クラモリン 2021/02/19 00:05

ナイトヴェールについて教えて

誰かが止めるまで続けるつもり…とでも、いうのだろうか…


アメコミのヒーローヒロイン、ヴィランやヴィラネスが、別の称号を名乗ったり、別人が用いていた称号を継いだりすることはよくありますが、今回メインの紹介対象はかなり複雑な経緯でもって改名やら設定変更やらが行われています。

まずは前回、第二次大戦中の1943年に連邦緊急特務部隊・フェムフォースが結成されてから、42年の月日が流れた『Femforce Special #1』のストーリーから。

Trek For A Time Twister

フェムフォースのリーダーであるミズ・ヴィクトリー(Ms. Victory)のもとに、創設メンバーの一人であるリオ・リタ(Rio Rita)からの連絡が来るところから物語は始まります。
彼女は諜報活動の前線からは身を引いており、1985年時点ではブラジル政府防諜機関の責任者となっています。

連絡の内容はフェムフォースに協力を依頼するもので、ブラジルの物理学者であるヒメネス博士が極秘研究の実験のためにアマゾンの密林を移動中、彼を乗せていた航空機がテロリストの襲撃を受け、護衛として同行していたリタ・ファラー(Rita Farrar)ともども消息不明となり、彼らを救出してほしいというものでした。
なおこのリタ・ファラーはリオ・リタの孫娘であり、後に二代目リオ・リタを襲名しフェムフォースに加わることになります。

フェムフォースは密林での探索任務に備えるため、この分野のエキスパートであるタラ・フリーモント(Tara Fremont)を招請、何の説明もなく罠にかけた上にシー・キャット(She-Cat)による奇襲というかなり荒っぽい「能力テスト」を仕掛けられたことにタラは憤慨するものの、フェムフォースと共にアマゾンに向かうことには同意します。
このヒトは後年、能力特性(芸風)に大胆な変更を行うことになりますが、その話はまたいずれ。

さてアマゾンに向けて出発しようとするフェムフォースの前に、外套を纏いフードを被った謎の魔女が忽然と現れます。
その魔女の顔は、なんと1960年に戦死したはずのブルー・バレッティア(Blue Bulleteer)こと、ローラ・ライト(Laura Wright)その人だったのです!

メタい話

過去の記事でも申しあげたとおり、AC Comics の前身である Paragon Publications は、パブリックドメインとなった作品やキャラクターを復活させることを主力コンテンツとしていました。

1977年に刊行した『Bizarre Thrills #1』にファントム・レディ(Phantom Lady)を登場させ、1981年『Femzine #1』でフェム・フォース・ワンのメンバーに加えたのもその一環だったわけですが、ここでアメコミ界最大大手の一社である DC Comics からのストップがかかります。

そもそもこのファントム・レディ、かつて存在したコミック出版社 Quality Comics が1941年にデビューさせたキャラクターであり、本名はサンドラ・ナイト(Sandra Knight)、合衆国上院議員の父親を持つ社交界の令嬢であり、黄色のワンピースに緑のケープを纏い、暗闇を作り出す特殊武器 black light ray projector を操るスーパーヒロインです。


"Phantom Lady 1941"で検索してもらえれば、もっと正確で見栄えのいい画像が出てくると思います。

同年デビューのワンダーウーマンほどは成功していませんが、 Quality Comics のキャラクターの中ではトップクラスの人気を誇るファントム・レディ、同社の倒産(1957年)より前から別バージョンの同名キャラクターを中心に据えた作品が Fox Feature Syndicate から刊行されています(1947年~1949年)。

Fox版のファントム・レディはデザインに大胆なアレンジを施し、特に上半身の露出度が際立ったコスチュームは当時のコミック界に強烈なインパクトを与えました。


"Phantom Lady 1947"で検索(以下略)

実は本家 Quality Comics でも、後期の作品では衣装デザインのマイナーチェンジによって胸元が開いているのですが、Fox版では衣装デザインに加え、作中で度々「悪党に捕らえられ、拘束されて大ピンチに陥る」というヒロピン展開を多用し、「未成年の読者に対しては過度に扇情的である」として物議を醸した問題作でもあり、コミックス倫理規定委員会の設立(1954年)に至る要因の一つとも言われています。

Fox Feature Syndicate の倒産後、Ajax-Farrell Publications がファントム・レディの権利を取得、1954年~1955年に新作を刊行しています。こちらは Fox 版のデザインを継承しつつ、胸や背中を露出させず上半身を覆うデザインにマイナーチェンジしています。

そんな経緯を受けて、Paragon Publications は(時代の移り変わりを受けて)敢えて Fox 版のファントム・レディを再版し、新作エピソード『Bizarre Thrills #1』ではベルトのバックルとケープの留め具に頭蓋骨の意匠、青のアイマスクを追加した姿で登場させています。

さてそんな Paragon 版のファントム・レディの何が問題なのかというと、 Quality Comics が倒産した1957年の時点で、同社のキャラクターに関する権利は DC Comics が買収しており、ファントム・レディはパブリックドメインではなく、『Bizarre Thrills #1』『Femzine #1』にファントム・レディを登場させたのは DC Comics の権利を侵害する行為に当たる…という指摘だったわけです。
これは後出しで言っているわけではなく、1976年にはすでにファントム・レディを含む Quality Comics 出身のキャラクターたちが『Freedom Fighters』として DC Comics の世界に組み込まれているのです。

まぁここには議論の余地があって、DC Comics が取得したのはあくまで本家 Quality 版のファントム・レディであるのに対し、Paragon 版のファントム・レディは明らかに Fox 版のファントム・レディが基になっているわけですから、DC Comics の指摘は当たらない…として突っぱねることもできたのではないか、とも言われてはいます。現実には争わなかったんですけどね。

結局 Paragon Publications はキャラクター名をファントム・レディからブルー・バレッティアに変更し、更に Quality 版から Fox 版に受け継がれた要素である black light ray projector も通常の二丁拳銃に変更することで、DC Comics が保有するキャラクターとは別物であるということでしのぎました。
また本名もサンドラ・ナイトからローラ・ライトに変更していますが、「父親が上院議員」という要素はなぜか変更していません。

DC Comics 側がこれで納得したかどうかはさておき、これ以降表立って追及することはなかったようです。
2006年に DC Comics でバレッティア(Bulleteer)というヒロインがデビューしてるんですが、このネーミングを深読みするかどうかはあなた次第。

そして Paragon Publications は、『Femforce』シリーズのキャラクターとしてのブルー・バレッティアことローラ・ライトにもう一段階、ナイトヴェール(Nightveil)への転生という大きな変化を加えました。

Nightveil, Sorceress Supreme

上の文章では「戦死したはずのブルー・バレッティアが現れた!」としていますが、実際のところ「ブルー・バレッティアがナイトヴェールに転生した」物語は前年の1984年に『Nightveil #1 - Special Edition First Issue』として発刊されていました。

異次元の存在であるアザゴス(Azagoth)と接触したローラ・ライトの魂は辺獄(limbo)で修業を積み、暗黒のクローク(Cloak of Darkness)を授かったことで強大な魔力を操る魔女・ナイトヴェール(Nightveil)となり、地球に帰還。


画像中央にいる、目のある四角形のナニカがアザゴスです。人間が知覚できるような実体がないんですね。

キャプテン・パラゴンが率いるセンチネルズ・オブ・ジャスティスに参加した(『Captain Paragon and the Sentinels of Justice #1 - The Shadows of Legend』)後、かつての戦友たちを助けるためにフェムフォースに復帰した、という流れです。


さてこのナイトヴェールですが、魔法の力で何でもできます。いや「何でも」は言いすぎですね。魔法の力で大抵のことは、実質何でもできます。ハッキリ言ってチートレベルです。「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態です。

弱点としては、師匠であるアザゴスから授かったアーティファクト・暗黒のクロークが、ちょっとした呪いの装備であるということです。
これは強大な魔力を与えると同時に、ローラの本来の人間性に反する邪悪な性質を引き出し、クローク自体がしばしば邪悪な本性を覗かせます。
これをくれたアザゴス自身は地球人とは異質であるというだけで、言うほど邪悪な存在でもなければ、悪意があって呪い装備を押し付けたわけでもありません。クロークの持つ邪悪な性質が地球人にとって危険なものであるということを理解できないだけです。

そんなわけで、ナイトヴェールは魔力の暴走や悪堕ちを常時警戒し、普段からチームの仲間たちともある程度距離を置きながら過ごし、時にはクロークを封印し「ブルー・バレッティアとして」作戦に臨む必要に駆られるなど、なかなかの苦労人であったりします。

1985年以降のエピソードにおけるブルー・バレッティアは「魔法を使用しない」縛りプレイ中のナイトヴェールということになりますが、 Fox 版のファントム・レディと似ていることから、読者をしばしば混乱をさせるようです(マスクの有無で判別可能)。

さて今宵はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

…はて、何かを忘れているような気が…

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