新戸 2022/12/03 03:01

ウマ娘:グラスワンダーの独占力

最近、グラスに後をつけられている。

顔見知りの子たちに、グラスと一緒にトレーニングしてくれるように頼んだり、
その関係で話をするようになったり、ちょっとしたアドバイスをしたりと、
担当契約を結んだトレーナーとウマ娘ほど緊密ではないにせよ、
合えば挨拶をする程度には、親しくなるだけの機会はあったわけで。

知人である以上、何か悩んでいるようだったり、人手が必要そうだったなら、
スケジュールに問題がなければ、手を貸すのは当たり前のことだろう。

が、ウマ娘的には……というよりも、グラス的には、
俺が担当外の子たちにお節介をする様は、少々思うところがあるようで。

「──それで、スイープさんに何故あのような言葉を?」
「そうしたら、グラスのスピードを上げるヒントが掴めそうな気がしたから……かな?」
「……はあ。いえ、確かにタメにはなりました。そこは合っています。ですがトレーナーさん、あの場面で走って逃げようなどとけしかけるのは──」

俺が顔見知りの子たちと話をすると。
決まってその後、このようにしてグラスとお話するのがお決まりとなってしまった。

──そう。
俺はグラスに、後をつけられているのだ。



「俺ってそんなに信用ないんですかねぇ……」
「あー、あはは……」

週末の居酒屋。
グランドライブ関連で縁を持ったライトハローさんに、ついつい管を巻く。

彼女が俺と同世代であったこと。
かつてレースを走り、しかし今は競技者ではないこと。
そして学園関係者ではない、友人であったこと。
それらが俺の口を軽くしていたのだろう。

学生であるウマ娘に愚痴るなんてのは論外だし、
トレーナー間の繋がりに、友情はあれどもライバルであることに変わりはなく。
理事長や、その秘書であるたづなさんに相談するなんてのは論外も論外。

その点、ライトハローさんは同世代で話しやすいし、雰囲気も柔らかい。
それに活躍こそしなかったらしいが、かつて競技者であった経験から
ウマ娘視点での考えや思いを予想してももらえるのだ。

もちろん、それはあくまでライトハローさんの考えであり、
今回で言えば「グラスが何故俺を付け回すのか」を正確に言い当てるものではないかもしれないが、

「でも、グラスちゃんの気持ちもわかります」
「そうなんですか?」
「はい。だって、担当トレーナーさんにもっと自分を見て欲しいって思うのは、誰でもそうだと思いますから」
「──」

「たとえばの話ですけど」と断ってから、ライトハローさんが言葉を続ける。

グラスが俺以外のトレーナーと親しげに話していたら、気になるのでは?
それでグラスが何らかのアドバイスを受け、走りに変化が起きた場合は?
そんなトレーナーとグラスが、俺の知らないところで楽しげにしていたら?

「うぐぐ……。正直に言うとキモいと思われるかも知れませんけど……妬きますね」
「ですよね。トレーナーとウマ娘だと少し立場が違いますから、単純に逆転させるのも正確ではないですけど。でも、結局はそういうことだと思います」

……そうか、そうだよなあ。
良かれと思ってあれこれお節介を焼いてたけど、そう言われてしまうとぐうの音もでない。

「担当以外の子とは、あまり話とかしない方がいいんですかね……?」
「いえ、余計なお節介だと言われてないなら、続けた方がいいと思います。担当の居ない子も、学園にはたくさんいますから」
「それは、確かに」
「なのでトレーナーさんがすべきことは、ちゃんとグラスちゃんに話を通すことです」
「それは、今から誰それと話をしてくるぞー、みたいな?」
「いえ! これからもいろんな子にお節介をするだろうけど、俺の一番はお前だ! とグラスちゃんに言ってあげることです!」

ダン、と机をジョッキで叩き、顔を赤らめたライトハローさんが言う。
どう見ても酔っ払いの発言だが……一理ある。
少々小っ恥ずかしいが、それでグラスとの関係が円滑になり、
後をつけまわされなくなるかも知れないのなら、試してみる価値はあるだろう。

「今日はありがとうございました、ライトハローさん」
「いえいえ、どういたしまして」

かくして、週末の飲み会で悩みも解決。
月曜にでもアドバイスを実行しようと心に決めて、帰宅した。



そうして迎えた、月曜日。

「グラス! 俺はこれからもこれまでのように、いろんな子にお節介をすると思う!」
「急にどうしたんですか?」
「でも俺の一番はグラス、お前だ! だから安心してくれ!」
「……平熱ですね」

額に手を当て、熱を測られた。
確かに俺らしくはない行動だけども。だけども。

「誰かに、何か言われたんですか?」
「言われたというか……実はこの間の金曜日に、ライトハローさんにアドバイスを」
「正座」
「えっ」
「そこに正座してください、トレーナーさん。その話、詳しく聞かせてもらいます」

どうしてこうなった。



……その後、グラスに一連の流れを話したことで理解を得られ、
「後をつけまわすのは、もうやめにします」と言ってもらえた。

で。
代わりに、ぶらぶらと歩き回る時は常にグラスが隣にいるようになった。
思い描いていた解決の形とはいささか異なるが……
閃きをすぐさまグラスに伝えられるし、まあ、これはこれでいいか!

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