柿村こけら 2023/12/25 00:50

Remix Xmas2023〜晴紀とお姉さんの場合〜

Merry Xmas 2023!!
本編から2年後の晴紀とのクリスマスをお届けします!

※本編のネタバレを含みます。ぜひ本編をお聞きいただいてからお楽しみください!

歳下男子しか勝たん!〜小悪魔生徒のたっぷりイチャラブ淫語責め〜
本編はこちら↑からお楽しみいただけます!


※以下R-18となっております。未成年のかた(高校生含む)の閲覧はお控えください!!


 ぽん、と勢いよくシャンパンの栓が開いた。壁や天井に激突しなかったのをささやかに嬉しく思いながら、私は溢れてこないよう慎重にコルクを引き抜く晴紀くんを見遣る。幸いにもしゅわしゅわの泡が漏れてくることはなく、晴紀くんはちょっと満足げな顔をして瓶を持ち上げると、二人分のグラスにシャンパンを注いでくれた。
――今日は十二月二十四日。世間一般で言うクリスマスイブ、だ。街中にはうるさいほどジングル・ベルが鳴り響き、街路樹はきらきらのイルミネーションに覆われて、年の瀬ということもあって街ゆく人々が皆忙しなさそうに見えるそんな日に、私はこうして晴紀くんの部屋を訪れていた。
 無事大学に合格してこちら、晴紀くんは一人暮らしを始めた。大学まで数駅のアパートは家賃の割にそれなりにいい部屋で、そういうところも彼のしっかり者なところが現れている。私も見習わなきゃなあ、なんて思ういはするものの、歳下の彼氏に甘えてばかりだったりするが。
「ほらお姉さん、座って座って!」
 でも向けられる笑顔だけは昔からずっと変わっていない。私はふふ、と笑いながら、反対側の席に腰を下ろした。
 テーブルの上にはちょっとしたご馳走。昔から何度もクリスマスを一緒に過ごしてきたけれど――幼い頃はうちの家と瀬尾さん家で合同のクリスマスパーティーなんかをやったっけ――こうやって二人で過ごすのは今年が二回目だ。付き合い始めた年は受験を控えていたから自重していた、ので。
 去年もそれなりに美味しいものを並べていたのだが、今年は去年よりちょっとお高めの料理を注文してしまった。と言うのも、今年から晴紀くんはお酒が飲める年齢になったからだ。誕生日が早い子なので、初めてのお酒自体はもうずっと前に済ませてしまったのだけれど――せっかくのクリスマスなんだからと、これまたお高いシャンパンを用意して、それなら料理だってそれなりのものを、とつい私が張り切ってしまった次第である。
 薄いグラスの中できめ細やかな泡が弾けているのを一瞥し、私はすっと細い柄に指を伸ばした。晴紀くんも同じようにグラスを持ち上げて、私の前に差し出してくる。
「メリークリスマス、お姉さん」
「メリークリスマス、晴紀くん」
 お互い軽く笑い合って、私たちはグラスの縁をシャン、とぶつけ合った。耳障りのいい音が部屋に響く中、私たちはシャンパンを嚥下する。う〜ん、やっぱりお高いシャンパンは美味しい。当たり前かもしれないが、普段飲むお酒とは口当たりが違うのだ。
「晴紀くん、シャンパンどう?」
「これ結構好きかも! 思ったより辛くなかったし」
「うん、そういう方が好きかと思って選んでみたんだ。お口に合ったようで何より」
「お姉さんのセレクトって本当ハズレないよね。僕のこと理解しすぎじゃない?」
「そりゃそうだよ、もう二十年も見てきてるんだから」
 正直記憶にあるのかと言われたら自信はないのだが、産まれてすぐの時点で私は晴紀くんと面識があるのだ。家にあるアルバムには、まだ離乳食にさえ至っていない晴紀くんを抱っこさせてもらってる私の写真とか、晴紀くんのベビーカーを押そうとしている私とか、晴紀くんを寝かしつけようとしてそのまま二人でお昼寝してしまっている写真とか、そういうのがきっちり並んでいる。……いや結構私にもダメージ入る写真かもしれない。やや恥ずかしい。
「……ま、お姉さんに知ってもらえてる、っていうのは悪い気しないけどね。それよりチキン、早く食べよ? 冷めちゃったらもったいないよ」
「そうだね」
 私がそう応えると、晴紀くんはナイフを使って器用にチキンを取り分けてくれた。クリスマスの熱気に当てられて買ってしまったローストチキンを果たしてどう解体すべきかと悩んでいたのだが、その問題はあっさりと瓦解してしまう。なんだか申し訳ないので、私はいそいそと晴紀くんのお皿にチーズと生ハム、それからグラタンを取り分けておいた。
 シャンパン同様、ご飯だってちょっと背伸びしていいものを、と思って選んできているので、やっぱりすごく美味しかった。それは晴紀くんの方も思ってくれているようで、何かを口に運ぶ度にいちいち目をキラキラとさせて美味しい、と言ってくれるのだから、買った甲斐があるというものだ。……こういう顔を見たいからついつい甘やかしちゃうのは悪い癖だとは理解しつつも、である。
 だって、甘やかしてもまだ足りないくらい、私は彼から色々なものを貰っているから。
「晴紀くん、グラス」
「え? あっ、ありがとお姉さん!」
 空になったグラスにシャンパンを注ぐ。最後の一滴まで彼のグラスに落としたところで、私は席を立つとチェイサーを取りにキッチンへと向かった。そこまで強いお酒というわけじゃないが、ペースはいつもより早い。少しでも薄めておいた方がいいだろう。
 追加のグラスを手に戻り、テーブルの上に飾っているクリスマスキャンドルがガラスの中でゆらりと炎を揺らしているのを見ながら、私は晴紀くんが取り分けてくれたチキンを口に運ぶ。二人で食べるから、とちょっと大きめのチキンを選んだのは正解だったようだ。まだまだ育ち盛りの大学生はあっと言う間にローストチキンをリボンの結ばれた骨にしてしまっていた。
「お姉さん大丈夫? なんか取ろっか?」
「平気だよ。ほら、あんまり食べ過ぎるとケーキが入らなくなっちゃうから」
「はは、そーだったそーだった。じゃ、僕もほどほどにしておこ〜」
……言いながらチーズの残りをヒョイヒョイと皿に盛る晴紀くん。成長期の胃袋&食欲を舐めない方がいい、というコトは知っているつもりだけど……一体この量食べてどこに消えているんだろうか。全然太る兆しとかないし。
 無言で、こっそりテーブルの下で自分のお腹をつまんでみる。……むに、としっかり指と指の間に肉を確認できてしまったが、一旦目を背けることにした。明日から……いや、どうせ年末年始でもおせちとか食べて太るんだから、年明け一週間後から本気出す、でいこう。
「おねーさーん?」
「あ、ごめんごめん」
 余計なことを考えている場合ではなかった。クリスマスパーティーと言えばなんだか今までと変わらないような気がするけれど、去年同様、これはキッチリカッチリクリスマスお家デートなのだから。グラスに残っていたシャンパンを飲み干し、私は生ハムをもう一切れ口に運ぶ。塩気が舌の上に広がった。
 もうちょっと飲める気がしたのでクリスマス限定パッケージのチューハイを開けてから、私は空になったお皿を下げて、クリスマスケーキの箱をテーブルの中央に乗せた。リボンを解けば、綺麗なデコレーションとサンタとトナカイのマジパンが乗せられたケーキがお目見えする。どんなケーキを買ってくるかは秘密だったのだが、反応を見るに……うん、喜んでもらえたみたい。
「小さくて可愛いね。これ、ショートケーキ?」
「ううん、チーズケーキ。でも中はスポンジとイチゴも入ってるやつにしてみたんだ」
 やった、と小さな声を上げる晴紀くん。晴紀くんのお母様が無類のケーキ好きらしく、私が晴紀くんのお家に遊びに――というか留守番している晴紀くんの面倒を見に行っていた、が正しいのだが――行ったときは、大抵ケーキが冷蔵庫にご用意されていたくらいだ。そんなわけで、彼も幼い頃からよくケーキを食べていたから、私もついつい美味しそうなケーキを買ってあげちゃうんだけど……ふふ。
「晴紀くんが告白してきてくれたときさ、私、最初はケーキあげようとしてたよねぇ」
「何、急に……そーだよ。お姉さんってば、超鈍感だったんだから。僕がケーキで釣られる子供だと思ってたんでしょ?」
「あはは、ごめんごめん。でも実際、ケーキは好きでしょ? やる気アップには繋がるかな〜と思ってさ」
「まあそりゃ、好きだし嬉しいけど……僕がお姉さんのこと好きなんて全然思ってもみないんだろうな〜ってガッカリしたもんだよ」
 やれやれ、とばかりに晴紀くんは笑う。そんな彼はスマホを取り出すと、ぱしゃり、とクリスマスケーキと私をカメラに収めた。咄嗟のことにポーズらしいポーズも取れず、どころか間抜けヅラまで晒していそうな気がして、文句を言ってみる。
「だーめ、消してあーげない! お姉さんはケーキ見る度に、自分が鈍感だったコトをよ〜く思い出すように」
「意地が悪いなぁ……言われなくても忘れないよ。だって、私が鈍感だったから、今こうして一緒にいられるんでしょ?」
「……ハァ。も〜、そういうトコだよお姉さん」
「え、今私、溜息吐かれるようなこと言った!?」
「だからそういうトコなんだって。ほらほら、喋ってないでケーキ切るよ〜お皿出してお皿」
 私のツッコミを置いて、小さな包丁でケーキを二等分にする晴紀くんなのだった。……私は無言でお皿を差し出し、サンタの乗っている方を皿に乗せてもらう。トナカイの方は晴紀くんのお皿に。ケーキとは言え、二人で食べ切れるサイズを選んだのでそこまで大きくはない。
 純白のチーズクリームをフォークで掬って口に運べば、甘いような爽やかなような、そんな味が広がった。晴紀くんはと言うと、初手から躊躇いなくトナカイを咀嚼している。ボリボリと音を立てて食べられていくトナカイ。……あのトナカイは、きっと私に似ている。いつの間にか彼に取り分けられて、食べられてしまっていた、そんな私に。
 ぺろりと唇を舐め取って、フォークは続いてイチゴを刺した。これもひょいと口に放り込んで、彼は満足とばかりに頬を緩める。その表情はひどく可愛いけれど――可愛いだけじゃ済まないってことを、誰よりも知っているのが私なのだ。
 お酒とチェイサーと、それからケーキ。全部を平らげて、私のお腹はすっかり膨れてしまった。流石にお腹がいっぱいだ。冷蔵庫に入れておいてもよかったのだけれど、せっかく用意したご馳走だからと欲張ってしまっている。お腹いっぱいになったせいで眠くもなってきてるくらいで……でも、それこそせっかくのクリスマスイブにおやすみなさい、とは言っていられない。
 とりあえずテーブルの上のお皿を流しに下げてから、私はカバンと一緒に置いておいた紙袋を手に取った。改めて椅子に座り直して、紙袋の中から丁寧にラッピングされたそれを取り出す。
「はい、晴紀くん。メリークリスマス」
「わっ……ありがと、お姉さん!」
 それこそずっと昔のクリスマスパーティーでも、こんな風にプレゼントをあげたっけ。あのときは……何だったかな? 戦隊ヒーローか何かのおもちゃを、親の代わりに渡したと思う。「サンタさんからも貰ったのにお姉ちゃんからも貰えるなんて嬉しい」的なことを言っていたような。
 開けていいよ、と告げれば、晴紀くんはいそいそとリボンを解いた。オレンジ色のサテンリボンはしゅるしゅると解かれて、それから濃い緑色の包み紙が丁寧に剥がされる。
「……これって、万年筆?」
 箱をぱかりと開けて、晴紀くんは目を輝かせながら私に尋ねてきた。そうだよ、と返して、私は自分のカバンからペンケースを取り出すと、今彼の手の中にあるものと色違いの万年筆を見せてあげる。
「カードリッジ式のやつだから簡単に使えると思う。お揃いなんて、好きじゃないかなとも思ったんだけど……あはは。私がね、欲しかったの。お揃い」
 私と彼の間にはどうしたって差がある。埋められない差。年齢とか、性別とか、職業とか、いろいろ。服も靴も髪型もお揃いにはできない。でも、これなら――これなら、お守り気分で持ち歩ける。……まあ最近の大学生はあんまりノートとか取らないのかもしれないけどね! そこは気にしない!
「ま、嵩張る物でもないからさ。良かったらカバンにでも入れておいて」
「そうやって防衛ライン張るのさ、お姉さんのちょっと悪い癖だよ。……そんな風に言わなくたって、僕はこれ、すっごく気に入ったんだから。ちゃんと使うよ」
「うぐ……」
 私のしょうもない魂胆なんか見透かされていた。
 やれやれ、と言いながら晴紀くんは万年筆を箱から出して、それを包んでいた包装紙の裏側にくるくると円を描いていく。落ち着いた藍色の輪が何回か描かれた後、彼はひょいとその瞳をこちらに向けた。
「それに僕、割と手で書きたい派だしね」
「な……ら、いいんだけど」
「うん、だからアリガト。……書いた方が覚えられるし、見返せるし、ちゃんと残るって教えてくれたのは、他ならぬお姉さんなんだからさ。自信持ってよ。だってお姉さん、僕のことはなーんでも知ってる、でしょ?」
 くつくつと晴紀くんは笑う。
 はいはいその通りです晴紀くんの言う通りです、とばかりに、私は両手を挙げて降参の意思を見せた。勝ち誇った表情の彼は万年筆を一旦しまい、それから反撃とばかりに可愛くラッピングされたものを取り出してくる。
「メリークリスマス」
 二度目のメリクリと同時に差し出されたプレゼントは、ちょっと重い。中身を検めてみると……そこには、電子レンジで加熱できるタイプの湯たんぽが入っていた。ヒツジのカバー付きのやつ。あと、ハーブティーのティーバッグパック。
「持って帰ってもいいし、うちに置いておいてもいいよ。この前泊まったとき、全然足あったまらなくて寝られてなかったでしょ?」
「うん。ふふ、いいね、電子レンジのやつ。電源式とか、お湯で温めるやつとか買ったことあるんだけど……温めるのが面倒で放置しがちだったから」
「お姉さんって自分のことは結構ズボラだよね〜。まあ、本当は僕がぎゅ〜ってして温めてあげたいところなんだけど、つま先って上手くできないからさ。このヒツジを僕だと思って……いやそれだと僕が足蹴にされるか」
「晴紀くんを蹴って温まる、と。オッケーオッケー」
「蹴らないで!? ……ゴホン。とにかく、ちゃんと温かくして寝てね、ってコト。ま、風邪引いても僕がちゃ〜んとお世話するけど♡」
「遠慮します」
 悪化する気配しかないので。
 ちぇー、と唇を突き出す晴紀くんをよそに、私はヒツジの湯たんぽを取り出して膝の上に乗せてみる。このまま上からブランケット掛けたりすれば、在宅で仕事してるときでも使えそうだ。自分でも言ったけど、レンチンなら面倒くさがらずにできる……気もする。こういうのって自分で買おうとするとやっぱいっか〜ってなっちゃうんだけど、貰うと嬉しいからすごいな……!
 プレゼント交換を終え、半分ほどに減ってしまったクリスマスキャンドルの火を消す。片付けを終えた頃にはもういい時間になっていた。
「晴紀くん、先お風呂入ってきていいよ〜」
「え、いいよ。お姉さん先入りなよ」
「私はもうちょっとお酒抜けてから入るからさ」
「あー、そっか。うん、解った。じゃあお先にいただきます……でもさ、その前に」
「何、んっ……!」
 ちゅ、と軽いリップ音。
 思い出したように広がるケーキの味。甘ったるくて、でもちょっと、爽やかで。
「ん、ぅ……っ、は……! んぁ、ぅ、ふっ……ぅ、あ……!」
「っちゅ、ちゅ……は、ふっ……ちゅ、ちゅ……」
 れろ、と舌が絡められる。手に何も持ってなくて良かった。水足そうとしてグラス持ってたら、絶対落としてしまっていたから。
「んん……っ! は、ぁ……っ……」
 いつもに比べればやや短くキスが打ち切られて、目の前で前より背が伸びた晴紀くんがぺろりと唇を舐める。してやったみたいな顔に、私は決して勝てるわけがないのだ。だってもう、この二年ですっかりそういう関係になってしまったのだから。
「じゃ、また後でね」
「……はいはい」
 最後に触れるだけのキスをもう一度残して、晴紀くんはバスルームへと去っていく。そんなに広い家でもないので、すぐにシャワーが床を打つ音が聞こえてきた。
 残された私は火照る顔を仰ぎながら、グラスに何杯目かの水を注ぐ。ぐいっと一気に飲み干しても、顔に集まった熱はなかなか去ってくれそうになかった。



 何をするかなんて解ってる。解らないわけがない。だって私は晴紀くんよりずっとずっと歳上だし、そもそも去年だって……そう、だったんだから。
 風邪を引かないようにしっかり髪を乾かしてから風呂場を出れば、ダイニングから繋がっている寝室の方から明かりが漏れていた。ダイニングの電気を消して、私はゆっくりとドアを開ける。
 本当にどうでもいいことだけど、晴紀くんの家がワンルームじゃなくて良かったな、と私はこの瞬間にいつも思う。だってワンルームだったら、きっと平静を装って食事なんてできない。ここで彼に抱かれたんだな、って、絶対に思い出してしまうから。
「お待たせー」
 だけど部屋が分かれているから、私はこうやって何でもない顔をして寝室に入ることができるのだ。……まあ、入った後もずっとそれを保っていられるかと言われると、答えはNOなんだけれど。
 ベッドに座っていた晴紀くんが顔を上げて、それからスマホをチェストの上に伏せた。ベッドサイドのランプがほどよい明るさで私たちを照らす。さっきまでの、ちょっと調子に乗っているクリスマスパーティーの時間はもうおしまい。ぎゅ、とシャツワンピース型のパジャマを軽く握ってから、私はベッドに腰を下ろした。
 学生の一人暮らしの家にあるベッドだからあんまり丈夫じゃないということもあり、ギシリとフレームが軋む。それでも二人分の重さに耐えられないほどじゃない。晴紀くんはいつもみたいに笑ってみせて、それから私を手招きした。
「お風呂上がりだからぽかぽかだね」
「晴紀くんもあったかいよ」
「冷たいよりはいいでしょ?」
 くつくつと笑って、晴紀くんは私を後ろから抱き締める。前より背が伸びたせいで、私の身体は彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。するりと伸びてきた腕がシートベルトみたいに私を捕まえて、もう逃げられないな、なんて毎度ながらに思う。
「ふふ」
「……なに、晴紀くん」
「ん〜? お姉さんのお腹、ぽこってなってるな〜と思ってさ」
 私よりも大きな手がゆっくりと下腹部を撫でてくる。そこには確かに、平時より膨らんでしまったお腹があった。うぐ。つまめる肉どころの問題ではない。明らかに食べ過ぎなのが見てとれる。
「ちょ……あ、あんま触んないで……」
「なんで? 可愛いよ」
「その手には乗らないから……っ! だってお腹、これ、太って見える……」
「食べた分膨らんでるだけでしょ。ちゃんと食欲あってくれて僕は嬉しいけど?」
 そう言いながらさすさすと私のお腹をさすっていく晴紀くん。そうは言うけれど、流石にこれは自分でも食べ過ぎだと思う。明らかにぼこっと出ているし、今は寝巻きに隠れているからそうでもないかもしれないけど、この後脱いだらきっとパンツがお腹に食い込んでいてたいへんヤバい感じになっているに違いないのだ!
「晴紀くんだってヤでしょ……太ってるの……」
「これくらい太ってるうちに入らないと思うけどなあ……ほら、僕だってちょっとお腹出てるよ?」
「腹筋じゃん!」
 そりゃ確かに食後だなと解るくらいではあったが、私と比べれば絶壁と言っても過言ではないレベルだった。いや普通に代謝がいいんだろうけど。こんなところでも歳の差を感じてちょっと悲しくなる。……私ももうちょっと運動、しようかな……した方がいいよね……。
「……あのさお姉さん。お腹気にしてるお姉さんも可愛いけどさ、僕も流石に据え膳ーって感じなんですが」
「あっ」
「ま、本当に気になるんだったら今日は脱がないでしてもいいけど。……触るよ、お姉さん」
 ちゅ、と耳元でリップ音。
 次の瞬間にはもう、服の下にごつごつした指が滑り込んでいた。
「っ……ぅあ、んんっ……!」
 宣言通りに服は最低限しか捲らないで、晴紀くんの手がショーツに触れる。骨張った指が媚肉を広げ、布越しに陰核に触れてきた。すりすり、すりすり、と、指の腹がそこに熱を集めるように揺れる。
「あ、ぅっ……! んっ、ぁ、はぁっ……!」
「スイッチ入るの早くてかわいーね。お姉さんも期待してた?」
「して……っ、んぁ、ああっ! っふ、は、あ……っ!」
「あはは、どっちか解んないや。ま、いっぱい気持ち良くしたげるね」
 そう言い終えて、晴紀くんははむ、と私の耳を食んでくる。あ、と思うより先に、艶かしい水音が耳腔に響き渡った。くちゅくちゅと溢れる音にどうしたって身体が反応してしまう。けれど逃げ場なんてもう取り上げられてしまっていて、晴紀くんの左腕は確かにしっかりと私のお腹を捕まえていた。
 ぽっこりと膨らんだお腹の上で、広げられた手が圧を掛けてくる。何もガッチリホールドされてるわけでもないというのに、たったそれだけで動けなくなった。そんな私をまさぐるように、右手が引き続き布越しに秘裂を上下する。
「っう、うぅ……あ、っ! んっ、んんっ……! ふ、はぁっ……! んぁ、あっ……! あっ!」
「ん、ちゅっ……は、ちゅ、ちゅっ……んぁ、んぅ……れろ、れろっ……は、ふっ……れろ、れろれろっ……んっ、ぅ、ふ……っ」
「ひ……っ! は、ぅうっ……!」
 ずぽっ、と耳の奥まで舌が捩じ込まれる。唾液を啜る音がダイレクトに響いてきて、まるで頭のてっぺんからつま先まで電流が流れたみたいな感覚を味わった気がした。何回されても慣れないどころか、どんどん敏感になってしまっている。晴紀くんの手や舌で、全身が作り替えられていくみたいな。
「ぢゅっ、ぢゅっ……! んっ、ふ……はあっ、れろ、れろれろっ……んっ、ちゅ、ぢゅっ、ぢゅううっ……!」
「や、ぁあっ……! んぁ、ああっ、あ! ひ、ぅ……っ、んぁ、ああっ、あっ……!」
 声が抑えられない。抑えようと思っても、一秒と経たないうちに口から嬌声が落ちていく。
 抵抗なんて無駄だとばかりに、晴紀くんの指先がピンと陰核を弾いた。いつの間にか勃起してしまっていたそこは当然だけど一等敏感で、たった一瞬の刺激だけで今までの何倍もの快感が私の身体に広がる。
「ん、っ……、……あはっ、お姉さんもう感じてる。つま先ピンッてしちゃってるの、気付いてた?」
「わか、んな……っあ!? ひぅ、あ、あっ……!」
「うっわ、パンツの中ぐっちゃぐちゃ……お風呂入ってきたばっかりなのに、こんなに濡らしちゃうんだ」
 囁くように耳元で告げながら、晴紀くんの指が今度はショーツの中へと突っ込まれた。ぐぱ、と陰唇を左右に広げられて、下着の中で露出したクリトリスに彼の指が引っ掛かる。
 根本からゆっくりと、指の腹で撫でられた。てっぺんまで行って、今度はそこをカリカリと引っ掻かれて。晴紀くんの手が動く度に愛液がにちにちと音を立てて、それだけでもう何も考えられなくなる。
「見えないけど、触っただけで勃起してるのバレバレって感じ。ふふっ、お姉さん? 先っぽすりすりされるの、そんなに気持ちいい?」
「き、もちぃっ……! あ、あっ……!」
 最早抗うことなどできるわけもなく、私は馬鹿正直に頷くしかなかった。歳上のプライドなんてとっくの昔に捨てている。晴紀くんは自分の腕の中でぐずぐずになっていく私を愉しそうに見下ろすと、ぎゅっ、と勢いよくクリトリスをつまんできた。
「んぁッ!?」
「お姉さんの好きなとこ、今からい〜っぱい扱いてあげる。今日はお姉さんにいろいろ準備してもらっちゃったから、今度は僕の番でしょ?」
「や……ッ、それ、それむり……っ! ね、やだ、はるきくっ、やめ、」
「や〜めない♡」
 やめてあげるわけないじゃん、と心の声が聞こえた気がした。
 気がした、じゃなくて、多分、本当に言ってるんだろうな、なんてくだらないことを思いながら、私は与えられた大量の快楽にガクガクと震えてしまう。晴紀くんの指はしっかりと私の陰核を挟んで、そのままぎゅうううっ♡ と、さっきよりも激しい力で潰した。痛みなんてないけれど、許容量オーバーの快感に私は呆気なく一度目の絶頂を迎える。ガクガクと跳ねそうになる腰は彼の左腕でしっかり固定されてしまったせいで、私は快感を逃すことができずに馬鹿みたいに感じて、果ててしまった。

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