ヒロイン工学研究所 2023/11/15 21:00

【座談会1_4】ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気

仮想ヒロピン座談会とは


「仮想ヒロピン座談会」とは、ヒロピンに関するテーマを掘り下げるために開かれた仮想の座談会で、管理人がAIとやり取りしながら進めた考察をマスター、ブレーン、トリックという架空の三者による座談会形式にまとめたものです。
仮想ヒロピン座談会の目的はヒロピンに関する議論をコンテンツ化することで、それを呼び水として読者から質問や意見を募集し、さらにテーマを掘り下げ、議論を豊富にしていくフォーラム的な場を作ることにあります。議題となっているテーマについて関心や質問がある方は是非コメント欄にご意見をお寄せ下さい。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といった提案も募集しております。

議題:ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気 4回目

【マスター】
それでは「ヒロインが優勢なのに漂う不穏な空気」をテーマにした座談会の四回目を始めたいと思います。前回のポイントを簡単にまとめると、
・「優勢なのに不穏」という状況のヒロピン的な魅力は「優勢」というポジティブな側面を表面的に強調することによって逆説的に転落を予感させるところにある
・ポジティブ要素によって逆説的に不安感を生む方法としては、「ポジティブ面を過剰にアピールをする」、「ネガティブ面の過小評価やポジティブ面の過大評価など確証バイアス的な判断をする」などがあげられる
といったことでした。
今回はまだ深掘りしていない読者優位(※1)におけるサディズム的性格について話し合いたいと思います。
二回目の座談会で話題にあがりましたが、優勢なのに不穏な状況において、「ヒロインが自分が優勢であることを信じてこれから転落する予感を感じていない」というケースでは、読者側で正しく感知している転落の可能性をヒロインが理解していないという読者優位の状況が発生しています。こうした状況におけるヒロピン性の興奮には、「この自信満々のヒロインがこれから一気に転落する状況を想像して期待を募らせる」という意味でサディズム的な性格があるのではないかとトリックさんは仰っていましたよね。

【トリック】
サディズムかマゾヒズムかという問題は結構微妙で、容易に相互に転換しちゃうところがあるので、厳密にはあまり断言できないのだけれど、一応ここではそれをサディズムと呼んでおこうと思う。自信満々のヒロインに感情移入しながら転落を予感して興奮する…というのは無理なので、やはりこの関係性ではマゾヒズムは発生しにくい気がする。

【ブレーン】
その場にいる子供などのヒロインを応援する第三者が不安を覚えていた場合、その子供に感情移入して不安を興奮に転換するマゾヒズムというのは可能なんじゃないですか?

【マスター】
たしかにそうかもしれませんが、それは今回扱わないことにしましょう。「ヒロインの不安に感情移入するマゾヒズムとヒロインサイドの傍観者に感情移入するマゾヒズムは果たして同じものとして扱っていいのか?」という問題はそれ自体凄く大きなテーマとなると思うので、別の機会に譲ることにしましょう。

【ブレーン】
これまでの議論をまとめると、「優勢なのに不穏」という状況のマゾヒズムは、表面的な優勢と内面的な転落の不安によって、「強いヒロイン」と「転落したヒロイン」というヒロピン性興奮の基礎である相克が強化されていく構造の中に生まれるということでした。それに対してサディズムは、表面的な優勢を内面でも信じ切っているヒロインの自信がこれから一気に崩壊することへの期待感の中に生まれるということになります。

【トリック】
そう考えるとサディズムの方がシンプルでパワフルだね。マゾヒズムにおいてはヒロインの気持ちの中に「強いヒロインであらねばならない」という自負や責任感があればあるほどそこから転落してしまう不安も大きくなってしまうという自縄自縛の錯綜したメンタルが重要になってくるので、描き方も複雑なんだけど、サディズムの場合は単純に「一気に転落させる」ところがポイントなわけだから、表面的な優勢やヒロインの自信が強ければ強いほど得られる効果は大きくなる。

【マスター】
ヒロインの内面で錯綜するポジティブ要素とネガティブ要素の微妙で複雑な関係を描くマゾヒズムとは違い、見せかけのポジティブ要素を強調するだけで効果が得られるということでしょうか?実際にはどんな演出が考えられますか?

【ブレーン】
すでに出た例として過剰なアピールと確証バイアス的な自信の描写がありますが、それはそのまま使えるのではないですか?

【トリック】
使えるね。ヒロインが優勢を信じているケースだと、ヒロインの慢心や愚かさを印象付ける感じになるね。それにサディスティックに興奮するわけだから、「ククク…何も知らずに愚かな女よ…」って感じだね。読者優位の優位性と敵の潜在的な優位性がシンクロしてるよね。

【マスター】
敵目線に感情移入するとそうなりますね。傍観者目線の場合は、ヒロインが罠にはまっていくのを指をくわえて見ているドキドキ感が興奮を生むのでしょうね。
ところで、このケースでは特にヒロインの自信の描き方がポイントになると思うのですが、直接的に自信を表明しちゃうケースの他に色々な自信描写のアプローチがあるんじゃないですか?

【ブレーン】
直接台詞で表現しない方法として考えられるのは、
・余裕の表情や態度を見せる
・厳しい修行や綿密な準備など自信の根拠となる事実の回想シーンを入れる
・どうやって勝利する作戦なのか脳内でイメージするシーンを入れる
・勝った後のこと(例えば次の対戦相手のことなど)をすでに考え始めている
などですかね。

【マスター】
「捕らぬ狸の皮算用」みたいなやつで、何というか勝利を無意識に既成事実として扱っちゃっていて、現在進行形の目の前の現実をちゃんと見ていない感じですね。

【トリック】
まあ、慢心なんだけど、そういう欠点も描きようによっては可愛くてリョナ欲を刺激する魅力になる。例えば、威勢の良いヒロインがさらに威勢良くなったり、尊大なヒロインがさらに尊大になったりするのも良いけど、普段は冷静で控えめなヒロインが勝利を確信して少し高揚しちゃっている感じを出すのも良いね。

【マスター】
なるほど。転落がすでに内定している状態でそこで「失われるもの」を上乗せするわけですね。その意味では「優勢なのに不穏」で「ヒロインに自覚がない」ケースというのは転落のカタルシスの効果を生み出しやすい状況であるとも言えますね。

【トリック】
転落の落差分をヒロイン自身に積ませるようなものだからなかなか意地悪な発想だよね。これを上手く描くためには作者にも悪の心が必要になる。「ダイの大冒険」のキルバーンみたいな性格が向いている。

【マスター】
ありがとうございました。では今回はこれぐらいにして、次回は出来れば全体を総括するような議論をしたいと思います。

※1:読者優位
例えば暗殺者がセールスマンに変装して主人公の家を訪れた場合、主人公に危機が迫っているという事実を主人公は知らないが読者や観客は知っている。このような状況を読者優位または観客優位と呼ぶ。また、このような状況やそれがもつ効果を「劇的アイロニー」とも呼ぶ。ちなみにキャラクターは知っているが、読者や観客には明かされていないという状況はキャラクター優位などと呼ばれる。

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「仮想ヒロピン座談会」は議論を豊富化しさらに掘り下げていくためにコメント欄にてご意見・ご質問を募集しております。また、「こういうテーマを座談会で扱ってほしい」といったリクエストなどもありましたら是非お寄せ下さい。検討いたします。

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