わくわく城下 2023/11/23 13:08

『DQN-親友裏切り-』ちょい出しサンプル3-3

………ど、どうしよう。

予想していた以上に、緊迫した空気になってきた。
立ち去るタイミングを逃したせいで、ついついこの場に居続けているけど、ここは一秒でも早く退散した方がよさそうだ。

………………………。

でも一方で、この後の展開も気になるし…………。
もしこの場に勲がいたら、『おもしろそうだから見てよーぜ』――なんて、スマホ広告を見るような感覚で言いそうだけど。

………………………。

そーいえば、今ごろ勲はどーしてるかな?
放課後に校長室に呼ばれるなんて、何があったんだろう?
気になるし心配だから待っていると言ったオレに、いつ終わるか分からないからとカギを預かって来た。
まさか、こんなド修羅場に出くわすことになるなんて………。

「で、どーするよ、大事なイトコのために100万出すのか出さねぇーのか」

「論外だ。俺のやり方で解決させてもらう」

「はっ、言うじゃねーの。剣道一筋でまともに殴り合ったこともねぇーくせによ」

「確かに、暴力沙汰は俺の生き方に反する。だが、相手がお前のようなクズなら話は別だ。はっきり言っておく、俺は竹刀を持てば最強だが、竹刀を持っていなくても負けるつもりはない」

わわわっ!
ど、どうしよう、マジで一触即発の空気に突入しちゃってる!

澤北さんは、本気で今にも一発かましそうな雰囲気だし。
そうなった場合、オレはどうしたら?
ガタイのいい二人のガチンコを止めに入る?
いやいやいや、ムリッ! そんなの絶対ムリだって! オレの方がヤラレちゃうよ。

でもだからといって、どちらか一人ががボコボコにされるまで、黙って見ている?
いやいやいや、それはそれで居心地が悪い上に、後味が悪過ぎでしょ。

『兄貴とまともにやり合えそうな人なんて滅多にいないし、どっちが勝つが賭ける?』

勲なら言いそう………うん、すごく言いそう。
しかし残念ながら、オレはそこまで肝が据わっていない。

「これが最後だ。オレの前で、お前が持っている恭也の脅迫ネタを全て消せ。でなければ、力尽くでそうさせてもらう」

妥協を許さない、澤北さんの口調
しかし、一志君が受け入れるはずなんて絶対にないから………

どうしよう、どうしよう、めちゃくちゃヤバイじゃん!
止められないケンカが始まってしまう。
ところが………

「分かったよ」

………え?

「本気のお前とヤリあったら、オレも無傷ってわけにはいかないだろーしな」

一瞬聞き間違いかと思ったけど、そうじゃなかった。

………信じられない

あの一志君が自分から折れるなんて。スマホを取り出して、動画を消去したところを澤北さんに見せている。

「これでいいか?」

「………あ、ああ」

………さっきまでの危険な空気はどこいった?

あまりの急展開に拍子抜けしてしまう。
澤北さんも微妙に眉根を寄せている。

「からかって悪かった」

しかも、一志君らしからぬ台詞。
ソファーから立ち上がって、右手まで差し出している。
つまり、溝を埋めるための握手を求めている。

「最後くらい付き合えよ」

「………そうだな」

多分、澤北さんという人は、根がすごく真面目なんだと思う
だから直前まで毛嫌いしていた相手でもあっても、握手を求められたら疑いを持つよりも前に、まず自然と応じることが身についてしまっているのだろう。

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