投稿記事

音リテラシーの記事 (18)

KLV Canvas & 性DEC 2018/09/07 01:36

音量調整のイロハ

2018/09/17追記: 記事タイトルを「フリーソフトで済ませる音量調整」から変更しました。

「とりあえず正規化」のワナ

BGMや効果音の音量調整の手法としてよく見かけるのが「正規化」です。僕も実は何が正規なのか、invalidやunauthorized、illegalな音量があるのか、よくわかっていないのですが(?)、つまるところ「オーディオのピークを0dBに合わせる」工程を指す言葉です。

この「ピーク」というやつがプロでも厄介なのです。

上の画像はAudacityで適当な音源を開いたときのスクショに説明を付けたものです。

ピンクで示してあるようなトゲトゲ(以後、"ピーク成分"と呼びます)は、波形の中でも音の細かいニュアンスを出す成分です。(本来この部分もひとつながりの波形なので、「成分」という呼び方はふさわしくないかもしれませんが、便宜上。) 数年前のEDMなどではこの部分を極力削減するような音源の仕上げ方が流行っていました。

そこで生まれた余白をオレンジ(以後、"ボディ成分"と呼ぶことがあります)で埋めれば、音の繊細さ、ダイナミクスを犠牲にパッと聞いた感じをデカくでき、カッコいい風に勘違いさせられるわけです。詳しくは「音圧戦争」でググってください。今はいろんな業界の働きかけでこうした傾向は薄れていますが、それでも結構大胆というかなんというか…な人はバカデカい音量で音源を出しています。

あと「音割れポッター」のような音割れ芸の音源はほとんどオレンジの部分しかありません。逆にあんな乱暴な音がピーク成分を保持しながら綺麗に音源に格納されているはずがない。そうそう、音割れポッターごっこがしたくて最近「ハリー・ポッターと賢者の石」のサントラCDを買いました。しかも輸入盤。

正規化は単純にピークを0dBに合わせる処理ですから、ピーク成分が波形のどれだけを占めているかは全く考慮しないのです。

音量ではなく、音量感を整えよう

SoundEngine Freeの「オートマキシマイズ」などでは「音量感の調整」が可能です。SoundEngineにも正規化コマンドはありますがオートマキシマイズを選んでください。

ただしSoundEngine Freeの利用は非営利目的に限られます。僕も癖でFree版を立ち上げがちですがちゃんとPro用ライセンス買っています

あともう少し丁寧にするならオートマキシマイズだけでなく「コンプレッサー」の使用も大事です。セリフの終わり際などあまりに小さい声を少しだけ持ち上げたい、といった場面に効きます

SoundEngineのオートマキシマイズがチェックするのはボディ成分です。例えば音源すべてをそこそこ大きめに揃える場合、ジャズなど元がしっとり目に仕上げてある音源はガツンと音量が持ち上げられ、音圧戦争の兵士たるロック系の音源はほんの少ししか持ちあがらない/むしろ音量を下げられる、といったことが起きるでしょう。

順番が前後しますが、逆に同じ「音量感」に揃えた場合の各音源ごとのピークの違いの例をご紹介します。SoundEngine公式サイト記載の解析タブの仕様も参考にしてください。(僕自身こんなページがあったんだと今更知りました)

後者は音量感を-18dBにしようとした結果ピーク(最大音量)が0dBの天井をぶち破っています。クリッピング=音割れの発生です。特にゲームで使用する場合は気持ち小さめに整えるのがよいでしょう。実際のプレイングで音が割れるのは最悪防げないとしても、元となるオーディオソースの時点でクリッピングしていては話になりません。

最後に(PRを兼ねて)

難しくなってきたら音屋さんに投げるのがいちばんです。

特に音源の数が増えてきたり、音源によって制作者や制作時期が違ったりすれば、ただのオートマキシマイズでは自然な聞こえ方にするのがとても難しくなります。こういった場合には、「整音」を専門的に扱うことのできる人を頼ったほうがいいと思います。

楽曲制作よりも必要な作業の工数が大きくバラけやすいため、KLV Canvasではお見積りにあたり音源の詳細と予算観のご提示をお願いしております。お気軽にご相談ください。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

KLV Canvas & 性DEC 2018/08/24 04:15

VTuber/リッチコンテンツで扱ういろんな音

Twitterに掲載したものをこちらでも。

TLで見かけたVTuber技術マップ(https://twitter.com/ikko/status/1032442986846507008)に「音声」の内訳がもっと欲しいなと思ったので、様々な映像+音声コンテンツでも使われるD-M-Eという概念からブロック図を作りました。VTuberなので声/会話(Dialog)に比重を置いています。

同人エロゲ作家さんとかでもVTuber的PRを計画している方をちょくちょく見かけるので、参考になればなぁと。これらひとつずつでもレベルを上げると、「ガワを見ているときはそうでもなかったけど、作業用BGMにした途端普通のオタクの喋りに聞こえてきた…」みたいな興ざめがぐっと減るはずです。

ここからはそれぞれの項目について、少し詳しめに解説します。

Audio Sweetening

直訳すると「音響を甘く(味付け)する」でしょうか。下記DMEの各要素を統合、編集する作業のことです。日本の放送業界等では和製英語でMA(Multi Audio)と呼ぶことがほとんどです。MAD動画などを作ったことのある方はAviUtlやAudacityで音声をペタペタ貼り付けたと思いますが、あれのもっと細かい版だと思えばOKです。

SMPTE タイムコード同期

これは映像や他の編集機器との同期に関することなので、ある程度の規模にならないと使いません。映像と音声を別ルートで録る場合、何分何秒何フレーム目かを合わせる必要があります。編集機器同士の同期にも使います。SMPTEはシンプティと読みます。

バイノーラル/サラウンド

同人音声でもおなじみのバイノーラルですが、M(音楽)やE(効果音)も録音/オーディオ編集次第でバイノーラルにできます。厳密にいえばステレオさえ立体音響の一種です。VTuber企画でサラウンドはやりすぎでしょうが(一応ステレオ向けコンバージョンという手もある)、各種VRコンテンツの制作でもバンバン使われていますし、なにがしか試してみると面白いでしょうね。

Dialog, Music, Effects

Audio Sweeteningに使う各種素材です。音響制作の現場ではたいていDialog = 声/会話、Music = 楽曲、Effects = 効果、というふうに区分しています。

収録

基本の発声が良くても設備がダメでは没入感は得られませんし、逆もしかりですね。ボイチェンは設備や整音の方でも関わりますが、ボイチェン越しの演技も大事なので収録カテゴリに入れました。

整音

「せいおん!」という漫画が出たらサウンドデザイナー増えませんかね。(唐突な思い付き)

特に声の活動が浅い方だとリップノイズが多く含まれてしまいます。下記ノイズリダクションやコンプレッションも有効ですが、それでも残るもの、あるいはこれらに先んじてわかりやすい雑音は手作業で取り除いてしまうのもアリです。面倒くさいかもしれませんが、お料理でいうと「骨まで食べられる魚を圧力鍋など用意して作るより手で骨を抜くほうが楽、かもしれない」みたいなものです。

ノイズリダクション

ノイズ対応としてノイズゲート(音量が一定以下の範囲を無音にする)をかけている方は多いのですが、パラメーターの設定が適切でないと声の境目などでブツブツとしたノイズの「ぶり返し」が発生してしまいます。

これはアタックタイム(ゲートの効きはじめから完全に無音にするまでの時間)を増やしたり(これを長くとると今度はセリフ本体を削ってしまうので、波形の先読みに対応したプラグインが必要)、リリースタイムを伸ばしたりすることで対応できます。

また、ノイズ成分がどの帯域にあるかを学習した上で除去するというプラグインもあります。Waves X-NoiseはDSKB Vol.1の開発でも使用しました。

コンプレッション

音量差を少なくすることです。いくらささやき声でもボリュームつまみをいじる必要があるほど小さいまま収録しては聞きにくいものです。同じトーンで喋っていても、言葉の境目などで「もう少し大きければ聞きやすいのに」と思いうる場面は多々あります。適切にコンプレッションしておくことで、こうしたリスクの少ない、はっきりとした明瞭な声を届けることができます。

また、これに伴いディエッシング(De-essing)も行うと更に良いでしょう。(ただVTuberでここまでやる人は多くないと思います) 日本語でいうサ行は高音にものすごく鋭いピークが現れるため、そのままでは耳に刺さってしまいがちです。これを抑えるのがディエッサー(De-esser)で、多くのプラグインバンドルにも含まれています。

選曲

放送局などでは選曲もひとつのお仕事です。どこにどういう楽曲を割り当てるか、鉄板の使い方か、思い切って攻めるかを決める大事な部分です。素材を探し、必要なら作曲家に発注することになります。ある程度の音楽リテラシーに加え、フェードやカットといった編集も必要となるため、この作業そのものを音楽に詳しい人や作曲家に頼むこともひとつの手です。

作曲

自分で自分の音楽を作ってアピールする人もいますが、そういった人はこの記事など読んでいないでしょう。

アンビエンス

環境音ともいいます。先のノイズリダクションを経てすっかりきれいになった音源は、そのままではあまりに味気ないものです。ここに部屋の中の暗騒音(エアコンの音、換気扇の音、窓の外の音、etc.)を加えるだけでぐっとリアリティが生まれます。実はほとんどのAAAタイトルや映画にも常にアンビが敷かれているのです。さりげないので気付かれませんが、気付かれないことこそがキモとなる、そんないぶし銀の音です。

弊サークルの素材パックではDSKB Vol.2に環境音を収録しています。ぜひお役立てください。年末までアップデートを予定しております。

ワンショット

一般に効果音といえば思い浮かべる「デュクシ」とか「ガーン」とかのことは、アンビに対してワンショット(単発もの)と呼びます。

Foley

映像を見ながら生演技を重ねて効果音トラックを作っていく作業のことで、フォーリーと読みます。この手法を確立した、映画音響の第一人者の名前にちなんでいます。モンスターハンターや龍が如くといった、「足音」がたくさん出るような作品では、フォーリーも職人(Foley artist)が靴を履き替え砂を敷き替え、様々な音を収録することになります。特に映画的手法で魅せていくことを検討する場合、フォーリーサウンドの存在感は大きくなるでしょう。


思ったより長々と書いてしまいました。少なくとも今回書いたものに関してはくらびすた自身Audio SweeteningからFoleyまで対応しておりますから、VTuber企画やリッチコンテンツ、音声作品のサウンドのことでお困りのことがありましたら是非聞かせていただければと思います。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

KLV Canvas & 性DEC 2018/08/10 01:36

使用許諾条件や楽曲タイトルの取扱いについて

今回は文字ばっかりでつまらないと思いますが、大事なことですのでぜひ読んでください。

KLV CanvasのWebサイト内DSKB/VGM Collection サポート情報ポータルページ記載の使用許諾条件は、時々更新されています。「以前までOKだったのにNGになってる!」ということはおおよそないはずですが、マメにチェックしてくださいね。別途問い合わせがあったものや、ゲーム作家さんの話を聞いていて「これは書いたほうがいいな」と思ったことを、基本の5条に補足しています。

直近では、

(ロイヤリティフリー) 当該パックの使用にあたって、料金の追徴は発生しません。

例外として、カスタムシミュレーターなど「ソフトウェア内部で素材として取り扱う」ケースにおいてパック全体 (DSKB Vol.1 のようにバリエーションを持つ場合は任意の 1 種類) の音源ファイルの半分以上を使用する場合は特別ライセンスを発行いたします。メールにてお問い合わせください。

(著作権の保持) 当該パックの著作権は KLV Canvas に帰属します。使用にあたってはあなたの成果物の Readme ファイルなどにクレジット表記を入れてください。(例: “DSKB Vol.1 - © KLV Canvas”, “[BGM] くらびすた/VGM Collection Vol.2”)

Twitter/メール等での使用報告は必須ではありませんが、モチベーションの増進に繋がりますので可能な限りご協力いただければ幸いです。

楽曲に新たなタイトルを付与することは同一性保持権の侵害にあたります。

といった部分を付け足しました。特別ライセンスについては「まるごと収録して、更にプレイヤーさんに好きなように使わせたい」といった相談を受けたため設けました。一部のファイルのみを抜粋して組み込む、一般的な利用では特に意識する必要はありません。また、この記事の公開より前にリリースされた作品については遡及しません。

今回詳しめにお話したいのは、後者の「楽曲に新たなタイトルを付与すること」の問題点です。

タイトルの大切さ

本格的な話を進める前に、まず僕くらびすたの楽曲タイトルに対する考え方を説明させてください。

メロディなどというものはそのままだと周波数の変化を12段階に分けて弄ぶだけの、数学的ゴミなんです。このことはメロディ以外のメソッド(ドラムやノイズなど)を積極的に利用するテクノ/クラブミュージックの隆盛によって近年ますます顕著になっています。

ただこのゴミに感銘を受けてしまうのが人間というもので、しかもこのゴミは伝染します。ミーム(meme)という言葉があるように、文化的な遺伝子として、友達、親子、街、国といったスケールでどんどん広まるのです。場合によっては最初に作った人間とは別の人間が翻案したものを発表するでしょう。

となれば、その選りすぐりのメロディはユニークな名前で識別しておかないと不便です。一度命名しておけば、そのメロディに対する名誉も、名前によって集中させることができるようになります。メロディに「一人前」の「尊厳」が与えられる瞬間です。(メロディがない音楽はガラクタのまま、ということではありません。むしろメロディがないにもかかわらずタイトルをつけられているのなら、エラい上に愛されているものですよね)

大げさな話をしましたが、つまり楽曲に与えられる名前は、親が自ら産んだタンパク質の塊をひとりの尊厳ある人間として自他から識別できるようにするために与えるそれと、同じ重みがあって然るべきなのです。

別に「奏」と名付けられた子が音楽家にならなくてもいいし、「駿」と名付けられた子が徒競走でビリでもいいんです。親が「奏」や「駿」に見出した何かを、子や子と関わる人間が受け取り、人としての営みを少しでもより良くできるならそれで十分なわけです。

ただし、なんだかつまらないから、こっちの方がいいと思ったからといって、その相手を本人の承諾していない呼び名で呼ぶのは、とんでもない失礼に当たります。

これと同じことが楽曲のタイトルにもいえると思います。

くらびすたの場合

ゆえに、(VGMC1のような例外もありますが)自分はなるべく2語以上で他と重複しにくいタイトル、1語でも一捻り入れたチョイスにすることを心がけています。またタイトルが思いつかないような場合、先にタイトルを考えているのにしっくりこない場合はそれだけ洗練されていないメロディだということでボツにしています。

せめて自分が産むなら、責任を取りたい。なるべくちゃんと練ったメロディとよく考えたタイトルのセットで世に放ちたいのです。

ですから、無題もしくはそれに近いタイトル(村1.wavとか)で素材を公開するのは、自らゴミ扱いされやすくするような行為ではないか、というのが率直な考えですし、「素材にタイトルが付いているとイメージが限定されて使いにくい」といった風潮もなくなってくれたらな、と思っています。その程度で本当に使えなくなるほど音楽素材のポテンシャルも作家さんたちのクリエイティビティもヤワではないと信じています。現在の使用許諾条件、最後の文言を引用します。

楽曲に与えたタイトルは作者からの「こういうつもりで作ったけど、どうかな?」という問いかけです。「気に入らないから最初からその曲名ではなかったことにしよう」とされては困りますが、「自分が思い至った、本家とは違う解釈で魅せよう」という変化 = 返歌はたいへん嬉しいものです。そのドラマがわかるよう、クレジットの際はオリジナルのタイトルを明記してください。

素材作家とゲーム作家の激突もまた良し。人間的な営みをしましょう。

掲載したきっかけ

以前、ゲーム作家さんの集いで「ボスのグラフィック素材を雑魚キャラに使われて素材作家さんが怒った」事案があるということを知り、他人事ではないなぁと思った次第です。

ちなみにこの事案(本当にあったのかな)についての僕の見方としては、「多くのゲームでボスを務めるドラキュラすら束ねるもっと大いなる闇の存在があるなら、そういったこともあるかもしれないけど、そうでもなくただ見た目からの思いつきで使われたならちょっとかわいそうかな」といった感じです。

でもぶっちゃけ

本当のことをいえば、ドット絵にしろスチルにしろ音楽にしろ効果音にしろ、全てワンオフで作れるのがいちばんいいですよね。僕自身、素材として作るときと個別請負で作るときとでは気合の入り方、筆の乗り方も全然違います。お金のこともそうですが、「うわー、これはゲームにばっちりハマるわ!」という手応えと喜びがありますから。

そういった意味でも音楽の素材制作よりもDSKBやワンオフBGMの制作を優先させていますし、無料公開の素材も相当後回しにしております。何卒あしからず。

法律的にも

同一性保持権というものが規定されていますから、タイトルの変更は訴えられると分が悪い内容です。くれぐれもお気をつけて、もしタイトルにそぐわないシチュエーションで使いたい場合は堂々と元のタイトルで。

人間的な営みをしましょう。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

1 2 3 4 »

記事のタグから探す

月別アーカイブ

記事を検索