ヒロイン工学研究所 2019/01/13 21:01

『四葉の戦姫 クローバーローゼ』感想

こえだ商店」さんのヒロピン漫画『四葉の戦姫 クローバーローゼ』の感想をヒロピンの考察もかねてまとめてみました。

正面から挑む姿勢に感服

この作品の存在を知ったときにまず最初に注目したのが、「ヒロピン漫画」「ソフトリョナ作品」とはっきり銘打っていることでした。
※ヒロピンやリョナについてはこちらの記事を参照して下さい。

私もそっち系が専門なのでときどきそのことを感じますが、「ヒロピン」や「ソフトリョナ」といったジャンルは、シーンの雰囲気作りや微妙なニュアンスが重要な世界であり、わかりやすいエロ表現や過激な暴力表現のインパクトで関心を引けない分だけ、商品としてはやや玄人向けなところがあります。またピンチの魅力は、ダメージシーンなどの演出のみによって生まれるのではなく、キャラやストーリーといった土台があってこそ成立する総合的なものなので、制作者側にもそこを構築できるだけの総合的な実力が求められます。

それだけに、サークル第一作目となる作品に付けられた「王道変身ヒロインヒロピン漫画!!」というキャッチコピーはなかなか挑戦的な感じがしました。

「王道」と「ヒロピン」はどちらも基礎力と総合力が重要になる分野なので、二重にハードルが高いわけです。

しかし、サンプル画像を見てもわかるように、作風には奇をてらったところも過度なデフォルメもありません。演出もタッチも全年齢向けの作品でも十分通用するような、まさに正攻法のもので、二重に高いハードルに正面から挑んでいる感じがしました。

「うーん、これは実力があるからこそ出来る挑戦だな」

というのが最初にこの作品を目にしたときの印象でした。


構成力あってこその「王道」と「ヒロピン」

「とんでもなく奇抜な脚本では拙さを大目に見てもらえるので、下手にキレイに整えるよりも、尖ったところを武器にしろ」

といったアドバイスをベテランの人から聞いたことがありますが、王道作品というのはまさにその逆であって、奇抜さがない分だけ堅実な上手さが必要とされます。

この作品を読み始めてすぐに感じたのは、
「あっ、これはデキる人の作品だから大丈夫だ」
という安心感でした。序盤からもう構成がしっかりした作品であることが伝わってくるんです。

例えば、「普通の女の子がどうして正義のために戦う変身ヒロインになったのか?」というヒロイン誕生秘話の部分などは、どうしても説明のために尺を取ってしまって、下手をすると短編作品では特に重要となるテンポとバランスがそれが原因で損なわれてしまうなんてことになりがちなのですが、この作品ではそこをたったの2ページでしっかり伝わるように描いています。決して特筆するような描き方がなされているわけではありませんが、手際の良さが感じられます。私はこういうのをさり気なくコンパクトにまとめるのが苦手なので見習いたいです。

また、バトルが始まってからもバトルシーン一辺倒にならず、待ち合わせ場所に現れないヒロインのことを親友が心配するシーンが何度か挿入され、場面転換ごとにピンチのステージが変わっていくという省略のテクニックが効果的に使われています。

ヒロピン作品の難しさは単にやられシーンを羅列するだけでは十分な昂奮が生まれないところにあります。そこでこのジャンルでは特に、巧みな構成によってストーリーを魅せていく手腕が重要になってくるのですが、まさにこの点が非常にしっかりと出来ているのがこの作品の特徴です。

同人作品は商業系作品に比べると、「自分はこれが描きたい!」という熱量がものを言う世界であり、そこがまた商業系にはない個性的でエネルギッシュな作品が生み出される良いところなのですが、それが先行しすぎると、作品を一歩引いたところから冷静に眺めて構成を練るといった地味な作業が疎かになることもよく起こります。

同人作品で「王道」と「ヒロピン」をやろうとするときの最大のネックは、「構成力が特に必要とされる分野なのに構成が疎かになりがち」なところにあるんじゃないかと前々から考えていましたが、この作品はその課題を難なくクリアしている感じがすぐに伝わってきたので、安心して作品世界に入ることができました。


「物足りない」ではなく「もっと見たい」

「ヒロピン」「ソフトリョナ」と明記されている通り、この作品には「陵○」に当たるような過度な性的表現も、一般に「リョナ」と呼ばれるようなハードな暴力表現もありません。むしろそういった要素無しでも楽しめるように作られた作品と言った方が良いと思います。

この作品を読んで素直に感じたのは「もっと見たい」でした。内容や描写があっさりしすぎているから「物足りない」と感じたのではなく、このテイストで描かれた新しいエピソードが早く読みたい思いました。特に、最後に加わった新ヒロインが次回作でどんな目に遭うのかとても楽しみで、今から待ち遠しいです。

そうした「次回作への期待」が自然に生まれるのもまた、ヒロピンを盛り上げるための必須の条件であるストーリー構成とキャラ立てがしっかりしていることの賜物だと思います。

こういった作品が立派な先例として生まれたことによって、「過激な性的表現や暴力シーンに頼らなくても、ヒロピンだけで人を興奮させることができる」ことが証明されたと思うので、類似ジャンルを目指している者としてはとても心強く感じました。ただ、それと同時に「ヒロピンだけで魅せるためには何が必要なのか」という問題をあらためて考えさせられる結果にもなったので、そのことについては出来ればまた別の機会にまとめて書きたいと思います。

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