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倉くらの 2023/01/30 08:22

「その想いは愛だった TL版」サンプル

おはようございます。
「その想いは愛だった」のBL版をTL版に直したものを販売申請かけました。
近々販売始まります!


【BL版との変更点】
主人公の名前・一人称変更
性描写部分の若干の変更
フェリシアが続編で女の子らしく可愛らしい恰好をさせられる。
「愛欲と愛情は紙一重」のおまけSSが付きません。

BL版は小説投稿サイトに本編UPしてあるため、その分おまけが付きます。
あと屋敷の時のお話なので、処女を守らないといけないのでシドは手を出せないから男女でこのお話は無理だったので…削りました。


表紙が似通っているので、購入される場合には間違わぬようご注意お願いします。
もし間違って買ってしまった場合&別バージョンが読みたいという場合でも奥付記載のアドレスに連絡いただければ、別バージョンを無料で差し上げますのでお気軽に連絡ください。
※購入したことを証明できるスクショなどを送っていただくようお願いしています





「その想いは愛だった」 TL版サンプル


 私は同じ騎士団に所属しているシドという男に長い間憧れを抱いていた。だが、残念ながら当の本人に嫌われていると知ったのはつい最近のことだ。

 何故そんなことを知ったかと言うと、シドとその友人が話しているところを偶然立ち聞きしてしまったせいだ。

「なあ、何でフェリシア様はよりにもよってうちの騎士団なんかに入って来たんだ?」

 フェリシア、と私の名が騎士団の訓練所から聞こえてきたことで、廊下を歩いていた足を止める。訓練所は開放感があって扉もついていないから、少し耳を傾ければ話が筒抜けの状態となる。

 貴族として生まれ、立ち聞きなんてみっともないことだと教えられてきたが、話の内容がどうしても気になってしまったのだ。息を潜めて廊下の壁に張り付くようにして立つ。

 声の主は確か、ミハイルという名の男で、士官学校時代からのシドの友人だったはずだ。砕けた口調。そうなると会話の相手は必然的に絞られる。

「さあな。貴族の考えることなんて分かるものか」

 相手は私の予想通りシドだった。
 シドの声を聞けたという嬉しさよりも先に背中に冷たい汗が伝う。シドがこんな風に話すのを初めて聞いたせいだ。私の知るシドは無口だけど、私に対しては丁寧さがあった。不機嫌極まりない、忌々しそうな口調などついぞ聞いたことがない。

「案外お前を追ってここまで来たとか?」

 ミハイルの鋭い指摘に、今度は心臓がドキドキと早鐘を打つ。
 そう、彼の言う通り私はシドを追ってこの騎士団に入団した。だが次に口を開いたシドから零れ落ちた言葉は、私を絶望の底にたたき落とすものだった。

「はっ。そうだとしたらまた取り巻きを使って俺に嫌がらせをするために来たんだろう。どこまでも嫌な奴だ」

 嫌な奴。シドが私に対して向ける感情。
 初めて聞いたその思いに、鏡を見ずとも自分の顔が青ざめていくのが分かる。呆然と立ち尽くす。嫌がらせ、嫌な奴。これまでにシドに対して嫌がらせなどそんなことをした覚えは一切無い。無いのだが……彼にとってはこれまで私の取っていた行動の一つ一つが気に入らないものだったらしい。

 その後もシドとミハイルの間で何らかの会話が交わされていたようだったが、ショックで立ち尽くす私の耳には届かなかった。だから、立ち去るタイミングすら失って、会話を終えた二人が廊下に出てきたところでかち合ってしまった。

「わっ」

 ミハイルの驚いた声が上がる。しまったと思って顔を持ち上げると、同じくこちらを見ていたシドと視線がぶつかった。
 やはり同様にしまった、という気まずそうな表情を一瞬浮かべたシドだったが、すぐにそれは冷ややかなものに切り替わる。

「聞いてたのか」

 もはやこの状況で嘘や誤魔化しを言っても仕方がない。私はこくっと小さく頷く。はあっとため息をついてシドが言葉を続ける。

「聞いていたならはっきり言わせてもらう。俺はもうあんたに仕える下働きの男じゃない。屋敷もとっくに出たんだ。だからもうこれ以上俺に関わるな」

 絶縁通告とも取れるその言葉に、とっさに何も言葉を返すことができず唇をわなわなと震わせることしかできなかった。
 私が何も答えなかったことに眉を顰めて訝しんだシドだったが、言いたいことを言い切って満足したらしく「じゃあな」と背を向けて去って行った。

 私が呼ぶといつもすぐに駆け付けてくれたシドが、こちらを一切振り返りもせずに。
 去っていくシドの、私を固く拒絶するその姿を見ていたらぶわっと涙が溢れ出てきた。感情を表に出すなという家の教えすら忘れ去って。

 一体何でこんなことになってしまったのだろう。嫌われていた、嫌われていた、その事実が針のようにちくちくと胸に刺さって離れない。


「え、ちょっ……」

 去っていくシドと立ち尽くす私を困ったように交互に見ていたミハイルだったが、私が突然泣き出したことによりおろおろと慌てだす。

「フェリシア様。こちらへ!」

 ミハイルによって先程まで二人が話をしていた訓練所の中に連れて行かれて、片隅に置かれた椅子に座らされる。その間も私の目からは次から次へと涙が落ちる。他人の前で泣くのはみっともないことだという教えは頭の中にあるのに、一度感情が溢れてしまったせいで止まらない。

「えっと、もし良ければ話を聞かせていただけませんか?」

 丁寧な口調で、未だに私のことを貴族として扱うミハイルに鼻をすすりながら「同僚としての口調で構わない」と伝えると「それじゃあ、遠慮なく」と口調を崩し始めた。隣の椅子に腰かけたミハイルが首を傾げながら問いかけてくる。

「僕が知っている話だと、フェリシアは子供の頃から今までシドに嫌がらせをしていたんだよね……?」

 ミハイルの口から出てきた「嫌がらせ」の言葉。まただ。私には一切そんなことをした覚えがない。だから首を横に振る。

「してない。するはずがない」

 だって、シドは私の憧れであり英雄だ。そんな彼に嫌がらせなどするはずがない。

「でも、シドのことを嫌っているんでしょう?」

 思いも寄らぬミハイルの言葉に目を瞬かせる。どうして私がシドを嫌いになどなるのだろう。そんな日は絶対に来ない。ぶんぶんと音を立てる勢いで首を横に振る。
 私は状況が飲み込めず不可解だという顔をしているミハイルに、幼い頃のことを話し始めた。



 両親が孤児だったシドを屋敷の下働きとして引き取ったのは私が十二歳の頃だった。引き取った理由は貴族としての義務である慈善事業の一環だったと思う。

 初めて部屋で引き合わされた時、シドに対しては目つきの鋭い子供だと思ったのが第一印象だ。それに黒髪に黒目の組み合わせは珍しいとぼんやり思ったぐらいで、特にそれ以外の感情など持ち合わせなかった。そんな私だったが、その印象が大きく変わったのは比較的すぐのことだった。

 ある日のこと。馬で遠乗り出かけた時に私は魔獣に襲われたのだ。
 普段は魔獣など出ない平和な場所だったから、大人の供は連れていなかった。
魔獣に驚き、興奮した馬の背から転がり落ちて地面に叩きつけられて、逃げることもできずもう駄目だと思った。

 その時だった。供としてついてきたシドが颯爽と私の前に現れて鮮やかな剣さばきで魔獣を退治したのだ。それを見た時、私の胸は苦しいぐらいに脈を打った。

 代々騎士を輩出する名門であるルートベルク家に生まれた私は、当然のことのように騎士となるべく育てられた。父の期待に応えるために髪を短くして、口調も男らしくしてきた。だけど、残念ながら私自身はと言うと剣の腕はさほど上達しなかった。それどころか魔獣に出会った瞬間恐怖で震えるしかなかった。そんな情けない私とは裏腹にシドは一切怯えることもなく冷静に対処したのだ。

「英雄」そんな言葉が自然にすとんと胸に落ちてきた。そしてあの瞬間、私はシドに強い憧れを抱いたのだ。



 できることならば彼と友達になりたい。
 私には友達と呼べる存在は一人も居なかったけれど、シドとそんな間柄になってみたいと強く思った。

だけど、そうした私の感情は両親や屋敷の者にとっては褒められたものではなかったらしい。貴族の私が下働きの者と仲良くしてはいけないと何度も窘められた。
 砕けた口調で話しかけるのも駄目、あれも駄目、これも駄目と制限をかけられてしまう。

 段々と思い通りにならない現実に心は疲弊する。しかし様々な制限をかけられても私はシドを側に置くことを諦めなかった。それにシドだって絶対に私のことを拒否しなかった。呼べばいつだって駆け付けてくれる。屋敷の人の目があるから会話なんてほとんど交わすことはできなかったけれど、シドが傍にいてくれる。それだけで満足だった。

「シド、ずっと私の傍にいろ」
「はい」


   ***

 成長し、士官学校へ入る年齢になるとシドと一緒に入学した。彼を連れて行けるように両親に交渉したのだ。シドには剣の才能があると。いずれは私などよりもずっと立派な騎士になれるに違いないと。少々頼りないところのある私だったから、しっかり者のシドが付き添うことに対して両親は反対をしなかった。そしてシドもまた士官学校へ行くことになった。

 そこから先のシドは才能を一気に開花させることになる。講義を学ぶにつれて剣の腕はさらに磨きがかかり、進級に伴って特進コースへと進んだシドと普通コースの私はクラスが離れてしまった。

 新しいクラスになったシドにはミハイルという名の友人ができた。そしてクラスが離れたことにより今までみたいにずっと私の傍にいてくれるわけでも無くなった。置いていかれてしまったみたいで、これには少し寂しさを覚えた。

 でもシドは昔から今も相変わらず私が呼ぶと駆け付けるし、頼みを何でも聞いてくれるから、安心していたんだ。
 私が彼にとっての一番だと。


 やがて将来の進路を決める時がやってきた。

 オレイユ王国には現在四つの騎士団が存在していて、シドは平民が多く在籍する黒狼騎士団への入団を決めた。実力主義と言われている騎士団だ。活躍すればするほど上へと昇ることができる。きっとシドならば上へ行くことができるだろう。

 私のもとには白鷲騎士団からの勧誘があった。こちらは反対に貴族が多く在籍している。私に対しては実力が認められたという訳ではなく家柄で声を掛けられた……そんな気がしている。

 でも、私は……。私はどうしてもシドと離れたくなかった。
 だから黒狼騎士団へ入団できるように、自らの足で掛け合いに行った。
 私の実力では黒狼騎士団へ到底入れるものではないと分かっていたけれど、諦めたくなかった。そこで入団のために面接を受けに行ったのだ。結果は自分でも信じられないことだけど、合格だった。

 だけど家からは猛烈な反対にあった。
 平民が在籍する黒狼騎士団に入るなんて認められないと。ルートベルクの家系からはほとんどが白鷲騎士団へと行くのだ。祖父も、父も、兄達もみんなそうだった。
 私はそれでも黒狼騎士団へと入りたいと訴えると、今度は騎士団へは入らなくていいからどこかの貴族と結婚するように言われる。

 これまで騎士になるべく育てられたのに、そうまでしても私をあの騎士団へ入らせたくないのだ。世間の評判を気にして、そんな風に感じる。
 自分だって騎士には向いていないかもしれないと薄々気付いていたけれど、自分なりに努力をしていた。両親によってそれら全ての努力をないがしろにされた気がした。
 今更女らしくして、ドレスを着て、刺繍をする? そんなの無理に決まっている。

 これまで私はずっと家の方針に従ってきた。シドとだって本当は友達みたいに仲良くなりたかったし、気軽に話しかけてみたかったけれど我慢してきた。家族の求めに応じて貴族らしくあろうと努めてきた。だけどもうこれ以上は我慢できなかった。好きでもない会ったこともない相手と結婚もしたくない。

 初めて反抗らしい反抗をしたのだ。
 私が家の方針に従わないことに両親は激怒した。あんなに恐い表情を初めて見た。そして家から勘当されて追い出されたのだ。気持ちを入れ替えて白鷲騎士団に入るか、結婚すれば許すと言い渡されて。



「それで、フェリシアは家を出てしまったの? そのこと、シドは知っているの?」

 これまでのことを話し終えると、ミハイルは驚いた様子で問いかけてくる。

「いや…知らないだろう。私が家を出たのはシドが家を出た後だったから」

 一足先に黒狼騎士団へ入団を決めたシドは、そのタイミングで家を出たのだ。

「あー……なるほどねぇ。何だか段々と分かって来たぞ」

 顎に手を当てたミハイルは何やら考え事をしている。

「僕が抱いていた君への印象って、手下を使ってシドにあらゆる嫌がらせをする奴だったんだよね」

 ミハイルの言葉の意味が分からなくて、私は首を捻る。

「うん、その反応。君は知らなかったんだね……」

 困ったように眉を下げるミハイルの口から語られた内容は、とても驚くべきものだった。

 幼い頃は屋敷に仕える使用人達から、士官学校に入ってからは私の取り巻きに、シドは数々の嫌がらせを受けていたらしい。

 思い返してみれば、士官学校ではやたら話しかけてくる人達が多かったように思う。ただ、彼らの目当ては私の家に取り入りたいという下心が明け透けだったので相手にすることもなく、ほとんど会話を交わしたことも無かった。それなのに私の知らない水面下では様々なことが起こっていたのだ。

「お前みたいに汚らしい平民がフェリシア様に近付くな」「これはフェリシア様が望んでいること」と、時には暴力を伴ってシドは嫌がらせを受けていた。シドがそのような目に遭っていたなんて、少しも知らなかった……。

 シドは自身の身を守るためになるべく私と距離を取ろうとしていたらしいけど、私がそれを許さなかったから、ますます周りに目を付けられるという始末。

「そんな……そんなことがあったなんて」

 私の行動のせいでずっとシドが辛い目にあっていたと思うと、胸が苦しくなる。その間、私は何も知らずに呑気に過ごしていたのだ。どうしてそのことに気付けなかったのだろう。
 シドに憎まれ、嫌われていたって当然じゃないか。ショックからぶるぶると体が震える。

「君は……そうか。本当はシドのことが好きだったんだね」

 好き。そう、シドに抱く思いは憧れだ。魔獣から助けてもらったあの日から。

「僕からシドに伝えようか? 周りが君達の仲を裂こうとやっていたことだって。フェリシアは何も知らなかったって」

 ミハイルの言葉に、私は目尻に涙を溜めたまま首を横に振った。
 知らなければ罪にならない?

 とてもそうは思えない。私は、彼の置かれている状況を知ろうともしていなかったのだ。もっとシドだけでなく周りにも目を向けていれば状況はずっと変わっていただろうに。盲目にシドだけを見続けていて、それを怠っていたのだ。
 そんな私がシドを思う資格なんてあるだろうか。

「どうかシドには何も言わないで欲しい。これ以上彼を煩わせたくない」

 シドはようやく私からも、私の家からも解放されて騎士団の中で居場所を見つけて自由を得たのだ。それなのにまた私のことで彼を煩わせたくないと思った。

「そうか。君がそう望むのなら」

 ミハイルは私の気持ちを汲んでくれたようだ。

「フェリシアはこの先どうするの? 白鷲騎士団へ行くのかい?」
「……このまま黒狼騎士団へ残ろうと思う。私が残ることはシドには歓迎されないだろうけど、一度決めた道だから最後までやり遂げたい」

 身分に関係なく全ての民を守るため黒狼騎士団は結成された。
 シドのことが大きなきっかけだったけれど、私が黒狼騎士団へ入りたいと思ったのはその理念に惹かれた為でもある。
 家の反対を押し切って、初めて自分自身で選んだ道だ。例えシドに嫌われていて居づらくても辞めたりはしない。

「そうか。僕は本当に君のことを誤解していたみたいだ。君の真心がいつかシドにも届くといいね……」

 そんな日はきっと来ない。シドはもう私の顔など見たくもないだろう。キュウッと胸が苦しくなる。
 ミハイルの言葉に押し黙ったまま何も答えなかった。


シド。
私の気持ちが君の重荷になっていたなんて知らなかったんだ。辛い思いをたくさんさせてこれまで本当にすまなかった。
 ああ、私が貴族でなかったら。違う立場で出会っていたら、ミハイルのように君と友達になれていたのだろうか。
 本当はもうこんな気持ちを持っていてはいけないと分かっているけれど、私にはこの気持ちを捨てられそうにない。
 もう絶対に君に迷惑はかけないと誓うから、だからどうか、君を想うこの気持ちだけは赦して欲しい。



 あれから私はなるべくシドの視界に入らないように努力した。
 新入団員としての訓練期間中、彼から距離を取った。
 シドから私に話しかけてくることはないから、私が距離を置けばいともあっさりと切れる縁だったのだな、と少々寂しく思う。
 しかしながら、そんな感傷に浸っている暇もないぐらい訓練は厳しいものだったので、それは有難かった。

 体力があまりない、これは私の弱点だった。
 騎士団には他にも女子はいたけれど、こんなにも体力が無いのは私だけだった。
 鎧を身に着けて走り回っているとそれだけで息が切れて、目の前がくらくらとしてくる。動きが制限されることもあって、私は鎧ではなく胸だけを覆う形の胸当てに変更してもらった。全身を覆う鎧に比べたら軽さはあったけれど、それでもそれなりの重量があって、夕方ともなると肩で息をしながら地面にへたり込んでしまう。そうなると上官によって頭から思いっきり水を掛けられるのだ。
 ここでは男も女も関係ない。扱いは皆一緒だ。

「おい、誰がへばっていいって言った!? ここは貴族の社交場じゃねえぞ。付いて来れないならさっさと辞めちまえ!」

 怒号が飛び交う。
 こんな風に怒鳴られた経験なんて人生で一度もない。それに、同期の者達からは距離を置かれている。私が怒鳴られる様を遠巻きに見られているのだ。

 自分自身の不甲斐なさや、怒鳴られる姿を他者に見られることによって自尊心は粉々になる。正直言って泣き出したい、逃げ出したい気持ちになるけれど、唇を噛みしめてぐっと堪える。
 同期の者達に距離を置かれている理由はすぐに判明した。

「お前って金の力で入団したんだろう」

 少々吊り目の可愛らしい顔立ちの男が、私を睨みつけながらそんな話をしてきたからだ。

「だってそうだろ。お前みたいな実力で黒狼騎士団に入れるわけがないんだ。ここにいるのは皆剣の腕の立つ者ばかり。だったら理由は一つ。金に物を言わせて入団したんだ」
「違う。そんなことはしていない」

 私は貴族ではあるが、自身に財産があるわけではない。ましてや両親からは強く黒狼騎士団入りを反対されていたのだ。援助も一切打ち切られているし勘当された状態だ。物を言わせる金などあるはずもない。
 だったらどうして黒狼騎士団に入れたのか……それは私だって不思議だし、理由を知りたいぐらいだ。

「シドに嫌がらせする為にここまでするなんて最低だな」

 しかしいくら違うと言ったところで、ラルという名の可愛い顔立ちの男には信じてもらえなかった。それどころか、ラルが私に敵対する態度を取り始めたせいか団内の皆も同調するようになってきたのだ。
 そこからの私への風当たりはますます強くなる。
 嫌がらせや暴言のような悪意をぶつけられることが多くなった。
 偶然居合わせたミハイルに気付かれ、「僕が注意しよう」と言う彼を引き留める。

「いいんだ、ミハイル。これは私が自分で何とかするべきことだから」

 きっとこれは因果応報というやつなのだ。
 シドが幼い頃から受けていた扱いが今度は私に来たというだけの話だ。それに、他者から辛く当たられることで少しはシドの気持ちが分かった気がするんだ。シドもこんな風に長年悲しい思いをしていたのだと思うと、私が泣き言を言えるわけもない。


 だけど私を一番打ちのめしたのは、遠くから見たシドの笑顔だった。
 騎士団の仲間達に囲まれて楽しそうに笑うシドを見た時、胸を掻きむしられるほどの痛みを感じた。息が上手く吸えない。

 だって、私は知らない。
 知らなかったんだ、君がそんな風に屈託なく笑う姿を。

 目の奥がツンと痛む。ああ、私は本当に君のことを分かっていなかったんだな。これまで抱いていたものが独り善がりな想いだったということに改めて気づく。それが何よりも辛かった。


サンプルここまで

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倉くらの 2023/01/12 08:15

今更ですがサンプルをUPしました!

冒険者短編集、第3話の魔法剣士×薬草師のお話は公開していますが、1話と2話に関してはサンプルをどこにもUPしていなかったな……と思ったので、pixivにUPしてきました。

新作を出した影響か、またちょこちょこと「冒険者短編集」をDLsiteやBOOTHでも買っていただけているみたいで、ありがたいです。


BL版のサンプルになります。

第1話 黒魔道士×白魔道士 義理の兄弟の話

【あらすじ】
「兄さんは俺が邪魔? だから……そんなことを言うの」
エドは冒険中に眠りの魔法にかかって深い眠りに落ちてしまう。ふと目覚めた時、義弟であるアレンに圧し掛かられていて……。
勘違いすれ違いから始まった義理の兄弟二人の関係の行方。
お互いスキ&スキな両片思いです。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19079550


第2話 剣士×魔法剣士

【あらすじ】
レイはいい加減長年の片思いを諦めようとしていた。決して振り向いてくれない相手、カイウスを。
誰でもいいから肌を重ねてみたい。少々投げやりな気分になるレイ。
そんな折にパーティーメンバーが眠りの魔法に落ちてしまい、目覚めの薬草を取りに森へ。
そこでモンスターの放つ混乱魔法にカイウスがかかってしまい……。
これは最初で最後の抱かれるチャンスではないかとレイは企む。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19079588



pixivは完全にサンプル置き場と化してます。

時折pixivのフォローをいただくことも増えてきましたが、たぶんそんなに完結している作品は増えないと思います……(汗)
置くとしたら短編のみで、長編は無断転載対策のためにUPしません。
メインの投稿先はアルファポリスとなっていて、あそこに一番作品を置いています。販売している作品の一部を公開しているのでよろしければ覗いて見てください!

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倉くらの 2023/01/06 08:11

新作販売開始しました! サンプルあり

*画像クリックで販売先に飛びます


販売開始されました!
すでにDL&お気に入り登録していただいた皆さま本当にありがとうございます!

こちらは男女カップリング作品となっております。

販売から10日間は30%オフの154円。


サンプルをpixivに…と思いましたが、規約が変更されてアウトになる可能性が高そうなので、こちらに載せますね。
参考にしていただければと思います。



【サンプル】


触手なご主人様が私を離さない!


 私が働きに出たのは家族のためだった。
 私の生まれた家は男爵家だったのだが、父が知人に持ちかけられた投資に失敗して財産のほとんどを失ってしまったのだ。
 何とか残った財産で食いつなぐ日々を過ごしていたけれど、それもいつまでも続くものでもなかった。

 私が結婚して、嫁ぎ先に援助していただければ良かったのだけど、残念ながら嫁ぎ先は見つからなかった。それは私が『呪いの令嬢』なんて不名誉な呼ばれ方をしているせいだった。
 どういう訳か、私と婚約する方は皆一様に失踪してしまうのだ。これまで三人の方とご縁があり婚約に至ったのだが、ある日突然何の手がかりを残すこともなく、煙のように消えて行方が分からなくなってしまう。
 そんなことが何度も続いたので、当然ながら私と結婚したいという方は現れなくなってしまった。

 かといって働きに出ようにも、私には特別秀でた才能も無かった。このままでは一家心中という末路が頭をよぎる。屋敷にはまだ幼い弟もいるというのに……。

 途方に暮れて困っていたところ、屋敷に出入りしている商人の方にとある話を持ち掛けられた。それは森の奥にひっそりと建つ洋館でメイドを募集している、というものだった。
 お給料の額は相場よりもずっと高くて一介のメイドが到底稼げるようなものではないという。
 どうしてそんな良い仕事に働き手が見つからないのか不思議に思い首を傾げる。

 さらに詳しく聞いてみると、屋敷の主人は教養のある女性を求めているのだとか。成る程、それならばお給料の額が良いのも納得できる。
 貴族の淑女には読み書きが完璧に出来る者が多く、マナーも身に着けている。私もその辺りのことは学んできたので問題ないはずだ。
 メイドとして働くことは、顔も知れない誰かと結婚するよりもずっといいことだと感じられた。私は働くことを決意して、屋敷へと向かうことにした。
 それが数日前の話だ。


 私は屋敷に向かうとすぐに採用されて、ご主人様の身の回りの世話を任されることになった。
 この屋敷が少し変だというのは足を踏み入れてすぐに気付いた。

 まず第一に人がほとんどいない。大きな広い屋敷だから、綺麗に保つにはたくさんの使用人が必要だろうに、その姿を見かけないのだ。
 屋敷は森の奥に建てられているということもあって、少々薄暗い雰囲気が漂っているけれど、部屋の中は埃が一切無くて清潔が保たれている。

 唯一初日に顔を合わせたのが、執事だという高齢の男性だった。どことなく生気が感じられない、人形のような人だった。
 感情があるのかよく分からないその執事の男性によって私の仕事の説明が淡々とされた。

 内容は朝昼晩の三回、ご主人様に食事を届けるようにとのことだった。それだけでいいのかと驚く私に「まずはそこからです」と言葉が続いた。そうして初日からの数日間はご主人様に食事を運ぶ日々を過ごしていた。

 今日もいつも通り食事の乗ったトレイを部屋まで運んでいく。
 不思議なことに人の姿はないのに、時間になると厨房にはきちんと食事が準備されているのだ。湯気をたてるスープの器を眺めては首を捻る。

 一度執事の男性にどうして人の姿が全く見えないのでしょう、と尋ねてみたこともあったけれど「あまりあれこれと詮索されませんよう」とガラス玉のような目でじっと見つめられたので、それ以来口を閉ざして気にしないようにした。


 簡単な仕事に、良いお給料。あまりあれこれ詮索して嫌われて、追い出されてしまったらたまらない。少しだけ不思議であること以外、悪いことは何もないのだから。

「ご主人様、お食事をお持ちいたしました」

 扉をノックしてから室内に入る。

 天井からはいつものように、長細いうねうねと動くものが何本も垂れ下がっていた。私はそれをじっと見つめてからテーブルの上にトレイを置いた。
 第二の屋敷の不思議。
 それはご主人様が触手の化け物だったということだ。


 ご主人様の見た目は何匹もの蛇が絡まり合ったような姿をしている。本体部分は丸いボールのようだ。ボールのような部分に目が一つだけある。そして丸い本体部分からうごうごと蠢く触手がいくつも生えているのだ。思わず目を背けたくなるような非常に恐ろしい見た目をしていた。

 初めてご主人様の姿を見た時は、恐れて怯えた。食事のトレイを床に落として声なき悲鳴を上げた。
 腰を抜かしている私に、天井のシャンデリアからぶら下がっていたご主人様は、触手を一本だけ伸ばして来た。薄いピンク色の、巨大ミミズのようなそれが私の目の前にやってきた。ガチガチと歯を鳴らしてそれを見つめる。
 きっと首を絞められて殺されて、食べられてしまうのだろうと思った。

 だけど、私の目の前に来た触手はじっとしたままそれ以上動くことはなかった。まるで腰を抜かした私に腕を差し出して立たせようとしているような……そんな気がしたのだ。

 長い間逡巡して、そっとその触手に触れてみた。ふに、と柔らかい触感だった。意外にも手触りはすべすべとしている。いつまでも触っていたくなるような不思議な触感だ。ふに、ふに、とゆっくり揉んでみたら、ピンク色の触手は少しだけ先端を震わせた。

 そうかと思ったら、急に動き出して私の腕に触手が巻き付いてきた。驚いていたら、あっという間に体を持ち上げられて立たせられる。
 いつの間に垂れ下がって来たのか、目玉のある本体が私の目の前に来ていた。
 一つだけしかない目玉がパチ、パチと瞬きを繰り返しながらじっと私を見ていた。
 いつまでも立てずにいる私を起こしてくれたに違いない。

 私はこの化け物の中に知性のようなものを感じた。人間を相手にしているようにさえ思えたのだ。その瞬間から、恐く無くなった。
 やさしさを感じたせいなのか、私はご主人様が化け物だということを知っても、不思議と逃げ出そうという気にならなくなった。自然と「そういうこともあるのか」と受け入れた。受け入れたら不思議とその姿さえも時折可愛らしく見えて来た。


 ご主人様が食事をしている間、私は椅子に腰かけて見守っている。初めの頃は食事の間は退出していたのだが、昨日ぐらいから腰に触手を絡められて椅子に座らされて、同じテーブルにつくようになったのだ。

 ご主人様の食事風景は実に興味深い。口は目の付いている丸いボール部分にあるのかと思いきや、そうではなかった。数本の触手をスープの器に突っ込むと、その先端から穴が開く。触手部分が口になっている。そして穴からごくごく、と喉を鳴らすようにスープを飲み込んでいくのだ。ホースに水が通るのが分かるみたいに、触手全体がふるふると震えてスープが通った軌跡が分かる。

 面白くなってしまって、ふふ、と笑ってしまった。
 ご主人様に分からないようにこっそりと笑ったつもりなのに、ご主人様はピタッとスープを飲む動きを止めた。気分を害してしまっただろうかと私は慌てて謝る。

 ご主人様は何本もの触手を蠢かせて、テーブルの上の食器を全てガチャンと床に落としてしまう。銀食器でできているので、割れることはなかったけれど、けたたましい音が上がる。そして食器を全て払いのけてスッキリとしたテーブルの上に私の体を持ち上げて乗せた。背にひんやりとしたテーブルの感触がした。

 これはいよいよ本格的にご主人様を怒らせてしまったらしい。もしかしたらとうとう食べられてしまうのかもしれない。

「お、お許しください! 笑ってしまったことお詫びいたします」

 血の気が下がりながら、指を組んで必死で謝る。
 ご主人様は私の頬に触手を伸ばして、スリスリとさすった。それは怒ってないと言っているように感じられた。
 だけど、それなら何故私はテーブルの上に固定されるのか。四肢にはご主人様の伸ばした触手が絡みついている。

 それどころか、メイド服のスカートの裾に触手の一本がもぐりこんできたではないか。スカートが腰のあたりまで捲り上げられてしまう。そうして顕わになったショーツに触手が巻き付いた。スス、と蠢いたかと思ったら頼りない布が取り払われてしまう。
 ご主人様の目が私の股のすぐ近くにあって、なおかつ足を開かされるように固定されたままだったので、人に見せてはいけない部分が全て丸見えになっているだろうことが容易に想像ついた。
 ご主人様は人ではないのに、男性の前で下半身を露出してしまったかのような羞恥に襲われた。

「やっ、駄目です、ご主人様! お返しください」

 私はもうこの頃になると、ご主人様には言葉が通じるものだと信じて疑わなかった。これまでに何度も言葉が通じていると思う場面があったからだ。だから必死でお願いすれば返していただけると思ったのだ。
 ところが、今日のご主人様には話を聞いていただけなかった。

「あっ、何です……!?」

 触手は数を増やして、私のメイド服の中に入り込んで来た。もぞもぞと蠢きながら体を這って胸の方にまで到達する。服の下に入り込んでいるからどんな風になっているのか分からないけれど、もこもこと布地が形を変えて動いている。

「くすぐったいです……!」

 柔らかな触手が体を這いまわる。胸や脇をさわさわと撫でまわされて私はあまりのくすぐったさに身を捩らせた。初めはくすぐったさのあまり笑っていた私だったけれど、すぐに笑えなくなってしまう。息をごくっと呑み込む。

 胸の先っぽに違和感を覚えたからだ。たぶんこれは細い触手だ。それが胸の先っぽをちろちろと掠めるようにして動いている。
 くすぐったさとは別の感覚が体の内から沸き起こる。

「は……あ、そ、それは……駄目ですっ」

 唇を震わせて耐える。だけどご主人様はちっとも止めてくださらない。

「あぁ……ご主人様っ」

 長いこと耐えて震えていたせいか、私の股はいつの間にかぬるぬると湿っていた。
 膣から漏れた愛液を纏わせながら触手がスリスリと股を擦った時にハッと再び息を呑んだ。
 初めはペットにじゃれつかれているようなものと思っていたけれど、これは違うのかもしれない。

 もしかしてご主人様は私相手に性交をなさろうとしているのではないかと、この時になってようやく思い至ったのだ。体を固くする。

 お給料が高い理由、それはこういう行為も含めてのものだったのだろうか。食事を運ぶだけでいいのかという私の問いに「まずはそこからです」と答えた執事の男性。そのことを思い出したら、ますますそうとしか思えなくなってくる。
 拒絶したら、屋敷にいられなくなってしまうのではないか……ということが頭をよぎる。

 私自身に性交の経験はないし、これからお嫁に行くという予定もない。何よりもここでクビになったら家族が飢え死にしてしまう、様々な思惑から、力を込めて固くしていた体をだらりと弛緩させた。
 恐る恐るご主人様に問いかける。

「ご、ご主人様……、私、こういう経験が無いので、恐くて……やさしくしてくださいますか?」

 伸びて来た触手が私の頭を撫でるように掠めて行くので、ほっとした。


*サンプルはここまでになります!

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倉くらの 2022/05/15 10:01

サンプルUPしてきました。

公開まで1ヵ月切りましたので、pixivに「盗賊と領主の娘」のサンプルをUPしてきました。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17592698

冒頭部分、3章終了まで読むことができます。
本編は全部で15章あります。



それから販売する作品の中に短めの番外編を1本追加しました。
やってみたいなというネタを思いつき、ショートショートだったので、1日で書き終わりました。
「誕生日騒動記」というコメディ寄りのお話です。
女子の友情と、ちょっぴり恋話。

これを追加したことにより番外編だけで9万字となりました。
1冊本が出せそうです。


今回から販売は縦書きのみで、横書きの販売は無くなりました。
修正個所を見つけた時にどうしても手間になってしまうので、効率を考えてこのようになりました。
小説を書く時の様式は横書きでしたが、これを機に縦書きに慣れて行こうと思います。

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倉くらの 2022/03/08 08:54

婚姻編サンプルUPしてきました!

婚姻編のサンプルUPしました!
よろしければご覧になってみてください。

駿河続編「婚姻の儀編」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17131853

六道続編「千方誕生編」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17139145


どちらが書きやすかったかと言うと、駿河が圧倒的です。
このエピソードが入れたくて、続編を書いたようなもの。
どちらかというと本編では駿河→影丸な感じの愛の重さですが、続編では影丸が積極的に愛を返していきます。
後半に影丸が愛を告白するシーンがあります。その辺りが見どころかなと。

でも乙女モードになってしまう影丸も好きなので、六道ルートも書いていて楽しいんですよ。
そして続編では六道と駿河の友情話を少しだけ入れることができました。
ライバル関係にある2人が友情を育めるのは六道編でしかないのでね。これは入れてみたいなと思っていました。


実は六道に関しては婚姻話のエピソードも考えていたんですけど、迷った末にそれをすっ飛ばして子供誕生させてしまいました。
つまり「千方誕生編」の話が始まった時点では、まだ六道と正式に婚姻しておりません(笑)
千方誕生までの間に、削った婚姻話のエピソードがあります。
影丸が花嫁装束を着て妖の元へ潜入したりします。
この辺りはいつか気が向いた時に書けたらいいなぁと思います。


発売日まであと4日!
果たして……売れるか!?
もうすでに発売しているシリーズの再録なので、1冊ぐらいいけたらありがたいですね。
ちょっと小説作にしては高いのでね…。

自己満本なので…出せただけで私は満足ですv
1人で眺めてはニヤニヤしてます。

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