【再掲 / 玲と悠馬⑥】今日は
インターホンを押すとすぐに扉が開いた。
少しこわばった顔をした悠馬が玄関先に立っていた。
「…入って」
「うん!」
手土産はあなたが嫌いなショートケーキと私が嫌いなチーズケーキ。
今日は甘い秘め事の日。
食堂に入ってすぐ左に曲がったところにあるいつもの2人席スペース。
そこに見慣れた背中を見つけた私は嬉しくなってついつい走り出してしまった。
スマホを見ている彼に後ろから思いっきり体当たりする。
「ふっかーーつ!」
「うぐっ」
悠馬がぎろっと睨みながらこちらを振り向いた。
「えーっ、せっかく彼女が体調不良から復活したってのに、その眼つきは無いんじゃないの?」
「お前が体当たりしなければ喜んで出迎えるつもりだった」
また、眉間にしわを寄せて気難しそうな顔をしている。
だが、隠しきれていないぞ。口元がちょっとゆるんでるよ。
「帰る前に寂しい寂しいってキスしてきたのはどこのだ、むぐ」
「うるさい!だから、ここでそういう事言うんじゃない!」
悠馬が照れて必死にあたしの口を手のひらでふさいでいる。
1日1回はこのやりとりをやらなくちゃ、寂しいと思ってしまう。
木曜日に風邪を引いたあたしは、金曜日も続けて学校を休んだ。
土・日は授業が無いから悠馬と会うのは3日ぶりだ。
いやー、やっぱり悠馬は
「むぐぐ、むぐぐうむ!(今日も、かわいいね!)」
親指をぐっと立てると、悠馬はふいと向こうをむいて拗ねてしまった。
「うるさい、俺は可愛くない!」
なんで通じたんだろう?
「1日で復活できてほんとに良かったよ。明日、言語科目の小テストがあるから、連続で休むとまずかったんだよね」
悠馬はA定食についてきた味噌汁をこくんと飲み込んでから
「言語、何取ってるんだっけな」と聞いてきた。
「中国語だよ、結構難しくてさ。というか教授が講義をすさまじいスピードで進めていくの。サークルの先輩に聞いたら、その教授ははずれの人だよって言われちゃった」
私はそう言い終えてから、コンビニで買ってきたパンの袋を開けた。
「悠馬は?」
「スペイン語」
「えっ、スペイン語はやめとけって、友達が言ってたんだけど。難しくないの?」
ぱくんとクリームパンをほおばる。
うん、やっぱりイレブンマートのクリームパンは甘くておいしい。
「難しいな」
そういうと悠馬は、はあと深くため息をついて、頬杖をついた。
「な、なに。どしたの」
「いや…俺も明日、テストだった事を思い出したから…」
「勉強は?」
悠馬がカバンの中をごそごそ探って、テキストを取り出した。ページをめくる。試験範囲の部分だけ、見事に空白だった。つまり、そういう事である。
「どんまい。お互い頑張ろう」
「うん…」
そういえば。
「前の約束はいつにする?」
「え?」
悠馬がきょとんとした顔をしてこちらを見上げてきた。
あーあー、ハンバーグのソース口の端についてるよ。
「やだなあ、悠馬が病院で頼んだんでしょ。あまや」
「わーっ!うわーっ!頭おかしいのか、お前は!」
手をぶんぶん振り回して慌てている。
これこれ。この反応が可愛いのだ。
悠馬は、自分の方が騒いでいる事に気が付いたのか、すぐに声を落としてぶつぶつと文句を言ってくる。
「おまえ…そういうのは、せめて小声で言えよ…」
仕方ない。ちゃんと小声で言ってあげよう。
悠馬を手招きして、耳打ちする。
「ベッドで甘やかされるのは、いつが、いいの」
悠馬の体がビクッと震えた。耳元でしゃべられるとくすぐったいのだろう。
「ねえ」
「ぅ…」
「答えて」
「あ、明日の夜…」
明日は火曜日。そんでもって、確か水曜日は…。
「創立記念で全学休講日だろ。ちょうどいいかなって…」
ちょうどいいじゃない。
それは次の日が祝日だから、火曜日の夜に文字通り立てなくなるまで犯してもいいって言ってるようなものだけれども、悠馬さん。
という言葉は飲み込んで。
「わかった。明日の夜ね」
そんなわけで私は火曜日の夜、悠馬の家の玄関に立っているのだ。
「あの、さすがにお金払ってもらっちゃったから、これだけじゃよくないと思ってケーキ買ってきたんだ」
かわいらしいピンクの小さな箱を悠馬に手渡すと、彼は「ありがと」とつぶやいて冷蔵庫へそれをしまいにいった。
「ベッド、座っといて」
悠馬の固い声が台所の方から聞こえた。
…悠馬が死ぬほど緊張しているから、あたしまでなんだか緊張してきてしまう。
何度も来ているのに、なんだか知らない人の部屋に初めて来てしまったかのようだ。
彼は今になって自分のしでかした事の大きさに気づいているのではないだろうか、それであんなに緊張しているのではないだろうかといらぬ妄想を膨らませる。
悠馬が戻ってきて、あたしの横に音もたてず、そっと腰かけた。
「…」
相変わらず悠馬の顔はこわばっている。
部屋の空気は異様なまでに張り詰めていた。
付き合い始めてから、初めて二人で一緒に帰った時のようで、懐かしいが少し息苦しい。
「悠馬」
名前を呼ぶと、悠馬の身体がぴくりと動いた。
「こっち、向いて?」
努めて優しく呼びかけると、悠馬はおずおずと顔をこちらに向けた。
視線が交わる。目の奥で、ヌラリと湧き上がる欲の色。
悠馬の瞳は、思ったよりも黒かった。
悠馬の頬に手を添える。
彼はあたしの手首をそっと握り、頬ずりをしてきた。猫みたいだ。
自分が甘やかしてもらえることを知っている動きだった。
親指を動かし、悠馬の唇をふに、と押してゆっくりとなぞる。
「いい?」
「…うん」
悠馬が目を閉じた。ゆっくりと唇を近づける。
まず、唇と唇どうしをそっと合わせる。また、合わせる。もう一度。
慈しむように、再び。角度を変えて二、三度。
下唇を食むようにすると、少しずつ悠馬の頬が火照る。マシュマロみたいな味がする。
彼の唇はやらかくて、ふわふわで、溶けてしまいそうだ。
少しずつ、少しずつ、悠馬のとろけた蜜が口の中に入ってくる。
キスをしながら、首筋、背中、脇腹にそっと手を這わせていくと悠馬が少し身をよじる。
くすぐったいのだろう。
乾いた衣擦れの音が少しずつ、くちゅりと水気を含んだ音に支配されていく。
悠馬があたしの背中に腕を回して、きゅうっと肩を掴んだ。
あたしは、悠馬のさらに奥深くへと舌を進める。
唇がマシュマロなら、彼の舌は熟れすぎたイチゴだ。
吸う度、じゅぐ、ちゅぐ、と音がして崩れ落ちそうである。
「…んぅ、ふっ…」
吐息が漏れ出す。
体に這わせていた手を、悠馬の服のボタンへと持っていった。
ご丁寧に第一ボタンまで留めているようだ。
まず一つ目をぷつり。
「んぅ…ぅ」
二つ目。
「んぁ、はぁ…」
三つ目。
「ぁ、ふ、ぐ、ぅう」
四つ目。徐々に体をベッドへと押し倒していく。
「んんぅ…ぁ、ん」
五つ目。
「ゃ、う、ぅうん…っ」
最後。前が完全にはだけた。いったん唇を離して、悠馬を組み敷く。
「期待してるね?」
はだけたシャツの隙間に手を滑り込ませる。
「うぁっ…」
直に肌を撫で上げると、悠馬はまたぴくんと体を震わせた。
まだ、当たり障りのない場所にしか触れていない。
「んぅ、ぅ、は…」
もう一度口づける。
今度は、最初から激しく。
口の中で舌を絡ませ、吸い上げる。
息を継ぐ暇もないほどに、何度も何度も口の中を犯していく。
「ぁん、んぅ…っ、や、んんんぅ」
手は止めない。
たまにそっと、乳首のそばや、足の付け根あたりに触れるが、まだ核心には触れてあげない。
口を離すと、悠馬はハクハクと口を動かし酸素を取り入れようとしている。
「悠馬、キス好き?」
コクコクと悠馬がうなずく。
「あたしの事も好き?」
またうなずく。
「よかった!じゃあ、効果があるね!」
悠馬が首をかしげる。
「こうか…?なんの?」
「あのね、好きな人の唾液って媚薬効果があるんだってさ」
「びやく?」
「そう。だからキスしていっぱいあたしの唾液を飲んだら、悠馬はいっぱい気持ちよくなっちゃうってこと」
悠馬の体にまた触れる。
「ねえねえ、悠馬。目を閉じて、少しだけ集中して、あたしに触られた感触を味わってみて」
人差し指の先でつうっと悠馬の体をなぞる。
「んぅっ…」
「悠馬、両手上げて」
言われた通り、悠馬は素直にバンザイをする。
脇腹に手を差し込み、上から下へするするすると撫でおろす。
「ぅぅん、ぁっ、やっ…!」
「ねえねえ、いつもより気持ちよくないかな。当たり障りのないところを触ってるだけなのに、えっちな声、いっぱい出ちゃってないかな」
悠馬の耳にふっ、と息を吹きかける。
「ひぁんっ!?」
悠馬の腰が跳ねて、口からは高い声が漏れる。
「や、ぁう、なに、これ…」
見開いた目からは涙が零れ落ちそうになっている。
「ふふ。やっぱり、効いてきてるんだね」
悠馬の目を手のひらでそっと覆い、耳元でささやく。
「ねぇ、悠馬。もっと気持ちよくなりたくないかな。あたしとキスしていっぱいあたしの唾液飲んだら、体がとろけちゃうくらい気持ちよくなれるよ。いっぱいえっちな声出して、もうイきたくなくても体がビクンビクンして、何回も何回も悠馬はイっちゃうんだよ」
我ながら酷い悪魔のささやきだな、と思う。
だけど、彼がそれを望みさえすればいくらでも気持ちよくさせてあげよう。
今日は普通に事を進めるつもりは全くない。道具だってたくさん持ってきたのだから。
人差し指の爪でくるっと乳輪をなぞる。
「ぅうう、ぁ、ん」
「ねえ、ほら…いっぱい媚薬飲まされて、カリカリってここひっかかれたら、背筋がぞくぞくしてきっと気持ちいいよね?想像してみてよ、ここたくさん虐められちゃうの」
手は意地悪く周辺をなぞり続けたままだ。
「やぁ、ん…ぁ」
「ふふ、可愛い。ねぇ、一番欲しいところを虐められたら悠馬の体はどうなっちゃうんだろうね?気持ちよくなりたくない?たっぷり時間をかけて虐められたくない?」
はぁ、はぁ、と悠馬の息が上がっているのを、首筋に感じる。
明らかに興奮している。否、混乱の方が正しいか。
湧き上がる欲、背徳の予感、快楽へ溺れる事への恐怖と、期待。
それらが彼の頭の中をぐるぐる高速で回っているのだ。
今の彼に、まともな思考などできやしない。
「ぁ、う、ほし、い…」
「ん?」
「して、ほしい…っ、きす、いっぱい、してぇ…」
どうやら、完全に堕ちたみたいだ。甘えた声でねだってくれる。
今日は、もう徹底的に甘やかされたいらしい。
「じゃあ、悠馬。一つ約束できるかな」
ぱっ、と目を覆っていた手を取る。
悠馬のぐずぐずにとろけた瞳とバチリと視線が交わる。
そのまま、彼の目の奥をじいっと見つめてこう告げる。
「今日は、私のすることとか、お願いは絶対拒否しないでね。抵抗しちゃだめだよ」
彼の目の奥で意地悪な顔したあたしが笑ってる。
嫌な顔だ。
片頬だけ口角を釣り上げて笑う癖は君と一緒なのに、どうしてあたしの顔はこんなに卑しいんだろう。
「約束できる?」
「うん…」
彼ははっきりとうなずいた。契約は成立だ。
「よし、じゃあいっぱいキスしてあげる」
再び悠馬に口づける。
あたしの唾液と悠馬の唾液がまじりあって、互いの口の端で泡立っている。
できるだけ口の中に唾液を流し込むように。
口移しで媚薬を彼に分け与える。
「んぅ…っぐ、く、ん…っ」
悠馬の喉仏が時折上下している。
たぶん、必死で唾液を飲もうとしているのだろう。
いじらしくて、とても可愛い。
息継ぎを挟みながら、ゆうに5分は互いの口を貪りあっただろうか。
悠馬があたしの肩を押し返した。
「ぁ、も、も…のめない…」
「どうして?」
「からだ、あつい…。なんか、うちがわから、ずくずく、する…」
確かに体全体がほんのりと火照っているようにも見える。
皮膚が薄いところには、薄桃色がふわりと咲いている。
何より、体をくねらせ、足をすり合わせ、シーツをきゅ、とつかみながら、疼きから逃れようとしている様は死ぬほど煽情的だ。
「まだ、だめだよ。もっと、飲んで」
「ぅ、あ、むり…むりぃ」
「さっき約束したじゃん。私のする事に抵抗しないでって」
「う…」
押し黙ったところを強引に口づける。
「んんぅう…っ」
まるでこれじゃあ捕食してるみたいだ。
腰が少し浮いている。キスで感じているのだろう。とても可愛い。
また、口を離した。
「ぁあん、…っ、はぁ、ぁ…」
ビクビクと悠馬の体が震えている。
もう、彼に抵抗する力は残っていない。
彼のズボンを下ろす。下着には先走りがシミを作っていた。
ツンツンとシミの部分をつつくと、「ゃん」と可愛い声が漏れた。
「あ、今の声すっごく可愛い。もう、イきそうになっちゃってるね。これからもっと気持ちいいことするのに」
「ら、らって…あんなに、きす、するから…」
確かにそれはそうかもしれない。
だけど、これは本当にまだ序の口だ。
ベッドのそばに置いていたカバンをごそごそと探る。
「あ、あった、あった」
「なにするの?」
「んー?Mな悠馬に喜んでもらえるように準備したものがあるから、それを今からつけるの。悠馬、手上げて」
カッチャン。
「え」
ガチャガチャと手を動かすが、悠馬の両腕は頭上でひとまとめに拘束されたままだ。
手錠はむなしく金属音を立ててぶつかりあっている。
「抵抗できないからね。したくても、できないから。悠馬は全部受け入れるだけ。怖くても気持ちよくても何もできなくて、全部受け入れるだけ。さて」
かばんをごそごそと探り、もう一つの道具を取り出す。
「これで何すると思う?悠馬さん」
取り出した道具を悠馬の顔で左右に振る。
「え…」
じっとその道具を注視しているが、どうやら答えは出てこないようだ。
あたしは、その道具の柄を持ち、くるっと回転させて、悠馬の頬をなぜた。
絵の具を塗るときに使う筆を持ってきたのだ。しかも2本。
「んぅ…っ。くすぐった…い。ふふ…」
チークをはたくときのように、くるくると頬骨あたりに円を描いたり、シェーディングを入れるように、こめかみから顎に向かって波のような曲線をするすると描いてみたりする。
さすがにこの程度の刺激では快楽に繋がらないらしく、悠馬はくすぐったさにふにゃりと顔を崩して笑っている。
だけど筆が首筋と耳を虐め始めたころから、彼の反応が変わりだした。
「んっ、ふふ、ん、ぁ…っ、んっ…んぅ」
笑い声に混ざって、少しずつ色気づいていく声。
耳の後ろをすうううっ、と撫ぜたり、耳の中を筆先をうまく使って刺激してみたり、首筋を上から下へ、下から上へと往復してみる。
「ぁっ、あ、ぁん、は、あ、ははっ、ゃんんぅ」
筆が体の上をすべるごとに、ひくひくと体が震え始める。
筆は、少しずつ体を滑り落ち始めた。
鎖骨付近をざっと撫で上げると、「ひうっ」とまた高い声が漏れた。
「筆でくすぐられるの気持ちいい?」
「ぁ、ん、うん…」
必死でコクコクとうなずいている。かわいい。
そろそろ、彼が欲しがっている場所を責めてあげることにしよう。
筆は乳首の周りをぐるっと一周した。
「んやぁ…ぁ」
声が一段階高くなった。
欲しいところに来た事への喜びか、それとも焦らされ続けた事による刺激の強さからか。
「乳首、筆でいじってほしい?」
「ぁ、ぁう…い、いじって…いっぱい、いじってぇえ…っ」
悠馬はじっと私の目を覗き込んだ。
まずい、こういう見つめ方をするときの彼は、きっと突拍子もなくものすごく可愛い事を言うに決まっている。
「も、じらしちゃ、やだ…」
吐息に埋まりそうなほどの小声でぼそりと悠馬はつぶやいた。
筆で右側のピンクのかわいらしい粒を、上から下へ同じ方向に何回も撫ぜる。
回数を重ねるごとに粒はふっくりとより一層主張し、筆に引っかかるようになった。
こうなると撫でるというよりは、弾いているようだ。
「ぁ、あ、ぁあ…ぁんん、や、ひだりは?ひだり、も、して、ひぁ」
「まだ、だめだよ。右をゆっくり虐めてから左だけでまたゆっくり虐めてあげるから」
こんなもんでは終わらない。
時間をかけて執拗にいじくりまわしてやるつもりなのだ。さんざん煽られたのだから。
反応的には気持ちよさそうだ。
下から上へ弾くのと、どちらが気持ちいいのだろう。
筆を動かす向きを変えて、今度は下から上へ。ゆっ、くりと筆先に乳首をひっかけて、ぴんっ、と弾く。
「んぅ、ぅ、ぁん、や」弾く度に悠馬の声は甘くなっていく。
拘束具がカシャカシャと音を立てる。
どうやら、腕を胸の前に持ってきて左の乳首を自分で弄ろうとしているようだが、そうはさせない。
弾くスピードを元に戻すと、悠馬の体からくたりと力が抜けるので、そのタイミングで腕を頭上に戻す。
「やだぁ、ひだり、いじってぇ…いじめてよ…はぁ、ん、やっ、ひうっ」
「だからまだだめ」
さっきの弾き方の方が、よく喘いでいた気がする。
たぶん、上から下に弾かれるほうが好みなのだろう。
今度は、筆先で乳首をちょん、ちょん、とつついていく。
「や、ぁ、それ、だめ、つつくの、や、いやぁ、えうっ」
これはかなり反応がいい。つつかれるのが好きらしい。
背を若干反らして、胸をこちらに突き出している。
ほんとに、Mっ気が強くなってきた。
「いや、じゃないよね、悠馬」
「ゃ、ぁん、い、や…じゃないぃ」
「じゃあ、なんていうの」
「もっと、して、つついて、ちくび…」
「うん、きちんと言えたね。ご褒美だよ」
スピードを上げていろんな角度からつついてあげると悠馬は嬉しそうに体をくねらせた。
「やん、はや、はやい…ぁ、そんな、いっぱい、ぁ、ああ、つついたら、ひうっ、きもち、い…まっ、ひぁあん」
「気持ちいいんでしょ。もっとしてほしいんじゃないの?えいっ」
ベッドの傍らに置いていたもう1本の筆も手に取り、2本で悠馬の乳首をつつく。
倍になった刺激に悠馬はたまらず腰を浮かせて、嬌声を上げる。
「ぁああん、や、まっ、ぁあ、それ、ぁ、きもちいい…っ、んっ、んはぁ、ぁあっ!」
「ふふ、悠馬気持ちよさそう」
にしても感度が良すぎる気がする。
本当に媚薬の効果を信じ切ってしまったのだろうか。
プラシーボ効果とは恐ろしいものだ、と自分のした事は棚にあげた。
「ひぁ、や、あ、まっ、て、きもぢいい…だめ、っ、あ、まっ、やんん…」
「あ、まただめって言ったね。悪い子、もっと虐めてあげる」
ぷっくりと浮き上がった乳首の横を2本の筆でしょりしょりとなぞる。
「やぁあ、それ、あ、も、おかしくなっちゃ、おねが、ぁあん」
馬乗りになられたうえに両手を拘束されていては、抵抗したくてもほとんどできない。
悠馬は今、受け入れるしかない。
私が筆を動かすことによって、背筋に痛いほど走る快楽を受け入れるしかない。
ぎゅっと目をつむり、首を左右に振って何とか快楽から逃れようとするが、もう逃げ場所などどこにもない。
「んぁああ、ゆるして、や、っ、はぁあん、あ…っ、ゆ、るしてぇ…ひぐっ、いぁああん…」
「ごめんなさいは?本当は気持ちよくてもっとやってほしいのに、だめって言ってごめんなさいって謝れる?」
悠馬は怒られた子供のようにぷるぷると唇を震わせた。
ぱちぱちとまばたきをするたびに、生理的にあふれてきた涙が大粒の雫になって頬を滑り落ちる。
「ぁ、あ、ごめんなさ、い…ひゃ、あ、ほ、ほんと、は、きもち、くて、ひんっ…、もっとしてほしい…の、に、やぁあ、らめって、いっ、て、ごめんなさい…」
きちんと言えたね、という意を込めて悠馬の頭をなでると、悠馬の体から緊張がほどけていったのを感じた。
「じゃあ、お望み通りもっとしてあげるね、気持ちいい事」
悠馬の目がかっと見開いた。
そうだ、謝ったからって自分の体をはいずる快楽が緩まるわけじゃない。
むしろ自分は今、もっとしてほしいと強請ってしまった事に気づいたのだろう。
でも、彼の目には期待が見てとれる。だから、あたしは手を止めなかった。
悠馬の右乳首にローションをたらすと、突然の冷たさに、彼は「ひっ」と声を漏らした。
筆をくるくるとペン回しのように回転させながら、時折乳首の近くに筆を持っていくとそのたびに悠馬がぎゅうっ、と目をつぶる。
「ぁ、や、おねが、ま、って…おねがい…」
「なんでよ?もっとしてって言ったの、悠馬でしょ。ぽろぽろ泣いて喘ぎながら、もっとしてほしいって強請ったじゃん」
よし、思いっきりねっとり嬲るように、筆を動かそう。
ローションでテラテラとぬめる肌に筆をおいた。
「お、ねがい…や、ま、っ、て、ぁ、ぁあ、あ」
「待たない」
ぬるううううっ、と筆を乳首の上から降ろす。
ぴんっと立った粒に筆がさしかかった瞬間、私は筆を進めるスピードを緩めた。
ローションを吸った筆は、悠馬の乳首を包み込み、ゆっくりと、長い時間をかけて彼を刺激する。
「ぁ、ああっ!や、あ、ぁああん♡」
語尾にハートが付くほど、甘い声を上げている。
相当気持ちいいと思う。
ただでさえ、上から下へ弄られるのが好きなのに、その快楽がずっと長い事続くのだから。
「もう一回ね」
はぁー、はぁー、と深く呼吸をして何とか平常を保とうとしている悠馬に追い打ちをかける。
「ひぁああ♡ぁぐ、ひんっ、はぁああん♡」
「がんばれ、がんばれ、これでイけたら左も虐めてあげるから」
「やぁあん♡♡もっ、あ、ゆ、ゆるしてぇ…」
「何言ってんの、許すも何もこれはきちんと謝れたご褒美なんだよ。悠馬がお願いしたことをしてあげてるんじゃん」
いやらしく自分の口角が上がっていくのを感じる。
自分でも意地悪な事を言うなあと思うし、たぶん後で正座させられて小一時間説教されるだろう。
足がしびれて立てなくなることを覚悟するも、背中を伝う冷や汗が止まらない。
でも、今は私が優位だから。
「ゆ、ゆるして…っ♡も、きもちよすぎて、これ、あ、ぁああ」
「きもちよすぎて、もっとしてほしいって?いいよ」
「ちがっ…ちがくないけど、や、ぁ、ら、らめぇえ♡♡」
もう一度上から下に嬲ろうとして筆を乳首の寸前まで近づけて止める。
刺激が来るものだと思って目をぎゅっとつぶっていた悠馬は、おそるおそる目を開けた。
瞬間に筆を一気に下ろす。
「ひゃぁあん!?」
予想していなかったタイミングで来たために、いつも以上に快感が来たのだろう。
体をガクガクと震わせている。
「ぁあ、や、ん…も、だめ、だめ…こんなの、おかしくなっちゃうぅう…っ」
「悠馬、これくらいで弱音吐いてちゃだめだよ」
両手に筆を持って悠馬の目の前で振る。
そう、ほんとにこれくらいで弱音を吐かれては困るのだ。
右手の筆を下ろす。
「ひぁああ、っ」
続けて左手の筆も下ろす。
「ゃぁあああ!?」
また右手の筆を下ろす、次に左手の筆、左右交互にさっきの2倍の刺激で。
「まっ、あ、まってぇええ、はや、い…っだめ、だめだめだめ、こんなのらめぇええええ♡」
「かあわいい、ほんとに気持ちいいんだね」
「や、や、れいい、やめて、ほんとにやめて、だめ、きちゃ、きちゃう…」
彼が、「きちゃう」と言ったら絶頂が近いサインだ。
あたしは、悠馬の汗で張り付いた髪をそっとかき上げて、額にキスをした。
「いいよ、イっても」
「や、ぁあ、だめ、ちくびで、イっちゃ、う、ぁああぅ♡だめ、こんなの、あ、あぁああ、あたま、ふわふわしちゃ、あ、あ、あ、あ、あああ―っ♡」
浮かせた腰をカクカクと前後に揺らして悠馬は果てた。
唯一身に着けていた下着にじわりじわりと愛液がにじむ。
放心状態でぜえぜえと息をする悠馬の顔はとろけ切っていた。
「…気持ちよかった?」
あまりの快感の波でしゃべることができないらしい。
首をこくりと縦に動かしこちらを流し目で見る。
その眼付の煽情的な事と言ったらない。まだ犯してほしいのだろうか、と勘違いしてしまいそうだ。
私はぐずぐずに濡れた悠馬の下着に手をかけた。悠馬はもう抵抗しない。
少しずつ下着を下ろしていく。
彼の中心はかわいそうなほどにひくひくと震え、白濁をこぼし続けていた。
くたりとベッドに沈む彼を見た。目の前で横たわる彼の全てが美しかった。
足もふくらはぎも太ももも腕も指先も首も口も耳も鼻も目も。
何もかもが美しくて、愛おしかった。
「だいすき」
か細い声が悠馬の口から零れ落ちる。
それとともに、はらはらと悠馬の目から涙があふれる。
私は悠馬の手錠を外して、上半身を起こし、抱き寄せた。
泣き止まない。しゃくりあげもせず、ただ涙を流し続けるだけ。吐息の震えで、ひそかに彼が泣いているのを感じる。
ただただ彼は泣き止んでくれない。
「だいすきだよ」
悠馬がもう一度、そう言った。
「あたしも」
返事した時、あたしは自分が泣いている事に初めて気づいた。
人は、誰かに受け入れられると安心して涙が出てきてしまうのかもしれないと、その時になんとなく思った。
そっと彼に口づけた。
頬に伝う涙を指で拭いながら何度も何度も口づけた。
時折、首筋を強く吸うと「ぁあ…」と甘い声が降る。
息が苦しくなっても、何度も深く口づけを交わして涙を流す。
そのたびに悠馬がまた「だいすき」と喘ぎながら言う。
キスをしながら私は少しずつ自然な姿に近づいていった。
悠馬が脱がしたのかもしれないし、私が自分で脱いだのかもしれないけど、それはもうどうでもいい。
ただ、2人生まれ落ちたままの姿で、目の前にいる人が愛おしくて愛おしくて、キスをしても体に触れても、互いの嬌声を聞いても、その思いが収まらない。
どこからが自分の体でどこからがあなたの体なのかがもうわからない。
夜が更けていく。
あなたが、私が、崩れ落ちていく。ただ、1つに。溶けるように。
結局甘やかされたのはどちらだったのかわからなくなるまで、あなたと触れ合う。
ぼやける視界の中で目が覚めた。柔らかい光が部屋にあふれている。
傍らですうすうと眠る玲の眼の縁は真っ赤だった。
きっと互いに目が腫れているのだろう。
彼女の頬を撫でた。
すると、彼女の目からまた一筋涙が落ちた。
優しくそれを指ですくうと、玲が目を覚ました。
「おはよう」
「…おはよ…」
声がかすれている。可愛い。ただ、ずっとあなたの側にいたい。
受け入れてくれたあなたの側にいさせてほしい。
「昨日くれたケーキを食べよう」
あなたが好きなショートケーキと、俺が好きなチーズケーキ。
今日は甘い約束の日。