ぷに子ラボ 2023/11/27 21:37

閑話休題「星が好きな彼」

西野楓が堕ちるまで、第二弾であり閑話休題の過去話である「星が好きな彼」になります。
西野楓が、どうやって主人公たちと知り合って、仲を深めていったのかがわかる純愛話となっております。ぜひ読んで、より濃厚な脳破壊を楽しんでいただけたらなと思います。

ちなみに、途中で多少のネトラレ要素を含みますが、そこにはIFルートが存在しています。


私、西野楓は、退屈していた。
生徒会長として皆の模範で居続けることも、学年一の天才として居続けることも。
変わらない日々に飽き飽きしていた。
「、、、はぁ」
生徒会の机に頬杖をつき、本日何度目かわからないため息を吐く。
ふと窓から校庭を覗くと、ノスタルジックな夕焼けの中、一生懸命部活をやっている生徒たちの姿が見える。
毎日毎日、、そんなに楽しいのかしら、部活動って。
私は部活に所属していなかった。別に、運動が苦手というわけではない。
生徒会と勉強で忙しいため、部活を始めたとしても中途半端になってしまう思っていた。
やるからには、完璧にこなす。
それが私のポリシーだった。

変わり映えしない景色。繰り返す日常。退屈な日々。
青春に取り憑かれたように体を動かす人たち。
「、、、はぁ。くだらない」
私はまたもため息を吐き、青春する少年少女、青春の日常、それをバカにする自分、その全てをくだらないと一蹴した。
「何か、、面白いこと、起きないかしら」
そしてまた、ため息を吐く。

ガラガラッ

?「たのもー!!!」
物思いにふけていると、突然生徒会室のドアが開き、ショートカットの元気な少女が元気に挨拶をする。
?「ばかお前ッ、、ノックくらいしろッ」
後ろにいた男が少女の頭を叩く。
?「あっそっか!えへへ、、やっちまいましたなぁ」
?「本当にな。これから大事な話をするって時にお前は、、、」
カップルかしら、、煩わしいわね。
私は即座にどのような要件かを考える。部費の増加、修学旅行の行き先、持ち込み禁止のものを持ち込みたい、屋上を使わせて欲しい、嫌いな教師を辞めさせて欲しい、などなど、、。
これまでの経験から、何をお願いされるか予測する。もちろん、ほとんどの場合は断ることになるけど。
問題は、どうやって断るか。
まあ大抵のことは、自らの話術でなんとかなる。今までだってそうしてきたもの。
?「あ、あの、、ご、ごめんなさいっ!!」
考えを巡らせていると、少女の方が頭を下げてきた。
「いえ、大丈夫。次からは気をつけてね」
悪い子ではないのだろう。本気で謝ろうという誠意を感じた。
?「すみませんほんと、こいつアホだから」
?「アホって言うなこらー!!」
?「アホだろうが、俺の言うこと聞かずに勝手にドア開けやがって」
?「ハヤトが緊張する~とか迷ってたから開けてあげたんじゃん!」
少女の口から、ハヤトと言う名が出てきた。
ハヤト、、ハヤト、、ああ、確か隣のクラスの、、、ということは3年生ね。
そして隣はおそらく、、山田葵さん、、確かこの、ハヤトくんの幼馴染だったはず。
ハヤト「いや開けるにしてもノックをって話でだな、、!」
「こほん!!」
私はわざとらしく咳払いをする。
「いちゃいちゃしたいのなら、ここ以外でお願いしたいわね」
?「いっイチャイチャ!?」
少女は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
可愛らしい子だわ。いじめ甲斐がありそうね。
ハヤト「変なこと言わないでくれ。俺はただこいつが」
「はぁ、、いいから、要件を言ってもらえるかしら」
ハヤト「あ、ああ、、そうだな、、、」
さて、何かしら。私の退屈をどうにかしてくれる、、、わけないか。
目の前の少年、ハヤトくんは決意のこもった瞳で私を見下ろしながら、重たそうな口をゆっくりと開ける。

ハヤト「、、天文部を、作りたいんだ!」

「、、、は?」
私はポカンと口を開けて一文字漏らす。
ハヤト「天文部を作らせてくれ!」
今度は頭を下げてくる。どうやら聞き間違いではないらしい。
「、、天文部、、、あなたたち、3年生よね?」
ハヤト「ああ」
「それなら、、あと1年もないのに部活を作ってどうするの?」
ハヤト「、、、、」
ハヤト「、、、確かに残された時間は少ない。それでも俺たちは天文部として活動したいんだ!たとえ、俺たちが卒業して、すぐに廃部になるのだとしても、、、」
ハヤトは拳を握りしめ、私を睨みつける。睨みつける、というほど私に敵対心は持っていないとは思うけど、見つめるという表現はしたくなかった。この場にそぐわない。
「、、、、」
どうやらこの男の決意はなかなかに固いらしい。それに、それなりの覚悟を持ってきている。
面白い、かもしれない。
「そう、、わかったわ。でも部活を作るにはそれなりの条件があるのよ」
ハヤト「条件?」
私は首を傾げる二人に対し、手でジェスチャーしながら説明していく。
「まず部員の数が5人必要。見たところあなたたち二人以外はいないわね?」
ハヤト「それは、、、、そうだが」
「そして顧問。まあ、これは協力してあげないこともないわ」
「そして最後に生徒会の承認。これも私の一存で決められるから、融通をきかせられる」
「この3つが部活として認められる条件。つまりあなた達は、まず正式な部員を、あと3人連れてきなさい。話はそれからよ」
ハヤト「3人か、、、わかった」
彼は少し考えて、その後ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
ハヤト「、、、それなら、こんなのはどうだ?」
「、、、?」
ビシッと指をさす。私の方向に。というか、私に向かって。
ハヤト「アンタが天文部の3人目になるってのはどうだ?」
「、、、は?」
葵「おおーっ!!それは名案だよーっ!!!」
「えっっ、いや、ちょっと、、」
葵「じゃああとは二人だねっ!いこーっ!!」
ハヤト「いこーっ!!!!」
「ちょっと待って!!!!!」
私は声を荒げて呼び止める。
なんなの、、、?ほんとにこのまま出ていきそうだったわ、、。
「あの、、、何で私が入るってことになったの?」
威嚇の意味も込めて睨みつけながら質問する。この場合は睨みつけていたで正しい。
ハヤト「だって会長、暇そうにしてたし」
「ひっ、、暇じゃないわよっ全然!」
ハヤト「そうか?なんか退屈そ~にしてたからさ」
「みっ、、見てたの!?」
ハヤト「い~や?でもその反応を見るに、図星ってやつか?」
「なっ、、、」
この男、、意外と賢い、、。
まさか葵さんも、、、?
葵「ぽけー」
いや、この子は違うわね。安心した。おかげで心が落ち着いたわ。
「、、意外とやるのね。でもごめんなさい。私は暇だとしても、天文部には入らないわ」
ハヤト「なんでだ?週休二日、保障は充実、アットホームな部活だぞ?」
葵「すっごーい!!!すごいよ天文部!!」
「いや、意味わからないわね」
何、なんなの、この二人。
なんでこんなに、楽しそうなの?
「、、、私はね、部活動なんてくだらないことにうつつを抜かしている暇はないの」
「私たちはもう3年生。すぐに卒業なのよ?それなのに今更部活って、、くだらないにも程があるわ」
ハヤト「おいおい、何もそこまで言わなくとも」
「、、、そうね、ごめんなさい。でもこれでわかったでしょ?私は絶対に天文部には入らない。そもそも星に興味なんてないもの」
ハヤト「、、、そうか」
ハヤトくんは残念そうな声を出し、とぼとぼと出口へ歩いていく。その後ろを、葵さんはてくてくついていく。
、、少し、言いすぎたかしら。でもこれで諦めて勉強に励んでくれるはず。私は正しいことをした。

、、、違う。
私が断ったのは、彼に勉強を頑張って欲しいからじゃない。ただ彼の目がすごく、、輝いていて、、宝石みたいで、、、。

ハヤト「、、、確かに残された時間は少ない。それでも俺たちは天文部として活動したいんだ!」

彼の言葉を思い出す。彼の表情を思い出す。
ドアノブに手をかけたハヤトくんが、振り返って私を見つめる。

、、私はきっと、そんな彼の眩しさに嫉妬していたんだ。

そして同時に、

ハヤト「なあ、生徒会長さん」
ハヤト「俺は諦めないからな」

彼なら私の退屈を壊してくれると、期待していた。

・・・・


「、、、はぁ、今日は一段と疲れたわね」
私は全ての作業を終え、少し暗みがかった廊下を歩いていく。
とは言っても、ほとんど作業などなかった。放課後は生徒会に用がある生徒も多いから、作業は午前中にほとんど終わりにしておくのだ。
ハヤトくんたちがきてから、約1時間。彼らは一体どうしているだろうか。

女生徒「ね、これ貰った?」
ふと近くを通りがかった女生徒たちの会話が耳に入ってきた。見ると、手に何かチラシのようなものを持っている。
女生徒B「あ、貰った!天文部だって!」
「天文部、、、」
まさか、と思いつつ、私は校庭へと向かう。案の定さっきの面々がビラ配りしていた。
ハヤト「天文部!天文部入りませんかーっ?」
「、、、ちょっと」
ハヤト「お、会長さん。さっきぶり!」
「、、、、、今時ビラ配りって、、随分と古風なやり方ね」
ハヤト「まあな。部員が必要になることを見越して、昨日のうちに印刷しておいたんだ。ほら、一枚どうぞ」
私は彼の手からチラシを受け取り、一応目を通す。まあ、何か変なことでも書いてあったら注意しないといけないもの。

~あなたと星々、繋がっているはず~
一緒に運命の星、見つけませんか?
天文部、募集中☆

ダサっ!
「、、、ダサッ!」
ハヤト「ええ!?」
しまった、あまりのダサさに思わず声に出してしまったわ。
「しまった、あまりのダサさに思わず声に出してしまったわ」
ハヤト「出てる出てる。全部声に出てるって」
「あ、ごめんなさい。でもこんな、、ふふっ、、」
ハヤト「悪かったなぁセンスがなくて!!これでも一生懸命作ったんだぞ?」
「くっ、、ふっ、、そ、そうよねっ、、あははっ!」
ハヤト「、、はぁ、まぁ笑えるならそれはそれでいいけどさ、、」
「それでッ、、ふぅ、どう?部員の方は、、」
ハヤト「全然だな。見ろよ、アレ」
私はハヤトくんの指差す方向へと目を向ける。
そこにはビラ配りをしている山田葵の姿があった。
葵「天文部~!天文部はいかがかね~?あ、そこの姉ちゃん、ちょっと寄っといで!」
「何あれ、、、魚屋?」
ハヤト「ああ、、なんでも近所の魚屋がアレで繁盛してるから、それを真似ればいい、、って事らしい」
「なるほど、、アホね」
ハヤト「アホだな」

ハヤト「、、まあでも」
ハヤト「こういうのも青春っぽくて悪くはない、、な」
「あ、、」
まただ。またあの目だ。
キラキラ輝いて、希望に満ちた目。
そんな目で、ビラ配りをする葵さんを見つめている。
だから私は、少し悪戯したくなった。
「あなた、、、青春とか、部活とか、、、この2年間でやらなかったの?」
人には聞かれたくないことがある。彼の場合、それがこれだと直感で理解していた。
いつもなら他人に干渉なんてしないし、したくもない。
けど今の彼の目は、、輝いているようで少し陰りがある、そんな目に、見えた。
ハヤト「、、、俺には親友がいたんだ」
少しの沈黙の後、ハヤトくんはぽつりぽつりと語り始める。
ハヤト「でも、ちょっと前に死んじまった」
ハヤト「そいつがさ、言ってたんだよ。俺の分まで青春を謳歌してくれって。全く困った遺言だよな。こう見えて俺、結構おとなしい優等生だったんだぜ?青春とか無縁の、いや、むしろくだらないとすら考えていたね。部活とかも時間の無駄だって、思ってた」
彼は捲し立てるかのように間を置かずに語っていく。まるで、早く口から出してしまいたいと思っているかのように。
ハヤト「でも、ま、アイツの数少ないお願いだからな、こうして俺が頑張ってるってわけさ」
「、、、、、、、そう」
正直、ここまで重い話だとは思っていなかった。だって彼のイメージと違いすぎるから。
「、、、ごめんなさい」
ハヤト「あーいや、いいんだよ。俺だって誰かに話したかったし。そりゃ葵は知ってるけどさ。他の誰かに話したのなんか、これが初めてだよ」
そう言って、彼は私に笑顔を向ける。
その笑顔は、とても純粋で、とても輝いていて、彼の心の陰りを、綺麗に覆い隠していた。

「、、、、あなた、、どうして」
?「おい姉ちゃん、、なかなか可愛いじゃねぇか」
瞬間、この場にそぐわないドスのきいた声が耳に入り、即座に顔をそちらに向ける。
葵「ありがとー!!!どうですかい?天文部」
そこにはガラの悪い連中が複数で、葵さんを囲んでいるのだった。
不良A「天文部は興味ねぇけど、アンタの体には興味あるかなァ、、、」
舐め回すような視線を、葵さんの体に這わせていく。
そして細い腕を強引に掴む。
ハヤト「お前らーー」
「あなたたち、やめなさい」
ハヤトくんが声を出す前に、私が声を張り上げる。彼は私の方を向き、驚きと心配の視線を向けるが、私は笑顔を返す。
大丈夫。そう目で訴える。
彼は何かいいたそうに口を開けかけたが、私は無視して不良たちの方へ歩みを進めた。
不良A「なんだよテメェ、、、俺たちはこの女とイイ事するの!」
葵「えっイイ事っ?それってなに??」
不良A「何って、、気持ちいい事だよ!」
葵「気持ちいい、、、クロスワード!?」
不良A「違うっ!お前は黙ってろ!!」
「ナイスアシストよ、葵さん」
不良A「なっ、、、、!!」
私は不良が会話に夢中になっている隙に、手の届く範囲まで距離を縮めていた。
そして不良の胸ぐらを掴み、体を捻って投げ飛ばす。
180センチは下らないであろう巨体が情けなく吹っ飛ぶ。
不良B「てめ、、、何を、、うおっ」
動揺した別の男にも技をかけ投げ飛ばす。
それからはもう、投げて、投げて、投げて、その繰り返し。
「、、、ふう」
そうして不良たちは、私によって全員倒されたのだった。
ハヤト「す、、すげぇ、、」
ハヤトくんが口をあんぐりとさせて私を見ている。
驚きだけではない。恐怖も混じったような表情だった。あの表情を見れただけで、こうして頑張った甲斐があるというものだ。
「、、大丈夫?葵さん」
私は手の汚れを払いながら、声を掛ける。彼女は一瞬の沈黙ののち、目を輝かせて私の手を握った。
葵「す、、すっごぉ~~い!!!!」
近い。顔が近い。
ハヤト「いや、ほんとに凄いよ。何かやってたのか?」
「ええ。色々と齧るくらいには」
ハヤト「齧るってレベルの強さじゃなかったけどな」
「そんな事ないわ。本業の人には通用しないもの。それより、もう帰りましょう。ここはなんだか、、不良臭いわ」
私は地面に這いつくばる男たちに聞こえるように言う。
不良A「テメェ、、後で覚えてろよ!!」
「ええ、努力するわ」
お決まりの捨て台詞を吐いてくる不良に、お決まりの回答で答え、校門へと向かっていく。

不良B「どうしますか?アイツ」
不良A「決まってんだろ、、、潰すぞ」
不良は去っていく楓の後ろ姿を見て、舌なめずりをするのだった。

・・・・

ハヤト「いや~今日は疲れたな!」
葵「そうだねぇ、いっぱいビラ配ったもんね!」
「、、それで、成果の方はいかがかしら?」
ハヤト・葵「「、、、、、、」」
「、、ま、そんなものよ。天文部なんて、マイナーな部活ではあるのだし」
ハヤト「そう思うなら、、、、どうだ?天文部は」
「さっきも言ったけど、それは無理よ」
ハヤト「ちぇっ」
「、、でも、あなたたちの努力を見て、少し気が変わったわ」
ハヤト「それって、、、」
「さっきはごめんなさい。くだらないとか言ってしまって」
ハヤト「あ、あーそっちね、、!」
「あら、何を期待したのかしら?」
ハヤト「い、いや何も?」
葵「でも残念だなぁ。楓ちゃんが入ってくれたら、きっと楽しくなるのに」
葵さんが、残念そうな声でそう告げてくれる。
私は天文部で一緒に活動する光景をイメージしながら答える。
「楽しく、、そうね、それは否定しないわ」

「、、って、どうして名前を、、?」
葵「あっ、ご、ごめんね!馴れ馴れしすぎたかな、、」
「別に構わないけど、、、」
ハヤト「そりゃあ、生徒会長の名前なんてみんな知ってるさ」
「あ、ああ、、なるほど、それもそうね、、」
よく考えれば、普通だ。いつもだったら何も反応せずに聞き逃していただろう。
だけど今の私は、名前で呼ばれたことに驚いてしまっていた。
それも、驚きの中にはなぜか嬉しいという感情も乗せられていた。
ハヤト「てなわけで、よろしくな!楓!」
「、、あなたは流石に馴れ馴れしいわね」
ハヤト「なんで!?」
その後も他愛ない会話を続け、駅で別れた。
何度も天文部に誘われたけど、断り続けた。
私にはまだ、あの輝きの中に入れる自信がないから。

・・・

次の日、この日は珍しくいつもより帰りが遅くなってしまった。
時刻は19時20分。あたりはもうすっかり暗くなっている。
「、、、はぁ」
ひとりになると、ため息が増えてしまう。
昨日とは違う、独りの帰り道。
私は暗い路地の寂しさに耐えられず、小さく走り出そうとするがーー
不良A「オイオイ、そんな急がなくてもいいじゃねぇか」
「!?」
背後から聞き覚えのあるどすの利いた声が聞こえて、咄嗟に振り返る。
そこには昨日の不良が3人、、いや、私の右側と左側の一人ずつを含めれば、5人もの不良が私を囲っていた。
「、、、あなたたち、一体何の用かしら?」
不良A「言っただろ?覚えておけ、、、ってな」
「そんなこと言ったかしら」
不良A「チッ、、、まあいい、、この間の分まで、イイ事してもらおうじゃねぇか、、!」
男はそう言って、私の太ももに視線を向ける。
つくづく気色の悪い男。私は蔑んだ視線を男たちに向ける。
「3人がかりで無理だったものが、二人増えたくらいでどうにかなるとは思えないけど」
不良A「、、、、、いくぞオラァ!!」
男たちは一斉に私に向かって飛びかかる。全員が全員、素人丸出しの隙だらけ。
というかまず、いくぞとか言わないほうがいい。
私は冷静に一番近くまで来た男の胸ぐらを掴み、昨日のように投げ飛ばす。
「はぁっ、、!!」
不良D「うおっ!?」
次に近づいてきた男の拳をよけ、腕を掴んで3人目の方へと投げ飛ばす。
「ふっ、、!」
不良B「どわっ!!」
不良C「おおおおっ!!」
ここまでは順調。
しかし、流石に5人という数は厳しかった。
不良E「オラッ!!捕まえたァッ!!!」

がしっ

4人目が私の腕を掴む。振り解こうと身を捩ると、5人目が反対側の腕を掴んで止めた。
「ぐっ、、、、」
不良A「はは、、なんだよ、案外あっけねぇな」
「、、、、、、、ッ」
大丈夫。この人達は雑魚。必ず隙を見せる。
私は不良をギラギラとした眼差しで睨みつける。
不良「おーこわいこわい、、、反抗的なメスには躾をしないと、、なッ!!」
「、、、えっ?」

ボコッ、、!

一瞬、何が起きたのか分からなかった。
見ると、私の柔らかいお腹に、硬い拳がめり込んでいた。
殴られた、ということを理解した時には、すでに鈍い痛みが駆け巡っていた。
「ぐふッ、、、、!」
あまりの衝撃に、視界が点滅する。
理解の後には、困惑が待っていた。
なぜ、ここまで、どうして、女の私を。
考えを巡らせていると、まるでその思考を止めるかのように次の一撃が繰り出される。
不良A「オラッ!もう一発くらえやッ!!」

ドゴォ!

「がはっ、、、、!」
さっきよりも重い一撃が、私に襲いかかる。どうやら最初のは慣らし程度のつもりだったらしい。
「うぷっ、、、、、」
胃の中のものが込み上げてきて、咄嗟に口を閉じる。
気持ち悪さと痛みで、閉じた口から胃液混じりの涎が溢れ、鼻水が垂れてくる。私は白目を剥きながら必死に嘔吐するのを耐えていた。
不良B「オイオイ、、吐きそうじゃねぇか」
不良C「すげぇ顔w美人が台無しだなぁw」
不良たちが、私のおかしな顔を見て笑い出す。
私は屈辱と怒りを滲ませながら、鋭い視線を不良たちに向けた。
「、、、あなたたち、絶対に許さない、、、!」
大丈夫。必ず隙が生まれる。大丈夫。一瞬でも隙が生まれればこんな奴らーーー
不良A「おっとぉ、、まだ調教が足りないみたいだ、、、なッ!!」

ボコォッ!!

「おごっっ、、」
反抗的な態度を続ける私に、不良は最後の一撃を加える。
急速に胃の中のものが逆流してきて、鼻の奥がツンとなる。
耐えろ、耐えろ、耐えろ!
私は口を必死に閉じようとするが、激しい嘔吐感に襲われ、抵抗虚しく全てを吐き出してしまうのだった。
「お゛え゛ええええええええええ゛っっ!!!お゛げぇえ゛ええええ゛え゛えええ゛っ!!!」
不良C「うおっ!!こいつ吐いた!!」
不良A「きったねぇww」
視界がまたも点滅する。嘔吐特有の苦しさと解放感が込み上げてきて、更なる嘔吐を呼び起こしていく。
「お゛え゛えええええええええ゛っっ!!」
鼻水が溢れ、口の中まで入り込んでくる。
胃液の酸っぱい匂いが、脳内に染み渡る。
そのあまりの苦しさに、自然と涙が溢れた。
「、、、、、あ゛、、、あ゛、、、あ゛」
全てを吐き出した私は白目を剥きながら、涎を垂らして気絶したようにピクピクと情けなく痙攣した。
大丈夫、必ず隙が生まれる。
そんな考えは、胃液と共に吐き出してしまっていた。
覆すことのできない、男と女の絶対的な力の差。
技術がなければ、私はこんなものなのだ。
絶望が、後悔が、恐怖が、脳内を支配していく。
不良A「さて、、始めるか」
薄れゆく意識の中で、不良たちの会話が聞こえてきた。
始める?何を?
不良C「うひょひょ!いいんすか?こんなでかいおっぱいを好きにして」
不良A「当たり前だ、、、おら、脱がすぞ」
脱がす?おっぱい?なに、なんの話?

ビリビリッ、、ビリッ、、

何かしら、、何か、、破く音が、、聞こえる、、。
不良D「おおおおおっ!!デカすぎだろっ!!」
デカすぎ、、、何が?
不良A「乳首も綺麗な色してるぜ、、、」
乳首、、?どうして乳首の色なんか知って、、?
不良B「おい、そっち抑えろ、、、マンコご開帳だ、、」
え、、マンコ、、、マンコって、、誰の?
私はゆっくりと思考を巡らせ、理解していく。
マンコ、、乳首、、、脱がす、、おっぱい、、。
不良たちの発した単語を、一つずつ噛み砕いていく。
そして、最悪の結論が、無慈悲に導き出される。
そうか、、、私、コイツらに犯されるんだ、、。

ビリッ!!

不良A「おお、、マンコも綺麗だ、、、!」
不良E「マン毛は意外と濃いっすねー」
絶望が、上乗せされていく。
見たくない。何も見たくない。このまま気絶したい。
そう思えば思うほど、私の意識は鮮明になっていき、感覚すらも徐々に取り戻させた。
不良A「そっちどうだ?」
不良C「最高に柔らかいですよ、、、乳首も勃ってきました」
不良B「トモさん、、俺もう我慢できねぇっす!」
不良D「馬鹿おまっ、、汚ねえモン見せるな!」
不良B「いいだろどうせ全員でやるんだから」
不良A「そういうことだ。お前ら準備しろ」
不良C「フォ~!!」
私の周りに汚い棒状のものがいくつも現れる。
いよいよその時が近づいてきたとわかり、絶望に染まりながらも、ありえない希望に縋ってしまう。

「助け、、、誰か、、助けて、、」

私のか細い声を聞いて、不良たちが大声で笑い出す。
不良B「助けだってwwくるわけないのにwww」
不良A「さっきまであんなイキって他のになぁwww生徒会長さんwww」
ぎゃははは、という下品な笑い声を響かせる。
私は屈辱と悔しさで涙を流した。
それでも私は願い続ける。
助けて、誰か、助けて、、!
?「助けなら来たぜ、今ここに」
そして不良たちの後ろから、聞き覚えのある声がしたのだった。
「ハヤト、、くん、、」

不良A「なっ、、、!」
ハヤト「オラァ!!!!!」

ドゴッ!

不良B「てめ、、このッ」
ハヤト「ウラァ!!!」

ボゴッ!!

ハヤトくんは
ハヤト「はっ、、チンコ丸出しで喧嘩とは、滑稽だな」
不良C「くそッ、、邪魔しやがってッ!」
ハヤト「フンッ!!」

バキッ

不良C「はひゃっ、、、!」
ハヤトくんは不良のペニスを足で蹴り付け、蹲ったところにまた蹴りを入れた。

バキッ!!

ハヤト「全員、、、生きて帰れると思うなよ」
不良A「クッ、、クソッ、、、!!」

ドカッ、、バキ、、バキ、、ドゴッ、、ボコッ、、、ドゴォッ!

ハヤト「ふう、、、」
不良たちは、彼によって壊滅させられた。
ハヤト「大丈夫か?会長さん」
乱れた衣服で横たわる私に上着を掛け、優しく話しかける。
「ええ、、、、ギリギリセーフ、、よ」
私は精一杯の虚勢を貼って彼に答える。
「ありがとう、、、」
涙と鼻水と唾液でぐちゃぐちゃになった顔を、私はさらに涙でぐちゃぐちゃにした。
でもさっきまでの涙とは違う、安堵の涙だった。

・・・・

ハヤト「それでさ、葵の奴が泣きながら謝ってきてさ~」
「ぷっ、、あはは、、」
不良たちを片付けた後、私はハヤトくんの背中におぶさって路地を歩いている。というより連れてかれている。
なぜならば、私の衣服はビリビリに裂かれ、前が丸見えになっているからだ。
だからこうしておんぶの形をとり、彼の大きな背中に支えられているのだ。
多分私の胸の感触が、これでもかってぐらい彼には伝わっているだろう。
でも、それでもいい。
今は、、彼の大きな背中を堪能したい。
それぐらいしないと割りに合わない。
「、、、、でもいいの?あなたの家、反対方向でしょう?結構遠いのに」
ハヤト「いいよ別に。どうせ学校戻るし」
「学校?」
ハヤト「ああ、、葵が待ってるからな」
「葵さん、、、なぜ?」
ハヤト「部活だよ」
「部活って、、まだ認められてないはずだけど?」
ハヤト「あ、そうだった、、、!悪い、今のは無かったことに、、、!」
「、、、はぁ、、、分かったわ。今回は見逃してあげる」
ハヤト「よっしゃ!」

そうこうしている内に、私の家に着いてしまう。
「あ、、、ついたわ。ここよ」
ハヤト「おっ、そうか」
毎日帰ってきてる、大きな一軒家。電気は当然、ついていない。
「ええ、、本当にありがとう」
ハヤト「いいってば、、」
私は彼の背中からゆっくりおり、真っ暗な玄関へと歩く。
それはいつも通りのはずなのに、なぜかとても寂しく感じられた。
、、、ドアノブを持つ手が重い。
でも、開けないと。彼に不思議がられる。
ゆっくりと手を動かすと、ハヤトくんの方から声をかけてきた。
ハヤト「、、、なぁ、これから一緒に学校行かないか?」
「え?」
ハヤト「部活、、、やらないか?」
「、、、、、でも私、天文部じゃないわ」
ハヤト「アレだよ、、アレ、、その、体験入部ってやつ?うん、、」
ハヤト「つーかさ、この機会に入っちゃえばいんだよ!俺たち歓迎するぜ?」
ハヤトくんはポリポリ頭を掻きながら、照れ臭そうに斜め下を向いている。
「、、、、、」
「、、、、ぷっ」
そんなハヤトくんがなんだか面白くて、私は笑ってしまった。
ハヤト「なんだよ!笑うことないだろ!」
「ふふっ、、ごめんなさい、、なんかその、、必死すぎて、、」
ハヤト「そりゃ必死にもなるって、、、昨日今日で部員ゼロだし」
「ふふふっ、、それは大変ね、、、いいわ。体験入部してあげる」
ハヤト「本当か!?」
「でも、正式に入部するかはこれから次第よ?」
ハヤト「おう!任せとけ!」
そして私は、私たちは、学校に向かうのだった。

・・・・

葵「うおー!!!楓ちゃん!!!」
「こ、こんばんは、、」
学校に着くと、元気いっぱいの葵さんが出迎えてくれた。
そして、もう一人。
ちなみ「こんばんはぁ〜!」
「ちなみ先生、、!どうしたんですか?」
ちなみ先生。国語の教師だ。
優しいけど、何かと抜けている先生で、どことなく頼りない。
ちなみ「葵さんとハヤトくんに頼まれてね、、教師として部活動を見守ってくださいって、、」
「それって、、顧問になるってことですか?」
ちなみ「ふぇ??違うよ?」
「でも、部活動を見守るって、顧問ってことじゃ、、、?」
ちなみ「えっ、そ、そうなの?」
ハヤト「そのつもりでしたよ!」
ちなみ「ええええええ!?こ、困るよぉ!!」
この先生のことだ。多分このまま顧問も流されてやってしまうだろう。
私はハヤトくんのそばに近づき、小さく耳打ちする。
「意外とやることやってるのね」
ハヤト「そりゃまぁ、、本気だからな」
私にしか聞こえない返事をした後、ちなみ先生や葵さんとの会話に戻る。
そして話しながら笑う彼の横顔を、私は見つめていた。

・・・

ガチャ

ハヤトくんの手によって、鋼鉄の扉が開かれる。それは、ほとんどの生徒が開かずの扉として認識している、屋上の扉だった。
葵「んんーーーーっ!風が気持ちい〜!!」
ちなみ「ホント、、意外と涼しいですねぇ」
屋上、私でも始めて来た。
風が強く吹いている。天井のない開放感が凄まじい。それなりに大きい学校なので、周囲の建物が綺麗に見渡せた。
「、、すごい」
私は感嘆の声をあげる。しかし、他の皆はすでに別の場所に夢中になっていた。
葵「わぁー!!星すっごい綺麗!!!」
ちなみ「わっ、、本当ですねぇ、、!!」

ハヤト「ほら、会長さんも見てみろよ」

促されて、ようやく私は空を見上げる。

「、、、、、わぁ、、」

目に入ってくるのは、空を覆う美しい星々。
その一つ一つが眩いほどに輝いて、そのどれもが特別。
まるで、彼らのよう。
ハヤト「、、どうだ?」
彼が聞いてくる。私は星を見たまま答える。
「、、凄く、綺麗」
ハヤト「だろ?」
彼の顔は見ていない。だけど多分、今、彼は笑顔を向けてくれているのだろう。
あの星々のような、輝いた笑顔を。

「、、楓」
ハヤト「へ?」
「楓って呼んで」
ハヤト「え、いいのか?」
「ええ、、呼んで欲しいの。部活の仲間には」
ハヤト「それって、、、」
「生徒会長西野楓は、天文部に入部させていただきます」
そう言って、私は笑う。
もう、私は彼に夢中になっていた。

ハヤト「うおおおおおよっしゃああああああ!!!」
葵「わーい!!わーい!!!ほら!先生も!!」
ちなみ「へ?わ、わーい、、?」
みんなで大騒ぎして、笑い合う。
それはまるで、青春のように。彼が目指して、私が馬鹿にしていたもののように。
私は今、彼らと同じような笑顔で笑えているだろうか?
そんなことはどうでもいい、今は彼らと一緒に笑っていたいから。

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