水曜日 2023/01/28 16:19

幕間

私、あなたのTシャツになりたい
一緒にどこへでも行けるから
私、あなたのスニーカーに
サングラスに
マニキュアに
口紅になりたい
一緒にどこへでも行けるから
私、あなたの彼氏になりたかった。

 昔授業で書いた詩がファイルの中から出てきた。学校で配られた原稿用紙に書かれている詩は拙く尊い、あの頃のあたしの気持ちが切り抜かれて保存されているから。
 まほちゃんは年上彼氏とうまくいっていたらしいけれど、「今度紹介するね」と言ったきり卒業してそのまま疎遠になった。あの頃のあたしは好きな誰かがあたし以外の誰かを見るのが嫌だったから、疎遠になるしか自分を守る方法がなかったんだと思う。
 馬鹿みたいだ。ボーイッシュにして一人称を俺にしたって、女の子の恋人にはなれないのに。過去の馬鹿なあたしが選択した一人称は未だに抜けず、気を抜けば口をついて出てきてしまう。
 ほとんど片付いた部屋のベッドに横たわると、無性に月子に会いたくなってきた。スマホを開いて、LINEを開いて、月子とのトークを選択する。さっき見つけた詩を書き写して送信。月子はすぐに返信をくれることもあれば数時間後にやっと返してくれることもあるから、期待せず待つ。
『え、いいじゃん。どっか出したりしないの』
 想定していたよりずっと早く返信が来た。文芸部がないから仕方なく漫研に入ったという月子は、漫研のみんなよりずっと文芸に対する姿勢がちゃんとしている。そんな月子に褒められたことが思ったより嬉しくて、ますます月子に会いたくなってしまった。
『そんなにいい?』
『いいよ、凄くいい。あと何編か書くかこの詩をもう少し長くして、大学の公募とか出してみたら? いい線行くんじゃないかな』
『めっちゃ褒めるじゃんありがと、月子がそう言うなら挑戦してみようかな』
『いいじゃん。狙ってんのあるから一緒に出そうよ』
『じゃあ今度一緒に考えて』
 いいよ、という返事を見てからスマホを閉じる。ああ、月子。毎日大学で顔を合わせているのに、もうこんなに恋しい。

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