ターンバトル制RPGでもslay the spireのような強いランダム性を持たせる方法について

ターンバトル制RPGが持つゲームシステム上の限界

 RPGツクールでターンバトル制RPGを作っているとどうしてもターンバトル制RPGというジャンルが持つ、ゲームシステム上の限界にぶつかることがあります。つまり、「物理攻撃スキルの命中率を100%にすると、ランダム性がなく後出しジャンケンしてれば勝てるだけのヌルゲーになりプレイヤーがすぐ飽きてしまう」が、「命中率を低くすると攻撃が外れてばかりでプレイヤーのストレスが溜まる」ので、どちらも選びたくないというジレンマです。ランダム性を完全になくすと思考停止で攻略本通りの最適な行動を毎回やっていれば100%の確率で勝てる酷く単調なゲームになるのに、物理攻撃スキルの命中率を下げるとプレイヤーのストレスが酷くなる、ということです。では、我々ゲーム制作者はこの難題をどう解決すればよいのでしょうか? そのヒントは、かの有名な名作デッキ構築型ローグライクゲーム、slay the spireにあると思います。では、slay the spireのゲームシステムがストレスがたまりにくく、あんなにも面白いのか分析してみましょう。

slay the spireのゲームシステムは何故あんなにもストレスがたまりにくく面白いのか?

 その原因は大きく分けて2つあると思います。

1 「ストライク」「旋風刃」「脳天割り」などに代表される「アタックカード」の敵への命中率が常に100%であり、攻撃が外れる心配が絶対にないこと。これにより、「せっかくたくさんエナジーを消費するカードを使ったのに攻撃ダメージが外れてしまった! 労力が報われないクソゲーだ! 」とプレイヤーがイライラする可能性を0にしているところが非常に優秀です。このことから分かるのは、RPGにおいて「味方の物理攻撃スキルの命中率を下げる」のは基本的には避けるべきであるということです。

2 プレイヤーが使うスキル=カードは毎ターン「ランダムに」ドローされるため、どれがドローされてくるかは「検索」「シークレットテクニック」などのサーチ系カードを使うケースを除きほとんどプレイヤーの力でコントロールすることができません。一見不自由なように見えますが、これこそがこのゲームの面白さの中核をなす要素であると僕は感じます。ふつうに考えれば分かることなのですが、「検索」や「シークレットテクニック」みたいなサーチ系のカードはたまにだけ使えるから面白いのであって、あれを毎ターン使えるとしたら一番使いたいカードを常に使っていればいいことになるので、それはものすごく飽きやすい単調なつまらないゲームになりますね。このことから我々が学べるのは、「RPGにおいて、プレイヤーが使えるスキルが毎ターン自由に選べるとつまらない」ということです。

 つまり、「アタックカードの命中率を100%にする」ことでプレイヤーのストレスを軽減しつつ、も同時に「毎ターン手札にカードがドローされる内容を完全にランダムにする」ことで、戦闘中のランダム性を確保しているため、「ストレスのたまりにくさ」と「戦闘シーンの面白さ」を両立しているわけです。この上なく完璧なゲーム性であり、この作品があれほど有名になり大ヒットした理由がうなずけます。

 でも、僕がこう主張するとこのような反論があるかもしれません。「でも君のゲーム制作技術じゃ、slay the spireみたいなデッキ構築型ローグライクゲームは作れないでしょう? 」と。はい、それは確かにその通りです。僕はプログラマーではないので高度なプログラミングスキルを持っていませんから、カードバトルゲームを作るなんて100%ムリです、情けないクリエイターでごめんなさい。かと言って、「毎ターン同じスキルを連打していれば必ず勝てるヌルゲー」を作るのも、「物理攻撃がしょっちゅう外れるからプレイヤーにストレスが溜まるゲーム」を作るのも嫌なのです。

 ……つまりどうすればいいのでしょうか?

ターンバトル制RPGのスキルが毎ターンランダムに発生するようにすればいい

 これが僕の出した答えです。一般的なターンバトル制RPGの常識には反していますが、今から僕がする話を聞いてもらえばこれが非常に合理的で、ゲームに面白みをもたらすゲームシステムだと皆さんにご理解いただけると思います。今まで僕以外に誰もやったことがない非常に斬新で画期的なアイデアだと自負しています!

ランダムスキル発生システムとは?

 slay the spireほど画面の見た目は派手じゃないかもしれませんが、オーソドックスなターンバトル制RPGでもあのプレイ感覚に近いランダム性を取り入れる方法はあると、僕は考えています。高度なプログラミングスキルがなくても誰でもRPGツクールでお手軽にああいうゲーム性のゲームがもし作れたら最高ですよね? どうすればそれが実現するのかさっそく見ていきましょう。

1 味方スキルの敵への命中率は常に例外なく100%にすることで、プレイヤーの選択した行動が報われないストレスを軽減する

 これはもちろん、絶対に外せないポイントです。

2 敵が味方へ攻撃を行うたびに一定の確率で有益なバフが付与される、これがあ ると味方は新しいランダムなスキルを「一時的に」覚える(ターン終了時に削除される)

 このようなシステムにすることで、敵が味方へダメージを与える行動が「ただの嫌な出来事」ではなく、宝箱を開けるときのような、メリットを期待するワクワクする出来事に変わります。「敵が味方に攻撃することがメリットになる」というのはやや人間の持つ本能的な感覚に反しているような気もしますが、ダメージはふつうに受けるのでノーリスクではありません。

 「敵が味方を攻撃すると発生する」、というところがミソです。何故「味方が敵を攻撃したとき」ではダメなのかというと、RPGツクールのデフォルト機能では、味方が敵を攻撃しながら味方にステートが発生するように設定するのはいささか面倒だからです(コモンイベントなどを使って工夫すれば不可能ではないみたいですが)。

3 なんのスキルが味方に付与されるか、いつそうなるかはランダムなのでプレイヤーはコントロールできないが、その限られた選択肢の中からどれを選んで発動するかは選択権がある

 これ、要するに見た目がカードの形をしていないだけで、実質的にやっていることはカードバトルゲームと同じなんですよね。何のカードが手札にドローされてやってくるのかはランダムだからプレイヤーがコントロールできないけれど、その中からどれを選んでプレイするかはプレイヤー側に選択権がある。見た目が違うだけでやっていることはほとんど同じです。

4 一部の特定のスキルはランダムスキルを覚える確率を上昇させる効果がある(stsで言うところのドローソースに相当)

 slay the spireでは「バトルトランス」や「職人技」、「アクロバット」といったいわゆる「ドロー系カード」を使ってたくさんのカードをドローし、100%ではないものの自分の欲しいカードが手札にやってくる確率を「上げる」ことができます。カードがないターンバトル制RPGにおいて、これと同じものを実装することは残念ながら不可能ですが、なるべく感覚的に近いスキルを実装することは可能だと感じるのです。「ランダムスキル」がstsにおける「毎ターン手札にドローされるカード」に相当するのであれば、「ランダムスキルを獲得できる確率を上げるスキル」を実装してやれば、ドロー系カードに近い存在になると思います。スキル名は「確率操作テクニック」とかがいいでしょうか。

5 ランダムスキルは単体では強いスキルとして機能せず、味方アクターがすでに持っている固定のアクティブスキルと上手く組み合わせてシナジーやコンボを発揮する必要がある、これによりランダムスキルだけに頼る運ゲー化を回避し、プレイヤーが戦術・戦略を立てる余地を残す

 
 ここも非常に重要です。毎ターンランダムにスキルが発生するのは戦闘にランダム性をもたらしますが、それだけがゲームの要素の100%を占めるようにしてしまうと、プレイヤーがゲームシステムに干渉する要素がゼロのただの運ゲーになってしまいますランダム性がゲームを面白くするとはいえ、プレイヤーがゲームをコントロールできる要素が完全にゼロになるのはまずいです。その問題を解決するために、ランダムスキルだけのゲームシステムにするのではなく、「アクターが持っている固定のアクティブスキル」という従来のターンバトル制RPGで主流のスキルにも、活躍する機会を5割程度は与えるのが妥当なバランスだと思います。ランダムスキル5割:アクティブスキル5割という割合にすれば、ちょうどランダムな運任せの要素とプレイヤーコントロールの比率を5:5にできます。

6 ランダムスキルの内容は毎ターン変化するので、一度覚えた同じスキルを思考停止で毎ターン連打していれば勝てるというような単調なゲーム性を回避しやすくなる

 ここも重要なポイントです。さきほど書いたことと重複しますが、一度獲得したランダムスキルは1ターンで消えてしまうので、その次のターンで新しく付与されるスキルは現在ターンに付与されているものとは全く違う内容になります(ランダムスキルが付与されないターンももちろんある)。これにより、「このスキルが最強なんだからこれだけ毎ターン使っていればよくね? 」というゲームの単調化を避けることが可能になります。

 将棋やslay the spireが何度プレイしても飽きないのは「毎回プレイする度に異なる景色が見えるし、前回と同じことをやろうとしても同じようには絶対にならない」からです。従来のオーソドックスなRPGはランダム性が一般的に低いので、前回自分がクリアーしたときのプレイングと同じことをやろうとプレイヤーが努力すれば、ある程度同じプレイングを再現できてしまいます、これは1、2回ゲームをやる分にはいいのですが何十回も繰り返し飽きずに遊べるゲームを作ろうとすると致命的なデメリットになります。人間の心理として、何度繰り返しやってもゲーム内容が毎回必ず同じなんていうゲームは、すぐに飽きてやりたくなくなる可能性が非常に高いですから、長い時間プレイヤーさんに飽きずに遊んでもらうことを追求するならランダム性を多くした方が絶対に合理的なのです。

 本家と違ってランダムに付与されるスキルの中身がなんなのかをプレイヤーが編集することができないのでそこはネックですね。そこさえ解消さればほぼほぼ(見た目がカードじゃないだけで)slay the spireと同じゲーム性にできるんですけどね……。ですが従来のオーソドックスなターンバトル制RPGを越える面白さを実現するポテンシャルが、このゲームシステムにはあるはずだと僕は確信しています。

7 時と場合によってはランダムスキルを「保留」できるようにもする

 slay the spireには「用意周到」や「ルーニックピラミッド」など、カードがどんどん捨て札へ流れて行かないように強○的に「保留」させるための手段が存在します。これがあることにより、プレイヤーが手札をコントロールできないという不自由さを緩和し、プレイヤーがしっかりと手札をコントロールしているという爽快で気持ちのいい感覚を実現しています。

 ターンバトル制RPGの「ランダムスキル発生システム」の場合も、これはやはり、同じようなものを導入するべきだと思います。具体的には、「保留」のスキルを使うことで、ランダムスキルのスキル欄に強力なスキルを追加し、それがターン経過後もスキル欄から消えないように「保留」できるようにする、というものです。「保留」スキルは非常に強力なので、SPあるいはMPを大量に消費するように設定します。
 
 これって要するに、やっていることの実態としてはただ、「ランダムスキルをアクティブスキルに変えているだけ」なのですが、「プレイヤーが保留スキルを使ったからスキルが保留できるようになる」、という手続きをワンクッション踏むことで何か特別な気持ちのいいことをしたとプレイヤーに錯覚させているわけです。

8 スキルのバリエーションが単純に増え、キャラクターも差別化しやすくなる

 
 従来のターンバトル制RPGにおいて「スキル」が持てる役割というのはせいぜい攻撃する/防御する/回復する/エンハンスをかける/デバフや状態異常を敵にかける/味方のデバフや状態異常を解除する/スキル欄にスキルを追加する……くらいでしたが、「ランダムスキル」という概念をゲームに加えることで、「ランダムスキルを保留する」、「ランダムスキルの確率を操作する」などの新しい軸を加えることができます。

 スキルのベクトルの多様性が増えることでスキルのアイデアを考えやすくなり、一つ一つのスキル効果の内容を差別化するのが楽になります、これは制作者にとって大きなメリットです。

 また、従来のRPGに比べてキャラクターの性能・特徴を差別化させて個性を持たせることも容易になります。例えば、物理攻撃型のアクターはランダムスキルへの依存度が高くアクティブスキルが貧弱だが、その代わりランダムスキルが付与される恩恵を受けやすいと設定し、それと対照的な存在である魔法攻撃型のアクターはランダムスキル付与が全て無効になる代償と引き換えに、毎ターンランダムに消える心配をせずに安定して使える強力なアクティブスキルを多く持つ、といった差別化が可能です。

他のみなさんもやってみてください。

 著作権とか主張するつもりはないので、僕以外のサークルさん、作者さんにも是非こういうゲームシステムを使ってツクール制ターンバトル制RPGを作ってほしいなと思います!^^
 
 特別なプラグインやスクリプトなどを使わずに、RPGツクールMZのデフォルト機能だけで、誰でも簡単に実装できますので。

課題・問題点

1 プレイヤーがデッキを構築する余地がなく、ずっと固定のデッキを使わないといけない

 
 これはstsで例えると、所持デッキの全てのカードが「クリエイティブAI」と「磁性」と「ハローワールド」だけになってしまうようなものです。これらのカードは、プレイヤーがデッキに入れていないよそ者のカードが勝手に毎ターン手札に侵入してくるようにするという効果を持ちます。そのような、プレイヤーがデッキを構築しようとする自由意志を否定するようなカードはごくたまに使うからこそ面白いのであって、ゲームの全てがそういうカードになってしまうといまいちかもしれません。いまいち、と言っても現状これを回避する手段はないんですけどね……。

2 ビジュアルがカードじゃなくてスキルなので、本家に比べると地味

 どっちも割と致命的な問題ではあるんですけど、今の僕のアイデア力だとこの2つに関しては解消するのが難しいです。というか、解消できたらそれはもうRPGじゃなくてただのカードゲームです。2についてはゲームシステムの問題というより、ビジュアルの問題ですね……まあそれがゲームにおいてはすごく重要なんですけれども。

 ただ、1の問題点については、さほど深刻な問題ではない、という考え方もあります。「ランダムスキル(slay the spireで言うところのカードデッキに相当する存在)」の中身をプレイヤーが構築・カスタマイズできるようにするのは確かに面白いのですが、それはパーティー編成の必要性がない一人旅のゲームだから有益なのであって、もともとただでさえ「パーティー編成」の要素があるターンバトル制RPGにそれを持ち込んでしまうと、「ランダムスキルのパッケージ内容は頑張って編集しなきゃいけないわ、パーティーも頑張って編成考えなきゃいけないわ」で頭を使って管理しなきゃいけないものの量が過剰に増えすぎてしまい脳みそがパンクしてしまうリスクもあります。

 4人パーティーで攻略することが前提のターンバトル制RPGにおいては、ランダムスキルの中身はプレイヤーは構築・カスタマイズできない、ぐらいが案外ちょうどいいのかもしれません。
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