ヒロイン工学研究所 2023/11/11 21:06

【座談会1_3】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 3回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の三回目を始めたいと思います。前回のポイントを簡単にまとめると、
・ヒロイン優勢のあるべき光景とは違うあらゆるもの(例:天候の悪化)が作者によって挿入された意図的な不安材料として認識され、ピンチの到来を予感させる
・優勢に見える状況に潜在する転落の可能性について「わかっている奴」と「わかっていない奴」の役割がそのシーンでどのように割り振られているかによって状況を類型化できる
・ヒロインがわかっているかわかっていないかによってヒロピンの味わいが変わる
・ヒロインがわかっている場合にはマゾヒズム的な性格が、ヒロインがわかっていない場合にはサディズム的な性格が、ヒロピン性興奮の特徴になりやすい
といったことでした。
こうしたポイントを踏まえた上で、今回は具体的な演出について考えてみたいと思います。

【トリック】
演出というのは伝えたいことの大事なところをちゃんと観客に伝えるための工夫だから、小手先のテクニック以前にその肝の部分が何なのかを突き詰める必要がある。類似作品の演出を真似しても、肝の部分が全然違っていたら上滑りした感じになってしまう。

【ブレーン】
ヒロピン性の興奮の元になる緊張や不安は「栄光の勝利」と「無残な敗北」の両極端のヴィジョンの相克から生まれるわけですから、その相克を激しくしたり、印象付けることが演出の基本方針になると思います。

【マスター】
いや、待って下さい。相克が基礎にある点は間違ってはいないと思うのですが、例えば相克を単純に激烈化してしまうとその後に続くはずのピンチシーンと区別が曖昧になり、予兆的なシーン固有の魅力が失われてしまうのではないでしょうか?

【トリック】
恋愛に当てはめて、エスカレートしていくピンチを本番、ピンチ状況に入っていく過程を前戯だとしたら、予兆的なシーンはムード作りみたいなものだよね。そういう直接的な刺激は弱いけどベースになる雰囲気を醸成していくようなシーンを大切にするところがヒロピン趣味の奥深いところなんだ。

【ブレーン】
明確なピンチシーンとの大きな違いは優勢シーンにおいては相克の一方である「強いヒロイン」のイメージが少なくとも表面上は強く打ち出されているところですね。

【トリック】
そう、そこが重要。少なくとも外観やイメージのレベルではまったく揺らいでいない「強いヒロイン」の姿と不吉さの混合。この対比の妙はこの段階でしか得られないからそこを大事にしないといけない。デート中の食事がそれ自体全然エロい行為じゃないのにそこにエロスが醸成されて次の段階を準備するみたいなやつ。

【マスター】
ちょっと違うかもしれませんが、その話を聞いて私はある怪談を思い出しました。体験者は当時子供で、一人でお留守番をして不安な気持ちになっていると母親が帰ってくるのですが、その母親は外見はまったくの母親なのにその子は本能的に「これはママじゃない」ということがわかって恐怖を感じるという話です。

【トリック】
恋愛の例とは全然違うけど、それも何かわかる。いや、むしろそっちの方が良い例かもしれない。安心を与えてくれるはずの外観がむしろ不安を生み出す奇妙な感じだよね。

【ブレーン】
ヒロイン工学研究所が過去に実施したアンケートの結果の中に、ヒロピン嗜好の多くは思春期前の幼児期にすでに形成されてていることを示唆するデータがあります。ヒロピン性の興奮には不安が混在していることが重要であると前にトリックさんが仰っていましたが、安心と不安が相互転換しやすい児童心理と深い関係があるのかもしれません。

【マスター】
そのテーマはとても興味深いですが、少し脱線気味なので話を元に戻しましょう。
つまり「優勢に見える」という状況を通して「強いヒロイン」のイメージを表面的に強調しておきながら、本来なら安心材料となるべきその光景が逆に不安感を誘発するような感じに演出すればいいのですね。

【ブレーン】
それならば、詐欺師が自分を信用させようとすることで逆に胡散臭い人間に見えてしまう現象を参考にしてはどうでしょうか?
このような逆説的な効果を生む原因は主に、
・過剰性が不自然さを生む
・情報や理論の誤りまたは不整合
・決定的となる証拠の不在
などがあげられます。

【トリック】
過剰性が不自然さを生むというのはわかりやすいね。ただでさえ優勢な状況なのに、そこに試合実況者が「もはや相手は防戦一方!○○選手の勝利はほぼ決まったも同然だぁ!」なんて言ったら、現実では不自然じゃないけど、創作においてはくどくなってしまうので、明らかに不自然で、意図的に挿入された過剰要素だとみなされる。本当にそのまま勝つ展開になるのならわざわざ入れない台詞が入ることで逆に「そうはならない」というサインになりますね。

【ブレーン】
示した内容と逆の状況が実現する…「逆説(または逆接)フラグ」とか「自己否定的フラグ」とか呼べそうですね。

【マスター】
情報や理論の誤りまたは不整合というのはこの場合どういうことになるのでしょうか?

【ブレーン】
「Aという攻撃をすればBという結果になり、戦況が優勢になる」というヒロイン側のロジックを実行した結果、確かに優勢になったようには見えるのだけれどBという変化は確認されていないというケースはどうでしょう。

【マスター】
「奴は空気中の水蒸気を氷の刃に変えて攻撃する氷属性の能力者だから火炎魔法が効くはず」というロジックで行動して、実際にダメージを与えることができたのだけど、なぜか氷の刃だと思っていたものが溶けていない…みたいな感じでしょうかね。

【トリック】
実は状況分析に失敗しているのに、表面上は上手くいっているように見えるから、そのことを不問に付しちゃう感じだね。前に言った、ポジティブ面を過大評価してネガティブ面を過小評価してしまう一種の慢心が表現できるかもしれない。

【ブレーン】
決定的証拠の不在というのは状況証拠や間接的な証拠はやたらにそろっているのにその割には本当に優勢であると確信できるような明確な証拠だけがない状態がそれに当たるのではないでしょうか。

【マスター】
ボクシングのテレビ中継などでも番組が応援している日本人のボクサーが外国人の対戦相手にたくさんパンチを打ち込んでいると、実況が「攻めます!攻めます!」とか優勢ムードを演出するけど、プロ目線で見ると実は全部完全にブロックされていて、特にポイントにも加算されていないという状況がありますね。素人目に優勢に見えるだけの状況で盛り上がっちゃうみたいな。

【トリック】
不確かなポジティブ要素をとにかく集めて過大評価することで明確なポジティブ要素がもう得られたかのような気分になっちゃうわけだから「いけない流れ」に乗っちゃってる感じがするよね。別に敵が仕掛けたわけじゃない場合でも、まるでヒロインが罠にはまっていっちゃう不穏感みたいなのがワクワクにつながるのかもしれない。

【マスター】
なるほど、「不穏感=いけない流れに乗っちゃってる感じ=罠にはまっているような状態」と解釈すると、よりニュアンスが理解しやすくなりますね。

【ブレーン】
その罠というのは、心理学で言う「確証バイアス」に当たると思います。「優勢なのに不穏」という状況は登場人物たちが確証バイアスの罠に陥っているところを読者が客観視している状態とも言えます。

【マスター】
認知バイアスという観点からピンチを考えるのはそれ自体一つのテーマになると思うので、また別の機会に話し合いましょう。
では今回はここまでとして、次回はまだ論じていない他の側面についても話し合っていきたいと思います。

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「仮想ヒロピン座談会」は議論を豊富化しさらに掘り下げていくためにコメント欄にてご意見・ご質問を募集しております。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といったリクエストなどもありましたら是非お寄せ下さい。検討いたします。

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