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ヒロイン工学研究所 2022/11/03 20:41

【AI活用】AI絵を加工してイラスト作成

AI絵を加工して作品を制作してみる

今回はAIが出力した絵を加工して作品を制作する方法を実験してみたいと思います。ちょうどナコルルの習作を描こうと思っていたところだったので、ナコルルを作ることにします。

AIはナコルルを知っているか?

まずシンプルに「Nakoruru」というプロンプトで出力してみます。
ある程度有名なキャラになるとAIはデザインをかなり正確なレベルで認識しているので、デザインの特徴を細かく指定するよりもキャラ名を入れた方が手っ取り早い場合が多いです。


例えばこの絵は以前AIに作らせたスーパーガール(レタッチ無し)ですが、キャラ名で指定しただけで、キャラクターデザインに関する指定は一切しておりません。

ではナコルルはどうでしょうか…

こちらが「Nakoruru」というワードのみで出力された絵の一部です。
スーパーガールと比べてキャラの認識の精度はかなり低いと言わざるを得ませんが、まあ、第一段階の出力なので仕方ありません。さっきのスーパーガールの絵も出力されてきた絵の中から良いものを選んで、それを元絵にしてさらにイメージに近付けるための出力を繰り返すという工程を何段階も経て得られたものなので、序盤での不安定さは問題ありません。

むしろこれらの絵を見て希望がもてました。
それはほとんどの絵が以下のような特徴を備えていたからです。

・東洋系美少女
・黒髪ストレートロング
・赤と白を基調としたコス
・赤いリボンらしき要素
・90年代~00年代風のタッチ

「Nakoruru」というワードの意味が分かっていなかったら、そもそもこんな絵は出て来ません。これは精度は低いながらもAIがナコルルをちゃんと認識していることの証拠です。

「Nakoruru」というプロンプトが有効だということがわかったので、あとはよりイメージに近い絵を元絵に設定して、そこから変異型を出力させてさらにイメージに近付けていくという手順を繰り返します。
今回は第一世代の絵の中から


この絵を元絵として選びました。

ナコルルに近付けていく

AIはナコルルを認識しているらしいので、プロンプトに「Nakoruru」が入っている限りは不安定ながらもそちらに近付いていく傾向をもっています。
ただ、どうやらはっきりと認識しているわけでもないようで、出力されるイメージにはかなりバラつきがあります。その中から少しでもイメージに近いものを新たな元絵に設定することでイメージのブレを小さくしていきます。


こちらが第三世代ぐらいの出力です。
第一世代に比べると、コスの白い部分と赤い部分の分け方が正解に近付き、肩部分の構造も出来始めています。また頭部にカチューシャが登場しています。

この工程をさらに続けます。そして最終的に得られたのがこの出力です。


多分第五世代ぐらいだったと思います。
肩部分が退化してしまったり、カチューシャがリボン化してしまったりと、部分的にはむしろ遠のいてしまったところもありますが、全体の完成度はかなり良いところまで来ました。
特に指示したわけでもないのに脇フェチ要素もちゃんと入っています。ナコルルを認識しているAIは意外とポイントがわかっているのかもしれません。

AIを使ってさらに完成度を上げていくためには、プロンプトを工夫しながらここからかなりの試行錯誤を重ねていく必要があるのですが、今回は手描きで加工することが前提なのでこれで十分だと判断しました。

手描きで加工していく

ここからは手描きの加工作業です。
ですが、せっかくなので、加工過程でも少しAIを活用してみました。
AIに作らせたのは、ナコルルに握らせる「短刀」と背景用の「針葉樹林が広がる北国っぽい風景」です。AIに作らせたこれらの素材を下絵に合成し、その上から加筆修正を加え、さらに色調補正やグロー効果などの処理をします。
そして完成したのがこちら。


主な加筆修正作業は以下の通りです。

・目の描き込みと微調整
・鼻と口は描き直し
・前髪の描き直し
・髪艶の描き足し
・リボンの描き足し
・肩部分の描き直し
・腕の太さ調整
・襟ラインの描き直し
・手甲と指の描き直し
・短刀の描き込みと微調整
・服のしわと陰の描き込み
・帯部分の描き直し
・背景の画像処理
・色調補正やグロー効果などの処理

あらためて確認してみると、いじっていない部分はほとんどありません。

まとめ

感触としては結構上手くいった方だと思います。労力もそこまではかかりませんでした。
しかし、加筆前後を比較するとわかるように、相当量こっちで描いているので、圧倒的な省力化が実現したとは言えません。

一番の問題は同レベルの成功が常に約束されているわけではないということ。
やってみたけど上手くいかなくて泥沼化する場合、作業量はさらに膨らみ、それが一線を越えれば「最初から自分で描けば良かった」ということになります。
また、以前似た方法を試して上手くいかなかったときに痛感したのですが、AI絵を加筆修正する作業が難航して泥沼化すると、何と言うか他人の尻拭いをしているような気分になり、やはり「最初から自分で描けば良かった」という気持ちになります。

成功率を上げればいいのですが、このやり方で成功しやすいタイプの絵とそうでないタイプの絵というのがおそらくあるので、成功しやすいタイプの絵ばかりを描く結果、作風がマンネリ化する危険があります。

・省力化は限定的
・失敗する可能性もあり、失敗すると作業量がむしろ増える
・成功するタイプの作品に偏ると作風がマンネリ化する

今回感じた難点をまとめると、以上のようになりますが、経験を積めばある程度は改善するかもしれません。

最後にAI絵を下絵に加工する制作方法の利点ですが、それは「自分には無いセンスが注入できる」ということだと思いました。
今回の作品も大部分加筆修正しているとはいえ、やはり元絵のエッセンスは残るので、いつもの自分とは少し違う感じの作品になり、そこがとても新鮮で楽しかったです。
自分とは違うセンスが入った作品の制作にたずさわることはそのセンスを身に着けることにもつながるので、そういった意味では思わぬ収穫が得られるかもしれません。

制作過程の比較動画

ヒロイン工学研究所 2022/10/27 21:03

【AI活用】プロットを考えさせる

AIにプロットを考えさせる

今回は文章系AIの「AIのべりすと」にプロットを自動作成させる方法について自分が試したやり方を紹介したいと思います。

「AIのべりすと」に関する詳しい説明は省略しますが、簡単に言えば、こちらで入力した文章の続きを生成してくれるAIです。
「続きを考えてくれるAI」にプロットを出力させるには、その後にプロットの内容が続くような文章をフリとして入力する必要があります。

例えば、

私はAIに命令した。
「何か面白いストーリーを考えて」
するとAIは即座に一編の物語を出力してくれた。それは以下のようなプロットだった。

といったフリの文章を入力後、AIに続きを書いてもらえば、その内容は高確率で物語のプロットになります。

試みにこの条件で出力してみた結果(実際に一発目で出たもの)がこれです。

『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を書き上げたのは他ならぬクラスメートの一人・早乙女遥香である。しかし、彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。そこで恵は友人の助けを借りて早乙女に台本の執筆を依頼する。しかし早乙女は執筆を拒否し、代わりに彼女が思いついたアイデアを披露してみせる。その内容は――』


一瞬、何か面白そうな予感がするものが出力されていますが、致命的な問題が二つあります。それは、

・求めているジャンルの話が出力されるとは限らない
・一見面白そうに見えるが実際には整合性のない支離滅裂な話である

ということです。

ジャンルの決定に関してはフリの文章を工夫する(例えばホラーなら「ホラー作品のストーリーを考えて」とか「それは以下のようなホラー作品のプロットだった」のような文に変える)か、後述する「脚注」や「キャラクターブック」などの設定機能を使うことである程度範囲を限定することが可能ですが、整合性に関してはAIの限界にもかかわる問題なのでなかなか厄介です。


整合性と基本設定の問題

AIが出力したプロットをパッと見たとき、私は一瞬だけ「結構面白そう…」と思ったのですが、ちゃんと読んでみるとそれは支離滅裂な文章でした。

彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。

「人気者」、「性格がキツい」、「クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない」が当たり前のように詰め込まれた早乙女遥香というキャラが理解不能です。しかも、台本はすでに早乙女が「書き上げた」ことになっているのに、主人公の田所恵はあらためて早乙女に執筆の依頼をしています。わけがわかりません。
おそらく原因は登場キャラや状況の基本設定が未定のフワフワした状態でAIが適当に話を作っているせいです。こういうときのAIは一種の「口から出まかせ」の状態にあるわけですが、完全に丸投げした場合にはこうした現象は頻繁に起きます。

この問題への対策としては、「脚注」や「キャラクターブック」の活用する方法があげられます。
「脚注」と「キャラクターブック」についての詳しい説明は省きますが、簡単に言えば、「この作品はどんな作品であるか」とか「このキャラはどういうキャラであるか」といった基本設定をあらかじめAIに教えておく機能だと理解して下さい。
こうした縛りをAIに課すことによって、著しい脱線や不整合はある程度まで回避できます。特に二次創作などの場合はキャラクター情報をあらかじめ入力しておくことがキャラ崩壊を未然に防ぐためにも必須の作業になります。

…ただ、すでにお気付きの方も多いと思いますが、「プロットをAIに丸投げして考えてもらうためには基礎設定を事前にしっかり入力しておく必要がある」というのは本末転倒な話です。しかしこれは現状では避けがたい事実であり、AIの創造性が抱えるジレンマの一つです。

「0から1を生み出す」をどちらが担当するか

AIへの丸投げに限界がある以上は人間側の介入がどうしても必要になります。
一つの方法は前述の通りあらかじめこちらで筋道をつけてしまうという方法ですが、その場合は基本設定のアイデアがこちら側にすでにないといけません。つまり0から1を生み出すのを人間側でやって、1を膨らませるのをAIにやってもらう形になります。

もう一つの方法は逆にAIに0から1を考えてもらい、人間側が1を膨らませていくというアプローチです。例えばAIが出力したプロットアイデアを叩き台にして、どんどんそれを改変しながら新しいプロットを作っていくという方法があります。この場合はAIに作らせるというよりもAIをブレスト支援システムとして活用すると言った方が正しいかもしれません。

「面白いかも」という予感を育む

AIが出力したアイデアを叩き台にしてちゃんとしたプロットに成長させるために重要なのは、そのアイデアをパッと見たときに感じる「面白いかも」という予感です。AIが「0から1」を担当して生み出したアイデアに整合性がないのはある程度当然なので、ここでは整合性の有無は度外視して構いません。一方、パッと見たときに「面白いかも」と感じるアイデアの中には整合性は滅茶苦茶でも面白さの基本構造が備わっていることが多いです。アイデアの中に基本構造を発見出来たら、そこを基軸にしてこちらで再構成していきます。

今回のプロットアイデアをもう一度見てみましょう。

『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を書き上げたのは他ならぬクラスメートの一人・早乙女遥香である。しかし、彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。そこで恵は友人の助けを借りて早乙女に台本の執筆を依頼する。しかし早乙女は執筆を拒否し、代わりに彼女が思いついたアイデアを披露してみせる。その内容は――』

直感的に浮かぶのは、凡人主人公が癖のあるキャラに振り回されたり課題と人間関係との間に板挟みになりながら奮闘する学園コメディです。この非常に大雑把な作品イメージの中に面白さの基本構造はすでに入っています。あとは骨子となるポイントを抽出して、それをもとに作り直していきます。

AIのアイデアの中から採用すべき重要なポイントは、

A.台本を完成させなくちゃいけない(目的)
B.それには早乙女さんの協力が不可欠(手段)
C.早乙女さんが劇の制作を主導するのは無理(葛藤)

といった点です。

ABに関しては議論の余地はなさそうですが、Cに関しては「なぜ無理なのか」に関して色々なパターンが考えられます。ここから先はAIのアイデアを積極的に改変していく作業になるので、適宜にこちらで基本設定を変えていきながら具体化のパターンを考えていきます。

【パターン1】
早乙女さんはクラスで嫌われている、もしくは現在クラスのあるグループとケンカ中であり、「早乙女が書いた台本ならやらない」と言い出す連中が現れることが予想される。

【パターン2】
早乙女さんは病弱で引っ込み思案であまり先頭に立ってみんなを引っ張っていくタイプではない。

【パターン3】
早乙女さんは文才もあり人気者なのだが、実は異常な趣味の持ち主であり、とてもじゃないがそのまま上演することなんて出来ないような台本を書く。

このようにある重要ポイントを具体化するときに異なるパターンを考えるだけで、基本構造は同じでも方向性が異なる作品像が浮かんできます。
では、それぞれのパターンに応じてプロットを再構成してみます。この作品は「課題と人間関係の間に板挟みになって奮闘する恵の滑稽さ」をテーマにしている作品なので、プロットを再構成するときは、各パターンの状況に応じて恵がどう苦境に立たされるかを考えて書きます。

【パターン1】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、クラスで台本を書ける人間は早乙女遥香ただ一人である。しかし、元来偏屈で性格がキツい彼女は現在クラスの主要グループとケンカ中。「早乙女が書いた台本で演技するなんて嫌だ」と彼らが言い出すのは目に見えている。実行委員として恵は何とか両者に譲歩を求めるが、その結果何と自分が両者の間を取り持って台本を書くことになってしまう。変人の早乙女とチャラいリア充勢の両方から無責任に投入されるアイデアを繋ぎ合わせる地獄の台本執筆が始まる。』

【パターン2】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本はクラスメートの早乙女遥香が担当することになった。しかし、文才はあるが気弱で病弱な早乙女がみんなに指示を出してクラスを引っ張っていくのは難しい。そこで早乙女は実行委員である恵に「自分はゴーストライターとして裏で働くので表向きは恵が仕切ってほしい」と懇願する。成り行きで台本を担当することになった恵だが、事情を知らない周囲から「天才脚本家」と褒められるうちにどんどん調子に乗ってしまう。しかし、執筆の心労が重なり台本が完成する前に早乙女がダウン。散々調子に乗ってしまった手前今さらカミングアウトできない恵は、うわ言のように断片的なことしか言えない早乙女からヒントをもらいながら自力で台本を完成させようと奮闘する。』

【パターン3】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を担当することになったのは恵の親友・早乙女遥香だった。しかし、恵は不安を抱えていた。心優しい美少女で文才もある早乙女は誰からも慕われる人気者だったが、親友である恵は彼女のもう一つの顔も知っていた。ある日、執筆中の台本をのぞき見た恵は戦慄する。不安は的中した。作中には男性キャラが服を脱ぐシーンや男性同士が触れ合うシーンが満載なのだ。実行委員権限を行使した恵の怒涛の検閲作業が始まる。』

…以上のような具合で、AIのプロットアイデアをもとに三種類のプロットが速成されました。
作業手順をまとめると以下のようになります。

1. AIにプロットを出力させる
2. 「面白いかも」と思えるプロットアイデアが出るまで1を繰り返す
3. 「面白いかも」と思えるプロットの基本構造と重要ポイントを抽出する
4. 具体化するときに複数のパターンが考えられるポイントを選び、パターンを列挙する
5. 4で列挙されたパターンごとにプロットを再構成する

この方法の利点は、具体化するときに可能なパターン数が多ければ多いほど派生するプロットアイデアは増えていくので、同一の基本構造の中でバリエーションを一気に複数用意できるということです。得られた複数の案を知人に見せたりSNS上でアンケートを実施したりして、反響を見てから制作を進めるのも良いと思います。

一方難点としては、

・「面白いかも」と思えるプロットをAIがなかなか出してくれないことがある
・原石を磨く作業は結局自分でやらなければならない

ということがあげられます。

結論

「AIにプロットを考えさせる」という今回の実験でわかったのは、「完全に丸投げして考えさせるのは非現実的」ということでした。結局人間側からの関与が必要で、基本設定をあらかじめ作っておく(0から1を生み出す)か、AIのアイデアをもとに複数の具体化案を再構成する(1を膨らませる)かのどちらかをこちらがやらなければならないようです。
どちらが効率的なアプローチになるかはその人の性格にもよりますが、どちらの場合もAIの出力が不安定でとりとめのないないものになる可能性はあるので、「脚注」や「キャラクターブック」などで縛りをかける作業は適宜必要になってきます。

はっきり言ってしまうと、この方法は自力で面白いプロットを考えられる人にとってはあまり意味がないでしょうし、AIへの丸投げが不可能である以上、自力でプロットを考える力がまったくない人にも向きません。両者の中間ぐらいに位置する人で、一連の作業を一種の遊びとして楽しめる人にはおすすめできるかもしれません。

しかし、効率性とは別のところでAIの活用には利点があります。それは「自分の発想に囚われない」という点です。自分以外が考えたアイデアを広範に採用することで、自分一人で考えた場合についつい陥りがちなお決まりの展開や、あるポイントにこだわり過ぎるせいで自縄自縛になって発想が広がらないといった事態が解消されます。この効果は特にAIに0から1を生み出すことを担当させてブレスト用に使う方法において期待できます。


今回の実験報告と考察は以上です。
もし機会があれば、ジャンルを指定した二次創作のプロット生成の方法やプロットアイデアをAIに考えさせる別の方法(プロット案をまとめて出力させないでQ&A形式を利用してアイデアを小出しに提出させる方法)についても考えてみたいと思います。

ヒロイン工学研究所 2022/09/19 20:57

【AI活用】怪人生成編

AIに怪人を生成させる

入力した文章に応じて続きの文章を出力してくれるAIシステム「AIのべりすと」を活用して怪人キャラを考える方法をまとめました。
「AIのべりすと」に関する詳しい紹介は省略して、初期設定の手順のみを解説します。


1.メモリ欄にお手本となる文章を入れる

AIは直前の文章とメモリを参照しつつ続きの文章を出力するので、メモリにはお手本となるような文章を入れます。今回は怪人の設定に関する文章を出力させたいので、「メモリ」の欄にネット上で見つけたショッカーの怪人に関する説明文をたくさんコピペして入力しました。必要なのは汎用的な怪人説明文なので、「ショッカー」や「仮面ライダー」などの特定作品に直結するワードなど不要な部分はカットし、その他必要な修正を行います。
メモリに下に掲載した画像のような文章が入ったことによってAIは「要素」の欄に対応した怪人図鑑風の説明文を書く構成を学習しました。

お手本となる文章は別のものでも構いませんし、自分で書いてもいいです。ただ、メモリが充実していた方が求められる記述のスタイルをAIが理解しやすくなるので、出来れば字数制限ギリギリまで複数の怪人説明文の例を入力することをおすすめします。

今回は要素から怪人を生成させるシステムを目指しているので、お手本の記述も必ず怪人の説明文の冒頭に「要素:〇〇」と、その怪人のメインとなる要素を書くスタイルで統一しています。メモリに入っているお手本がすべて「要素:〇〇」という見出しの後に○○の要素をもつ怪人の説明文になっているので、AIも要素欄に対応する説明文を出力するスタイルを学習します。


2.脚注にコンセプトを入力する

脚注には通常、「ジャンル:ホラー」などのように文章全体に影響を及ぼす基本的な性格を入れますが、どのような入力が実際に有効かはまだまだ解明されていないようで、今のところは気休めのおまじないみたいなものだと思って下さい。


3.キャラクターブック

キャラクターブックの欄はキャラやアイテムや用語についての設定をAIに学習させるときに使います。今回は使用しませんが、特定の悪の組織のイメージがあったりする場合は、設定しておいた方がイメージのブレを防げるかもしれません。


以上のセッティングでAIは要素欄のワードに応じて怪人図鑑風の文章を出力することを学習しました。後は本文の欄にメモリに学習させた書式の冒頭と同じように「要素:」と入力し、それに続いて例えば「サソリ」のように生成したい怪人の要素を入力します。

この状態で「続きの文を書く」をクリックすると、メモリで学習した構文にならってAIが要素のイメージに沿った怪人の説明文を出力するようになります。

触手怪人を生成!

では実際に「要素:触手」で生成した例を紹介します。
四回やり直して四種類の説明文を出力しました。

(1)
ミミズ、ムカデ、ナメクジ、ウツボカズラなどの植物と動物の両方の特性を兼ね備えた怪人。全身を無数の触腕で覆い、そこから粘液を放出して相手の動きを封じたり、拘束したりすることができる。また、口からは強酸を含んだ粘液を吐き出すことも可能

…虫と食虫植物のグロテスク系の合成怪人ですね。

(2)
怪人名:『魔触』
詳細:女性ヒーローを専門に狙う組織の幹部怪人で、触手を用いて女体を凌○することを好む怪人。両手両足と胸元に黒いリングを装着しており、そこから伸びる4本の白いラインは触手のようになっている。また、両手首にも触手の先端がある

…名前付きで出て来ました。組織の幹部で組織の定義までされています。奇妙なキャラデザも興味をそそりますが、何となく意味不明な感じもします。

(3)
触手を自在に操る能力を持つ怪人。その腕に絡みついた獲物を引き千切るパワーを持つほか、口から吐き出す溶解液で溶かしてしまうことも可能。さらに、人間と怪人の姿にも変身する能力も持つ。

…パワー系の触手怪人ですね。しかし、パワー系、溶解液、変身能力という取り合わせがちょっと統一性にかけるような気もします。

(4)
複数のタコ、イカ、クラゲ、イソギンチャク、ヒトデなどの特徴を持つ怪人。足に備わった吸盤で壁に張り付いたり、口から放つ毒液で獲物を捕らえる。また、毒液だけでなく、人間に巻き付いて締め上げたり、拘束したりできる。

…昭和特撮感のあるオーソドックスな触手怪人です。

このようにこちらが入力した要素に対応した怪人の設定が瞬時に複数案手に入りました。なお、出力時の「文章スタイル」の設定は「デイドリーマー」(※設定の名称はシステムのアップデートによって今後変わる可能性があります)を使いましたが、他の設定にしたり、詳細設定を自分でいじってみたりすると思いがけない特色が出せたりするので、マンネリ化したときは是非試してみて下さい。

AIを活用した怪人生成の紹介は以上になります。
実際に試してみるとわかると思いますが、AIの提出してくるアイデアは凡庸すぎるものから奇抜すぎるものまで様々で、「帯に短し襷に長し」といった印象を否めないものが多いです。そのため100点満点のベストアンサーをAIが出してくれるまでガチャを回し続けるよりも、良さそうな案を選んで推敲したり、複数案を統廃合して一つの成案にしたりするのが現実的です。

以下ではその推敲の過程を紹介したいと思います。

推敲・その1 コンセプトをはっきりさせる

では試しに(1)の設定に対して第一段階の推敲をしていきたいと思います。
第一段階の推敲のポイントは、怪人のコンセプトをはっきりさせることです。例えば(1)の怪人は虫、食虫植物、無数の触手、拘束、溶解液といった特徴がありますが、これならば食虫植物のモチーフに一本化した方がいいので、虫を排除し、その代わりに他の食虫植物要素を足して以下のように書き換えます。

「食虫植物の怪人。頭と胴体がウツボカズラで手がハエトリソウになっている。全身を無数の繊毛が覆い、そこから粘液を放出して相手の動きを封じたり、拘束したりすることができる。また、口からは強酸を含んだ粘液を吐き出すことも可能」


推敲・その2 キャラを立たせる追加要素を考える

さて、これで基本情報が固まってきました。次にキャラを立てるための要素を追加し、第二段階の推敲をしていきます。せっかくコンセプトをはっきりさせるために推敲の第一段階でシンプル化したのになぜ今度は要素を追加するのかと思われるかもしれませんが、この追加要素の目的は基本設定を複雑化することではなく、キャラに性格付けを行うためのものです。何を追加してもいいのですが、それを加えることでキャラのイメージや性格が一気に具体的になるようなものを考えて下さい。

例えばこの怪人は「体中に粘液を分泌する繊毛が生えていてそれで相手を拘束する」という特徴があるので、何となく「ベタベタ」した印象があります。そこで「ベタベタ」という言葉からの連想で「馴れ馴れしい」という性格を追加してみましょう。すると、「こっちへ来いよ」「仲良くしようぜ」などと言いながら繊毛触手でベタベタの体を寄せてくる気持ちの悪い敵の姿が浮かんできます。基本設定に性格が加わることで言動のパターンなどもイメージしやすくなるので、どんな悪事をして、どんな方法でヒロインを苦しめるのかといったストーリーのアイデアが浮かびやすくなります。

基本設定が固まってきた段階で追加要素を入れてキャラとイメージを一気に固めるという方法は、何度か怪人案を作る中で考案したものですが、この段階が挿入されることでオリジナリティが生まれると同時に、今まで単なる情報にすぎなかった設定にキャラとしての生命力が宿るので非常に重要です。基本情報を固定して追加要素を複数案を考えてアイデアを豊富化するのも良いと思います。
例えば、「馴れ馴れしい」の代わりに「怠惰」という要素を追加すれば、自分から動こうとはせず、人を寄せ付ける強力な匂いを発して捕食するスタイルの怪人の案が浮かんできます。

怪人キャラの成案

大体これぐらいイメージが膨らめば、それをまとめたり派生させたりして以下のような成案が得られます。

要素:触手
追加要素:馴れ馴れしい

食虫植物の怪人。頭と胴体がウツボカズラで手がハエトリソウになっている。全身を無数の繊毛が覆い、そこから粘液を放出して相手の動きを封じたり、拘束したりすることができる。また、口からは強酸を含んだ粘液を吐き出すことも可能。馴れ馴れしい性格で、すぐに抱き着いてベタベタしたがる。

台詞:「ウヒヒ…仲良くしようぜぇ…」
作戦:植物園に潜伏し来館者を捕食する
特殊能力:ベタベタ粘液を分泌する繊毛が生えた体で相手を拘束する
陵○方法:強酸粘液でコスチュームを溶かしながらツタ状の触手で陵○する

なお、各カテゴリーの位置付けは大体以下のようなものです。
「台詞」の欄には怪人のコンセプトやパーソナリティーが生々しく伝わってくるような言葉を入れてイメージを掴みやすくします。
「作戦」「特殊能力」「陵○方法」には、基本設定と性格から考えて、この怪人がどんな悪事を行い、どんな方法でヒロインを苦しめるのかを想像して記入します。この辺の記述は怪人の設定から派生させたストーリーのアイデアでもあります。


成案をどの程度具体的にするかはケースバイケースで変わってきます。実際に登場させるときに肉付けするためにあえて作り込まないというやり方もありですし、逆にもうそのまますぐに話が作れるぐらいに詳細に作り込んでしまうのも良いと思います。

ヒロイン工学研究所 2022/09/11 21:19

140字キャプションの可能性

140字の文学

文章の練習も兼ねて140字以内で自作絵にキャプションを付けてみることにしたのですが、実際にやってみるとなかなか難しく、試行錯誤しながらちょっと研究していました。

まず最初に「なぜ上限を140字にしたのか?」についてですが、これはTwitterでのコンテンツ化を企画していたからというのが一番の理由なのですが、それとは別に、短文の表現力の可能性について以前から関心があったからでもあります。
https://twitter.com/heroinekougaku/status/1568221853315141633

実際にやってみると、140字以内でワンシーンの味わいを表現するのはとても難しく、即興的にサラサラと書くというようにはいかず、基本となるコンセプトを決め、そのために描くべきポイントを絞り、効果的な構成を模索し…という非常に構築的なアプローチとなりました。
もともとこの試みは文章力を養うつもりで始めたことで、そのときは文章力=描写力のように考えていましたが、むしろ情景全体の中から核となる一部をトリミングしてそこから構成するという編集力こそがまず重要なのだと痛感しました。


俳句添削とグルメ記事

140字以内のキャプションを書くために参考にしたものが二つあって、一つは「俳句添削」、もう一つは「グルメ記事のキャプション」です。

俳句というといかにも即興的な印象がありますが、実際には最初の印象をラフに詠んだ原句から完成した成句になるまでは非常に綿密な推敲作業が加わっていることが多く、その過程をまとめた本がとても参考になりました。
17字で情景世界を伝えるためには、ポイントを絞り、効果的に構成し、一語一語を精選する緻密な工程が不可欠であり、このテクニックの多くはそのまま短文作成にも活用できると思いました。

一方、雑誌のグルメ記事に掲載されているキャプションも非常に参考になりました。
通常こうした記事では料理の写真の近くに70~120字程度のキャプションが付いているのですが、こうした文章は料理のある点にピンポイントで焦点を当てることで読者がその魅力をイメージするよう促す機能を担っており、「画像とセットで欲望を刺激する短文」という意味で私が作ろうとしているものと共通しています。
当初はファッションや観光など色々なジャンルの記事のキャプションを参照していましたが、やはりエロと親和性があるグルメ記事がもっとも役に立ちました。ちなみにいくつかの雑誌のグルメ記事を読みましたが、今回の目的に一番合致していると感じたのは「東京カレンダー」のグルメ記事のキャプションでした。プロの料理人などをターゲットにした専門雑誌などではイメージ喚起よりも正確な情報提供が優先される傾向があり、あまり参考になりませんでした。ただ、このことで、具体的記述が読者にとって「イメージ」になるケースと「情報」になるケースがあることを知り、新しい興味関心が湧きました。


漢詩が参考になるかも

140字で何かを表現するための構成術、ということを考えていたときに、頭に浮かんだのが漢詩です。試しにネット上にある絶句と律詩の形式の有名な詩の現代語訳をコピペして字数を調べたところ、(同じ詩でも訳し方によってかなり字数に幅が出ますが)大体絶句は70~110ぐらい、律詩は180~230ぐらい(五言と七言の違いは翻訳を経由すると字数上あまり顕著な差を生まないようです)といった感じでした。
そこで「140字でどれぐらいのものが表現できるか?」「それを効果的に構成するにはどうしたらいいか?」という問題は漢詩の絶句を研究すると参考になるんじゃないかと期待しています。


キャプションという形式

今回の試みは単なる短文作成ではなく、自作絵にキャプションを付けるというものなので、その点についても考えてみました。

キャプションのテキストは必ず画像とセットにして、テキストと画像が相互に影響し合う関係において鑑賞されるものなので、作成するときにも画像との関係を考える必要があります。ここが言葉の力だけで効果を生もうとする小説などの執筆と違うところです。

キャプションにおける記述には大きく分けて二つのタイプがあります。それは画像に「描かれていることを書く」記述と「描かれていないことを書く」記述です。

描かれていることを書く記述

例えば、磔になったヒロインの周囲を敵兵が囲んでいるシーンの絵の場合、「磔」や「囲まれている」という事実は絵を見ればわかることなので、これを記述することは、その事実を強調したり、鑑賞者の視線を記述したポイントに誘導する効果を持ちます。こうした記述は絵を鑑賞するポイントや順番を教えるガイド役みたいなものです。
この鑑賞の順番の指示という性格は映画のカットに類似した効果をもちます。磔にされたヒロインのカットの次にそれを取り囲む敵兵たちのカットを繋ぐのか、それとも逆にするのかによって、同じ映像素材を使っていても別の味わいをもった映像が生まれますが、これと同じことをキャプションは記述の順番によって行っていると言えます。

描かれていないことを書く記述

画像に示されていることを書くことが強調と誘導という鑑賞のガイド的な機能をもつのに対して、画像に示されていないことを書くことは、画像の世界を補充して豊かにしつつ、画像を起点にして読者が想像力を働かせるように促します。
例えば先ほどの磔シーンの絵で、ヒロインの視線の先に何があるかが描かれていない場合、キャプションでそれを記述することによってシーンに対する解釈が変わり、画像から受ける印象も変わります。
磔のヒロインの視線の先にあるものが、「見渡す限りの敵の大軍勢」なのか、それとも「百人ほどの敵兵の向こうで悲しみ嘆きながら処刑を見守る市民たち」なのかによってシーンのニュアンスはかなり変わりますが、こうしたニュアンスはキャプションの記述によって生まれ、画像に投影されることになります。

画像に描かれていないものを言葉で添えることによって画像のニュアンスを変えてしまうという手法は、「この写真でボケて」といったお笑いの大喜利でも使われます。こうした遊びを知っている方にはわかると思いますが、言葉を後付けすることによる画像の印象操作は非常に強力であると同時に、かなり突飛な発想の言葉でも印象操作に成功するほど自由度が高いです。キャプションがもつ可能性の大部分はこのタイプの記述で何を書くかにかかっていると言えます。


「描かれていること」は画像内容によって限定されていますが、「描かれていないこと」はほぼ無限定です。そのため網羅的に列挙することは出来ないのですが、いくつかの典型例を紹介しておきます。

・そのシーンの前に何があったか(例:どのようにして捕まったのかなど)
・そのシーンの後に何があるのか(例:これから公開処刑されるなど)
・アングルなどの関係で描かれていないもの(例:後姿のキャラの表情など)
・画角の外にあるもの(例:遠くから心配そうに見つめる人々など)
・触覚や臭覚などに関する情報
・登場キャラの台詞や心理



習作

以上のような研究と並行して、「マイナーキャラ限定お題募集」企画で描いた永瀬綾の絵に140字以内のキャプションを付けた習作を作成しました。

4枚の差分により構成された絵なので、キャプションも4つ作りました。差分展開とキャプション構成の関係についてはこれからもっと研究していくつもりです。やはり前述の漢詩などが参考になるんじゃないかと思っています。
また絵の中に埋め込むとなるとレイアウトの問題も重要になりますが、これについてはまだちゃんと研究していません。
今回は「姐御肌蹂躙」のように差分が展開しても変化しないタイトルのようなものを表示して、その言葉とデザインによって展開する差分劇の中に一貫したコンセプトを提示する手法を試しました。

ヒロイン工学研究所 2022/08/19 21:35

コンティニュー画面の魅力について考える

「敗姫処分 No.2 add'l」に収録する映像作品として格闘ゲーム風コンティニュー画面を制作することになったという話は先日アップした制作後記の中で書きましたが、その制作過程で色々と勉強になったので備忘録用に記事にしておきたいと思います。

過去作品を研究

リョナ・ヒロピン嗜好のある方なら、対戦格闘ゲームやアクションゲームのコンティニュー画面で昂奮したことがあるんじゃないかと思います。そのほとんどは、戦闘不能になったヒロインがハァハァしているだけの単純なアニメーションのループなのですが、そこにはバトル中に体験する興奮とは違う独特の魅力があります。
こうしたシンプルに見えて味わいのある映像作品には目立たない小さな仕掛けや工夫が満載なので、自分で制作する前にまずはそこを解明しようと思い、主に90年代頃の作品を中心にコンティニュー画面の資料をネットで収集し研究しました。

場面転換の意義

まず重要なのは、コンティニュー画面がバトルやアクションが行われる通常のゲーム画面から一度場面転換して始まる独自の形式をもっているという点です。
これには例外もあって、例えばベルトスクロール型アクションゲームではプレイヤーが全滅したときに場面が転換しないままコンティニューのカウントダウンが始まるようなタイプ(例:メタルスラッグ)もあります。おそらくこれはゲームを中断させないための配慮だと思われます。
しかし、ヒロピン的に魅力的なのはやはり一度暗転したりしてそれまでのゲーム画面から転換しコンティニュー専用の画面に移行するタイプです。場面が転換しないタイプのコンティニューは全滅してもすぐにその場から再開できるので、プレイヤーの意識はバトルモードを維持できますが、バトルやアクションのフィールドから一度強○退場させられる場面転換型では意識が一度クールダウンし、そのことが戦闘不能になったことを印象付けます。
多くのコンティニュー画面はちょっと薄暗く、そこではさっきまでとは違いヒロインを操作することが出来ません。それはまさに地下の牢獄に拘束されてしまったような感覚です。つまり場面転換型コンティニュー画面というのは、さっきまでパワフルな戦うヒロインだった存在がプレイヤーがコンティニューしてくれるのを待つだけの弱い存在に転落したことを印象付ける効果をもっているわけです。
なお、対戦格闘ゲームにおいてはコンティニュー画面の前に会話シーンが入ることがあります。多くの作品では勝者の弁が一方的に発せられるだけですが、例えば「DEAD DANCE」のように勝ち誇る勝者の台詞に続き敗者の絶望的な台詞が入るような凝ったものもあります。また、多くの作品ではここで「ヒロインの負け顔」が表示され、敗北感がより視覚的にドラマチックに演出されます。ゲーム設計として考えるとテンポの問題もあるので一概にどれが良いとは言えませんが、敗北感の演出という意味では、「非場面転換型<場面転換してコンティニュー<場面転換して会話画面になりその後にコンティニュー」の順に豪華になると言えます。



BGM、SE以外のリズム的要素

格ゲー風のコンティニュー映像を制作する上で最初から決めていたのは、BGM、SEは使わないということでした。理由は簡単で、映像と音響の関係について勉強をする時間がなかったからです。下手に合成して完成度を落とすぐらいなら最初から音響なしでも成立するような映像を作ろうと思いました。
音響なしでもカットのタイミングや被写体の動き、カメラワークなどを通じて映像にリズムを作ることは可能です。他にも格ゲー風映像ならば、会話シーンの文字表示スピードやカウントダウンのペースなどでもリズムを調整できます。
こうしたほとんど目立たないような要素の微調整を重ねていくことで生まれるリズムは意識レベルで捉えにくい分だけ無意識レベルに訴えかける力をもっており、この作業は作品のコンセプトと深く結びつきながらクオリティーを左右するとても重要なものだとわかりました。
コンティニュー画面を通じて生まれるヒロピン感が「目まぐるしく転落していく過程」なのか「ゆっくりと絶望の奈落に堕ちていく過程」なのかといったコンセプトの問題は、主にこうした無意識レベルに刷り込まれるリズム的要素によって決まってきます。



シーン化によりドラマチックさを演出

ヒロピン嗜好に訴えるコンティニュー画面にはドラマチックさがあります。まずは「ヒロインが負けてしまった」という事実、それに続き「ヒロインは再び立ち上がって戦えるのか、それともこのまま敗者として消えていくのか」という二者択一の切迫感が高まり、そして最後には再起がかなわずヒロインが完全敗北(ゲームオーバー)したことがはっきりと印象付けられます。
もっとも簡略化されたケースでは、これらの段階はカウントダウンの数字と「GAME OVER」の文字表示だけで表現されます。ここにヒロインの負け顔や、ハァハァと苦し気な息をするアニメーションなどが加わるとさらにドラマチックさが増すわけですが、もっともドラマチックなコンティニュー画面はこの過程全体を一つのシーンとして描き出します。

このタイプの代表作は「ファイナルファイト2」です。

https://www.youtube.com/watch?v=DO9b1d4dung
まずプレイヤーのマキが全滅するとバトル画面から暗転してコンティニュー画面に転換します。そこに映し出されるのは地下を思わせる薄暗い空間に荒縄で両手を縛られて吊るされるマキの姿です。ここで敗北と戦闘不能の事実が「敵に捕まって監禁された」という状況描写を通じてよりドラマチックに印象付けられます。
そしてコンティニューのカウントが始まりますが、それと同時に下から水が迫ってきます。単に監禁された状況描写とともにカウントダウンが表示されるのではなく、タイムリミットの切迫が水責めのシーンとして描かれるわけです。カウントダウンと水位上昇が対応していることはすぐにわかるので、プレイヤーはカウントがゼロになったときに水位が顔まで達してマキが溺死する運命を予感します。カウントダウンというデジタルな表現を水位上昇というアナログな表現と対応させることで切迫感がより直感的になるだけではなく、「このままじゃ死ぬ」という意味付与までされてさらに強化されます。また、水位上昇と連動してヒクヒク動くマキのアニメーションのピッチが上がるので、それにより「迫りくる溺死に対する恐怖」が伝わってきます。
「表示された数字が減っていきゼロになるとゲームオーバーになる」というシステムをそのまま表現しただけの簡略化されたコンティニュー画面と比較すると、「ファイナルファイト2」のコンティニュー画面はこのシステムを「捕まって水責めされ死が迫っている」というシーンに置き換えることで一連の展開を意味をもったドラマに変換しています。この「意味をもったドラマの中で体験する焦燥感や切迫感」こそヒロピン嗜好にとっては何よりも重要なのです。ヒロピン視点から考えた場合、コンティニュー画面の魅力はコンティニューのカウントダウンというゲームシステムをいかにドラマチックに見せるかのギミックアイデア(例えばカウントダウンと水責めの水位上昇を対応させる)にかかっていると言えると思います。

ゲームオーバー=完全敗北の刻印

カウントダウンの焦燥感、切迫感は数字がゼロになったときに絶頂に達して、そこでゲームオーバーが確定すると、今度は一転してカタルシス性の放心と虚無感が広がります。この緊張と弛緩の関係は性的なオルガズム現象と似ていると言えるかもしれません。
「ファイナルファイト2」ではこの瞬間、映画のストップモーションのように動きが停止し画面が白黒に変わります。これは精彩と活動性を失う=死の暗喩として直感的に機能する演出ですが、これを「写真になる」という意味で捉えることも可能だと思います。言わば「その姿が既成事実として記憶に刻印される」というイメージです。カッコよく活躍していたヒロインも最終的には無残に完全敗北した姿で永久保存されてしまう、そんなフェティッシュな魅力をもった演出だと言えます。
具体的にどのようなゲームオーバー演出が効果的かは一概には言えませんが、コンティニュー画面が本質的に焦燥感を煽る性格のものであることから考えれば、それに続くゲームオーバー画面はさらなる焦燥感や興奮を煽るようなものよりもカタルシス的な性格をもったものが相応しいと言えるような気がします。

習作の紹介

過去のゲーム作品を研究した後、同人作品に収録する動画の制作に入る前に手元の自作絵を素材にして習作を作りました。せっかくなのでここで紹介しておきます。

対戦格闘ゲームの会話画面風の動画の習作です。
この動画の制作を通じて文字表示のスピードのわずかな違いで印象が変わることを知りました。


コンティニュー画面からゲームオーバー画面までの習作です。
見てわかるように完全に「ファイナルファイト2」をリスペクトして作った作品です。カウントダウンの切迫感をアナログ化するギミック(「ファイナルファイト2」では水位上昇)として接近してくる触手の群れを使っています。また、コンティニュー画面開始時にレンズブラーをかけることで場面転換した感じを出しています。


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今回の研究成果を詰め込んだ格闘ゲーム風コンティニュー動画が収録された「敗姫処分 No.2 add'l」はDLsiteにて販売中です。
⇒作品ページへ

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