蕎麦枕 2023/09/02 14:30

小説「呪われた女騎士団長は快楽を求める」①

【あらすじ】

女でありながらも国の騎士団長を務めるフィオナは、ローディル王子と恋仲の関係にあった。
しかしある日、フィオナは仲間を守るために魔物の放った呪いを代わりに受けてしまう。
その呪いは、快楽を得られないと高熱に悩まされ、最終的に死に至るというものだった。
恋人であるローディルに日々抱かれ、なんとか呪いの高熱を鎮めながら生きているフィオナだったが、団長の座を奪いたい男ゴルドにそのことを勘付かれ……。


※今回はプロローグ的な部分のお話なので、要素の記載は致しません。
大まかなジャンルとしてはNTRになります。


本文掲載場所

pixiv : ノクターンノベルズ 


【本文】

「く、そ……身体が……あつ、いっ……」
 胎の奥が燃えるように疼いている。焼き尽くされた思考は知っていた。この熱を殺すほどの快楽を、身体が求めていると。
 熱に浮かされた身体を引きずるように、女は歩く。己を慰めてくれる男を目指して。

 王国に仕える騎士団長であり、ローディル王子の恋人でもあるフィオナは、呪いに苦しんでいた。
 先日、森に出現した魔物の討伐に向かった時のこと。国の平和を脅かす魔物の集団を、フィオナ率いる騎士団はあっという間に一掃した。しかし新米騎士の仕留め損ねた魔物が生きており、その微かな命の残り火で呪いを放ったのだ。
 その呪いは、当然己を死地へと追いやった新米騎士に向けられた。しかし足がすくんで動けなかった彼を庇い、呪いを受けたのはフィオナだった。魔物は呪うことに成功したと知ると、不気味な笑い声をあげ、そして絶命した。
 城へ戻ったフィオナは、すぐに聖職者たちに解呪の儀式を行うよう依頼した。だが魔物が絶命間際だったせいか力が強く、すぐに解呪はできずにフィオナの身体に残ることとなった。
 呪われた証としてフィオナの身体には、黒い文様が浮き上がった。それだけならまだよかったのだが、日々治まらない高熱に悩まされることにもなったのだ。
 それでも騎士団長という立場は変わらない。今や見守るだけとなってしまったが、フィオナは訓練にも参加し続けている。
「よお団長殿。ご機嫌はどうだい」
 訓練中、副団長であるゴルドがフィオナへと声をかけた。今日も今日とて高熱に苛まれているフィオナは、ゴルドを一瞥だけして、何も答えなかった。そんな態度のフィオナの隣へ腰をかけ、ゴルドは声を潜めて言う。
「もう何日もまともに訓練に参加できていねえんだ、いい加減団長の座を譲ってくれてもいいんだぜ? あんたにゃ荷が重てえだろうよ」
 ゴルドは女であるフィオナが団長の座に就いていることを、妬ましく思っている男だった。
 フィオナはそんな話を面と向かって聞いたことはないが、事あるごとに突っかかってくることに加え、団長の座を退けとしつこく進言してくることから、妬まれているのは明白であった。
「侮るな。お前の剣戟なら、まだ片手で捌ける自信があるぞ」
「はっ、言うねえ。やれるもんならやってみるか? わけのわからん呪いを受けた身のままでよ」
「だからなんだ。呪われた女に負けたら、お前はとんだ笑い者だな」
「そうならないためにもよぉ、徹底的に叩きのめせばいい話だろうが」
 二人の視線の間に火花が散り、フィオナが剣を握ろうとしたその時、訓練中の兵士が一斉に膝をつく。
 何事かとそちらへ視線を移すと、ゴルドは小さく舌打ちをした。
「フィオナ、調子はどう?」
 兵士の空ける道を歩みつつ、フィオナへ優しい声をかけるのは次期国王になるローディル王子だった。
「王子! このような泥臭い場所へわざわざ立ち寄られるなんて……いかがなさいましたか」
 すぐにフィオナもベンチから降り、地に膝をつく。ゴルドも渋々と従い、すっかり口を閉じたようだった。
「用事があって城下町へ行っていたんだ。ちょうど前を通ったから寄ったんだけど……訓練の邪魔だったかな?」
「いいえ、そのようなことは……王子に気をかけていただけて、私たち兵も士気が上がります」
 柔らかな女の声で、フィオナは答える。恋仲であるということは周知の事実ではあるが、以前はここまで露骨に男と女の関係を匂わせることはなかった。フィオナが呪いにかかってから、その身を案じてなのか突然の訪問が増えたのだ。
 男にうつつを抜かす団長の姿、度重なる訓練の停止、必要以上の緊張感。これは兵団の士気に下げることだと、ゴルドは危惧していた。
 ほんの少しだけ甘い空気が流れたと思うと、フィオナがふらりと身体を揺らした。気が抜けたのだろうか。少しだけ耐えたような様子を見せるが、そのまま横へと倒れていく。
「あっ、フィオ……」
 ローディルが駆け寄ろうとした瞬間、すぐそばに跪いていたゴルドがフィオナの肩を持った。
「おいおい何やってんだよ、団長ど……」
「んっ、ぁ……」
 呆れた様子のゴルドに支えられたフィオナは、まるで触れるなと言わんばかりにその手を払いのける。一瞬動くのを止めたローディルは、改めてフィオナに駆け寄った。
「……手助け、感謝する。」
 小さな謝辞を述べ、フィオナはローディルと向き合った。
 大丈夫か、大事はないか。そんな会話をしている恋人たちを見つつ、ゴルドは自分の指先が感じた熱に呆然としていた。
 ひどく熱い身体。いつの間にか赤く染まっている耳。そして触れた瞬間に聞こえた、わずかに甘い声。
「ほう……?」
 その呪いはどういった呪いなのか、ゴルドを含むほとんどの兵は伝えられていない。
 しかし高熱で苦しめられるだけの呪いは存在しないということは、知られている。呪いとは、基本的に何かを渇望させられるものとされていた。
 ゴルドの中で、黒い感情が蠢き出す。それに気付く者は、誰もいなかった。


次回へ続く。


【謝罪】

8/31に更新予定でしたが、加筆修正に熱が入り、すっかり遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
次回は近いうちに更新予定です。
少しの間お付き合いいただけますと幸いです、よろしくお願いいたします。

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