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2020年 05月の記事 (11)

ヒロイン工学研究所 2020/05/30 20:56

【備忘録】漫画制作の流れ

今後また漫画制作をするときのために今回の制作の大まかな流れを記録しておきたいと思います。

取材・準備

どんな制作でも最初の取材と準備が大切なので、まずは制作に使えそうな情報や素材を収集しました。集めた情報は主に

・過去作品のアンケート結果
・原作に関する情報
・ゲームのプレイ動画
・舞台となる場所に関する情報
・創作論・テクニック

などです。

原作に関する情報は設定画やプロフィール情報の他、ゲーム中の台詞などの資料を集めました。
ゲームのプレイ動画では絵になるモーションをキャプチャして画像資料として集める他、「この技を出したらこの技で返された!」のような劇的な展開がプレイ動画の中にあった場合にはアイデア用にその展開と動画のURL、再生位置を一緒に記録しました。
場所に関する情報は背景画を描くときに必要ですし、場所情報からアイデアが浮かぶことも多いので、作品で使えそうな場所をストリートビューで探してURLを記録しました。主に調べたのはスペインの闘牛場とドイツ・オーストリアあたりのお城です。
また、すでに読んだ脚本術などの創作論の本(Kindle)をハイライト部分だけ全部読み直して、今回の制作に役立ちそうなものをピックアップしました。

画像以外の資料用のデータはすべてアイデアや考察のメモと一緒にExcelに記録し、何の参考用のものかわかりやすいように「バトル」とか「台詞」のようにタグを付けました。

メモを増やす

情報収集とアイデアメモは基本的に同時並行です。
たくさんの情報に接しているとそこで刺激されてどんどんアイデアが出てくるので、何でもいいのでとにかく頭に浮かんだものはすべてExcelにメモとしてタグを付けて残しました。例えばそのメモがラストシーンの台詞に関するものならば「ラスト」「台詞」などのタグをちゃんと付けておくことが何よりも重要で、こうしておけば行き詰ったときにたくさんのアイデアを瞬時に検討できます。

ちなみにこれがメモデータの一部。


完成後にボツになったシーンのアイデアを見ると、シーンはボツになったのにシーンの機能や伝えたかったニュアンスなどは作品に残っていたりすることがよくあります。つまり使わなかったアイデアというのは実際には生きていることが多いということです。

シーン構成・ラフな脚本作成

この段階ですでにシーンに関する断片的なアイデアも相当数出ています。それらを並べながら構成を検討し、ラフな脚本のアウトラインを作ります。シーンのメモを並べ替えたり、別の物に変えたりしながら全体像をチェックする作業なので、ネームを描きながら検討するよりもはるかに楽でした。
ただ、制作後記でも書きましたが、このときに脚本として作り込んだ部分は実際にネーム段階で漫画的表現にするときにかなり翻案とやり直しを余儀なくされました。その原因は「この脚本が漫画の形になったときにどうなるか?」をイメージする力が脆弱だったことにあると思っています。

ラフスケッチの蓄積

取材・準備の段階からずっと練習目的でラフスケッチは続けていましたが、脚本と漫画化イメージが上手く結び付かないときの橋渡しとしても機能することが途中で分かったので、シーンのアイデアは言葉で記録するだけでなく、なるべく漫画化した場合の実際のシーンをイメージしてラフイメージも描くようになりました。
このラフイメージはネーム作成のときにコピペしてそのまま使ったり、ネーム上で複数案を比較検討するときに大活躍したので、たくさん描いておいても損はないです。もちろん練習にもなるので一石二鳥です。

ネーム作成

ストーリーのアウトライン、キャラ立て、台詞などはラフな脚本で大体確定しており、実際のシーンをイメージしたラフスケッチもそれなりにあるので、それに基づきながらネームを作っていきます。
ここまでの準備や蓄積があるのでこの作業はいきなりネーム作成に取り掛かるのにくらべて相当楽なはずです。ただし、私の場合は漫画制作の経験が浅いので、それを差し引いてもネーム作成にはそれなりに苦労しました。制作後記にも書いた通り、この辺は完全に泥縄式に進めていきましたが、これはもう制作工程の組み方とは関係なく避けては通れない苦労だったと思うので、ここでは触れません。

仕上げ

おそらく漫画制作に慣れている人のネームは仕上げイメージがその中でばっちり出来ているのだと思うのですが、私はまだそんなレベルには程遠く、必要なニュアンスや迫力が出なくてネーム段階に戻ることもありました。これも作業工程の問題というよりも漫画経験の浅さの問題だと思うので、ここでは触れません。

以上が今回の漫画制作大まかな流れで、脚本とネームの橋渡しをもっとスムーズに出来れば、基本的にはこのままの形で次回以降も踏襲していいのではないかと思っています。

貴重なものが手元に残る

最後に強調しておきたいのが、Excelへのメモ書きの蓄積は絶対に必要(ただしデータ管理にどのソフトを使うかは自由)だということです。これは中盤での試行錯誤や制作に行き詰ったときの解決のスピードを格段に上げてくれるだけではなく、制作後にも貴重なものを残してくれます。それは次の制作にも使える教訓やチェックリストです。作品のクオリティを上げるために注意すべきポイントなどは、制作から離れているときにはあまり浮かびませんが、最前線にいるときはどんどん湧いてきます。自分が自分のために作った要点集は確実に次の制作でも活躍するので創作をする人間にとっては貴重な財産になります。

宣伝

というわけで完成した漫画がこちらになります。
強気なヒロインが追い詰められ完全敗北するまでの姿を描いたソフトリョナ・ヒロピン漫画です。

ヒロイン工学研究所 2020/05/24 20:29

アンケートの活かし方について

多数意見であることは重要じゃない

以前アンケートの活かし方について質問を頂いたことがあったのですが、この問題は前から一度自分なりにまとめておこうと思っていたことでもあったので、この機会に変態趣味に関する考察と合わせて記事にしました。

ヒロイン工学研究所では新作の企画をするときや内容を細かく検討するときに必ず今まで実施したアンケートの回答を精読することにしていますが、これは決して多数意見に従うということではありません。

A,B,C,Dの中で一番好きなものは何ですか?という質問で仮にBが最も多くの票を得たとしても、それだけで「よしじゃあBで行こう」ということにはなることはあまりありません。

理由は、
「何かの得票数が高いということだけがわかっても実際には具体的な制作の指針は立たない」
からです。

多数意見は実態に迫るほど多数じゃなくなる

わかりやすく解説するために「スカトロ」という極端なシチュを例にとって考えてみます。
スカトロは糞や尿などの排泄物をテーマにしたシチュエーションに付けられるタグですが、実際にスカトロに興奮する人たちの心理を詳しく観察すると、そこには二つの全然異質な傾向性が見えてきます。

一つは解放型です。
文明社会では人前での糞尿の排泄は社会的にタブー視されていますが、そうした強力な抑圧が解き放たれて、社会の良識的な秩序が糞尿の奔流によって破壊される光景に興奮や解放感を覚えるタイプです。
おそらく幼児的な心理が強く影響しているタイプだと思われるので、このタイプの読者に対して表現に訴求性を持たせるためには「うんち」や「おしっこ」そのものがもつインパクトが重要になります。
オノマトペ的に表現すれば、
「ぶりぶりぶりィィィ――ッ!」
「じょぼぼぼぼぉッッ!」
といったような止めようのない破壊的奔流のイメージがポイントになってくると思います。

もう一つは羞恥型です。
この場合は逆に、タブーを破壊する解放感ではなく、タブーを犯してしまった文明人が心理的に苛まれること=羞恥にサディズムまたはマゾヒズム的な興奮を覚えます。
ぶっ壊すことに単純に快感を覚える解放型とは対照的に、羞恥型の興奮は複雑かつ倒錯的です。羞恥型は文明人的価値観が人一倍強いがゆえに、人前での排泄行為に屈辱を感じ取りますが、その屈辱が逆に興奮を生みます。
訴求性をもたせるための表現のポイントは排泄物そのものがもつ力ではなく、矛盾や葛藤に晒される良識的な心理の方です。排泄行為をド派手に演出する場合も、目的はあくまでもそんなことをしてしまったヒロインの心理的ダメージを描くことの方にあります。


さて、本題に戻ります。
もし仮にアンケートの結果、見たいシチュエーションのトップが「スカトロ」になった場合、どんな作品を作るべきなのでしょうか?
答えは、
「アンケートの結果からはわからない」
です。

解放型に喜ばれる作品を作れば、羞恥型からは「うんちが見たいわけじゃない」と言われ、羞恥型に喜ばれる作品を作れば「もっとうんちを描け」と言われてしまう可能性があります。

これは
「多数意見であることは具体的な指針を与えてくれない」
だけではなく、
「多数意見を実態に即して細分化すると全く異質なグループに分かれてしまう場合、最初の結果を単純に多数意見として扱っていいのか?」
という問題でもあります。

解放型と羞恥型は対照的ですが決して無関係ではなく、実際の嗜好の中では相互に入り組んでいたりする場合もあります。では、どんな風に入り組んでおり、どんな表現が効果的なのでしょうか?それも「見たいシチュエーションの一位はスカトロ」という結果からは何もわかりません。

「スカトロが人気だったのでスカトロ作品を作ったのにあまりウケなかった」みたいなことが起きる原因はこういうところにあると思われます。なお、話を分かりやすくするためにスカトロという極端な例を取りましたが、これはどんな属性タグに関しても多かれ少なかれ言えることで、ヒロイン工学研究所が関係しているジャンルで言えば「リョナ」などがそうです。

選択回答の扱い

では、どうすればいいのか?アンケートは結局あまり役に立たないのか?と言うとそんなことは決してなくて、この場合の問題はむしろ「回答結果を見ても参考にならないようなアンケート」を作ってしまったことにあります。
例えば「スカトロ」として一括されている嗜好タグの中に実際にはかなり異なるグループが存在することを知っていれば、アンケートを設計する段階で、他の質問を設けて回答者が解放型なのか羞恥型なのかを推測できるように設計しておけばいいわけです。
ただ、このようにより詳しい嗜好の実態に迫れば迫るほど最初に圧倒的多数派に見えていたグループは細分化されていくので、制作の指針を立てるのに役立つレベルの具体的な嗜好タイプが見えてくる段階では圧倒的多数派など存在しなくなっていきます。

こうした理由からヒロイン工学研究所では一部の例外的なケースをのぞいて選択回答における多数意見は重視していません。制作に直接役立つ情報は断然記述回答の方にあるので、むしろ「この人の意見は興味深いが、この人はどういう嗜好タイプなんだろう?」という順番でその回答者の選択回答をチェックするというアプローチが一般的です。

ヒロイン工学研究所 2020/05/23 00:09

ヒロイン工学研究所 2020/05/22 23:32

「敗姫処分 No.2」制作後記 その2

経験が浅いので泥縄式に進める

4ページ漫画のような作品をのぞくと、ちゃんとまとまりのある漫画を制作したのは今回で3作品目となります。しかも最後に描いたのが2016年の8月なので、いざ制作に着手すると、どうしていいのかわからないことも多く、有名作品を読んで勉強しながら漫画を描くといった具合に泥縄式に進んでいくしかありませんでした。
毎日新たに学ぶことがあり、それにともない漫画に対する認識も変化していきましたが、その認識の変化が前半と後半で作風のブレを生んでいるのではないかという気がかりもありました。ただ、経験の浅さは今さらどうしようもないことですし、学習によって生まれるプラスの変化まで否定するのは馬鹿げているので、ブレが生じてしまった場合は最終調整段階で描き直すぐらいの覚悟を決めて、むしろこの機会に学べるだけ漫画のことを学んでしまおうと他の作品を読み漁りました。

漫画においてはすべてが演出

日々漫画を学ぶ中で見えてきたことは「イラストと漫画絵の根本的な違い」でした。これは以前から考えていた問題ではありましたが、今回は自分で漫画を描かなければならなかったので、自分なりの方針になるようなより明確な答えが必要でした。そこで考えたのが、
「漫画の絵は絵ではなく、それ自体が演出である」
という極論でした。
もっと正確に私が到達した結論を言うと、
「コマ割り、フキダシ、絵、効果線、描き文字などの漫画上のすべてのビジュアル要素はそのシーンの演出効果である」
という極端な一般化です。
この極論は特にイラスト出身である自分には必要な観点でした。なぜならそれまでの私はシーンに必要な絵をイラストを描くときと大差のない意識で描いて、その上にエフェクトや描き文字などの演出効果を足すことで漫画を描いていたからです。あくまでも別物である絵と演出を最終的にアレンジでドッキングする感じです。私のようにイラスト出身で漫画に挑戦しようとする人間は「漫画は描いたことないけど、少なくとも絵は描けるんだから、それを漫画っぽく演出すればいいや」という意識からこういうアプローチになりがちなんじゃないかと思います。ところがその方法だと、どうしても漫画特有のダイナミックさが出ないということに気が付きました。
ちょうどその頃、私はバトル漫画の参考資料として「BLEACH」を読みながら、主に描き文字のデフォルメセンスを研究していました。そのときにふとある疑問が湧いたのです。それは、
「描き文字と漫画絵との間に本質的な違いはないのではないか?」
というものでした。
例えば敵を一刀両断するシーンに「ズバッ」というオノマトペの描き文字を描き加える場合、普通はどうするか?まずはそのシーンに相応しい演出効果が何であるかを考えます。とにかくド派手な「ズバッ」なのか、それとも躊躇なくゴミ同然に相手を殺せる非情さを感じさせるような「ズバッ」なのか、そのシーンで求められる演出が違えば、「ズバッ」の形や大きさ、質感、配置も変わってきます。そして極端な場合は、もはや日本語の「ズバッ」という形に見えないぐらいのデフォルメが施される場合だってあります。それでも上手い漫画家が描けば「ズバッ」という感じが見事に出ます。
その形に見えないのに「ズバッ」という感じが出ているというのは、まさにそのシーンに合致した演出効果が出ているということです。おそらく我々は漫画を読むときに物の形や字の意味を個別に解釈し理解しているのではなく、ストーリー展開と演出のダイナミズムに乗っかりながら自分を作品世界に同調させているのだと思います。面白い作品ほど作画や台詞のミスが見逃されやすいのも、読者が形や字を追っているのではなく、演出を追っているからなのかもしれません。
ところでこの「そのシーンに相応しい演出効果と合致したときにリアリティをもつ」という原理は描き文字に限らず、漫画上のすべてのビジュアル要素に当てはまるのではないかと私は考えました。だから絵も描き文字も演出効果の一部であるという本質からすれば違いはないのです。
また、こう考えると、まず絵を描いてから(つまりキレイに形を作ってから)適当な演出効果を後付けするという私がやっていた方法がなぜあまり上手くいかなかったのかも説明がつきます。漫画における絵はあくまでも演出の一つなわけですから、描き文字を描く場合と同じように、そのシーンに求められる演出の方から形が作られるべきなわけです。
よく「絵が上手いことは漫画家になるための絶対条件ではない」みたいなことを聞きますが、もしかするとそれは「ストーリーさえ面白ければビジュアル要素はどうでもいい」という意味ではなく、「一枚絵として見たときに上手いかではなく、その絵が意図された演出効果の一部となって、結果的に読者をストーリーに引き込むことに成功しているかの方が重要だ」という意味なのかもしれません。


残念ながらこのことに気が付いたときは制作は終盤に差し掛かっていましたし、そもそも理屈がわかったところですぐに実践できるものでもなかったので、この発見は今回の作品ではそれほど十分に活かされていないかもしれません。今後はこの仮説を検証すると同時に、漫画的な演出センスを磨くためにはどうすればいいか?を考えることが課題になると思います。

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ヒロイン工学研究所 2020/05/22 23:32

「敗姫処分 No.2」制作後記 その1

【キーワード選出】

久しぶりに敗姫処分シリーズ作品を制作するに当たって、まず最初に取りかかったのは、2015年に制作してpixivで公開した「敗姫処分 不知火舞」に寄せられた感想を熟読することでした。その中で今回の制作に直接役立ちそうな意見をすべて書出して要約し、さらにその中からピックアップしたキーワードを並べて作品の骨子としました。
それが、

「ピンチの連続」
「ダメ押し」
「締め付け」

の三つで、ネームの推敲のときなどは特にこの三点を意識して弱い部分の補強などをしました。

【脚本先行のやり方から方針転換】

「リョナ・ヒロピンシーンはストーリー展開の中でこそ映える」というのがヒロイン工学研究所の原点なので、漫画制作の上でもやられシーンのインパクトのみが独り歩きしないように最低限のストーリーとその中でのキャラ立てを心掛けました。
ちょうど制作開始の直前まで脚本術の本を読んで勉強していたので、今回はそのやり方にならい、まずは大量のメモを作成してストーリー構成を検討しました。メモ段階ならいくらでも大幅な変更を試すことができるので、ネーム段階で試行錯誤するよりもずっと合理的だと思ったからです。この判断は半分正解で半分間違っていました。

正解だったのは、ネーム以前の段階でストーリーに関する検討を徹底的にやっておくという部分。間違っていたのは、しっかりと脚本を固めてからの方が漫画も描きやすいはずという部分です。

間違いに気付いたのは、大体脚本が固まって試しに少しネームを描いてみたときでした。脚本があるお陰でストーリーとキャラ立てに迷うことはありませんでしたが、いくら脚本ががっちり作ってあってもそれを漫画的表現に変換するためには結局ネーム段階で試行錯誤が必要で、最終的にはかなりの部分を漫画用に翻案することになりました。そういう部分はむしろ脚本では作り込み過ぎないでネーム以降に丸投げしてしまった方が良かったのに、その辺の匙加減がよくわかっていなかったわけです。

そこで途中からは方針を若干転換して、アイデアは言葉だけで考えないで「絵にしたときにどういうイメージになるか?」ということを考えながらラフスケッチを描くことにしました。そこでたまったスケッチは脚本をネームに翻案するときにかなり役立ったので、もしもまた漫画を制作する機会があったら、次回以降はこの方法を踏襲したいと思います。

編集後記 その2へ

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