ichiya / イチヤヅツ 2022/08/01 00:10

人間を飼うことにした~ラグビー部の100倍サイズ巨人が人間の街で捕まえた男を寮で飼う話~

・0.これが飼うことにした人間(誰でも)
ラグビー部巨人が、たまたま見つけた人間の街のことを、友人に興奮気味に話している……

・1.人間の街に行くことにした(誰でも)
ひょんなことから学校裏の雑木林で人間の街を見つけたラグビー部巨人のタカヤは、
素足で街に入って建物や自動車を潰したりして、その中の一人の人間に興味を持ち
家を潰したりしながらその人間を連れ帰ってくる……

・2.人間を連れ帰ることにした(誰でも)
寮の自室に連れ帰った人間は喋るだけで吹っ飛びそうなほど小さい。指先で触れるような握手をし、夕飯の間逃げないように、タカヤはティッシュの箱を手に取る……

・3.人間を洗うことにした(フォロワー限定)
土や泥で汚れている人間をペットボトルキャップの風呂で洗ってやる。脱いだ服を息で吹っ飛ばしてしまうハプニングがありながらも人間を洗ったタカヤは、自分も寮の風呂へと急ぐ。巨人の中でもさらにでかいタカヤは脱衣所でもその筋肉やチンコを存分に見せつけて……

・4.人間に与えることにした(フォロワー限定)
人間の服や食べ物を、どうやって手に入れるか?悩んでいたタカヤだが、いいことを思いついて、もう一度雑木林の人間の街を訪れる……

・5.人間に仕置きすることにした(フォロワー限定)
トラックに乗って逃げようとしていた人間を、トラックごと捕まえたタカヤ。自分のチンコより小さいトラックに乗る人間にお仕置きすることにしたタカヤは、トラックを口に含んだり、チンコに添えたりして人間を恐怖のどん底に陥れる……

・6.キャラクタープロフィール(プチプラン限定)
巨人のタカヤと飼われている人間のプロフィールが読めます。
身長だったり学校や部活での様子などなど。

・7.モミジ狩り(プチプラン限定)
飼われている人間視点で、空からモミジの木が降ってきた話です。

0.これが飼うことにした人間


 こないださ、人間の街行ったんだよ。そう、人間。……ほら、学校の裏に雑木林があるじゃん。開けたところに偶然見つけてさ、こないだ行ってきた。
 ~~っもう、人間の街ってあんなにちっちぇーのな! 住宅街みたいなとこだったんだけど、ほとんどくるぶしぐらいの高さしかなくてさ、たまにちっこいビルがあっても脛の半分もねえの! 道路も片側一車線だと俺の片足の幅ぐらいしかなくて、普通に歩くのとかぜってーむり。平均台みたいになる。まあ建物とか踏みつぶして入っても良かったんだけどせっかくだしさ、大きい道路……それでも俺の両足がやっとおさまるぐらいで、まともに歩ける道じゃないんだけど、まあそこから街に入ったんだ。
 片側三車線ぐらいだったかな。ゆーっくり右足を下ろすとさ、足の裏に色々感じるわけ。……ああ、素足だよもちろん。まず電信柱とか信号とか、細いもんが足に当たるんだけど、あっという間にぽきぽき折れて、それから車が足裏に触れるんだけど、もう紙くず、いやそれよりも抵抗なくってさ、体重かけてるんじゃなくて、ただ足の重みだけでぐしゃぐしゃつぶれてくの。そんでようやくアスファルトに足がつく。このアスファルトもあっという間にバキバキ砕けてってさ、もう脆いのなんの。こんなんで舗装とかって、ちょっと笑っちゃったね。それで左足を入れるために右足に体重かけると道路がほんと沈み込むように陥没してってさ、どんだけ脆いんだよって逆に怖くなったわ。
 まあそれでなんとか左足も入れて、人間の街の道路に立ったけど、まず足元見るわけ。いやまあ目線の高さに何もないから足元見るしかないんだけど。俺、街に入っただけだぜ? 道路に右足と左足入れただけ。なのにさ、道路はボロボロだし、親指の近くにあった車は傾いて俺の親指に寄りかかってたり、他にも足の周りの車は横転してたり吹っ飛んだりでさ、もう人間の街やべーなっ! って。
 ……ああ人間? いるいる。車の周りとかにうじゃうじゃ。みーんな俺から逃げてるみたいなんだけど、もう遅くてさ。俺の足一つ分動くのに、一分とかかかるの。……いやマジで! マジでめちゃくちゃ遅いの!
 でも人間ほんっとちっちゃいから、立ってるとマジ見えないんだわ。何か小さい粒が動いてるなーぐらいにしか見えない。だからちょっと脚開いて……いや潰したんじゃなくて横にずらした。道路の横にちっちゃいビルみたいなの沢山あったけど、足に当たるだけで崩れてくの。いやほんとに。砂場で子供が作ったやつとかの方がまだ抵抗あるって。んで脚開いてしゃがんでさ、そうするとようやく人間の姿が見えてくるわけ。そこまで近づいてようやく男とか女とかがわかる感じかな。
 試しに人差し指をさ、逃げてる人間のそばにたてて見るんだけど、ほんっとちっさくて! 指より全然細いし、指の第一関節よりちっちゃいんだわ。すげーよな。
 そんな風に周り見てたらさ、俺から逃げる流れからそれてる人間がいてさ、目でずーっと追ってったら、細い道に入って……ああ、上から全部見えるよ。家に入ってったんだ。そう一軒家。それがすげーかわいくてさ。だってそうじゃん? その家さ、俺の足よりずっとずっと小さいんだぜ? 人間には丈夫な家かもしれないけどさ、俺がやろうと思ったら家ごと一踏みだぞ? なんなら手でも潰せるのに……そういうバカなとこかわいくない?
 で、ちょっと興味出てさ、その家の横に手を突いたんだよ。……ああ、もう全然近く。しゃがんだまま手の届く範囲。比べたらその家、手のひらの半分もねえの。ほんっと人間の家ちっちぇえよな。手ぇ突いたらそれだけで下にあった家何軒か潰しちまったし。もっと近くで見たくて、反対にも手ついてさ、脚伸ばして腹ばいに……ん? いやもちろんつぶれたよ。俺の手でつぶれるもんが俺の身体の下敷きになって大丈夫なわけないだろ。でも脚の方は街の外だったと思うぞ。
 腹ばいにまでなったらもう目と鼻の先にその人間が隠れた家があるんだけどさー。いやー人間の家って脆いな! 触ってないんだぞ? 横に手をついただけでもうボロボロ。窓は割れてるし壁にヒビは入ってるし……多分指で突いただけでも壊れるってあれ。割れた窓から人間見えないかなーって、顔をもっと近づけたんだど……いやさ、家ほんと小さくてさ、手で周りの家はらって顔地面につけてもまだ眼の方が高いんだよ。だから家の周りの地面掘ってさー。地面低くしてようやく目線と窓が同じ高さになった。……いやだから持ち上げたら絶対崩れるんだって! だって近づいたとき鼻息で家が揺れるんだぜ? あれ多分思いっきり息吹いたら吹っ飛ぶって。……ああ人間? いや、窓からちょっと覗いたけどなんか暗くて結局見えなくてさ。屋根はがしても良かったんだけどそのまま壊しそうだったし「出てこい」って言ったんだよ。ほら、人間は言ってることわかるじゃん?
 うん、いやまあ出てこなくてさ。だからちょっと脅したんだよ。両手で家ごと覆ってやってさ、「次言ったとき出てこないと、家ごと握りつぶすぞ?」って。……うん、そうしたら出てきた。ドア開けてさ。転がるみたいに飛び出して来たのが親指の隙間から見えた。腹ばいでめちゃくちゃ近いからそのぐらいになるとなんとか顔もわかるぐらいになるんだけど、その人間、俺見て叫んでさ。まあ手が家を覆っててその向こうにそれよりでかい顔が見下ろしてたら分からなくもないんだけど。
 人間ってほんと小さいからさ、そのぐらい近いと鼻息だけで吹っ飛びそうなんだよね。だからとりあえず手に乗せてやろうと思ってさ。でもつまんだら絶対潰すから、人間の手前の地面に指入れて、下から地面ごと人間掬ってさ、そうっと息で土とか瓦礫飛ばして、その人間手に乗せたんだよね。そんなに気を付けたのに手のひらで人間動かなくてさ、まさか死んだ!? って思ったんだけど、ちょっとしたら動いたからほっとしたよね。いやほんと、人間すぐ死ぬから気を付けないと……
 それでさ、さっきの家の横に人間のいる手のひら置いて、反対の手を家にかぶせてゆっくり重みかけて屋根から潰してやって、それ見てた人間に「一緒につぶれなくてよかったな」って笑いかけたらさあ……その人間俺の手のひらの上でうずくまって泣くんだよ~~~~!!! すげえ可愛くねえ!? 可愛いだろ!? もう俺それでどうしようもなくなってさ~~その人間連れてきちゃったんだよねー……そう、それがこいつ。可愛いだろ?


1.人間の街に行くことにした


 この間人間の街を見つけた。学校の裏には大きな雑木林があるのだが、飛んでった練習用のボールを探す時にたまたま開けたところに出て、そこで見つけたのだ。その時はすぐ練習に戻らないといけなかったが、場所だけはしっかりと覚えていた。

「お、あったあった」

 休みの日の午前練のあと、練習用のTシャツと短パンのまま俺はその人間の街へとやってきた。ちょうど木がなくて日光が地面を照らしている場所があって、草とか土とか石ころとかがあったりするのだが、そこに全く異質な色が広がっている。それが人間の街だ。

「へー、こんなふうになってんのかー」

 大きさは大体、子供の一人部屋ぐらい。十歩も歩かず反対側にいけそうだ。全体的に丸く作られていて、街との境にはぐるりと壁らしきものが立っている。といっても、俺の膝ほどの高さもない。
 靴と靴下を脱いで、壁の前に足を置いてみる。その壁の厚さは、せいぜい俺の足の三分の一ってところだろうか。足先で押してしまえば、すぐに内側に倒れてしまいそうだ。その内側といえば、住宅地みたいなのが広がっている。建物は壁よりも低くて、多分、俺のくるぶしぐらいの高さしかないんじゃないか。街の中心部にはもっと高い建物もあるみたいだけど、それでも俺の膝をやっと越えるぐらいだろう。

「……人間の街って、こんなにちっちゃいんだなー」

 もちろんもっと広い街があることは知っているが、なんというか、全部が低い。自分の腰以下で全ての建物が完結しているだなんて、知ってはいたが実際体感すると全然違う。さてもう一度足元に目を向ける。街の内側では、既に騒ぎが起きているようだった。小さなざわめきがかすかに聞こえる。このまま外から眺めるのもいいが、せっかくの人間の街だし、ちょっとだけ中に入ってみたい。そう思って入れそうな場所を上から探してみるが、小さな家が密集していて足の踏み場もない。道路もあるにはあるが俺の足の幅の半分ぐらいで、踏み入れたら道路沿いの家ごと踏みつぶしてしまうだろう。まあ踏みつぶしてもいいのだけど、ちょっともったいない気もする。

「うーん……あ、あれならいけるか?」

 ちょっと離れたところ……といっても、一歩でいける距離に少し大きめの道路があった。片側三車線の、街の中心へ向かう街道。車でごった返しているが、あそこならなんとか俺の足もおさまるだろう。

「じゃあ、失礼しまーす」

 右足を上げて壁を軽くまたぎ、目当ての道路へと足を向ける。ただ着地地点が横にたった一歩分ずれれば建物を潰してしまうので、ゆっくりと足を下ろすのだがこれが練習後の身体には少しきつい。

(お……)

 足裏に何かが当たる感触がした。多分、電柱とか信号機だ。ただそれに足を支える丈夫さがあるわけもなく、折れたのか足裏から圧力が消える。そのままゆっくり下ろしていくと足裏全面に点々と触れるものがある。これが多分車だ。その車も本当に、ティッシュか紙くずを踏んでいるのかというぐらい抵抗がなくつぶれていく。別に体重をかけているのではなく、ただ足を下ろしているだけなのだ。

(車が何台並んでいても俺の足を置くことすらできねえのか……)

 そうやって車をぺしゃんこにして、ようやくアスファルトに足が触れる。そのアスファルトも足を置いていくとバキバキと割れる。これ体重かけたら沈むんじゃないか。

「こんなんで舗装って……」

 ちょっとだけ笑いが漏れる。沈むんじゃないかと少し怖かったが、ゆっくり右足に体重をかけていく。アスファルトのヒビが広がり、陥没して足が地面に沈んでいく。巻き込まれた車が転がって、親指に引っかかった。同じようにして左足を壁に引っ掛けないように引き寄せて、ゆっくりと反対車線に置く。

「ふう……」

 なんとか、小人の街に入ることができた。入るだけなのにものすごく気を遣う。そして俺はまだ、小人の街に右足と左足を入れただけなのだ。なのに足元を見ると、すごいことになっている。下にあった車がつぶれたのは仕方ないとしても、アスファルトの陥没が思ったより大きくて、横の歩道までガラガラと崩れている。陥没に巻き込まれた車が、俺の足にくっつくように寄りかかっていて少しむず痒い。そして足で触ってないはずの電信柱や信号も、電線で引っ張られたのか揺れなのかで倒れたりしていて、それから足の近くの車も横転したり追突していたりと……言ってしまえば大惨事だった。

「足入れただけでこれかよ……」

 呆れと共に、本当に人間は弱いんだなと再確認する。足元に目を凝らすと、もうまともに動けない車の隙間を、点のような何かがうごめいている。多分、それが人間だ。

(ちっちぇえー……)

 動きをよくよく見ていると、どうやら俺の足から離れるように動いているみたいだ。ただ、それにしても遅い。点を一つ追ってみたが、俺の足の長さ分の距離を動くのに、三十秒とか一分とか、そのぐらいかかっている。そんなの俺がほんのちょっと足を動かせば一瞬で詰められる距離で。俺の手の届かないところにいくのには、いったいどれだけ時間がかかるのだろう。

(にしても、ちっさすぎて見えねえな……っと)

 立ったままだと小さすぎて人間が本当に点のようにしか見えないので、もっと近くで見てみたくなった。今の姿勢だとバランスが悪いので、左足を横にずらす。道路はもう今の時点でいっぱいなので、ずらした足は道路沿いの小さいビルみたいなの数軒に当たったが、これも泡でできてるんじゃないかと思うぐらいあっさりと崩れてしまった。まだ子供が砂場のふちに作るような作品の方が丈夫なんじゃないか。ともかく脚幅を確保して、膝を抱えるようにしゃがみこむ。しゃがんでようやく人間が男か女かが判別できるぐらいになった。でも逆に言えばそこまで近づいてもまだ性別しか判断できなくて、人間って本当に小さいんだなって、もう何回目かわからないぐらいに思い知る。やっぱ実際の経験って大事だよな。

(俺の指より絶対小さいよな……)

 そっと、道路の人間が逃げているあたりに、右手の人差し指を立ててみる。指より全然細いし、高さも第一関節までない。横にあるワゴン車の幅と指の太さが同じぐらいだ。指をずらしてワゴン車の前に置き、そっと指を寝かせたらあっけなく車がつぶれてしまった。

「はー……小さいな……ん?」

 俺から逃げていく人間の流れを見ていると、一つ、他の人間とは違う動きをする人間が目に入った。男という事しかわからないが、他の人間が大きな通りを走って逃げているのに、その人間はわざわざ細い道に入っていく。少し不思議に思ってその人間を目で追ってみる。いくら細い道に逃げても、ほぼ真上から見ているから関係ないんだけどな……と思っていたら、その人間は、一軒家に逃げ込んだのだ。そこで俺は小さく噴き出してしまった。

(ええ、待って、何で! え、え。……えー……)

 後から後から笑いがこみあげてくる。だって、その家は俺の足よりずっと小さいのだ。人間にとっては丈夫な建物なのかもしれないが、俺がやろうと思えば家ごと一踏みで潰せる。なんなら手でだって簡単に潰せるだろう。そんな脆いものの中に、人間が俺から逃れようとして逃げ込んだのだ。

「えー……可愛いな……」

 そのちょっとバカな行動が思いのほか可愛くて、その人間を見てみたくなった。とりあえずもっと近づかないといけない。その家はしゃがんだままでも手の届く場所だったので、その横に手をついてみる。もちろんそこにも家が三軒ほど並んでいたが、薄紙でできた箱のように簡単につぶれてしまった。反対側にも同じように手をつく。ぐっと両手に体重をかけると、掴んでいる地面がゆっくり沈む。

「っ……と」

 そのまま右脚を後ろに伸ばした。伸ばした脚は街には収まらず、壁に当たって崩れる感触がする。街の外に足をおろして、左脚も同様に壁を壊しながら伸ばす。そうして膝をつき、ゆっくりと腹ばいになった。身体の下で建物がつぶれていく感触がするが、草の上に転がった時と大して変わらない。胸まで地面につけると大分体勢が楽になって、少し微調整しながら目の前に家が来るようにする。周りの邪魔な家を手ではらって顎を地面につけてみる。が、それでもまだ俺の目線の方が高い。けどここまで近づくと家の細かいところまでわかるようになってくる。こんなに小さいのにドアも窓もあって、そこで生き物が暮らしているなんて、目の前にあるのにちょっと信じられない。ただ、その家自体には触れてはいないのに、横に手をついただけで窓が割れたり壁にひびが入っていたりして、ボロボロになっているのにはびっくりした。

(本当に人間の作ったものって脆いんだな……指でつついただけでも壊れるだろ、これ)

 人間を見ようと地面に頬をつけて窓から覗いてみようとしたが、それでもまだ眼の位置が高くてうまく覗けない。こんなに脆い家、持ち上げたら絶対壊れるしな……とちょっと考えて、家の周りの地面に指を突き刺す。腐葉土のように柔い地面に埋まった手で周りの地面をかくように掘って、家の周りの地面を低くする。そうして地面に頬をつけてようやく窓と目線が一致した。

(……暗くて良く見えないな……)

 鼻息だけで家が揺れる。これ、思いっきり息吹いたら家ふっとぶんじゃねえの。と思って息を殺して慎重に覗いたが、中が暗くてよくわからない。ちょっと落胆しながら顔を上げて、また家を上から見下ろす。

「どーっすかなー……」

 屋根をはがしてみてもいいが、この脆さだと家ごと壊してしまいそうだ。となると人間の方から出てきてもらうしかないが、と考えてピンときた。人間は俺の言ってることがわかるんだった。

「出てこい」

 その言葉だけで割れた窓が震えている。しばらく待ったが、人間が出てくる様子はない。ちょっと脅さないとだめかなと、家を両手で覆ってもう一度声をかける。

「次言ったとき出てこないと、家ごと握りつぶすぞ?……出てこい」

 十秒ぐらいそのまま待ってみる。するとドアが開いて、人間が転がり出てきた。腹ばいになるぐらいまで近づけば小さな人間でも何となく表情ぐらいは見えるが、その出てきた人間は俺の顔を見上げた途端、狂ったように叫びだした。まあ、家を手が覆っていて腕に囲まれて、目の前には俺の身体。その上のはるか高いところにビルよりでかい顔があったら叫びたくもなるか。ともかく近すぎて鼻息で吹っ飛びそうだったので手に乗せてやろうと家から手を離す。それでちょっと腕を動かしたら地面が揺れたみたいで、人間が尻もちをついた。

(これだけで立ってらんないのか……でもどうしよ、手に乗せるにしても、つまんだらぜったい潰しちゃうよな……)

 実際にやったことはないが、撫でるように触れただけで車がつぶれるのだ。それより脆いだろう人間をつまめるはずがない。ちょっと考えて、人間の前の地面に指を二本突き刺して、地面ごと人間を掬いあげた。指を傾けながら人間を手のひらの上に移動させて、そうっと息を吹いて土を吹き飛ばす。ようやく人間を手のひらに乗せられたが、しばらく待ってみてもその人間が倒れたまま動かない。

(えっ、まさか死んだ!? あれで!?)

 ちょっと焦ったが、ゆっくり手をゆすると人間が動いて身体を起こしたのでほっとする。俺の顔を見上げているが、今は叫んではいない。

(ほんとに人間って脆いんだな……)

 人間の乗った手のひらを、さっき人間が出てきた家の横に寄せる。そのまま左手を家にかぶせて、ゆっくり、ゆっくりと手を下ろしていく。手の重みだけであっさりと家はつぶれてしまった。左手を上げると地面には手の形がうっすら残っている。

「一緒に潰れなくてよかったな」

 呆けた顔でそれを見ていた人間に笑いかけると、人間は俺の方を見て、そしてうずくまってしまった。多分だけど、泣いているんだ。それを見て俺はキュンとしてしまった。

(か、可愛い~~っ! 可愛い! え、待って人間可愛いな!!)

 しばらくそのまま泣く人間を見つめていたら、本当にその人間がどうしようもなく愛しくなってしまった。右手を揺らさないようにしながら左手を地面につき、脚を引き寄せてゆっくりと立ち上がる。それでも揺れたのか、人間は手のひらの中央で這いつくばっていた。

「決めた。俺と一緒に暮らそうな?」

 そう人間に笑いかけて、振り返った。俺の寝っ転がった跡が凹凸まではっきりと残っている。

「それじゃ、帰るか」

 人間が落ちないように、左手を囲いにしながらゆっくりと街を出る。自分の部屋に人間がいる光景を想像したら、胸が高鳴るのを抑えられなかった。


2.人間を連れ帰ることにした


 机の上のノートをとりあえず横によける。勢いがつきすぎて何冊か床に落ちたが、今はそれはどうでもいい。とりあえずスペースが必要だ。床に置いたエナメルバッグのジッパーを開けて、一番上に畳んで置いてあるスポーツタオルを、崩さないようにそっと取り出す。

「大丈夫だよな……?」

 少し不安になりながらもタオルを机の上に置き、ゆっくりと開く。開いて両手分ぐらいの大きさになったタオルの上に、爪先ぐらいの粒が乗っている。タオルに顔を近づけてその粒を見る。どうやら丸まっているみたいだ。かすかにだが動いているのがわかる。

(お、動いてる動いてる)

 街で捕まえた人間だけど、さすがに手に乗せて持って帰るのは落としたり潰しそうだったのでタオルに挟んでバッグにいれたのだが、大丈夫だったみたいだ。とりあえず生きてることが確認できたので顔を上げ、一息つこうとデスクチェアに腰を下ろした。俺が重いのもあるけど、めちゃくちゃきしむから怖くて勢いよく座れないんだよな。そのままじっと人間を見下ろしていると、もぞもぞとしか動いていなかった人間が体勢を変えて起き上がる。座り込んだ状態のまま周りを見渡して、俺の腹辺りを見て、そのまま顔を上げて……多分、目が合った。

「起きたか?」

 俺の声で人間が耳をふさいだ。そっか、人間には俺の声はでかすぎるか。気を付けないとな。

「悪い悪い。……このぐらいでいいか?」

 少し声を小さくしてみる。とりあえず人間が手を耳から外したのでこのぐらいで話せばいいみたいだ。ていうかこれ以上小さくすると囁くみたいになって喋り辛い。よしよし、まずは挨拶からだろ。机に置いていた右手を上げて、タオルの上にいる人間の前に小指を突き出す。

「今日からよろしくな。俺、タカヤっていうんだ」

 腰を抜かしたままの人間は目の前の俺の小指と、上にある俺の顔を交互に見つめている。あ、これ分かってない感じか。

「握手だよ。ほんとは手を握るんだけど、俺とじゃムリだろ?」

 なにせ俺の手どころか指で体まですっぽりおさまってしまうサイズ差だ。親指と人差し指で手をつまむぐらいはなんとか出来るかもしれないが、多分そのまま腕を擦り潰してしまうだろう。

「ほら、俺の指触って」

 小指をちょい、と動かすと、人間は怯えながらも立ち上がる。タオルのパイルをかき分けながら俺の指に近づき、ゆっくりと伸ばしたその手が俺の指に触れた。何も感じないけど、多分触れた。

「よし!……って、ごめんな」

 人間から俺に触れてくれたことがうれしくて指を動かしてしまい、指を触れていた小人が倒れてしまった。不用意に動いたら駄目だな。

「大丈夫か?」

 机に手をついて人間に顔を近づける。じっと見る限りでは手足を動かしているので、大丈夫みたいだ。だけどこの人間、とても汚れている。

(近くで見ないと分からないけど……土とかで結構汚れてるな、一回洗ってやった方がいいかな?)

 体を起こして人間から離れる。洗ってやるにしてもどうしようか。寮の風呂に連れてくのは無理だし、トイレの洗面所も間違って流してしまいそうだ。コップだって人間にとってはビルみたいな大きさで、脚がつくとかいう問題ですらない。

「うーん……あ、あれいいな」

 周りを見渡して、ちょうどいいものを見つけた。しかもちょうど夕飯の時間だ。再び人間を見下ろす。

「ごめん、俺これから夕飯だからさ、ちょっと待っててくれよ。帰ってきたら一回お前の身体洗おうな?」

 ていうか俺も着替えてなかった、と思い出して椅子から立ち上がった。人間の街で汚れてしまった練習着を脱いで、部屋に干してあったTシャツを取る。

「あ……まあいいか」

 手に取った紺のTシャツはそのうち捨てようと思っているのに、いつも癖で洗ってしまうものだった。だけど他の服はまだ乾いていないし、食堂だけだからいいだろうと、頭からTシャツをかぶる。

(……これ、きついんだよな……)

 腕を通して、背中に引っ掛かっている裾を無理やり引っ張り下ろす。入学当初はまだ余裕があったはずなのに、今じゃ胸の辺りの生地がピンと張っており、袖も常時腕に張り付くほど余裕がない。

(でかくなってるってことだから、いいことはいいんだけどな)

 短パンの方は最近買ったのがちょうど乾いていたのでそっちを穿く。

「じゃー行って……あれっ!?」

 部屋を出る前に人間に声をかけようと机の上のタオルを見ると、さっきまでそこにいた人間がいない。

「えっ、どこ……いた!」

 机の上に目を凝らすと、机の右側に積み上げたノートの山に走っている人間を見つけた。あわてて人間とノートの間に手を立てる。手が机についた瞬間、人間が倒れて止まる。人間にとってはいきなり身長の何倍もある壁が現れたのだから当然だろう。

「もー……危ないだろ」

 人間が逃げるなんてまったく思わなかった。だってタオルの上から逃げたところでそこは机の上。俺にとっては股間より下だけど、人間からすれば高層ビルの高さだ。降りられるわけがない。降りられたとしても、この狭い寮の一人部屋と言えども、人間がドアまでたどり着くのだって大変だろう。

「街に帰れるとか思ってんのかな……」

 俺なら歩いて十分ぐらいだが、人間じゃ何日もかかるだろう。その間に踏み潰されるのがオチだ。

「おとなしくしててくれねーかな……」

 夕飯の間、逃げないように何かに入れておかないといけない。手頃なものがないかと探すと、ティッシュ箱があった。あと少しでなくなりそうなやつだ。

「えーと……一旦これで……」

 人間が逃げたあとのタオルを掴んでくるくると縦に丸め、細い棒状にする。それで人間の周りをぐるりと囲んだ。簡単だけど人間の二倍ぐらいの高さがあるし、これでとりあえず逃げられないだろう。

「箱と……あとカッター……」

 筆箱からカッターを取り出し、ティッシュの箱の上面を切り抜く。下に数枚ティッシュが残っていてクッションがわりになるし、ちょうどいいや。

「よし、じゃあここに……」

 と、左手に箱を持ちながら人間の囲いを見て、どうやって入れようか悩む。摘まんだら絶対潰す。人間の街みたいに地面ごと持ち上げるのも無理。ちょっと考えて、小指を爪を下にして人間の前に置いた。

「自分で乗れる?」

 少し斜めから見ると、一番小さい小指でも人間の胸の高さぐらいまである。人間も難しいのか指には近寄らず俺と指を交互に見つめている。

「ダメか……持ち上げたら潰しちゃうだろうから、自分で乗って欲しかったんだけど……」

 どうしようかな、と思っていたら急に人間が小指に飛び付いた。爪に足をかけて、必死に俺の指に登っている。

「お、なんだできんじゃん」

 なんとか俺の指に上りきった人間は、ずりずりと移動しながら指の腹にしがみついた。それでもちょうど第一関節に収まるぐらいだ。俺の手は他の奴よりでかいけど、ここまでサイズ差があるとあまり関係ない気もする。

「よーし、そのまま捕まっとけよ~」

 人間の乗った小指を動かさないように手をそっと持ち上げて、ゆっくりと切り抜いたティッシュの箱の中へ下ろす。そのティッシュに小指をつけ、ちょっと傾けると人間はずるずるとティッシュの上に落ちた。

「ここなら大丈夫だろ?」

 人間が周りを見渡している。ティッシュ箱の高さは人間の三倍はあるから、登って逃げたりはしないだろう。広さだって、人間の家三つ分ぐらいはある。十分だろう。

(とりあえずで作ったけど、これを人間の家にしてもいいかもな)

「じゃあ、おとなしく留守番してろよ~」

 ティッシュ箱の中の人間に笑いかける。ペットボトルだけ忘れないようにもって俺は部屋を出た。

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キャラプロフが読めますと紅葉をテーマにした二人のSSが読めます。巨人が人間に見せようと、人間サイズの紅葉(原木)を持ってくる話です。(約1600字)

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