ふたさこ 2024/08/09 19:49

沼らないための創作手法:実例編part2/2

前回からの直接的な続きとなります。

今回は文字数上限でやむなく記事を分割しただけなのでまずは先に前回の記事から読むことを推奨します。

それでは前回のおさらいです。

大怪鏡を実際にデザインしていく方針は以下の通り

1:大怪鏡の具体的な立体としての形まで決める
2:作った立体をベースにモチーフの表現を行う

イメージとしては1で骨格を作り、2で外装を取り付ける感じです。

なのでまずは取り付ける外装を先に用意していきます。

既に欲望について端的に示すシンボルをどういう形にすればよいか決めたので、ここからはモチーフを表現するための曲線デザインをどうするのかやっていきます。

曲線デザイン

もっとも単純な線によって特徴を表現し、そこに肉付けをします。

ここでの目標はモチーフをどういう風な曲線デザインにするか方針を決めることです。

どういうことなのか?

大怪鏡のデザインはどういう立体か決めたあと各モチーフの曲線デザインを適応して作ります。

つまり今の段階で形と立体を完全に決めた曲線デザインを作ってしまうと大怪鏡の立体に対応できなくなるので具体的な形は決めずに方針だけ決めます。

それではまず上部で表現する波の曲線デザインから見ていきます。

波の曲線デザインの方針

最初に特徴を観察するためにスケッチを行いました。


他のモチーフと比べて構造を把握するのが難しく、あまり立体感を捉えることができないスケッチとなりました。

しかしそれでもスケッチの効果は素晴らしく、波の特徴を把握することができました。

それを踏まえて曲線デザインにしてみたのがこちら。


右にあるいかにも力が入ってるやつがそうです。
なお左上は特徴のメモ。左下は試行錯誤のあとです。

おそらく作った曲線デザインのなかで一番スムーズにできました。
左上に書いてる2つの特徴を取り入れるだけでだいぶ波っぽいです。

簡単でそれっぽいので波の曲線デザインを大怪鏡の立体に適応するときはこういう感じ目指すことにします。

次は欲望の悪い面を一身に担う怪物イカを検討していきます。

イカの曲線デザインの方針

まずは特徴を掴むためのスケッチ。


イカ、かわいいね♡

書き込みの細かさからイカ全体というよりかは触腕に注目しているのがわかるのではないでしょうか。吸盤のスケッチまであります。

これは欲望の良い面を派手に、悪い面を地味に見せる都合を考えた結果です。

悪い面を担うイカでは全身を表現するスペースは確保できなさそうに思えたので触腕にのみ絞って曲線デザインを用意することにしました。

それでもイカ全体像のスケッチをしたのは念の為です。イカの形はかわいいことがわかりました。

そして触腕を曲線デザインにするための試行錯誤がこちら。


色々考えましたが描くスペースがとれない上にドット絵にするということを考慮するとシンプルかつわかりやすくするしかないという結論に至りました。

なので一番左下にある吸盤を見せつけてるような形を方針とすることにしました。

さてデザインの方針を用意するのは次で最後です。
最後に取り掛かるモチーフは海藻となります。

海藻類の曲線デザインの方針

あれ?こいつ海藻描くっていつ決めたの?と思った人はこの記事をよく読んでいます。

実際のところ一度も言及していません。
作業中に急遽用意することにしたからです。

欲望の良き面を表現するために海の豊かさを描くことにしました。
それを担うのはリーフィーシードラゴンです。

が、それだけじゃ足りないかもしれないと思い万が一に備えて海藻類も追加できるようにしておくことにしました。

使うモチーフはハバノリとウルシグサです。曲線デザインにしたとき映えそうなものを選びました。
スケッチはこちら。


とにかくハバノリがどういう立体をしているか分かりづらく苦戦しました。
形が難しすぎる。

一方ウルシグサのほうは特徴をおさえるのは楽でしたがドット絵になることも考慮した曲線デザインにするのは難しいのではと感じました。悪雲立ち込める状況。

ともかく曲線デザインしてみるべく試行錯誤してみます。
スケッチがこちら。


描き込みの濃さが苦心を物語っています。
ウルシグサが右上の一つしかないあたりハバノリに相当苦しめられているのがわかるのではないでしょうか。

不規則な形と微妙な凹凸の多さがとにかく難題で特徴が捉えられません。
それに加えてドット絵で描くことを考慮するとこのような細かい描き込みによるゴリ押しは使えません。
どうすんねん!

結局、保留にしました。どうせサブプランやし!

今こうして見るとどうにかできそうに思えるのですが当時はシンプルに実力不足だったことと私生活がなんだか忙しくなりはじめ疲れていたことからうまくいきませんでした。

さて、こうしてサブプランだからと保留にした海藻類ですが後々苦しめられることになります。

ともかく各モチーフのデザインの方針は用意できました。
いよいよ大怪鏡の具体的な形を作っていきます。

つまり実際にデザインしていくうえでの方針その1、骨格作りに取り掛かります。

大怪鏡のデザインの骨格を作る

これはとても重要なフェイズです。
ここで大怪鏡のデザインはほぼ確定します。

以前紹介した沼らないための創作手法、その第一手法はこの記事の前半部分で活躍しました。(注:つまり前回の記事のこと)
おかげでなにを伝えるか、なにをどこに描いて伝えるかが明確に確定しました。

私の創作手法において第一手法は必ず使うことを推奨します。
が、第二手法は必ずしも使う必要はありません。大変だからです。

なので一番重要なこの段階で投入します。
ここからが今まで私が作ってきたどの作品とも一線を画するポイントとなります。

今までの作品にはなくてこの大怪鏡のデザインにあるもの、それはしつこくて早い試行錯誤です。
これこそ第二手法でありここからはそれによって大怪鏡の具体的な形を作っていきます。

確実に作品を完成させるために模索し続けた私の創作手法、その一つの完成を確信した第二手法の威力ご期待ください。

下準備

まず戦力を分断します。試行錯誤の回転数をあげるのに必須です。

今回の大怪鏡、パーツにわけると鏡の部分とそれを取り囲む枠の部分によって構成されています。

なのでまず最初に鏡の部分の形を決め、次に枠の形を決めます。

なぜこの順番なのか?

鏡というものを考えたとき、鏡そのものこそ一番要素として占める割合が大きいです。

つまり与える印象に最も関与し、なおかつ鏡を取り囲む枠の形にも影響を与えるのでまず最初に鏡の部分をどういう形にするか決めることにしました。

では鏡の部分の形はどうすればよいのでしょうか?
まずは伝えることを決めます。

鏡の部分の形を決める

ここで伝えることは『欲望』です。

本を見たときまず最初に認識できる情報はなんでしょうか?
それはタイトルです。

大怪鏡においてもまず最初に認識できる形は鏡の部分の形だと思いました。
なのでここで大怪鏡というものを総括したタイトルのようなものを伝えることにしました。

では大怪鏡にタイトルをつけるなら?
私には『欲望』以外ないと思えました。

なので鏡そのものの形は欲望を伝える形にします。

まずはごく単純な円や四角などの図形を試します。試行錯誤の回転をあげるためです。

しかし問題が一つありました。
ごく単純な図形で欲望なんて伝わるわけがありません。だってほんとにただの丸とか四角だぜ!?

なので勝手に意味を込めることにしました。

欲望を想起させる形を考えた際、マズローの5段階欲求が三角形だったので三角形を使うことにしました。

ただそれだと安定感がある印象なのでひっくり返して逆三角形をベースにすることにしました。

逆三角形にしたのはただそれだけが理由ですが嬉しい偶然がありました。

マズローの5段階欲求において今回メインで語る性欲などの生理的欲求は最下層に位置します。


それがひっくり返って最上層に位置することになったのは大怪鏡をデザインする上で意味深いように感じます。

ところで生き物の定義のシンボルにも使ったあたり私は逆三角形という形が好きなのかもしれません。
ちなみにマフガジモのフードにも逆三角形はあります。


これまた偶然ですがなんらかの繋がりを感じさせるものとなりました。実際魔界由来のものという設定的な繋がりはあります。

具体的に設定を考えてみるなら大怪鏡がまず魔界に存在しあとから生まれた知的生命体(マフガジモの祖先ら)が大怪鏡の意匠を取り入れるようになった……というような感じでしょうか。

それはともかく逆三角形をベースにさらに形を作り込みます。

具体的な形の模索

せっかくなので勝手に使ってるマズローの5段階欲求をさらに利用することにしました。
大怪鏡が語る欲望とはマズローでいうところの生理的欲求です。なのでその部分を強調するような形に変形してみます。

実際のスケッチはこちら。


一番下の欄で試行錯誤しています。

結局、生理的欲求の部分をドカッと下に引き伸ばし他の欲求を下に追いやる形になりました。
そして全体のデザインの下敷きをロココ調にしているので少し丸みをつけました。

こうして鏡そのものの形はマンガの吹き出しのような形になりました。

これまで偉そうにどうすれば伝えるのかどうこう言ってきましたが単独の図形でなにか具体的なことを伝えるのは不可能なので勝手に理屈をつけてニヤニヤするのが良いと思います。作った人の特権です。

さぁこれで完成させるための理屈はすべて出揃いました。
掴みどころがなかった大怪鏡のデザインはとうとう完全に包囲されその姿を白日の元にさらすときが来たのです。
あとはこの足で捕まえるだけです。

枠の形を作る

ここからは完全に感性の世界です。
ただひたすらふさわしいと思える形を追求していきます。

まずは鏡の枠全体の形からです。
ベースとなる形は出揃った理屈から導き出せます。

良い面を派手に、悪い面地味にする方針。
上から端的な結論、良い面、悪い面、結論と伝える構成。
そして鏡そのものの形が逆三角形をベースにしていること。

このことから鏡の枠全体の形もはやり逆三角形をベースとするのがふさわしいでしょう。
これらを念頭にふさわしい形を追求していきます。

まずは一枚目のスケッチ。


正直、私は美的感性などに自信はありません。
なのでとにかく極端な形を試して消去法で一番ましなのを選びます。

さすがにこれはないやろみたいな形もどんどん試してみます。


上段にアホみたいな形が並んでいます。今見ても笑えるのでこういうのはどんどんやってみるべきでしょう。

そして一番左下、出したアイデアをまとめる方針で試した形ですがピンと来ました。
スケッチに描いてあるとおり悪くないです。

気持ち的にはもうこれで決定してます。

なのでさらにしつこく色んなアイデアを試しました。


これだけ出しても先程のもの以上にしっくりくるものはなかったので枠全体の形は以下のもので決定します。

さぁこれで枠全体の形は決まりました。
ここからはより細部の形を詰めていきます。

実は今回、この段階でもういきなり立体に取り掛かっていますがこれはおすすめしません。

当時の私は「枠全体の形が決まったならあとはそこから立体にするだけ!」と思っていたのでしょう。
今回は幸いにもそれでどうにかなりましたが、実力が問われるやり方なので段階を踏むべきです。

細部に関してもまずは形を詰めてから立体にするという手順をおすすめします。

それではどのように細部の立体を決めていったか見ていきます。
まず最初のスケッチはこちら。


上半分から解説します。
まず大怪鏡の上部から詰めるべきだろうということで右の2つは上部の形をどうするか決めています。
波立つ海面を表現することが決まってるのでそれを意識した形を2パターン試しています。

正直試行錯誤をする余地はないと感じたので手早く左の形を採用することにしました。

それを踏まえて左上。
今度は枠のメイン部分の詳細を詰めはじめています。

枠全体の形と見比べると実に正統派な立体といえるでしょう。
分岐あれど上から下まで繋がった一本の立体で左右で囲んだ枠となっています。

ここでその繋がった一本の立体を分割してみるというアイデアが浮かびました。

このスケッチの下半分はその分割プランの試行錯誤となっています。

さてここからは2枚目のスケッチです。
分割プランの続きとなっています。


上下に分割した立体のうち下のほうの形を模索しています。
上部分については試行錯誤の余地がないと思ったのでノータッチです。
今にしてみればもう少し上も模索しなよと思います。

まずは一番右上。シンプルに上下で分割してみた結果です。
枠全体の形を維持しつつ分割するとこのように枠に隙間ができて鏡の部分の形が変わってしまうのでそれを埋める立体を追加することにしました。

というわけで左に並んだスケッチには巻きを増やしてみたり、巻きの向きを逆にしたり、伸ばしてみたりしています。

そして一番左下、現在の大怪鏡の原型ともいえるデザインがとうとう現れました。


正直、枠のメイン部分の立体はこれで決定だなと思いました。
しかし気になったのは最下部です。

ここでは開いた形になっていますが閉じるとどうなるのかだけ試すことにしました。
それがこちらのスケッチです。

まずは一番右上。素直に閉じた形です。
おかげで大怪鏡の下半分の長さが短くなりました。まるで大怪鏡の子どものようで可愛げのある印象になっています。いい子そう。

それでは困るので下半分の比率を伸ばして印象を元に戻す試行錯誤を行っているのが左の4つです。

そして一番左下のスケッチでは巻きの向きを変え下部分の立体も変えてみる試みも行っています。

そしてここらで下を閉じる方向性の模索は頭打ちに感じたので、大怪鏡の下は閉じるか開けるか決めます。

今回は開ける形を採用しました。直感です。理屈はありません。

それでは改めてベースとなった形がどういう立体になったか見てみましょう。


情報量が増えたので様変わりはしつつもベースとなった形からまったく別物になったわけでもないように感じます。

うまくいってると思ったのでこのまま作業を進めることにしました。

上部の巻き角と最下部の立体を詰めています。


スケッチはこちら。

まずは一番右上。上部の巻き角を素直に立体にしました。
しかし少し貧相に感じたのでその左隣りでは巻き角の下部分にボリュームをもたせています。

これで巻き角の試行錯誤は頭打ちに感じたのでボリュームをもたせたほうを採用して、最下部の立体を詰めることにしました。

そして中央のスケッチにてイカの触腕を意識した植物のツルのようなパーツが現れています。

面白そうなアイデアだったのでそこからはこのツルプランの可能性を見る試行錯誤を行っていってます。

そして二枚目のスケッチ。


ツルプランをより発展させて鏡の枠に巻き付いた形のアイデアを色々試しています。

この巻きつくアイデア、最終的に伝えたいことである「欲望からは決して逃れられない」をより補強する表現になるので良い思いつきでした。

しかしちょっと不気味すぎるので今回は不採用としました。こんなんじゃ誰も大怪鏡に寄りつかないよー!

あと巻き付くという都合上、細かい表現となるのでドット絵にすることも考慮するとどちらにしろ採用されることはなかったです。
アイデアとしては気に入っています。

それでは次のスケッチです。
ツルプランのことは一旦忘れて改めて最下部の立体を模索しています。


そして次のスケッチ。

色々試した結果、やはりツルを使うこと自体は良いだろうという結論に落ち着きました。
左下の2つで巻きの向きがどちらがいいかだけ確認しています。

というわけで今回の試行錯誤によって上部の巻き角と最下部の立体が決まりました。


残すは最上部と最下部のシンボルの立体をどうするかのみです。

あらめてシンボルの形を見てみましょう。

非常にシンプルな図形の組み合わせです。

しかしいざ実際の立体物として表現するとなるとかなり苦戦しました。
実際のスケッチはこちらになります。


発想を変えた色んな形や立体によってなんとかシンボルを立体物にしよう試みています。
しかし今の私ではスケッチによる試行錯誤で答えを出すのは無理だと感じました。

どうするか。
そのときひらめきました。

頭の中で立体が作れないなら粘土で実際に作ればいいじゃない!

というわけで遥か昔、鉛筆デッサン用に買った練り消し引っ張り出し実際に立体物を作って試行錯誤することにしました。

よもやこんなもんまで引っ張り出すことになるとは。大怪鏡のデザイン制作が総力戦の様相を呈してきました。

なお鉛筆デッサン用に買ったこの練り消しですが、実際に鉛筆デッサンで使ったのは2回ぐらいです。

ともかく練り消しで色々試行錯誤した結果、こういった形に落ち着きました。


別角度はこちら。

おそらく見せられても困る出来だとは思います。
しかしこれで私はどういう立体にするかイメージがつきました。

これをもとに試行錯誤したスケッチがこちらです。


右下のものを採用することとしました。
ついでに最下部のシンボルも採用したのを踏襲した立体にしています。

さぁこれでほぼ立体として完成しました。


最後に上部。左右の巻きの間の立体をどうするか決めていきます。

実際のスケッチはこちら。

結局は一番上の真ん中のものを採用する形になりました。
出た時点で「これ!」と思っていたのですがそのあとに5個ほどアイデアを出したうえで決定となりました。

さぁこれでベースとなる立体ができました。
それでは用意した曲線デザインを参考にモチーフを適応していきます。

スケッチはこちら。


まずは右上。これはベースとなる立体です。気晴らしに色を塗っています。

その左隣にあるのはとりあえずなにも考えずにモチーフを適応してみたものです。

ここでちゃんと戦略を考えたほうがよいと感じました。

その結果、一番印象に影響を与える順にモチーフを適応していくことにしました。

まずは枠のメインパーツ上部からです。


ここは海の豊かさを担うリーフィーシードラゴンを適応します。
しかしこの時点でリーフィーシードラゴンが持つ特徴的な海藻のようなヒレを表現するのは不可能だと結論をくだしました。

ヒレを表現する余地がないからです。

大量の試行錯誤の末にヒレを表現するための立体が生まれなかった。

ということはそれは不要だったということでしょう。

なので今回はヒレの表現をオミットします。なのでただのタツノオトシゴを表現する方向にシフトすることにしました。
残念です。リーフィーシードラゴン、表現したかった。

というわけで改めてこのスケッチをご覧ください。


これの下半分は枠のメインパーツ上部にタツノオトシゴを適応する試行錯誤を行っています。

切れ込みを入れたり、曲線デザインを用意したときに見つけた特徴であるS字カーブの下のカーブにボリュームをもたせたりしているのがうかがえるのではないでしょうか。

次のスケッチではまず枠のメインパーツ下部にもカーブにボリュームをもたせるとどうなるか。
そして具体的なディテールをどうするか枠のメインパーツの左側を使って模索しています。



このディテールをどうするかは相当苦戦しました。
シンプルすぎると伝わらないし、細かすぎるとドット絵にするとき潰れます。

次のスケッチも同様にディテールの試行錯誤です。


目盛りのように長方形を並べる目盛りプランをメインにディテールを模索しています。

結局今回採用したのはタツノオトシゴの特徴的な体表の凹凸を極限までデフォルメしたこのプランをさらにシンプルにしたものでした。

次のスケッチも同様にディテールの試行錯誤です。

目盛りプランとは逆にタツノオトシゴが持つ体表の特徴的な凹凸を忠実に再現するプランを試しています。

次のスケッチも同様にディテールの試行錯誤です。


もはやアイデアが枯渇しています。

一度諦めたリーフィーシードラゴンの表現をパーツに模様を描くことで試みすらした末に一番マシな目盛りプランに立ち返り最終決定をくだしました。

また枠のメインパーツ下部の巻きをなくしてましたがやっぱり戻すことにしました。

そしてついでに大怪鏡上部の波のディテールを加えた結果、最終的にはこのようなものになりました。


ディテールはともかく狙い通りのタツノオトシゴ感が出てるので良しとしています。

ひっくり返っているのはリーフィーシードラゴンの名残です。
海藻に擬態するためリーフィーシードラゴンは海藻と同じように潮の流れに揺れるのですがそのとき頭を下にして揺れます。

くちばしの表現もテクニカルです。本来ここはイカの触腕を表現することが狙いですが表現の余地がカツカツなのでこの部分にはくちばしと触腕、2つの役割をもたせました。


最下部の立体を模索するさい、ツルプランが良いと思ったのはここが大きな理由となっています。

同様の理由でメインパーツ上部の巻きには波のディテールを加えて上は波、下はタツノオトシゴといった表現を行いました。

その分、読解が難解になりましたが具体的なことはシナリオの展開によって伝えるのであまり問題にはしてません。
もしこれがデザイン単体で完結させなければならない作品だったなら私はこのような兼ねたやり方は避けます。

それでは残りの部分にもモチーフを適応していきます。
次に取り掛かるのは耳の部分です。


ここで使うモチーフは海藻としました。
ゴージャスなリーフィーシードラゴンの表現を諦めた以上、海の豊かさ力がパワーダウンしています。
それを補強するためにここで海藻を表現しなければなりません。

驚きです。一応用意しておいた海藻プランを本当に使うことになるとは。

問題があるとすれば海藻の特徴を掴むのが難しすぎて具体的なデザインの方針を用意できなかったことでしょう。

や、やってみるしかねぇ!

というわけで実際のスケッチはこちら。


まず右上。これは先程もお見せしたここまでのデザインです。
そして左隣からここまでのデザインに海藻を適応していってます。色をつけているのは気晴らしです。

しかしながら早々に海藻を表現するにはここからさらに形を足すことが必須だと考えました。
実力ある人ならこれだけでも表現することができたかもしれませんが、具体的なデザインの方針すら用意できなかった私には狭すぎます。

そこで二段目から下は追加する形の模索を行っています。

しかしながらこれといった形は見えなかったのでもう少し形を追加しないで海藻を頑張ってみることにしたのが下のスケッチです。

しかし一番左下。頑張ってはみたものの結局やはり形を追加するしかねぇという迷いが見えます。

それでは次のスケッチです。


途中で諦めてイカの触腕を表現することにしました。

一度決めた決断を相応の理由なしに覆したのは今回初めてのことです。
なんならこれまでのふたさこの活動を振り返っても相当珍しい激レア案件でしょう。

というわけで左上から下は触腕の模索となっています。

結局、中段左のものに落ち着きました。

とはいえ海藻をやらないわけにもいきません。
しかしもうどこにも表現できる部分がなかったのでまずは形を追加し、モチーフを適応することにしました。

というわけで追加する形の模索です。


中段右の形が良さそうに思えました。
なのでさらにしつこく別の形の模索をしています。

結局問題なかったのでこの形をベースにしてさらに形の模索をしていきます。

こうして右下の形を採用することにしました。

そして一応下のへんには具体的なデザインの方針を模索するメモもあります。
有効打は見えませんでした。

もうやってみるしかねぇ!

決めた形をベースにモチーフの適応を試みてみます。


色々試しましたがどうしても表現が細かくなりドット絵に適してないものばかり生まれます。

もう頭にきた!どうせ言わなきゃ誰もわかりゃしねぇんだ!適当にすっぞ!

こうして下段真ん中。
全体の形のイメージはハバノリのつもりで、そこにウルシグサのフォルムを線で表現したつもりのものができました。

一応そこから第二手法に則って一回だけしつこく試行錯誤を行い、左隣のものができました。


完成です。
現状、今の私の技術では海藻をどうにもできないことが完全にわかったのでこれでよしとします。

そしてこれを以て大怪鏡のデザインを確定する準備が完了しました。

あとはここから線画を起こし、問題がないかチェックします。

まずラフはこちら。


ラフはデザイン模索で作ったものを拡大して流用することにしました。

そして線画はこちら。


途中、細かいデザインの修正を行ったぐらいで問題はなさそうです。

なおデザインのチェックが目的なので線の強弱による陰影の表現はあえて最低限にしています。

そのためラフと比べて少々迫力に欠けますが、それでも充分狙い通りの印象だと感じました。
エロ作品においてある種最強の概念である欲望がついに一つの形を伴って私の前に姿を現しました。

最後の仕上げとして色を置いて本当に問題ないか確認してみます。


問題なさそうです。
陰影は大怪鏡の邪悪な本性をストレートに表現するような迫力あるものを採用しました。
ドット絵にしたものと比べるとビカビカしてます。

さぁこれで大怪鏡のデザインは完成です。
しかし作品としてはまだ足りないものがあります。

鏡ならなにか映さなければ。
というわけで生き物ならなんでも良いですが今回は本作の主人公ネーロエを置いてみました。


まぁ、久しぶりに人間を描きたかっただけです。

さぁこれで正面のデザインは完成しました。

次は真横から見た大怪鏡のデザインをやっていきます。

大丈夫です。すぐ終わります。

真横からのデザイン

目標は真横から見た大怪鏡だとわかるデザインを作ることです。
それさえ分ければ立体として破綻してても許容します。

使われてるシーンも短いので厳密に作り込みません。

まず正面のデザインから各パーツの位置関係割り出し、たぶんこういう形だろうというラフを用意します。


右のものが該当するラフです。
左のものはたぶんこういう立体だろうという確認のための陰影をつけたものです。

ただ思ったより立体としてよくわからなかったのでもう少しちゃんと作ることにしました。

ここで再び練り消しの登場です。
各パーツを作り、横から見たらどう見えるか確認することにします。



それをスケッチしたものがこちら。

これらをまとめてラフにしたのがこちらになります。

こんなもんでしょう。
パーツの位置だけ厳密に描いています。

目盛りのようなタツノオトシゴのディテールのおかげでかなり真横から見た感じが出てます。
問題ないでしょう。

真横から見たデザインはこれで完成とします。

それでは完成した各デザインを元にドット絵にしていきます。

なぁに、すぐ終わりますよ。
今までの作業はすべてこのための準備です。あとはやるだけで済みます。

ドットにすっぞ!

まずはドット絵のキャンバスの大きさを決めます。
そして完成したデザインをそこにあわせて縮小し、トレースしてドットの線画を作ります。

そうしてできたのがこちら。


デザインの線画と違って線の強弱による陰影の表現も積極的に行っています。

そうしてベースとなる色を置いて、陰影をつけていきます。
どういった陰影をつけるべきか?

プレイヤーにとって初めて見る複雑な形の鏡なのでどういう立体かわかりやすいライティングにします。
というわけで上部、側面、奥行きがわかりやすい斜め上からの光を当てた至ってよく使われる陰影を表現します。

なお陰影の付け方の物理的な理屈はこちらで触れてます。

そうして影だけつけたものがこちら。


ここに光源による反射光とまわりの物体からによる反射光をつけていきます。

光源による反射光とはいわゆる光沢のことです。どれぐらい強く現れてるかで物体の表面の滑らかを表現できます。
今回はサラサラの髪を目安に迫力ある印象を与えないために少し抑え目で表現しました。
完全になくすとそれはそれで人の目をくらませるお宝感がなくなるのでほどほどに表現してます。


次にまわりのものからによる反射光です。
さきほど抑えた滑らかさを補うために気持ち強めに表現しました。

最後に鏡本体の塗りです。
本来であれば周囲の環境を完全に反射するので大怪鏡が配置されているダンジョンを描き出すべきです。
しかしプレイヤーにはよくわからないこと、そして鏡であることはシナリオの展開で明示するので記号的な表現に頼り手間をおさえました。

今回、ひと工夫としてドット絵感を出すためにディザリングでグラデーションを表現しています。
たったの2色しか使っていませんが濃度を滑らかに変えることでグラデーションを実現しています。

なお鏡自体のグラデーションはフィルターで、鏡枠のグラデーションは手打ちでやってます。

実験的にやってみましたがいかがでしょうか?

私としてはドット絵感が増して満足してるものの、手打ちはしんどかったので今後使うならフィルターを利用することになると思います。

さてこれでおおよそ完成したので最後に色味の調整を行います。
ちょっと印象がぼんやりしてるのでコントラストをあげて少しハッキリ見えるように調整しました。


さぁこれで正面の大怪鏡は完成です。

そして同様の手順で真横からのものも作りました。

これを以て大怪鏡のデザインメイキングは終了となります。
お疲れ様でした。

改めて完成したデザインを見てみるとこの大怪鏡、鏡としてはかなり周りの枠がゴツくて自己主張が激しいです。
鏡として使うなら相当気が散って使い物にならないデザインでしょう。

しかしそこが気に入っています。

大怪鏡とは欲望を形にした鏡なのではなく、鏡の形をした欲望なのです。

結果的にこうなっただけですがこれは嬉しい偶然でした。
エロ作品において最強概念である欲望を自分なりに形にしきれた証拠と言えます。

終わりに

まずは本当にお疲れ様でした。
このメイキング、作るのもまぁ大変でしたが読むほうはもっと大変だっただろうなぁと思います。
なんせ長すぎて記事を分割する羽目になりました。

この記事が少しでもあなたの創作に貢献するものであったり、知的好奇心が満たされるものであれば幸いです。

これにてこの記事の本編は終わりです。
ここからはあとがきみたいなものとなります。

終わりに2

さて、今回の大怪鏡のデザインは私にとって非常に歴史的な作品となりました。

しつこくて早い試行錯誤という概念は実戦によりその威力をまざまざと見せつけ、私の創作手法に足りてなかったラストピースがなんであるかを証明しました。

今まで興味を抱いたことなく、必要に迫られて生まれて初めて鏡のデザインをやりましたがそれでもここまでのものになりました。

ということはどうすれば作品は完成するのかを追求した私の創作手法は第二手法、しつこくて早い試行錯誤盛り込むことによりひとつの完成に至ったのではないかと私は思っています。

しかしこの大怪鏡のデザインが歴史的なのはそれだけではありません。

作るしんどさ、それはもう歴史的でした。

正面からのデザインが完成したときのこと。

まだ真横からのデザインもしなければならないという事実に私はその日まだ時間があるのに精神的に立ち上がることができませんでした。

結局作業を再開するのに2日要しています。

なによりしんどかったのはドット絵まで完全に完成したときです。

たいていどんなに苦労した作品でも完成すれば達成感にあふれるものですが大怪鏡のデザインにそれはありませんでした。

完成した大怪鏡を見たとき、めちゃくちゃよくできた後味の悪い映画や小説読んだあとのように胸の奥がズンと重くなるだけでした。

創作を十数年やってまだこんなことがあるのかと驚愕しました。
複雑な思いを抱えるとはまさにこのことでしょう。

そういう意味でも大怪鏡のデザインが私にとって歴史的な作品であることは揺るぎないです。
作ったことに後悔は全くありません。が、思うところはあります。

次回はそんな大怪鏡をデザインした所感を振り返る記事となります。

苦痛の大きさは受ける時間の大きさに比例します。
では11年かかったとされるアポロ計画はNASAにとって苦痛の塊だったのでしょうか?

私はそうは思いません。

月面着陸は誰もが認める偉業です。
大怪鏡のデザインもそうであれば私の気持ちも楽だったでしょう。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

記事を検索