遠蛮亭 2023/03/21 12:56

23-03-21.「くろてん」小説再掲1幕1章3話

こんにちわです!

あとちょっとで「日輪宮」2章が完成します! そのあとちょっとが難しかったりするのですが……。2章が終わったら3章、みのりんの召喚した牛頭天王との戦いで、ここで負けたら異種姦シーン。その先4章は再起した先手衆と戦って負けたら3人娘順番に犯されてのまとめて旗挿し掲揚、5章は脱出完了後のエピローグ的シーンなのでひとまず放置。ほかには2~4章で敗北した後に遷移する瑞穂さん凌○シーンも作らないと駄目ですが、設計図が見えてきたのでこの先そう難しくはありません。体調さえ狂わなければ。

それでは、今日もくろてん再掲させていただきます。

黒き翼の大天使.1幕1章3話.手折られる花-上

6月13日

一夜明けて。

私室で夜を徹した瑞穂は強い眠気と自己嫌悪の念にとらわれていた。敵を倒す、それを考えるにつけ、自分がどこまでも浅ましく汚い手段を考えつくことに、どうしようもない厭わしさを感じる。私室で茶を点て一服喫(きっ)してから斎姫の正装神衣、かんみそに袖を通す。

この神御衣、デザインは可愛いのだが、どうにも露出度が高い。瑞穂はどうしてもと譲歩を引き出してインナーを下に着ることを内宮府の歴々に認めさせたが、歴代の斎姫は下着無しでこれを着ていたというのだから恐ろしい。ウブな瑞穂としてはインナーがあっても恥ずかしさで死にそうなほどだ。胸が小さければまだしもかもしれないが、彼女の華奢な身体は局地的に121センチととてつもない巨大さを誇り、上半身を覆い隠すはずの比礼(ひれ=肩から胸にかけてかけるケープのようなもの)が思い切り押し上げられてなかば乳房をむき出しにしており、どうしようもなく恥ずかしい。

神楽殿に向かうと、ほかの姫巫女四人の姿があった。

凜然と立つ長身の、黒い巫女服に藍色の横ポニーテールの、目元涼やかな少女が、神威那琴(かむたけ・なこと)。武威の名門、神威家の嫡女で巫女の2位である少女は、その凜々しさから瑞穂とヒノミヤの人気を二分する。神官、司祭らの男衆に人気が高い瑞穂に対して、那琴の人気は巫女や宮女ら女性たちに集中しているが。一つ年下の瑞穂が6才で神楽坂家に迎えられて以来の幼なじみであり、両者の仲は親友と言っていい。少なくとも瑞穂の認識はそうである。

「瑞穂、おはよう。ふふ、今日も可愛いな、きみは」
男装の麗人然とした那琴は、そう言うと瑞穂の腰に腕を回し、抱き寄せるとくい、とあごを掬い上げる。たぶん冗談なのだと思うが、瑞穂へのこうしたスキンシップから、二人の百合疑惑がヒノミヤのあちこちでまことしやかにささやかれているのは確かだ。

「はいはい、なこちゃん、冗談はほどほどにね」
瑞穂はそう言って、那琴の腕からすり抜ける。
「冗談ではないのだが……そういえばお父上が倒れられたそうだな。苦衷(くちゅう)お察しする」
「うん・・」
答えながら、那琴を疑っている自分を瑞穂は嫌悪する。なこちゃんまで疑ったらどうしようもない、とは思うものの、感情とは別のクレバーな部分が、否応なく那琴を被疑者の一人に思わせた。なにせ那琴は敵の首魁、神月五十六の孫娘なのであるから。

「おはよ~う~、みずほちゃ~ん~♡」
間延びした声でぽや~ん、と声をかけてきた、栗色の長髪に金環を嵌めた女性は四位、沼島寧々(ぬしま・ねね)。姫御子の中では才年長の20才だが童顔で、実年齢よりかなり若く見える。袖やらなんやらにフリルをつけまくった薄ピンクの改造巫女服は彼女がヒノミヤの広報戦略担当として、言うなればアイドル活動をしている証拠だ。瑞穂のファン、那琴のファンとはまた別のファン層を確立していて、ヒノミヤ外の太宰市民、というかアカツキ国民にも、ヒノミヤの広報さんとしてそれなりに周知されている。齋姫という国の象徴である瑞穗には、当然及ぶべくもないが。

いつでも笑顔の寧々を、瑞穂は1秒だけじっと凝視する。「?」と首をかしげる寧々。業務用なのか本心からの笑顔なのか判然としない表情から、彼女が敵か味方かは判別しかねる。神力を使えば分かるだろう。瑞穗のもつ三つの能力のうち一つはサトリ。人の思考を読む力。それをもってすれば思考など簡単に読めるが、これはプライバシーの問題に抵触する。よってモラルの高い瑞穗がそうそうは軽々に使えない。

寧々に挨拶を返して次の相手は五位、鷺宮碧依(さぎみや・あおい)。瑞穂より2才年長の17才。名前の通りに碧い長髪をハーフアップに結い上げた、飄々とした雰囲気の美少女だ。もともと流れの武芸者であり、神楽坂相模の推存(すいぞん)でヒノミヤの巫女となって頭角を現した。ヒノミヤ屈指の剣客であり、二刀小太刀の剣腕は上級監査官・磐座遷(いわくら・うつる)と互角。速度を利した剣技は一刀と二刀の違いこそあれ【剣聖】牢城雫の再来といわれる。こちらも見させてもらうものの碧依は他者からの干渉を受けず、他者に干渉もしないタイプであり、瑞穂も進んで人に踏み込む人間ではないのでもともとそう親しくない。いきなり虚実を探るにも情報が足りなかった。

そして。

最後の一人。間違いのない敵対者。

三位、磐座穣《いわくら・みのり。》

「おはようございます、神楽坂さん」
「は、はい……、おはよう、ございます……磐座さん……」
なにごともないかのような顔で平然と声をかけてくる穣に、瑞穂は硬い声と態度を返す。喉がヒリつき、吐き気がした。瑞穗の部屋で息を吹き返した少女……本名か偽名か分からないが、晦日美咲(つごもり・みさき)と名乗った……からの話によれば、美咲を追い立てるべく精鋭集団、先手衆(さきてしゅう)をけしかけたのは穣その人だという。にもかかわらずのこの平然ぶりに、瑞穗はうすら寒いものを感じた。

年は那琴と同い年で瑞穂より1才年長、16才だが、那琴のようにクールな雰囲気ではない。背丈も低めで、どちらかといえば瑞穂や寧々のような、男受けがよさそうな容姿であり、この可憐な顔で人を害する謀計を駆使するとはてとても思えない。しかし瑞穂は彼女がどこまでも怜悧冷徹な謀主(ぼうしゅ)であることを知っている。この2年の間に彼女が陥れた人間を、何人も見てきた。

おそらく磐座さんが、お義父さまに毒を盛った主謀者、あるいは主導的関与者……。

そう考えると震えが来る。人を殺す、それを躊躇なく人に指示することの異常性を思い、自分とはかけ離れた精神構造に恐怖する。どちらが正しいとか間違っているとか、くだらないことを言うつもりはない。穣には穣を動かす正義があり、どうしても相模を除く必要があったのだろう。ただ瑞穂としては自分とは違う精神性、異質性に自分は勝てないと恐れを抱くのみだ。

しばらく会話を交わしたが、ほとんど何を言ったか覚えていない。

ただ、声や目つきの端々から、相手が自分たち神楽坂派を本気でつぶしにかかっていることは、否応なく理解させられた。

その夜。

五十六おじさまを弾劾して大神官位を剥奪する……けれど、本当にほかの手はないのでしょうか?人間同士、ヒノミヤの神職同士で相争うなんて、ばかげているのに……。

私室で思索に耽る瑞穂の耳朶を、ノックの音が喚び覚ました。折りたたみの木椅子から立ち上がった瑞穂がドアに向かうと、瑞穂が開けるより先に、外からドアがぶち開けられる。

「っ!?」
「叛徒、神楽坂瑞穂。神官府の令により貴女を拘束する。ついて来られよ」
目の前で吹っ飛んだドアに驚き目を白黒させる瑞穂の面前に大神官印璽(だいしんかんいんじ)を押印された令状をつきつけ、そう言ったのは、大神官・神月五十六の直属【先手衆(さきてしゅう)】を従えた五十六の筆頭大将、磐座遷(いわくら・うつる)だった。

………………
大神官印璽《だいしんかんいんじ》を掲げながら、宝剣の鯉口《こいくち》に手をかける金髪の青年、磐座遷。穣の兄であり、大神官・神月五十六直属のヒノミヤ実働部隊、先手衆の指揮官である。長髪の美形であり、優しげな雰囲気と物腰からヒノミヤの神職女子たちに人気を誇るが、五十六の命令であればどんな汚れ仕事も遂行する冷徹さを持つ。背後に続く長船言継(おさふね・ときつぐ)、兼定玄斗(かねさだ・げんと)、長谷部一幸(はせべ・かずゆき)らはヒノミヤ屈指の無頼漢として腕は立つものの御しがたいならずものたちだが、それを見事に統率していることからも彼の能力のほどは知れる。

「来ていただきましょうか、齋姫……いえ、叛徒・神楽坂瑞穂」
遷は感情のない硬質な声で、そう迫る。

瑞穂としてはしてやられた形だった。五十六の罪を暴き齋姫の名をもって弾劾する策。それを躊躇している隙に、逆手を取られ先んじられた。自分の見通しの甘さに歯噛みしたい気持ちに駆られるが、どうしようもない。だがここで捕まってやるわけにも行かない。

じり、と下がる。

「ひぃ~めさまぁ~? 顔色がわるいですよぉ~? ……ってなぁ、へへ、なぁに下がってんだよ、このクソガキがよォ! 今までさんざん俺らを見下してくれやがって、今となっちゃあお前が罪人なんだよ、オラ、頭ァ地べたに擦りつけて、謝罪して見せろよクソメス豚がァっ!」
瑞穂が下がったぶん、巨漢の兼定が前に出た。ごいつ巌のような身体を無遠慮に迫らせ、下卑た邪悪な笑みを顔に張り付かせながらに汚い言葉を吐きつつ乱暴な手つきで瑞穂の紫髪をわしづかみにしようとする。

「っ!」
瑞穂はつかみに来た長船の腕を、下から内から外へ、円弧を描く腕の動きではじく。そのまま捌いて投げに持ち込もうとする。ある一部の重さとか、諸般の事情で多少どんくさくはあるものの、姫巫女として体術は必須であり、瑞穂にも多少の心得はある。といっても一番の得手は弓であり、それとても到底達人の域には遠い。そして態度は野盗か山賊そのものだが兼定はいちおう、一流の神官戦士。はじかれながらも体勢を立て直し、瑞穂につけいる隙を与えない。

「お? おぉ~? なに?なに反抗しやがってんの、お前、罪人の分際がよォ? 磐座隊長ぉ~? このクソ豚、抵抗の意志ありですぜぇ。ちょっと懲罰の必要ありじゃないですかねぇ~?」
そう言って弄うようにいやらしく笑んで見せたのは、先手衆№2、長船言継(おさふね・ときつぐ)。長船という名前からおわかりいただけるかどうか分からないが、かつて16年前、ルーチェ・ユスティニアと最初に遭遇したアカツキ京城柱天(ちゅうてん)の門衛・長船奉也《おさふね・ともなり》の息子である。軍学校を簡単すぎてつまらんとやめた当時の青年、それが現在、先手衆の№2としてヒノミヤの上級神官兵をやっている。まだ36才だがすでに完璧なまでの若白髪で、美形と言って言い顔立ちながら表情は野趣に富み、そして顎先には剃り残しの無精髭。目つきはやや三白眼であり、睨むと異様な迫力があった。

わざとケンカを買わせて正当防衛成立を主張する、じつにゴロツキのやりようだが、このやり方が横行するのはそれだけ有効性が確立されているからだ。手垢がつくほど繰り返し使われる手法というのは、使われるだけの理由がある。実際瑞穂は叛徒認定を受けた上に捕り手に反抗したと言うことで、状況的・心理的に窮してしまっている。

「磐座さん! わたしは無実です! 真に罪咎(つみとが)あるのは神月翁で・・!」
「あなたにとっての真実と、私にとっての事実は違うのです。私にとっての真実、私にとっての正義はあくまで神月閣下が定められること。閣下がそれが正しいと言えば白を黒と言うことに躊躇《ためら》いもございません……これ以上の問答は無用。やれ」

それでも良心の呵責はあるのか、遷はやややるせなげに目を伏せるが、配下の3人はそんなことお構いなしだ。雲上人の齋姫、それをいたぶり、凌○できる大義名分を得て、その意気は天を衝かんばかり。

「っハァ! そーでなくちゃーなアァ! さぁ、ブチのめして這いつくばらして踏みつけて、ズタズタのぼろ雑巾になるまで可愛がってやるよぉァ! うら、抵抗するだけ抵抗してみな、姫サンよぉ!」
瑞穂の嘆願を淡々と突き放す遷に、許しを得て瑞穂の周囲を囲む長船、兼定、長谷部の三人。長船はニタリと笑って挑発するように手招きし、短髪緑毛の巨漢・兼定は鉄鋲で補強された六尺棒を構える。優男・長谷部も拳法の構えをとった。

最初は長谷部。五指を開いた貫手《ぬきて》が、遠慮も容赦もなく瑞穂の目を狙う。瑞穂はかろうじて体捌きで躱すも、瑞穂の回避先を予測していた兼定の六尺棒が吸い込まれるように着地点を狙う。脇腹に突き出される棒の切っ先を、身を捻ってまた回避。鈍い瑞穗がこの二連撃を回避してのけたのは密かに使った身体強化の神術によるが、それでも所詮、瑞穗の力をいくばくか強化するに過ぎない。二の太刀も回避されたところに、三の太刀。満を持して、長船の拳。上からたたきつけるように打ち下ろす拳。

実力に勝る相手に、多勢のコンビネーションをもってかかる。これはなんら卑怯でも不名誉なことでもない。200年ほどまえ、桃華帝国《とうかていこく》嘉《か》王朝の嘉叡《かえい》年間に活躍した将軍・秦岳亮《しん・がくりょう》と李君錫《り・くんしゃく》はこの戦術の天才でそれまで猛威を振るった沿岸地域の海賊を討伐し功績を挙げたし、秦が記した兵書【嘉叡新書(かえいしんじょ)】を研究したアカツキの民兵出身将軍、南部朧紀《なんぶ・ろうき》は昨今のアカツキ開明戦争……維新の際にこの戦術を発展改良、禁裏守護の【護陵隊《ごりょうたい】を組織して賊徒を粛正し、戦果を上げた。この戦法は弱が強に勝つために確立された立派な戦術であり、重ねて言うが卑怯でも不名誉でもない。戦士にとって最大の不名誉は敗北であって、極論、勝つためならなにをしてもいいとさえ言える。

かわせない、そう悟った瑞穂は瞬時に神力を練る。内在する大きな力=潜力(せんりき)を、発現する小さな力=顕力(けんりき)に変換、変換したぶんをすぐさまに消費して力をふるう。

直後。長船の必殺の拳は、豪快に空を切る。空間がぐわん、とえぐれるほどに強烈な拳の直撃を受ければ瑞穂はただで済まなかったはずだが、一瞬前まで瑞穂がいたはずの空間に瑞穂の姿はない。その身体は室内から忽然と消えていた。

「逃げた、か。それほど遠くには行っていないはず、探せ!」
「応ッ!」
瑞穂の転移術式をすでに認知している遷は、慌てない。あの術で転移できる距離は数メートルから百メートルというところ、そして借力法(顕力を精霊、神や魔神に献じて奇跡を行う術「力を借りる」ために借力法という)である以上、転移した直後は消耗で動けないはず。

………………
遷の読み通り、瑞穂はかなり大きく消耗していた。緊急事態ということで、上位神霊が要求する顕力は普段よりも大きく、つまるところは足下を見られた。それでもあの場で長船の一撃を食らっていれば終わりだったのだから助かったことは確かだが、消耗で手足がまともに動かせないほどの状態にあった。瑞穗と繋がる神域の上位神霊……アカツキの主神ホノアカより上位に位置する、アルティミシアの創造神グロリア・ファル・イーリスとすら近しい創世の力を持った存在……は、吸えるときに瑞穂の力を吸い取れるだけ吸い取るという、貪欲な意志を持っており、そのため瑞穗の消耗はすこぶる大きい。

とっさのことで座標の指定が間に合いませんでしたが……ここは……?

瑞穂はかろうじて動かせる首を動かして、周囲を見回す。薄暗い、湿った狭い部屋。なにやら物々しい、瑞穂には用途のわからない道具がいくつも散乱しており、室内と室外を隔てる間には頑強な鉄格子が嵌められている……ありていに言って、牢屋《ろうおく》だった。

ま、さか……。よりにもよってこんな場所……

瑞穂はなんとかしてこの場を脱しようとする。神力を振り絞ろうとするも、上位存在との精神交感を阻害する力場が働いているらしくこちらの呼び声が届かない。

これは、封神結界……!?

封神結界、神具【封神符】によって展開される、ある区切られた範囲の空間における神力魔力の行使を妨げる結界。ヒノミヤには自衛のためとしてこの貴重な神具が潤沢にあり、そのひとつを使った場がこの部屋であるらしい。この中では、瑞穗は翼をもがれた鳥も同然。

瑞穂はこの転移を偶然の事故と考えたが、実際はそうではなかった。朝の神楽舞で五人の姫巫女が集合したあのとき、挨拶に紛れて穣は仕込みを済ませ、瑞穂が転移術式を発動させたならここに飛ぶように細工を施していた。穣が直接に仕込んだのであれば瑞穂は気づいただろうが、親友・那琴にそれと知らず転移座標を指定する呪具を持たせ、那琴が瑞穂をハグしたときに「偶然」那琴から瑞穂に渡るようにしたことまでは、瑞穂も那琴も気づけなかった。

ただ気ばかり急いてどうしようもない状況に、各所を探索し尽くした先手衆と、彼らに護られた老人と少女、神官長・神楽坂相模《かぐらざか・さがみ》暗殺未遂の首魁、神月五十六と磐座穣がやってくる。

「これはこれは……自分から牢に入るとは……くく、さすがは皆の範たる齋姫。咎人(とがびと)に落ちても模範的な態度でありますな」
巫女としての清廉な居住まいはどこへやら、淫靡な媚態で撓垂(しなだ)れかかる穣を侍らせ、瑞穂の姿を認めた五十六は勝者の余裕で仰々しく言い放った。

鍵を開けて入ってくる男たちに、瑞穂は本能的な恐怖に脳髄を萎縮させる。しかし身体のほうはまったくもってぴくりともしない。逃げなくては逃げなくては、そればかり思い恐怖がとめどなく、涙があふれる。瑞穂は聡明であり、ゆえにこそこの状況からの逆転が限りなく不可能ごとであることを否定できず、そして絶望する。

「ゆ、ゆるして……ください……。わたしの、神楽坂の負けです……、神月さまの軍門に下ると誓います……。ですから、もう許してください……」
気づけばそんな情けない命乞いの言葉が口をつく。その敗北宣言に、五十六は会心の笑みを浮かべた。

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