からは想像できない力強さで軽々と美少女たちを持ち上げた。
 さらに多数の蛇が天井から出てくると、姉妹を掴んだのと別の蛇は地面に落ち、男子生徒たちを威嚇するように口を開く。
 顔は無く、先端が十字に裂けるとその下から生物と同じ薄桃色の粘膜が現れた。
 口内には牙も存在しておらず、粘液のように糸を引くだ液を零しながら蛇のように長い舌が伸びる。

「くっ!? 『魔雷』!!」

 男子生徒の一人がネクロン姉妹を助けるために、邪魔しようとする岩肌の蛇に向かって魔法を放った。
 ……が。

「な、なんで!? 魔法が使えない!?」

 何度意識を集中しても、魔法が発動しない。
 いや、魔力を練ろうとしても、身体の内から湧き上がってくるような独特の感覚が発生しないのだ。
 それは他の男子たちも同じで、五人は全員が動揺して後ずさる。
 けれどここはダンジョン内。
 逃げ場など何処にもなく、五人はあっという間に岩壁を背に追い詰められてしまった。

「みんなっ!」

 ミーシャは叫ぶと、両の目に意識を集中する。
 破滅の魔眼――見た物を破滅させる異能は……しかし、他の魔法と同じく、その効果を発動しない。
 体内に溢れる魔力……しかしそれが、彼女の意志に反応しないのだ。
 魔力が無ければ、どれほど強力な魔法の才能も、生まれ持った異能も、何の意味もない。

「くっ、なんで!?」
「どうしてっ!? 魔法が使えないっ!?」

 それはミーシャたちも同じだった。
 彼女たちも魔法が使えなくなっており、ミーシャに至っては『破滅の魔眼』すら発動しない。
驚きながらその事実を言葉にする。
 サーシャはその人形のように整った美貌を普段は見せない動揺に染め、何とか自由になろうと天井から生えた岩肌の蛇の拘束から逃れようと身体を暴れさせた。

「な、なんだ……?」
「こいつら、何もしてこない?」

 空中に持ち上げられたネクロン姉妹が何とか自由になろうとしている間に、地上では少しの変化が起きる。
 岩肌の蛇たちは男子たちを壁に追い詰めると品定めをするように観察し、それ以上の行動は何もしなかったのだ。
 まるで興味を無くしたように見ているだけで、攻撃してくる様子はない。
 ただ、十字に裂けた口だけはそのままで、魔法が使えない生徒たちでは直接攻撃を行っても返り討ちにあってしまいそうな恐怖がある。
 岩肌の外見もあって、さながら悪質な外見をした石像……に見えなくもない。
 何もされなかったことで動揺が収まると、少しだけ冷静になって男子たちはゆっくりと息を吐く。

「こっちは大丈夫みたいだな」
「こっちは大丈夫じゃないっての!!」

 男子の一人が言うと、しかしサーシャはその言葉に反論した。
 ネクロン姉妹は今も空中に持ち上げられているのだ。

「何もしないならっ、そもそも襲ってこないでよっ!!」

 そう言いたくもなるだろう。
 実際、最初こそ驚いたが、何もされないことに気付いて気持ちが落ち着いてくると腰に巻き付いてはいるが、それ以上の変化がない事が分かって少しだけほっとする。
 それ以上締め付けることも、攻撃してくることも。
 だからサーシャは身体を暴れさせて拘束を解こうとするが、相手は岩肌をした大きな蛇……胴体の弾力は相当なもので、魔法を使えない女子の細腕では簡単に解けそうも無かった。
 それでも諦めずに暴れるのは、サーシャの生来からの気質……何でも自分の力で解決しようとしてしまう性格からか。

「おぉ……」

 そんな彼女を……いや、サーシャとミーシャを見上げながら、男子たちが感嘆の声を上げる。
 空中に持ち上げられている彼女たちは気付かないが、かなりきわどい状況だ。
 なにせ、魔王学院の制服……女子の制服のスカートは、かなり短いのである。
 ダンジョンの暗がりは彼女たちにその事実を気付けなくしてしまっているが、魔力が使えなくなったとはいえ闇を見通す瞳は健在で――彼らの視線の先では、学園でもかなり上位に入る美少女姉妹のスカートの中身が丸見えになっていた。
 特にサーシャは拘束を解くことに躍起になっていて、手足を暴れさせている。
 そうすれば黒いスカートが揺れてしまい、その下にある情熱的な赤い下着が丸見え。
 学生という身分の女子が身に着けるにはかなり派手な形状で、クロッチ部分にこそ布が当てられているが、その両サイドは紐そのもの。
 女の子にとって一番大切な部分だけが隠れたとしか言いようのない形状で、彼女が両脚を暴れさせればスカートが捲れ、その中央を飾るワンポイントリボンまで見えてしまう。
 ミーシャの方は動きこそないものの、それでも下から見上げればどこか気弱な印象を受ける彼女らしい可愛らしい純白の下着がチラチラと見えていた。
 時折吹く風にスカートが揺らされると、姉より肉付きの良い大きなお尻を包み込む純白の下着が丸見えになる。
 白一色かと思いきや、赤のワンポイントリボンが可愛らしい形状の下着だった。
 男子たちはそのことに気付きながら声を上げず魅入っており……。

「ちょっと男子! 見てないで助けなさいよっ!!」

 ついには自力でどうする事も出来ないと気付いたサーシャが、息を乱しながらそう言った。

「あ、あぁ……」

 少し残念に思いながらも、男子たちは動かなくなった岩肌の蛇を避けてネクロン姉妹の下へ……。

「うわっ!?」

 しかし、この場所から動こうとすれば蛇が威嚇するように喉を鳴らす。
 シャーッっという耳障りな音に怯えると、男子たちはそれ以上動けなくなってしまった。

「む、無理だ!」
「くっ。何とかしないと」

 おそらくこのままでも、時間が経てば学院から救助が来るだろうとサーシャは思っていた。
 これは学院から言い渡された課題であり、教師たちはこのダンジョンに生徒が居ることを理解しているのだから。
 入ったのが昼過ぎであることも考えれば、早ければ半日もしないうちに救助隊が向けられるかもしれない。
 ただ。

「こんな情けないところ、見られたくない……」

 救助隊に助けられるなんて情けない行動をもし運悪くアノスに気付かれてしまったらと思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
サーシャとしては何とか自力でこの危機を脱したいという気持ちが湧く。
 想い人に格好いい所を見せたいという乙女心からか、サーシャは役に立たない男子たちに見切りをつけると、もう一度天井から生えた岩肌の蛇の拘束から逃れようと身体を暴れさせた。
 けれど、それが不味かった。
 蛇たちが目的の為に動き出した際に、最初の目標として狙われてしまう。

「へ?」

 天井から音がしたかと思えば、新しい蛇が生えてきた。
 しかも。

「なっ!? あぐっ!?」

 ソレはミーシャの眼前まで頭部を伸ばしてくると見せつけるように十字に口を開き――彼女が驚きに身を硬直させた瞬間、その首筋に噛み付いたのだ。

「サーシャ!?」

 少し離れた場所でつられていたミーシャが声を上げた。
 男子たちに攻撃しなかった蛇が、金髪の姉に噛み付いたのだ。
 銀髪の妹は動揺し、彼女も身体を暴れさせてサーシャを助けようとする――が。

「ひっ!? きゃあっ!?」

 そのミーシャの首筋にも、同じように蛇が噛み付く。
 直後――ミーシャは耳元で何かに啜られる水音を聞いた。
 肌を介して耳まで届いたその音は、岩肌の蛇が噛み付いた首筋を吸われる音だ。

「あぐっ!? っはっ!?」

 ミーシャが驚きに目を見開く。
 肉体が本能的に暴れ出すと、首筋に張り付く蛇を引き剥がそうと両手を伸ばそうとする。
 けれどそれよりも早く別の蛇が天井から生え、今度はその両腕に絡みついた。
 ミーシャは空中で腰と両手を拘束され、動かせるのは両手だけ。
 そうなれば物静かな彼女でもスカートが捲れるのも構わず両脚を暴れさせてしまう。
 男子たちの目に人形のように可憐な美少女の可愛らしい純白のショーツが丸出しとなり、同級生が襲われている状況だというのに、男子たちは一瞬その光景に目を奪われた。

「うあぁああああっ!?」

 同時に、その隣――金髪ツインテールの姉もまた、声を上げる。
 こちらはもっと切羽詰まった……悲鳴だ。

「ひっくぅうう!? っひぃぃい!?」

 大きく開いた唇からは引き攣った声が漏れ、飲み込むことが出来なかった涎がいくつも筋を作りながら顎を伝って首筋に垂れていく。
 暴れていた両足を更に大きく動かし、派手な赤色の下着が見えてしまうことも意識せず必死に身体を捩じる。
 その表情は驚愕に歪み――けれど、頬どころか耳まで真っ赤になっているのはどういうことか。
 そのままサーシャも妹と同じように両腕を別の蛇に拘束され、ネクロン姉妹は揃って空中に吊るされたまま大の字にされてしまう。
 ただただ男子たちに女の子の下着を晒しながら……。

「っひっ!? っひぃっ!?」

 その唇からは引き攣った声が漏れるだけ。
 姉妹は揃って涎を垂らし、驚愕に目を見開き……初めて感じる気持ち良さに見開かれた瞳の端からは涙が零れ落ちる。
 しばらくすると暴れていた両足からも力が抜け、女子学生のしなやかな美脚は内股に畳まれると、頼りなげに震え出す。

(なっ、なひぃ!? なにこれぇ――魔力っ、すっ、吸われ……っ!?)
(ちっ、力抜けれぇ……なっ、なんれっ、なんれこんらぁ……っ!?)

 姉妹が感じているのは、どちらも同じだ。
 噛まれた数十秒を経て、ようやく何をされているのかを自覚する。
 この蛇たちは対象に噛み付くことで魔力を吸っているのだ。
 そして今、ネクロン姉妹を襲っているのは……未経験の快楽。
 なにせ、魔力を無理矢理吸収されるというのがこれほど気持ちいいなんて――学校では教えてくれない。
 その結果、学院でも屈指の実力を持つネクロン姉妹をして未知の快感によって混乱し……別の蛇がまた天井から生えてくると、今度は逆の首筋に吸い付いた。

「あ゛ひっ!?」
「ひぁぁああああっ!?」

 直前まで暴れて抵抗の意志を示していたサーシャは一気に魔力を吸収される衝撃に脱力感と危機感を覚え、さらに四肢へ力を籠めて抵抗しようとする。
 抵抗の意志を示していなかったミーシャは今までと同じく、けれど二倍になった魔力吸収の快感に翻弄されて引き攣った悲鳴を上げる。
 どちらにも共通したのは、その快楽に耐えきれずに頭の中が真っ白になり、これまで長時間ダンジョンへ潜っていたという事もあり――本人も意識していなかった尿意を解放すると、深紅と純白のショーツを履いたまま地面に向かっておしっこを漏らしてしまったことだ。

「み、サーシャ様!?」
「ふ、二人ともなにを!?」

 それを見た男子たちは動揺した。
 なにせ、学年最上位の美少女がいきなり自分たちの目の前で声を荒げ、全身を痙攣させ、それどころか今度はおしっこを漏らしはじめたのだ。
 アンモニア臭がする黄金水は美少女姉妹の足を伝って地面に落ち、その美脚を包み赤白のニーソックスやパンプスまで濡らしてしまう。
 けれど、ネクロン姉妹はそんな気持ち悪さを感じる余裕も無い――まだ魔力吸収は続いているのだ。

「あっ、ああぁぁっ!?」
「ヒィィイぃいぃっ!?」

 サーシャもミーシャも揃って目を見開き、首筋から魔力を吸収される快感に翻弄されて何も考えられない。
 見開いた瞳がブルブルと震えて焦点が定まらず、手足の痙攣が大きくなっていく。
 まるで血液に電気を流されたかのように、体中を巡る血管を通して首筋に魔力が流れていくかのようだ。
 その本流が快楽となってしまいの全身を襲い、身体が本人の意志を離れて暴れてしまう。

「んひぃ!? っ、ひぅっ、はぃいい!?」

 最初に大きな反応を示したのはサーシャだ。
 直前まで抵抗していた彼女からの魔力吸収はミーシャよりも激しく、圧倒的な快感が全身を巡り、脳を焼く。
 想い人は居てもまだ快楽というものをあまり知らない少女ではその快感を耐えられるはずも無く、耐え方が少しも分からない快感の爆発に反応して空中で両脚がピンッと伸びた。
 しなやかな太ももに筋肉が浮くほどの激しい硬直と、見開いた瞳が瞼の奥へ裏返り、そのまま脱力すれば二度目の放尿。
 膀胱に残っていた最後の一滴まで零して真っ赤なショーツのクロッチ部分を変色させれば、金髪ツインテールの美少女はカクンとその顔を地に向ける。
 あまりにも強すぎる快感に気絶したのだ。

「ふぁあっ!? はうっ、ああぁっ、ぅぁあああっ!?」

 その隣で、今度はミーシャが声を乱した。
 首筋の左右からゆっくりと魔力を吸収される彼女の快感はミーシャが与えられたものほど激しくないが、しかしむしろこちらの方が質は悪い。
 サーシャはそれを快感と認識する前に気絶することが出来たけれど、ミーシャはこれを『気持ちいい』と無理やり自覚させられる。
 首筋で行われる魔力の吸収は甘い刺激となって身体を焼き、どうしようもない熱が首筋に残るかのよう。
 妖しい性感に翻弄される銀髪の妹は物静かであまり感情を浮かばせない瞳を驚愕に見開き、腹の奥に溜まっていく熱の存在を自覚させられる。

(こんっ、こんなぁ!? あ、アソコが濡れて……っ)

 先ほど漏らしたおしっこではない。
 腹の奥から溢れてきた愛液は、時折、この学園で初めてで来た友人を思って肉体を慰めた時に流れる快楽の象徴だ。
 魔力を吸われることに身体が性的興奮を表している――ミーシャはこの状況が悔しくなり、また情けなかった。

「っぐっ!? ぅぅうぅうぅっ!!」

 歯を食い縛り、何とかその感情を押し出そうとする。無視しようとする。

(こっ、このままじゃっ。魔力を食べられて、私っ)

 絶頂する。イってしまう。
 夜、どうしても我慢できずに自分を慰めてしまった時に感じるような、鋭い刺激が向かってくる。
 しかも今回は、それが首筋からなのだ。
 今まで性感帯だなんて認識していなかった――今日まで、普通に露にしていた場所からの性的な刺激。
 そんな場所を、こんな未知の怪物に襲われて、魔力を吸収されるという異常な状況で、絶頂してしまう。
 それだけは嫌だった。
 サーシャはこの状況を理解する暇も無く絶頂させられ、強すぎる快感に気絶してしまったが、ミーシャはむしろその状況を自覚させられながら絶頂しようとしている。
 それが嫌で震える足へ懸命に力を籠めた。
 学院指定のローファーの中で足の指を丸めると、ミーシャは必死にその刺激に耐えるために目も強く瞑る。
 けれどそれは悪手だ。
 目を閉じたことで余計に首筋からの刺激を強く感じ、それどころか口内で蠢く蛇の舌が新しい刺激となって首筋に怪しい感覚を奔らせた。
 蛇の口内には無数の小さな下があるようで、十字に開いた口の面積全部が舐められるのだ。
 数えきれないほどたくさんの舌が甘えるように首筋を舐め吸い付くたびに首筋に続々とした感覚と、魔力を無理矢理吸い取られる快感を与えてくる。

「あっ、やめっ、やめ……んぅぅうつ!」

 額と言わず全身から大量の汗を流れ、その刺激にすら甘いものを覚えてしまう。

(だめ、だめぇ……これ、こんなっ……抵抗しない、とっ)

 ミーシャは必死に両手を拘束する蛇を振りほどこうと、力を籠めた。
 けれどそれを抵抗と感じたのか――突如、首に吸い付いた蛇からの魔力吸収が強まる。
 同時に口内の小さな下の動きも激しくなれば、ミーシャは耳元で肌を舐められる音を聞いたような錯覚を覚え、そのまま頭の中が桃色の快感と舐められる水音だけに支配される。

「あっ、ぅぁあっ!? いやっ、やだ……っ! っっ、ぅゃぁあああっ!?」

 そうして我慢できなくなると、ミーシャも姉と同じように全身を強張らせて絶頂――しかも、絶頂しながらも魔力を吸収され続ける。
 絶頂で意識が薄まった影響か、首筋から吸収される魔力の量が激しくなり、それが脳を焼きそうなほどの快感となって更にミーシャを追い詰める。
 脳が『魔力を吸収されるのは気持ちいい事』だと認識してしまいそうな、通常ではありえない変態的な快感に、銀髪の妹は目を見開き、空中で全身を強張らせ……数秒ほど硬直したかと思えば、次の瞬間にはスカートの裾が揺れてしまうほど激しい痙攣を披露した。
 想い人を思って自分を慰める程度の刺激しか知らない銀髪の妹は強すぎる快感に耐えきれず、そのまま白目を剥き、数秒の後にカクンと頭が落ちる。
 気絶したのだ。
 姉妹が気絶しても蛇は首筋に吸い付いたまま――新しい蛇がまた、今度は地面から生えてきた。

「なんだコイツ!?」
「くっ!? ど、どうしたら!?」

 男子たちが動揺したのは、その蛇がかなりの巨体だったからだ。
 女二人程度なら簡単に呑み込んでしまいそうなほどで、動体のほとんどはまだ地面に埋まったまま。
 今までと同じように頭部が十字に裂けると、無数の舌を宿した内側が露になる。
 けれど、ソレは噛み付かない。
 しばらく力を溜めるように姉妹の前で動きを止めた後、身体を仰け反らせ――その口から、今までよりもずっと粘り気の強い液体を滝のように吐き出した。
 それを正面から受けた姉妹は全身が粘液まみれとなり、美しい金と銀の髪までが穢れてしまう。

「ぅ……」
「ぁ……」

 その生暖かい感覚に美人姉妹が気絶から目を覚ませば、目の前に巨大な岩肌の蛇が居る。
 驚き、身を強張らせ、食べられるのかと恐怖に震え……が。

「えっ!?」
「きゃっ、やだっ!?」

 次の瞬間、二人の視線は自分の肢体に向けられた。
 液体を浴びた影響か、着ていた制服が白煙を上げて溶け始めたのだ。
 それはかなりのスピードで、あっという間に肌が露になっていく。
 消化液の一種だろうが、肌に影響はない。
 溶けていくのは衣服だけで、二人の白い肌がだんだんと露になっていく。
 細い肩、胸元、腹部、腰……液体を浴びた影響が強い上半身から、徐々に下半身まで。

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