投稿記事

2021年 12月の記事 (4)

八卦鏡 2021/12/23 12:46

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

八卦鏡 2021/12/15 00:00

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

八卦鏡 2021/12/01 00:00

寮長日記5[幻女3]

ハロウィン電車
夢香は電車に揺られ、山奥の村へと向かっていた。
今日はハロウィンだからか、仮装姿の乗客もいる。
昨夜、突然母親から電話が掛かって来た。
どうやら、遠い親戚の家で不幸があったようだ。
その亡くなった人物の遺言書に、夢香の名前があるらしい。

宵闇宗谷(よいやみ・そうや)

その人物の名前を聞かされても、夢香の記憶にはない人物だった。
母親もその人物と会ったのは、学生の頃の親戚の集まりで一度だけらしい。
かなりの資産家で、老後は山奥に大きな屋敷を構え、暮らしていたようだ。
何故、そんな人物の遺言書に、夢香の名前があるのか。
母親に聞いても、全く心当たりはないらしい。
そして、宵闇宗谷には三人の子供がいるようだ。

長男:宵闇聡志(よいやみ・さとし)
次男:宵闇健吾(よいやみ・けんご)
長女:宵闇真澄(よいやみ・ますみ)

全員各地に散っているが、本日屋敷に集まるらしい。
そこに、夢香も参加して欲しいとの事だった。
正直、夢香は全く乗り気ではなかった。
しかし、母親に促され、仕方なく寮に事情を話し外出許可を取った。
そして、早朝に学生寮を出て、屋敷に向かう事になった。

宵闇家の屋敷
電車を乗り継ぎ、スマホのナビを片手にようやく目的地に到着した。

夢香「ここが、宵闇家の屋敷」

まるで、映画に登場するような巨大な正門に、夢香は圧倒された。
その正門の前には、高級車が数台止まっている。
どのような服装をすればいいのか分からず、夢香は学生服で参加する。
夢香は、少し緊張した面持ちで正門へと進む。
正門には、黒い背広姿の白髪の老人が立っていた。

宵闇家の一族
夢香は白髪の老人に案内され、屋鋪の奥の部屋へと通された。
そこは、まるで旅館の宴会場のような、とても広い和室だった。
その部屋の奥には、木製の荘厳な棺桶が置いてある。
その棺の前に、三人の人物が座っている。

白髪の老人「赤沼夢香様が、ご到着されました」

白髪の老人がそう告げると、その三人が夢香の方に振り返る。
まるで、夢香を値踏みするような視線が、とても不快だった。

聡志「初めまして」
聡志「わざわざ、こんな山奥までお越し頂き有り難うございます」
聡志「私は宵闇聡志と申します」

聡明そうな顔つきの中年男性が、夢香に頭を下げる。

健吾「へえ、本当に実在する人物だったんだね!」
健吾「てっきり、父さんの空想の人物かと思っていたよ!」
健吾「僕は宵闇健吾、よろしくね!」

小太りの若い男が、ニコニコしながら夢香を興味深そうに見詰める。

真澄「健吾、あなたさらりと失礼な事を言っているわよ」

落ち着いた雰囲気の若い女性が、健吾の発言を諫める。

真澄「私は宵闇真澄よ」
真澄「悪気はないんだけど、バカな弟が失礼な事を言ってごめんなさいね」

健吾「可愛い弟にバカは酷いなぁ、姉さん!」

白髪の老人「では、皆様お揃いのようですので、始めさせて頂きます」

白髪の老人はそう言うと、棺桶の前に正座した。
外見は執事のような人物だが、この白髪の老人は何者なのだろうか。

刈谷幻蔵(かりや・げんぞう)

白髪の老人はそう名乗り、自分は弁護士だと告げた。

白髪の老人「こちらが、宵闇宗谷様の公正証書遺言の正本でございます」

そう言うと、幻蔵は白い表紙の本を置いた。

幻蔵「この正本にて、私は遺言執行者の指定を受けております」
幻蔵「では、遺言の内容を朗読させて頂きます。」

幻蔵は、公正証書遺言の正本の内容の朗読を始める。
宗谷の財産の子供達への分配に関して、詳細に指定されている。
そして、最後に赤沼夢香の名前が登場する。

幻蔵「赤沼夢香に箱を相続させる」
幻蔵「尚、箱は相続が完了した赤沼夢香のみに開閉の権利がある」
幻蔵「もし、赤沼夢香の死亡や相続放棄で箱の相続が行われない場合」
幻蔵「私の全ての財産は、村へと寄付される」

夢香「………………………………」

えっ、何それ?
それが、遺言の内容を聞いた夢香の素直な感想だった。

幻蔵「以上が、公正証書遺言の正本の内容でございます」
幻蔵「何か質問がある方はおられますかな?」

当然、夢香はすぐに挙手をする。

幻蔵「では、赤沼夢香様」

夢香「あの、箱って何ですか?」

幻蔵「こちらが、箱でございます」

幻蔵は横の木製の台のベールを外す。
そこには、黄色がかった独特の金属の箱が乗っている。
箱の表面には、薄浮き彫りの象形文字が刻まれている。
夢香の瞳は、その箱から溢れ出る凄まじい魔力を捉える。
間違いなく、アーティファクトと呼ばれる魔法の物品だ。
しかし、一般の人間には、ただの骨董品の箱にしか見えない。

夢香「箱の中身は何ですか?」

幻蔵「残念ですが、現時点でこの箱の中身を確認する方法はございません」

夢香「………………………………」
夢香「…中身が分からない箱を相続しろと言われても…正直困ります…」

聡志「いや、全くその通りだと思います」

この流れを予想していたのか、聡志が口を開いた。

健吾「どうせ、父さんのいつもの冗談だろ?」
健吾「まさか、遺言にまで仕込んで来るとは思わなかったよ」

健吾も何か納得した顔で口を開く。

真澄「まさか、遠縁の娘さんを巻き込むなんて」
真澄「ちょっと、度が過ぎてると思うわ」

真澄も口を揃える。
理解できない話の流れに、夢香は顔は困惑する。

聡志「父は生前から冗談が好きな人間でして」
聡志「今回の遺言書も、その可能性があります」
聡志「幻蔵さん、ここから遺族の話し合いに入ってよろしですか?」

幻蔵「はい、構いませんよ」

幻蔵は、夢香の前に箱を持って来る。

聡志「この箱の中身ですが、三つの可能性が考えられます」

夢香「三つの可能性ですか?」

聡志「そうです」
聡志「一つ目は、夢香さんに利益があるものです」

夢香「利益があるもの?」

聡志「そうです、例えば貴金属や貨幣証券です」
聡志「その場合、それに対し我々三人は不服申し立てをしません」

その誓約が書かれた紙を、聡志は畳の上に置く。
三人分の実印が押してあり、初めから用意していたのだろう。

健吾「その箱の中に、一億円の価値の宝石が入ってるかもよ?」

真澄「冗談に巻き込んでしまったお詫びとして、現金かもしれないわね」

聡志「二つ目は、夢香さんに不利益なものです」

夢香「不利益なもの?」

聡志「そうです、例えば約束手形や借用証書です」
聡志「その場合、父の負債は全て我々三人が相続します」

その誓約が書かれた紙を、聡志は一枚目の誓約書の上に重ねる。

健吾「父さんの借金を、君は払う必要はないって事だね」

真澄「こちらの調べた限りでは、借金はないみたいだけど」

聡志「三つ目は、夢香さんに何もないものです」

夢香「何もないもの?」

聡志「そうです、例えばガラクタや中身が空っぽの場合です」
聡志「その場合、その箱を一千万円で我々三人が買い取ります」

その誓約が書かれた紙を、聡志は二枚目の誓約書の上に重ねる。

夢香「えっ?」
夢香「この箱に、そんな価値があるんですか?」

普通の人間には、この箱はただの骨董品にしか見えないはずだ。

健吾「いわゆる、父さんの冗談につき合わせた迷惑料だよ」

真澄「屋敷まで呼び出して、箱渡してさよならはできないわ」

聡志「中身が何にしろ、望むならその箱を一千万円で買い取ります」

夢香「………………………………」

有無を言わせぬ提言の内容だ。
もし、夢香が相続放棄をすれば、全ての財産が村に寄付されてしまう。
この三人が、夢香の箱の相続に、必死になるのも当然だろう。
夢香は相続放棄で手ぶらで帰りたいが、そうも行きそうにない空気だ。
しかし、アーティファクトを相続してどうする。
夢香の脳裏に一番最初に浮かんだのは、寮長に見せて相談する事だった。

夢香「…分かりました…」
夢香「その箱を相続します」

夢香がそう告げると、三人が安堵の顔になり、笑みを浮かべた。

聡志「有り難う、感謝します!」

健吾「今回の父さんの冗談は、レベル高すぎだよ!」

真澄「夢香さん次第では、大揉めするかもって心配してたのよ!」

箱の相続
幻蔵「それでは、この箱の赤沼夢香様への相続手続きを行います」

幻像は、赤沼夢香の箱の相続の手続きを粛々と行う。
夢香は持参していた印鑑証明書を渡し、実印を押す。

幻蔵「これで、箱の相続の手続きは完了しました」
幻蔵「この箱の所有者は、赤沼夢香様になりました」

三人の視線が箱へと集まる。
やはり、三人とも箱の中身は気になるようだ。

夢香「箱を開けても大丈夫でしょうか?」

幻蔵「はい、その箱の所有者は赤沼夢香様です」

夢香「………………………………」

夢香は象形文字が刻まれた黄色い金属の蓋を開いた。
箱の中には、赤黒い水晶のような石が入っていた。
その石は、奇妙な七つの支柱に支えられている。

聡志「ふむ、箱の中身は黒い石でしたか」

健吾「てか、これ黒曜石じゃないの?」

真澄「鑑定してもらう必要があるわね」

三人は、拍子抜けしたような感想を漏らした。
どんな、ユーモアの効いた物品が入っているのか?
三人はそんな期待をしていたのだ。
しかし、夢香だけは戦慄していた。
この赤黒い石が、凄まじい魔力を放出しているからだ。

夢香「この石は…」

夢香が言葉を発しようとした瞬間。
部屋全体が暗闇に包まれる。

聡志「なっ、何だ?」

健吾「てっ、停電?」

真澄「ひっ、昼よ?」

暗闇の中で慌てる三人の声がする。
夢香の瞳は、暗闇の中のおぞましい存在を捉える。
三つに分かれた赤い目が暗闇に浮かぶ。
それは、巨大な蝙蝠のような不気味な怪物だった。
怪物の腹部には、縦に裂けた巨大な口がある。
その口が大きく開くと、赤黒い舌がくねり出た。
舌は聡志と健吾を絡め取ると、口の中へと引き込まれた。

聡志「ぐわぁあああ!」

健吾「うがぁあああ!」

二人の悲鳴が、怪物の腹の中に消え去った。
怪物の口から、だらだらと黄色い液体が垂れ落ち、畳を染める。
恐怖で硬直する真澄の身体を、赤黒い舌がべろりと舐め上げる。
その唾液で、真澄の衣服が燃えるように綺麗に溶けて消える。

真澄「きゃああああ!」

瞬時に全裸にされた真澄は、悲鳴を上げ背を向け逃げ出す。
その真澄の裸体を、赤黒い舌が高く持ち上げる。

真澄「ひぃいいいい!」

恐怖でもがく真澄の頭部に、怪物の頭部の口が噛み付く。
そして、真澄の頭部からじゅるじゅると、脳みそを吸われる音が響く。
びくびくと痙攣する真澄の肉と骨が、ドロドロと溶けてゆく。
その下の畳に、黄色い液体が広がる。
夢香はハッとして、箱の蓋を閉じた。
すると、暗闇は消え去り、明るい和室の風景に戻った。
畳には、赤色の血ではなく、黄色い液体が広がっていた。
僅かな時間で、三人の人間の命が消え去った。

夢香「………………………………」

夢香は言葉が出なかった。
一体、何が起きたというのだ。
夢香は、もう一人の生存者の幻蔵の顔を見た。
幻蔵は穏やかな笑みを浮かべ、夢香を見詰めている。
この笑顔を、夢香はどこかで見た気がした。
突然、部屋の奥の棺桶がガタガタと揺れた。

夢香「えっ?」

畳の床の黄色い液体が、棺桶の中へと流れ込んでいる。
そして、棺桶の蓋が弾き飛ばされ、中から何かが姿を現す。
それは、大きく膨張した人型の肉の塊だった。

肉塊「ふっははははは!」
肉塊「私は生き返ったぞ!」

その肉塊は、上下にずれた目で夢香を見た。

肉塊「お前がこの儀式を完成させたのか?」

夢香「いっ、一体何の事ですか?」

幻蔵「自分の子供を生贄にして、蘇生の儀式を行ったのです」

夢香「えっ?」

戸惑う夢香に、幻蔵が落ち着いた口調で説明する。

肉塊「本当に、その箱を制御できる人間がいるとはな!」
肉塊「今後も、私の目的の為に、協力してもらうぞ!」

その肉塊は、耳元まで割けた口で不気味に笑う。

幻蔵「残念ですが、それは叶わぬ事でございます」

肉塊「それは、どういう意味だ!」

幻蔵「その肉体は、後10分ほどで崩れ去ります」

肉塊「なっ、何だと?」
肉塊「わっ、私を騙したな!」

幻蔵「騙した?」
幻蔵「ちゃんと、蘇生したではないですか」
幻蔵「ただ、その寿命が10分なだけです」

肉塊「うおおおおおおおお!」

肉塊は顔を怒りに歪め、夢香に突進して来る。

夢香「ひっ!」

幻蔵「その箱を、もう一度開いてください」

幻蔵が優しい声で、夢香の耳元で囁く。
夢香は恐怖心から、反射的に箱の蓋を開く。
その部屋は、再び暗闇に包まれる。

肉塊「うごおおおおおおお!」

再び現れた怪物が、怒りの形相の肉塊を飲み込む。
そして、床に黄色い液体が残される。
三つに分かれた赤い瞳が、夢香を見詰める。

夢香「うっ!」

夢香は後ずさりをする。

幻蔵「心配はございません」
幻蔵「アレはあなたを襲いません」
幻蔵「アレもまた私なのですから」

夢香「えっ?」

夢香は箱の蓋を閉じた。
まるで、箱の中に封印されるように、暗闇が消え去った。

パチパチパチパチ

突然、拍手の音が響いた。
夢香は隣の幻蔵に視線を向けた。
しかし、そこに白髪の老人の姿はなかった。
そこには、黒いスーツに浅黒い肌の黒髪の男がいた。
夢香はその男に見覚えがあった。
幼少の頃、夕暮れの公園の記憶が鮮やかに蘇る。

謎の男「素晴らしい!」
謎の男「その箱は、持つべき者が持つべきだ」

パチパチパチパチ

謎の男は再び拍手をした。
謎の男の顔は、とても優しげだった。

夢香「あなたは、誰なんですか?」

謎の男「私が誰かはとても些細な事だ」
謎の男「この場所で起きた、他の出来事も全てだ」
謎の男「今日のもっとも重要な出来事」
謎の男「それは、君がその箱の所有者になった事だ」

そう言い残すと、謎の男は霧が晴れるように消え去った。
広い和室の部屋に、夢香だけが残された。
この部屋で起きた惨劇など、微塵も感じさせない静寂。
夢香は箱を持ったまま、膝から崩れ落ちた。
普通の人間として、普通に生活したかった。
だから、自分の瞳の力を隠し続けた。
なのに、どうしてこんな事になってしまうのか。

夢香「うあああああああああああ!」

夢香は、誰もいない和室で叫び声を上げた。
寮長日記5[幻女4]

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

八卦鏡 2021/12/01 00:00

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索