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2024年 06月の記事 (6)

神原だいず / 豆腐屋 2024/06/30 19:00

【再掲 / 玲と悠馬④】主導権はどちらに

 悠馬はいつもつっけんどんだが、素直になったり理性をぶっとばすと、手のつけようが無いほど可愛くなる。
 この事実が発覚したのは、実は結構最近なのだ。
 あれは二か月前の事。
 二人の記念日に買ったお揃いのマグカップの破片を悠馬の家で見つけた日だった。

 その日は、いつものごとく週に一度の映画鑑賞会だったが、彼は夜の8時までバイトのシフトが入っていた。
 あたしはというと、お昼で講義が終わりでそれ以降何も予定が無い。
 せっかくだから先に部屋に行って夜ご飯でも作ってあげようかと思い、合鍵を使って悠馬の部屋にお邪魔していたのである。

 料理がおおかたできあがり、テーブルに箸やコップ、取り皿を並べようと食器棚を開いたときだった。
 奥のほうにわかりづらいが、ビニール袋らしきものが見えた。
 悠馬は、結構几帳面な性格で、食器棚に関係のないものを放り込んでおくなんて不自然だと思った。
 気になる。
 私は、食器が棚から落ちないように気を付けながら、そのビニール袋の端を掴んだ。
 カシャカシャと、破片どうしがぶつかる音がする。

 なんだろう。
 袋を開けてみると、それはどうやら割れたマグカップの破片らしかった。

 袋から大きめの破片を一つ取り出してみる。
 マグカップに描かれた可愛らしいキャラクターの笑顔。
 やっぱりそうだ、去年二人の記念日にお揃いで買って悠馬の家に置いているマグカップだった。
 破片の色はピンク色、あたしが使っていたものだ。
 その時、背後でガタガタと大きな音がした。

 振り向くと、悠馬が帰ってきていた。
 私が持っているものが何かわかった瞬間に、彼の顔から血の気が引いたのが何となくわかった。
 気まずい沈黙。
 悠馬は弁解の言葉を何とか頭の中で組み立てているのか、こちらをじっと直視しながらも虚ろな目をしている。

「これ…」
 そう言うと、悠馬は弾かれたようにあたしの元へ駆け寄り、肩に手を置いた。
「違う、ごめん、その、違うんだ、これは、その…」
 かなり慌てている。
 矢継ぎ早に謝ったり、弁解したりしながら言葉を探しているようだが出てこないようだ。
「とりあえず、お料理冷めちゃうからご飯食べよう」
「怒ってるのか?」
「怒ってないよ」
「でも…」
「怒ってない。ほら、早くご飯食べよう」

 あたしはテーブルに食器を並べ始めたが、悠馬は突っ立ったままだ。
 テーブルの上の準備が整っても相変わらず突っ立ったままだったので、先に座った。
「いただきます」
 箸を取ろうとした瞬間、先に悠馬があたしの手を取った。

「ごめん、玲。ごめん。昨日、映画鑑賞会の前に玲のマグカップ洗っておこうと思って、その時にうっかり落として割っちゃったんだ。ごめん、俺の不注意で。気に入ってくれてたのに、ごめん。新しいの買うし、それでも気が収まらないなら、なんでもするから、だから」
 あたしは、ここでさすがに耐えきれなくなって吹き出した。

「え?玲?」
「いや、あの、ごめん。ごめんね、悠馬が必死すぎて面白くて…。大丈夫だよ、割っちゃったのは仕方ない事でしょ。あたし、怒ってないよ」
 悠馬はあたしの顔を覗き込みながら、「ほんとに…?」と恐る恐る聞いてきた。
「ほんとほんと」
 そう答えると、悠馬は心底安心したようにほう、と息をついた。

「よかった…」
「なんで、あんなに慌てたの?」
「帰ってきた時、何も言わなかったからショック受けてるのかと思ったんだ」
「違う違う、悠馬が黙ってる理由がわからなかったから、何しゃべっていいのかわかんなかったの」
「しかも怒ってる?って聞いたら怒ってないって言うから…」
「彼女が怒ってないって言う時は絶対怒ってる的な事でしょ。あたしに限ってそんなことないない。ほんとに怒ってなかったよ」
「よかった。でも、ごめん…」

 悠馬は少し悲しそうな顔をしてうつむいた。
 自分が悪かったと思うときは、きちんと謝ってくれる悠馬のこういうところが好きだ。  
 あたしは悠馬の頭を優しく撫でた。

「大丈夫、大丈夫だよ、そんなに落ち込まないで。また新しいマグカップ買えばいいんだし。それよりさ」
 悠馬の頭を撫でていた手をそのまま滑らせて彼の顎に沿え、くいと押し上げた。

「なんでもするって言ったね?さっき」
「えっ、ちょっ、と。あ、うう」
 首筋を舐めると、悠馬の身体がゆっくりとしなる。
 衣擦れの音が、少しずつ激しくなっていく。

「キスしていい?」
「嫌って言っても、するくせに…あっ」
「確かにそうね」
 舌を割り込ませて、悠馬の暖かい口の中をじっとりと嬲った。
 唾液が混ざり合う音、荒くなる吐息、気持ちいいところを掠める度にきゅっと強く握られる両手。
 じゅくりと音がして、二人の口が離れる。

「可愛い顔してる」
 彼の半開きの口から唾液が零れ落ちている。
 蕩けた瞳が、こちらを見上げていた。
 悠馬の服の中に手を突っ込みまさぐる。
 乳首を優しくつまんだり、脇腹をさすると、悠馬の声が一層甘くなった。

「や、ん、あっ、んぁ、も、料理、冷める…っんう」
 お腹がすいてぐずっている子供のように、私の手をぐいぐいと押しのけてこようとする。
 致し方ないので、彼の白い首筋に思いっきり噛みついた。
 悠馬の口から痛みを我慢するようなうめき声が漏れる。
 悠馬が抵抗をやめたところで、あたしは噛みついたところから口を放した。

 くっきりと残った歯型の淵はほんのりと赤くなっているのを見た瞬間、頭の中で何かがぶつんと切れたような音がした。

 歯型の赤い輪郭をなぞるように舌を這わせた。
 水音と吐息が激しくなっていく。
 あたしは、悠馬に覆いかぶさって彼の身体を貪っている。
「ごめん、ごめんね、みっともなくてごめんね、悠馬」
 私は熱にうなされたように何度も謝り続けた。
 そして、もう一度悠馬の首筋を噛む。
「いっ、いや、ぁあ」
「ごめんね、ああ、どうしよう、もう、歯止めきかない」

 この部屋はこんなに暑かっただろうか。
 なんだか頭の奥がぼうっとして、何も考えられない。というか考えたくもない。
 ただただ、目の前に横たわっている悠馬の身体を、めちゃくちゃにしてやりたい。辱めて泣かせたい。欲のままに、抱きつぶしたい。

 いけない。
 いつもなら「悠馬が本当に駄目そうな反応したらやめよう」くらいのなけなしの理性は働くのに。
 リミッターがぶっ壊れているのが自分でもわかる。
 このまま進めたら、やばい事になる気がする。

 その時、悠馬があたしの頬に向かって手を伸ばした。
 瞬間的に、平手打ちされると悟った。
 いや、いっそそのほうが目が覚めていいかもしれない。
 あたしは歯を食いしばって目を閉じた。
 しかし、いくら待てども頬を叩かれる気配がない。
 恐る恐る目を開けた。目が合うと、悠馬はへにゃりと笑った。

「いいよ」

 一瞬、彼が言った意味がわからなかった。
 だって、それは理性をぶっ飛ばしかけてる人間には、絶対に言っちゃいけない言葉のはずだから。

 悠馬はあたしの背中に腕を回してきた。
 自然と抱き寄せられるような恰好になる。
 肌と肌が密着したところから、じんわりと感じる熱。悠馬は続けて耳元で囁いた。
「なんでもして、いいよ」
 心臓が跳ね上がった。うまく、うまく息が吸えないほどの興奮状態。苦しい。

「言ってる意味、わかってんの…?」
 喘ぐようにしながら、何とかそれだけ言い返した。
 何かにつかまっていないと発狂しそうで、悠馬の細い身体をありったけの力で抱きしめる。
 少し痛かったのか、悠馬が微かな吐息をもらした。
 それだけの事に、また興奮してしまう。

もうだめだ、あたしの理性は瀕死に等しい。
あと何か一言いわれれば、いとも簡単に消し飛ぶだろう。
どうして。押し倒しているのは私のはずなのに。
主導権は傍目から見れば私にあるはずなのに。
悠馬の言葉一つで私が動かされる構図になってしまうのは、どうして。
これじゃあ、どっちが主導権を握っているのかわからない。

 幾秒かの沈黙。悠馬が言葉を発するために息を吸った。嗚呼。
「めちゃくちゃにしていいよ」
 限界だ。


「あっ、ああ、また、またいっちゃ、いく、だめっ、あぅ、あぁああ――っ」
 これで、もう何度目だろうか。
 あたしの手にまたあたたかな白濁が絡みつく。
 悠馬の目の前で見せつけるようにして手を開いた。
 指と指の間でにちゃりと粘着質な音。

「可愛い。可愛い、悠馬。気持ちよすぎると怖くてだめって言っちゃうんだね、可愛い」
「…そんなかわいいって、いっぱい、いうな」
 悠馬は両手で顔を覆った。
 指の隙間から、ちらりと悠馬の真っ黒な目が見える。
 服も全部脱がされた無防備な状態で、真っ赤になったその顔だけ隠そうとする様がどれだけ煽情的か?
 隠そうとしたところで隠し切れない色気。
 私はまた悠馬の身体に手を伸ばした。

「どうして?こんなに可愛いのに?」
「は、はずかしい、かわいくないっ、あ、ひゃう、ひぐっ、あぁあ、んぅううう」
「恥ずかしがってるのも可愛い。もっと恥ずかしくなって。何が何だかわからなくなるくらいに」
 あたしは、悠馬の身体を見た。
 もうたぶん、明日彼は外を出歩けないだろう。
 この暑い時期にタートルネックでも着るなら話は別だが。
 噛み痕、キスマーク、触られすぎて赤くなった乳首、引っ掻いた痕。
 あたしが悠馬にぶつけた欲が、彼の身体に傷跡になって現れる。

 普段だったら、悠馬に死ぬほど怒られるだろうな、とか、痛そうで申し訳ないとか思うんだろうけど、もう理性が完全にぶっ飛んでしまったせいか、その時のあたしはいっそ達成感すら覚えていた。
「やめて、からだ、そんなじっと見ないで…」
 か細い声が、抗議してくる。
 あたしは、悠馬の身体についた傷をなぞりながら彼にしゃべりかけた。

「やだ。やめない。可愛いからじっと見てるんだよ」
「あっ、うぅ」
「なんでもしていいって言ったのは悠馬だからね」
「やっ、あ、ぁあ」
「だいたい、やめてほしいとも思ってないでしょ。気づいてないとでも思ってたの」

 悠馬の動きがぴたりと止まった。

 あたしからずっと目を逸らしたままだが、構わず続けた。
「あたしが食いつくと思って、なんでもするなんて言ったんでしょ。そんでもって」
 彼の頬をつかんで、むりやり顔をこちらに向けた。

「食器棚の奥に割れたカップを置いておいたのも、わざとだよね。カップを割ったのもわざと?」
「カップを割ったのは、わざとじゃない!」
「じゃあ、どうして?どうして、食器棚の奥に置いたの」
「それは…」

 悠馬が黙り込んでしまったので、あたしは悠馬のペニスを上下にしごいた。
 彼の身体がびくびくと震えた。
 足をすり合わせ、身体に襲い掛かってくる快感に耐えようとぎゅっと目をつぶっている。

「んっ、あぁ、だめ、だめ、やっ、ああ…っ」
 手のスピードを上げた。
 悠馬は最後の抵抗とばかりに、あたしの手首を掴むが、気持ちいいのか全く力が入っていない。
 「やめて」とか「イっちゃう」とか、その他うめき声、喘ぎ声、もろもろ聞こえるがあたしは無視して手を動かし続けた。
 そして、あるタイミングで急に手を放した。

「あっ、あぁああっ、なんで、なんで」
「理由を言わないからだよ。隠し事する悪い子はイかせてあげない」
 意地悪な事をしているのはわかっているのだが、どうにもこの虐めた時の反応が素晴らしすぎて止めがたい。
 それに、彼のズルいところは、きちんと指摘してあげなければいけない。

 正直なところ、悠馬が割れたカップを食器棚の中に置いた理由はもうわかっている。
 頭がおかしくなるくらいに気持ちよくしてほしくて、だけどそれを自分からねだるのが恥ずかしかったんだろう。
 だから、割ってしまったあたしのコップを使って、演出した。
 「なんでもする」っていう言葉にあたしが食いついてくることも多分彼は計算ずくだった。
 そして、あたしはまんまと引っかかって理性をぶっ飛ばしそうになる。
 悠馬はそんなあたしに向かって「なんでもしていいよ」と許可を出すだけでいい。
 そしたら、悠馬は自分が恥ずかしい思いをせずに、目的を達成する事になる。

「悠馬、恥ずかしいからってそういうズルい事はしちゃだめだよ。あたしを受け入れるだけじゃなくて、してほしい事があるなら恥ずかしがらずにちゃんと言って。大丈夫、受け入れてあげるから」

 悠馬の目にみるみるうちに涙が溜まっていく。
 とどまり切れなかった涙が、頬を伝ってぼろぼろとあふれ出した。
 まずい、泣かせるつもりはなかったのだが。言い過ぎただろうか。
 慌てて悠馬を優しく抱きしめると、ぎゅっと抱きしめ返された。
 背中をさすって宥めていると、悠馬がとぎれとぎれに話し始めた。

「はずかしい、よ」
「うん」
「自分から言うの、はずかしい。玲は、絶対に、受け入れてくれるの、わかってるけど。わかってるけど、どうしてもはずかしい。だって、じぶんが、じぶんじゃなくなるみたい。こんな自分、しらない。こんなわがままな自分なんか、しらない。玲に受け入れられたら、どうなるか、わかんない。こわい」

 泣いている悠馬をなだめながら、あたしの頭の中は「可愛い!」の一言で覆いつくされそうになっていた。

 なんなんだ、この男は一体…。
 「自分が自分じゃなくなるみたい」って殺し文句すぎやしないか。
 だってそれって、あたしに対して悠馬の全部をさらけ出そうとしてるってことだ。
 その結果、自分では気づいていなかったような感情がいっぱい溢れてきて、悠馬はそれに混乱したんだ。
 可愛すぎやしないだろうか。無理。

「いいよ、大丈夫。言ってみて」
「おれ、わがままになるかも、しれない」
 涙目上目遣いでそのセリフはずるい!

「いくらでも、わがままになっていいよ」
「…あのね、あの」
「うん」

 だめだ、可愛すぎてもう心臓が痛い。
 悠馬が言葉を発したら、次は理性どころか寿命がぶっ飛びそうだ。
 彼が口を開いた。そう、結局のところ主導権を握るのはやっぱり悠馬なのだ。

「いっぱい、きもちいこと、して」
 ああああああー!あまりの衝撃に、眉間をおさえてうずくまってしまいました。呼吸もままならない状態か?これは、ノックアウト!三河玲選手、完全にノックアウトです!この可愛さを前にして何人が無傷でいられるでしょうか、いやいられるはずがない!
「もう、いくらでもしてあげる!」


「とまあ、死ぬほど可愛い出来事がちょっと前にあったよねえ」
 しみじみとそう言うと、悠馬があたしの頭を軽くはたいた。
「いてっ」
「…なんで今、その話するんだ」
「なんでって、君がお見送りの最中に甘えてこようとしたからですが」

 いつもどおり家に泊めてもらったお礼を言って、荷物もまとめたので、さてそろそろ帰ろうかなと玄関に向かった矢先、後ろから抱き着いてきたのは、悠馬のほうなんですが。

「珍しいね、素面でこんなに甘えてくるの」
「…わがままになってもいいって、玲が言ったんだろ」
 こう言われちゃ、敵わない。いくらでもわがままを聞いてあげるしかない。
「何してほしいの」
「…一回だけ好きって言って」
「一回でいいの?」
 しばしの沈黙。


「いっぱい、言って…」
「んんんん、そんなのずるい、可愛い、好き、大好き!」
 もう惚れた時点で、私の負けは確定していたようです。

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神原だいず / 豆腐屋 2024/06/29 19:01

【再掲 / 玲と悠馬③】素直になってよ

 悠馬は、私の言葉を聞いて、二度ほど瞬きをした。
 目を長い時間閉じて、ゆっくりと開ける緩慢なその動作は彼の昔からの癖だ。
 相手の言ってることが聞き取れなかったり、意味がわからなかったりすると、いつもそう。
 この癖が出たら、彼の頭の中は決まって?マークでいっぱいになっている。

「…え?」
「だから、乳首だけでイケたら許してあげる」
 二回聞いて、ようやく私の話している日本語の意味がわかったのだろう。
 彼の一切の動きが一瞬止まった。
 そして次の瞬間、寝転がった体勢のままずりずりと体を這わせて私から離れ始めた。

「待て待て待て待て」
 足で、飲み干したコーラの缶を蹴っ飛ばし、右手でテレビのリモコンを弾き、悠馬はどんどん部屋の奥へと這っていく。
「だーいじょうぶ、できるできる!悠馬ならできるって!」
 私はそんな悠馬の脚や、腰をなんとかつかみ引きずりだそうとする。

「違う違う、俺ならとかそういう事じゃない、他の事にしてくれ、それだけは考え直してくれ!」
 負けじと悠馬も必死に抵抗する。
 さっきまでドロドロに感じていただけあって、さすがにいつものフルパワーではないが、それでもかなりの力だ。
「無理って決めつけてちゃ何もできないでしょ!?大丈夫だって、多少寸止め地獄見ることにはなるけど絶対気持ちいいからああ!」
 悠馬の右足を思いっきりつかみ、ひっぱる。
 人間綱引き状態で悠馬の体はちぎれそうだ。
「その寸止め地獄が一番苦しいんだよ、今はあああ!ほんと、他の事にしてくれ、頼むからあああ!」
 悠馬はテレビが置いてある台の脚に両手を絡ませてしがみついた。
 こうなると、テレビの台ごと動かさなければ、悠馬を引きずりだすことができないだろう。

 何か策を講じなければ…!そうだ!
 私は、右手にありったけの力をこめて悠馬の右足を引っ張り続け、左手を足から離して悠馬の足裏をくすぐった。
「うひっ!?あ、それ、ずるい!ちょっ、あは、だめ、ばかああ!」
「ええええい、これでもくらええぇ!」
 私はさらに足裏をくすぐる手のスピードを上げる。
「あっ、やっ、ひひひっ、ひうっ、やめてぇ、もっ、あ、くすぐったい!」
 効果はバツグンらしい。
 彼が足裏に気を取られているうちに、ゆっくりと体を移動させて悠馬の上に馬乗りになった。
 こうなりゃ、私の勝ちだ。
 悠馬の頬を両手でぐっと挟み、「うぁっ…」と声を上げた悠馬の半開きの口に、舌を滑り込ませる。
 とたんに、悠馬の動きが止まった。
 何分経ったかなどどうでもいいが、水音と悠馬のうめき声が部屋に響き続けたあと私はそっと口を離した。

 手の甲で口元をぬぐい、私は涙目でヒクヒクと震え続ける悠馬に笑いかけた。
「私の勝ちね」
 悠馬のお腹にそっと手を当て、少しずつ少しずつ上へと滑らせていく。
 これはカウントダウンなのだ。
 このあと待ち受けるのは、さっきまでと比べ物にならないくらいに、どうしようもなく甘い時間。
「あ、ま、まって、おねが、まって、れい、れい、」
 ああ、こんなときだって君は、「やめて」って言わないから。


 だから好きよ。
「いや」
 思いっきり悠馬の右乳首をつねった。

「んぅうう、う」
「そんなに痛いの気持ちよかった?」
 右は爪でひっかき、左は親指でグリグリとつぶす。
「んんぅ、ぁ、ぁあ、おま、あとで、おぼえてろ…」
「悠馬こそ、乳首触られて気持ちよくなっちゃう事、覚えといたほうがいいんじゃない?それよりしゃべる余裕があるなら、もっとひどくしてあげようか」
 悠馬の薄い胸板に口を近づけて、右側の乳首を舌でペロリと舐めた。
「ぁあっ」
 一旦左をいじるのはやめにする事にした。
 右を集中して責めて、悠馬がとろけてきたら追い打ちをかけるように両方を一度にいじめればいい。

 舌の上で転がすだけでも反応はいいが、甘噛みしたり、吸ってみるとまた腰がはねる。
「あ、あ、や、それ、それ、だめぇ…」
「どれ?」
「か、かまないで…」
 さっき抓った時にも思ったけど、もしかして悠馬はちょっと痛くされる方が好きなんだろうか。
 もう一度、乳首に歯を立てようとした瞬間、悠馬が私の頭を掴んだ。
「なんで、やだ、かまないでっていってるのに…」
「悠馬のやめては、もっとやってでしょ?違うの?」
 少し強めに噛んでみる。
「ひうっ!あぁぁん…っ」
「ねぇ?どうなの?」
「ち、ちがわな…ちがわないぃ、やん、ぁあ、ぁんんっ」
 ついに陥落してしまった。
 よくもまあ、さっきこれで「気持ちよくない」なんて嘘をつこうとしたもんだ。火照った頬に手を添えた。
 肌は柔らかくてすべすべで、ふわふわで、目を閉じれば女の子のそれみたいだった。

「んっ、ん、あ、はぅ」
 そろそろ頃合いだろう。
 左の乳首にそっと手を伸ばし、爪でカリカリとひっかきはじめる。
「ひ、あ、ひう、ひ、や、いっぺんに、あ、ぁあ」
 さっきよりもひっかくときに、乳首が爪に引っかかる。
 右の乳首をなめながら、ちらりと横眼で見ると、ぷっくりと赤く膨れ上がっていた。
 どこの同人誌でも、さくらんぼがどうちゃらとか、美味しそうとか月並みな表現だなと思っていたが、これは確かにそうも言いたくなるだろう。

 悠馬は肌が白いほうだから、余計に乳首の周りだけがほんのりと色づいている。
 これまた、本当に色気が滴っており、絶対に誰にも見せたくない。絶対に。
 男の前でこんな顔とこんな乳首して、腰くねらせて喘いでみたら、秒で襲われる事間違いない。おっそろしい…。

「も、や、あぁ、れい、れいぃ、もうゆるして、もう、すんどめ、いや…もう、だめ…おねが、した、したさわってぇ…っ」
「だめ」
「やぁあ、ごめんなさぁ、も、おねが、あ、あ、がまんできないの、がまん、できな…」
「だめ」
 いっそ冷たいぐらいに彼のおねだりを断り続ける。
 可哀想なのが、可愛い。
 両方の乳首を親指と人差し指で挟み、ぎゅっと抓りあげた。

「い、っ、いた、ぁあんぅう、んっ、やっああ」
 ものすごくかわいい声で喘いでいるなぁ、なんてぼんやり思いながら、摘まみ上げた乳首から両手を離さず、ぐにぐにと指先で圧を加え続ける。
「んぅうう♡あ、あ、っぁあああ…っ」
 悠馬の腰が折れるのではないかというほどに反った。
 ここまで乱れるのも珍しいな…と思ったが、かなりの長さで寸止め状態にしていることを考えれば、この反応も当然か。
 手はまだ離さない。
「ぁあ、いや、はなして、はなしてぇ。だめ、い、イっちゃ…あ、やあ、まって。も、だめ!もう、もうむり、あぁああ、こわいよぉおお、きちゃ、きちゃうの…せいえき、きちゃう…っ」
「いいよ、イって」
「ふぇ、ぁああ、あ、あ、あ、っ———」
 
 手を離すと、悠馬はどさりと床の上に落ちた。
 そして、あたしは気づいてしまった。彼を下着穿いたままイかせてしまったという事に。
 これは、あとで相当怒られる。本当に怒られる。
 私は頭を抱えた。
「まずったなぁ…」
 以前も同じような事をして、しかも最悪な事にその時は悠馬が泊まるつもりじゃなかったから、替えの下着が無い状態だった。
 めちゃくちゃに怒られて、下着の替えが無い悠馬を外に出すわけにもいかず、必然的にあたしが夜中のコンビニに男物の下着を買いに行くという凄まじい罰ゲームを受ける羽目になった。(まあ、自業自得なのだが)
 
 次やったら、三日間は口きかないと脅され、もう二度とやりませんとひれ伏した記憶がある。
 今日は泊まると言っていたから替えの下着を買いに行く心配はないが、怒られる事は確実だった。
 まずい、どうしようと思った瞬間だった。
 私のTシャツの裾を悠馬の手が引っ張った。万事休す。
 これは怒られると覚悟して、恐る恐る悠馬の方を振り向いた。
 のだが。

 思いっきり腕に縋り付かれてしまった。
「エ、アノ、悠馬サン、ドウサレタ、ンデスカネ」
 予想外すぎて、片言になってしまった。
 というか、今さら気づいたけどこの体勢本気でまずい。悠馬の上目遣いを食らい続ける事になる。
 悠馬の少し汗ばんで火照った頬が、あたしの腕にぴたりと吸い付く。
 悠馬があたしの顔をもっと覗き込もうと顔の向きを変えた。
 濡れた瞳と視線がかち合う。
「もっと、して」
 唇が動く度に、私の腕にふにふにと当たる。
 まずい、向こうのペースに飲まれる気しかしない。
 素直になってしまったら、もう悠馬の勝ちだ。
 私をあの手この手で無自覚に誘惑してくる。

「あのね、悠馬」
「してくれないの」
 食い気味に強請られて、「いや、あの」とか「その…」とかどもってしまう。
 いけない、これもしかしてやばい展開ではないだろうか。
 悠馬さん、もしかして完全に理性ぶっ飛ばしてしまったパターンではなかろうか。
「きもちくなるとこ、もっと、さわってくれないの」
「触ったげるけど、ほら下着がさ、ね」
「すきなの。れいがすきだし、れいにさわられたい」
「いや、ほんとにあれやこれやしてやりたいけど、これ以上やると、素面の悠馬にあたし殺されちゃうっていうか、せめて遺書ぐらい準備させてほしいっていうか、だから、あの、あの!?」
 突然勢いよく悠馬は着ていたTシャツを脱ぎ捨て、上半身裸で私を抱きしめた。
 しかも悠馬はベッドの上に膝立ちなので、目の前にさっきまでいじめられ続けて赤く尖った乳首が、待って、なんで、どうして、
「悠馬さん、君は一体全体、何故、そういう事しちゃうかなぁ!?」


 何もかもが終わったあと、彼の衣服を必死に整えて、その後目をつぶって、もう一度目を開けるとなんと夜が明けていた。
 時計が昼の12時を指したところで目が覚めた私の目の前には、悠馬の顔があった。

「…ごめんなさい?」
 とにかく謝らないと殺されるのでは、という思いから、朝の挨拶の代わりに謝罪が口から飛び出したあたしを見て、悠馬は深くため息をついた。
「昨日はさんざんやってくれたな、お前」
「…いや、ほぼ後半に暴走したのはどっちかというと悠馬ですけど」
「そりゃそうだけど、スイッチ入れたのはお前だからな。下着があったから今回は許してやるけど、ほんといい加減に…」
 悠馬がブツブツと小言を言っているが、私はある一点が気になって彼に質問した。

「え、もしかして昨夜の暴走、記憶にあるんですか?」
「は…」
「そういうことだよね?」
 沈黙の後、悠馬は急に寝返りを打ってこちらに背を向けてしまった。
 この反応は、まさかの図星では!?

「否定なさらないんですね?」
 返事はない。
「じゃあ、記憶にあると?」
 まだない。
「いやぁ、あれは人生で最も衝撃的なシーンの一つに入るよ、凄かったよね。まさか、Tシャツ脱ぎす、ぶぎゃ」
 悠馬が投げた枕が顔面にクリーンヒットして、体がひっくり返った。
「うるさい!黙れ!」
「いつもあれぐらい素直だともっと可愛いよね」
「昨夜、さんざん泣かせにかかってきてた奴が、どの口で言ってるんだ!」
「気持ちよすぎていっぱい泣いちゃったもんね」
「それ以上バカなこと言ったら今日の朝飯作ってやらん!」
 悠馬は布団を蹴り飛ばしベッドを降りた。耳まで真っ赤になっている。
 枕元に置いていた眼鏡をかけて、キッチンの方へ歩き出そうとした悠馬に向かってあたしは懲りずにべらべらとしゃべり続けた。

「もうほんとにほっぺ真っ赤にして、あたしの腕に縋り付いて好きって言われたからほんとに可愛かったんだよ!普段の悠馬からは想像できないくらいでさ、いっぱい好き好きって言ってくれたから私嬉しく、て…?」
 急に悠馬がこちらを振り返った。
 真顔でずんずんとこちらに近づいてくる。
 まずい、調子に乗りすぎたかと身構えた瞬間だった。

頬にやわらかい感触。そして、悠馬の低い声が、ぼそりと何かをつぶやいた。
「え…」

 あっけにとられて頬を押さえたままの私を見て、悠馬は「おい、朝飯いらないのか。作らないぞ」とぶっきらぼうにそう言った。
「いります、いります!」
 慌てて悠馬のあとを追いかけてキッチンに向かう。
「砂糖か、塩」
「ケチャップ!」
「スクランブルエッグにしろと?」
「そうです!」
 冷蔵庫から卵のパックを取り出して悠馬に手渡し、髪の毛をヘアゴムでまとめる。
「わかった、じゃあお前食パン焼いとけよ」
「はーい。あと、私も愛してるー」
「えっ」
 そこからはもうご想像にお任せしたいっていうか。

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神原だいず / 豆腐屋 2024/06/29 19:00

【再掲 / 玲と悠馬②】焦らされるのはお好き?

「お前その手やめろ。わきわきするな。怖いから」
「ふっふっふっふっ。さぁー、楽しい時間の始まりですよぉ」
 悠馬のシャツの隙間にするりと手をすべり込ませる。
「っ、ひ!?」
 少し冷たい悠馬の脇腹を両手でガシッとつかむと、悠馬の口から高い声が漏れた。
「まだつかんだだけなんですけど」
「…急につかまれたら、びっくりするから」

 ところで、さっきから私は違和感を覚えていた。おかしい。おかしいぞ、これは…。
「ねえ、あたしと一緒にポテトチップスとか結構食べてるよね…?」
「いつも映画観るときはビッグサイズ食べてるだろ」
「コーラも飲んでいらっしゃいますよね?」
「どうして敬語なのかはわからないけど、飲んでる」
 ちょっと変な汗が出てきた。
「なんで、こんなに細いの?あたしは食べたらすぐお腹の肉になるのに、どうして一緒のもの食べてる悠馬がこんなに細いのよおお!」
 ありえない、体型整いすぎじゃないか。映画鑑賞会でお菓子食べるせいで、私の体重はゆるやかにゆるやかに上昇傾向にあるのに、全く変化が無いとはどういうことだ。
悠馬の脇腹をさすったり、つまんだり、揉んだりを繰り返すけど、やっぱり贅肉が少なすぎる。

「ちょっ、くすぐったい、やめっ、やめろ!」
「だって細すぎるよ、悠馬。ほら、お肉つまもうと思ってもなかなかつまめないもん!」
「うわああ、ひっぱんな!ちょっ、もっ…やだ…やだっ!」
「もう、動かないで!今がんばってつまもうとしてるんだから…」
「つまんで何になるって言うんだよおおお…くすぐったいぃいい…」
 悠馬がくすぐったがって、腰を右に左にくねらすもんだから、なかなかつまめない…。
 
「よっ、よし!つまめた!悠馬!ほら、少しはあったよ。もー、ちゃんと食べないとだめだよ、ほんと…う…に?」
 全然反応が返ってこなくなったと思って、ふと顔を上げると悠馬が口元に手を当てて、何かを必死に我慢していた。
「な、何してるの…?」
 聴いても首を振るばかりだ。
 よくよく悠馬を見ると、耳どころか首まで真っ赤にしている。しかも若干震えている。やばい、やりすぎたか。
 それともどっか悪いのか。

「悠馬。手離して」
 また首を振る。
「具合悪くなっちゃった…?」
 また首を振る。
「つまんでたの痛かった?」
 脇腹から手を離しながら聴くも、悠馬はまた首を振った。これじゃ、らちが明かないぞ…。いや、まさか、もしかして。

「…え、気持ちよくなっちゃったの?」
 大きくて、少したれ目気味の悠馬の目がカッと開く。やっぱりか。もう一度脇腹に手をすべり込ませる。
「違っ!そんなわけなっ、ひあぁ!?」
 悠馬の体に一瞬緊張が走り、またすぐにへにゃへにゃと力が抜けていった。
「…へー、ほー、気持ちよくなっちゃったんだぁ…」
「ち、ちが…今のはちがうぅ…」
 可哀想なくらい真っ赤で、目には若干涙が浮かんでいる気もしますが、悠馬さんが可愛いのでオール無視。
 ああああああ、もう、この人はぁぁぁ…。深い深いため息がもれる。
 言葉では形容しがたいこの可愛さ…。なんでお目目がうるうるしてるのかな?なんで両手が口元にいってるのかな?可愛いな?襲ってくれと言っているのかな?あまりの衝撃に表情が完全にログアウトしている。菩薩の表情になっている気がする。

「男の子って大学生でもじゃれてくすぐり合うくらいしますよね?」
「…え?」
 質問の意図を図りかねている悠馬に詰め寄る。
「しますよね?」
「…まあ、たまに…ごくまれに?」
 あたしの勢いに気圧されたのか、小首をかしげながら悠馬は答えた。
「もし今の感じでくすぐられて気持ちよくなっちゃったら大変だと思うんですけど」
「…え?」

「そういうわけで特訓しましょう、悠馬」
「とっくん…?」
 あ、もう「特訓」がひらがなになっているような甘ったるい声。
「だめでしょ、くすぐられて気持ちよくなったら何されるかわかったもんじゃない。あたしと特訓するよ、気持ちよくならないように」
 我ながらにすさまじいこじつけだなと思う。あたしは、自分の欲望のままに君の身体をあれやこれやしたいだけなんですよね、ほんと!

「なにするの…」
「あたしが、ひたすらに悠馬を触る」
 言った側から、これは酷い!と思った。こじつけの設定がガバすぎる!流されやすいがそれでも頭のいい悠馬の事だ、さすがに反論してくるだろうと思ったのだが。
「それ、れいがさわって、きもちよくなっちゃったらどうすんの…?」
 これは予想外の申し出だった。「悠馬君、君、お仕置きのフラグを自ら立てていくスタイルなのかい!?」と、まるで某国民的海産物アニメのサラリーマンさながらの突っ込みをしてしまう。
「お仕置きをします」
 スタンディング・オベーション。よく表情に出さずに言い切ったと思う。
「おしおき…?」
「まあ、それは後で言うよ。悠馬が気持ちよくならなければしないですむんだから」

「じゃあ、始めようか…」
 このタイミングでログアウトしてた表情が戻ってくるのやめていただけないだろうか。笑っちゃだめ、笑っちゃだめ、にやけちゃだめ、無理無理無理…。

「や、やぁ…わきばらは、だ、め…っ」
 脇腹に触れるか触れないかのギリギリのところで手を固定して、そのまま上にむかって一瞬するりと撫で上げると、悠馬の体がビクリと震える。
 容赦なく、何度も何度も脇腹を撫で上げる。そのたびに悠馬の口から、震える吐息とか弱い声が零れ落ちる。
「や、いやぁ、やぁ…、そのさわりかた、やだ…」
「耐えて、悠馬」
「はうぅ」
 いっそ、思いっきりくすぐられた方が楽なのだろうが、じわじわこうやって触られているとまるで愛撫されているかのような錯覚に陥ってくれないかな、なんて思っている。予想通り、反応はなかなか良さそう。

「ま、って、へんな、きぶんになってきた…」
「どんな?」
「う…」
 恥ずかしいのか、下唇を噛んで悠馬は押し黙ってしまった。
「あたしに抱かれてるみたいな?」
「あ…ぁ」
「まあ、状況としてはほぼ大差ないけれどね。押し倒されて、服を捲りあげられて、初心で緊張しきった女の子みたいに顔真っ赤にして」
 もう一度、悠馬の身体に手を這わせた。白くて薄い肌を爪でなぞる。

「ひっ」
「触られただけで声出しちゃうくらいに敏感になってるもんね」
「手、止めて、やだ」
「止めない。気持ちよくなっちゃったらお仕置きだって言ったでしょ」
「だめ、これいじょうは、きもちくなっちゃ、う…おねが、おねがいぃ」
 あっぶない、手を止めそうになってしまった。おねだりの破壊力が高すぎやしないだろうか。
 それまでのように、ギリギリのところではなく、今度はがっちりと悠馬の脇腹をつかんだ。
「ふえっ」
 親指に少し力を入れて、そのままゆっくりと胸のほうに向かって手を滑らせる。
「んんぅ、んっ、あ…っ、はぁ」
 眉間に皺を寄せて目を固く閉じ、襲い掛かってくる得体のしれない感覚に必死で耐えている。悶えて腰をくねらしている様を、蛇みたいだな、と理性が飛びかけの頭でなんとなく思った。

 ずるずると手が脇腹をのぼり、親指が一瞬だけ乳首をつぶしたそのとき、悠馬の口から高い嬌声が漏れた。
「なに…?乳首気持ちいいの…?」
「ぁ、やぁ、ちが…っ」
「ふーん…。まあ、いいけど」
 悠馬がほっと息をついたのがなんとなくわかった。まあいい。忘れたころにもう一度かすめよう。
 そのまま私の両手は悠馬の首へと到達した。
「ぅう!」
 悠馬が首をすくめて私の手を止めようとする。悠馬さん、そりゃ逆効果だよ…。指先をわしゃわしゃと動かし、悠馬の首をくすぐる。
「ぅ、ぅう…ぁあ、あっ」
 たまらなくなって悠馬は元の姿勢に戻るが、そうすれば手全体で愛撫されてしまい、すくめればまた指先で思いっきりくすぐられてしまう。
 自分から罠にかかったようなものだ。必死にあたしの手を振り払おうとするけど、どんどんじれったさが膨らんで、破裂寸前にまで来ている。もし弾けたらこのじれったさが、快感につながってしまうのがわかっているから、悠馬は涙を目にいっぱいためながら抵抗している。
 こんなに泣きそうになってるのだから、手を止めてあげればいいのに。だけど、できない。だって知ってるから。もっともっと可愛い表情を、あたしにだけは見せてくれるって知ってるから。

 突然あるタイミングで、悠馬の身体が大きくびくりと跳ねた。弾けちゃったのか。
「どうしたの」
 自分でも白々しいと思った。
「やだ、も、やめて、ごめんなさ、きもちい、だめ、もういや、いや」
「気持ちよくなっちゃったのかぁ、そうか、まあやめてあげないけれど」
 いやと言われてもここまで来てやめられたら困るのは悠馬の方だと思う。だって、一度スイッチが入ってしまったら、今度は「やめてほしい」じゃなくて、別の欲が出てくるはずだ。

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神原だいず / 豆腐屋 2024/06/29 01:38

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神原だいず / 豆腐屋 2024/06/29 00:32

【再掲 / 玲と悠馬①】手始めにキスから

 テレビには男女の甘いラブシーンが映っている。男の人が女の人を優しく抱きしめてそっと口づけ、2人は愛の言葉を交わして男の人が女の人の体に触れる。シーツに沈み込む火照った二つの身体。
 リードするのはいつだって男の人。
「…それでいいだろ」
「い、や、な、の!」

 2人の間に置かれたポテトチップスの袋を自分側に引き寄せ、何枚かポリポリと食べる。
「食べすぎだぞ」
「あたしが買ったんだからいいでしょ!第一ビッグサイズなんだから、悠馬みたいにケチケチ食べてる方が損だよ!」
 照明を落として、映画館さながらに暗い部屋の中、ぼんやりと画面だけが光を放っている。相変わらず画面は男女のラブシーン。だらけたジャージ、ポテチの袋、飲みかけのコーラの缶。週1のぐだぐだの映画鑑賞会は今回ものんびり進んでいる。
 悠馬は、ため息をついてこちらを見た。

「おまえどうしてそんなに男がリードするのが嫌なんだ」
「私だってリードしたいから」
 悠馬は頭をグシャグシャとかきながら、またため息をついた。
「まあそう悩むな少年。これは単純な話なのだよ。ポテチいる?」
 袋を悠馬の方に押し戻したが、彼は手をつけなかった。テレビの中の女の人は可愛らしく照れた顔を見せている。今にもその艶めいた唇から高い声が零れ落ちそうだ。

「単純にお前が恥ずかしいだけじゃないのか」
「それは男の人だってそうでしょ。世間の流れとしては男がリードするのが普通なのに、女にリードされるのなんて恥ずかしい、って事じゃないの?」
「まあ、そういうプライドが無いわけじゃないけど」
 口ごもる悠馬を見て、それ見た事かと私は思った。
 男が攻めて女がそれを受け入れる。多くの異性愛者がそういう風な形をとるし、それを悪い事とか男女差別だ、不平等だ、なんて思わない。だって、体の構造的にそれが自然な形に我々人類はできているわけだし。

 だけど!
「あたしと悠馬の場合はそうはいかない!」
「なんでだよ…」
「悠馬がかわいいから!」
「これだよ…」

 考えてもみてほしい。この真面目で基本的に無口で堅物な悠馬が、一度体に触られただけで真っ赤になり、画面内でよろしくやってる男女組の女性のように可愛くなるだなんて知ったら。
 いじめ倒したい!あわよくば泣かせたい!そう思うのが人の常ではなかろうか。異論は認める。だが、異論されたところであたしは悠馬の身体を弄るのをやめない。

第一、悠馬は無自覚に色気を振りまく節がある。これが良くない!大学生になってからは特にひどい!
 いつも大学の講義も耳に入らないほど不安だ。遠く離れた文学部棟で、あたしの彼氏が空き教室に連れ込まれてたりしないだろうか。この男の可愛さが、他の人にばれていたりしないだろうか。
 心配で心配でたまらない。

 ほら、ポテチのそばに置いてあったコーラを飲みながら上下に動く白い喉仏が、こんなにもいやらしい。
「は、あ」
 コーラ飲み終わった後の吐息にそんな過剰に色気成分を含ませる必要ってあるのだろうか、勘弁してほしい。

「悠馬、それ本当に無自覚でやってるの?」
「ん?」
 さりげに首まで傾げてきた。連続で畳みかけすぎている。この男、少々反省したほうがいい。悠馬の手首を掴んで、体を引き寄せた。
「もう、そんな煽られると無理なんですけど、あたし」
「何も煽ってない」
「煽ってますぅー」
「顔が近い。離せったら、んっ」

 我慢しろなんてそんな事無理に決まっている。容赦なく悠馬の口の中へ舌を差し込むと、わかりやすく悠馬の肩が跳ねた。
「ん…っ…やめろ、ばか!」
 悠馬があたしをべりっと引き剥がした。

「その顔じゃ説得力ないんですけど」
 すでにあまり焦点が合わないとろけた瞳、しかも上目遣い。口の端から垂れる唾液、少し上がった息、全然説得力ない。
「せっとくりょく…?」
「うん。もっとやってほしそうにしか見えないよ。ねぇ?」

 悠馬の首元に指先を当てた。あたしの指先が冷たかったのか、一瞬驚いたように悠馬は目を丸くした。
 指をゆっくり下につつつーっと滑らせる。
「ゆ、う、ま、さん」
「や、は、ああ…っ」
 可愛い…。口元を手で押さえて何とか抵抗しようとしてるあたりがもう可愛い…!
「ほら、だめでしょ。手のけて」
 悠馬の両手首を掴んでバンザイのポーズにする。

 真っ赤な顔をあたしに見られないように逸らし、ふるふると小刻みに体を震わせている悠馬の姿ったら、いたずら心をくすぐられてしまう。恥ずかしくって仕方がないのだろうと思う。
「ねぇ、こっち向いて」
 恥ずかしかった顔が見たくて、そう強請ってみたけれど、首を弱々しく振るばっかりだ。
「恥ずかしいの?なんで恥ずかしいの?」
 か細く消えそうな声で、悠馬はぼそりとつぶやいた。
「きもちいから…」
「気持ちいから?」
「お、おんなのこ、みたいな、こえ、でる…」
 たまらなくなって首筋にキスをした。肌をきつく吸い上げて痕を残そうとすると、「ぁあっ」と悠馬が可愛く鳴いた。
 
「今みたいな?」
「いじわる、しないで、も…やめてぇ…」
 今、たぶんものすごくニヤついてると思う、あたし。
「やめません♡」

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