宣伝SSを完成したところからアップします。その③
来年初頭に発売予定の成人女性向けシチュエーションボイス作品、アルトボイス男子・桐野千歳の前日譚を少しずつアップします。
その③をアップしました~!
・宣伝ボイス(ちょびっと様)
紹介の所から商品予告のリンクがあります!
・販売予告
アルトボイス男子 桐野千歳 flower spiral https://www.dlsite.com/girls/announce/=/product_id/RJ309044.html
下に載せていきます。はやくエッティなシーンまで書きたい……(今書いてます)
・アルトボイス男子 桐野千歳、前日譚③
「……申しわけありません。この本でしたら、完売してます」
「あぁ、やっぱりそうなんですね。仕方ないな。そのうち再販されるかもだし、待つことにします」
店員さんは少し考えるそぶりをしたあと、真剣な顔で僕をみつめてきた。
「あのっ……もしよろしければ、私が買ったぶんをお譲りさせてください」
「え……?いや、それは申しわけないですよ。元はといえば、予約し忘れたことがいけなかったので……」
「大丈夫です!私、この作家さんの絵と話がすごく好きで、新しい本が日本で出版されたのがうれしくて……応援したくて。だから、一冊でよければ、お譲りできます」
「いいんですか?」
「はい、本当に遠慮しないでください。私、この本、三冊買ってるんです!」
「……三冊?」
「はいっ、観賞用、保存用、布教用です……!」
「三冊……」
まさかそんなにたくさん買っていると思っていなくて、思わず吹きだしてしまった。
「あ、あの……?」
「笑っちゃって、すみません……。店員さんは、この作家さんが、すごく好きなんですね。同じ本をたくさん買ってもらえて、しかも布教までしてもらえるなんて、作家冥利につきますよ」
「そう言ってもらえると安心して、これからも三冊買えます……」
ほっとした様子の店員さんに、僕はまた笑ってしまった。
さすがに何度も笑うのは失礼すぎるなと思って、口元を手で覆ってから謝る。
すると、彼女は「大丈夫ですよ」と言って、優しく微笑んでくれた。
本当に気にしていないのだとわかる彼女の柔らかい表情に、好感を覚える。
「本ですが、自宅から持ってきますので、明日以降でしたら、ご用意できます」
「ありがとうございます」
「それではこちらの用紙にご連絡先を……あっ、でも私が購入たものだから、ここでやりとりするのはいけませんよね。オーナーに説明して許可をもらってきます」
「あ、待ってください」
感じの良い子だな、もう少しゆっくり話をしたいなと思った僕は、鞄から名刺ケースを取り出した。
「本を譲っていただく、お礼を渡したいから、できれば店員さんがお休みの時にお会いして、受け取りたいです。名刺を渡しますので、連絡をいただけませんか?」
「そんな……!お礼なんていいです……」
「いえ、させてください。買うのを忘れていて説得力はないかもしれませんが、読むのを楽しみにしてたんです。この作家さんの過去作も気になってて、よかったら貴女がオススメのものを教えていただけませんか?次はその本を買います」
「本当ですか!?私でよければいくらでも教えます!全部おすすめなんですが、私が一番好きなのは――あ、もう絶版になってる絵本でした……。えっと、どうしよう。まだ売ってる本で、どれがいいかな……」
「ふふっ……急いでないので、本を譲っていただくときに教えてください」
「わかりました……!それではこの名刺、いただきますね」
「よろしくお願いします。後、この絵本を先に買わせてください」
「はいっ、ご購入ありがとうございます!この絵本、芸能人さんのおかげで、すごく売れてるんです。おもしろかったからって、新刊も買いに来てくださった方も多くて完売したから、うれしいです」
店員さんは本をいそいそと包みながら、笑顔で話を続ける。
「この絵本も、胸にじーんって響く素敵なお話なんですよ。この作家さんの物語はシニカルなキャラが多いけど、優しいところもあって、そのさじ加減が絶妙なんです!」
興奮気味に力説したあと、彼女は我に返り「ごめんなさい」と肩をおとす。
「私、本の話をすると夢中になってしまって……。ネタバレするといけないので、気をつけます」
「店員さんの解説、すごく興味がありますよ。今度お会いして、色々お話を聞くのを楽しみにしています」
「っ、わかりました!よろしくおねがいします……!」
「……ネタバレしても大丈夫なように、今日買った絵本は、すぐに読んでおきますね」
「は、はい……」
客相手に話しすぎたと思ったのか、店員さんは恥ずかしそうに目をふせる。
ころころと変わる表情が魅力的で、僕は彼女への興味がさらにわいた。
(本だけじゃなくて、この子と話をするのも、楽しみだな……)
その日の夜、納品が近い仕事をしていると、携帯に彼女から連絡が来た。
「今日、本をお譲りするとお約束した書店員です。今週の金曜日があいています。桐野様のご都合はいかがでしょうか?お手隙のときに、ご連絡いただけるとうれしいです。よろしくお願いいたします」
真面目な性格が伝わってくる文面に、口元がゆるんだ。
早く金曜日になったらいいのに、なんて考えている自分がいる。
それは最近、ルーティンワークをこなしているだけの僕にとって、新鮮な気持ちだった。