田宮秋人 2022/11/26 22:00

ブレイズハート小説版 第5話

「雷花、大丈夫かな……」
 ホテルまで戻ってきた了司が部屋に入ってシャワーを浴び、着替え終えてから1時間。桜火と桐枝は落ち着いたら戻ってくると言っていたものの、訪ねてくる様子はない。雷花の様子も気にはなるものの、了司は下手に動かず二人が訪ねてくるのを待っていた。すると、タイミングよくドアがコンコン、とノックされた。
「はい、どうぞ……ってオートロックか」
 了司は立ち上がってドアの前に行くと、鍵を開けてドアを開く。そこに立っていたのは、私服に着替えた桜火と桐枝だった。
「了司、誰が訪ねてきたか確認せずに開くのは不用心よ」
「あ、ごめん。でも二人が来るのは予想出来てたから。それに、もし敵かもしれなかったら、桜火が来てくれると思って」
「……ずるい」
「えっ? ごめん、よく聞こえなかったんだけど」
 不機嫌そうに言い放っていた桜火が、顔を背けながら何かを呟いたものの、了司には聞き取れなかった。桜火はそのまま了司の肩を掴んで回れ右させると、部屋の中へと入ってくる。続いて桐枝も保護者のような笑みを浮かべながら入ってきた。
「ふふ、青春ね……」
「全然意味が分からないんですけど」
「気にしなくていいわよ、了司くん。気づいたら桜火ちゃんがまた慌てちゃうから」
「慌ててない」
「じゃあ、照れてた?」
「照れてない」
 二人の会話について行けず、了司は首を傾げた。
「もうっ、なんでもいいけど早く入ってくれない? 立ってるのも辛いんですけど」
「えっ、その声は……雷花?」
「やっほ。ごめんね了司さん、心配かけて」
 笑顔を向けるその顔に無理をしている様子はない。だが、壁に肩を着けているところを見ると、やはり疲労しているのは見て取れた。
了司は慌てて部屋に入り、三人を案内する。一人部屋なので、四人も入ると少し窮屈に感じた。椅子と別途の縁に分かれて座り、ひとまず落ち着く。
「了司、心配なら見に来れば良かったのに」
「えっ? あ、もしかしてさっきの声、聞こえてたの?」
 桜火は小さく頷く。部屋に入って誰に語るでもなく呟いた小さな声。そんな声でさえ、桜火に聞かれていたかと思うと、少し恥ずかしくなる。
(さすがは桜火、耳がいいんだな……)

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