うっちゅう 2022/11/15 22:02

スーパーモデルになった幼馴染イケメン高身長ハイスペック女子に、お仕置き嫉妬エッチされて、結婚する話。

 着なれない黒いスーツをまとって、姿見の前に立つ。成人式のために新調した黒いスーツは、僕には全く似合っていなかった。女顔かつ低身長だから、当たり前のことではあるのだけれど。若干ブルーな気持ちになるけれど、嬉しさと期待感が胸を駆け巡っていた。何もそれは、成人するからではない。僕の幼馴染で親友の、一条雫と再開する約束をしていたからであった。彼女はどのような女性になったのだろうか。

 これもまた履き慣れていない革靴を履き、式典の会場へと向かっていく。見慣れた街並みに、見慣れた景色。この町に生まれ、この町で育った。結局、地元の大学に進学した僕にとって、この町が世界のすべてだ。でも、彼女は違う。彼女は高校二年生のころ、芸能事務所にスカウトされて、東京に移った。寂しい気持ちもあったけれど、あまり驚きはなかった。彼女は幼いころから、あらゆる点で人とは乖離していた。ありとあらゆることを誰よりも上手にこなした。スポーツでは、経験者の男子を平気で圧倒し、勉強も学校内で余裕のトップだった。それどころか、中学の時に受けた全国模試では、ぶっちぎりの全国一位だった。それに加えて、彼女は、この世の人間とは思えないほど美しかった。天は二物も三物も四物も与えるものなのだろう。小学生のころから、大人びて、人並み外れた容姿を持ち合わせていた。ただ、これは彼女の美の片鱗に過ぎなかった。彼女は中学、高校を経て一層輝きを増した。彼女の輝きは、気づいた時には東京へと伝わっていた。こんな片田舎にもかかわらず、スカウトの目に留まり、モデルになったのである。
 
 モデルという職業は、彼女にとって天職だった。彼女は一年もしないうちに、世界で最も美しく著名なモデルになった。僕はモデルとなった彼女を、写真集で見たことがある。その美しさは他とは、一線を画すというほかなかった。彼女の顔は異様なほどに整っている。目元には、睫毛が十分に蓄えられ、卵型のぱっちりとした力のある瞳を彩っている。鼻は日本人離れして高く、彫刻のように理想的な形をしている。顔全体の印象としては、中性的で、男性性さえ感じさせる。しかし、身体は全くその反対である。背骨は理想的なS字を描き、よく引き締まった臀部へ続く。胸部は、ふっくらとした重みが見るだけで感じられるほど大きいが、それでいて、身体全体の美しさを損なうことは決してない。だからモデルとして成立するのである。これだけ見れば、男性に人気なだけの、低級なモデルに思えるかもしれないが、事実は全く異なる。彼女はスタイルが抜群に良い。まず身長が非常に高く百八十五センチほどもある。腰の位置が非常に高いことから、脚が抜群に長いことも容易にわかる。その抜群のスタイルからあらゆる服を着こなす。そのため、世の女性に対しても凄まじい影響力がある。彼女が着た服が世の中のトレンドになるほどである。どんな言葉を並べても彼女の尋常ではない美しさを描写するに十分でない。この世界にある言葉で、彼女を言い表すことなど不可能である。

 だから、僕にとって、彼女は随分遠い存在になってしまった。演劇部で、それぞれ主人公とヒロインを演じていたあの頃が懐かしい。でも、彼女のような凄まじい人間の人生に一瞬でも関われただけ僕は幸福だったのかもしれない。こんな具合に、昔のことをぼんやりと考えながら歩いていると、気づいた時には会場に着いていた。そこには異常な人だかりができていた。巨大なカメラを持った報道関係者が複数いる。中には海外メディアらしき姿もある。それに加えて、色彩鮮やかな振袖を着た女性達、黒いスーツにかっちりと身を包んだ男性たちが、一点に群がっている。通常であれば、こんな田舎の成人式に、見るべきものなどない。だから、この理由は明白だった。彼女だ。一条雫がここにいるのだ。誰もが彼女を一目見ようと集まっているのだ。それだけ彼女は人を虜にしてしまう。場の熱気が高まり、まさに暴力沙汰になりそうな瞬間だった。よく通り、美しい声がその場に鳴り響いた。場は一瞬にして静寂に包まれた。

「ごめんね。式典に間に合わなくなるから。どいてもらってもいいかな」

あまりにも素っ頓狂で、的を得ていない発言だった。でも、それで十分だった。彼女には空気を読む必要などない。発言するだけで場の空気というものを支配できるからである。彼女はそのままゆっくりと歩きだした。鮮やかな振袖を着た彼女は、もう、名状しがたい美しさだった。幼馴染の僕でさえ恋に落ちてしまいそうなくらいだった。彼女の一挙一動に、皆が目を奪われていた。美という概念を、そのまま現世に持ってきたみたいだった。突然、彼女は止まった。ゆっくりと振り返って、結んだままの唇にかすかな笑いを浮かべた。まるで桜と向日葵が同時に咲いたような、儚くも明るい笑みだった。その笑みは僕に向けられていた気がした。僕はなんだか恥ずかしくなって、顔を伏せてしまった。それを見た彼女が、困った風に笑った。

 式典は異様なものになった。通常、成人式では、旧友との再会を祝い、言葉を交わすものだ。しかしながら、今この瞬間、ほとんどすべての人が、一条雫を気にかけていた。彼女に会えるかもしれない、あわよくば会話をしてみたい。そういった期待感が、会場を支配していた。例えば、僕の向かいにいる男性は、表面上は、友との再会を喜んでいる。でも、その瞳は明らかに泳いでいた。彼女を探しているのだろう。彼女は一瞬にして人の心を奪ってしまう。ギリシャ神話に出てくる人魚のような女性である。僕がそんなことを考えていると、背後から聞きなれた、あの懐かしい声が聞こえてきた。その声が僕に向けられるのは、もう、三年ぶりだった。

「やぁ、優里、久しぶり。誰かわかるかな?」

彼女は、芸術品のように細部まで完成された指を、僕の目にかぶせた。そして僕を揶揄うように悪戯っぽく言った。僕が知っているあの時の彼女のままだった。

「雫ちゃん、だよね」
「正解。ごめんね。優里、ここは目立つから、場所を変えよう。」

 彼女はそういうと、僕の手を強い力で引っ張っていった。世間の人は、きっと彼女が一条雫だと言われても信じられないだろう。クールビューティな彼女がとるとは思えない程に強引でお転婆な行為だからである。でも、僕にとってはこれが雫ちゃんだった。ちょっと強引なところがあるけれど、持ち前の能力ですべて何とかしてしまう。悪戯っぽい普通の少女。記憶の中の彼女と全く同じだった。

 彼女に導かれるままに歩いていくと、なんてこともない、ごく平凡な車が道に留まっていた。町でもよく見かけるような、白い軽自動車だった。おそらく街中で目立たないようにするためだろう。彼女が手を挙げると、車のロックが開いた。

「乗って」

 言われるがままに、彼女の隣に座った。彼女の行動力が凄まじくて何が起きているのかわからなくなる。彼女は運転手らしき人に、目的地の住所を伝えた。それは、前もって伝えておいた僕の家の住所であった。

「ごめんね。少し強引な手段になってしまった。でも、実際の式典が始まる前に、抜けてしまった方がばれないだろう?式典に出られないのは残念だけど、もう十分雰囲気は感じられたさ。それに、私をつけているメディアなんて山ほどあったからね。それを全て撒いて、君を探すのは大変だったよ。」
「ごめん、てっきり、式典が終わってから、向かうものだと……」

 本当は、成人式が終わってから、僕の家に向かう手筈だった。でも、彼女が瞬時にプランを変えたのだろう。あまりにもメディアと野次馬が多かったから。その思い切りの良さはさすがだなと思った。僕たちは会場の喧騒から、どんどんと離れていった。月曜日の夜の街を、何の変哲もない白い車が、静かに駆け抜けていった。僕は彼女に目を奪われ続けた。彼女の美しい横顔。本当の美人は横顔で差が出るというけれど、本当にその通りだ。彼女は、まるで絵に描いたような、いや絵だとしてもありえない程美しい。何も邪な気持ちがあったわけじゃない、記憶の中の彼女よりも美しさに磨きがかかっていたからだ。

「私の顔になにかついてるかな?」

彼女は冗談めかして言った。僕の視線に気づいたようだ。さすがに凝視しすぎたみたいだ。僕は、申し訳なくなって謝った。

「いいよ。別に仕事柄人の視線には慣れてるし。それに……」
「君に見られるのは悪い気はしないね」

 彼女は昔、十秒間相手と目を合わせた後、相手に向かって微笑めば、誰でも私を好きになる、と言っていた。今その意味が分かった気がした。それほどまでに、彼女の微笑は妖艶で、無垢で、繊細な色彩を帯びたものだった。そのあと、彼女と近況報告をしあった、彼女はモデルとしても超一流だが、最近では女優業の方に力を入れているらしい。

「私は元々、演劇部だったからね。カメラで写真を撮られるよりも、何かを演じることの方が楽しいんだ。まぁどちらも完璧にこなすけどね」

これほど説得力のある言葉もなかった。おそらく彼女は何でも完璧にこなすだろう。

「ただね、演技をしていると、違和感を抱くことが多いんだ。どうして、隣にいるのが君じゃないのかな、ってね」

 僕はドキッとした。いや、彼女はそういう意味では言っていないはず。僕と彼女は、中学から高校時代、同じ演劇部で活動した。その時、中性的で抜群のスタイルを持った彼女が、王子役を演じ、小柄で女顔だった僕が姫役を演じることが非常に多かった。きっと彼女はそういうことを言っているのだ。何も他意はない。長年ともに演じていた人じゃないから違和感がある、それだけのことじゃないか。僕たちは親友なんだ。幼馴染で親友で、本当にそれだけの事。なぜ、今日の彼女は思わせぶりな発言が多いのだろう。記憶の中の彼女とは、違っていて戸惑った。僕たちの関係が変わってしまうような予感があった。僕が一抹の不安を抱いたとき、車が止まった。車窓から見える眺めは見慣れたものだった。ごく普通の安いアパートだ。

「しっかり部屋までエスコートしてね」

彼女は妖しく笑った。


「ごめん、狭いけど我慢してね」

僕はそう言って家の鍵を開けた。鍵を開けると、見慣れた自分の家が目に入ってくる。僕が住んでいるのは1K、いわゆるワンルームというやつである。ほかの住民も一人暮らしの学生が多い。そもそもそういう価格帯のアパートなのだ。キッチンとお風呂はさすがに備え付けられているけれど、あとは殺風景な部屋が一つ。部屋の中央には、ソファと、小さな机。その隣はすぐにベッドだ。大学生の一人暮らしなど大体こんなものであろう。ただ、彼女を泊まらせるにはあまりにも狭すぎる。彼女はひと月で一般人の生涯年収を稼いでいるという噂もあるくらいなので、こんな家はみずぼらしくてしょうがないだろう。

「うん。生活感があっていいね。」

彼女は端的に感想を言った。本当にそう思ってくれているかはわからないけど、ひとまず不満そうではなかったので安心した。すると彼女は思い出したかのように言った。

「着替えきていいかな?お腹のあたりにタオルを巻いてるから苦しい。着替えはあるから。お風呂のところ借りていいかな?」
「じゃあ、僕はご飯作るね。お酒は飲む?」
「優里も飲むならいただこうかな。」
「わかった」

 僕はスーツを脱いで、部屋の中央のハンガーにかけた。そしてYシャツ姿のままキッチンへと向かった。彼女もどうやら着替えているようだ。演劇部だった関係で、着替えることはよくあったので、彼女の着替えだけで興奮してしまうほど初心ではない。料理に集中する。今日は、せっかくなので、彼女の好物を作ることに決めていた。昔から、彼女に料理をふるまうことがよくあった。その時の記憶を呼び起こして、彼女が美味しいと言ってくれたものを選んだ。彼女はお金もあるし、東京にいるから美味しい物を食べる機会には事欠かないだろう。きっと、僕の想像もつかないような値段のものだって食べている。でも、この料理で、少しでもこの町のこと、僕のことを思い出してくれたら嬉しい。

 下ごしらえは事前にやっていたし、案外すぐに完成した。うん、美味しい。味付けもちょうどいい感じ。甘すぎず、しょっぱ過ぎず。彼女好みの味だ。肉じゃがと、わかめのお味噌汁、ピーマンのゴマ炒めである。どれも、庶民的と言って差し支えないし、今の彼女の口に合うかはわからない。でも、ちゃんと美味しくはできたはずだ。僕は食事を小皿に取り分けた。彼女は、まだ着替え終わってないみたいだった。やっぱり振袖は着替えるのに時間がかかるのだろう。あんまり詳しくないけれど、飾り結びなんかは凄く複雑そうだし。

「ごめん、ご飯できたけど、着替え終わった?」
「じき終わるよ。ありがとう。待たせたね」

そういうと、扉が開いた。

「どうかしたかい?そんなに目を丸くして。」

 彼女は平気な顔をしているけれど、正直目に毒だった。彼女はあまりにも無防備だった。いわゆるルームウェアだったが、彼女の豊かな胸部は、布を持ち上げ、はっきりとした重みを主張していた。振袖では、胸が大きいと着崩れてしまうので、タオルを入れて調整することがあるらしいが、それがなくなって、煽情的な体のラインが明らかになっていた。おまけに、袖がないタイプのものだったので、雪のように白く透き通った素肌が無防備にさらけ出されていた。肩もはっきりと見えて、見ちゃいけないものを見ているような気がした。鎖骨などもはっきり見えた。彼女のプライベートを不当に覗いている気がした。やったことはないけれど、盗撮の類に似たやましさだった。ズボンも非常に短かったため、細すぎず、適度に肉付きの良い彼女の脚が丸見えだった。正直どこを見ても、あまりにも性的だった。セクハラになるような気がして、彼女を見ることができなかった。幼馴染に性的な視線など向けたくなかったし、僕を信頼してくれている彼女にも申し訳なかった。僕はとっさに目をそらした。

「?どうしたの」
「ごめん、あの、もっと、なにか羽織ったら?もう冬だし、夜は冷えるよ。僕の上着があるからさ。その、使いなよ」

彼女は嗜虐的な笑みを浮かべた。明らかに捕食者が、獲物を見るときの目だった。

「じゃあ、そうしようかな」

僕はそそくさとその場を離れて、上着を取りに行った。正直、早くこの場を離れたかった。今の彼女はあまりにも魅力的で、あまりにも妖艶だった。僕は、高校時代に来ていた上着を彼女に渡した。彼女はそれを羽織ろうとして、困惑の表情を浮かべた。

「優里、サイズが合わない」

 彼女はちょっと呆れた感じで、笑って言った。よく考えなくても、サイズが合わないのは当然だった。なぜなら、彼女の身長が百八十五センチメートルもあるのに対して、僕は百六十一センチメートルしかないからである。目線でいうと、彼女の胸のあたりになる。それくらい体格に差があるのである。男性の方の僕が、彼女より二十センチ以上も小さいというのは情けない話だった。しかも、それに気づかずに、上着を持ってくる!などといった僕は滑稽で仕方なかっただろう。おそらく緊張と焦りが彼女には手に取るように分かったはずだ。おそらく彼女は途中から気づいていただろう。分かっていて止めなかったのだ。

上着はどうやっても着られなかった。もう仕方がないので、そのままの服装で食事をすることにした。目には毒だけど、慣れるしかないだろう。僕たちはテーブルへ移動した。彼女はテーブルの上にある料理を見て嬉しそうに言った。

「すべて私の好物じゃないか。雑誌でも話したことなかったよね。覚えてくれていたのかい?」
「そりゃあ、雫ちゃんが美味しいって言ってくれたものは、全部覚えてるよ。ほら食べよ。冷めちゃうから」

彼女は表情には出さなかったけど、嬉しそうな雰囲気がにじみ出ていた。料理に箸をつけての第一声が美味しいで安心した。これでまずいなどと言われていたら、ショックで立ち直れなった。

「美味しい。私の好きな味付けだ。こんなことまで覚えていてくれたなんて……君はいいお嫁さんになるよ。本当に。家にいてほしいね」

冗談なのはわかっていたけど、彼女があまりにも真剣な目でいうから、反応が遅れてしまった。

「ち、ちょっと冗談言わないでよ。僕は、お嫁さんにはならないよ。大切な人と結婚して、その人と子供のために働きたいんだ。」

これは心からの本心だった。僕の昔からの夢だった。古臭い結婚観かもしれないけど、これが僕にとっての理想の結婚だった。僕の父親がそうだったからだ。家族のために一生懸命働いて、温かい家庭を作る。これより素晴らしいことがこの世にあるだろうか。

「ふーん。そうなんだ」

彼女は意味ありげに言った。そのあとは他愛もない話が続いた。中学、高校時代の思い出を語ったり、料理の感想を言いあったりしながら、二人で笑って、二人で飲んだ。素敵な時間だった。まるで昔に戻ったみたいだった。こんな時間がずっと続けばいいのに。そう思っていた。彼女はどうだったかわからないけれど、僕の方は結構お酒が回ってきていた。あんまりお酒が強くなかったのに少し飲みすぎたかもしれない。

「雫ちゃんはお酒強いねぇ。僕は真っ赤なのに。」

僕は呂律の回らない声で言った。結構本当に酔っているかも。

「ちゃんと水飲みな。明日劇本番なんだろう。悪酔いしたら大変だ」

そうだった。明日は僕が所属している演劇サークルの公演がある。彼女はそれをお忍びで見てから東京に帰る予定なのである。

「雫ちゃん、ベッドまで運んで。眠い」
「仕方のない人だね。洗い物は私がやっておくから、もう寝な」

彼女は僕を簡単に持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつだった。彼女は細い腕からありえない出力が出る。そもそも体格差があるし、僕を持ち上げることなど、それこそ赤子の手をひねるように簡単だった。彼女はベッドまで僕を運んで、その上に僕を優しくおろした。僕ははっきりとしない意識の中でこう言った。

「ありがとう。雫ちゃん。大好き」

 僕としては軽い冗談のつもりだったし、酔っているときの発言だからそんなに深い意味はなかった。でも、この発言が彼女の決定的な何かに触れたらしい。彼女は僕の手首をつかんで、ものすごい力で僕をベッドの上に押し倒した。彼女が僕の上にちょうど覆いかぶさる形になった。その瞳には、劣情、怒り、性欲といった複雑な感情が入り乱れていた。僕はすっかり酔いから冷めた。まずいと思って腕に力を入れたけど、びくともしなかった。僕と彼女では、体格だけでなく、膂力にも差がありすぎた。

「あのさぁ♥優里♥さっきから、なんなの?誘ってるの?もう私、我慢の限界なんだけど……♥」

 僕の不用意な発言が、僕の知らない雫ちゃんを呼び覚ましてしまったのだと思った。でも、気づいた時にはもう手遅れだった。






「優里が悪いんだよ♥さっきから、私を煽るようなことばかりして。私の好みを完全に把握した食事を作ってくれたり、薄着の私から恥ずかしそうに眼をそらしたり。あげくは大好きだなんて♥そんなに、私に犯されたいの?ずっと我慢していたけど。もう限界だよ」

彼女の様子は明らかにおかしかった。僕は性的な視線を向けられた経験がほとんどない。でも、今の彼女の目線が、それだということははっきりと分かった。彼女は今にも僕に襲い掛かってきそうだった。もはや、恐怖でしかなかった。彼女のことは好ましくは思っていたけれど、こんな状況では嬉しくもなんともない。レ○プされた女性の気持ちがわかる気がする。

「ねぇ、雫ちゃん。こんなのおかしいよ。僕たち幼馴染で親友だよ。それにもっと」

言い終わる前に、彼女の柔らかい唇が、僕の口を塞いだ。そのキスは甘いやさしいものではなかった。彼女は舌を巧みに操り、僕の舌に絡めてきた。彼女の体温が僕に伝わってくる。二つの舌が絡み合うという淫猥な音だけが部屋に鳴り響いていた。もはや、キスではなかった。口全体が犯されているみたいだった。三分くらいそうした後、彼女は、やっと僕の唇から離れた。彼女の唇は色っぽく照っていた。

「あのさぁ、さっきから幼馴染とか親友とかうるさいんだよね。あまりにもうるさいから黙ってもらったけど♥私は、ずっと前から君が好きだったし、今でも気持ちは変わらない♥だから今こんなことをしてるんだよ。誰にでも、こんなことをする下品な女とは、思わないでほしいな♥私はね、基本的に君以外の男性には興味ないよ。だって、私の体や名誉、財産狙いなのが見え見えだからね。何とか私を犯してやろうとする男は、星の数ほどいたさ。でも、そういう男ってやっぱりつまらない人ばかりなんだよね。結局女を屈服させようとしか考えてないし、女なんてオナホくらいにしか思ってないのさ。きっと私は、彼らみたいな人からしたら、極上のオナホなんだろうね。こんなに、いやらしい体つきだし、名誉もお金もある。オナホ兼ATMとしては、魅力たっぷりだろうさ♥でも、君は違う。君は、私をちゃんと見てくれる。私の心配をしてくれる人、私という人間を見てくれているのは君だけなんだ♥」

彼女は頬を上気させながら言った。彼女が僕を大切に思ってくれているのは伝わってくる。でも、だからこそここで、彼女を止めないといけない。

「じゃあ、今すぐ離して。そして、こんなバカなことはやめて。僕は君が言うように、君を大切に思ってる。だから、こんな形で、君の体を傷つけたくない。」

彼女は可笑しくて仕方がないという風に笑った。そして、僕の服のボタンを、一つ一つ、手際よく外し始めた。

「あのさぁ、優里。勘違いしているかもしれないけど、”僕が彼女を傷つける”なんていうのは思い上がりだよ♥いいかい、今から、私が君をぐちゃぐちゃに犯して傷つけるんだ♥まぁ、いわゆるレ○プだね。まさか、こんな下衆な行為に自分が及ぶとは思わなかったね。そういう、性欲だけでものを考えている連中は一番嫌いだったのだけれど。大丈夫、ちゃんと責任はとるさ♥だからね、優里。君はただ、そこで喘いでくれればいいよ♥」

彼女は僕の、Yシャツを全て脱がせてしまった。白い肌が露わになった。恥ずかしいし、怖い。

「やめて……」

僕はかすれるような声を出した。

「シミ一つない綺麗な白い肌だね。女の侵入を一度も許していない綺麗な肌だ♥」

彼女は僕の、首筋からおなかのあたりを優しく撫でた。今から相手に乱暴をしようとしている人の手つきではなかった。相手を慈しみ、壊してしまわないように大切に大切に僕に触れた。

「下はどうかな」
「ひっ……やめっ……」

彼女は、僕の腰回りのベルトをするりと外し、足首までおろした。外気に触れた太ももが揺れる。僕を守るものは、下着一枚になった。羞恥と恐怖で全身が震えていた。

「綺麗な太ももだ♥女の子みたいだね。さぁ、優里の男の子の部分はどうかな♥」

彼女は嗜虐的な笑みを浮かべて、僕の下着に手をかけた。僕の男性器は露わになった。情けないことに少しだけ勃っていた。今まで誰にも見せたことがなかった恥ずかしい場所を、幼馴染にこんな形で見られて涙が出そうになった。

「優里のおちんちん、かわいいね♥口ではあんなに言っても、優里のココはやっぱり正直なんだね♥」

彼女は、爪でつんつんと、僕の男性器を弾いた。そんな軽い刺激だけでも、僕の脳には快感が走った。理性はとっくに吹き飛びそうだった。彼女はそれを見て満足げに笑った。そして、彼女は、僕を抱き上げた。彼女と比べて、あまりにも貧弱で、あまりにも軽い僕の体は簡単に持ち上げられた。そして、僕は彼女の膝の上で抱きかかえられた。彼女は、僕の耳元でこうささやいた。

「優里♥今からいっぱい犯してあげる♥」

その声は、世界一やさしい声色だった。

 あれほど、○すと言っていたのに、彼女は僕を慎重に優しく愛し始めた。彼女華奢で美しい腕が、僕の太ももや、首筋を優しく、愛でるようにじっくりと撫でていく。でもある一点には絶対に触らなかった。彼女は焦らすように、僕の体という体を優しく愛撫した。僕の鼓動と息はそれだけでどんどん激しくなっていた。彼女に全身を撫でられて、「自分はこんなに愛されている」と思う以上に、「自分はこんなに彼女を愛している」と実感した。そう思わせるほどの愛しい、切ない愛撫だった。先ほどまでの恐怖や苦痛が本当に幻のようだった。彼女はまるで恋人のように、僕を愛した。

「知ってるかい♥普通愛撫というのは、女性にするものなんだよ♥そりゃそうだよね♥女性の膣を濡らして、挿入しやすくするのが目的なんだから♥だからね。だから、本当は君が私を愛撫しなきゃいけないんだよ♥でも、君はそれを嫌がったからね♥私を拒否した仕返しさ。たっぷり愛してあげるからね♥」

 今までの愛撫は、前座だったという具合に、彼女は激しさを増した。邪魔な髪のおくれ毛を舌でどかし、僕の首筋をゆっくりと舐め始めた。舌先で静脈をたどり、鎖骨までじっくりと辿って行った。温かい液体が首筋をじっとりと這っていく。唇が、鎖骨に達したとき、鈍痛に襲われた。かまれたと気付いたのはそのあとだった。慣れない皮膚を吸われる感触に首を悶える。

「そこはっ、目立つからぁ……やめて……」
「印をつけてるんだ♥自分の物には名前を書くだろう?それと一緒さ♥」

やめて、と身をよじっても、彼女の力には到底かなわない。彼女は僕を壊してしまわないように、二つか三つ愛の印を僕の体に残した。慣れない痛みに、気を取られていると、彼女の右手が、僕の胸元に迫る。指先で突起を優しく撫で、もう片方は、滑らかな舌を這わせていた。

「……っ……う……♥」

僕はたまらず声を上げてしまう。

「女の子みたい♥かわいいなぁ♥ここが弱いのかな♥」

彼女は楽器でも奏でるかのように、楽しそうに僕の突起を転がした。その度に、いやらしい声を上げてしまう。頭が焼き切れそうだった。もう僕の性感はとんでもないほどに高められていた。目の前の女性に愛してもらうことしか頭になかった。

「君だけを裸にしておくわけにもいかないし、私も脱ぐね」

 彼女はいったん僕から手を離した。そして自分の服に手をかけ、するりするりとそれを脱いでいった。彼女は猥らになった。男性ならだれもが触れてしまいたくなる彼女の肢体が露わになった。彼女はこれでも着やせするタイプのようだった。そのふくらみはいつもよりも煽情的で大きかった。服を脱いだ彼女は、男性の欲望を全てつぎ込んだような品のない、身体をしていた。はっきりとした谷間を形作る巨大な胸の双丘、健康的に筋肉がついた腹筋に、引き締まったウエスト。シミ一つなく、適度に肉のついた太もも。鍛え上げられ、大きいながらも美しい形を保っている臀部。世界中の男性が、夢想し、求める究極的に淫猥な肉体。すぐにでもそれに触れたくなった。でも、それがかなうことはなかった。彼女は下着姿のまま、またも、僕を押し倒した。

「私が君を愛してあげる♥もう二度と他の女じゃ満足できなくしてあげる♥」

 彼女は僕を優しく押し倒した。その動作は本当に優しくて、親が子供をベッドに寝かせるみたいだった。そして、僕の腰に、尻臀をゆっくりと乗せ、心持ち、顔をうつ向かせた。僕の記憶では、彼女がこのような様子を見せたことはなかった。彼女はいつでも自信にあふれていて、どんなことでも成し遂げる雰囲気を持っていた。実際それができた。彼女はそっとため息をついて言った。

「私ね、緊張したことがなかったんだ。どんなことだって、誰よりもうまくできる自信があったし、実際、今までそうだった。例外はない。初めてモデルの仕事をしたとき、初めて映画に出演したとき、海外でランウェイを歩いた時、いついかなる時でも、完璧にこなしてきた。それなのに、今、確かに緊張しているんだ。今から、君に拒否されたらと思うと、怖くて仕方がない♥嫌われて当然のことをしているのにね♥今、君に嫌われたら、私は一生惨めに一人で暮らす気がするんだ。きっと君は、素敵なお嫁さんをもらって、素敵な家庭を築くのだろうね。君の隣に女がいるなんて考えたくもないけれど♥」

 先ほどまでの、積極的な態度が嘘のように彼女はしおらしくなった。僕からも遠慮がちに目を逸らす。僕はなんだか堪らなくなって、彼女に手を伸ばした。僕の小さな体で彼女を慰めるように、しっかりと抱きしめた。彼女の体温が直に僕へと伝わってくる。不思議とやましい気持ちは湧かなかった。小さな部屋の優しい光だけが僕たちを包んでいた。彼女は安堵と歓喜が入り混じったささやかな微笑を浮かべた。そして、彼女の柔らかい唇が僕の耳元に迫ってきた。

「優里♥いいんだね♥大好き」

彼女は突如として、サディスティックに笑った。そして、僕の腕を握って、強い力で押し倒した。生物としての格の違いを判らせるように強い力だった。

「さて、優里も許可をくれたし、存分にセックスできるね♥もう私以外の女は見えなくなるくらい犯してあげるから♥」

まるで先ほどまでの態度がまるで演技だったかのように、いや本当に演技だったのかもしれない。僕は彼女が世界的な大女優でもあることを失念していた。でも、どっちだろうとそれ自体は大した問題じゃない。

「やっぱりこんなのおかしいよ。全部忘れてまた、やり直そうよ」

僕は彼女と対話を試みたけど無駄だった。僕の声は彼女に一切聞こえていないみたいだった。彼女は、今、目の前の男性を○すことできっと頭がいっぱいになっているのだろう。考えたくはないが。

「口では、そんなことを言っているけど、優里のここはすっかりその気みたいだよ♥しっかり、私を受け入れる準備ができているじゃないか♥」

 そういって、彼女は、僕の陰茎にそっと触れた。僕はそんな微かな刺激だけでたまらなくなってしまう。情けないことに、彼女の執拗な前戯で、僕の性器はすっかり交尾をする準備を終えていた。彼女は僕のそれをまるで宝石を扱うかのように丁重に触った。彼女はにこっと笑って、僕の先端に軽くキスをした。すごく卑猥な光景だった。恋人の手にキスをするみたいな優しい口づけだった。その仕草の美しさと実態がアンバランスで、ひどく僕を刺激した。彼女はゆっくりと腰を上げた。彼女の秘部はぐっしょりと濡れていた。鼻につんと来る酸っぱくて甘い香りが部屋を満たしていた。彼女はゆっくりと僕のペニスの上で腰を下ろしていた。ぐちゅり、ぐちゅりと彼女の中に僕が入っていく。

「どう♥私の中に優里が入ってきてるよ♥嬉しいなぁ♥」

今まで生きてきた中で一番強い快楽だった。全身の細胞がスパークする。脳が焼き切れそうだった。呂律も回らない。でも、言わないといけなかった。彼女を止めないと。また、昔みたいな関係に戻らないと。僕は最後の力を振り絞って、消えかけの理性と共に言葉を紡いだ。

「やめて、雫ちゃ…ん。友達に……ッ♥戻ろう。んっ♥まだやり直せっ…ぇ♥♥だって、こんなの……おかしいよ。付き合ってもない男女が……ッ♥こんなこと……したらッ♥ダメだよ……ッ。また……ぁっ、昔みたいな……、関係に戻ろう?」

息も絶え絶えで思考もまとまらない。ベッドのシーツを強く掴んで何とか快楽にあらがう。

「あのさぁ♥優里が私の気持ちをずっと知らないふりするからこうなってるんだよ♥私はずっと君の事が好きだったのに♥なのに、友達に戻ろうって♥私は君と幸せな家庭を築く覚悟なんだけど♥そもそも、君のことが好きで好きでたまらない女の子にそんなこと言うかなぁ♥」

 まるで僕を責め立てるかのように、彼女は腰を激しく動かし始めた。そのたびに、僕はたまらなく射精欲を煽られる。私の中に射精しろと言わんばかりに、彼女の体内が僕の肉棒を責め立てる。今までのくすぐったい甘い快感を遥かに超える強烈な快感だった。こんな風に女性に犯されていて、それが大切な幼馴染で親友。だけど気持ちよくて仕方がなくて今すぐにでも射精したい。どんどんと射精間が鷹昇に連れて、僕は何も考えられなくなる。甘ったるい情けない喘ぎ声をあげることしかできない。彼女がピストン運動を強めるたびに、僕は今にも射精しそうになる。

「っ♥ん♥うっ♥」

 彼女は恍惚とした表情を浮かべていた。彼女がこんな表情を浮かべているところを見たことがなかった。僕と一緒に出演した演劇が大成功を収めた時も、東京の事務所にスカウトされたときも、こんなに満たされた表情をしたことはなかった。念願の夢がかなった達成感、ずっと好きだった男を支配する興奮、獣のような激しい性交による肉体的な快感、そういったすべてを彼女が包んでいた。

「優里♥優里♥かわいいよ。もっと情けない声で喘いで♥もっと、かわいいお顔を見せて♥」

彼女は、僕の一部を受け入れたまま、僕の顎を指先で挙げた。彼女の顔はやっぱり美しかった。こんな美人に迫られている自分は世界一幸せなんじゃないかと思ってしまうほどに。実際彼女はSNSのフォロワー2億を超えるほどの世界的な人物である。僕も彼女のことは好ましく思っている。じゃあ、断る理由なんてないんじゃないか。だんだん思考がまとまらなくなってきた。

「優里♥私が幸せにしてあげる♥絶対にお金の心配はさせない♥優里が今まで経験したこともない贅沢で豪奢な生活を提供できるよ♥君が求めるなら、今みたいに私が何回だって相手をしてあげる♥子供が欲しいんだったら何人だって産んであげる♥君と私の子供はかわいいだろうなぁ♥」

 僕の体中の血液が全身をめぐって、一点に集まる。じんわりとした耐えがたいような快感がそこに広がって、まるで体中が性器になったかのような感覚に襲われる、とにかくただ必死な快楽の感触があって、精神と体が混ざり合って一つになる。そして、僕の体から精があふれる。それは彼女の体の奥の奥へと必ず到達したはず。人生で一番気持ちよくて濃くて最悪な射精だった。罪悪感とじんわりとした快感の中で、僕の意識はだんだんと遠のいていった。



 ゆっくりと重たい瞼を上げる。窓から、明るい朝の陽ざしが差し込んでくる。隣には彼がぐっすりと眠っていた。これからが本番というときに彼は気を失ってしまった。私としては全く以て、欲求不満だったし、もっと彼と愛を育みたかった。でも、わざわざ、彼を起こしてまで、もう一回をする気にはなれなかった。性的に襲った人間が何を言っているのか、という話になってしまうけれど、彼の寝顔があまりにも綺麗だったから仕方がない。本当にかわいらしい、天使のような顔。自分は女の子みたいな顔だから全くもてないなんて言ってたけど、とんでもない。彼は小学生のころから女の子に大人気だった。それは、愛らしい容姿のせいもあるけれど、彼の内面的な魅力がその原因だった。どんな人にも分け隔てなく優しい、本当に天使みたいな男の子で、それでいてどこか抜けている。守ってあげたくなるようなところがある。母性をくすぐるといったらいいのだろうか、彼にはそういう不思議な魅力があった。

 実際、中学や高校では、彼のことを好きと公言する女は掃いて捨てるほどいた。分かりやすく人気があるわけではないが、内心では多くの女が彼のことが好きだった。でも、彼には一度だって恋人ができたことがない。私がすべて阻止していたからだ。彼に近付こうとする女は、ありとあらゆる手段を使って諦めさせた。私が彼を愛していることを匂わせれば、ほとんどの女は諦めた。私には勝ち目がないと思っているからだ。それでも、諦めない女がいれば、私のことを好きになるように強引に仕向けた。私にとっては容易いことだった。ちょっと相手を見つめてにこっと笑えば誰でも私を好きになる。それは男だろうが女だろうが、関係なかった。かくして私は人知れず彼の純潔を守り続けた。

 でも、私と彼が付き合うことも終ぞなかった。彼にとっては、私は仲の良い親友あるいは幼馴染以外の何物でもなかったのだろう。私が積極的にアプローチをしても、彼に対してはほとんど効果がなかった。そうこうしているうちに私は東京の事務所にスカウトされた。正直、彼から離れるのは苦痛だった。彼がいない生活なんて考えられない。彼だけが、私を私として見てくれる人だった。ほかの人は、美術品や神様、あるいは性欲の対象として私を見てくるのだった。彼だけが私の内面を理解してくれていた。そんな彼と離れるなんて考えたくもなかった。でも、このままだと、私は彼の幼馴染で親友、それで終わりだ。もしも、世界でも有数のスーパーモデルになれば、少しでも私のことを女性としてみてくれるかもしれない。そういう意図があって私はモデルになった。

 世界一のモデルになることは私にとって容易いことだった。普通にやっているだけで、自然と私は頂点に立っていた。名声はいくらでもある。お金も掃いて捨てるほどある。だけど、彼の気持ちだけは手に入れられなかった。彼がいない生活は味のしないガムみたいに無味乾燥とした生きがいのないものだった。ひょっとすると、彼は地元でくだらない女と付き合っているのかもしれない。そういうことを考えているうちに、私は彼に会いたいという思いだけが募っていた。だから、私は成人式のこの日、彼に会いに来た。少しは、彼も私を女性として意識してくれるかと思ったけど、彼は昔と何も変わっていなかった。本当に優しい。変わってしまった私を嫌な顔一つしないで受け入れてくれる彼を見て、私はもう堪らなくなってしまった。そして彼を襲ったのだった。

 彼は目を覚ます気配がなかった。確か今日は大学の劇の本番だから起こした方がよいのだろうか。でも、この状態で起こすのはなんだか気恥ずかしい。私は布団から身を起こした。当然全裸だったので、ベッドから降りて、着替えを探した。カバンから替えの下着と、服を一つ一つ身に着けていった。今日は彼の演劇を見に行く予定だ。だから、あまり目立たないように、大学生にありがちな服装にしてある。薄いクリーム色のトップスに、淡い色のスカート。服装だけで見れば目立つことはないだろう。私は、彼の肩をそっとたたいた。彼は小さくうめき声をあげ、寝返りを一つ打った後、目を覚ました。最初は寝ぼけていたけれど、自分が全裸であることに気づき、昨日何があったかを思い出したようだった。彼は慌てて布団をかぶった。それがなんとも初々しい動きで可愛らしかった。私は笑ってしまった。昨日は散々お互いに裸を見せ合ったのに、今更恥ずかしがることなどないと思う。彼は着替えるから、移動してほしいと言ってきた。執拗に肌を隠そうとする彼がなんだかおかしく思えたけど、私は了承した。私はお風呂のほうまで行って待つことにした。

 耳を澄ますと、布がすれる音が聞こえてくる。きっと彼が着替えているのだろう。彼の着替えはやけに長かった。おそらく、昨日私が体中にキスマークを付けたので、それがうまく隠れる服を探しているのだと思う。彼は何度も脱いだり、着たりを繰り返していた。
私を呼ぶ声が聞こえた。私がもとの部屋に戻ると、彼は畏まった顔で椅子に座っていた。彼が着席を促してきたので私もその通りにした。彼は神妙な顔でゆっくりと、申し訳なさそうに口を開いた。

「昨日はごめんなさい。雫ちゃんの体を不用意に傷つけてしまった。本当にすまないと思っている。だから、その、責任を取らせてほしい。」

彼は本当に優しい。付き合ってもいないのに、私から彼を襲い、性的に辱めた。後半はほぼ和姦だったけど、私が迫った形だったことは変わらない。彼が私を訴えても文句は言えない。それなのに、彼はそれを一切責めないどころか、私のことを心配してくれている。本当に底抜けに優しい。

「それは私の台詞さ。私が責任を取るべきなのに、君にこんなことを言わせてしまった。優里が嫌じゃなければ、私に責任を取らせてほしい。絶対に幸せにする」

彼は目を丸くしていた。おそらく、彼にとっては結婚というものは男性が責任をとるものなのだろう。だから、彼にとっては、女の私が責任を取るというのは、彼の価値観にそぐわないものなのだろう。なんだかあまりにも驚いている彼がおかしくて私は笑ってしまった。彼もそれにつられて笑った。私たちはそのまま二人で笑いあった。二十年間遠回りをしていたけれど、やっと二人の人生が重なった瞬間だった。

 彼の大学を訪れるのは初めてだった。時間でいうと六限が終わったころだろうか。想像していたよりもずっと人が多い。大学構内の道を、人がひっきりなしに移動してる。私はその中に紛れて移動する。できるだけ大学生が着るような服を着てきたけれど、やはり、目立ってしまっている。正直目立つこと自体は慣れているからどうでもいい。けれども、騒ぎになって彼が所属するサークルの演劇が上演できなくなるのは困る。極力人目のある場所を避けて移動した。目的地は大学の講堂である。この講堂で、演劇が行われる。彼曰く、オリジナルの脚本だから、飽きることはないとのことだった。彼は主演である。当然だ。彼は中高のころから花があったし、演技も上手だ。正直、私は彼を見に行くようなものなのだが、真摯に打ち込む彼に対しては真摯に向き合う必要がある。演劇自体を楽しむ気持ちを忘れないようにしたい。

 そんなことを考えていると、講堂前に到着した。もう開園時間が近づいていた。昨日の夜にあんなことをしたために、起きる時間が遅くなったのである。私はゆっくりと講堂の扉に近付く。扉の前には簡素な机が用意してあった。席には若い女性が座っていた。おそらく彼のサークルの一年生だろう。どうやら、ここでチケットを回収するらしい。彼から事前に受け取っていたので、私はそれを渡した。彼女は私に軽く会釈をして、扉を開けた。中はもう真っ暗だった。ギギと扉が開くと、一斉に視線がこちらを向いた。暗くて助かった。おそらく、ぼんやりとしか私のことが見えなかったはずだ。彼の公演直前に、騒ぎを起こしてしまうのは私の本意ではない。私はそっと息をついて、開いている席に着いた。

 私が席に着いてから数分経つと、ステージがパッと明るくなった。公園が始まった。セットから察するに舞台は中世のヨーロッパのようだった。なるほど、よくできている。紙で作った張りぼてには見えないように質感が工夫されている。そして、淡い色の、いかにも水ぼらしい服を着た少女が現れた。彼だった。彼は昔から女性の役をやることが多かった。なぜなら、彼よりも可愛らしく、愛らしい女性が存在しない場合が多いからであった。身長や体格的にも女性役をやっても問題ない。よく私が、王子役を演じて彼の相手をしたものである。彼をゆっくりと目で追っていると、舞台の上方から、いかにも気品高い、王子というような男性が現れた。おそらく演じているのは女性だろう。なるほど、この演目は身分の低い少女と、身分の高い男性との恋愛を描いたものなのだろう。王道中の王道と言えるだろう。

 劇はその後も順調に進行していった。どの役者も演技に拙さはない。みな大学生とは思えない程卓越している。美術や演出だって良く凝られている。脚本自体も、感情のコントロールをよく考えた素晴らしいものだった。でも、私はあまり楽しめなかった。なぜなら、彼がほかの女を抱きしめたり、キスをすることに我慢がならなかったからだ。もちろん、演技であることは頭ではわかっている。それでも、彼の一挙一動が私以外の女に捧げられていると思うと虫唾が走った。彼のはじけるばかりの愛らしい笑顔が、どこの馬の骨とも知らない女に向けられていることが耐えがたい。彼は演技でやっているのだろうが、女の方が演技かどうかは疑わしかった。時折、獣のような眼光を彼に向けることがあったし、明らかに彼との接触を心から喜んでいるそぶりだった。どう見てもあれは演技ではない。彼を狙っている卑しい女の眼光だった。一度そう思ってしまうと、まったく芝居を楽しめなかった。この芝居に一生懸命取り組んでいる彼に対して心から申し訳なかった。

 私が、自分への嫌悪感とほかの女への醜い怒りを感じているうちに、演目が終わると、私はすぐに席を立った。ずっと彼を見ていたのに、早く彼に会いたくて仕方がなかった。でも、私がいま彼に会いに行くと騒ぎになってしまう。会いたい気持ちを押し殺して、私は講堂を出た。大学の裏の目立たない場所で合流し、車で彼の家に戻る手はずになっていた。私は彼を待った。会いたい気持ちを紛らわせるために、SNSを無意味に眺めていた。約束の時間を過ぎても彼は来なかった。彼は時間にルーズな人ではない。しかも、、女性を待たせるなんてありえないという価値観を持っている。なにかあったのかもしれない。私は講堂まで戻ることにした。

 先ほど通った道を通って戻ると、講堂の前に人だかりがあった。みな風変わりな衣装を着ていた。おそらく彼が所属しているサークルの人々だった。なるほど、彼はこれに巻き込まれて帰るタイミングを見失ったのだろう。そう考えて、彼を探した。彼はすぐに見つかった。なぜなら、複数の卑しい女に囲まれていたからだった。彼と一緒に写真を撮ったり、そのいやらしい腐った目を彼に向けていた。私の耳に、彼女たちの下品な笑い声が響き渡る。彼は悪くない。彼は誰にでも優しいから、だれにでも好かれる。悪いのは彼を好きになったあの女どもである。もう我慢できなかった。私は変装用に着けていた、マスクと眼鏡をはずし、一段上の方へと歩いていく。周囲がどよめきに包まれる。我ながら、自分の知名度に驚いてしまう。でも、今回はそれを活用させてもらう。私は群衆の声を無視して、彼と雌豚どものところへ向かった。

「やぁ、ごめんね。彼、借りていいかな。私の彼氏なんだよね」

私はにっこりと笑いながら、それでいて威圧的な声を出す。彼の恋人はこの一条雫なのだ、という意図を込めて、言葉を発した。自分の美貌も名声もすべて使って彼から女どもを切り離す。女性たちは見るからに焦っていたし、取り乱していた。急に本物の一条雫が現れ、唐突にこちらを威圧してきたのである。怖くて当然だろう。彼女たちは少しずつ彼から離れていった。彼は若干戸惑いながらも、私の方へと近づいてくれた。

「迎えに来てくれたんだ!ありがとう」

彼は私に向かってにっこり笑った。この笑顔が先ほどまでほかの女に向けられていたと思うと吐き気がする。

「ごめんね。約束の相手が来ちゃった。また話そうね。さようなら!」

彼は重たい場を盛り上げようと明るい声を出して、己の離脱を告げた。私にとってはまた話そうという言葉が余計だった。私は今すぐにでもこの場を離れたかった。彼を連れて、速足で場を後にした。
 彼を車の助手席に乗せて、私が運転席に座った。彼は僕が運転すると言ってきかなかった。おそらく女性に運転させるなんてありえないという彼なりの考えなのだろう。ただ、外車なので、彼の身長だと運転が難しい、ブレーキに足を届かせるのも一苦労だから危険だよと説明した。私は彼に言葉をかけない。淡々と車を運転し続ける。目の前の光景がどんどんと後方へと飛んでいく。今まで物事がうまくいかないことなんてほとんどなかった。だからこそ、この感情を持て余していた。まさか、自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった。彼が他の女と話しているだけで、全身の細胞に嫌悪感が走り、その雌への激しい憎悪が燃え上がる。また、自分が誰の彼氏なのかを全く理解できていない彼に対しても若干の苛立ちを覚える。私は、明日には仕事で東京に帰らなければならない。今日の様子を見ていると全く安心できなかった。彼は蝶を引き寄せる花のように女どもを引き寄せる。彼の可愛らしい容姿や、優れた人格が影響しているのだろうけど、やはり許せない。全く気が気でない。やはり、彼に対して強いマーキング、自分が誰と付き合っているのかをはっきりわからせる必要がある。

 私はそんなことを考えながら車を走らせる。彼は何も言わなかった。少し気まずそうに、足を動かしている。私の方を見て、何か言おうとしたけれど、口を噤んだ。おそらく彼が言いたかったことはこうだ。「家に向かう道ではない。反対方向である。いったいどこへ向かっているのか、その通りだ。私は、彼の家には向かってはいない。そろそろ目的地が見えてくるはずだ。私は右の車窓からそれを確認して車を泊める。目の前には、ほとんど城と言っても差し支えない程の構造物、いわゆるホテルだ。ただし、最上級の。私は車の扉を開ける。私が地面に右足を下ろすと、彼が困惑の表情を浮かべている。まだ助手席にいる。降りる気がないということだろうか。それなら、それでよい。私は、もう一度車に乗った。そして、彼の胸元と膝のあたりに手をかけて、持ち上げる。いわゆる、お姫様抱っこというものだ。彼は恥ずかしそうに激しく抵抗している。やめて、恥ずかしいなどと言っている。そんなことを言われたらさらに、続けたくなる。私はそのまま車から降りる。車から降りると、多くの従業員が出迎えてくれた。まぁ、それなりの金額のホテルはとったしこれくらいは当然だろう。

「お待ちしておりました。お荷物をお持ちいたします。何かございますか」

お姫様抱っこで対応する私に対して、まったく動揺しない。やはりその道のプロはすごいなと思う。

「いや。ないね。あ、そうだ。できるだけ質の高いゴムをあるだけ用意してくれる?」

畏まりました。と言って、従業員たちは去っていた。
私はそのままゆっくりと、ホテルの入口へと向かっていく。夜の光が町全体を照らしている。門のような自動ドアをくぐると、エントランスだった。私はこのホテルのエントランスが好きだ。紅い色のカーペットやシャンデリアなど高級感のある調度が施されていながらも、嫌味じゃない。落ち着いた雰囲気がある。

「ねぇ。おろしてよ。恥ずかしいよ。」

彼が顔を真っ赤にして抗議する。本当に嫌なんだろうなと思う。彼は田舎で育った影響からか、男性が女性をエスコートするべき、という強い価値観を持っている。だから、昨日、私が彼を襲ったこと、今日私が車を運転したことなどは、きっと彼の中では屈辱として刻まれているはず。先ずは、彼のこういう価値観を徹底的にへし折る。くだらない価値観は捨ててもらって、私に思う存分甘えてもらう。

「前もこういう事してたよね。私が王子で、君が姫。珍しいことじゃない」
「あれは、お芝居の中の話じゃん。ねぇ、やめて」

彼はもう恥を通り越して、瞳には涙が浮かんでいた。少し可哀そうだけど、やっぱりここで彼の価値観を徹底的に折る必要がある。私は慣れた手つきでチェックインを済ませると、エレベーターまでエスコートした。

「ねぇ、僕も払うよ。悪いよ」
「ふぅん。払ってくれるの?本当に払える。君がこれから先何年働いても返せないと思うけど」

私はブラックカードを、わざとらしくちらつかせる。そうすると、彼は黙り込む。彼の尊厳はもうボロボロだ。今までの彼の価値観からしたら、女性に車で送迎され、ホテル代も払われ、さらにお姫様抱っこされるなんて屈辱以外のなにものでもない。


「さぁ、着いたよ」

最上階のスイートルームともなると、部屋も異様に広い。部屋の隅には、キングサイズのベッドが並んでいる。まるでおとぎ話のようなベッドだった。私は、そこに彼を静かに寝かせる。

「どうだい。綺麗だろう?」

窓からは、東京の街を一望できた。まばゆい光が点々としていた。まるで世界を自分が支配しているような錯覚に陥る。ここに泊まることができるような人は、社会的に大きく成功した人だろうから、あながち間違いないかもしれない。
彼は、窓の方を一瞥したけど、景色を楽しんでいる風には見えなかった。

「ねぇ、優里。私怒ってるんだ。なんでか分かる?」

まるでめんどくさい彼女みたいなセリフを言う。昔から言ってみたかったセリフである。まぁ、怒っているのは本当だけど。彼が怪訝な表情を浮かべる。彼は私の怒りの理由に本当に気づいてないみたいだった。彼女を待っている身でありながら、ほかの女と楽しく談笑することに何の抵抗もないのである。しかも、彼女を待たせているのに。もしここで、すぐに察して、フォローしてきても、ほかの女の影を感じて嫌な気もする。でも、彼はやはり鈍感すぎる。

「私はね、優里が私の彼氏なのにほかの女と楽しくお話しているのが許せなかったんだ。だってそうだろう?どこの馬の骨とも知れない女と話しているだけでも、はらわたが煮えくり返る思いがするのに、よりにもよって、私は君を待っていたんだよ。些か不義理が過ぎやしないかな」

私は、座っている彼を押し倒した。昨日よりももっと強い力で。彼は簡単に私に組み伏せられた。元々体格の違いがあるし、力だって私の方が、はるかに強い。男性が女性を強引に押し倒すのと同じように、私にはそれができる。

「だからね、これはお仕置きだよ♡彼女さんを放っておいて、別の雌とイチャイチャする彼氏さんへのね。自分が誰のものであるかっていうのをちゃんと理解してもらわないとね」

彼は震えていた。おそらく昨日の恐怖と、快楽、自分の軽率な行動への罪悪感、そして多少の期待感が入り混じったものだろう。彼のそういう表情は、私を強く刺激した。心から彼の彼女になれてよかったと思ったし、彼を犯したいと思った。よく、インターネットで、有象無象の男どもが私のことを唆られると言っていたけど、それがわかる気がした。私は彼の服に手を伸ばした。昨日と同様、彼は抵抗したけど、まったく大したことはない。彼の細い腕から伝わってくる力は

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