遠蛮亭 2021/07/18 16:04

世界包括神話-1.インド

※これはカクヨムさんにあげたものの焼き直しです。画像ナシの講釈垂れなのでまず、相手にされないと思いますが、こういうのが元ネタになってますよということで。

 せっかくCi-enさんに登録したのだからある程度更新はしたい、というわけでなにかつなぎななるネタはないかということで。くろてん=世界包括新話なわけです。全世界の神話伝説とか、歴史からのいいとこどり。ということで世界中の歴史・神話に仮託してますので、それを毎日「今日はインド神話、今日はケルト神話」みたいに揚げていけばしばらくはなんとかなるのではないかと。

 ということならまずはインド。遠蛮は30年前、まだ紀伊國屋天神店が存在していた当時に山際素男先生の「マハーバーラタ」を読んでインドにハマり、インドと名のつく本なら何でも読んできた男。当然、拙作くろてんの主人公・新羅辰馬くんの力の源泉「ハリ・ハラ」もやはりインドの神格です。しかも1柱でありながら2神格が同居するというよーわからん神様。

 まあこれを説明するだけで今回のエッセイになりそうなんですが、話しましょう。かつてインド亜大陸の天にはデーヴァとアスラという二つの神族が存在しました。しかしかれらの力も長い悠久の時間……ユガ、という、最初の素晴らしい次代クリタ・ユガが172万8000年、ついでトレーター・ユガが129万6000年、ドゥヴァパーラ・ユガは86万4000年、現在我々が過ごす末法の世、カリ・ユガですら43万2000年つづくとされ、至高神ヴィシュヌの1日はさらにそれより長い311兆400億年だそうです……のなかで神力が衰えるわけです。それでアムリタ(甘露=不死の霊薬)というのを作らねばならないのですが、そのためには乳海という、宇宙に等しい海を攪拌せねばなりません。

 ここで白羽の矢が立つのが破壊神シヴァと、維持の神ヴィシュヌ。まずヴィシュヌはクールマ(亀)になって乳海の台座になります。そんで「俺が支えてやるからシヴァさんよ、攪拌しろや」と。まあこの亀は実のところ、「亀王アクーバーラ」という別存在という説もありですが。ちなみにこのとき撹拌棒として使われることになったのはナーガラージャ(蛇王)の最強・ヴィシュヌの寝台でもあるアナンタ(名前からして強い。無限という意味です)がマンダラ山をぶっこ抜いてつくったもので、これにまた蛇王ヴァスキを絡ませてシヴァはじめとした神々がぐいぐい引っ張ります。途中偉い山火事と天変地異が起きて象やライオンがつぎつぎ死にますが、そこは神王インドラが必殺の雷霆(ヴァジュラ)でなぎ払い、しかし引っ張られるヴァスキという蛇王、毒竜なのですよ。だから引っ張られて苦しくなって、神すら殺せる毒を吐く。これに耐えうるのは最強無敵の破壊神・シヴァしかいません。矢面に立って毒をかぶり、耐え抜くんですがそれ以後毒の後遺症で喉が蒼くなります。しかしアムリタはまだ出ない。そこで梵天ブラフマーはヴィシュヌ神に伺いを立て、するとヴィシュヌは「全ての神に力を授けるから、けっぱれ」とマンダラ山をさらにぐるぐるさせるわけです。そしたら出てくる出てくる、太陽と月とシュリー(ラクシュミー女神=ヴィシュヌ神妃)、酒の女神と白馬と宝珠、そして最後にアムリタを携えた医神ダヌヴァンタリ。

 ここまでならめでたい話ですが、このときアスラがまあ、悪い気を起こして、アムリタを強奪、自分達で独占しようとします。どっこいそこは全能のヴィシュヌが見霽かして美女に化身、色香で惑わしてアスラを骨抜きにし、アムリタを取り返すのですが……アスラの他にもこのデーヴィー(女神)に惑わされたバカがいたわけで、それが破壊神シヴァ。ヴィシュヌは「ちょ、待て、おれやっておれ!」と言うのですがシヴァは「ええいうるさい!」とヴィシュヌを組み敷き、この交合でヴィシュヌは子供というか、自分達の分身のような存在を産むことになります。それが創造神ヴィシュヌと破壊神シヴァの両方の属性をもつ神様である、ハリ・ハラ。さらにこのときラーフ(羅號)とケトゥ(計都)というアスラが、神々がアムリタを飲んでる隙にさらにそれを奪おうとしますが、これはヴィシュヌ神の円盤(スダルシャナ、といいます)に首刎ね飛ばされました。でも死なないでこの二人のアスラの刎ね飛ばされた頭が、日食と月食を起こす原因になります。これはマハーバーラタを読めば詳しく書いてあります。以前は1巻9800円でしたが今電子書籍で1000円くらいです。ぜひ買いましょう。

 とはいえ、じつのところインド神話においてハリ・ハラという神が独立して信仰されている度合いは低いいうか、ヴィシュヌ派とシヴァ派というのがあまり仲良くないもので、互いに尊重する話にならないのですね。ヴィシュヌ派にすると「乳海からアムリタを産ませた功績」なんですがシヴァ派は「そのヴィシュヌを孕ませた功績」を誇るというか、そんな感じです。

 忘れてましたが。インド神話といえばですよ。「きゃんきゃんバニー」というゲームをご存じでしょうか、遠蛮にとっては脳が焼き切れても恨みきれないほどの恨みがあるこのゲーム、ナビゲーターが「スワティ」というのですが、まあインド神話のサラスヴァティー川の化身・地母神で最高神ブラフマーの娘にして神妃……の分霊である仏教の弁財天……見習いなんですが、このスワティ、ゲーム中№1人気なんですよ。しかしゲーム中エロができないというね、もう大昔から今現在に至るまで、慚愧の念たらたらなわけです。

 ということも語りつつ、ついでマハーバーラタ。

 インド神話というとやはり「マハーバーラタ」にとどめを刺すわけです。世界最大最長の叙事詩であり、「ここにないものは、どこにもない」といわれる物語の宝庫。

 ただまあ、そのマハーバーラタを余すところなく紹介する才覚も紙面も、遠蛮にはありません。なので枝葉になってる物語を全部取っ払って、ベースになっているお話だけ軽く語るとこんな感じ。ちなみに、世界最多の神を誇る神話というのはおそらく日本の八百万ですが、インドには330万の神がいるとされ、マハーバーラタはその中でも「至高神にして維持の神」ヴィシュヌと「神王にして武神」インドラの友情話が中核になります。物語中ではヴィシュヌはクリシュナ、インドラはアルジュナという人間に、それぞれ化身しているわけですが。

まずシャンタヌ王という人物がいまして、この人には嫁さんいるんですが、それがシヴァ神妃ガンガー。ただ、ガンガーは自分の出自を明かすことなくシャンタヌとくっついて、そして子供が生まれるたびガンジス川に流します。これは神の子を手に煮返す儀式なのですけども、シャンタヌはなかなかできた人物だったために8番目の子が流されそうになるとこれを止めます。この子供がのちのバラタ族大元老・ビーシュマ。武芸と武勇においてパラシュラーマ(ヴィシュヌの化身の一人)に匹敵し、そしてヴェーダに精通し、射手であり英雄であり大政治家という完璧すぎる人物ですが、シャンタヌ王が、父の不貞というか、その当時ガンガーは天に帰っていますので遠慮の必要もないところながら、新しい妃を迎えていいか煩悶するわけです。そうするとビーシュマ……当時の名前はデーヴァヴラタ……が「じゃあ僕は王位はいりませんし、なんなら女性と交わることも一生しません。助言者にはなりますが、国の枢要に関与することも致しません」と誓いを立てて一生これを護ったために、「ビーシュマ(偉大な誓いを護った人)」の名で知られるようになります。ただこのビーシュマ、決して女性に手を上げないという誓いのゆえにのち、クルクシェートラの戦いで男装の麗人シカンディンに射殺されるという運命を決定づけられました。このあたり、ちょっと深い話がありますが割愛。

それから2代下って、パーンドゥとドリタラーシュトラという兄弟がシャンタヌの孫として生まれます。この二人の親は事情があってバラモンなんですけども、そこも割愛。で、弟・パーンドゥのお嫁さんがクンティーと言いましたがこのひとが神様を呼び出して子供を授かる秘術というのを、賢者ドゥルヴァーサスから授かりました。好奇心から試したクンティーの前に太陽神スーリヤが現れ、そんじゃ子供やるわ、と与えたのがカルナといって鎧を着たまま生まれたことで有名ですが、このカルナ、クンティーというクソみたいな姫君の我が身かわいさで、あっさり捨てられます。そして最下級の御者に拾われて育ち、のちドリタラーシュトラの100人の息子の一人ドゥルヨーダナと友誼を結び、王に封ぜられクンティーがのちに産む5兄弟……パーンダヴァ……と殺し合う宿命になります。このくだりのクンティーが本当にいやで、だから遠蛮はアルジュナよりカルナが好きなのですが、インド神話の思想は「全ては神々の遊戯(リーラ)」なので人間のあがきはどうしようもなかったりします。ヴィシュヌの化身であるクリシュナですら、最終的には人間である以上宿業を避けられませんでした。

そして、ちゃんと子をなしても不貞といわれない年になると、クンティーはダルマ(法と正義の神)の子ユディシュティラ、ヴァーユ(風神)の子ビーマセーナ、インドラ(武神)の子アルジュナを次々と産みます。パーンドゥはマードリーという姫と浮気してこれを妻にし、クンティーはしかたなくマードリーに神降ろしの秘術を伝授、マードリーはアシュヴィン双神(医学の神・美神)の子ナクラとサハデーヴァをもうけます。

この5人……実際にはアルジュナ1人といっていいですが、まあ大著なのでユディシュティラとビーマにも見せ場はふんだんにあります。下二人は完全に脇役……がクリパ師と、なによりドローナ師という武芸練達のバラモンに師事して、やたらめったらな強さを……ドリタラーシュトラの100王子がまったく相手にならないレベルで……発揮するようになります。これに対抗するため、ドゥルヨーダナはカルナを厚遇するわけですが。

そしてドリタラーシュトラ王ですが、この人はまともな人だったので王家の正統を弟のパーンダヴァ、その長兄ユディシュティラに返そうとするのです。いったんはそうなり、王都インドラプラスタでユディシュティラは善政を敷いてダルマプトラ(法王)と喚ばれるようになって周囲から帝位につけと薦められます。この当時クリシュナの敵ジャラーサンダを倒すためにビーマとアルジュナがかり出されるという一幕もありますが、これはアルジュナとクリシュナの絆を書くために必要ではあるものの作品の中でそこまで重要ではないですね、割愛。

ユディシュティラの声望高まるにつき、ドリタラーシュトラの息子ドゥルヨーダナと100王子、その友人で賭博名手のシャクニ王が謀って、ユディシュティラをハメました。具体的にはさいころ賭博で国と財産と兄弟と妻の全てを奪ったのです。それを免れるため、パーンダヴァとその角ドラウパティーは森に隠棲することになります。ちなみにドラウパティーはこの時代最高の英雄クリシュナの姪に当たり、武芸大会でアルジュナが射止め、「最高にえーもんを手に入れました!」と母・クンティーに報告すると「じゃあ5人で分けなさい」とパーンダヴァ5兄弟共通の妻になるというね、なんかもう、クンティーはいつもいつもろくなことしません。

この隠棲生活の間にビーマが冒険して自分の魂の兄に当たる存在・猿王ハヌマーンに出会ったり、はたまた最強の武具を求めて旅するアルジュナがシヴァ神からガーンデーヴァという神弓を授かったりしますが、大事なのは隠棲12年最後の12ヶ月、マツヤ国での暮らしです。というか最後の12ヶ月、人前に出て暮らしながら正体を見破られたなら、また12年間追放という約束だったので何処に行くかは慎重に選び、賢王ヴィラタのもとに身を寄せます。ユディシュティラは召使い、ビーマセーナは料理人、アルジュナは宦官、ナクラは厩番、サハデーヴァは牛飼いとして。

そして12年の隠棲がすぎてなおパーンダヴァが健在で戻るや、ドゥルヨーダナは今度こそこれをたたきのめそうとして軍を起こし、アルジュナ、ドゥルヨーダナ両者は鍵を握る人物、則ちクリシュナを訪れるのですが、このときクリシュナは「武装しない一人のわたしと、完全武装のわが100万の兵」のどちらかをえらぶよう聞き、アルジュナがクリシュナを選んだことで勝負は決しました。こののちクルクシェートラ平原において「核戦争?」と思われるようなわけわからん戦争の描写が繰り広げられ、基本的にクリシュナの奸智により(ビーシュマは女を殺せないからシカンディンを前に出せ、ドローナに正面切って勝つことは出来ないから息子のアシュヴァッターマンが死んだぞという噂を流せとか、太陽が天にある限り強くある敵の前には「幻力(マーヤー)」で空を暗くし、敵が錯誤したところをアルジュナに殺させる。アルジュナもカルナ相手に正々堂々とは戦わず、相手の戦車が溝に車輪撮られて動けなくなったところを必殺技「ブラフマシラストラ」で粉砕です。かように悉く、パーンダヴァとクリシュナは汚い)

こうしてクル族とパーンダヴァの対戦はパーンダヴァの勝利……で終わるはずが、黙っていないのがアシュヴァッターマン。名前(馬のいななき)のごとく吼えて復讐を誓い、夜襲。結果その場を離れていたパーンドゥ軍を、一人残らず殺します。父ドローナの首を落としたドリシタデュムナは、金的潰してから斬首。

しかしまあ、結局クリシュナはこれに黙ってないわけです。報復の報復にくる。アシュヴァッターマンはドラウパティーの腹の子にブラフマシラストラを放ちますが、これはクリシュナの神力に阻まれ、王子パクシリット(確か、「試練を越えた者」の意)はのちに無事誕生。アシュヴァッターマンは殺されこそしませんが追放されます。

それから数十年してユディシュティラは捨身を誓い、そしてヤマ(閻魔。最初の人間)の世界、地獄を旅して多くの苦悩を乗り越え、最後に兄弟たちの魂と再会して全員で昇天する、というのが、「入れ子」部分を省いたマハーバーラタのざっくりした紹介になります。

思ったほど今回、長くはならなかったですね。ここでクルクシェートラの戦いを逐一解説してたら文量えらいこっちゃになるところですが、たぶんこれくらいの文量でちょうどいいのだと思います。次回はイラン神話をちょこっとやりたく思います。

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