ヒロイン工学研究所 2023/11/08 21:12

【座談会1_2】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 2回目

【マスター】
では前回の続きで、「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」について話し合いたいと思います。前回のポイントを簡単にまとめると、
・ヒロピンへの予感そのものが興奮となる
・ヒロピン性の興奮には不安と期待が混在している
・優勢に見える状況の中に違和感が存在し、その違和感が逆転負けを予感させる
ということでした。
そこで今回はその違和感というポイントからテーマを掘り下げていこうと思います。

【ブレーン】
ここで問題にしている違和感というのは逆転負けの予感に繋がる違和感なので、逆転負けのパターンから逆に考えて行ったらいいと思います。

【マスター】
はい。前回あげていただいた逆転負けのパターンは、
・これからヒロインが失速or弱体化する
・実は敵の方が強いという
・ヒロインたちが予想していない介入がある
でしたね。

【ブレーン】
それぞれのパターンに対応する典型的な違和感の例をあげるならば、「優勢なのにヒロインorヒロインの仲間の表情が険しい」、「劣勢なはずなのに敵に余裕がある」、「何かの暗躍を示唆する描写が入る」などがあげられますが、例えば「偉大な賢者や勘が優れた子供が不安な表情をしている」などの描写はどのパターンでも通用します。

【トリック】
天候が悪いなんてのも汎用性が高い違和感演出だよね。違和感というのは何らかの食い違いだから、ヒロイン優勢というポジティブなシーンの雰囲気とは食い違う、水を差すような要素が何かあるだけで違和感は生まれ、それがすぐに不吉な予兆になる。現実ならば良いシーンなのに空が曇ってくることぐらい当たり前にあることだけど、創作の世界でそれが起きる場合は必ず意図的なわけで、だからそれが「これから悪いことが起きます」というサインになる。

【マスター】
わかりやすい例として表情に着目した場合、ヒロイン優勢のシーンの本来あるべき描写というのは、「ヒロイン側:ポジティブな表情/敵側:ネガティブな表情」なので、ヒロイン側がネガティブな表情だったり、敵側がポジティブな表情だったりするだけで不協和が生まれて、それが不安感を生むということですね。

【ブレーン】
違和感を発生させる組み合わせとして、
A:「ヒロイン側:ネガティブな表情/敵側:ネガティブな表情」
B:「ヒロイン側:ネガティブな表情/敵側:ポジティブな表情」
C:「ヒロイン側:ポジティブな表情/敵側:ポジティブな表情」
という分け方が出来ますね。

【マスター】
Aはヒロインがこれから劣勢に転落することをヒロイン側だけが知っている状況で、Bはそのことを敵も見透かしている状況ですね。Cは敵はそれを見通しているけど、ヒロインがわかっていない状況ですね。「実は敵が真の実力を隠している」なんてパターンは大体Cですね。

【トリック】
要は「わかってる奴」と「わかってない奴」がその場でどういう割り振りになっているかだ。武道大会の観衆みたいな存在は大体こういうときは「わかってない奴」の代表として描かれる。いかにもわかってない感じの連中が勝った気になって騒げば、逆説的に不穏な空気が高まる。一方で、さっきブレーンさんが言ってた賢者とか勘のいい子供とかは「わかってる奴」の代表だ。そういう暗黙の了解があるとサインが出しやすくなる。

【マスター】
ヒロイン自身がこれからピンチになることをわかっているケースとわかっていないケースではヒロピンの趣が違うと言えるのではないですか?

【ブレーン】
ヒロインに自覚と焦燥感があるのなら心理的な意味ではすでにヒロピン状況に入っていることになるのかもしれません。ヒロインがわかっていない場合、観客は読者優位(※1)の立場からこれから現実を突きつけられてショックを受けるヒロインの姿を想像するわけです。そこに興奮が生まれるのなら、前者はマゾヒズム的、後者はサディズム的な性格があると言えるかもしれません。

【トリック】
「ヒロインがこれから転落することを予感して優勢なのに焦り始めている」という状況にはたしかにマゾヒズム要素を感じるね。「運転中にガソリンメーターがどんどん減っていくのを見ると焦燥感で興奮してしまう」というマゾの人の告白を聞いたことがあるけど、ちょうどそんな感じがする。

【ブレーン】
失速や弱体化を予感させる違和感演出としては、例えば「汗をかき始めている」とか「呼吸が乱れ始めている」とかがあげられますね。ヒロインじゃありませんが「DRAGON BALL」の悟空対人造人間19号の戦いでそういった描写があります。

【トリック】
前回言った「慢心」にも通じることだけど、特に周囲は優勢であることに安心して、そういうところを過小評価して無視してしまうんだよね。場の雰囲気がそういう「いけない方向」に流れちゃってる感じもジワジワした不安を生むんだ。

【マスター】
「失速する」というのは裏返して考えると「無理をしている」という解釈もできますよね。また周囲がヒロインに現れている不安要素を無視して「勝てる」と思い込んでいる状況は、ヒロインに対して「過大な評価や期待」をもっているということもできます。

【トリック】
それはとても重要なポイントだね。もしかするとヒロピンマゾヒズムの本質的な部分かもしれない。過大な評価や期待を背負って戦うヒロインには当然自負心と同時にプレッシャーもあるわけだよ。「強いヒロインとしてのイメージ」と「弱い部分が露呈してしまう可能性」とがせめぎ合う緊張感と不安の上にヒロピンのマゾヒズムは成立するんだ。

【ブレーン】
緊張感と不安というのは架空の存在であるヒロインのものですか、それとも現実の存在である読者や観客のものですか?

【トリック】
ヒロインに感情移入するヒロピン愛好者の中ではそこが曖昧になって混じり合っていることが多い。そこが面白いところで、ヒロピン嗜好というのはそういう意味では精神的なんだ。

【マスター】
つまり「優勢なのに不穏」という状況は、優勢であることによって「強いヒロインとしてのイメージ」が強化される一方で、「実はこれからピンチになる」という予感によって「弱い部分が露呈してしまう可能性」も増大し、ヒロピン性の興奮にとって重要となる緊張と不安を生み出す相克が高まるということですね。

【ブレーン】
それはヒロインが転落を予感している場合のマゾヒズム的興奮のケースですね。自分が優勢であると信じているヒロインがこれから逆転負けする予感に興奮するサディズム的な側面から言えば、「優勢なのに不穏」という状況が魅力的に映る理由は、誤った状況判断をしているヒロインの自信が一気に崩壊する落差に求められるのではないでしょうか?

【トリック】
「この自信満々な態度がこれからどんどん崩されていくと思うとゾクゾクするぜ」というサディズム…さっきの分類で言うとCの関係だね。

【マスター】
なるほど。「優勢なのに不穏」という状況をさらに細分化すると、それぞれサディズム的側面、マゾヒズム的側面が見えてくるというわけですね。
では今回はここまでとして、次回は今までの議論を踏まえて具体的な演出について話し合ってみたいと思います。


※1:読者優位
例えば暗殺者がセールスマンに変装して主人公の家を訪れた場合、主人公に危機が迫っているという事実を主人公は知らないが読者や観客は知っている。このような状況を読者優位または観客優位と呼ぶ。また、このような状況やそれがもつ効果を「劇的アイロニー」とも呼ぶ。ちなみにキャラクターは知っているが、読者や観客には明かされていないという状況はキャラクター優位などと呼ばれる。


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