神原だいず / 豆腐屋 2024/06/29 19:00

【再掲 / 玲と悠馬②】焦らされるのはお好き?

「お前その手やめろ。わきわきするな。怖いから」
「ふっふっふっふっ。さぁー、楽しい時間の始まりですよぉ」
 悠馬のシャツの隙間にするりと手をすべり込ませる。
「っ、ひ!?」
 少し冷たい悠馬の脇腹を両手でガシッとつかむと、悠馬の口から高い声が漏れた。
「まだつかんだだけなんですけど」
「…急につかまれたら、びっくりするから」

 ところで、さっきから私は違和感を覚えていた。おかしい。おかしいぞ、これは…。
「ねえ、あたしと一緒にポテトチップスとか結構食べてるよね…?」
「いつも映画観るときはビッグサイズ食べてるだろ」
「コーラも飲んでいらっしゃいますよね?」
「どうして敬語なのかはわからないけど、飲んでる」
 ちょっと変な汗が出てきた。
「なんで、こんなに細いの?あたしは食べたらすぐお腹の肉になるのに、どうして一緒のもの食べてる悠馬がこんなに細いのよおお!」
 ありえない、体型整いすぎじゃないか。映画鑑賞会でお菓子食べるせいで、私の体重はゆるやかにゆるやかに上昇傾向にあるのに、全く変化が無いとはどういうことだ。
悠馬の脇腹をさすったり、つまんだり、揉んだりを繰り返すけど、やっぱり贅肉が少なすぎる。

「ちょっ、くすぐったい、やめっ、やめろ!」
「だって細すぎるよ、悠馬。ほら、お肉つまもうと思ってもなかなかつまめないもん!」
「うわああ、ひっぱんな!ちょっ、もっ…やだ…やだっ!」
「もう、動かないで!今がんばってつまもうとしてるんだから…」
「つまんで何になるって言うんだよおおお…くすぐったいぃいい…」
 悠馬がくすぐったがって、腰を右に左にくねらすもんだから、なかなかつまめない…。
 
「よっ、よし!つまめた!悠馬!ほら、少しはあったよ。もー、ちゃんと食べないとだめだよ、ほんと…う…に?」
 全然反応が返ってこなくなったと思って、ふと顔を上げると悠馬が口元に手を当てて、何かを必死に我慢していた。
「な、何してるの…?」
 聴いても首を振るばかりだ。
 よくよく悠馬を見ると、耳どころか首まで真っ赤にしている。しかも若干震えている。やばい、やりすぎたか。
 それともどっか悪いのか。

「悠馬。手離して」
 また首を振る。
「具合悪くなっちゃった…?」
 また首を振る。
「つまんでたの痛かった?」
 脇腹から手を離しながら聴くも、悠馬はまた首を振った。これじゃ、らちが明かないぞ…。いや、まさか、もしかして。

「…え、気持ちよくなっちゃったの?」
 大きくて、少したれ目気味の悠馬の目がカッと開く。やっぱりか。もう一度脇腹に手をすべり込ませる。
「違っ!そんなわけなっ、ひあぁ!?」
 悠馬の体に一瞬緊張が走り、またすぐにへにゃへにゃと力が抜けていった。
「…へー、ほー、気持ちよくなっちゃったんだぁ…」
「ち、ちが…今のはちがうぅ…」
 可哀想なくらい真っ赤で、目には若干涙が浮かんでいる気もしますが、悠馬さんが可愛いのでオール無視。
 ああああああ、もう、この人はぁぁぁ…。深い深いため息がもれる。
 言葉では形容しがたいこの可愛さ…。なんでお目目がうるうるしてるのかな?なんで両手が口元にいってるのかな?可愛いな?襲ってくれと言っているのかな?あまりの衝撃に表情が完全にログアウトしている。菩薩の表情になっている気がする。

「男の子って大学生でもじゃれてくすぐり合うくらいしますよね?」
「…え?」
 質問の意図を図りかねている悠馬に詰め寄る。
「しますよね?」
「…まあ、たまに…ごくまれに?」
 あたしの勢いに気圧されたのか、小首をかしげながら悠馬は答えた。
「もし今の感じでくすぐられて気持ちよくなっちゃったら大変だと思うんですけど」
「…え?」

「そういうわけで特訓しましょう、悠馬」
「とっくん…?」
 あ、もう「特訓」がひらがなになっているような甘ったるい声。
「だめでしょ、くすぐられて気持ちよくなったら何されるかわかったもんじゃない。あたしと特訓するよ、気持ちよくならないように」
 我ながらにすさまじいこじつけだなと思う。あたしは、自分の欲望のままに君の身体をあれやこれやしたいだけなんですよね、ほんと!

「なにするの…」
「あたしが、ひたすらに悠馬を触る」
 言った側から、これは酷い!と思った。こじつけの設定がガバすぎる!流されやすいがそれでも頭のいい悠馬の事だ、さすがに反論してくるだろうと思ったのだが。
「それ、れいがさわって、きもちよくなっちゃったらどうすんの…?」
 これは予想外の申し出だった。「悠馬君、君、お仕置きのフラグを自ら立てていくスタイルなのかい!?」と、まるで某国民的海産物アニメのサラリーマンさながらの突っ込みをしてしまう。
「お仕置きをします」
 スタンディング・オベーション。よく表情に出さずに言い切ったと思う。
「おしおき…?」
「まあ、それは後で言うよ。悠馬が気持ちよくならなければしないですむんだから」

「じゃあ、始めようか…」
 このタイミングでログアウトしてた表情が戻ってくるのやめていただけないだろうか。笑っちゃだめ、笑っちゃだめ、にやけちゃだめ、無理無理無理…。

「や、やぁ…わきばらは、だ、め…っ」
 脇腹に触れるか触れないかのギリギリのところで手を固定して、そのまま上にむかって一瞬するりと撫で上げると、悠馬の体がビクリと震える。
 容赦なく、何度も何度も脇腹を撫で上げる。そのたびに悠馬の口から、震える吐息とか弱い声が零れ落ちる。
「や、いやぁ、やぁ…、そのさわりかた、やだ…」
「耐えて、悠馬」
「はうぅ」
 いっそ、思いっきりくすぐられた方が楽なのだろうが、じわじわこうやって触られているとまるで愛撫されているかのような錯覚に陥ってくれないかな、なんて思っている。予想通り、反応はなかなか良さそう。

「ま、って、へんな、きぶんになってきた…」
「どんな?」
「う…」
 恥ずかしいのか、下唇を噛んで悠馬は押し黙ってしまった。
「あたしに抱かれてるみたいな?」
「あ…ぁ」
「まあ、状況としてはほぼ大差ないけれどね。押し倒されて、服を捲りあげられて、初心で緊張しきった女の子みたいに顔真っ赤にして」
 もう一度、悠馬の身体に手を這わせた。白くて薄い肌を爪でなぞる。

「ひっ」
「触られただけで声出しちゃうくらいに敏感になってるもんね」
「手、止めて、やだ」
「止めない。気持ちよくなっちゃったらお仕置きだって言ったでしょ」
「だめ、これいじょうは、きもちくなっちゃ、う…おねが、おねがいぃ」
 あっぶない、手を止めそうになってしまった。おねだりの破壊力が高すぎやしないだろうか。
 それまでのように、ギリギリのところではなく、今度はがっちりと悠馬の脇腹をつかんだ。
「ふえっ」
 親指に少し力を入れて、そのままゆっくりと胸のほうに向かって手を滑らせる。
「んんぅ、んっ、あ…っ、はぁ」
 眉間に皺を寄せて目を固く閉じ、襲い掛かってくる得体のしれない感覚に必死で耐えている。悶えて腰をくねらしている様を、蛇みたいだな、と理性が飛びかけの頭でなんとなく思った。

 ずるずると手が脇腹をのぼり、親指が一瞬だけ乳首をつぶしたそのとき、悠馬の口から高い嬌声が漏れた。
「なに…?乳首気持ちいいの…?」
「ぁ、やぁ、ちが…っ」
「ふーん…。まあ、いいけど」
 悠馬がほっと息をついたのがなんとなくわかった。まあいい。忘れたころにもう一度かすめよう。
 そのまま私の両手は悠馬の首へと到達した。
「ぅう!」
 悠馬が首をすくめて私の手を止めようとする。悠馬さん、そりゃ逆効果だよ…。指先をわしゃわしゃと動かし、悠馬の首をくすぐる。
「ぅ、ぅう…ぁあ、あっ」
 たまらなくなって悠馬は元の姿勢に戻るが、そうすれば手全体で愛撫されてしまい、すくめればまた指先で思いっきりくすぐられてしまう。
 自分から罠にかかったようなものだ。必死にあたしの手を振り払おうとするけど、どんどんじれったさが膨らんで、破裂寸前にまで来ている。もし弾けたらこのじれったさが、快感につながってしまうのがわかっているから、悠馬は涙を目にいっぱいためながら抵抗している。
 こんなに泣きそうになってるのだから、手を止めてあげればいいのに。だけど、できない。だって知ってるから。もっともっと可愛い表情を、あたしにだけは見せてくれるって知ってるから。

 突然あるタイミングで、悠馬の身体が大きくびくりと跳ねた。弾けちゃったのか。
「どうしたの」
 自分でも白々しいと思った。
「やだ、も、やめて、ごめんなさ、きもちい、だめ、もういや、いや」
「気持ちよくなっちゃったのかぁ、そうか、まあやめてあげないけれど」
 いやと言われてもここまで来てやめられたら困るのは悠馬の方だと思う。だって、一度スイッチが入ってしまったら、今度は「やめてほしい」じゃなくて、別の欲が出てくるはずだ。

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